蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第124話





もう、迷わないよ

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「そのあと、人だかりの中から何とか蒼一を助け出すことが出来た。 だが……その時に受けた傷があまりにも酷く、病院に緊急搬送されちまうレベルだった……。 全身打撲、頭部損傷、左肩神経断裂……これ以外にも、見えない傷をいくつも負わされることになった……。 当然、大会は棄権した……。

 

 満身創痍……この言葉ほどピッタリなモノはあの時をおいて例がない。 蒼一は大会に出場できなくなったことに大きなショックを受けていた。 理不尽に嬲られただけじゃなく、最後の大会に出場する機会を奪われちまった……!

 

 やるせねぇ気分だ……。

 なのに、世の中はさらに追い打ちをかけてきやがった……!!

 

 蒼一が入院し始めの翌日、ネット上で俺たちのことをバッシングする根も葉もない噂話が独り歩きしやがったんだ。 俺たちが大会に出場できなかったことが波乱を巻き起こしていたから簡単に火が付きやがった。 俺たちが今まで不正を働いていた、とか、大会運営に媚を売っていたことが発覚したから辞退せざるを得なかったとか、呆れるくらいの酷い内容ばっかだった。

 

 さらにマズかったのが……それを蒼一が見ちまったってことだ……。 ただでさえ、満身創痍だと言うのにそれを見ちまったらどうなるか……予想はついていた……。

 

 

 

 

 それが、暴走だ。

 自暴自棄になった蒼一は、我を忘れて入院先の病室であらゆるモノを壊しまくった。 それを止めようとしても止められなかった。 傍若無人な行動を行い続けた蒼一だが、偶然通りかかった男によってようやく鎮められたわけだが……それ以降の蒼一は、人が変わったみたいに大人しくなりやがった……。

 

 生きる気力さえも失った傀儡のような姿になっちまったのさ……。 見ていることさえも辛く、俺すらあの空間から立退きたいと思っちまうほどにな……。

 

 そんな時、蒼一の母親が実家に里帰りするってことで蒼一を連れて行ったんだ。 そこで残りの夏休みのすべてを使って療養したんだが……あの事件前の蒼一に戻ることは一切しなかったってわけだ………

 

 

 

 

 これが、あの時に起きた本当の出来事だ……」

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

 

 延々と語られてきたその話に……全身の震えが止まらなかった……。 胸の奥から込み上がってくるモノだってあったけど、両手で何とか抑えようにも止まりそうも無かった。

ドンッと何かが突き刺さるような胸の痛みが収まらなかった。 それがとっても痛すぎて言葉にすることだって出来やしない。 蒼君の身に起こった残酷な日々に、涙も枯れちゃいそうなくらい心苦しかった。

 

 

 

 

 

 

 

『―――ぅ―――ぅっ――――』

 

 

 私の耳の中で、すすり泣く声が反響してる。 誰かが泣いてるの―――? 振り返ってみようかと思ったけど、私もそれどころじゃなかった。 ちょっとした刺激とかを与えられると、泣いてしまうのを止められなくなっちゃいそうだった。

 これでも結構涙もろい方だから、泣き出したらすぐには止まらないってことを自分でもよくわかっていた。 だから、こうして口を抑えて吐き出されそうな感情を押し止めてる。

 

 もしかしたら、泣いてるのは私かもしれない――――そんな気さえも起こしてしまいそうだった。

 

 

 

「……ね、ねぇ……明弘………」

 

 

 ぐずりかけていた声で弘君に尋ねようとするにこちゃんは、涙で目を潤わせながらもしっかりした声で話をした。その声が弘君にもしっかり聞こえたみたいで「あぁ、何だ?」と返事をしてもらっていた。

 

 

 

「あの時……私はアンタたちのことをネット上でしらみつぶしに探したけど、何も見つからなかったわ。 それは一体どういうことなの……?」

「至って簡単なことさ。 俺の隣にいる真田のおっちゃんが取り計らってくれて俺らに関する記事をもみ消してもらったんだよ。 正誤関わらず何もかもをだ。 これ以上、蒼一の傷を深くしないためにもそうせざるを得なかっただけだ……」

「そ、それじゃあ……最後に言ってた、蒼一が里帰りしたって話は……!? アレは本当だったってことなの?!」

「そう言うことだ。 そこら辺は、師匠から聞かされてるんだろうから詳しくは言わねぇよ」

 

 

 今の話を聞いてピンっと来るモノがあった。 蒼君がおばさんの実家に急に行くって話だったり、戻ってきてから人が変わったようになったりしたアレって、つまりそう言うことだったんだと言うことに気付かされた。

 

 そうなんだ、もうあの時から……

 

 変化に気が付いていたのに、それがとってもおかしいことだってわかっていたはずなのに……私は何もしてあげられなかった……。 もし、あの時に私が蒼君のことを支えてあげられたら…って思いたくなる。 でも、結果的にどうにもならないって塞ぎ込んじゃう。

 あの時の私じゃ、何もしてあげられないし、今だってどうしてあげたらいいのかわからなかった。 考えれば考えた分、苦しくなる一方だった。

 

 

 どうしても聞きたい……蒼君のことを……!

 苦しい気持ちを何とか押し止めて、震える唇を開いたの――――

 

 

 

「……ひ、弘君……蒼君は……蒼君はどうして、あんなふうになっちゃったのかなぁ……? やっぱり、過去の出来事が今も……?」

 

 

 恐る恐る聞いてみると、弘君は眉間を押さえるような動きを見せてから、私だけじゃなくってみんなに向かうように話をし始めた。

 

 

 

「ざっくり言えば、穂乃果の言う通りだ。 蒼一は今も過去を引き摺っている。 いつか話したように、蒼一は信頼してたヤツらから裏切られた……。

 

 あの時、襲ったヤツらをその場で取っちめたんだが、ソイツらの何人もが俺たちのファンで、それこそずっと応援し続けてくれたヤツらだった。 それだけじゃなく、アレ以降に送られてきたファンレターでも俺たちを非難する内容ばかりが送られてきた。 手の平を返すようにいとも簡単に裏切っちまうだなんて思っても見なかった。

 

 さらに驚いたのがソイツらを操っていたヤツの正体だ。 それこそ、俺たちが信頼していたヤツだった……。 しかも、それがわかったのがつい最近だったってことだ……」

「えっ……さ、最近……?! それって、この大会が始まる前に蒼君が暗い顔をしていたのと関係が……!」

「大アリだよ。 ついでに言えば、ちょうどその2日前にわかったことなんだよ。 まさか、あんなクズだとは思いもしなかったなぁ……それで、よくもまあ表舞台で意気揚々と闊歩してたわけだ……なあ、真田のおっちゃん?」

 

 

 突然、話を振られた真田会長は私たちから顔を逸らし、申し訳なさそうにしていた。 それを見て、弘君が話した昔の話に繋がりを感じたの。 ま、まさか……! 目を見開いた私は、弘君の顔を真っ直ぐ見だすと、「そうだと」言ってように小さく頷いたんだ。

 

 それがわかった瞬間、息を呑みこんだ。 それが蒼君を傷つけた原因なんだとわかると、悲しさと同時に怒りが込み上がってくる。

 

 

 

 酷い……酷過ぎるよ……!

 

 どこにもぶつけることのできないこのやるせない気持ちを何度もお腹の中で渦巻かせるような気持ちにさせられた。

 

 

「それとだ……ここで言うのもなんだが……お前たちの一件もそれに含まれてるような気がしてならねェ。 さっきの様子から見てみると、昨日、蒼一に追い出されたとかしてるんじゃねェのか?」

「………ッ! ど、どうしてそれを?!」

「……だろうと思ったぜ。 蒼一が何故あの後にも、過去のことを語るなと言っていたのが気になっていたんだ。 お前たちのことをあそこまで大事にしていたのに話さなかったのか……。 それはつまり、まだお前たちのことを本当に信用しちゃいないってことだ」

 

『――――ッ?!!』

 

 

 一瞬、私は自分の耳を疑った。 蒼君が…私たちのことを信用していない……? とても考えられない話だった。

 

 

 

「う、嘘言わないでよ……!! どうしてそんな馬鹿げた話をするのよ、アナタは!!」

 

 

 弘君に猛反発しだした真姫ちゃんは、座っていた椅子を後ろに倒しちゃうくらいの勢いで立ち上がった。 怒りのあまり顔を真っ赤にさせて、今にも飛び掛かりそうだった。

 けど、そんな真姫ちゃんに対して、弘君は冷静だった。 それどころか、真姫ちゃんを鋭い刃物のような眼つきで睨みつけた。

 

 

「根拠があるから言ってんだろうが……! 蒼一は、人から裏切られたりするのをとっても嫌っているんだ。 それに、そうしたヤツを根深く疑い続けるところがあるんだ。 現に、お前たちは蒼一の想いとは裏腹な行動をしてたじゃねぇか。 そこにきて、もし蒼一が疑心暗鬼に掛かっていたとしたら……お前たちですら疑うだろうよ」

「でも…でも私は……! 蒼一に……!」

「言ったはずだ! 蒼一は俺ですら疑ったんだ!! アイツの相方である俺ですらもだ!!」

 

 

 突然の怒号に、私たちの身体は震え上がった。 怒りを見せていた真姫ちゃんでさえも、あまりの迫力に全身から力が抜け落ちたみたいに床に座り込んで黙った。 俯きかかった表情からは、悔しさに溢れる涙を浮かばせていたの。

 

 

 

 

 

 

「かわいそうに……こんなことになるのであれば、もっと早く手を打っておくべきだった……」

「政義よ、アンタのせいじゃねぇよ」

「いいや、ワシの管轄内にあったにもかかわらず、()()()の悪行を止めることが出来なかった……悔やんでも悔やみきれんよ……!」

 

 

 呟くような小さな声で弘君の両隣りに座っていた、真田会長と謙治さんが重苦しい言葉を口にしていた。 特に、真田会長は涙を流してて、ハンカチで目元を拭くくらいだった。 お2人も蒼君のことをとっても大事にしてくれていたってことがよく伝わってきた。

 

 

 

「もし、あのようなことが起こらなければ、蒼一君は長年の夢を叶えることが出来たと言うのにのぉ……むごいことじゃ……」

「夢……? 夢って、どんなことなんですか……?」

 

 

 真田会長がボソッと呟いたその話に思わず身体が反応しちゃった。 蒼君が思い描いていた夢って……

 

 

 

「うむぅ……蒼一君にね、あの大会を優勝することが出来たらアキバドームで大規模なライブを行うことが出来るってことを伝えていたのだ。 認知度も全国レベルで広がっていたことや大会における伝説的存在として、人々に延々と語り継がれるようにと企画していたんじゃよ」

「あのドームに立つということは、蒼一くんの願望だ。 野球選手になることを諦めた彼にとって、またとないチャンスだったんだ。 それを伝えた時の喜び様は今でも忘れられないよ。 まるで、無邪気に喜ぶ幼い子供のようだった。 ……なのに、そのチャンスさえも奪われてしまった……」

「そんな……まさか……!」

 

 

 謙治さんたちの口から聞かされる蒼君の本当の夢―――手が届きそうで届かなかった、泡のように消え去ってしまった夢のことを。 それを耳にした時、私の頭の中であの日の思い出がよみがえってきた。

 

 それは、アキバドーム近くの遊園地へデートした時のこと。 帰り際に蒼君が言ってた―――自分には夢があった、でも、叶う直前に破れてしまったって。 あの時、弘君からもらった夢って、RISERになってドームに立つことだったんだ!

 

 交通事故の後、蒼君があそこまで元気に立ち直れることが出来たのは、新しい目標を見つけることが出来たんだ。 だからなのかな、あんなに自信満々で、大胆な行動をし続けていたのは。 多分、それもちゃんと含まれているんだろうなって感じてる。

 

 

 それなのに……そんな蒼君からまた夢を取りあげられるだなんて、想像しただけでも苦しすぎて泣き崩れちゃいそうだよ……。 穂乃果には耐えられない……そんな苦痛を抱えながら過ごしていくだなんて……! それをずっとずっと、 誰にも言わないまま、ずっと心の中で隠し続けていたんだ。

 

 

 

 蒼君の心の中を考えてしまうと、涙が止まらなかった。

 

 

 

 私はどうしたらいいの? 穂乃果は蒼君に何をしてあげられるの?

 

 

 教えて……穂乃果に何が出来るの……?

 

 

 

 

 

 

 

 

…………蒼君………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――今日のお前はとっても綺麗だった。まさに、空高く輝く太陽だった

 

 

 

 

 

 

 

 えっ―――――?

 

 

 いま、蒼君の声が穂乃果の頭の中を過ったような気がした。 聞き間違いかと思った、でも、確かに蒼君だ。 私を安心させてくれるあの息遣い、力強く励ましてくれるやさしい言葉。 なにより、この言葉を耳にしたあの日の情景が蘇ってきたように思えたから―――――

 

 

 

 

 花屋で綺麗に咲いていた朱色のバラ。 それを指さして、穂乃果にやさしく語りかけてきてくれた、あの時のことを思い出したんだ。

 

 あの時、蒼君は―――――

 

 

 

 

 

 

 

――――穂乃果……お前はあの太陽のように輝き続けろ……そして、みんなを照らす光となるんだ……

 

 

 

 そう語りかけてきてくれた一言一言が、この目に映った色褪せない情景と共に蘇ってきた。

 

 

 そうだ……そうだよ………

 穂乃果はちゃんと、蒼君から何をしたらいいのかって伝えられていたんだ……! その時が今なんだ。 気落ちしているみんなのために、苦しんでいる蒼君のために、穂乃果が頑張らないといけないんだ!

 

 それに、約束したもんね。 穂乃果が……蒼君の夢を叶えてあげるって。 みんなと一緒に、あのステージに立つんだって!

 絶対に実現させてみせるんだから……だから、穂乃果はここで踏ん張ってみるよ!!

 

 

 涙で滲んだ目を腕で拭った。

 もう、泣いてなんかいられない……泣くもんか……! 蒼君に笑顔を取り戻すまで、穂乃果は笑ってるから。 そして、蒼君が言うように、穂乃果はみんなの太陽になるよ……! 太陽って言われても、どういうものか分からない…でも、蒼君の期待に応えられるように頑張ってみるよ。

 

 

 

 だから、負けないで………

 

 

 

 

 

 

 

 蒼君は、もうひとりじゃないんだよ――――

 

 

 

 

 

 

 胸の辺りで拳をグッと握り締めて、気持ちを入れ直した。 そして、暗く沈んだみんなの前に立った。

 

 

 

 

 

「弘君……! 穂乃果ね、お願いしたいことがあるの!」

 

 

 突然、そんなことを言ったからなのかな、弘君は顔を上げて穂乃果のことをおっきな目で見つめだしたの。 弘君だけじゃない、謙治さんも会長さんも……そして、みんなも。

 一斉に、みんなの視線が穂乃果に向かってきたことに、背筋がピンっと緊張してくる。 胸の音もどんどん高まってくる。 手の中だって汗でべっとり濡れてきていた。 気持ちが逸りだしてきたんだろう、自分でも抑えられなくなってきていた。

 

 だけど、そんなの関係なかった。

 私はそんな思いをグッと抑え付けると、前をジッと見た。 すごいプレッシャーを感じるけど、ここで言わなくちゃいけなかった。

 

 

 この想いを、みんなに伝えたかった――――

 

 

 

「穂乃果ね、いま蒼君のために何が出来るのかって考えてみたの。 あぁでもない、こうでもないって思いながら何度も何度も考えた。 それでね、やっと見つけたような気がするの、穂乃果が蒼君のために出来ることを――――」

 

 

 

 そして、穂乃果の気持ちを伝えたんだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼君のために……ライブがしたいの……!」

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。

前回よりか、室温が高くなって居心地はよくなってはいますね。ですが、まだ寒いままです。風邪をひいたり、寒暖差でぶっ倒れないかが心配になってきました。。。


さて、今回の穂乃果のあの一言が今後の展開を大きく変化させていきます。こっからが穂乃果の本領発揮と言ったところですかな。いろいろと活躍させていきたいので、これから続きを書きたいと思います。


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