第140話
放課後―――
穂乃果たち、μ’sの面々は練習を終えて帰路に立っていた。今日も一段とキツイ練習を行ったためか、全員から疲れを伺わせる表情を滲ませていた。
「あぁ~……もう、つかれたにゃぁ~」
「うるさいわよ、凛。もうそれで何回目よ?」
「まあまあ、真姫ちゃんも怒らないであげて? 花陽も疲れちゃったし」
しつこく愚痴をこぼす凛に溜息交りに話す真姫と、それを和ませようとする花陽。
運動が苦手な花陽がバテるならまだしも、凛がここまで音をあげるのはめずらしかった。真姫も凛が疲れていることは知っている。けど、さすがに隣で何度も聞かされると耳が痛くなるものだ。
それでも、その気持ちにケチをつけることなく返しているのはやさしさの表れなのだろう。
「凛のことを言えないけど、私も疲れちゃったわ。亜里沙には申し訳ないけど、今日は外食にしようかしら」
「ふふん、絵里もだらしないわね。このくらいのことで疲れちゃうだなんて、にこにはどうってことはないのに」
「そういうにこっちは、帰り際まで寝ころんでたやん? それに、肩に湿布もつけちゃってるし」
「う、うるさいわね!」
体力に自信のある絵里も凛と同様に身体の痛みに顔をしかめていた。にこと希もそうなのだが、彼女たちさえもこの調子だ。それに、あまり気持ちを表にしない希がめずらしくぎこちない笑みを見せていた。ポーカーフェイスな彼女でもさすがにこの疲労には耐えかねているようだ。
そして、ここにも…
「ことりちゃぁ~ん……海未ちゃぁ~ん……穂乃果、もう疲れたぁ~……」
「穂乃果ちゃぁ~ん、もう少しで家に着くから頑張ってぇ~」
「まったく穂乃果は加減と言うものを知らないのですから。限界までやる必要はないのですよ?」
限界の限界まで出し切り、いまではハチミツのように蕩けた身体となって親友たちの肩に寄り掛かっていた。そんな穂乃果に困りながらも元気付けようとすることり。そして、説教を講じる海未。2人とも彼女の努力に関心はするものの闇雲に身体を動かし続けようとする様子に危惧していた。
ついさっきも身体をふらつかせる様子が見られたため、余計に心配になる。彼女の性格をよく知る2人にとって、いまの彼女は危険に思えるのだった。
そんな時だ―――
「練習はうまくいったか―――?」
彼女たちの後ろから風に乗って穏やかな声が流れてくる。
その声が耳を通ると、瞬間的に彼女たちの思考が停止し、同時に気持ちが和らぐのだった。
彼女たちは知っている。自分たちの心を包み込んでくれる気持ちにさせてくれるのは、彼しかいないのだから。期待と喜びを胸に一斉に振り返った。
するとそこには、あたたかく微笑む彼の姿があったのだ―――
『蒼くん(蒼一)(蒼一にぃ)!!』
彼の姿を見た彼女たちは、思い思いの名で彼を呼んだのだ。彼を呼ぶ時の彼女たちはとても活き活きとしており、練習の疲れさえ吹き飛んでしまったみたいだ。
中でも、ひとり彼を呼ぶよりも早く脚を走らせた者がいた。
「――そおおぉぉぉぉぉぉくうぅぅぅぅぅぅん!!!!!」
穂乃果だ―――
ついさっきまで練習疲れでへばっていた彼女が一変して、まるで幼子のように元気いっぱいに走っているのだ。その様子に海未をはじめとする全員は驚きを隠せない。その一方で、彼女の先にいる蒼一は、彼女が来るのを待っていたかのように腕を大きく広げており、そして―――
「―――おっとぉ! ハハっ、捕まえたぞ穂乃果」
「えへへ♪ 蒼君に捕まっちゃったぁ~♪」
彼の胸の中に飛び込んできた穂乃果を笑って迎えたのだ。
ちょっと前だったら、彼の方が嫌がる素振りを見せるのだが、ここ最近は一切ない。特に、穂乃果に対して甘くなっていた。傍から見れば、いったいどんな風の吹きまわしなのか、と疑ってしまうが、彼と穂乃果との間に起きたことを考えれば理解に苦しまない。
いまでは穂乃果は、彼が最も信頼を置く恋人となったのだ。
「ねえねえ、蒼君! 穂乃果ね、今日もすっごく練習頑張ったんだよ! ダンスの振り付けも、歌うことも全部完璧になったんだよ!」
「そうか! よく頑張ったな、穂乃果。この状態を保ち続ければ、本番で最高のパフォーマンスができるぞ」
「ほんと!? そう言ってもらえると穂乃果も嬉しいよ! ねえ、御褒美にもっと甘えてもいいかなぁ?」
「そうだな……それは、いまはお預けだ」
「えぇ~?! そんなぁ……」
「まあ、そう落ち込むなって。いまはみんなに伝えなくちゃいけないことがあるんだから我慢してくれ……後でゆっくりとあげるから待っててくれ……」
「うん…それなら、待つよ///」
彼の胸の中に埋もれる穂乃果は、ぽっと頬をリンゴのように紅潮させた。囁かれた彼の言葉に酔いしれたのだろうか、嬉しくもちょっぴり照れくさそうにする表情はしばらく残っていた。
甘える穂乃果を相手する一方、見かねた真姫とにこが急速に彼に近付くと、羨ましそうな目で見上げてくる。
「蒼一! 来るのなら私に連絡くらい寄こしなさいよ! 今日、あなたに逢えなくって寂しかったんだから……」
「ごめんごめん。こっちがかなり忙しくって、連絡できなかったんだ」
「ふ~ん……なら、蒼一のかわいいかわいい真姫ちゃんを寂しくさせた埋め合わせをちゃんとしてよね?」
「ああ、なんとかしてみるさ。もちろん、真姫が満足できるようにな」
「フフッ、楽しみに待ってるわよ♪」
「ちょっとぉ?! 穂乃果たちばっかりずるいわよぉ! 蒼一はにこの恋人でもあるんだから、ちゃんと優遇してよね!」
「はいはい、わかってるさ。俺がにこのことを忘れるはずがないだろ?」
「し、知ってるわよ、そんなことくらい……! 蒼一がにこのことを忘れるだなんて100%ありえないんだから!」
「ああ、そうさ。にこも俺の大切な人なんだから、ちゃんと見合ったかたちで優遇させてあげるつもりだよ」
「そ、そういうことなら……別に、いいわよ……」
口を開くとやや怒り気味な口調をしてくるが、彼の素直な表情を前にしては気持ちがやわらいでしまう。また屈託のない笑顔を見せて言うのだから彼女たちには堪らないことだろう。彼に胸をときめかせる彼女たちに、言葉とともに2人の頬を撫でるので、くすぐったさもあるが彼に触れていることの嬉しさに表情が緩むのだった。
「蒼一。どうしたのですか、急に来るなんて?」
「ああ、海未。ちょいとみんなに伝えたいことがあって来たんだ」
「伝えたいことですか? それは何です?」
「あー……ここじゃ言えない話だ。ちょうどいい、みんな揃ってることだしウチに来てくれないか?」
日が傾き始め出す夕刻。彼はにこやかに彼女たちを家に招こうとするのだった。
「蒼くん……」
ただ1人、胸を強く締め付けられながら見つめる彼女は不安な気持ちを抱える。日差しが身体を通すと、彼女から伸びる影が一層長く、深く黒ずんでいるように見えるのだった。
―
――
―――
――――
『ラブライブにRISERが出演するっ?!!』
暑い日差しから逃避するように蒼一の家に上がり込む彼女たちは、ややくつろいだ状態で彼の話を聞き一斉に驚いた。
「……まあ、そう言うことだ」
「そう言うことだ、じゃないわよ!!? 何よその重大な話! すごいじゃないの!!」
「ほ、ほほほほんとうにそんなことが起きるんですか?! あ、あわわわ、これは大変なことに……」
「何驚いてるのよ、RISERは蒼一たちでしょ? そんなに慌てなくてもいいじゃない」
誰よりも早く反応を示したのは、言うまでもなく、にこと花陽だ。一アイドルファンとしてはこの話は身体を熱くさせてくれるのだから仕方ない。
だが、肝心なことにそのRISERというのは、彼女たちの目の前にいる彼なのだ。
「そ、そうだけど……だとしてもよ、か、考えただけで震えが止まらないんだから……!」
「も、もしかして、蒼一にぃも花陽たちと一緒にステージに立てるってこと?」
「かもな。むしろ、その可能性の方が高くなった」
それを聞く彼女たちの間から喜びに満ちた声が聞こえてくる。それもそのはず、私情を捨てても彼女たちはRISERに憧れている。また、私情を大いに持ち込めば、自分の好きな人と共に立てることは何よりも嬉しいことなのだ。この両者が合致しての二重の歓喜に高揚せずにはいられなかったのだ。
「すごい……本当にハラショーな話だわ! こんなにも早く蒼一とステージに立てる日が来るだなんて!」
「おいおい、まだ一緒に踊るとか分かんないんだぞ?」
「いいのよ、私は。だって私は、ずっとあなたに憧れていた……。一緒に何かしたいって望んでいた。それが私の大好きなことで、恋人になった蒼一と一緒に立てるって想像すると、なんだか嬉しくなっちゃって……」
「絵里……。あぁ、そうだな、俺も嬉しいよ。俺が指導してきたお前たち、俺のことを好きになってくれたお前たちと共に、あの煌めく場所に立てることがどれほど嬉しいことか……」
ふと、彼はここにいるみんなを見回した。
水晶のように煌めき、子供のような無邪気さを含んだ瞳が彼を見つめていた。視線を逸らさず、まっすぐに伸ばすその姿に彼は満足気になる。
――彼女たちは、俺の教え子だ。努力を惜しまず、挫けず俺の注文をこなしてきてくれた。学校のためだとか、自分のためだとか理由は様々だが、ようやくここまで来ることができたのは、紛れもなく彼女たちの力だ。それを胸張って自慢したって、バチは当たらねぇだろうさ。
正直、たった数カ月でここまで来ることができるとは、彼も初めはそう思わなかったことだろう。けれど、そんな彼の予想を遥かに上回る成果を次々と築きあげる彼女たちを見て確信を得るようになる。
そしていま、彼女たちの手には、憧れの晴れ舞台へのチケットが手渡されている。彼女たちのこれまでの集大成を発揮する絶好の場所。ここを乗り切ることでさらなる飛躍を見ることができるとともに、目標にしていたことを達成できるかもしれないのだ。
まるで、奇跡のような時間だったと、彼は振り返るのだった。
「お前がここまで頑張ってくれたんだ、その努力に報いた結果を出せればいいな」
「もちろんだよ! 蒼君が私たちに教えてくれたことを精一杯出すつもりだよ!」
穂乃果の力の籠った言葉にみんなも同調するように頷いた。みんなの気持ちはひとつになっている。それは、彼女たちが彼の帰還を待ち望んでいたスクフェスでの出来事と同じだ。今回もまた、彼を中心に互いの心を寄せ合っているように感じられたのだった。
「ありがとな、みんな。ラブライブまで残り数日だ、練習は頑張ってもらいたいが体調だけは整えておけよ。最後の最後で身体悪くして出られないってことになったら洒落にならんからな?」
「大丈夫だよ! 穂乃果は絶対に身体を壊すことなんてしないもん!」
「そうだな、バカは風邪をひかないって言うしな」
「んもぉ~! 穂乃果のことバカにしてぇ~!!」
彼は冗談交じりに少しからかうと案の定の反応を見せてくれるので思わず口を緩ませてしまう。同調するように、彼女たちもその意味を理解したため笑いが起こる。ただそれに不満な穂乃果は頬っぺたを膨らませて拗ねるので、蒼一は彼女の頭を撫でて御機嫌を取るはめになる。
その様子をとても羨ましそうに見ている彼女たちがいたのは当然のことだった。
「あはは! なでなでされてる穂乃果ちゃん、まるでわんちゃんみたいだにゃぁ♪」
「もぉ! 凛ちゃ~ん!!」
ただひとりを除くのだが―――
―
――
―――
――――
「穂乃果、少し残っててくれないか?」
「え? なになに?」
「ちょっと話があるんだ。すぐ終わるとは思うけどな」
話し合いが終わり、彼女たちは返ろうとしていた時、彼は穂乃果だけを指名して残るように言ったのだ。その理由が見えなかった穂乃果は、首を傾げるが彼のためならばと二言で了承したのだ。
「それでは、私たちは先に帰りますね」
「悪いな、海未。そうしてもらえると助かる」
彼の言葉を察した海未は、穂乃果と2人っきりになれるようにと先に出ようとした。彼が穂乃果だけに声を掛ける時は、決まって大切な話をするのだと彼女はわかっていた。だから、そこを邪魔しないようにと彼女は気遣ったのだ。
一方、海未の横で聞いていたことりは……
「あ…そ、蒼くん……」
「ん、どうしたことり?」
「あ、あのね……ううん、やっぱりなんでもない」
「そうか? ならいいけどさ」
ややうつむきがちにあったことりは、彼に何かを伝えようと口にするがどうしてか留まった。彼女が深刻そうな雰囲気で話しかけるため、余程大事なことだろうと彼は感じていた。が、肝心のことりは何も話そうとはせず、共に帰る海未より先に玄関を出ていった。海未は彼に一礼してから、ことりの後ろを追い駆けるように走っていくのだった。
「ことりのやつ、何を話そうとしたんだ?」
「さあ、何だろうね? ところで蒼君、話ってなあに?」
「そうだったな。俺の部屋に来てくれ」
そう言うと、蒼一は穂乃果を自分の部屋に連れて行かせた。
穂乃果は彼のベッドに腰掛けると、何を話すのだろうかとワクワクした気持ちになる。彼は少し呼吸を置くと、真剣な顔つきになり彼女に話し始めた。
「穂乃果、よく聞いてくれ―――
――俺の夢が叶いそうなんだ!」
「えっ?! そ、それってもしかして……!」
「ああ! 今回のラブライブの結果次第では、念願のドームライブの開催が決まるかもしれないんだ! その出演に、俺たちRISERの名前が乗せられたんだよ!」
「ほ、ほんと?! やった……やったね、蒼君! 蒼君の夢が、叶うんだね!!」
「そうなんだよ! やっと叶うんだ……あのドームに立てる日が!!」
彼は彼女の肩に手を置くと、花開いたかのような満面の笑みで語ったのだ。その嬉しそうな表情をする彼はまるで子供のように無邪気さを抱いているようだった。
それを聞いた穂乃果は、まるで自分のことのように彼を祝福し、歓喜の声を上げるのだ。彼の夢を知っていた彼女――それを直接彼の口から聞かされたあの日から、彼女はずっと応援し続けていた。それこそ当初は、彼女が彼をあの場所へ連れて行くと約束し、その約束は一粒たりとも変わることがないままなのだ。それは、彼女がラブライブにこだわる理由のひとつになるほどだった。
そして、彼と交わしたもうひとつの約束が………
「それじゃあ、穂乃果も頑張らないとね! 蒼君が先にドームに行くって言うなら、穂乃果もその後を追うよ! そのためにも、ラブライブで優勝しないといけないよね!」
「穂乃果……もしかして、いまもその約束を……!」
「当たり前だよ! これは穂乃果と蒼君の2人だけの約束なんだよ。それを忘れるはずもないし、忘れるなんて出来ないよ!」
「そうか……そうか、そうか……。やっぱり、穂乃果でよかった……穂乃果に話して、よかった……」
「わわっ! そ、蒼君?!」
すると蒼一は、急に穂乃果の身体を抱きしめたのだ。その咄嗟の出来事に、わずかだが穂乃果は驚いてしまう。
「俺は、穂乃果と出会ったおかげで自分のやりたいことを再確認できた。穂乃果がいてくれたから夢を諦めずにいることができた。穂乃果が俺の大切な人でいてくれたから俺は……穂乃果のことをこんなに好きになれた。穂乃果にはもう、感謝し尽くせないことばかりで胸がいっぱいだ……!」
「蒼君……。穂乃果もね、同じだよ。蒼君がいたから頑張れた。学校のことも、μ’sも、ラブライブもみんな全部、蒼君が穂乃果の傍にいてくれたから頑張ってこれた。だからね、感謝したいのは穂乃果の方なんだよ。ありがとね、蒼君♪」
彼は嬉しさのあまり彼女の身体を強く抱きしめるのだが、彼女もまた感謝の気持ちをこめて彼の身体を抱きしめた。お互い、嬉しくて、嬉しくて抑えきれなかったのだ。自分たちの気持ちを共有し合い、苦楽を共にしてきた2人から言葉では言い尽くせないことばかりが溢れ出て来るのだ。それを2人は、互いの胸の奥で感じ合うのだった。
「そう言えば、穂乃果に御褒美をあげないとな。何がいいかい?」
「もう、そんなこと言わなくても蒼君ならわかってるでしょ?」
「ふっ、そうだな。穂乃果へ贈るモノはいつだって同じだもんな―――」
蒼一は穂乃果の肩にもう一度手を乗せ、少しずつ身体を寄せていく。目の前に写るのは、桃色のように頬を染める愛しい彼女――煌めくステージよりも遥かに凌ぐ輝きを持つ彼女に、そっと唇が触れる。
『んっ―――――』
柔らかな唇の感触に2人は即溺れてしまう。何度も、何度もこうして交り合った仲なのだから、お互いに感じるところ知り尽くしているからこそ浸っていられるのだ。無雑作に何度もするよりも、ひとつひとつを丁寧に汲み取ろうとすることで気持ちを高揚させるのだ。
「んふっ―――はぁ……さすが蒼君、穂乃果の大好きなモノをちゃんとわかってるね♪」
「当り前さ、どのくらいの付き合いだと思ってるんだ?」
「うふふっ、そうだよね! 穂乃果の蒼君はなんでも知ってるもんね!」
キスしたことで火照り出した彼女の顔は、さっきと変って紅葉色のように紅潮させていた。そんな彼女もまた、彼のことを何でも知っているような顔をするのだから、思わず微笑んでしまう。
「そうだな……穂乃果の言う通りだ。いまの俺は、穂乃果をたくさん知った。ありったけの穂乃果をたくさん感じ取った。だからだよ、心から穂乃果に逢えてよかったって感じられるのは……!」
「蒼君……! ありがと……穂乃果も同じ気持ち……蒼君に逢えてよかった……」
愉しいから、嬉しいから―――、いまそんな感情では語りきることはできないものであふれている。この2人には、言葉は不要なのだ。
「蒼君……穂乃果ね、いますっごく熱くなってる……ココが、とてもジンジンしだしてきちゃったの……」
「おいおい、まだ日が昇ってるのに、そんなことを言うのか?」
「うん、いまどうしても蒼君が欲しくなっちゃったの……お願い……」
「……明日の練習に響かせないでくれよ?」
「わかってる。だから、やさしくしてね……?」
「ふふっ、それは保障できないな……。俺も久しぶりだから結構溜まってるんだぜ? 壊れちゃうかもしれないぞ?」
「平気だよ……。蒼君になら……めちゃくちゃにされても、いいよ……///」
「……あぁ、なら遠慮しないからな……」
そう言うと、蒼一はそのまま穂乃果をベッドに押し倒すと、彼女の身体を制服の上からまさぐる。汗で湿った感触を確かめつつ、その手は濡れ場に伸びていく。
「それじゃあ……いくよ……」
「うん、キテ……♪」
彼女の声を皮切りに、2人の身体が交り合う。
日が影落ち、夜と交差する夕焼けは、いつもより澄み渡り、紅く燃えていた――――
―
――
―――
――――
「蒼くん……穂乃果ちゃんと何話しているんだろう……?」
「さあ……ですが、穂乃果にしか話せない大事なことなのでしょうね」
「ふぅ~ん……」
蒼一の家を後にした海未とことりは、2人並んで帰路に立っていた。海未は蒼一たちが何を話しているのか気には留めないものの、ことりは気にしていた。その内心は荒れてて、そわそわしてて落ち着きがなかった。それに海未が気付いて声を掛けるのだが、何でもないの一点張りで押し通されてしまうのだった。
――蒼くん、最近は穂乃果ちゃんとばかり一緒にいるように思えるなぁ……。にこちゃんや真姫ちゃんも、それに海未ちゃんも蒼くんと一緒にいることが多い気がする……。なのに、私はあまり話せてない……。やだなぁ、私……みんなに遠慮しちゃってる……。それに、
最近のことりは、少し変だ。
いつもならば、我先にと蒼一の許に向かっていくのが彼女であるはずなのに、ここ数日はそれが見られない。むしろ、行くことに消極的になってしまっているみたいだった。いったい、どうしてしまったのだろうか、と自分でも気が付いてはいるもののどうしたらよいかがわからないでいたのだ。
それは多分、幼馴染の穂乃果を見て、そう思うようになってきたのだろう。
――穂乃果ちゃんはすごいなぁ……自分の気持ちをあんなに素直に言えるなんて……。それが穂乃果ちゃんのいいところだから、ことりは尊敬しちゃうの。だから、蒼くんからあんなに頼られるようになるんだよね……。私にも、もう少し穂乃果ちゃんみたいに素直に言えたらよかったのに……。
「―――――――――」
「――――り――――」
「―――とり――――」
「―――ことり―――?」
「ひゃっ! う、海未ちゃぁ~ん、おどかさないでよぉ~……」
「さっきから呼びかけているのに返事をしないからですよ?」
「え? そうだったの? あはは、ごめん、ちょっと考え事してたよ……」
ことりには海未の声がまったく聞こえていなかった。確かに考え事をしていたが、周りが聞こえなくなるくらいだとは思いもしなく、声が聞こえた時はきょとんとしてしまった。
だが、それを見ていた海未には、どうも気になってしまうようで。
「何か悩みごとでもあるのですか?」
「ふえっ!? な、ないよ、全然ないからね!」
「ですが……」
「あっ! ことり、用事があるの忘れてた! それじゃあ海未ちゃん、また明日ね!」
「あぁ、ことり!」
気になる海未はことりに声をかけるのだが、当人は慌てた様子でその場から去ってしまったのだ。遠退いてしまう親友を心配そうに眺めつつ、よからぬ不安を募らせていくのだった。
―
――
―――
――――
どたばたと足音を立てながら家に帰って来たことりは、早々に玄関先で息を整えていた。ちょっと長く走ってしまったからか息が上がってしまったようだ。
「あらことり、おかえりなさい」
「あっ、お母さん……。ただいまぁ……」
玄関先が何やら騒がしいと見に来たことりの母、いずみは娘を見ると安心した様子で声を声を掛けた。
「あらあら、そんなに息を立てちゃって。それに汗で濡れちゃってるわよ?」
「へ、平気だよ……すぐにお風呂にはいるから……」
「それならいいけど……。あぁ、そうそう。
「あっ………」
――瞬間、彼女の身体が止まった。
いずみがことりにと、片手に持っていた手紙を差し出されると、ことりは何も言えないままになる。
そんな娘の様子を見て、心配そうになる。
「……まだ、話せてないのね……」
「うん……明日、話すつもりだよ……」
「そう……話す時期を逃しちゃダメよ?」
「わかってるよ、お母さん……。手紙、もらうね。荷物置くついでに持って行くよ」
そう言うと、ことりはいずみの手から手紙をとり、そのまま自室に向かっていった。扉を閉めると荷物を置き、そのままベットに向かって突っ伏してしまう。
その手には、いずみから手渡された手紙を持ちながら……
「私、どうしたらいいんだろう……蒼くん……」
右にも左にも行けずに思い悩む彼女の口から、無意識に彼の名が出てくる。彼女の心の内に秘めた悩みを聞いてほしいと口にしたのだろう。
だが、その声は彼には届かず、中空で散ってしまうだけだった。
それは、どこか歯車が軋むような、そんな音にも聞こえてしまうのだった。
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
なんだか久しぶりにこういうのを書いた気がする。
先月までいろいろとヤバイモノばかり書いてて頭を痛ませていたので、こういう純粋(?)にピュワピュワしている描写が描けるのがなんとも嬉しい気持ちになったりします。
さて、何やかんやでアニメ第一期終盤戦を描くことになりましたが、前回でも話しましたように、かなりオリジナルな展開になります。アニメオリジナルがいい!と言う人にはちょいとばかし難しい気持ちになるだろうとは思いますが、うp主はこんなヤツなので大目に見てください(何様なんだろう……(汗))
次回もどんどん突き進んで行きたいですね。
今回の曲は、
HIGH and MIGHTY COLOR/『遠雷~遠くにある明かり~』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない