蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第131話





偽りの仮面

 

[ 特設会場・ステージ下観客スペース ]

 

 

 穂乃果ちゃんたちによるライブが終わりますと、割れんばかりの喝采が湧きあがってくるのでした! 私も、みなさんの歌を聞きまして、とっても熱くなる気分になったのです。

 それに……何と言いましょう、とても胸に響いてくるモノがあるように感じられました。 隣に立って、やさしく囁いてくれる――安心感のようなモノを感じるのです。

 

 穂乃果ちゃんたちは、蒼一さんに向けてその歌を歌ったのでしょう―――でも、その歌に込められた“誰かを想う”というのは、誰しもに共通するモノなのだと、私は思うのです。

 それが、この会場に集まった観客たちにも伝わったのだと思います。

 

 

 そして、蒼一さんにもきっと―――

 

 

 

 

 

 

「―――洋子、ちょいといいか?」

「はい、何でしょう?」

 

 

 明弘さんに声を掛けられたので、振り向いて聞いてみました。 すると、何か安心したような雰囲気で言ってくるのです。

 

 

「俺は少し、野暮用でここを離れる。 アイツらに何かあったら、後は頼むぜ」

「野暮用って……どこに行くつもりですか?」

「ちょっと、な」

 

 

 はにかむように口元を緩ませて、愛嬌のある笑みを浮かばせるので、私はそれ以上とやかく言うことはしませんでした。 この人にも考えがあるのでしょうと、私の中で納得させるのです。

 

 

「わかりました。 あとのことは任せてください」

「おっし! そいじゃあ、任せたぜ、洋子」

 

 

 やったぜ!と言わんがばかりに、白い歯を見せながら、彼は私の肩を叩いて人ごみの中にへと消えていくのでした。 明弘さんはいったいどこへ行くのでしょう? そう心配してしまうのですが……ですが、彼なら大丈夫な気がします。 無意味な行動なんてする人じゃありませんからね。 何か思い付いたのでしょう、信じましょう、明弘さんを―――

 

 

 何かが変わり始めようとする、そんな予感を感じながら、私は残りのライブに集中するのでした。

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

[ 特設スクリーン前 ]

 

 

 

「―――はぁ、ふっ―――あぁ、はっ―――はっ―――!!」

 

 

 口から漏れ出る息を空気が冷やす。 ただただ、荒々しい息だけが限りなく出ていくのだ。

 

 俺は走る――夜に沈むこの道を進んでいく。 が、今日の道は何とも騒がしかった。

 

 

 

 

 

 ウワアアァァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

 

 地響きでは、と勘違いしてしまうほどの大歓声――会場に集まった無数の観客たちによる叫びは、空気を震撼させ、夜空を突き抜けていく勢いがあった。 それ故なのか、空を仰ぎ見てみると、満天の夜空が一面に広がっている。 これらを遮る雲はひとつもなく、空から降ってくる神秘的なスポットライトが、彼女たちが立つステージを照らしているようにも思えるのだ。

 

 

 ここからじゃ、アイツらを見ることはできない……というより、もうステージを映すスクリーンすら、見ることの出来ない場所を駆けているのだ。

 迫りくる人の波、全身に響く絶叫の嵐、そして―――草原のように広がるサイリュウムの光。 観客たちがそれぞれ手にする多彩な色が、葉っぱのように揺れ動き輝きを放つ。 1つひとつが個性を持った動きを見せる一方で、すべてが揃って同じ動きを見せるなど、見てて圧倒させられてしまうモノがあった。

 彼らはずっと、ステージやスクリーンばかりを見ている……いや、見ることを強いられているとでも言うのか。 彼らの視線は、一ミリたりともそこから離すことはなかった。 現に、俺がそんな観客らの間を抜けていくが、俺がいることすら気にも留めてなかいようだ。

 

 それよりも大切なモノが、そこに映されているかのように思えたのだ。

 

 

 そんな観客らは口々にこう言うのだ―――

 

 

 

『RISERだ!! あのRISERたちだ!!』

『アポロ様とエオス様よ!! あの凛々しいお姿がまた見れるわ!!』

『あの躍動感!! 疾走感!! くぅ~堪んねぇなぁ……見てて清々しい気持ちになるぜ!!』

 

 

 若い男女の間から喝采が上がる。 女性からは黄色い声援が! 男性からは野太い声援が沸き起こるのだ!

 つい先程よりも、その大きさは倍となっているように感じてしまう。 その時、この場の空気が変わったことを肌身を持って感じさせられることとなる。

 

 

 

『――――~~~♪』

 

 

 

「……ん、これは……!」

 

 

 喝采の合間から聞こえてくるわずかなメロディー。 なのに、俺の耳にはよく響いて、しかも、奥の奥にまで入ってくるのだ。

 そして、思い出すんだ。 それが、俺たちの歌なんだと―――

 

 

 

 俺は足を止める。

 耳に入ってくる懐かしい音に、引き寄せられたかのようにだ。 そして、煌々と照りだすスクリーンに向かって、顔を仰ぎ見させた。

 

 

 

「……! あっ、あれは……!!」

 

 

 見上げた瞬間、俺は眼を見開いた! そこに映し出されていたモノに釘付けになったからだ。

 

 

「……懐かしい……ほんとうに、懐かしいな………」

 

 

 無意識にそう唇が動いてしまうその先に、俺の姿が――アポロとして立っていた自分がそこに映っていたのだ。

 

 

 あの姿は……確か、2回目の優勝を果たした時の……。 高校生になりたてで苦労したが、勝ち得ることが出来たあの優勝――連続優勝が掛かっていたことによる重圧と、のし上がってくる数々のグループに圧倒されそうになる不安……。 それらが一気に肩に圧し掛かってきていたことを今でも覚えている。

 そして、それらを跳ね退けて手にしたことも―――

 

 

 映像は次々と移り変わっていく―――――

 

 

 これまでカバーし続けた楽曲PV、大会に出場した時の数少ない映像、そして―――――

 

 

 

「―――最初の、映像―――」

 

 

 俺たちが――俺と明弘が最初に映像として記録し、それをネット上に広げたあの曲が流れ出た。

 まだ、この業界のことを全く知らなかった赤子のような俺たち。 そんな俺たちを後押しするように、映像に感化されて人々が集まってきては、応援してくれるようになった。 励ましのメッセージをもらった時なんかは、飛び跳ねるように喜んだこともあった。

 

 ただ純粋に、そう言ってくれる人がいて、嬉しかったんだ。

 

 支えてくれる人が出来て、そうしたファンと呼ばれる人たちから応援があったおかげで制作意欲が増した。 次はこの楽曲で、アレンジはこうやって、ダンスはオリジナリティも含めようとした。 どれもこれも自分らの趣向程度にしか感じなかったのだが、次第と、ファンのためにという気持ちにへと高まっていったのだ。

 

 あの時の気持ちは嘘だったのか……?

 

 いや、決してそうではない。 あの時感じたモノ1つひとつは、どれもかけがえの無いものばかり……偽りなのだとして捨て去ることなんざ出来やしなかった。

 それに……いま、目の前に広がっている光景こそ、何よりの証拠なのだ。

 

 

 

 

『RISER!!! RISER!!! RISER!!! RISER!!!』

 

 

 映像として流れる俺たちの過去の姿に、観客らは一糸乱れぬ声援を繰り返している。 サイリュウムを振り回し、腹いっぱいにため込んだ空気を吐き出すかのような声をあげる。

 

 

「過去の映像で、本人たちは聞いちゃいねぇってのに、どうして声援なんか送ってんだよ……。 お前たちの声なんざ届きやしないってのに、なんでそんなに声をあげるんだよ……。 応援し続けるんだよ………」

 

 

 無意識に、心の声としていた言葉が口から漏れ出ていた。 とても小さな声で、この絶叫の中じゃ、虫のさざめきにすらならない。 だが、そう言わざるを得ないくらいに、胸に込み上がってくるモノがあるんだ。 それが苦しくって、でも吐き出すことが出来なくって、もどかしい。 拳をギュッと握りしめながら顔をあげるのだった。

 

 

 

 スッ―――――――

 

 

「あっ―――――」

 

 

 頬に何かが走る感触を抱いた俺は、なぞるように手をかける。 すると、湿っぽくって生温かい、そんな感触が指先に付く。

 

 

 

「なみ、だ―――――」

 

 

 スッと頬を撫でるように伸びていたのは、涙――あつく、火傷しそうなほどに熱の籠ったそれは、頬に走りだす。 故に、指先に何度も押し寄せては、溶けて肌と同化しようとする。 これもまた、無意識の産物なのかもしれない。

 

 

 

「なにやってんだよ、俺は………」

 

 

 虚しい気持ちの中、それを言葉にすると、そのまま走り始めた。

 道行く人、立ち止まっている人、声援を送り続けている人など、そんな人々の間を風のように走り抜けていく。 過ぎ去る瞬間に、何事か?と驚いて振り向こうとしている人もいた。

 だが、そんな人たちに顔を見せる暇など無かった。

 

 俺は今、走らなくちゃいけいけないのだと、強いられているようだった。

 

 走り抜けていく中で、俺は涙を流しながら思い続けていた。 どうして、アイツらを疑ってたりしたのだろう……アイツらは、こんなにも俺のことを想ってくれていたと言うのに……。 それだけじゃない、ここに集まっている人たちが、待ってるんだ……俺のことを…俺たちのことを……!

 お前たちの声は決して届かないことはない。 ちゃんと、この俺の胸に響いていやがるんだぜ……。 みんなの声が俺の背中を押してくれる……支えてくれている……それだけで、俺は頑張っていけると自信を持てるんだ。

 

 

 さあ、返そう――――

 

 ここに集まっている人たちのために―――、俺のことを待ち続けている人たちのために―――、

 

 

 そして―――、

 

 

 

 俺のことを愛してくれた、俺の“女神たち”のために―――――!

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

 

 TLLLLLLLLLL――――

 

 

「ん、電話か?」

 

 

 懐に仕舞ったスマホが震え、雑音の中でも通った音が耳に入る。 すぐさま、取り出して画面を見つめると、よく知った名前が表示されていた。 やはりか、と思わんばかりにそう呟くと、通話を開始した。

 

 

 

「もしもし―――」

 

 

 雑音に撒かれた中でも聞こえるような声で話しだすと、向こうから陽気な返答がやってくる。

 

 

『よぉ~兄弟。 調子はどうだい?』

 

 

 にしし、と歯を見せて笑っているかのような口調で明弘は話だした。

 

 

「お前がこのタイミングに掛けてくるってことは、何か用があるってことなんだろう?」

『ご明察だぜぇ、兄弟。 やっぱ、勘だけは鈍っちゃぁにねぇようだ』

「戯言は言わなくてもいい、本筋は何だ?」

『そう急かすな……兄弟――いや、蒼一。 俺のとこに来い』

「……ほぉ……それは随分と急な話だ……」

 

 

 明弘のその言葉に、一瞬だけこめかみがピクッと動きだす。 明弘がそんなことを言いだすだなんて考えもしなかったからだ。 いや、わずかながらも予想はしていた。 が、そのわずかな方に動いていったことに衝撃が走ったのだ。

 この時点で、誰かと接触することを極力避けていた。 それは明弘も含めてだ。 ややイレギュラーはあったものの、今の心情からあまり話したくないという気持ちになっていたからだ。

 続けて明弘は言う―――

 

 

『蒼一に見てもらいたいもんがあるんだ。 いいか?』

「……その返答に、NOはなさそうなんだが……?」

『そうだな、もう選択肢はない。 蒼一、お前さんはもう逃げられないんだ、この運命(さだめ)からは……』

 

 

 言葉尻にまで力の籠ったのを聞くと、俺自身もここから逃げ出すことが出来なかった。 逃げてしまえば、一生後悔する、そう宣告されているようにも聞こえるからだ。

 

 

「……わかった。 で、場所は?」

 

 

 已むを得ないと腹をくくり、詳細を耳にするのだった――――

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ スクフェスメイン会場 ]

 

 

「……まさか、ここに来いとはな………」

 

 

 明弘に指示されたのは、大会2日目の最後に見学に訪れた場所だ。 それに――俺が倒れた場所でもある。

 

 そんな曰く付きとも言える場所に連れて来られたわけだが、アイツはどこに居るのだろうか?

 

 

 

「そんなことより、ここの会場は出入りが出来るのか? 利用するのは明日だって聞いてるし、扉だって開いてるわけが………って、開いてるのかよ……」

 

 

 会場の入り口の扉に手をかけると、普通に開いて中に入ることが出来るようだ。 これもアイツの考えなのか、それとも偶然か……? あまり考え続けたくもないのだが、俺はそのまま中に入っていくことに……。

 

 

 中は薄暗く、辛うじて目に入ってくるわずかな光が、道しるべとなって前に進むことが出来る。 この先に何が待っているのか……想像もつかなかった。

 

 

 一般通路を抜けて、ステージが見える広場に出ると、そこもまた薄暗く視界もよくない。 だが、さっきよりはよく見えるので、ステージまでの道のりは容易なモノだった。 段々ステージ近くにまで足を運ばせる。

 

 

 

 パンッ―――――!!!

 

 

 

「ッ?!!」

 

 

 すると突然、強烈なライトが照りつけられた! それがあまりにも眩しく、目がくらみそうになったので、手でその光を遮った。

 いったい、何が起こっているんだ……?! 訳も分からないまま、じっと照りつけられる光に目が慣れ始め出すと、少しずつ前が見え始める。 光によって霞められた真っ白な視界に色彩がよみがえってくる。 光だけしかなかった世界に実体が確立する。

 そして、やっと俺の前に“それ”が現れるのだった―――

 

 

 

「―――ッ!! こ、これはっ!!?」

 

 

 “それ”を見た瞬間、思わず息を呑んでしまった! まさか、こんなところに“それ”があるだなんて思いもしなかったからだ!

 

 どうしてだ……? いや、それよりも何故、こんな場所に置かれているんだ? しかも……あんなにボロボロだったのに、まるで見違えたかのようだ……!

 

 

 

 

 何故なら、“それ”は去年、俺が使っていたあの衣装だったからだ―――!!

 

 

 

 突然、湧き上がってくる興奮――抑えが利かず、ただただ、走り寄ってそれをこの手で触れてみたかった。 “それ”に触れると、その滑らかな肌触りと優雅な色彩に胸が高まった。 引き裂かれたはずの左袖は、元の状態に。 緩み解れてしまいそうだったボタンもしっかりと固定されている。 千切られた紫のネックは、傷があったとは思えないくらいに綺麗に整えられている。 引き裂かれたズボンだって、元の長さに戻っているんだ。

 

 黒のロングジャケット、黒紫のシャツ、黒ズボン、灰色のスカーフ、どれも新品同様、仕上げたての出来栄えだったのだ!

 

 

「どう、して……これが……! しかも、こんな……!」

 

 

 湧き上がってくる興奮が収まらない。 よもや、こんな姿をまた見ることが出来るだなんて思いもしなかったからだ!

 

 

 

「―――どうだ、いい出来栄えだろ?」

「―――ッ!?」

 

 

 それに集中し続けていた俺の背後から声が聞こえた。 ハッとなって、後ろを振り返ると、明弘の姿が―――! しかも、その来ている格好は――――

 

 

 

「何故、それを着ている――――?」

 

 

 俺のと同様、去年、あのステージで使う予定だったあの衣装だったからだ!

 

 

「何故、と言われてもな。 なんでか、これを着ろって言われたような気がしてな」

「……着て、どうするつもりだったんだ?」

「それはおめぇ…蒼一がよくわかってるんじゃねぇか」

「…………っ!!」

 

 

 その言葉に、胸を突かれるような気持ちにさせられた。 まるで、俺の心を読まれてしまったかのような、そんな感触を抱くのだった。

 俺が動揺しているのを見て、明弘はゆっくりと進んできた。 ゆっくりと、そして、確実に前に進み出て俺の前に立った。

 

 

「それ、気に入ったか?」

「……想像以上だ……触れたら解けてしまいそうなほど、脆かったはずなのに、どうしてか新品のように仕立てられているんだ。 気に入らないわけがないだろう……」

「ふふん、ソイツァよかったぜ。 それはな、ことりが直したんだぜ」

「ことりが?!」

「おうよ。 蒼一がぶっ倒れた後に、アイツらが家に来ただろ? 多分、その時に衣装を持ちだしたんだろう。 そんで、ことりが一生懸命になって直してくれたってわけだ」

「そんな、ことが……!」

「それと、アイツらからのメッセージがその服に書いてあるそうだとよ」

「この中に……?」

 

 

 不思議に感じながら、俺はジャケットを手に取ると内側を見た。

 

 

「………ッ?!! こ、これは……!!!」

 

 

 それを見た瞬間、言葉に出来ないほどの衝撃に見舞われたのだった!!

 内側を見てみると、そこには9色の糸で刺しゅうされた言葉が書かれていたんだ! 綺麗な文字、丁寧な文字、たどたどしい文字、不器用に見えてしまいそうな文字と、それぞれに個性が現れるような文字がそこにあったのだ!

 縫われたそのどれもが、俺を応援するような言葉ばかりで、読み進めていくうちに目頭が熱くなってくるんだ……! これが、アイツらからのメッセージなのだと思うと、止まらなくなってしまうのだ……!

 

 俺は、そのジャケットを近付け、頬ずりさせてしまう――それくらい、俺は感動していたのだ!

 

 

 

 

 

「兄弟―――」

 

 

 凛とした声で、問いかけられる―――

 

 

「―――さあ、これから何をするんだ?」

 

 

 とても完結的で、分かりやすい言葉だ。 それに対して発する言葉は、ただ1つだけだった――――

 

 

 

「―――決まってるじゃないか……俺たちのことを待ってくれている人、俺たちのために歌ってくれている人、俺たちのために思ってくれている人……みんなみんなに、届けるんだ……! 俺たちの、俺たちのやり方で!!!」

「ふはっ! それでこそ、兄弟だ!!」

 

 

 白い歯を魅せつけるように笑いながらも、満足そうに大きく頷いていた。 まるで、それを待ち望んでいたかのように――いや、明弘はずっと待ち続けていたのかもしれない……俺が、この活動を止めた時からずっと待っていたんだ。

 μ’sのために支えていこうとした時や、あの学園祭の時だって、アイツは俺に囁きかけていた。 それを分かってはいた。 が、実際、それが行われることなんてなかった。 いつも中途半端に終わってしまっていた……

 

 

 だが、それも今日でおさらばだ―――

 本当に変わらなくちゃならない、そんな時が来てしまったんだから―――。

 

 腹をくくれ、宗方蒼一!

 お前が抱いてきた幻想をブチ壊してやれ! 与えられたチャンスをモノにするんだ!!

 後悔なんざ、二の次だ。 いまはただ、思いっきり叫びたいんだ!!

 

 

 

 バッ――――!!

 

 

 俺は、着ていた服を脱ぎ捨て始める。 上のシャツから放り投げるようにすると、その上に、シャツを腕に通した。 ズボンもまた、ベルトを緩ませ下着一枚になってから、その衣装に身を包ませた。

 誰かが見ているのかもしれない……だからどうした? そんなの俺には関係ない。 目の前にあるモノを手に入れるために、己の羞恥なんざ露見させても何にも痛くも痒くもない。

 

 一番怖いのは――チャンスを逃すことだ!

 

 スカーフを首に巻き付け、ロングジャケットに袖を通した。 バサッと気持ちのいい音を立てて、するすると腕に絡みつきだす。 袖が気持ちよく腕にハマったことに気分が高まりつつあった。 漆黒に覆われた衣装に、星のような金色の金具。 夜の星座を思い起こさせるような美しさとカッコよさが、これのトレンドマークだ。

 そして肩には、俺たちRISERを表すロゴもまた、煌びやかに見せつけているようだった。

 

 

「フッ、やっぱ、そうでなくっちゃな。 よく似合ってやがるぜ!」

「そうか。 なんだろうな、久しぶりに通したはずなのに、まるで昨日のようにも感じられる……不思議な感覚だ」

「それはアレだ、蒼一はもうひとりじゃねぇってことさ。 この服にゃぁ、蒼一が大事にしているモンがたくさん詰まっていやがるんだ。 実体が無くたって、気持ちで蒼一と一緒にいるんだよ」

「そう、か……あぁ、そうかもしれないな……俺はもう、自分を抑え込む必要はないんだな……」

「ああ、おめぇはおめぇのやりたいようにやりゃあいいんだ。 だから、とっととその殻をウチ壊しちまえよ!」

「あぁ……ああ、そうだな。 もう、閉じこもるのはやめよう……」

 

 

 グッと拳に力を込めると、強い決意を持ち始める。 もう、受け身になるのはやめよう……今度は、こっちから仕掛けていく番だ。 弱気な自分とは、今日限りでおさらばだ……そして、俺は―――――

 

 

 

 

「兄弟!!」

「!!」

 

 

 明弘が俺に向かって何かを投げ出した! 瞬時に反応した俺は、空中で回転して迫ってくるモノをうまく受け止めた!

 

 

「これは……!!」

「それがなけりゃあ、始まんねぇだろ。 なぁ――アポロ?」

 

 

 掴んだ手の平には、あの仮面が――額から頬に掛けてを覆い隠す仮面があったのだ!

 

 

 

 ドクン―――――

 

 

 心の臓がうごめいた。 ついこの間、拒絶反応を示したばかりのそれに、恐怖を抱いたからだ―――だが、それはもう過去の話、今ではない。 もう、迷うことなど何も無いんだ。 恐れることも何一つない。

 だから、俺は………!

 

 

 

 

 

 自らを、()()()()―――

 

 

 

 

 

 いまは、宗方蒼一ではなく―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 RISERのアポロとして―――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

〈ジジジ……ザ…………ザザ―――――――――――ザッザッ!!!〉

 

 

 

(次回へ続く)




ドウモ、うp主です。

さあ、次回はかなり長くなる予定です。
一体何が始まるんです?


……第三次世界大戦だ!


では次回!

今回の曲は
Suara/『天かける星』

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