蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

133 / 230
第121話


知ってしまったこと

 

 

 ギィー…と木と金属同士が擦れ合うことで聞こえてくる軋んだ音が耳を通り抜ける。

にこちゃんが開いた扉の向こう側へと足を踏み入れた私は、一面に広がる白い景色に目を大きく開けてハッと息を吸い込んだ。

 

 

「げほっ…! げほっ…!! な、なにこのたくさんのホコリはぁ……!?」

 

 

 吸った勢いで喉の奥に何かが引っ掛かって擽りだしたから、強く咳ごんじゃった。 そんな私をにこちゃんは口を抑えながら嫌そうに見てたんだけど、次の瞬間、大きなくしゃみを上げてそこら中にあるホコリを舞いあがらせちゃったの! おかげで、目に入り込んでくるから前が見えにくくって……もぉ! にこちゃんってばぁ!!

 

 

 

「うわぁ……酷いホコリね。 ハンカチとかでちゃんと口を抑えなさいよ?」

 

 

 舞い上がるホコリに翻弄されそうになっている穂乃果たちを傍目に、絵里ちゃんは口をハンカチで抑えながらやってくる。 他のみんなも絵里ちゃんの言葉に従って同じことをしているから、なんだか穂乃果たちだけが馬鹿らしく見えちゃって、なんだか不本意だ。

 

 

「それはそうと、どうしてここに来ようとしたのですか、にこ?」

「と言うより……この部屋って、鍵が掛かって無かったんだ。 蒼くんからずっと上がっちゃだめだって言われてたから来ようとはしなかったんだよね」

 

 

 海未ちゃんとことりちゃんが疑問に思っていることは穂乃果にもあったよ。 ずっと、この家に出入りしてたけど、3階にまで足を運んだことはこれまで一度も無かった。 蒼君が言うには、蒼君のお父さんの私物があるからって、入っちゃダメだってキツク言われてた。 実際、穂乃果も一度、扉を開けようとしたよ。 でも、鍵が掛かっちゃってて入ることが出来なかったの。 それがなんで、どうして空いているのか、穂乃果にはわからなかった。

 

 すると、むせかえしてたにこちゃんの様態が元通りになると、一旦咳払いをしてから話し始めたの。

 

 

「アンタたちにはわからないかもしれないけど、にこはね、ずっと蒼一のことを見張ってたの。 それで何度かとあることで気になってたことがあって接近していたのよ。 そうよね、花陽?」

「う、うん……私もにこちゃんと同じで、少し気になってたことがあったの……」

「花陽ちゃん……?」

 

 

 にこちゃんの声に合わせて、花陽ちゃんが静々と絵里ちゃんたちの間から顔を出して言った。 花陽ちゃんも気になっていたことって、一体何なんだろう? でも、それが何かを知ろうとすると、何故だか胸がざわめいた。

 

 

「海未。 アンタには前に聞いたわよね、去年の8月のことを」

「はい、覚えてますが、それと何か関係が?」

「にこがどうして去年の8月にこだわってたのか、理由はわかるかしら?」

「理由と言われましても何のことやら……それって、明弘にも関係するのですか?」

「そうよ。 蒼一と明弘に関係のある話よ。 それはにこにとっても、そして、みんなにとっても重要なことよ」

 

 

 にこちゃんの言葉に重みが増してくる。 それが段々と空気を重くさせてるみたいで、変な緊張感が走ってくる。 口の中に唾は溜まるし、手に汗までかいてきたよ。

 

 

「そこで、海未たち3人にもう一度聞きたいの……蒼一たちが去年の8月に居なくなっていたのはいつなのか。 そして、何か大きな変化があったのかを……」

 

「「「去年の……8月……」」」

 

 

 あらためて考えてみると、あの時の蒼君たちの様子がおかしかった。 落ち着きがなかったと言うか、焦っていたようにも見えたのを覚えている。 そして、ある日を境に急に静かになったんだ。 人が変わったみたいに大人しく……。

 

 

 

「そう言えば……8月の頭から中頃に差し掛かるまで落ち着きがありませんでしたね。 私用で忙しいと、顔を合わせることもままなりませんでした」

「でも、中頃になって、急に蒼くんの家が旅行に出かけちゃったの。 しかも、そこから夏休みの最後まで全部使ってなの」

「多分、そこからだと思う……蒼君の人柄が変わったのって……」

「ちなみに、どんな感じなの?!」

「えっ……えぇっと……それまで大胆な感じだったのに、急に大人しくなっちゃってて……。 あの時の蒼君、ちょっとだけ、近寄り難い雰囲気だったよ……」

「大胆じゃなくなった……それも8月の中頃から……なるほどね、ようやく確信できたわ……」

 

 

 そう言うと、にこちゃんは頭を抱え出した。 何かを考えているみたいで、ブツブツと小言を呟いているようだった。

 

 

「にこちゃん、いったいどういうことなの? 何を見つけようとしているの?」

 

 

 我慢できなかった私は思い切って口にした。 すると、にこちゃんはゆっくりとこっちを向くと、とっても真剣な表情で言ってきた。

 

 

「前に…アンタたちが初めて会った時に、RISERの話をしたわよね……」

「ライ……ザ―……?……あぁ、にこちゃんが憧れてたグループだよね?」

「えぇ、そうよ。 私がとっても尊敬している人たち……。 誰も知らない……謎の2人組……もし、その正体がわかったら穂乃果はどう思う?」

「ど、どうって……それは嬉しいとは思うけど……」

「それじゃあ……それが穂乃果にとって一番身近な人だったら……どうするかしら……?」

「えっ……?!」

 

 

 その瞬間、穂乃果の心臓が大きく揺れ動いたの。 驚きと言うか、そういうのじゃなくって……なんだろう……すごく、怖いっていう気持ちになってくるの。 身体が震えだしてきた……急に冷えてきたように感じたんだ。

 そうしたら、急にこれまでのことを振り返るようになった。 どうしてにこちゃんがこの話を持ち出したのか……どうして蒼君たちの行動を知ろうとしたのか……そして、どうしてそのグループの名前が出てきたのか……まさかっ……?!

 

 このまさか、という気持ちになったのは穂乃果だけじゃない。 ここにいるみんながそう思っているんだ。 言わなくても、見なくてもわかる……動揺しているってことが、肌で……

 

 

 どん底に突き落とされるようなとっても重い空気の中、にこちゃんの唇が動いた――――

 

 

 

 

「RISERは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――蒼一と明弘のユニットグループよ」

 

 

『!!!』

 

 

 

 ぞわっと、全身に鳥肌が立つような悪寒が襲いかかったみたいだ。

 蒼君と…弘君が……? そう言われても信じられなかった。 にこちゃんたちから聞かされたRISERの凄さは穂乃果が考えている以上のものだったし、それを蒼君たちがやっていたということにとっても驚いたんだから。

 

 

 

「ちょっと待ってよ! どうしてそんなことが言えるの、にこちゃん? 私は蒼一と一か月近くも暮らしてたけど、そんな様子は見たことなかったわよ?」

「私も信じられないわ。 どうして蒼一があの人たちなのかっていう理由が見当たらないわ」

「せやで。 ウチだって、蒼一のことをよぅ見とったけど、そないな姿見たことないわ」

 

 

 真姫ちゃんや絵里ちゃん、希ちゃんも同じようににこちゃんの言葉が信じられなくってそう言っている。 ここ最近、ずっと蒼君と一緒に居た真姫ちゃんまでそう言っているのだから間違いないと誰もが思っていた。

 

 でも、穂乃果の中では、何かが引っ掛かってる……。 何か、とっても大切なことを忘れかけているような……。

 

 

 

「真姫ちゃんたちがそう言うのも仕方ないと思うわ。 でもね、ちゃんと証拠は上がってるのよ!」

 

 

 腰に手を当てて、強い言葉でその主張を断言したにこちゃん。 ジッと私たちの方に目を光らせて、言いくるめるかのような言葉で私たちに迫った。

 

 

 

「いい? まず、RISERと蒼一たちを比べてみると、いくつか類似点があるの。 その中でも、歌やダンスが得意で年齢も同じだということ。 そして、去年の8月にどちらも何かが起きているということよ」

「特技や年齢なんて単なる偶然じゃないかしら? 同じような人なんていてもおかしくないわよ?」

「絵里の言うとおり、確かにそうかもしれないってにこもそう思っていたわ。でもね、文化祭で蒼一たちが見せたあのパフォーマンスがモノを言っているわ。 アレは素人の目から見てもわかるはずよ。 それに、謙治さんの言葉が引っ掛かってた」

「謙治さんの……?」

「謙治さんがRISERと蒼一たちを比べた時、決定的に違う個所を言っていたわ。 それは―――大胆さよ」

「大胆さ……はっ、まさか……!」

「気付いてきたようね……謙治さんはあの時、蒼一たちには大胆さが欠けていると言ってたわ。 あそこまでのパフォーマンスなのに何故そんなことが言えたのか、どう考えても謙治さんも何かしら噛んでいる可能性だってある。 そして、さっき穂乃果が言ってた蒼一の人柄が変わったって話。 これだけ上がってるのよ、確信しちゃってもいいんじゃない?」

「で、でも……でも……!」

「でも、何よ、真姫ちゃん! なんでそんなに否定しようとするのか分からないけどね、一番の証拠をアンタが持ってるんだからね!」

「わ、私が……!」

「そうよ、真姫ちゃんが持ってるそのネックレス。 それはRISERのアポロが身に付けていた大切なモノ。 何があろうと絶対に身体から放すことがなかった象徴的なモノ。 それが蒼一からアンタの手にあると言うことが何よりの証拠なのよ!」

「そ、そんな……」

 

 

 にこちゃんに指摘されると真姫ちゃんは、ガクッと肩の力が抜けてその場に倒れそうになった。 それほどまでに真姫ちゃんは大きく動揺してた。 なんでそこまで反応するのか、理由はわからないけど……何となくわかるような気がする……。 蒼君のことを良く知ってるって思ってたのに、本当は違ってた……なんてことを前にも感じていた。 多分、それと同じような感じが今もあるのだと思う。

 

 

 

「真姫ちゃんたちがそんなに否定したいって言うなら、そこにある箱たちを開けごらんなさいよ。 絶対にあるはずよ、RISERとして活動してきたモノが出てくるはずよ?」

 

 

 ゴクリと唾を呑みこんだ。 それをしたのは穂乃果だけじゃなさそうだ。 耳に入ってきた音を辿っていくと、ここにいる何人もが喉を鳴らしていたことが分かるの。 焦りなのか、それともただ戸惑っているだけなのかな? どちらにしても、自分たちの心が揺れ動いたのに変わりがないような気がする。

 

 

 そんな私たちが躊躇している最中、にこちゃんは近くにあった衣装箱に手を伸ばして蓋を開けた。 にこちゃんより半分くらいの長さのその箱からは、なんといくつもの衣服が姿を現した。 とても煌びやかで、私が着るには物怖じしてしまうような立派な服だった。

 

 

 

「……ッ!! あぁ……や、やっぱりそうだわ……!!」

 

 

 そう言うと箱から一着の衣装を取り出すにこちゃん。 手にとった瞬間、にこちゃんはその衣装を抱きしめ出していて、声を震わせていたの。

 

 

「そうよ……あぁ、またこの衣装を見ることが出来るだなんて……!」

「にこちゃん……それは……?」

「これはね……にこが最後に見たアポロが着ていた服よ……。 間違いないわ、この模様……この形……! あぁ! こんなかたちでまた見られるだなんて……!」

 

 

 にこちゃんの声がだんだんと小さくなっていく。 今にも途切れてしまいそうなか細い声に濡れたような湿り気を感じた。 ふと、その顔を見てみると、目をギュッと瞑って嬉しいような悲しいような…そんな表情を見せていた。

 

 

 

「あぁ!! こ、これは……!!!」

 

 

 花陽ちゃんが驚いたような大きな声で叫ぶから振り返ると、ホコリまみれの箱を開いて中から見覚えのある衣装が出てきた。

 

 

「これって……蒼くんが文化祭で着てたヤツだよね……! ふわぁぁぁ…! 蒼くんの香りがすごい……!」

「うん…! 銀魂の坂田銀時のコスプレ衣装一式……! 木刀やカツラまでちゃんとある……! ふわぁ……! 蒼一にぃの匂いが少しだけ残ってる……♪」

 

 

 ことりちゃんと花陽ちゃんは、その衣装に顔をくっつけて匂いを嗅いでいるみたい。 穂乃果も嗅ぎたいっていう気持ちはあるんだけど、心に余裕がない……。 いつもの私じゃないみたいだ……。

 

 

 

 

「すっごーい! ダンスの振り付けのノートがこんなに出てきたにゃぁー!」

「ハラショォ……! こと細かに書かれてるし、体調管理のことまでも……!」

 

「これは……楽譜? 私の知らない曲ばかり……。 もしかして、自作なの?!」

 

「あ! 見てみ、海未ちゃん! この写真に写っとるんは謙治さんやない!?」

「ほんとです……! それに、蒼一たちの御家族の姿も……。 それに……これは真田会長……?」

 

 

 にこちゃんのを皮切りに、それからみんなが次々と箱を開けていく。 そこから出てくるのは、蒼君のモノと思われるモノばかり……。 初めて知る蒼君の新たな一面……でも、とても気持ちがいいものじゃない。 なんだか、とっても申しわけない気持ちになってくる……。

 

 

 みんなが探っている中で、私は少し奥の方に入ってみる。 そこも箱や引き出しとかで埋め尽くされてて、ホコリとかもすごかった。 部屋の明かりも届きにくくなってて少し薄暗い感じもする。

 でも、不思議なんだけど、一番奥の方だけは明るかった。 真上を見上げると、屋根の一部を小さく切り取ったような天窓がつけられていて、そこから入る光がここを照らしていた。 照らしたからと言っても見えるモノが変わるわけじゃない、敷き詰められたモノと舞いあがるホコリの他が私に向かってくるだけだった。

 

 

 

 

 カツン――――――

 

 

 

「―――ん? 何か当たったのかな?」

 

 

 つま先に何かが当たったような感覚がした。 ちょっとだけ触れると、スルスルと音を立てて床を引き摺る音が鳴った。 音からするとそんなに重くないかも、当たった感触を思い返しながらそう結論付けた。

 視線を下に目けてみると、確かに何かが落ちてた。 天窓からの光にちょうど当たらない場所に転がっているモノに手を伸ばすと、思いの他ひょいと持ち上げることが出来た。 触れた感覚はとても軽くって、それに薄い……何だろうこれ? と思いながら私はそれを顔に近付けたの。

 

 

 

「――――あれ? これって……お面……? 仮面……?」

 

 

 光あるところで見ると、それはとっても不思議な形をしていたの。 横に長くって、親指と人差し指でつくる輪っかと同じくらいの大きさの穴が2つ。 そして、小さな穴が1つ三角に飛び出た形の下の部分に空いていた。 何かに似ているような気がしたと思ったら、これって仮面じゃないの?って思い始めた。

 そうだよ、これって顔に付けるヤツに間違いないよ! そう思って、自分の顔に近付けてみた。

 

 

 ストンと音が鳴るみたいにそれが穂乃果の顔にくっついた。 うん、間違いないよ。 これは仮面なんだ! ちょっと、ぶかぶかで収まりが悪いけど……間違いはないよ!

確信を持つとそれを取り外して前を見た。

 

 そしたらね、目の前に立っていたタンスに目が奪われていたの……。 ここまで来るのに、一度も見ることがなかったタンス。 それがたった一つだけ、この奥に隠れるように置いてあったの。 それと、何か変な感じがしてきた……。 差し迫ってくるような……少し怖い感じが……。

 

 

 私は恐る恐る手を伸ばしてタンスの戸に手をかける。 ごくりと溜まった緊張と共に流し込むと、ぐっと力を込めて開きだす。 ギィー……と気の擦れ合う鈍い音が聞こえ出すと、一緒に物置き独特の青臭い匂いも漂ってくる。 長く開いて無かったのかな? そんな少し鼻にくる匂いだったの。

 こほんっと軽く咳込ませながらタンスの中に木漏れ日のような光が差し込む。 そこで目にしたのは――――――

 

 

 

 

 

 

「――――えっ……?! な、なに……これ……??!」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――引き裂かれ垂れた左袖の布

 

 

―――――緩み解れ掛かったボタン

 

 

―――――破れ落ちたかのようなネック

 

 

―――――左右の長さが合わないボロボロのズボン

 

 

 

 

 タンスの中には、上下一式の黒の衣装がただ一着――――嬲られたような傷跡が残る姿で、そこに吊るされるようにあったんだ……。

 

 

 

 煌びやかな衣装……そう言うには程遠い……なんてみすぼらしく醜い姿なのだろうと、そして、嗚咽さえ吐き出しちゃいそうな悲しみが込み上がってくるんだ……。

 

 

 

「……ひ、酷い……。 ど、どうしてこんなことを……!」

 

 

 その衣装を見た私はひどく震えた。 それはただ怖かったからじゃない、あまりにも残酷な形にあるこの服を見て怒りを感じたからだ……! これはただ引っかかって破れたとかそういうレベルじゃない、誰かにやられたって感じだよ……。

 

 

 1歩、前に進んだ。

 手に取るところまで来たからそのままその衣装を手にした。 紐で括り付けられたのを1つひとつ解くように、慎重にハンガーから取り外した。

 

 

「………ッ! こ、これって……!!」

 

 

 遠目で見ただけでは分からなかったけど、これを手にしてみて分かった……。

 

 

 左肩に黒く固まった血が付いていたんだ――――

 

 

 裂けて反れ上がった布の先にくっついているその血は、私の手と同じくらいの長さにまで伸びていた。 その痕を爪で引っ掻いてみると、ボロボロと粉のようなモノが出てきて、それが爪の間に挟まった。 匂いを嗅いでみても血の匂いはしない。 それくらい時間が経っていることを意味していた。

 

 でも、どうしてこんな状態になってしまっていたのか、今の穂乃果には分からないよ……。 分かるのは……もう着ることが出来ないほどボロボロになっていたと言うことくらいだった……。

 

 

 

 

 

 

 衣装を元に戻そうとした瞬間だった――――

 

 

 

 ガタンッ――――――!!!!

 

 

 入口の方から扉の大きな音が聞こえてきたんだ。 一瞬、ビクッと身体を大きく震わせて、入口の方に戻ってみた。 そしたら、入り口前にみんなが集まっていて、ちょっとした壁となっていて出られない様子だった。 何かあったのかな、と思いながらみんなの間から前を覗いてみると―――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――そ、そう……くん……!!」

 

 

 ぼさぼさした髪を乱した状態で私たちの前に立っていたんだ……!

 

 

 そ、蒼君が起きたんだ……!

 

 本当なら飛び上がって抱きしめに行きたいくらい嬉しくなるはずなのに……どうしてこんなに心が苦しくなってくるの……? 身体の震えが止まらないし、石のように固くなってきた……。

 違う……この感じは、何か悪いことをしちゃった時に感じる罪悪感だ。 そう感じる理由も理解している。 ここにいるみんなも薄々気が付いている。 だから、何も言えないで立ち尽くしているんだ。

 

 

 

「……なに……してる………」

 

 

 ボソッと声が聞こえてくる。 霧のように消えてしまいそうな声だったのに、何故か私には大きくと聞こえた。 不思議なくらいにハッキリと……!

 冷めたい汗が背中から流れ出てくる。 夏場で暑くなっているはずなのに、今はとっても寒い。 鳥肌が立って、身震いしちゃうくらいだ。 蒼君が私たちのことを睨みつけている―――影となって顔が見えないけれど、こっちをギロッとした目付きで睨んでいる、そんな気がするんだ……。

 

 

 

「あっ……えと…そ、そういち……?」

 

 

 怯えた口調で恐る恐る喋り出すにこちゃん。 そんなにこちゃんに蒼君は動きを全く見せなかった。 話すことも、指を動かすことも………

 

 

 

 

 

「―――――てけ」

 

 

「――――えっ?」

 

 

 何かが聞こえたような気がした。 だから、思わず抜けた声が出てきてしまったの。 すると――――

 

 

 

 

 

 

 

「さっさとここから出ていけって言ってんだ!!!!」

 

 

 

『――――ッ!!』

 

 

 

 

 グッと押し潰されそうになるくらいの大声が私たちに向かってきた! それを聞いた私たちは何だかとっても怖く感じちゃって、駆け足でこの部屋から出ていったの。

 

 

 みんな後ろを振り返ることがないまま下に降りていったんだけど、穂乃果だけは一瞬だけ立ち止まって後ろを振り返ったの――――

 

 そしたら、肩を落として、とても悲しそうな後ろ姿を見せる蒼君の姿が――――

 

 

 

「そうくん………」

 

 

 私は戸惑った。 このまま戻って蒼君のもとにいようか、それともそのまま出ていくのか……。 穂乃果の気持ちは元から蒼君のもとにいたかった。

 けど、身体がそうしてくれなかった……。 どうしても、穂乃果が再び階段を昇っていくことを許してくれなかった。

 

 

 今じゃないの? 今がその時じゃなかったの?

 

 私は私に対して言い詰めた。 さっき弘君が言ってた、蒼君を頼むって、そう言うことじゃなかったの? それが今なんじゃないの?って心の中で叫んでた。 それなのに、私の身体は言うことを聞いてくれないで、そのまま階段を一歩、また一歩と降りていく。

 

 情けないよ……こんな近くにいるのに何もできないだなんて……。

 

 

 悔しい気持ちでいっぱいになりながら、遠ざかっていく蒼君の姿を見つめることでしかできなかった――――

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。


東京は雪が積もってます……はい、脛辺りだったのが膝の高さにまで積もってまいりました……。この状況でも仕事は無くならないのよね……悲しっ!


そして、今回、ようやくと言っていいほど長々と伸ばしました蒼一のもう一つの一面について触れてみました。気付いてる方はすでにいらっしゃるだろうと思われますが、この後はどうして現在にまで至ったのかと言うところに触れてみたいところです。

次回は、あの人が久しぶりに登場する予定なのでよろしゅうお願いします。


今回の曲は、


瀧沢一留/『镇命歌-しずめうた-』

更新速度は早い方が助かりますか?

  • ちょうどいい
  • もっと早くっ!
  • 遅くても問題ない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。