第123話
〈ジジ……ギッ………ガガガ……………〉
俺たちRISERは完璧だった。
他のどのグループと比べても圧倒的な差を見せつけ、上を目指す者というRISERの名の通り、常に頂点に君臨していた。 この業界の覇者として、誰からの指標となれるようにと俺たち自身が本物のアイドルとして振舞っていた。 そのおかげで、毎年行われるこの『全国学生アイドル大会』は大盛況だ。 俺たちに挑戦しようとする者たちが後を絶たず、俺たちもそんな彼らに応えるように競い合った。
そのことに兄弟は大いに喜んでいた。 アイツの我がままで始めたこの活動が思いも寄らない結果を生むこととなったことに満足しているようだ。 ふっ、絶望を抱えた時のあの姿がもう色褪せちまったようだ。 アレが兄弟の運命を大きく変えて、カタチは違えど、夢に大きく進んでいやがる。
その夢を叶えるためにも、毎度のことだが俺は頑張らねばならねぇな! おっし、新曲の振り付けと演出について考えねェとな…………
すべて、順調に運んでいるものだと、錯覚していた――――
それを知らないまま……俺たちは、運命のあの8月を迎えた――――――
〈ギギギ……ギガガガ………グッ……………〉
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去年―――――
『おい、兄弟!! 今日もたっくさんのファンレターが届いていやがるぜ!!』
『ほぉ……毎日毎日、送られてくるなぁ……昨日は段ボール何箱来たんだっけ?』
『ざっと、3箱だ! そんで今日は1箱だ!』』
『あはは……相変わらずすごいもんだ……。 まったく、どうしてこうなったか……』
『そうさせたのは、兄弟……いや、アポロの神託の結果ってヤツじゃねェか?』
『よせよ、俺はそんな大それたもんじゃねぇさ』
苦笑いを見せつつも、満更でもねェ様子で手紙を眺める蒼一。 この時期になると、こうしたファンからの手紙がドシドシと送られてきては開封するっていう作業が恒例となっている。 それもそのはずだ、近々、全国学生アイドル大会が行われることが大きな要因となっている。 これまで3年連続出場を決めて、優勝を果たした俺たちに過度な期待が掛かってきているって証拠だ。
ちなみに、この大会ってのは、気付いているかもしれねェが誰でも出場することが出来るんだ。 男女問わず、また年齢層も中学から高校までという中で競い合うってカタチだ。 まあ、ただ単に出場する組が少ねぇというのが運営の泣き言なんだけどさ……。 けど、最近では高校生層のグループが急速に増えて来ていやがる。 これなら、高校生枠だけで大会が開けるんじゃねェのかってくらいに膨れ上がった。
フッフッフ……コイツァ楽しみだぜ……!
……とは言いたいが、それは無理な話かもな……。
何せ、俺たちは高校3年生。 気が付けば大学受験を控えた者となっていやがった。 しかも、すでに蒼一は名門トップレベルの大学に通うことが決定していやがる。 比べて俺は、そこまで成績が優秀ってわけじゃねェから進学するにしても、近くの中堅くらいになるだろうなぁ……。 そうなると次の年は出場なんて出来やしないどころか、一緒に活動することすら危うい状況。
そろそろ、ここいらが潮時か……?
この大会の基盤も盤石になってきたことだし、俺たちを初期から支えてくれた真田のおっちゃんももう少しで大会運営の会長になるらしいし、タイミングとしてはいいかもしれねェな。
新しい時代をつくるのは老人ではないってね。 どこぞの大尉も言ってるんだし、あとのことは新興勢力に任せるとしますか……。
良し来た! と太ももを叩いて気合を入れ直し、今日もまた暴れてやろうかと気を引き締めた……。
『…………ッ?!』
『ん、どした?』
何やら蒼一が訝しげな顔をしていやがった。 それも手紙を読んでて、だ。 これは何かあるな…と感じた俺は、一緒にその手紙の内容を見つめ合った。 すると―――――
『どれどれ………
【はやくいなくなれ!じゃまもの!!!】
……はい……?』
それを読んで目を疑った。 どうしてこんなモノが送られてきたのかと言うのが、正直な感想だ。 しかも、それを手紙に大々と書きやがって……なんちゅう悪趣味なことを……!!
『……ふぅ……。 これで何枚目かねぇ……』
『何枚目って……おいおい、これだけって話じゃねェのかよ?!』
『あぁ……お前には見せてはいなかったが、前にも同じような手紙があったんだぜ? しかも、1、2枚どころじゃない……数十枚もあったんだ……』
『はぁ!? ど、どういうことだよ!! なんで俺たちがそんな目に合わなくちゃならねェんだ!?』
『出る杭は打たれる……ってことじゃないか? それに、俺たちを指示する者たちもいれば、その逆も然りだ。 特に他のグループのファンだったらそうするだろうよ』
『嫉妬……? はっ! それこそ、お角違いだろう! この大会は平等に行われている。 誰が誰を高めるかは、観客が決めるモノだ。 俺たちじゃない。 そこんとこがわかってねェんじゃねぇのか?!』
怒り心頭レベルだぜぇ……。 こんな理不尽なモノばかりを叩き付けられてさ、根拠なしで俺たちを叩くなんざ頭がおかしいとしか言いようがない。 実力社会であるこの大会の仕組みってのを理解できねェんだろうよ。 よくある国民投票とかさ、アンケートとかで、自分が思っていた通りの結果になってないことに怒るアレだ。 テメェらのちっぽけな尺度が全てとは限らねェってことが未だに理解できねェのがいるってのも問題かもな。 そんな幼稚なヤツらから喧嘩を買われてるのか……? まったく、嫌になるぜ……!!
『……ったくよぉ!! こんな手紙、ブチ破ってやる!!!』
『待て、明弘!! それこそアイツらの思うつぼだ!!』
『だ、だってよぉ……!』
『今ここで、その手紙を処分することはマズイ。 どこにアンチがいるかも分からないこの世界に、あまり刺激を与えるような餌をチラつかせない方がいい。 そう言ったモンが、逆上の理由になりうるかもしれねェからな』
『……くっ……! やるせねェ……! 黙っていろってことかよ……!』
『耐えるんだ、明弘。 俺たちが優勝するまで……引退するまで待つんだ……』
怒りで震えが止まらねェ俺の身体に、ポンと手を置いて鎮めさせようとしていた。 どうにも気持ちが治まらねェ、俺はどうしてやろうかと考えていたんだが、アイツの表情を見てピタッと止めたよ。
何せ、アイツは口には出さなかったものの、全身から噴火するくらいの怒りを帯びていやがったんだ。 それを見ちゃぁ黙るほかねェんだわ……。 アイツが我慢してんのに、俺がしないわけにもいかなかったからよォ……仕方なさ半分にその時は抑え込んだわけさ。
けど、日に日に増してくるそういった手紙に我慢の限界が近付いていた――――
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大会当日―――――
今回の大会の規模と言うのは、前例に無いほどに大きくなっていた! それまで、野外でやることになっていたのが、今回は大ホールで行うことが決定したんだ。
これには俺を含め、蒼一も気分が高揚しまくっていた。 何せ、これが俺たちの最後のライブとなるやもしれない、大事な瞬間だったからだ。 まだ、発表していない俺たちの引退宣言。 優勝した後に言い放つということをすでに決めていた。 このことは、真田のおっちゃんには話を通した。 おっちゃん、めっちゃ残念そうにしていたけど、歓迎してくれたね。 そんで自信を持って行って来いってさ、まったく泣かせてくれるじゃねェか! おっちゃんのためにがんばんねェといけねぇな!
コンコンッ―――――――
扉の音がした。 控室にいる俺たちは誰が来たのか確認するためにも、まずマスクを付けた。 誰が来てもバレないようにってね。
『はい、ちょいとお待ちよ!』
勢いを付けてドアノブを回すと、そこに立っていたのは―――――
『おぉ!! 師匠!!』
『はっはっは! 勢いがあっていいねぇ~! これは今回も優勝をとれるんじゃないのかい? ほら、差し入れだ』
『ありがてぇ……! 師匠の手作りクッキーじゃねェですかい! ありがたくもらいますぜ!』
特徴的な髭を蓄えたこの御仁、伊達謙治師匠が立っていたんだ! 師匠にはいろいろとお世話になったんだぜ。 蒼一が持ってきた曲の編集をかけるミキサー技術を手とり足とり教えてもらったのが何を隠そう師匠なんだぜ! しかも、個人経営のスタジオまで貸してくれると言う太っ腹! いやぁ~もうありがたいですわ!
『そういt……いや、アポロくんもどうだい?』
『ここでは蒼一でいいですよ、謙治さん。 この部屋だけはしっかりとした防音設備が施されてるんで』
そう言いながら、師匠の持ってきた箱からクッキーを一枚取り出しては口に運んだ。
ちなみに、師匠は俺たちの正体を知っている数少ない関係者だ。 というより、この活動を始めるきっかけと推進役をしてくれたのも師匠なんだ。そのおかげもあって、今の地位を手に入れたんだよな。
他に知ってるとしたら……真田のおっちゃんくらいだしなぁ……
『それよりもどうだい? 自信のほどは?』
『そりゃあ、絶好調ですわ!! これなら今回も優勝間違い無しだぜ!!』
『確かに、今回も手強い相手がいるが必ず勝って見せる。 それが俺たちのやり方だからな』
『はっはっは! ソイツは良い! 結構だ! その意気があればうまく行くことは確かだろうね』
師匠は笑いながらも真剣な眼差しで俺たちのことを見ていた。 この人の考えてることは、まんましわかんねェが、悪いことは何一つ考えちゃいねェ。 純粋な気持ちで俺たちのことを応援しているってのがビシビシと伝わってくるんだ。 痛いほどにね……。
『そうそう、小耳にはさんだのだが……キミたち、この大会が終わったら引退するんだって?』
『えっ……?! ど、どうしてそんなことを!?』
『いやぁ~、キミたちがスタジオで話をしていたところを聞いちゃってねぇ……すまない!』
『い、いえ…ただ驚いただけですよ。 でも、謙治さんにはいずれ伝えなくちゃって思ってたんで、省けてよかった』
『よかった……じゃないよ! それがわかっていたら、もっといいモノを作っていたのにぃ~! パーティーだってしようかと思ってたんだからぁ~!』
『あははは……さすがにそこまでしなくても……』
『いいや、するね! キミたちをここまで引き込ませてしまったのは、僕だからね。 少しくらい、花を持たせてくれたっていいじゃないか?』
『師匠……!』
こういうことをパッと言ってくれるのが師匠のいいとこなんだよね。 誰かのためにって思う気持ちってのは、かなり強くって、まあそれにあやかっていろいろと注文をしたけれど、感謝しかないぜ。
ただ………
『……派手にし過ぎて、ロケット花火とか打ち上げないでくださいよ?』
『ギ、ギクゥ……! そ、そんなこと考えていないんだからね……!』
『考えていたんかい!!!』
……こういうちょっとネジが外れたようなことを言ったりするから、ある意味参ってる。 まったく、やれやれだぜ……。
『……そう言ってる間に、そろそろ時間のようだよ』
『おっと! コイツはいけねェ! そんじゃあ、師匠、終わった後に!』
『先に失礼しますよ、謙治さん』
『うんうん、しっかりと気張っていきなさいよ!』
師匠の熱い声援を追い風に、控えに向かって走っていく。 へへっ、師匠のおかげで体力気力もろとも準備万端だ! 最高のパフォーマンスをして見せるぜ!!
『おっと、あまり走らない方がいいと思うぞ? RISERの諸君』
通路を走り抜けていると、意外な人物が前から現れた。
ひょろっとした細身の身体で、髪から靴先まできちっと整った格好をした几帳面なお人。 見るからに真面目な人であると印象付くこの人は、俺たちに関わりのある人物だ。
『ん、小木曽さんですかい? どうしてここに?』
『どうしてもなにも、この大会の責任者の1人として招かれているのだから当然でしょう。 それより、今回も盛り上げてくださいね。 今後の大会のためにも……』
『任せてくだせぇ! きっと、いい感じにさせてみせますぜ!』
『フフッ、いい言葉だ。 期待させてもらいますよ』
固い唇で不格好な笑みを浮かばせるこの人は、小木曽勤。 この大会の実行委員の1人で真田のおっちゃんと同様の仕事をしている人だ。 俺たちRISERもこの人の支えを受けて活動をしてきた面もあった。 とても真面目に仕事をするから俺自身も信頼しているところがある。
ただ、ちょっと全体を捉えにくい不思議ちゃんだから、何とも言えんのだけどな。
『あぁ、そうそう。 今回のライブに合わせてセットを用意しましたよ。 客席からメインステージにまで行くことが出来る派手な演出ですが……あなた方なら使えこなせるでしょう』
『ほぉ! ソイツァありがてぇ!! これはまた、愉快なライブになりそうだ!』
『いえいえ、私も応援しているのですからね。 それと、今回はとっておきのライバルも登場するそうですので、頑張ってくださいね』
『ライバル……? 初めて聞いたな。 一体誰なんだ?』
『フッフッフ……それは見てからのお楽しみです……そうですね、ヒントを言いますと、あなたがたに影響されたグループ、とでも言っておきましょうか?』
『またその類か……けど、小木曽さんが言うのだからとんでもねぇんだろうな』
『はい……それはもう……とっておきですからね……』
まーた、変な笑いをしちゃってるよ、この人。 悪だくみとかしたら大物俳優レベルで似合ってるんじゃねェのかって思っちまうぜ。
『ではでは、ライブ、楽しみにしておりますよ』
『おうよ! 期待して待っててくれよな!』
そう言い残して、通路を駆けて行ったんだ――――
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ウワァァァァァァ――――――――!!!
大会が始まりを迎えると、観客のボルテージは一気に最骨頂だ! 声の大波が俺たちの身体にビシビシ当たって溺れちゃいそうだ! やはり、屋内でやるライブってのはレベルが違う。 熱気が直に感じられるんだからよォ、たまんねェぜ!!
次々と出演者たちがステージに上がり、それぞれ最高のパフォーマンスを行っている。 どれもこれも煌びやかで派手さがすごいったらありゃしない! 最後の舞台としては申し分の無い展開じゃねェか!くぅ~……身体の疼きが収まんねェ……!! 早く上がっていきたいくらいだ!!
他のグループが行っている間、俺たちは例のセットの上にいた。 セットと言っても、ゴンドラって言う移動車だ。 コイツを使ってステージに上がるって言うが、これもまた一興だな。
『ふむ、さっきこれを使っていたグループの様子を見る限りでは、そんなに早くはなさそうだな。 走った方が楽だと思うのだがな』
『かっかっか! まあ、そう言うんじゃないよ。 遅い分、観客にいいアピールが出来るじゃねェか。 あんまし、変に考え込むのはよそうぜ』
『あぁ、そうだな。 深入りは禁物だからな』
そう言って、蒼一はゴンドラの後部に座り込んだ。 こっちも身体が疼いてるようだな、そこからジッとステージを見つめているのは、抑えが利かなくなっちまうからだろう? ずっと見ているから、そんな癖さえも分かっちまう。 そんなものさ。
『それはそうと、今回の衣装はバッチリ決まってんじゃん! 今までの中でも最高にクールなチョイスだぜ!!』
『当たり前だ。 俺たちは最高にカッコよく決めるのが基本だろ? それの集大成として、レザークロスな衣装で固めたんだ。 最後の最後まで、派手を突き通そうじゃないか』
『さっすがだぜ、兄弟!! そいで、これを実現させてくれた師匠にも礼をいわねぇとな』
今回の黒統一の衣装を手がけてくれたのは、言うまでも無く師匠だ。 蒼一のデザインを師匠が受け取り、それを知り合いに頼ませて作ったそうだ。 毎度、こうした工程を踏んでいたが、今回が最後かもしれねェ……。 それが、このシンプルでありながらも、カッコよさを含ませた衣装ってわけだ。 曲にもダンスにもピッタリだし、文句のつけようがなかった。
『そういやぁ、小木曽さんが言ってたライバルって誰なんだろうなぁ?』
『まだ、来ていなさそうだな……もしかして、俺たちの後か?』
『ひと目見てからステージに立ちたかったが……まあいいさ。 何が来ようと、俺たちには関係ない。 ただ、着き通すのみだ!!』
グッと拳を握りしめて、気持ちを入れ直す。 刻々と迫る時間を緊張と興奮で待っているが、そのどちらも俺たちの追い風のようだ。 こうした神経が研ぎ澄まさせれる瞬間が、俺たちのボルテージが最骨頂に至らせてくれる。 そして、観客の前に現れた瞬間に爆発させて、一気に盛り上げる! ははっ! 今回もいいシナリオが出来上がったみたいだ!!
完全に、俺たちに風が吹いていたと感じていた。 何もかもうまく行くのだろうと思っていた……
そう、油断をしていた矢先だった――――――
ガコンッ―――――!!!
『『?!!!』』
ゴンドラが急に大きく揺れ出した! その原因が分からず、俺はその衝撃を受けて身体を大きく揺らしてしまった……!
『明弘ッ!!』
蒼一は傾く俺の身体を支えるべく立ち上がり、背中をさせてくれた。
『おっ――――と、サンキューな、兄弟』
『あぁ……だが、そうも言ってられなくなってきたようだ………』
蒼一の視線が下の方を向いていた。 それに続くように俺も目を向けると、何ともおかしな情景が写し込んだ。
『な、なんじゃこりゃあ!!?』
俺が目にしたモノ、それは―――――――
ウアアアアァァァァァァァァ―――――――!!!
暴徒のような観客たちがこのゴンドラの周りを取り囲んでいたんだ!! しかも、ただの暴徒じゃねェ! 殺気すらも感じさせられるような禍々しささえもあったんだ!
『なんなんだコイツらは!? どっから入ってきやがった?!』
『そう言ってる場合じゃない! 明弘、早くここから離脱を図らなければ、巻き込まれるぞ!!』
気が付けば、すでに数十人もの暴徒がゴンドラにしがみ付き、上がって来ようとしていやがった!
『くっ――――!! スタッフは何をしていやがるんだ!?』
『ダメだ、明弘! このライブの音と歓声が、ここでの音を消滅させていやがる!! マイクも死んでる……くそっ!!!』
この状況をどうすることもできなかった。 たった2人だけの力でどうにかなると言うものではない。 逃げることもできない……孤立した俺たちはどうすることもできなかったんだ……!!
『くっ……! 嫌な感じだと思ったら……コイツら、他のグループのファンじゃないか……! まさか……!』
『まさかも何も、あの手紙を書いていた張本人たちが混ざってんじゃねェのかぁ!? くっ……! このタイミングでよくもまぁやってくれるもんだ……クソっ!!』
この状況下で更なる追い打ち、これには正直参った。 ただの暴徒かと思いきや計画的に襲って来ているようにも捉えられた。 コイツらの魂胆がわかってきたような気がしたぜ……!
『……しかたない、ここはお前だけでも逃げるんだ!!』
『んなっ!? 何を言っていやがるんだ?! この中を通って行けとでも言うのか?!』
『俺がジャンプ台になるから、そこから向こう側の通路に行くんだ!! こんなところで2人同時にやられることになったら洒落にならん! 真田さんに話を付けてから戻って来るんだ!!』
『それじゃあ、蒼一はどうするって言うんだ!?』
『……お前が来るまで耐え忍んでみるさ……!』
それは明らかに無理な話だった。 こんな大人数を相手にどう立ち向かうかなんて無謀すぎる。 いくら風神と呼ばれた蒼一と言えど、限度と言うモノがある……!
だが、実際この数じゃどうにもならないことは目に見えていた。 ここでどうするか迷った。 蒼一の言葉を受けていくか、それともここに残るのか……。 その選択の時が迫られていた……!!
『明弘!! 早く決めるんだ!!!』
『くっ……!!』
唇を強く噛み締めた俺は、蒼一との距離を計った。 それを合図に、蒼一は通路に近い後部側に立ち、両手を下に揃えた。 ジャンプ台の形が出来上がったのだ。
『さあ、来い!!』
強い言葉が俺に突き刺さる。 後悔するかもしれないその一瞬に、顧みることを忘れて思いっきり足を踏ん張らせた。
ドンッ――――――!!
踏み込んだ両足で少し跳ぶと、蒼一の両手の中に吸い込まれるように入っていった。 しっかりと両足が収まると、蒼一の手に力が籠りだしていくのがよく分かる。 俺の全体重を支える力とそれを跳ね出すための力を集中させているんだ、並大抵のモノじゃない。 それを知りつつ、最後の踏ん張りを見せた。
『とぉぉぉぉぉべぇぇぇぇぇよぉぉぉぉぉぉ!!!』
蒼一は腹の奥底から発せられたような声で俺を弾き飛ばした。 踏み切り台で飛び出すように、バネで弾かれるように高く跳んだ。 言わずもがな、暴徒の群れから余裕に抜け出すことが出来るくらいの距離にまで跳ぶことが出来たんだ。
『――――っとぉ!! 待ってろよ、蒼一! 今、呼んでくるからな……それまで踏ん張ってくれよな!!』
うまく着地することが出来た俺は、そのまま振り返ることなく通路を走りだした。 追ってくる人の声を聞いたが知ったことじゃない。 今はただ、あのバカを助けに行くことだけを頭ん中に叩きこんでいた。
しばらく走って、真田さんたちがいる部屋に着くとすぐに事情を知らせた。 そして、何十人もの警備員を連れ出して蒼一がいるところに向かって行ったんだ………
そしたら…………
『……な、なんなんだよ……これは………』
おびただしい数の人によって埋め尽くされたあの乗り物がそこにあった……。
そして………
『ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』
『そ、そういちぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!』
蒼一から発せられた断末魔が、俺に降り注いだのだった――――――
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
今日は…月が……欠けてますね………
これじゃあ、サテライトキャノン砲が撃てない事案が浮上するのですがそれは……
まあ、そんなことは置いておいて―――
今回、久しぶりにこのタイトルを使わせてもらいました。
一応、蒼一の過去と言うことですが、明弘視点から見た蒼一の様子ってことですね。今回の章自体も蒼一主観ではない設定で運んでますので。
そんな感じで話を続けておりますが、次回はどんな展開になるのか、しばらくお待ちを。
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない