蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

149 / 230
第137話





【コラボ】どうやら異世界系が流行ってるから便乗する?いや、いいです…

 音ノ木坂には桜がある――――

 

 

 この桜は、長い時を越え、この地を鎮守してきた霊木。 季節が移れば全身を纏う衣装を脱ぎ換え、首を伸ばすかのように高く出た枝先から陽の光、月夜の光を足元を照らす燈として受け入れた。 その着飾る姿はまるで、乙女のようにも思えた。

 

 その桜には、不思議な言い伝えがあった。 この桜の下で願いをすれば、必ず聞き届けてくれるだろうと。 すると、霊妙な光が灯った桜の花が満開となるだろうと言い伝えられていた。

 しかし、ここ最近はそんな言い伝えを知っている者は激減し、今ではわずかな者しか知らない伝説となっていた。

 

 

 

 そんな桜に、その夜、異変が起きた――――

 

 青々と茂った木の葉が白い光を放ち出した。 光は見る見るうちに桜全体を覆い隠すと、次の瞬間、その光が飛散して花びらのように宙を舞い始め出した。

 するとどうだろう、青々と茂っていたはずの桜が、春萌ゆる白桃色の花を拵えているではないか。 季節は夏――なのに、どうしてか、春の息吹が街を吹き駆けていくのだった。

 

 霊妙に光る桜の花が満開に咲き誇り、すべてが幻想的に思えた、その時だった――――

 

 

 桜の木の下に大きな光が生まれ始める。 光は丸みを帯びて膨れ上がり、光量を強めていくと、中から形あるものが姿を表す。 縦に細長く伸びて、丸みを帯びたところや角ばったところをどう捉えても人の形でしかなかった。

 光が消え始めだすと、今の季節では熱そうな服を着た若い男が、木に寄り掛かるようにして目を閉じていた。 動きをまったく見せないが、ちゃんと呼吸をしてはいる。 ただ眠っているだけだ。

 それを見て、よし、と思ったのだろうか、淡い光を放つ桜は、無数の花びらを散らしていくと、パッと光が消えたのだった。 そして、あっという間に辺りに夏の闇が戻るのだった。

 

 眠れる男は、少し眉をひそませて寝心地悪そうな様子を見せている。

 

 

 

 

 

 

『うふふ――――♪』

 

 そんな男を傍でジッと見守る小さな妖精がいるのだった。

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 あれから数日が経とうとしていた―――。

 

 躍動し、弾けて、飛び上がったあのステージから―――。

 

 

 正直、実感が無いわけじゃない。 ただ、なんだか不思議な感じで、極上の羽毛布団の上で寝そべっているみたいにとても浮ついたような気分だ。

 でも、ココには確かにある――大切なモノを取り戻し、大切なモノを手に入れたという証明が。 それがあったから俺は今日もこうしていられるし、またあの名前を名乗ることができる。 こんなにも清々しく、心軽やかな気分になったのは久しぶりかもしれない。

 

 そして、今日もまた、穏やかな日常が訪れ………

 

 

 

 

 

「……おい、お前ら……俺の部屋で何していやがる……?」

 

 

……ることなど、微塵もなかった。

 

 

 

――状況を整理しよう。

 まず、俺はつい先程、いい朝を迎えてベッドから起き上がった。 ――と同時に、俺はとんでもないものを見てしまったんだ……。

 

 何故か、俺のタンスの中を漁っている穂乃果とことりと真姫の姿が……。 うん、嫌でも目に入るよね、コレ。 そして、さらに俺をビビらせたのが………

 

 

「真姫、どうして俺のジャージ上を着てるんだ……?」

「べ、別にいいじゃない……。 ちょっと汗をかいちゃったからよ……」

「どう見ても、着ている今がたくさん汗をかいているようなんだが……? それと、穂乃果もなんでジャージ下を履いてるんだよ……」

「だ、だってぇ……! あったんだもん! そこにあったんだから履くしかないじゃん!」

「なんで拾ったアイテムをすぐに装備しちゃうRPG初心者みたいなことをしてんだよ! つうか、わざわざ着ているズボンを脱いで着るなよ!!」

 

 俺がいつも愛用しているジャージが上下ともに真姫と穂乃果によって奪われ、尚且つ着られるという……しかも、長さが全然合わないからダブダブな感じでいるし、ちょっとした萌え袖みたいなことになってるし………

 

「そ・れ・よ・り・も・だぁっ! ことりぃ!! お前は何していやがるッ!!!」

「え? 何ってわからないの? ことりの下着が汗でべっとりしちゃって、変な感じだから着替えようかなぁ~って♪」

「着替えるなよ!! 俺の面前で生着替えとかいらねぇから!! と言うか、何で俺のトランクスを持ってるんだよォォォ!!?」

「えぇ~~~? ことりはただ、お宝箱を偶然見つけちゃって、その中にこの宝具を見つけちゃったんです!」

「人の下着を宝具とほざくかよ……」

「この宝具があれば、ことりのしっとりしちゃったこの下着の代わりになるってわかるの! ことりと蒼くんだから相性はバツグンだと思うの! だから、今から試して………」

「やめろォォォォォォォォ!!!!!」

 

……なんで朝からこうも刺激的なことばかり起こるのだろうか……コイツらだから仕方がないことなのか……? いやいや、こんなことで妥協してたら絶対に身体が持たないから………

 

 

「そう、ね。 今度から下着ってのも手かもしれないわ……」

「蒼君、蒼君! 穂乃果も下着が欲しいよ!!」

「うるさあああぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃ!!!!」

 

 

 あぁ……今日もまた、平和です………

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「へぇ~……私のいないところでそのようなことが………」

「まったく、朝っぱらから頭を悩ませることばかりで大変だったぜ……海未がいてくれたらどんだけ心強かったことか………」

「本当に、穂乃果たちときたら呆れてものが言えませんね!」

 

 

 太陽がいい感じに登り始める朝、練習のために音ノ木坂に向かおうとしていた。 早朝に行われた、突撃! 寝起きドッキリ!! みたいな犯罪スレスレな出来事に頭が痛くさせる。 一応、彼女たちの名誉(んなもんあったか?)を傷つけないために穏便に済ませたのだが、当人たちはまったくの無関心ときた。

 おまけに、コイツらが侵入してきた経緯が本当に危なっかしくてならない。 穂乃果が庭窓から、真姫は玄関から、そして、ことりは俺の部屋の窓から……。 一度に3ヶ所からの同時進行とか、聞いたことがありゃしない。 それに、窓の戸締りはしっかりしていたはずなのに何故……?

 

 

「―――私の未来の旦那様に何かあったら大変だから、いつでも駆けつけられるようにって、合いカギは用意するモノよ♪」

「さっすが真姫ちゃん! 穂乃果はね、前よりもっと上手に鍵をあけられるようになったんだからね! でも、ことりちゃんみたいに触れただけであけられるところまでにはいかないけど……」

「うふふ、穂乃果ちゃんは呑み込みが早いからね。 すぐに、ことりのことを追い抜いちゃうかもしれないよ♪ ことりはもう蒼くんの家にあるすべての鍵を開けることができるからね! あ・と・は、蒼くんのカギ♡を開けるのが楽しみ♪」

 

 

 

……俺は何も聞かなかったことにしよう……。 幼馴染、もとい俺の彼女たちが本格的に犯罪の道に突き進んでいることを匂わせる会話が聞こえてきたように思えたが、気のせいだ。 うん、きっとそうだ……。

 

 ああ、こんな危ないことばかり言う恋人よりも、こうして穏やかで清楚な姿を保ち続けている海未の隣にいることが何とも心休まる………

 

 

 

「……やはり、蒼一には私の家に来てもらうほかなさそうですね……私の家にいれば、何事も不自由なく暮らせますし、もしものために用意しました布団もありますし、お母様もきっと喜んでくれるはずです……初めはお泊りから、次に居候、そして最終的には家の敷居をくぐるこt」

 

……前言撤回、やっぱなしなしなしィィィ!!! 何か一番危ないヤツが隣にいるんですけどォォォ!! 寡黙に控えめにいると思ったら何考えちゃってるのこの子?! しかも、徐々に顔つきが怪しくなってきているのだが……

 

 

結論:俺の恋人は異常だ。

 

 他のヤツらは大丈夫だろうと勝手に決め付けたいが、実質安全なヤツっていない気がする。 だって、狂気な一面があったし……うん、思い返すのは止めよう……。

 

 

 そう考えているうちに音ノ木坂の敷居を跨ぎ、そのまますぐに練習するために校舎内に入ろうとしたのだ。

 

 

 

 

……と、その時だ――――

 

 

「蒼くん!!」

「そ、蒼一にぃ!!」

「んっ、凛に花陽?」

 

 中庭の方から駆けてやってきたのは、凛と花陽だった。 2人とも大急ぎでこっちにやってくると、何やら切羽詰まるような様子で落ち着きが無かった。 一体何があったのかを聞き出そうとすると、驚きの言葉が飛び出て来た!

 

「な、中庭に……お、お、男の人が倒れているんですぅ……!!」

「なにっ?!」

 

 この敷地内に俺と明弘以外に男がいるだって?! 花陽の口からそれを聞いた瞬間、疲れていた脳が一気に目覚めた。 一体どんなヤツがやってきたのか気になると同時に、穂乃果たちに害を与える存在なのか確認しなければならなかった。

 

 

「もしかして、不審者?!」

「えぇっ?! こ、怖いよ、蒼くん……」

「お前たちはここで待ってろ。 確認してくる!」

 

 

 怯える彼女たちをその場に残して、すぐに中庭の方に向かって走っていく。 さて、一体どんなヤツが現れたんだろうか? そもそも、ここにどうやって侵入したんだ? ここの守衛や洋子の監視機能が十分に発揮されているはずなのに、何故……?

 

 様々な疑問が交錯していると、俺の視界がその男を確認した。

 

「……もしかして、あれが……?」

 

 花陽の言う通り中庭に入ると、桜の下で木に寄り掛かるように座っている男を見つけた。 少しボサついた髪をした少し小柄のようにも見えるその男――近付きその表情を眺めてみれば、まだ若い。 目立ったホリやシワもない、明らかに俺よりも若い少年だった。

 

 だが、俺をさらに驚かせたのは少年が来ている服だ。 深い藍色に限りなく近い紺のブレザーに、青基調のチェック柄のズボン――どこか見覚えのある柄と思えば、穂乃果たちの制服によく似ている……?

 それをさらに決定付けるかのように、少年が着るブレザーの金ボタンに掘られた校章がまさにそれだったのだ!

 

「桜の花びらに、“音”の文字……これは一体どういうことなんだ……?」

 

 自作のコスプレか? だが、この触り心地といった完成度はその領域を凌駕している。 ことりの手でさえもこんなにはできない……だとしたら……いや、まさか………

 

 一瞬、脳裏に過った憶測に身震いを抱き、そのまま否定した。 だが、もしそれが本当なのだとしたら、何の目的があるというのか理解に苦しむ。

 

 

 

 ハラリ――――

 

「――――!」

 

 いま……桜の花びらが舞ったような………ハッ! ま、まさか……!?

 

 幻想のようなモノが眼に映り込んだ時、頭の中に“あの子”のことを思い起こしてしまう! もし、この考えが正しいのだとすれば、こうしたことをしたヤツは……!

 

 

 

「――――そ~くぅ~ん! だいじょ~ぶ~?」

 

 俺の思考を遮断させるかのように、耳に触れる声に少し溜息が洩れてしまう。

 

「……来るなと言っただろうに。 どうして揃って来るんだよ………」

「だってぇ、蒼君のことが心配なんだもん。 落ち着いていられないよ!」

「それで、どうなのですか? その不審者と言うのは?」

「……ったく、仕方ないヤツらだ。 だが、今のところは問題ないようだ」

「うわぁ~、よく見るとカワイイ顔をしてるね♪ ちょっと、ことりの作った服を着てもらえないかなぁ~?」

「見ず知らずの少年を着せ替え人形のようにするのは、さすがにやめておけ。 というか、目がマジ! マジな目をしてるぞ!!」

「だいじょ~ぶ……ちょっとだけだから、ちょっと5着だけ着てもらえればいいんだから……♪」

「や・め・ろ!! もはや犯罪者のような口調になってるし! 5着はちょっとの範囲内じゃねぇし!! それに、俺以外のヤツにやったらガチで犯罪になるから!!」

「あっ、なら蒼くんがことりの着せ替え人形になって~♡」

「どーしてそうなるのさ!!?」

 

 朝っぱらから犯罪ギリギリラインを反復横跳びすることをし続け、この期に及んでも尚、跳びまくるとか、もはや病気だよ……。 医者だ、一番いい医者を呼んでくれ!

 

 

「――あら、御指名かしら?」

「呼んでない呼んでない……。 と言うか、勝手に俺の思考を読むな……」

「あら、残念。 でも、もし必要ならいつでもナースコールしてくれてもいいのよ? 蒼一の専属医師なんだからいつでも駆け付けて看病しちゃうわよ♪」

「医者なのに押しかけ妻みたいとか、なんちゅうパワーワードだよ!」

 

 うふふ♪ と含ませ笑いをする真姫の表情にある種の危機感を抱いてしまう……。 てか、いつから俺の専属医師になったんだよ! 俺は頼んだ覚えが無いし、絶対にロクなことにならない未来が見えて仕方ない!

 

 

「……うっ……うぅ………」

 

「あっ! 今動いたよ!」

 

 凛の一声で少年が眠りから覚めようとしているのを確認する。 顔をしかめつつ、声低く唸りながら身体を動かしている様子………

 

 

「待ってくれ、俺はやっていない…やっていないんだ! 信じてくれぇ!!」

 

「んんっ?! え? 何なに?? どゆことなの?」

「いや、さっぱりわからんが……目を閉じているし多分……」

「寝言……ですかね……?」

「にしても、何でしょう……やけに緊迫した感じは……?」

「怖い夢でも見ているのかな……?」

 

唐突に声を張って深刻そうな言葉を吐く少年に、俺たちは驚きを隠せなかった。 さすがのことりや真姫も少年の様子に動揺し、真剣にならざるを得なかった。 一体、どんな夢を見ているのだろうか―――?

 

 

「俺が一体何をしたって言うんだ! 俺はただ……ちょっとそこにあったイチゴパンツを手にしていただけで……いやいやいや、待って! その堅く握られた元祖超合金のアイアンハンマー見たいな拳を下げて、俺の弁明を聞いてくれ!! 俺はこれをパンツだとは思っていなかったんだ! とても甘くてみずみずしい、まさに美味なイチゴだと見えたんだよ! だってさ、よく見てほしい…こんなにもリアリティなイチゴの絵をしているんだよ? 遠くから見たら誰だって本物だって思うよ? それ以前に、どうしてこのパンツが、俺の進行方向上にあったのかが問題だとは思わないか? コレはきっと……俺を貶めようとするヤツらのせいかもしれないんだ!! おのれ、ゴルルムッ!!!」

 

 

『……………………。』

 

 

「えっ……? なに? これ全部寝言? いつから寝言は早口かつ長文形式に変わってしまったんだよ?」

「え、えっとぉ……ごめん、何も言えない……」

「か、かなり濃度のある夢を見ているよう、ですね……」

「あ、あははは……ちょっと、苦労しちゃってるんだね……」

 

 あまりの内容に、穂乃果と海未が反応拒絶したぞ! それに、あのことりですらも若干引いてるし……ホント、この少年はどんなものを見ているんだよ!!

 

 

「なに? その前に早くそのパンツを渡せって? ど、どうしてこのパンツをあなたに渡さなくちゃならないんですか! こんな小学6年生の身長131cmの天使にしか履けないであろうこのパンツを!! これはしかるべき処置を施してから、十分な検査を行って上で持ち主に返すべきだと思います! それをあなたがやってくれるのですか!!?

 

 

 

 

 

 

 

……あっ……お兄さんのでしたか……ごめんなさい………」

 

 

『ちょっと待ってッッッ!!!!??』

 

「何その超展開?! なんで男が持ってるんだよ!?」

「危ないよ! すっごく危ないよ、その人!!」

「渡しちゃダメだよ! 絶対だめだからね? ね?」

「いけませんいけませんっ!! 破廉恥ですっ!! わいせつですっ!!」

「イミワカンナイイミワカンナイ……」

「だ、だ……ダレカタスケテェ……!」

「へ、変態だにゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 一体全体、彼の頭の中では、どんな展開が繰り広げられているのか、それが気になってしまって仕方なくなってきた。 まさかの幼女下着が男性の所有物だったとか……いや待て、もしかしたらその男がどこかで盗んできたかもしれない。 だとしたら相手はかなりの変態!

少年よ、がんばれ…いや、マジで。

 

 

「すみませんすみません……ま、まさかお兄さんの下着だったとは思いませんでした……。 その、なんですか……いい、趣味をしていますよね……あはっ、あははは…………三十六計逃げるに如かずぅぅぅ!!! 逃げるが勝ちよおおおぉぉぉぉぉおおおバナナで滑ったァァァァ??!!! こーれーはーいーけーなー……ハッ!」

 

少年は覚醒した。

 

「――って、ここで起きるのかよ!!? もうちょい粘ってくれよ! その後の展開が、展開が気になるじゃないか!!」

 

 なんか、アニメのクライマックス辺りでオカンにテレビを消されてしまうアレなことになっているのだが……元々は、少年が起きればいいと考えていたというのに、今はその最後のところが気になっているので、もう一度寝てもらいたい。 ホントに、マジで。

 

 すると、少年は眼をパッチリと開いて辺りをキョロキョロと見回し始めた。 しかも、どうして自分はここにいるのだろうと困惑させているかのようで落ち着かない。

 

「こ、ここは……? お、俺は一体なにをっ?!」

「えっとぉ……キミ、大丈夫?」

「え、あっ! ど、どもです……。 べ、別に、あ、ああ怪しい者じゃぁないですからねぇ!!」

 

 挙動不審で酷い寝言言っているのにどう否定しろって言うんだよ、それ………

 

「あは、あははは……だ、大丈夫? ずっと、ここで寝ていたのかな?」

「いや、そんなことはない、はず……いくら寝相が悪いからと言って、家から1人でにここに来るだなんてことはありえ………あれ、ほのか?」

 

『えっ………?』

 

 少年が突然、話しかける穂乃果に対してその名前を呼んだので、みんなの声が一斉にハモった。 どうして穂乃果の名前を? 穂乃果の知り合いなのだろうか?

 

「なあ、この少年は穂乃果の知り合いか?」

「う、ううん、知らない……穂乃果は初めて会ったよ」

「えっ……? な、何を言ってるんだよ、ほのか! 俺だよ俺! 忘れたのかよ俺のことを?」

「ハンバーグかにゃ?」

「そうそう俺こそ巷で有名な、ハンバァァァァァァァグ!!! ってちゃうわ!!」

「ノリノリだなぁ、オイ……」

 

 凛からのボケに対して、即座にノリツッコミをするとか……この子、もしかしたらお笑いの才能があるのか? と考えてしまうが、やけに穂乃果に対して慣れた言い方をしている。 それに、他に対してだって………

 

「おいおいおい! さすがに、ことりは俺のことを忘れてねぇよなぁ?」

「えっ……ど、どうしてことりの名前を……?」

 

 穂乃果に続いて、ことりのことも……しかも、あの様子だとここにいるみんなのこともわかっているような眼つきだ――――俺を除いては。

 

 

「まさか……そこにいる男がほのかたちを誑かしたな!?」

「いや、してないから。 それに、少し落ち着こうか、ステイステイ……」

「俺は動物じゃねぇ!! バカにしてんのかッ!!」

「蒼君危ないっ!!」

 

 少年は頭に血がのぼったのか、起き上がると即座に俺に向かって拳を突き立ててくる。 寝起きからのこの立ち回り、なかなかやるじゃないかと、感心してしまうところがあった。

 

 

 

 

 

 

 が、それまでだ―――

 

 

 ガシッ――――!

 

 

「――――ッ!!?」

 

 彼が放った拳は、瞬間に壁となった俺の手に収まり、顔面スレスレのところで制止する。 その様子に、彼は面食らったように顔を引き摺らせる。 入った、と思ったのだろうが残念だったな、とだけは言っておくか。

 

「いいパンチだ。 純粋に、素直に伸びるパンチほど強いモノはない。 だが、純粋すぎるパンチでは、俺に届くことはない……キミはまだ、未熟ッ!」

「くっ……!! は、放せ……!!」

「今のキミは頭に血が昇り過ぎている。 ここで放せば、キミは次のステップで俺の側面に足を入れてくるだろう……しかも、捨て身覚悟なのだろう? どちらかが倒れるまでキミは俺への攻撃を止めないだろう………」

「う、うるせぇ!! だからなんなんだよ! 俺は……俺はァ……!!」

「これじゃあ、埒があきそうもないな……仕方あるまい………」

「…………ッ?!!」

 

 凄まじい殺気を感じ、どうやっても止められないと思った俺は、彼の言葉通りに掴むこの手を放した。 急に放したからだろうか、少年の身体は前屈みにバランスを崩して倒れそうになる。 と、その瞬間を見逃さなかった――――

 

 

 トン―――――

 

 

「ガハッ?!」

「眠れ、今だけは安らかに――――」

 

 倒れかかる少年の後頭部に軽く手刀を加えた瞬間、少年から殺気が取れ、抜け殻のように気絶した。 加えて、倒れかかるその身体を地面と接触させないようにと腕で支えた。

 

 

「そ、蒼君……だ、大丈夫?」

「あぁ、平気だ。 この子には何の害も与えていない」

「よ、よかったぁ……もう、心配しちゃったよぉ……」

「しかし、どうしましょうか? すぐに守衛の方にお話した方が……」

「いや、それに関しては俺に一任させてくれ。 ちょっと、この子に聞きたいことがあるからな」

「聞きたいこと? でも、また蒼くんを襲ったら……」

「平気だ。 それに、俺を誰だと思っている?」

 

 そう心配そうなみんなに伝えると、安心したのか胸を撫で下ろすような仕草を見せた。

 

「そんじゃあ、俺はこの子を保健室に連れて行くから、俺が帰るまでは明弘やエリチカたちの指示に従うように。 ラブライブはもうすぐだ、気合入れろよ?」

「……うん! わかったよ、穂乃果、一生懸命頑張って練習してくるからね!」

「あぁ、頑張ってきてくれ。 信じてるからな」

「――――! うんっ!!」

 

 いたいけな笑顔を見せる穂乃果の頭を撫でて、ちょっぴり心の余裕を充電させる。 心が乱れちゃっては、まともな話し合いもできないしな。 それにかわいい恋人に触れることで、穂乃果も嬉しくなるのであれば、これほど好都合なことはないしな。

 

 そして、穂乃果たちは俺に見送られながら校舎の中にへと入るのだった。

 

「さてと、この少年を担いでいかねばな」

 

 少年の身体を支える腕を振り上げて、そのまま身体を肩にへと移動させて担いだ。 腕で抱えていくのも手だが、こっちも荷物があって片手しか使えない。 それに、そうすることを穂乃果たち以外にはしたくはなかった。 個人的に。

 

「―――っと、見た目よりも軽いな……ちゃんと飯を食ってるのか? 塩と砂糖と水だけって言うのは勘弁してくれよな……」

 

 肩に担いだ少年に(どうでもいい)疑問を抱きつつ、俺も校舎の中に入る―――――

 

 

 

 

 

「―――なあ、そんなところで見てないでキミも一緒に来なさい。 キミにも聞いておきたいことがあるからね」

 

 その子は、物陰に隠れながら俺たちのことをずっと見ていた――――

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 

………知らない天井だ。

 

 どうやら俺はここで寝ていたみたいだ。

 真っ白けな天井が俺の目の前にあって、俺の周りも白のカーテンに覆われていて、尚且つ寝ていたベッドも白いときた……。 と言うことは、つまり……あれ? もしかして、死んだ……? 知らない合間に、ご臨終しちゃって、そのまま天国へまっしぐらしちゃったのォ?!

 

 ちょちょ、ちょっ待てよ! 俺にはまだやり残したことがたくさんあるんだ! ラノベ読んだりアニメ見たりゲームしたりして妄想の世界へウェルカムトゥようこそ! していきたかったって言うのにぃ~!! なんてこったい、俺の人生はここでラストピリオド打たれちゃったのかよォ!

 天国に来たというのであれば、せめて……せめて、界王様に合ってオラに界王拳とか教えてほしいぞぉ! そんでもって、そこからドラゴン○ールの世界に転生しちゃって世界を救いてェ!……あっ、いや、そこはかわいい女の子がいる世界の方がいいな………てなわけで、擬人化ポケ○ンの世界に転生してシャンデラと結婚したいですゥゥゥ!! オナシャスッ!!!

 

 

 

 

 

 

「―――ところがどっこい、現実です」

「うひょああああっ!!???」

 

 うわあああぁぁぁ!!? 白いカーテンが急に開いたと思ったら、見知らぬ男が立っているんですけど?! えっ、もしかして俺、謎の機関に連れ去られちまったとか? 今から俺の身体のあらゆるところを調べあげられ、適合手術を施されて、バグスターから人々を守るのだなァァァ!!?

 

 

 

「いや、しねぇから。 つうか、この世界にゲンムのなんたらなんざ存在しねぇから!」

「そんなヴァカなぁぁぁ?!! 嘘だ! 俺は信じないぞ!!」

「感情豊かだなぁ、オイ」

「……と言うか、なぜ俺の思考が読める!? ま、まさか……あ、アンタも読心術を……!?」

「んなもんあるかよ!! と言うか少年、キミの心の声が駄々漏れすぎなんだよ!!」

「なん……だとっ……?!」

 

 お、俺の心の声が駄々漏れだって……?! それじゃあ、まるで俺が隠し事のできない子みたいじゃないか、ヤダァー!

 

 

「……って、よく見たらアンタァ! さっき、穂乃果たちを誑かしていたヤツじゃんか!!」

「ようやく本題に入ったな……」

「おい! アンタはいったい何モンなんだよ?! 穂乃果たちに何をしたぁ―――!?」

 

 

「落ち着け、少年――――」

「――――ッ!!?」

 

 な、なんだ……!? い、今この人の目を見た瞬間に感じた背筋がゾクッ、ってする感覚は……!? そういえば、この人に向けてパンチした時、それを一瞬で防いだんだ! 瞬きするよりもものすごく早くだ! 頭ん中にある本能が叫んでる、相手にしちゃいけない人なんだと……!

 

「ようやく冷静になったか、少年―――いや、石田コウ君、とでも言った方がいいかな?」

「んなっ?! どうして俺の名を!?」

「勝手ながらキミを着替えさせた時に、生徒手帳を見せてもらった。 別段、それに関して俺に怒りをぶつけるのはよしてくれ。 まず、仕掛けてきたのはキミの方だ、それ相応の代償は必要だろうよ」

 

 着替え……? って、よく見たら、俺が着ているのってジャージじゃん! 少しデカめのピッタリじゃないヤツだけど、着心地はいいぞこれ。 それに……なんか、甘い匂いが……

 

「あまり執拗に嗅ぐなよ、一応俺のなんだし……」

「アンタのかよ!! なんか女の子の匂いがしたからイイかと思ったのにチクショウ!!」

「……まあ、さっきまで女の子が着ていたし、多分そのせいだろうけどよ………」

「マジかよ、最高ッ!!」

「切り替え早いなぁ……ホント……」

 

 だって、女の子の匂いって、何か不思議と落ち着くものがありますよね? シャンプーとか石鹸とか、そう言うのだけじゃなくって、女の子独特の匂いってのがいいと思うんだよね。 うん、やっぱいい匂い………あれ? なんか嗅いだ事があるような……

 

 

「あぁ、それ真姫たちが着ていたヤツだから」

「ファッ!!?」

 

 ええええぇぇぇっ?!! ま、真姫が着ていたのぉぉぉ!!!? やばいやばいやばい! これじゃあ、ただの変態みたいじゃないか!! というか、真姫の匂いで落ち着く俺って、かなりヤバイ気が……あ~ん、鼻に突き刺さるローズの香りッ!!

 

 

「……はぁ……まあ、そんなことは置いておいて。 あらためて聞こうじゃないか、コウ君。 キミのことを―――」

 

 

 それから俺は、かくかくしかじかと俺が何者で、どこ出身なのかや穂乃果たちとどんな関わり合いがあったのかを話した。 それで、この人――もとい、宗方さんの話を聞かせてもらうことに……。 てか、圧倒的に年上に対して、また突っかかっちまったよ……! 俺、やっぱクソ人間ですね。 少し関東ローム層に沈んできます……。

 

「いや、沈まんでいいから……」

 

 

「――というか、まさか音ノ木坂に男女共学の選択があったとは………」

「廃校にならないための処置だと言ってましたが、実際、俺が入った時にはすでに遅かったらしく……」

「――んで、俺んとこと同じようにスクールアイドルを始めようとした、ってわけか。 穂乃果はどこでも単純なヤツなんだな……」

「と、と言うより……宗方さんは俺の話を信じるんですか? 全部被害妄想かもしてないんですよ?」

「妄想程度だとしたら、キミの制服や生徒手帳をどういう弁明でないものにするのかな? それに、キミのその真剣な眼差しに嘘偽りなんて感じられなかった。 ただ、それだけの話だ」

「あ、ありがとうございます………」

 

 俺の話をいとも簡単に信用してくれちゃうって、かなりお人好しのようにも感じられちゃうが……いまの俺の状況のことを考えたらそんなことを言える立場じゃねぇよな。

 

「それで、だ。 キミがどうしてここに来てしまったのか、おおよその見当が付いた」

「本当ですか?!」

「まあ、おおよそだけどな。 桜の下で見つかったとなると、あの桜の不思議な力によって連れて来られたそうだ」

 

 “桜”かぁ……あの大きな桜にそんな力があったなんてなぁ……“また”こういうのがあるだなんて思ってもみなかったさ……ん、いま俺は“また”って言って……あれ? 何か忘れているような……?

 

「どうした、体調でも悪いか?」

「いっ、いえ、何でもないっす!」

「そうか……んでだ。 キミが寝ている間に、キミを“ここまで連れてきた張本人”に話を聞いてみたら来た理由と一緒に、帰る方法まで聞くことができたわけだが―――」

「ん? ちょっと待って下さい。 俺の聞き間違いじゃなければなんですが……いま、俺を連れてきた張本人っていいました?」

「あぁ、確かに言ったな。 あっ、キミに説明するのを忘れてたな、“彼女”のことを……」

 

 その時、宗方さんの後ろに何かが動いたような気がした……! まさか、あれが宗方さんの言ってた人なのか?!

 

「ほら、キミもコウ君にきちんと挨拶しなさい」

『はぁ~い。 ずっと、ここで見ているつもりだったけど、おにいちゃんにお呼ばれされちゃったら仕方ないもんね!』

 

 えっ、小さな女の子……? 聞こえてきた声が思っていたよりも幼くって、正直驚いてる。 それに、なんかどっかで聞いたことがあるような声質なんだけど……思い出せん……。

 

 

―――と、その時だ。

 

 宗方さんの横から、ひょこっと小さな頭は出てきた! 胸のところまで伸びた髪に黒リボンのカチューシャを付けて、白のワンピースを着た小さな女の子が……

 

 

「あら、かわいい」

 

『えへへ~♪ おにいちゃんおにいちゃん! ねえ、聞いた?! いま、私のことをカワイイって言ってくれたよ!』

「ああ、実際かわいいのだから当然だろう?」

『きゃぁー!! おにいちゃんにもカワイイって言われちゃったぁ~♪ 私ってば、モッテモテよ♪』

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! ま、まさか……この子って……!?」

 

『あっ! そうだったわ、ちゃんとご挨拶しなくっちゃだもんね―――♪』

 

 

 そう言うと、その女の子は本当に俺の目の前に立つと、キラキラと輝かせた目をして言うんだ。

 

 

 

 

 

『はじめまして、コウおにいちゃん! 西木野真姫ちゃんでーす♪』

 

 

「なん……だとっ……!?」

 

 

 そ、そんな……そんなバカな……! ま、まさか、こんなことって……!!

 

 

「まあ、初めは動揺するのも仕方ないもんさ。 俺だって真姫のこの姿を初めて見た時は、ある意味動揺しまくったからな……ましてや、現状の真姫を知ってるなら尚更…」

 

 

 

 

「おにいちゃんって言われたぞおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!! イヤッフウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

「……って、そっちかよおおおぉぉぉぉぉ!!!??」

 

 

 おいおい、マジかよ。 こりゃあ俺、死ぬぜ。 まさかの念願だったかわいい幼女から『おにいちゃん』って呼ばれる夢が叶うだなんて、さいっこうだねぇぇぇ!!! 一方通行さんも大喜びするわけだ!!!

 

「……てなわけで、もう一度だけ……もう一度だけ俺のことを呼んでくれ、いや、呼んでくださいませ……」

「……地べたに頭を張り合わせるかのように土下座するレベルって、どんだけ渇望してんだよ……」

『もぉ~なにやってるの、コウおにいちゃん! そんなことしたらせっかくのお顔が汚くなっちゃうわよ! めっ! もう、めっ! なんだからね、コウおにいちゃん!!』

「う、う、うわ……うわああああぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!!! おにいちゃんサイコオオオォォォォォ!!!!」

 

 

 

「……もしもし、警察ですか? ちょっと、観察保護処分についてお話が―――」

「うわあああぁぁぁ!!!? ちょちょちょちょ待ってくださいよぉ!!」

「いやぁ~、さすがにここまで来ると俺の手に余るというか……ねぇ……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……あれです、今日まで生きてきた十数年の年月の中で、超絶かわいい女の子から『おにいちゃん』って呼ばれることに憧れていただけなんです。 信じて下さいよ、宗方さん! 俺はただ……世界中に住む全男性が望む同じ夢を渇望しているだけなんです!! 1人がダメなら2人! 2人がダメなら輪になるくらいの人たちが一斉に願えば、それは健全なんです!! そう、これこそまさに…Desu(です) ezu(えず) dorimu(どりーむ)なんですよ!!」

「ここで俺がそれを否定したらその論理は成り立たなくなるので、俺は拒否します。 それと『This(ディス) is(イズ) dream(ドゥリーム)』って言おうとしているが英語のスペルが全然違うし、よくわからんローマ字になってるだけだし、発音さえも間違ってるとか……キミは本当に高校生か?」

「ウソダドンドコドーン?!?!」

 

 さて、俺の運命はどっちだッ!? 後半へ続くッ!!

 

 

 

 

『あははっ! おにいちゃんたちって、本当におもしろ~い♪』

 

 

 

(次回へ続く)

 




どうも、うp主です。

今回、うぉいど作『ラブライブ!~少年を救う女神たちの詩~』から石田コウ君を召喚いたしました。

前後篇とわけさせてもらいました故、後日、後篇を投稿させてもらいます。


追伸

いやぁ~~~めっちゃたっのしぃぃぃぃ!!!!!(謎のハイテンション

更新速度は早い方が助かりますか?

  • ちょうどいい
  • もっと早くっ!
  • 遅くても問題ない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。