第125話
「蒼君のために……ライブがしたいの……!」
ハッキリとした言葉として、穂乃果は強く言った。
これを聞いたみんなは、当然、ぽかんとした表情をして私を見ていた。 当たり前だもんね、こんな突拍子もないことを聞いたら、多分穂乃果だって同じような顔をしちゃったかもしれない。
すると、顔を引き摺らしていたにこちゃんが、私に言ってきた。
「……ちょっと待ちなさいよ……穂乃果、いま何て言ったのかしら……?」
「蒼君のために、ライブをしようって言ったんだよ、にこちゃん!」
「~~~っ! アンタ、ばっかじゃないの?! なんでこんな時にライブなんかしなくちゃいけないのよ!?」
「にこの言う通りですよ、穂乃果。 今はそれどころの問題ではないはずです。 ふざけてないで、もっと真剣に考えて―――」
「穂乃果だって真剣だよっ!!!」
「「!!!」」
「穂乃果だって……いろいろ考えたんだよ……! でも……どれが正解だなんて分かりっこないよ。 穂乃果は蒼君じゃないから、蒼君が求めているモノが何なのかなんて分かりっこないんだから!
でもね、もし、蒼君が穂乃果たちのことを良く思ってないのなら伝えてあげなくっちゃ。 歌は自分たちの心を表現したモノ、心の声で歌うんだって蒼君は言ってた。 だから、穂乃果たちの想いを歌に乗せて聞かせてあげたいの! 蒼君から教えてもらったことも全部まとめて、ライブと言う形で伝えたいんだよ!!」
自然と言葉が口から出ていた。
最後まで口を動かした後、ハッとなって我に返ったの。 そこでようやく私が無意識に、何も考えずにただひたすらと身体の中から出てくる言葉を大きく叫んでたことに気付いた。
みんなびっくりした顔で穂乃果のことを見てるけど、私自身もかなりびっくりしてる。 さっきので声が少しかすれちゃって、まさか、こんなに強く言うとは思わなかったんだもん。
でも、不思議とすっきりとした気分になっていた。 私の思っていたこと全部が口から出て行ったからなんだろう、喉のところで引っかかっていたモノがとれたような気分だった。
しーんと静まりかえった空間。
その静けさを次の一言が打ち破った。
「穂乃果の意見……私は賛成よ」
「……真姫ちゃん!」
髪を人さし指に絡ませて、澄ました様子で言ってきたの。
「と言うより、今の蒼一に何かを伝えるとなるととっても難しいと思うの。 私たちはこれまで何度も語りかけてきたのに今があるってなると、簡単じゃないことは明確よ。 それに、穂乃果の歌に想いを乗せるって言うのは、作る側からしたら当然なことで、とても嬉しいことよ。 感情の無い音楽なんて音楽とは呼べない。 音楽は正直よ、ただ言葉で伝えるよりもずっとね……」
「真姫ちゃん……!」
髪を弄りながら喋る真姫ちゃんは、少し得意気な感じで話した。 それに、なんだかとっても嬉しそうだった。 やっぱり、音楽を作る人の側だからなのかな、穂乃果の知らない場所で理解ある者としての言葉を話していた。
難しいことはわからない。 でも、真姫ちゃんの言いたいことが穂乃果の
「ウチもそんな気がする。 これはカードが言うんやなくって、ウチの勘。 そうした方がエエって、ウチの心の扉を叩いて言って来よるんよ。 せやから、ウチも穂乃果ちゃんを指示するで」
「希ちゃん……!」
「ライブは……みんなを元気にしてくれます……! 音楽が心を揺らして、ダンスが心を弾ませてくれるんです。 ダンスをしなくても、だた見てるだけで十分。 その人の気持ちって、とっても伝わってくるんだよ。 ね、穂乃果ちゃん!」
「花陽ちゃん……!」
「穂乃果ちゃん! 穂乃果ちゃんがやるっていうなら、ことりもやるよ! 活動を始めようと言ったのも穂乃果ちゃん、蒼くんたちと一緒にやろうって言ったのも穂乃果ちゃんなんだもん。 絶対、うまくいくって信じてる!」
「ことりちゃん……!」
ことりちゃんたちが応援してくれている! 他のみんなも頷く様子を見せて、穂乃果の意見に賛成してくれているみたいだ!
よし、これなら……! と、気持ちに余裕と勢いが増してきたと感じたら、この想いをそのまま弘君たちにぶつけようと思った。 熱く燃えたぎってきたこの気持ちを抑えたくなかったんだもん!
「……とは言ってもねェ……政義、どうだ?」
「出来なくはないが……出来なくはないがな……ただ、現実味がなくってのぉ……」
「難しいのなら、私たちの学校でやります! それなら問題はないですよね?」
「そ、それは何も問題はないが……ただのぉ……」
謙治さんや会長さんは怪訝そうに顔を渋くして考え込んでいた。 やっぱり、いきなりじゃ難しいのかなぁ……? 難しいのなら音ノ木坂でやればいいと思ってはいるんだけど、まだ他に何かを考えている様子にも見えたの。
「――――ちょいと待ちな」
そしたら、腕を組んでずっと考え事をしていた弘君がようやく口を開いた! そして、穂乃果のことをジッと睨みつけるように見てきてこう言ってきた。
「穂乃果……お前、本気で言ってるのか……?」
ゴクリ…さっきよりも重苦しい態度で聞いてくるから、口の中では唾液がドバァーっと川のように流れ出てきて、すぐに口の中が一杯になる。 だから、何度も喉を通らせてあげないと、唾液の大洪水で息が詰まっちゃいそうになるの!
息苦しい……でも、それもわかった上でこう言ったんだから、挫けたくないんだ!
また、口の中に溜まったモノを喉の奥に押し込むと、新鮮な空気を口いっぱいに吸い込んで口の中をすっきりとさせた。 そして、弘君に負けないくらいの強い眼力で見つめてこう言ってのけたの!
「穂乃果はいつだって本気だよ!! それくらい、弘君ならわかってるでしょ!!」
――――ってね
「――――ぷっ、ふっはっはっはっは!!!」
小さな静寂が、それほど経たない内に破られた―ー―
菓子パンの袋を引っ張って開けるみたいな感覚で、ほんと、ぱんっと鳴る感じで弘君が大声で笑い始めたんだ。 お腹を抱えるくらいの笑いでも、床の上を転げるような笑いでもない。 腕を組んだままで身体は動かさず、屈託の無い大きな笑いをしたんだ。
静寂が保たれたくらいの時間で笑い続けた後、それからピタッと笑い声を止めた。 それからは声を上げることはなかったけど、微笑を含ませた表情で穂乃果に尋ねてきた。
「確かに、穂乃果の言う通りだ。 と言うより、俺も穂乃果なら言ってのけるだろうって信じていたさ」
「じゃ、じゃあ!!」
「お前のその願い……俺も支援させてくれ!」
「弘君!!」
ニヤッと唇を引き上げて笑う弘君は、迷うことも止めようとすることなくOKしてくれた! その素早い決定に穂乃果は声に出しちゃうくらい嬉しい気持ちに湧き上がった!
よし! これなら何とかいけるかもって希望が見えてきた!
「そんなわけだから、会場のセッティングをたのんますよ、会長さぁ~ん♪」
「こ、こんな時だけ都合よく役職呼びをするのかい?! し、しかし……いくらなんでもそんな急に手配できるようなことではないのだよ? それに会場のほとんどは埋まっちゃってるだろうし………」
「おいおい、おっちゃぁ~ん……これは逆におっちゃんたち運営にとってはおいしいことになるんだぜェ~?」
「な、何を言うのかね……?」
「良く考えてみてくだせぇよぉ~……確かに、蒼一だけのためのライブってなったら、ただの私事での職権乱用ってかたちになっちまう。 だが、そのライブの名目上を、『RISER』のためにってしたらどうなるぅ~?」
「……っ?! ま、まさか……!!」
「もし、これがうまく運んでくれりゃあ、
「……ッ!! な、なんとぉ!! うむっ! これはうかうかしていられんのぉ!! 早速、本部と連絡し、緊急会議をしなくては!!」
「おう、それでこそ、会長さんだぜェ♪」
「……そこはかとなく、明弘くんの口車に乗せられているのだけどなぁ……まあ、キミたちの姿をまた見られると言うのなら、おじさんも協力しちゃうよ」
「ありがてぇでさぁ、師匠!!」
……弘君、いますっごく悪い顔をしてる……
口元を手の平で覆い隠しながら2人に内緒話をしているようだけど、バッチリ聞こえちゃってるからね? 弘君の悪そうな顔も一緒に、私たちに見られちゃってるから……
でも、弘君の言うこの前の話って何なんだろう……? また変なことを企んでなければいいんだけど……。
「それじゃあ、『RISER』のためのライブを行うということでいいかな? 昼間の開催は難しいから、通常運営が終わった後の夕方から夜に掛けてならば多分可能だろう。 それでも構わんかな?」
「はいっ! 私たちならどんな時でも歌えますし、ダンスだってやってみせますよ!」
「ははは! それは頼もしい! となると、あとは出演者を募るのみとなるか……突然のことでやってくれるグループはいるだろうか……?」
「――――それは大丈夫よ。 全国のスクールアイドルのほとんどはRISERのファン。 RISERのためだったら時間も惜しまないはずよ―――? 私たちみたいに――――」
『………ッ!!?』
突然、聞き慣れない声が後ろから聞こえてきたから、ビクッと身体が震えちゃった。 でも、どこかで聞いたことがあるような透き通った声に聞き惚れてしまいそうになっていた。
くるりと身体を振りかえらせたら、思いもしない人たちをそこで見たの……!
「あっ……!! あ、あなたたちは……!!」
「あら、初めましてかしら、μ’sのみなさん。 綺羅ツバサよ」
「き、綺羅ツバサ?! そ、それに……!!」
「ハァ~イ、優木あんじゅよ♪」
「統堂英玲奈だ、よろしく」
「あ、あ…A-RISEですぅぅぅぅ!!!」
あのA-RISEだったんだから!
「どっ、どっ、どうしてここにA-RISEがいるのよぉ?!」
「あわわわわ!!! 本物だぁ…! 本物のA-RISEがいるよぉ……!!」
にこちゃんと花陽ちゃんが声を張り上げてしまうくらい驚いていたけど、穂乃果をはじめ、ここにいる全員も同じような反応をしていたの。 まさか、こんなところに来るはずもないと思っていたんだから!
そしたら、ツバサさんがクスリと笑うと、私たちの方に向かって話しかけてきた!
「会長さんにお話があってここまで来ちゃったけど、なんだからとっても面白そうな話をしているようね。 私たちも混ぜてもらってもいいかしら?」
『!?』
A-RISEが……このライブに参加する……!
そう考えたら、すっごく良いかもしれないって思えたの! だってだって! あのトップアイドルの3人が参加してくれるってなったら蒼君も喜んでくれるに違いないよ! とってもいいよ、それ!
「是非! 参加してください!!」
『ほ、穂乃果?!』
「え? ……あっ!!」
勢い余ってツバサさんの前に立ったと思ったら、ついノリでツバサさんの手を握っちゃってた! あわわわ!! や、やっちゃったぁー!!
私は握ったその手を慌てて放すと、すぐに謝ったの。
「ご、ごめんなさい! つい……」
「いいえ、構わないわよ。 ちょっとだけ驚いちゃったけど……フフッ、思った通り面白い人なのね、穂乃果さんって♪」
「ほ、穂乃果のことを……ど、どうして……?!」
「私たちのライバル的存在、とでも言っておこうかしら? あなたたちのことは前から注目していたからね、一通りのことは知っているつもりよ」
「は、はぁ……」
ツバサさんが…穂乃果たちのことを知っている……! とても信じられない……だって、スクールアイドルの中でも一番上にいるツバサさんたちからそう言われると現実味がまったく感じられなかった。 一瞬、上の空になってしまいそうだったよ。
けど、それよりもすごかったのが、ツバサさんの表情だ。
華麗で綺麗に整われた色白な顔が静かに笑って穂乃果のことを見ていた。 それがあまりにも美しすぎて、なんて言うか…言葉に出来ない息だけが零れちゃうの。 まるで、美しく笑うために生まれてきたお人形さんみたいだ。 ツバサさんの魅力的な瞳に吸い込まれそうになるくらいに………
「―――それじゃあ、さっきの返事をしていいかしら?」
「ふぇっ? な、何をですか……?」
「ライブの話よ、私たちも出たいの。 いえ、出させてほしいの」
「ツバサさん……! あ、ありがとうございます!!」
A-RISEが……参加してくれる……!!
それがわかった時、表には出さなかったけど、もう大興奮しちゃったよ!! これで何とかいけるような気がしたんだ!
「それはそうと―――」
すると、ツバサさんはあらためて穂乃果のことをジッと見始めて言った。
「―――どうして、アナタたちがRISERのためにライブを、って言いだしたのかしら?」
「……っ!!」
ツバサさんのその言葉に背筋が冷え出してきた。 まさか、そんなことを聞かれるだなんて思っても見なかったから………
すると、今度は横から英玲奈さんが聞いてくる。
「私が知っている限りでは、キミたちとRISERとはあまり関わりがない。 結成した年も、歌もダンスもそれに準じたところも無い。 なのに、何故、キミたちのようなグループが彼らと関係があるのか不思議なんだ」
スパッと刃物で切り付けられたかのような鋭い言葉に、言葉を失い掛ける。 とても純粋で真っ直ぐな言葉なのに、うまく返すことが出来なかった。
何て言えばいいんだろう……RISERは蒼君と弘君のグループだって言えないし、蒼君のためにだなんて口が裂けても言えなかった。 正体を知られたら、今よりも酷い状態になるに違いない、それは言わなくてもわかっていた。 だから、どうしたらいいのかと考え込んじゃうんだ。
言葉を詰まらせて、とても返事が出来るような状態じゃなかった。
そんな時だった――――
「――――感銘を受けたからよ。 RISERにね」
「!」
澄みきった声で言い切ったのは、真姫ちゃんだった。
「アナタは……」
「真姫よ、西木野真姫!」
「そう、アナタが……。 それで、どうしてそう言うの?」
「あの人たちの歌って、とっても情熱的で、繊細で、美しかったのよ。 私は以前、今作ってるような曲はあまり好きじゃなかった。 軽くて、意味を感じられないお遊びのようにしか聴こえなかった。 でも、あの人たちの歌を聴いて私の考えを180°変えてくれたわ。 私の見ているモノ、聴いているモノがすべてじゃないと言うこと。 音楽の世界は無限大なんだって教えてくれたのよ。 あの人がいなければ、今の私はいない……だから、恩返しがしたいと思ってるのよ!!」
「真姫ちゃん……」
曇り気の無い言葉で、真姫ちゃんはそう言い切った!
真姫ちゃんが言っていたその話が、蒼君と出会った時のことなんだって何となく理解した。 穂乃果が初めて真姫ちゃんに出会って、作曲をお願いした時もそんなことを言って穂乃果のことを追い払ってたっけ。 でも、蒼君が行ってからその後に穂乃果たちに音楽をくれた。 μ’sにも入ってくれた。 それもこれも、蒼君が何とかしてくれたんだって思ってた。
その時、真姫ちゃんと蒼君がどんな話をしていたかなんてわからない。 でも、今の真姫ちゃんが話してくれたような、とってもいい話をしていたんだってわかる。
だって、真姫ちゃん、とってもいい顔で話してるんだもん!
「なるほどね、それがアナタの理由ね」
「何か文句でも?」
「いいえ、むしろ、いいお話を聞けて感謝してるわ。 そう…そうなのね……」
「……?」
今、ツバサさんが何か話したような……? とっても小さかったから何も聞こえなかったよ……気のせいかなぁ?
「わかったわ、認めてあげる。 アナタたちもそれなりに理由があるとわかったから、それでいいわ。 ありがとね、西木野さん」
「えっ、えぇ……」
よ、よかったぁ……真姫ちゃん、少し噛みつくような姿勢でツバサさんに話していたから、ドキドキしちゃったよ。 これで何かあったらどうしようかと思ったよ……。
ホッと胸を撫で下ろして張り詰めていた緊張を揉みほぐしていると、今度は弘君たちが座っている方に向かって歩きだしたの!
弘君たちが向かい合うと、少しだけ睨み合うような感じになったけど、お互いに顔を緩ませたから何事も起こらないだろうと思った。
「謙治さぁん、御無沙汰していますよ~」
「ふふふ、相変わらずふわふわとした雰囲気は見てて居心地がいいよ、あんじゅちゃん」
「もぉ~謙治さんったらぁ~。 でも、そんなに長いはできませんからね、また今度じっくりお話しましょ♪」
「そうだね、その時は連絡の一本でも寄こしてくれたら、いいお茶を用意しておくよ」
「会長。 押しかけるような形で申し訳ありません」
「大丈夫だよ、英玲奈くん、心配しないで。 あと、ワシに用があると言っておったが、何かのぉ?」
「それはまた後でお話ししましょう。 それより今は……」
「そうじゃの、今は今を、じゃな」
「はじめまして……かしら、滝明弘さん」
「はじめまして、で大丈夫だ、綺羅ツバサくん。 まさか、キミがやってくるとはね」
「今日は、たまたま運がよかっただけですよ。 もしかしたら、運命かもしれませんよ?」
「くっくっく……その運命とやらは、なかなか面白いことをしてくれるようだ」
三者三様、お互い同時に話しだすととても聞きとりづらくなる。 でも、その表情はどれも豊かで何かが起こる様子もなかった。
それでも、ツバサさんたちから感じられる威圧がピリピリと感じちゃう。 なのに、弘君たちは顔色一つ変えずに話をし続けていた。 穂乃果たちとは、何かが違うって、言われているような気がしたんだ。
「それじゃあ、A-RISEのみなさん。 ワシと一緒に本部の方まで来てくれないかのぉ。 そこでキミたちのことやさっきことも含めた話をしなくてはな」
「わかりました。 では、みなさん。 またお会いしましょう」
ツバサさんたちは私たちに軽く会釈すると、お店の扉を開けて外へ出ていった。 その際、会長さんも一緒に出ようとしたところをツバサさんが先に出て扉を開けて、丁寧な対応をしていた。 その姿を見て、ツバサさんってとってもいい人なんだ!って感動しちゃってた。
「はぁぁぁ……い、息が詰まりそうだったわぁ……」
「わ、私もですぅ……」
ツバサさんたちがいなくなってからすぐ、張り詰めていた空気が和らぎ出した。 それで、さっきから身体をガチガチに固めちゃってたにこちゃんと花陽ちゃんが大きな溜め息をついていたの。
「にこちゃんたち大丈夫……?」
「だ、大丈夫なわけないでしょー!! A-RISEよ! A-RISE!! トップアイドル3人が目の前に現れて落ち付けるはずがないじゃない!!」
「あわわ……な、何か失礼なことしてなかったかなぁ……? 大丈夫だったかなぁ……?」
嵐が過ぎ去って落ち着いたと思ったら、まだ大変そうだなぁ……。 仕方ないもんね、確か、にこちゃんたちはファンだったんだもんね。
「それにしても、凄かったわね……あの迫力、さすがと言ったところかしら」
「伊達に頂点に立っているわけではなさそうですね。 考えられないくらいの修練を積んだようにも感じられました……!」
「見ているだけで、身体がぶるぶる震えちゃったよぉ……」
「むぅ~……何だか、あの髪の毛を真姫ちゃんみたいに弄ってる人……何だか嫌な感じがしたにゃぁ」
「わ、私はそんなに弄ってないわよ!!」
「真姫ちゃん、今も弄ってるよぉ……。 凛ちゃんが言ってたのって、あんじゅさんのこと?」
「うん。 …何か嫌な感じがするって、凛の
「凛ちゃん……それ、
「それにゃぁ!」
「それにゃぁ!……じゃないわよ!!」
にこちゃんの盛大なツッコミが、この店に漂っていたわずかな緊張を一気に和ませてくれた。 それに、にこちゃんたちの緊張も無くなってるみたいだ。
「それじゃあ、お前たち。 こっちでも作戦会議といきますか」
手を大きく一回叩いた弘君は穂乃果たちを呼びよせた。
そうだ、やるって決めたんだからしっかりしなくっちゃだよね。 よぉし、がんばるぞぉー!
「それで! 何をするの?」
『はぁ~……やっぱり………』
あれ? なんでみんな揃って頭抱えてるの? 穂乃果、なにか変なことを言ったかなぁ?
「穂乃果ァ!! アンタ、言い出しっぺのくせに何も考えてないって言うの?!」
「うわあぁぁ?! に、にこちゃん、落ち着いてぇ!!」
「落ち着いていられるもんですか! にこは穂乃果が蒼一のためにって頑張ろうとしていたから、にこもいいかなって思ってたところだったのにぃ~!!」
「にこちゃん……! 大丈夫だよ、にこちゃん。 穂乃果だって、何も考えてないわけじゃないんだよ」
「え? どういうことよ、それ?」
一瞬だけ、にこちゃんの勢いが収まったところを見て、少し後退りしてから穂乃果が考えていることを話し始めたの。
「あのね、蒼君のために新曲をって考えているんだ」
『し、新曲?!』
「穂乃果、新曲と言ってもどのようなモノなのですか? それによっては作るモノも変わりますし……それに……」
「圧倒的に時間がないわ。 いくら新曲が出来たからって、歌を覚えるのでやっとよ。 ついこの間に、ラブライブ用の新曲の振り付けも覚えたと言うのに、結構ハードよ」
「うん、わかってる。 穂乃果はそれでいいと思うんだ」
「それって? どういうことなの、穂乃果ちゃん?」
「穂乃果はね、蒼君に今の私たちの気持ちを直接伝えたいと思ってるの。 ちょっと言い方は酷いかもだけど、気持ちを伝える時は、ダンスなんて必要ないと思う。 真剣に伝えようとする時は、まっすぐに伝えたい……嘘偽りの無い言葉を蒼君に伝えたいって思ってるの。 どうかなぁ……?」
胸がグッと持ち上がるような感じがした。 緊張…というより、心の奥に仕舞っていたモノが出てきたって感じだ。 穂乃果が言いたいことって、こう言う感じなの。 穂乃果の中から押し上がるくらいの気持ちを伝えた言って。
それには大袈裟な振りとなんていらないと思う。 真剣に伝えたいって思う時には、自然と身体は動かなくなるもん。 それは多分、蒼君に告白した時と変わらない気持ち……あのイチゴのように甘酸っぱいような気持ちがあればいいって、思ってるんだ。
胸の辺りに手を置いて、この気持ちを隠すことはなかった。 これでどう受け止められるかは分からない。 でも、伝わってほしい……みんなにも、同じ気持ちがあるんだってことを信じて……!
「……はぁ、そんなことを言われたら、もう何も言えないわね」
「にこちゃん……?」
「いいわ、穂乃果の言うようにしましょう。 身ぶり手ぶりなんかで飾らなくたって、蒼一を思う気持ちがあれば、歌だけで伝えられるんだから」
「にこちゃん……! いいの? 本当にやっていいの?」
「な~にを今更。 それがアンタのやりたいことなんでしょ? だったらやるしかないじゃないの」
「やったぁー!! にこちゃんありがとー!!」
「ちょっ!? ほ、穂乃果離れなさい!! いきなり抱きつかないでよ、暑苦しいわ!!」
にこちゃんが穂乃果の提案にOKしてくれたから、思わず抱きついちゃった!
ツンとした顔を見せてるのに、とってもやさしいにこちゃん。 そんなにこちゃんだから、とっても嬉しくって、ついこうしちゃうんだよ! えへへ、雪穂よりも小さくって抱き心地がいいや♪
「……ったくもぉ……。 でも、私も同じ意見よ、穂乃果。 真剣に伝えたい時って、どうしても身体がその人に向いてしまうの。 だから今回は、ダンスはいらないって思ってるの」
「絵里ちゃん……!」
「ですが、勘違いはしないでほしいですね。 ダンスがない分、真剣に歌詞のことを考えなくてはなりません」
「それに曲もやんなぁ。 すぐに作れるん、真姫ちゃん?」
「すぐにって言われてもね……実質、明日までってことでしょ? そんな簡単に曲が………あっ……!」
「どうしたの、真姫ちゃん?」
真姫ちゃんは少し難しそうに頭を抱えていたんだけど、ふと何かを思い出したみたいに顔を上げたの。
「……あるわ……ちょうど、歌詞を付けてない曲が……一曲だけあるわ……」
「それじゃあ……!」
「……ええ、あの曲ならいいわよ! 今すぐにでも取り出せるし、ピアノがあればここですぐにでも弾いてあげられるわ!」
「やったぁー!! ありがとー真姫ちゃん!!」
「ヴェェ?! ほ、穂乃果?! ちょっと、離れてよぉ~!!」
やったね! 早速、曲も見つかったことだし、あとは歌詞を作るだけ! これなら何とかなると思う。 穂乃果たちの気持ちをちゃんと届けられるような曲にしなくっちゃだね!
「それで穂乃果。 歌詞のことなのですが、さっき言ってましたイメージでいきましょうか?」
「うん、それでいいと思うの! あとあと、その歌詞に私たちの言葉を乗せたいの!」
「それって、つまり……私たち全員で作詞するってことぉ?!」
「そうだよ、花陽ちゃん! ここにいるみんなで歌詞を作って、それを歌にしたらきっといいのができると思うの! そう思わないかなぁ?」
「なるほどね、直接語りかけられるようなメッセージ性のあるモノじゃないと意味がないからね。 それでいきましょうか」
「では、みんなでそれぞれメッセージを書いてください。 それで書いたモノをみんなで見せあってから歌詞を考えましょう」
そう言うと、海未ちゃんはカバンからノートを取り出して、そこから何枚かを破り取ってみんなに手渡したの。 横線がたくさん並んだ真っ白な紙―――ここに、穂乃果の想いがカタチになるんだ。 真面目に、真剣にやらなくっちゃ……!
カバンから筆箱を取り、中からシャーペンを取り出した。 何度かノックさせて細い芯を尖らせて紙に綴り始めるの。
大好きな蒼君へ――――――
「蒼くんへのメッセージかぁ……口にするのは簡単だけど、文字に起こすと何だか恥ずかしい気持ちになるかも」
「今思っとることをそのまま書くだけ……簡単そうで難しい。 ふふっ、ちょっと、楽しくなってきたやん♪」
「蒼一にぃにちゃんと届いてくれるかなぁ……?」
「大丈夫だよ、かよちん! 蒼くんが元気いっぱいになれるような言葉を書くにゃぁ~!」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと書きなさいよ!」
「にこちゃんだって早く書きなさいよ。 まだ、一文字も書いてないじゃない」
「か、書きたいことが多いだけよ! い、今に見てなさい、この紙いっぱいに書いて見せるんだからぁ!」
「そんなにたくさん書いても歌詞に出来るかどうか分からないわよ?……まあ、他に使い道があるかもしれないからとっておくかもしれないけど……」
「言葉はたくさんあって困るモノじゃありません。 あればあるほど、生み出される詩というのは豊かになります。 大いに結構なことなのですよ」
みんな白い紙に向かって真剣に書いてる。 わいわい騒いじゃったりしてるけど、これが私たちなんだと思う。 どんな時だって楽しく、みんなで取り組んでいく、私たちμ’sはそうやって成長してるんだ。
そして、その中心には蒼君が――――
―――うん。 やっぱり、この気持ちで間違いないや。 穂乃果が書いたこのたくさんの言葉たち、きっと蒼君に届くって信じてる。
出来上がった紙を見て、ちょっぴり誇らしげになったり、恥ずかしかったりしちゃう。 穂乃果の心を裸にしちゃって、それを見せつけてるって感じかも。 そう考えたら、本当に恥ずかしくなってきちゃった……。 赤裸々な気持ちってこんな感じなんだろうなって、実感することが出来たかも?
ふふっ、蒼君。 そんな穂乃果のちょっぴり恥ずかしくって、全力な気持ちを受け取ってね――――♪
――――――――――――――――
「ふふふ、みんないい顔をして書いちゃってるね。 まるで、ラブレターを書いてるみたいだよ」
「いや、実際そんな感じですぜ。 生の感情を曝け出さなくちゃ、蒼一の心は動きやしねェ。 愛の籠った言葉がありゃぁ充分でさぁ」
「なるほどね。 しかし、本当に恋する乙女って感じだよ、みんな」
「そりゃあそうですぜ、アイツらみんな蒼一のことが好きなんだからよぉ」
「おや! それはおもしろいことを聞いちゃったねェ~♪ おじさんも何か恋のキューピットでもしちゃおうかな?」
「髭もっさりなキューピットなんざ聞いたことないですぜ?」
「愛嬌で勝負だよ、明弘くん。 それに、みんなみんなが同じ方向を向いてるってわけじゃなさそうだし……」
「ん、ソイツァどういうことですかい?」
「んっふっふ~、いずれわかるよ。 キミにも」
「?」
「それはそうと、洋子くんは大丈夫かな?」
「大丈夫ですぜ。 真田のおっちゃんが出て言ったのを合図に裏口から出て行ったんですから、ちゃんと目的を果たしてるはず」
「ふっふっふ、キミたちもなかなか息が合ってるようだね?」
「まあ……いろいろとあったからな。 いろいろと……な……」
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
話もいい感じに進み、もしかしたら今月末辺りにこの章を終わらせることが出来るのでは?と考えていたりします(未定
今はただ、必死になって書き綴るのみよ!
と言うわけで、久しぶりに登場A-RISE。
自分の中では、まだ思いっきり躍動させてないので、どこでさせようかと画策しているところです。
では、次回!(多分)超展開に気をつけてね!!
今回の曲は、
flumpool/『君に届け』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない