第144話
『Oh yeah―――! Oh yeah―――!!』
『Oh yeah―――! Oh yeah―――!!』
すごい……! 私たちの声が、みんなに届いているんだ……!
穂乃果たちの新曲、『No brand girls』――この日のために真姫ちゃんと海未ちゃん、そして、蒼君が頑張って作ってくれた曲。それを穂乃果のいまある全力で歌い続けた!
とっても元気が出て、穂乃果も楽しくなっちゃう歌。思わず大声で歌っちゃうくらい楽しいの! それをね、たっくさんの人が見ている中で、それもラブライブのステージで歌えているってことがとってもすごいの!
正直、ここまで来れるなんて思ってなかった。でも、みんなで頑張ってやってきたから来れた。蒼君がいたから来ることができたんだってわかるの。だからね、見ててね蒼君。穂乃果、さいっこうのパフォーマンスを見せるから! 絶対に優勝してみせるんだからね!!
さっきまで苦しかった身体の痛みは感じられないや。あの飲み物を飲んだからかなぁ? それとも、歌っているこの歌のおかげかなぁ?
ううん、なんでもいいや。いまこうして元気でいられるんだもの、その分、全力でやらないとだよね。
よぉーし、やるぞー!!
心の中で強く叫んで自分に気合を入れ直したの。まだ、歌は終わってないからね、最後までやらないとだよね! そして私は、最後の歌を歌い始めるの―――!
「壁をっ―――――――」
大きく吸った息を歌声に変えた時だった。
ブチンッ―――――――
私の中で、何かが千切れるような音が聞こえた気がした。それに、急に目の前が暗くなって、身体に力が入らなくなって…………
あ………れ………?
ぐわん、と頭の中で何かが一周したと思ったら、私の視線がとっても低い位置から見える。横向きにもなってるし、なんか変だ………。おかしいなぁ……なんで私、床で寝っ転がっているんだろう……? まだ、ライブが続いているんだよ? 歌もダンスもまだまだあるのに……どうして身体が動かないんだろう……?
身体が……痛いなぁ………頭も、身体もあつく、なって………み、みも、とおく……なっ、て………
『―――――――ッ!!』
『―――――――ッ!!!』
こ、の……こえ、って………そ……う、く……ん………?
ごめ…………ね……………
わ……たし………も、う…………
ね…………む…………………
―
――
―――
――――
――何が起こったのか、私には理解できなかった
あと、もう少しだった………
あと、もう少しでこのライブが終わるんだと思ってた………
ライブが終わって、絶対に優勝するんだって思ってた………
私たちの努力が報われて、誰もが誇ることのできる結果を胸にすることができるんだって信じてた………
穂乃果ちゃんと海未ちゃん。絵里ちゃんに真姫ちゃんに、にこちゃん。凛ちゃん、花陽ちゃん、希ちゃん。そして、蒼くんと弘くん。みんなが、μ’sのみんな全員がこのステージに立って大喜びするの。目一杯の笑顔と涙を見せて、お互いに喜びを分かち合おうって思ってた………
その後に伝えようと思ってた、
でも………
もう、言える状況じゃない、よね……?
それよりも、なによりも……穂乃果ちゃんが………
………倒れた………
「穂乃果っ!! しっかりして!!!」
「穂乃果!! 穂乃果っ!! 穂乃果ぁっ!!!」
絵里ちゃんが、海未ちゃんが、みんなが倒れた穂乃果ちゃんの周りに集まって容体を見ていた。みんな大声で叫んでいるのに、穂乃果ちゃん、ちっとも動かないの……。
なんで?
なんで動かないの……?
穂乃果ちゃんは、みんなを引っ張っていくんでしょ? だったら、そんなところで寝ちゃダメだよ……風邪、引いちゃうよ……?
起きて……起きてよ………穂乃果ちゃん………
「―――穂乃果ッッッ!!! 退いてくれっ!! 医務室だ! 医務室に行かせてくれ!!!」
……そう、くん……?
私の横から風が吹き抜けたのかと思ったら、ものすごい剣幕をした蒼くんが穂乃果ちゃんの許に駆け付けてきた。蒼くんは穂乃果ちゃんを見つけると、すぐ身体を持ち上げて大声で何かを叫んでいた、そんな気がする……。
聞こえなかったんだ、蒼くんの声が。もう、何が何だからからなくって、頭がこんがらがっちゃって……
私は、何もできなかった………
倒れた穂乃果ちゃんの許にも行けないで、ただずっとその様子を眺めていただけ……
なんで、できなかったんだろう……。穂乃果ちゃんは、私の……ことりの大切な親友、なのに……何も、なにも………
幕が閉じ、明りが消されたステージの上で。
わたしは、無力のまま呆然と立ち尽くしていた―――
―
――
―――
――――
「穂乃果、しっかりしろ! あともう少しでベッドに着くから待っててくれ!!」
風のような速さで通路を駆ける蒼一。その腕には、グッタリと倒れ込む穂乃果が抱かれていた。
彼女の様子を見、抱きかかえた蒼一の表情は、一層険しくなる。
腕から伝わる火に晒されているような高熱。決して、ただ事とはいえない熱さに内心荒れ狂っていた。どうして、こんなことになってしまったのだ、と―――
「……ぅ………ぁ…………」
「~~~~………っ!!」
腕の中で揺れる彼女から、喉を絞り上げたかのようなか細く弱々しい声。いまにも息絶えてしまいそうなその声を耳に触れた途端、彼の中の何かが引き千切れそうになる。が、それを深く噛み締め抑え、吐き出すことを止めた。
叫んだところで何も変わりはしない。生じてしまった結果は覆せない。いまも、過去も取り返せない……。非情に突き付けられた現実を受け入れるほかなかったのだ。
―――――――――――――
医務室に着くと、常時待機していたであろう女医と顔を合わせた。あまりに深刻な表情をする彼と、見るに異常な彼女を見て、女医はすぐにベッドに就かせるよう指示した。
言葉よりも身体が動き、彼は彼女をベッドに寝転ばせると、女医は彼女の容体を確かめ始めようとした。
「すまないが、一旦ここを出ていってくれないか?」
「何故です?! 俺は彼女の付添人です、一緒に居させてください!!」
「はぁ……彼女を大事に思う気持ちは同情しよう。だが、これ以上患者を増やされてはこっちが参る」
女医は穂乃果を見る前に、蒼一に退室するよう促すが、激情を絡ませているために当初は拒絶した。が、この女医の有無を言わせない態度に彼の心は折れる。鋭く突き刺さる冷徹な瞳は、彼の熱を一瞬で冷まさせた。
一緒にいることができない―――、このことが彼を焦らせることになるのだが、それを察したのか、女医は彼を励まそうとこう伝えた。
「安心しろ。見た感じでは、ただの風邪。高い温度での発熱は激しい運動と伴ってのものだろうし、命に別状はないはずだ。キミがわーきゃー騒ぐほどの事態じゃないさ」
鋭い目付き――だが、やさしく微笑んで見えた表情に託すほかなかった。彼はつま先を翻して外に出た。去り際に、「状態が安定したら伝える」と落ち着く声を耳にしながら―――。
しばらく時間が経ってから彼を追うように駆け付けるメンバーたち。見るからに動揺が激しく、蒼白させている子も見受けられた。
彼女たちを励まさないといけない―――、本来、彼はそうするべきだった。
だが、現状は予想を反する。この中で一番動揺し、焦燥感に駆られていたのは言うまでも無く彼自身であったのだから……。そして、そんな彼にどう声を掛ければよいかと頭を悩ますのは彼女たちだったのだ。
心の内が収まらない中、彼らに更なる追い打ちをかけるかのような足音が近付く。その音に気付いて向きを合わせると、そこには難しい顔をする真田会長の姿が……。
「……会長……」
「蒼一くん……伝えねばならないことがある」
重い唇を開かせ、申し訳なさそうな声を発した。
「μ’sのみんなも揃っているようだ。いずれ知ることとなるのだ、聞いてくれないだろうか……」
何も聞こえない、静寂が空間を押し殺した。同時に、すべてが崩れさる音でもあった――――
―
――
―――
――――
……う……ん………
こ、ここは……どこ………?
穂乃果は、何をしているんだろう……?
確か、穂乃果はステージに立っていたはず……、ラブライブのステージに……。あともう少しでやり終えるところだった。穂乃果の全力をすべて出し切ってやり遂げるはず、だったのに……。
そしたら、急に目の前が暗くなって、ぼやけちゃって……穂乃果の記憶はそこで終わってるの……。
それじゃあ、穂乃果はどうなったの? ラブライブは? みんなは?
頭を回して考えようとするんだけど、身体が熱くてぼぉーっとするし、頭がガンガン叩かれてるみたいで痛いよ。
だめ、起きなくちゃ……穂乃果には、まだやることが………
「………ぅ……ん…………」
重い目蓋をゆっくり開かせて眩しいくらいに光が差し込んでくる。それが余計に頭を痛くさせるからその衝撃で眠気もどこかへ行っちゃった。まだいろんなものがぼやけたままで、夢の世界にでも来ちゃったのかなって勘違いしちゃう。
でも―――、私はすぐに現実に戻される―――。
「――――のか――――」
「―――ほの、か―――――」
「「―――穂乃果っ!」」
ぼやけていた視界が太陽に当てられたみたいに晴れていく。
そしたら、薄っすらと見えていた2人の姿がハッキリしだして―――
「……えり……ちゃ、ん……? うみ……ちゃん……?」
「穂乃果……! よ、よかったわ目が覚めて……!」
「もう……あなたはどれだけ、心配させたら気が済むのです……!」
絵里ちゃんと海未ちゃんは眼に涙を浮かばせて穂乃果を見ていたの。どうしてそんな顔をするの? って聞こうとしたけど、ふと私の意識が無くなる前のことをわずかだけど思いだして口をつぐんだ。
――そうだ……穂乃果、あそこで倒れたんだ
あの時、自分でも何が起きたのかわからなかった。でも、いまならわかる……私が、自分に無理したからこうなったんだって………。
……あれ……? それじゃあ……ライブは……?
急に頭に過った悪い予感が身体をぶるっと震わせるの。さぁっと血の気が引くような気がして咄嗟に身体を起こして絵里ちゃんたちに聞いたの!
「絵里ちゃん! 海未ちゃん!! ライブは? ライブはどうなったの? ラブライブは……?」
「「…………っ」」
穂乃果がそれを聞くと、絵里ちゃんたちの表情がだんだん暗くなっていた。目も合わせないで、下を向いて……
――うそ、だ
ズキンと頭に響く痛み。わかりたくないって訴えてきているの。それでも私は、嘘であって欲しいって祈るばかりだった。
そんな時だ――――
「―――絵里、海未。悪いが、席を外してくれないか?」
絵里ちゃんたちの後ろから聞き慣れた声が……。普段なら飛び上がるくらい嬉しい声なはずなのに、いまはどうしてだろう……逃げ出したい気持ちになっちゃう………
「ですが、まだ穂乃果は……」
「いいから。海未たちは先に下にいるめぐみさんに事の次第を話してくれないか?」
「……はい。では、穂乃果を頼みます」
えっ、穂乃果だけになるの?!
蒼君に言われるままに、絵里ちゃんと海未ちゃんは立ち上がって部屋の外に出ていっちゃった。ほ、穂乃果だけじゃ余計にどうしたらいいか分からなくなっちゃう。蒼君のことをまっすぐに見れないのにどうしたら……。
ふと、身体を起こしたついでに辺りを見回した。
どこか見覚えある天井だなぁって思っていたら、それは穂乃果の部屋だ。どおりで居心地がいいわけだ。それに着ている物もライブ衣装からパジャマに変わっていた。きっと、絵里ちゃんたちがやってくれたんだと何となくそう思った。
でも……だからと言って、気持ちが落ち着くわけじゃなかった。
「―――穂乃果」
2人っきりになって初めて名前を呼ばれると、思わず身体をビクッとしちゃう。だって蒼君、いまとっても恐い顔をしてこっちを見ているんだもの……。額にたくさんのしわを寄せて、目をものすごく鋭くしているんだから、どう見たって嬉しそうじゃないよ。
それに、思い返せば叱られることをたくさんしているんだ、いいわけなんてできないよ……。
思い悩んで苦い気持ちになっていると、蒼君は一歩前に近付いてきて言ってくる。
「……何故、体調が悪いことを申告しなかった? 風邪をひいてしまったことをどうして隠していたんだ……?」
「そ、それは……」
それは、ラブライブで優勝したかったから、穂乃果が蒼君にそうしてあげたかったからって、喉のこの辺まで来ているんだけど口に出ることはなかった。
しどろもどろと答えないでいるから、蒼君は眼を見開いて言ってきた。
「おかげで、ライブは中断。お前の身勝手さがみんなに迷惑をかけたんだぞ……? 昨日、雨降る夜の中で練習なんかするからこうなっちまったんだろうが!!」
「――――っ!」
怒りの籠った言葉が投げつけられた。さっきとは違って、怒っていることがハッキリわかる口調で言われたの。蒼君に、こんなかたちで怒鳴られたのは久しぶりだったから思わず目元に涙を溜めて泣きそうになっちゃう。
やっぱり、恐かった。蒼君に怒られることが、どれだけ恐くて、悲しい気持ちになるかをまた知るようになったんだ。
それでも、蒼君の口は止まらず……
「大体、普段からのお前の身勝手な行動がいまになって返ってきたんだろうが! あれほど、人の話を聞けって言ったのに、とんだ災難を引き起こしてくれやがって!!」
「う……ぁぅ……ご、ごめん、なさい………」
「しかも、よりによってラブライブの舞台でやってくれるとはな……おかげでライブは失敗、それどころか審査対象に入らず失格になった……この意味、
「………ぅ………!」
私の胸に突き刺さる言葉に身体中が震えだした。蒼君が言おうとしていることを私は知ってる。その理由は、昨日の雨の中で、すでにわかっていたんだから……。
――私が、蒼君の夢も、希望も、奪ってしまった
それを理解した瞬間、私は大きく落胆した。
叶えるはずだった……私が、送るはずだった……なのに、私がそれを奪っちゃった……。蒼君が一番忌み嫌っていたことを私がしちゃった。蒼君のことをわかっていたはずのに、こんな……こんなことになっちゃうなんて……
思い返せば思い返すほど、胸が痛い。ギュッと握り潰されちゃいそうだ。
でも、それは当然のことだと思う……。いっそこのまま、そうなってくれればいいのに……と。
「穂乃果―――」
自然に下を向いていた顔を上げ、あの厳しい表情を見せる蒼君を見た。見なくても分かっていた、むしろ、見たいとは思わなかった……。あの顔を見ると、穂乃果は蒼君に嫌われているんだ、ってことを思い起こしちゃうから……。
でも……それでも私は顔を向けちゃうの。どんな状態であっても、どういうふうに捉えられていても、蒼君が私を呼んでくれるのだから自然と身体が動いちゃうんだ。
「言葉で言っても分からない時は、どうするか知ってるよな……?」
「……あっ……うっ………」
「風邪をひいてるからって容赦すると思うなよ……」
あぁ、やっぱりそうなるんだよね……
一歩前に出て近付いた蒼君が、私のことを……。
恐い……恐いよぉ……。だって、蒼君に殴られるなんて考えただけでも痛く感じちゃう。いつか、私を叩いた時もとても痛かった。あれくらい、の痛みがまた……うぅっ……
「それじゃあ……いいな……?」
私の右肩を掴むと、蒼君の右手が振り上がるのが見えた。恐く感じた私は思わず目を瞑っちゃう。見たくなかった、振り上がるその手が私に向かうところを。真っ暗で何も見えない中で、ただその時を待つだけなのにとても長く感じちゃう。やるなら一瞬にして、と思うくらいに……
とすん――――
「―――えっ―――?」
その時だ。私の身体が引き寄せられたと思うと、ほんのりやわらかな微熱が穂乃果のことを包み込んだ。
一瞬、何が起こったのか穂乃果にはわからなかったの。何も見ていなかったって言うのもあるんだけど、そもそもこの感触を私は知っている。
恐る恐る目を開いて見てみると、蒼君のやさしい顔を見た。それでようやくわかったの、私の身体は蒼君に抱きしめられていることに。
「どう、して……?」
自然と口に出た私の問いかけに、蒼君はその表情を崩さないで話してくれた。
「今回のミスは確かに穂乃果が起こしてしまったことに変わりない。けど、広く見れば、そんなお前を止めることができなかった俺にも責任がある。一概に穂乃果だけを責めるなんて出来るわけがないのさ」
そう言うと、蒼君は私の髪に沿うように頭を撫でるから、凝り固まったこの気持ちが緩んできて涙腺がこぼれ始めて来そうだった。蒼君は続けて話した。
「もっと、お前の傍にいるべきだった。我武者羅にひとり走りしてしまうお前をそのままにしてしまったことが俺のミスだ。俺も自分に過信していたんだ、順調にここまで来たことにな。けど、甘かった。俺は自分のことに専念し過ぎて周りを見ていなかった。穂乃果もそうだが、みんなのこともだ。これじゃあ、指導者失格だわな」
「そ、そんなことないよ―――!」
咄嗟に声が出た。
蒼君が自分のことを悪く言っているのを聞いてたら思わず出ちゃったの。それに、勢いがあるまま蒼君に話しかけた。
「蒼君は立派な指導者だよ! だってだって、穂乃果たちをここまで連れてきてくれたんだよ? 何もできなかった穂乃果たちをあのステージに立たせてくれたんだよ? それってすごいことなんだと穂乃果は思う!
むしろ、いけないのは穂乃果の方だよ……。蒼君との約束を破ったんだよ、叶えてあげられなかったんだよ。蒼君が、大切にしていた、夢を……穂乃果が、全部……こわ、こわしちゃ、こわしちゃって……う、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
自分で話をしていたら急にたくさんのことを思い返しちゃって、悲しくなっちゃって……涙が止まらなくなった。目からボロボロと涙が零れ出てきて、気が付けば私は蒼君の胸の中で泣いていた。たくさん泣いた。風邪でかすれたこの声で泣き喚いた。
悔しかった。
悲しかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ただ後悔ばかりが頭の中を渦巻いて、なんでなんで、と問いかける。
けど、もう過ぎてしまったものを取り戻すことなんてできない。それはもう、あの時学んだから……
「穂乃果―――」
ポツン、と落ちてきた水滴に触れたような声を耳にして、
唇を離した時には、もうさっきほど悲しい気持ちにはなっていなかった。
見上げるとキラキラ輝く星のような目で穂乃果を見る蒼君。やさしくなった顔から聞こえてくるのは、私に向けられての声。
「よかった―――。穂乃果がこうして無事でいてくれたんだ……。いまはもう、これ以上のことは望まないさ」
やさしく抱きしめて、口にして言ってくれる言葉に穂乃果は嬉しく感じちゃった。
あっ、穂乃果は蒼君に嫌われていなかったんだ、って不純なやり方だけど確かめることができたことが嬉しくて堪らなかったんだ。
私は取り返しのつかないことをした。
みんなの努力を無駄にしてしまった。
でもごめん、ちょっとだけ忘れさせて……。穂乃果の、わがままをいまだけ………。
―
――
―――
――――
「―――――っ!」
2人が部屋の中で取り込んでいる時、その様子を扉の小さな隙間から覗いている少女が立っていた。彼女は2人の様子を見ると言葉にならない声を上げては押し殺していた。まさか、2人がいま、そんなことをしているとは思わなかったからだ。
「蒼くんには、穂乃果ちゃんがいる……穂乃果ちゃんには、蒼君がいる……。それじゃあ……私は……? 私は、2人の何になるの……?」
声を震わせ動揺する彼女は、酷く焦っているようにも見えた。それがどうしてなのかは、検討もつかない……。
「私は……2人には、必要……ないのかなぁ……? 私が2人にいてあげる意味って……何なのかなぁ?」
答えが見つからない自問自答を繰り返し、心が締め付けられるような苦しさを抱く。
そんな彼女を呼ぶ親友の声を耳にすると、すぐさま階段を下りて穂乃果の家を後にした。
「もう……言えないよ………」
悲しい瞳を潤わせて、ひとり帰路に向かう彼女は、いまにもどこかへ飛んで行ってしまいそうに見えるのだった。
そして、その姿を眺めることしかできない親友も心を悩ませることしかできなかったのだった……。
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
少し時間が空いてしまったみたいですね。
それでもまだ一週間以内なので個人的にはセーフだと思いたい、今日この頃。
さて、今回でアニメで言うと『最高のライブ』が終わったって感じです。
このあとから憂鬱展開になっていくのですが、すでにそれらしい空気が出ているから注意喚起は今さらですね。
次回、どんな展開になっていくのか…?
今回の曲は、
やなぎなぎ/『Ambivalentidea』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない