蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第128話


想いよひとつになれ

 

『ありがとうございました!!!』

 

 

 

 お客さんからの大きな声援を受けて、ステージ上に立った3人組のグループが帰ってきた。 この人たちのことは、大会初日のオープニングライブで顔を合わせたことがあった。 とても真面目で、しっかりしてて、まるで海未ちゃんみたいなグループだったって覚えてる。 表情をあまり変えることが無くって、A-RISEとはまた違ったカッコよさがあるって、あの時は思っていた。

 

 でもね、あの人たちは今、満面の笑みでお客さんに手を振ってるの! 何かから解放されたみたいに、とってもいい笑顔を見せてくれているの!

 その姿を見てね、穂乃果は少し感動しちゃったの。 あんなに嬉しそうに歌って、踊るのってよっぽどのことが無くっちゃできないって穂乃果は知ってるよ。 だから、あの人たちがこうして笑えているのは、“憧れの人”に向けて思いを伝えることが出来たからなんだって、穂乃果は思うの。

 

 これまで、ツバサさんたちを含めて数組のライブが行われた。 そのどれもが、とても満足しきった姿だったり、やりきったと言う表情を見せていた。 みんながみんな違った思いを抱いているけれど、向いてる方向は同じなんだって伝わってくるの。

 それで穂乃果は思うの――みんな、蒼君たちのことが大好きなんだなぁ……ってね。

 

 

 

 だけどね、穂乃果の方が誰よりも蒼君のことが大好き――ううん、愛してるって言えるよ! これだけは誰にも譲りたくないし、比べられたくもないの。 ただ純粋に、蒼君のことを愛しているの!

……でも、まだちゃんと伝えきれてない……穂乃果のこのありったけの気持ちを全部伝えきれてないの。 だからかな? ここで歌う曲に穂乃果の想いを乗せて届けたいって思うのは……でもこれが、今の穂乃果のできる最大限の気持ちが籠った贈り物なんだよ。

 

 絶対に歌い切りたい……蒼君の心に響くような歌にしたいって、強く思ったんだ。

 

 

 

 

「穂乃果」

「穂乃果ちゃん」

 

 

 海未ちゃんとことりちゃんが穂乃果の近くにやってくると、私の空いた両手に2人の手が握られたの。 それはとってもあったかくって、汗で湿ってて、震えていた……。

 

 

「いよいよだね、海未ちゃん、ことりちゃん」

「はい。 この想いを届けましょう」

「私たちならきっとできるよね、いつだってそうだったんだもん」

「うん、そうだね」

 

 

 ぎこちない喋り方で、聞きとり難いような声だったけど、2人の表情を真剣そのものだった。

 

―――そっか、2人も同じだったんだね

 

 その表情から海未ちゃんとことりちゃんが、穂乃果と同じで蒼君のことを愛しているって、誰にも負けないくらい愛しているんだって伝わってくるの。 うん、わかるよ……私だけじゃないもんね……。

 

 ふと、私の中で何かが動いた気がしたの。 そしたら、それが大きくなってて、口に出していた―――

 

 

「穂乃果ね、ちょっと勘違いしてたことがあるんだ―――」

「穂乃果?」

 

 

 隣にいた海未ちゃんが、どうしたんだろうって顔で私を見た。 それだけじゃなくってね、他のみんなも私を見つめだしたんだ。

 

 

「―――穂乃果は、ずっと蒼君と一緒にいて、何でも知ってるモノだって思っていたの。 でも、今回のことで改めて分かったんだ、穂乃果は蒼君のことを知らなさ過ぎてたんだって……。 本当は知っていた…ううん、知っていたのに知らない振りばかりしていたんだと思う。 穂乃果にとって必要の無いことは全部切り捨てちゃって、穂乃果の見たいモノだけを見ていた。

 でもね、今回のことも含めてね、改めて気付かされたんだ。 蒼君のいいところ、悪いところ、隠したがっていること全部が蒼君なんだって――それを受け止めてあげることが、穂乃果に必要なことだったんだって、ようやく気付けた。 だから、私は伝えたいの――この歌を通して、穂乃果の気持ちを全力でぶつけたい……! どんな結果になろうと関係ない、穂乃果の全部を知ってもらうために歌いたい!

 

 それが、いま穂乃果のにできる全力なの――――」

 

 

 言葉を口にする度に、身体に力が籠ってくる。 自分でも抑えが利かなくって、暴走しちゃってるんじゃないかって思っちゃってるところがある。

 

 でも、そんな穂乃果のことをみんなは穏やかな表情で受け入れていた。 海未ちゃんとことりちゃんなんて、勢い余って握っていた手をギュッて力を込めちゃったのに、返事をするみたいにギュッて握り返してくれたの。

 2人ともとってもいい笑顔だった。 穂乃果のことを受け止めてくれているんだって、そんな表情を見せていたの。 それが嬉しくって、心の中で、ありがとうって呟いてた。

 

 

 

「穂乃果の気持ち、わかるわ」

「――――! 真姫ちゃん!」

 

 

 スッと撫でられるようなやさしい声で、真姫ちゃんは私に言ってきた。

 

 

「私もね、ついこの間まで蒼一がRISERの1人だなんて信じられなかったわ。 あんなに長く一緒にいたって言うのに、それすらも分かることが出来なかった自分が嫌だった。 私が一番、蒼一のことを分かっているつもりだって自負していたわ。

 なのに……急にあんなことを言われて、困惑しちゃったの。 認めたくなかった……それまで私が見てきたモノが全部間違いだったようにも思えていたからなのよ。

 でも、みんなでこの楽曲を作ってて思い出したの。 蒼一は、私たちを受け止めてくれた……どんな姿になってたとしても、あの大きな腕の中に抱かれて私たちを受け止めてくれた。 だから私も、蒼一のあるがままの姿を受け止めたい、そう思ってるの」

 

 

 ゆっくりと1つひとつの言葉を丁寧に語る真姫ちゃんは、とっても穏やかな姿でした。 何かを抱きしめるようなやさしさを見たように感じたんだ。

 それに、あの時どうして真姫ちゃんがあんなに認めようとしなかったか。 やっぱり、穂乃果の思ってた通りだったんだ。 同じ思いで悩んで苦しかったからそう言えるんだ。 そんな真姫ちゃんの気持ちを知って安心した。

 

 

 

「せやね。 ウチも穂乃果ちゃんと真姫ちゃんと同じで、蒼一にウチの本当の気持ちを伝えたいんや」

「姿が見えなくてもすぐ傍にいてくれる。 そんな蒼一にぃに教えてあげたいの……」

「いつまでも頼ってばかりじゃダメね、今度は私が支えてあげるのよ」

「最高の愛情をにこがたっぷりあげるんだから♪」

「凛たちが出来ることを精一杯やるんだにゃ!」

「みんな想いは一緒なんですよ」

「だから、みんなで力を合わせよ! 穂乃果ちゃん、真姫ちゃん!」

「「!!」」

 

 

 ことりちゃんは、私の手をキュッと包み込むように握り変えると、私の方を向いて、えへへ♪って笑っていた。 そして、もう一方の手を真姫ちゃんの方に向けたの。 それを見た真姫ちゃんは、ちょっとだけきょとんとした顔をしたけど、ことりちゃんがやろうとしていることが分かると、その手を握りだした。 それに倣うように、みんなもお互いの手を繋ぎあわせて、ひとつの輪を作った。

 

 こうやって輪になると、みんなの顔がよく見えるよ。 みんな――とってもいい顔をしているよね! それを見たら穂乃果も思わず頬が緩んできちゃう。 ふふっ、なんだか楽しいね♪

 

 

 

「なんか、不思議だね」

「ん、どうしたの穂乃果?」

「あのね、こうしてみんなの手を繋いでたらみんなの顔が見えて嬉しくなるし、この手を伝って、みんなの胸の音が聞こえてくるの」

「胸の音……?……ホントだわ、何か聞こえてくる……これは……穂乃果の音かしら?」

「う~ん……この音はことりちゃんかな? トクン、トクンって、かわいい音がするんだもん♪」

「えへへ♪ そう言ってもらえると嬉しいな♪ じゃあ、ことりが聞いているのは……花陽ちゃんかな?」

「ふぇっ?! そ、そんな……! わ、私のは恥ずかしいですよぉ……」

「凛も知ってるよ! かよちんの胸の音って、とってもあったかいんだにゃぁ~♪」

「真姫ちゃんのは、とってもリズミカルに聞こえるにこ♪ さすが、μ’sの作曲担当ね♪」

「フフッ、ありがとね、にこちゃん。 それじゃあ、この不思議な感じは……希?」

「へぇー、ウチってそんな音がするんや。 初めて知ったかもしれんなぁ♪」

 

 

 お互いの胸の音を聞いて、楽しく笑い合う―――そうだよね、私たちって、いつもこうやって笑顔になりながらステージに立っていたんだよね。 お客さんたちも、私たちも、みんなが笑顔になれる、そんなステージを作り上げてきたんだ! そして、そこにはいつも蒼君の姿があった――――

 

 

 

「なぁ、こんなん知っとる? 手を繋いでみんなの胸の音が聞こえるんは――みんな同じ気持ちになってるって話?」

「みんなと同じ? どういうことなの、希ちゃん?」

「あんなぁ、他の人の音が聞こえるっちゅうのはな、自分の気持ちと共鳴しあっとるちゅうことなんよ。 せやから、いま穂乃果ちゃんがことりちゃんの音が聞こえるって言うとったけど、それはことりちゃんも穂乃果ちゃんと同じ気持ちになっとるっちゅうことなんやで!」

「そ、そうなんだぁ……! じゃあ、さっきみんなが言ってた蒼君への気持ちが一緒ってこと!?」

「そういうことなんやろうね♪ みんな、同じ音を立てとる。 ホンマに、エエ音やで」

 

 

 にっこりと微笑む希ちゃんは、嬉しそうにしながらそっと目を瞑りだした。

 みんなの音を聞いてるのかな? そう考えると、穂乃果も試したくなって目を瞑ったの。 そしたらね、いろんな音が聞こえてきたの――音の強さが違ってたり、色が付いていたり、みんなそれぞれ違った音を出していた。 それでね、クッと胸に込み上がるものが来るの――やさしい気持ちが!

 鳴らしている音はみんな違うけど、どんな思いで鳴らしているのかが分かったような気がするの。 それぞれに想いがあって、その想いからそれぞれの音を出している……なんだか、それがおもしろくって、何とも言えない気持ちになる。 それでね、みんなが想ってること――――蒼君のことが大好きなんだって伝わってくる。

 

 みんな一緒、みんな同じことを想ってる! この想いを……今すぐにでも伝えたかった……!

 

 

 

 

『μ’sのみなさん、お願いします!』

 

 

 スタッフの声が聞こえてきて、ようやく私たちの番が来たんだ! この1つになった気持ちを伝えたい……それが、今の穂乃果の願いだ。

 

 

 

「よし! みんな、アレやるよ!」

 

 

 ちょうどみんなで輪になっていたから、ライブ前にいつもやってる円陣を組むのに時間はかからなかった。 みんなの手が輪の中央に集まって重なり合った。 みんなの手の温もりがジンジンと伝わってくる―――穂乃果の熱もみんなに伝わっているかなぁ?

 

 ううん、きっと伝わってる。 だって―――私たちは1つなんだから!!

 

 

 

「――――ミューズ!!!!」

 

 

『ミュージック―――スタート――――!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

ワアァァァァァァァァァァ――――――!!!

 

 

 

 観客の歓声が天高く昇る――――

 

 ステージ上で華々しく歌を奏、颯爽とダンスを踊り続ける彼女たちへと向けられる、最高の栄誉が逐一送られ続けていた。 彼女たちもそれに応えるように、ステージ上にてその精度を高めていき、結果的に曲の始まりとその最後とではその違いが歴然とするほどだった。

 つい先日まで見ていた彼女たちのステージとはまったく違う。 このステージだからこそ魅せられる彼女たちの姿がそこにあったのだ。 こんなにも活き活きとした様子を見たのは初めてかもしれないほどに、だ。

 

 

 彼女たちが歌う中には、俺の作った曲もちらほら聴こえてくる。 創作と言っても、ほとんど、大会用にしか作っていない曲ばかりで数も限りなく少ない。 そんなわずかな曲の中から彼女たちのチョイスによって、ここで披露されていた。

 俺の曲がこう言う風に歌われていることに、少しむず痒さを感じてしまうが、決して悪いものじゃなかった。 俺が今までカバーアレンジさせてもらった数々の楽曲たちも、原作者たちからしてみれば、このような気持ちになったのだろうと目元を緩ませていた。

 

 

「悪くない……悪くないぞ………」

 

 

 彼女たちは彼女たちなりに、俺の楽曲に一味、二味とスパイスを加えて仕上げてきている。 俺からしたら、まだまだだなと言ってしまうテイストなのだが、不思議と胸が高まりを起こし始める。

 あつい……照りつける日差しのように……燃え盛る炎のように、身体が滾り始めてくる……! この気持ちこそ、彼女たちが魅せるモノだとしたら……? そう思いつつ、大きく光り輝くスクリーンに目を釘付けにさせるのだった。

 

 

 

 

「―――こんなところで何をしているのかしら?」

「!!」

 

 

 背中から不意に声を掛けられたので、思わず反転させて見てしまった。 暗がりの中にジッと目を凝らさせると、ゆっくりとこちらに近付いてくる人影を見た。 しかも、その声にも聞き覚えがあり、まさかという気持ちを抱くのだった。

 

 

 

 

「―――ツバサ!?」

「ハァーイ、こんばんは、宗方蒼一さん」

 

 

 暗がりの中からするりと抜けだすように明り照らす場所に顔を出すと、その姿がハッキリと視認することが出来る。 綺羅ツバサ――A-RISEのリーダーがどうしてここにいるのだろうかと、疑問を打った。

 

 

「どうしてこんなところに? キミはあのステージに立っていたばかりだと言うのに―――?」

「ふふっ、そんなに驚かないでよ。 私はただ抜けて出てきただけよ。 あぁ、あんじゅたちにはちゃんと言ってるから心配しないで」

「心配しないでって……そういうことじゃなくてだな……はぁ……」

 

 

 俺が思ってるのはそういうことじゃない、と言おうとしたが、自信満々にキッパリと言い放った様子に何も言うことはなかった。 というより、何を言っても逆にあしらわれそうな気がしてならなかったのだ。 ならば、俺は何も言わずにただ事の成り行きを見届けるほかないのだと悟ったのだ。

 

 

「へぇ~、モニターだとこう言う感じに見えるんだ。 全体を見渡せるってわけじゃなさそうだけど、案外悪くないかもね」

 

 

 彼女は俺の横に立つと、手摺りに手を掛け、そこから周りを展望している様子だった。 呑気にはしゃぎ過ぎている様子を見ているだけじゃ、ただ暇を弄びに来たようにしか見えず、その真意が見出せなかった。

 やはり、掴みどころが見えないヤツなのだと、あらためて思い知らされることとなる。

 

 

 そんな時だ。

 

 

「ねぇ――――」

 

 

 ツバサは身体を回し、俺と対面するかのように顔をジッと見つめだしたのだ。 しかも、さっきまではしゃいでいた様子がひとかけらも見られず、真剣な眼差しを持って臨むのだった。

 ビビッと、反射的に感じた彼女の様子に、こちらも背筋を伸ばさざるを得なかった。 彼女が一体何を口にするのだろうかと、身構えるほどに―――

 

 

「―――どうした?」

 

 

 平然を装いつつ、彼女に声を掛ける。 不意に何か言われるよりか、こちらから聞いた方が少しばかりか気持ちが楽になる。

 しかし、彼女はそれを待っていたかのように、前のめりとなって話しかけてきたのだ。

 

 

「どうして、彼女たちのところに行かないのかしら?」

「そ、それは………」

 

 

――よりによって、痛いところを……

 

 彼女の真っ直ぐに伸びた声が、俺の頭にガツンと叩いたような感覚だった。 もしかしたらあるだろうな…、と心の片隅でわずかながらに抱いていたモノの、いざ指摘されると出る言葉も出ない。 動揺を隠すことは困難だった。

 

 俺は、彼女から逃れるように顔を明るみの方へと逸らした。 燃えるような眼差しに焼きつくされるような思いをしてしまうからだ。 それに、彼女にはあまり知られなくないと言う部分もあったからだ。

 

 

 

「その様子だと、彼女たちと何かあったのかしら?」

「……まあ、大体そんなものだ………」

「そう……なら深くは聞かないわ……」

 

 

 そう、彼女はひとつ呼吸を置くように、話に区切りを付けた。 そのせいだろうか、それから少し、シン…と静かになりだすのだった。 ツバサには申し訳ないが、これはキミにも話すことのできないことなんだ……。 これは、俺自身で決着を付けなければならないんだ。

 そうやって、自分の中での決めつけをしていたのだ。

 

 

 

「――でもね、そんなの早く終わらせちゃいなさいよ」

「えっ?」

 

 

 不意に、彼女から声をかけられたので、身震いしてしまうほど驚いてしまう。 それに、催促を掛けられるようにも捉えられる言葉に目を見開いてしまうのだった。

 

 彼女は言葉を繋げる―――

 

 

「昨日と今日と、私はアナタのμ’sに会わせてもらったわ。 とても魅力的な子たち……少し羨ましいと思ってしまうほどにね」

「……それは褒め言葉として捉えてもいいのかな?」

「捉え方は自由よ。 けど、そんなあの子たちは悲しそうだったわよ……。 心に余裕が無いと言うか、何かがすっぽりと抜けてしまったかのような感じにね」

「……………。」

 

 

 ツバサは腕を組みながら冷静な口取りで話した。 ツバサがすでに穂乃果たちと接触していたことに些かの疑問があったモノの、それよりも何も、彼女の口からそんな言葉が口にされるだなんて思いもしなかったのだ。

 

 アイツらから何かが抜けた――言うまでもなく、それは俺のことなんだろう……。 俺の身勝手でアイツらを突っぱねて、困らせてしまった。 それが、彼女たちに悪影響を及ぼすようなことになってしまっていると考えたら、申し訳なく感じる。

 だが俺は……アイツらに―――

 

 

 

 

 

「――今の彼女たちには、アナタが必要なのよ、宗方蒼一!」

「!!」

 

 

 水のように透き通る声が俺の脳内に直接飛び込んできたみたいだ! それも合わせての衝撃的な声に驚きを隠せないでいた。

 けど俺は、光さす彼女の声に卑屈を織り交ぜた言葉でしか返そうとしなかった。

 

 

「ははっ、それは何か買い被りすぎだ。 俺はそんな人間じゃねぇし、そもそも俺のことを必要なんだと思うだなんて、それこそ買い被りもいいとこだ。 俺がいなくたって、アイツらはやっていけるはずだ……」

 

 

 沈むような表情をしているのだろうな、自然と視線が下に向きだしていた。 彼女たちから距離を置いてからはそうしたマイナスなイメージしか脳内を過らない。 何かあろうとすると、いつも過去のトラウマが邪魔をしていいように繋がってくれやしない。 我ながら飽き飽きしてしまうほどに……そう視線を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしなさいよ! そんなのアナタの勝手な思い込みじゃないのよ!」

 

 

 不意に、雷鳴が轟くような声で、彼女は俺に怒号を浴びせた。 それこそ本当に驚かされることで、一瞬、身体をのけ反らせてしまいそうになるくらいだった。

 

 

「あの子たちはずっとアナタが来ることを待っているわ。 今この瞬間だって、歌う直前になってもアナタのことを考えているはずよ? それでも、アナタは言い逃れるつもり?」

「いや、俺は………」

 

 

 言い返そうと、口を開くのだが、返す言葉が見つからない。 何を取っても俺の我儘なのだから仕方ないのだ。 正論をぶつけるツバサと太刀打ちできないことを悟ってしまう。

また、口を噤んでしまう―――

 

 

 続けて彼女はこう言った―――

 

 

「あの子たちはね、アナタが思ってるほど軟じゃないわよ。 あの中の1人が、私に向かって噛みつくように言い寄ってくるほどにね。 あの子たちの芯は強い――でも、決して完全なわけじゃない。 アナタがいることであの子たちは完全になっていたと私は思ってるわ」

「それは………」

 

 

 ツバサの言葉を受けて、脳裏に過るものがあった。

 あの一件以降、アイツらは確かに精神的に強くなったと思っている。 仲間との連携だったり、協調だと言った面では以前と比べても強固なモノだと見ている―――俺が見ている限りでは。

 だが、実際、俺がいないところでアイツらはどんな表情をしているのか分からない。 そもそも、俺自身、アイツらのすべてを知り尽くしたわけじゃない。 本心と呼べるモノに触れてはいるが、それも全体の一部に過ぎないのかもしれない。

 

 それじゃあ、アイツらは今、どんな気持ちでいるのだろうか―――?

 それを考えさせるのが、昨日の穂乃果のあの表情だ。 俺を見つめていた時、安心したように穏やかな表情をしていた一方で、寂しそうな素顔を垣間見てしまっていた。 あの時の穂乃果はどこか寂しそうにしていた。 それに、それを見せまいと微笑んで見せていたのもよく覚えている。

 それに、穂乃果に抱きしめられた時に感じた、安心感―――俺という存在すべてを包み込んでくれるような温もりが身体中から出ているようにも思えた。 あの時に感じたものが、アイツらの気持ちなんだとしたら……俺に出来ることって、いったい………。

 

 

 突き付けられた難問に、こめかみを押さえ付けながら悩み続けていると、ツバサがゆっくりと口元を緩ませて言うのだった――――

 

 

 

「信じなさい――アナタのことを信じる、あの子たちのことを―――」

 

 

 やさしげに囁くその声に、ストンと落ちるような安心感を抱き始めたその時、巨大スクリーンに9つの彩りが煌めきだすのだった―――――

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

 ウワアァァァァァァァァ――――!!!!

 

 

 海の波のように叩きつけられるような歓声を浴びながら、穂乃果たちはステージに立った。

 

 お客さんたちの歓声がじんじんと身体中に響いてくる――!

 ツバサさんたち、たくさんのスクールアイドルたちのみんなが創り上げてくれたこのステージ――ここに立っただけで、もう胸がいっぱいになりそうだよ! それに、ステージから見る景色が、こんなにも光り輝いていただなんて知らなかった……。

 

 まるで、星空みたい――――

 

 蒼君は、いつもこんな景色を見ていたのかなぁ……? どんな気持ちで立っていたのかなぁ……? 少しずつだけども、その気持ちに辿り着きそうな、そんな気持ちになるんだ。

 

 

 

「穂乃果、お願いするわね――」

 

 

 そう言われて、絵里ちゃんからマイクを手渡される。 手渡される瞬間、えっ!?穂乃果がやるの?!って、とっても驚いちゃったんだけど、みんなのあたたかな視線が伝わってくると、うん、頑張るよ!って切り替えることが出来た。

 

 

 何を話そうかな……?

 

 マイクを口元に近付けるそのわずかな間、穂乃果はいろいろんことを考えていた。 穂乃果たちがどんな気持ちでこのステージに立っているのか、どんな歌を歌うのか、誰にどんなことを伝えたいのか……ホントにいろいろ考えちゃってた。

でも、伝えることは1つなんだって、決めていた。 うん、やっぱり穂乃果は――――

 

 

 

『みなさん! 私たちは、音ノ木坂学院高校スクールアイドル研究部のμ’sです!

 

 この度は、この素晴らしいステージに立たせてもらい、とっても感謝しています!! 私たちは、廃校の危機にある学校を救うために活動をしてきました。 まだ、その目標には到達していませんが、確実に、一歩一歩前に進んでいるんだって実感しています。 この会場にいるファン、各地にいる多くのファンたちの支えによって、無名だった私たちがこの場にいられると言うのが何よりの証拠です!

 

 私たちがスクールアイドルとしてやっていけた中で、RISERの存在はありました。 私は、あの人たちのダンスに、歌に、その姿に感動しました。 いつしか、あんな風になってみたいとさえ考えるようになるくらいでした。 私たちμ’sを支えてくれている2人の講師も私たちのことを全力で支えてくれました。 まだ、活動を始めて3カ月くらいしか経っていませんが、この短い期間の中でたくさんの感動と涙がありました。 でも、そんな時にも彼らの存在が私たちの励みとなっていました。

 頑張ろう…もう少しだけ頑張ろうって、いつも前向きに考えられるようになれたのは、彼らのおかげなんです………。 だから今回は、RISERのために、新曲を披露したいと思います。 言葉では伝えきれない想い……それをこの歌に込めて歌います――――』

 

 

 一旦、マイクを遠ざけると、真姫ちゃんに合図を送る。 それを見た真姫ちゃんは、横に並んでいた私たちの列から離れて、設置されたピアノに向かってそのイスに座ったの。 状態を確認して、問題ないってことを穂乃果に伝えてくると、相槌で返した。

 

 それでもう一度、マイクを近付けて言いました―――

 

 

 

『聞いて下さい―――――

 

 

 

 

 

―――もうひとりじゃないよ―――』

 

 

 

 

 囁きかけるようなピアノのメロディーが、会場中に溶け込み始めた――――

 

 

 

 

(次回へ続く)




どうも、うp主です。

最近、じわじわと体調が悪くなってきたのですが、これは……?
先週から体のだるさが酷くなっているので、かなりマズイと感じている次第です。

そんなこんなで、今回の話。
ここでようやく、穂乃果たちが歌う曲が出ました!
原曲は、穂乃果オンリーとなりましたが、この作品では違います。μ'sが歌うんです。これが重要であるというのは、次回彼女たちの想いから読み取ってください。

次回もよろしくお願いします。

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