「ごめーん! 遅くなっちゃった!」
「あ! 穂乃果ちゃんが戻ってきた!」
「いえ、ちょうどよい時間ですよ、穂乃果」
蒼君と別れて、穂乃果はみんなが集まっているところに戻ってきました。 もちろん、蒼君からもらったぬいぐるみも一緒にね。 みんな今日のライブとかをすべて終わらせたみたいで、普段着に着替え終わっていたの。
「ところで、穂乃果。 計画はうまくいったかしら?」
「大丈夫だと思うよ、絵里ちゃん! 穂乃果はちゃんと蒼君のことを元気にしてあげたんだからね!」
「そう、よかったわぁ……」
今回の計画を打ち立ててくれた絵里ちゃんは、穂乃果の話を聞いて、ホッとしたみたい。 胸を撫で下ろすように安心した声を口から漏らしてたの。
「ふ~ん……元気にねぇ……。 一体どんな感じで励ましたのかしら~?」
「うぅっ…に、にこちゃん……? そ、それは……そのぉ……いろいろだよ! いろいろ……」
「いろいろねぇ……スンスン……蒼一の匂いがいっぱい……。 それに……やけに唇が艶めいているわね……まさか……?」
「ま、真姫ちゃん……!! そ、そんなっ……ほ、穂乃果は蒼君がなんだかとっても元気がなさそうだったから、つい頬っぺたにチューしちゃったとか、そんなことはしていないんだからね!!」
「「「「「は?????」」」」」
あれ? みんなの視線がなんだか怖い……。 穂乃果、何かマズイことを言っちゃった……あっ……
「ちょっとアンタァ!!! なにどさくさに紛れてそんなことしちゃってるのよ!!」
「ずるいわよ、穂乃果!! 私だってしたかったのに、今日は我慢していたのよ!!」
「穂乃果ちゃんだけずるいですぅー! 花陽も蒼一にぃとしたいのにぃ……!」
「さすがに穂乃果ちゃん、やりすぎじゃないかにゃ?」
「ハラショー……まったく、穂乃果ったらそんなことを……」
「ふふっ、誰かが見とるかもしれへんのに、大胆なことをするんやなぁ~♪」
「わっ! わっ!! お、落ち着いてよみんなぁー!! こ、これは蒼君のためなんだから! 蒼君のためにしてあげただけなんだからぁー!!!」
「そんなの関係ないわ!! キスしたということ自体がすでにアウトなのよ!! 覚悟しなさいよ……!!」
「わー!! にこちゃんストーップ!!」
わぁーん!! 穂乃果が口を滑らせちゃったから、にこちゃんが大激怒しちゃって大変だよぉ―!! きゃー!! にこちゃんに押し倒されるぅー!! されるのなら、蒼君がよかったのにぃー!!!
穂乃果がこんなことになっちゃっている時、ふと横を向くと、ことりちゃんと海未ちゃんがちょっぴり恥ずかしそうな様子をしていたの。 顔を赤くしちゃってて、ことりちゃんなんてとっても嬉しそうにしていたの。 一体どうして………
はっ……! も、もしかして……!!
「やぁ~ん、穂乃果ちゃんも蒼くんにキスしちゃったんだね♪ うふふ、やっぱり我慢できないもんね~♪」
「ちょっと待って。 “も”ってどういうことよ、ことり?!」
「も~、そんな恥ずかしいことをことりに言わせちゃうの、真姫ちゃ~ん? ことりも蒼くんの頬っぺたにキスしちゃったんだぁ~♪」
「あ、あなたねぇ……!!」
「だってぇ、蒼くんに必要なのは、ことりの愛情だと思ったんだもん♪ ねー、海未ちゃん♪」
「う、海未……?! ま、まさか……アンタも……!?」
ことりちゃんに言われて、さらに顔を赤くしちゃう海未ちゃんは、恥ずかしそうに何も言わないままモジモジと身体を揺すっていたの。 それを見ただけで、海未ちゃんもしていたんだ、ってわかっちゃう! でも、いつしていたんだろうって考えてみると、そう言えば耳元で何かを話していたことを思い出した。
あの時か! ってびっくりする気持ちで見ちゃってた。
「……はぁ……海未までやるってなると頭が痛くなってきた……」
「じゃぁ……穂乃果のこと、許してくれるの……?」
「それとこれとは別問題だからぁ……!! あとで、たっぷりと聞かせてもらおうじゃないの……!!」
「うわぁーん!! にこちゃんの鬼ぃ!!!」
んもー、にこちゃんってば!! この流れなら穂乃果も許されちゃってもいいじゃない! どうして穂乃果だけダメなのかがまったくわからないよー! にこちゃんの鬼!! 理不尽!! ちんちくりん!! まな板ぁ!!
「どぅあぁぁれがまな板ですってぇぇぇ!!?!」
「きゃぁぁぁぁ!!! 穂乃果の心の中まで見るのは反則だよぉぉぉ!!!」
そんな時だった――――――
「―――み、みなさん!!!」
ドタドタと慌てた足取りで洋子ちゃんが転がり込んできたの! そのあまりにも尋常じゃない様子に穂乃果は動揺した。 冷汗さえも感じさせられるような迫りくる何かを感じとったの……。
「ど、どうしたの、洋子……? そんなに慌てるだなんて、洋子らしくもないわよ……?」
かなり動揺しちゃってるんだろう、絵里ちゃんは声を震わせながら洋子ちゃんに尋ねていた。 よく見たら絵里ちゃんだけじゃない、他のみんなだって同じくらい動揺しちゃってて……身体をぶるぶると震えさせてるメンバーもいたの。
それに、私たちはこういった感覚を知っている。 忘れもしない、あの時に感じたのと同じ……何かを手放しそうになる、失いかけてしまいそうなそんな感覚が私たちの中にあった。 それを思いだそうとすると、心臓の音がみるみる大きくなっていって……とっても怖いよ………。
穂乃果たちがこうしている中、洋子ちゃんは躊躇うことなく大声で言ってきたの―――――
「蒼一さんが………倒られました……!!!」
――――その言葉に、胸の音が止まってしまいそうになった――――
―
――
―――
――――
蒼君――――蒼君――――蒼君――――そうくん――――そうくん――――!!!!!
胸がギュッと締め付けられるような苦しさを抱きながら、穂乃果たちは全速力で蒼君がいるところに向かっていたの。 蒼君が倒れたと聞いて、私は悲鳴のような声を上げていたと思う。 それも力いっぱい出しちゃってたみたいで喉がガラガラしちゃってる。 声も出せないくらい………
でも、そんなことどうでもいいの。
蒼君が……蒼君が倒れたことが穂乃果にとって今一番大変なことなんだから……! 穂乃果のとってもとっても大切な人が大変な状態なのに、自分のことなんて考えられない。 身体が壊れてもいいから、早くその姿を見たかったんだ……。
救護室がある施設に近付くと、玄関先に一台の車が止まっているのが見えた。 どこかで見たことある車だなぁ、と思いながら近付いてみると、中から出てきた人に驚いちゃった。
「―――あら、穂乃果ちゃんたちじゃないの」
「えっ?! こ、ことりちゃんのお母さん!?」
私たちの前に立った意外な人に私たちの足は止まってしまったの。 どうしてここにことりちゃんのお母さんが……? という疑問が頭に思い浮かんできたの。
「お母さん、どうしてここに?」
「明弘君から連絡があってね、蒼一君が倒れたって聞いてすっ飛んできたのよ。 どんな容態かも知りたかったからね」
ことりちゃんの問いかけに、冷静な態度で応えていくことりちゃんのお母さん。 でも、なんだかとても余裕がないような感じで、身体をウズウズさせているようにも見えたの。 顔色もあまり良くないみたいだし……やっぱり、蒼君のことが気になっちゃうからかなぁ……?
そんな私たちの心配をよそに、施設の扉が開いた。
「おっ、お前たちも来たか―――!」
「弘君! ――――と、蒼君?!」
弘君が蒼君を負ぶった状態で出てきたの! 近くに寄って蒼君の様子を見てみると、ぐったりした様子で寝むっていた。 ただ、その顔は酷く疲れていて萎んだお花みたいに力がないように見えたの。
穂乃果と別れた時とは別人みたいに……
「ひ、弘君! 蒼君は?! 蒼君は大丈夫なの――――!?」
「落ち着け、穂乃果! 蒼一は大丈夫だ。 ちょいと、無理が祟っちまっただけだ」
「そ、そうなの……?」
「そうそう、蒼一ときたら昨日は寝ていなかったらしくってよ、連日大忙しだったのにそりゃあ体力が持つわけねぇっての」
弘君のその言葉を聞いて、耳を疑っちゃった。 だって、穂乃果が見た時は疲れた素振りなんて見せなかったし、まして身体を休めていなかったなんて………
「明弘君、そろそろ―――」
「そうですな、ここにいちゃあ埒が明きませんからなぁ」
そう言うと、弘君は蒼君を後部座席の方に一旦座らせると、そのまま仰向けに倒れさせたの。 寝込んでいる蒼君を起こさないようにゆっくりとシートの上に横にすると、反対側からことりちゃんのお母さんが蒼君の身体を引っ張って全身が入りきるように調整していた。
「―――蒼一君の身体って……こんなにも大きくって、重たかったのね……。 この身体に、私は――――」
「―――いずみさん」
「―――っ! ごめんなさいね、つい……」
一瞬、ことりちゃんのお母さんの口から小さく囁く声が聞こえたような気がした。 弘君が焦るように遮ったから全部は聞けなかったけど、穂乃果の知らないところで何かがあったんだろうってことだけ、なんとなく感じたの……。
蒼君を車に乗せ終えると、ことりちゃんのお母さんは運転席に座ってエンジンをかけ始めた。 ゴロゴロと地鳴りのような重くて低い音を立てて空気を振動させるから、穂乃果の身体にも伝わってお腹の中が震えた。 でも違う……穂乃果の中で震えている……ううん、揺れ動いているのはそういうのじゃない……。 もっと、ドロッとしたみたいに蠢いている感じ……胃がムカムカするみたいな、そんな変な気分になるの……。
なんだか……怖い……。
気を落としていると、真姫ちゃんが車に乗り込もうとしてた弘君に詰め寄ってた。
「ねえ、蒼一をどこに連れていくつもりなの?」
「帰るんだよ、蒼一ん家に。……それ以外に、帰る場所があるのか……?」
「それは……そう…よね………」
「くよくよすんなよ、真姫。 こんな時だからこそ、お前らの力が必要になるんだ」
鼻筋を赤くして今にも泣き出しそうになっていた真姫ちゃんの肩を軽く叩いて、元気を出させているように見えた。 ニカッと白い歯を見せて笑って見せる様子が弘君らしいよ……穂乃果たちのことを気遣っているのかな? 弘君も辛いはずなのに、無理をして笑っているようにしか見えないの………
「さてと……それじゃあ、先に行ってるからな――――」
そう言うと、弘君は車に乗り込んで、すぐにここから走り出して行った。 穂乃果たちは小さくなっていく車を見届けるように、ジッと立ち尽くしていたの………。
そして、嵐が過ぎ去った後みたいな静けさだけが残っていた。
「穂乃果……これからどうしましょうか……?」
青く縮込んだ声を震わせながら海未ちゃんは私に尋ねてきた。 その動揺している様子は言わなくてもわかる。 青白く不健康色を出していた顔がそれを教えてくれていた。 桜のようなピンク色の唇も白くなって、冷たくなっちゃってるかもしれないくらい色が薄くなっていた。 穂乃果にあまり見せることのない、本当に怖いって訴えかけている姿だった……。
みんなだって、海未ちゃんと同じだよ……穂乃果だって……胸が苦しくって、息がつまりそうなの……。
こわい……こわいよぉ………なんだか、蒼君が穂乃果たちから離れていっちゃうような、そんな怖さを感じちゃうの。
――――でも――――
「行こう……蒼君のところへ……!」
ここで引き下がったら、絶対後悔しちゃう気がする。 だから、たとえ怖くたって穂乃果は蒼君と一緒にいたい! こう言う時だからこそ、穂乃果がしっかりしなくっちゃ! だって、そう決めたんだから――――蒼君を支えるって!
穂乃果たちはそれぞれの荷物を持って、蒼君に追い付こうと走って行った―――――
―
――
―――
――――
[ 宗方家 ]
私たちが蒼君の家についた時には、ことりちゃんのお母さんの姿はなかった。 蒼君を届けた後、しばらく留まってから帰ったらしいの。
それで、蒼君の方はと言うと………
「………蒼君………」
部屋のベッドの上に仰向けになったまま眠っているの。 私たち10人が入ってきて、ちょっと騒がしく感じる中でも眉を一ミリも動かすこともしないでグッスリ寝ついていた。
「これほどまでに深く眠っているなんて、よっぽど疲れていたのですね……」
「でも、あんまり気持ち良さそうに寝てないよ……どうしてなんだろう……?」
布団に沈み込んじゃうくらいに深く眠っているのに、どうしてかその表情は硬かった。 というより、眉間にしわが寄るくらい強張ったままで苦しそうにも見えちゃうくらいだ。 何か悪い夢でも見ているのかなぁ…? そう思いながら穂乃果たちは、ジッと蒼君のことを見つめ続けていた。
「――――お前たち、ちょいといいか?」
静かに扉が開くと、そこから弘君が手招きをしながら穂乃果たちを呼んでいた。 何かあるのかな? と思いながらその言葉に従って一階へと降りていったの。
リビングにまで連れられた私たちはソファーやイスに固まって座らせられた。 いったい、何が始まるんだろう? この後のことがまったく予測できないから余計に不安が募るばかりだ。
そうした中、弘君が私たちの前に大きく立つと、重い雰囲気の中でその口を開けた。
「お前たちが見た通り、今の蒼一はグロッキ状態だ。 明日、明後日と動けるかどうか怪しい状態だ。 そんでだ、明日からは俺たちだけでこのスクフェスの残り期間を治めていこうかと思う。 何か、質問とかあるか?」
弘君から話されたのは、本当にざっくりとまとめられたことだけ。 穂乃果が本当に聞きたいことじゃないから疑問しか浮かばなかった。
どうして倒れちゃったのか? どうしてそんなになるまで身体に無理をさせていたのか……他にも色々聞きたいけど、穂乃果たちの中では、多分こうしたことだけを考えているのだと思う。 みんなも穂乃果と同じく、納得がいかない様子だった。
そんな中、我慢の限界を感じたのか、痺れを切らしたかのように真姫ちゃんが立ち上がって口火を切ったの。
「ちょっと待ってよ!! アナタ、蒼一がああなったのにどうしてライブのことを話すのよ?! おかしいでしょ! 少しは労わるとかしてあげたらどうなのよ!?」
立ち上がった真姫ちゃんは、ずいずいと詰め寄って行って弘君の真ん前に立った。 張り裂けそうな声で叫ぶ真姫ちゃんを誰も止めようとはしなかった。 何故って、穂乃果たちが言いたいことを代わりに言ってるから止めたいとは思わなかった。
それに……そのことを逸早く口にすることが出来た真姫ちゃんに、穂乃果は少し引け目を感じていた……。 穂乃果だって、同じことが言えたはず……でも、言えなかった。 穂乃果が蒼君に一番身近な存在なんだって思っていたから余計に感じちゃうの。
穂乃果なんかじゃ、蒼君のためにならないのかなぁ………
穂乃果と別れた直後にこうなったのが一番の証拠。 それに気付くこともできなかったのも、穂乃果の失態なんだと思ってる。 ダメだなぁ……全然、蒼君のために頑張れてないよ………
気が付けば、私は身体を縮込ませるように背中を丸めていた。
そうしていると、弘君は眼を鋭くさせて真姫ちゃんを見た。 そして、一瞬だけ身震いした真姫ちゃんに向かって口を開いたの。
「真姫、お前の言いたいことはもっともなことだ。 だがな、蒼一はこう言うことも見越して俺にそうしろと言ってるんだよ」
「はぁ?! 何よそれ!? 意味がわからないわ!!」
「わからないか……? 蒼一はお前たちの学校を守るため……いや、お前たちのために身体を張っていやがるんだよ!」
『!!!』
弘君が口にしたその言葉に、私たちは目を見開いた。 穂乃果たちは学校を…音ノ木坂学院を守るために活動をしてきた。 でも、それが穂乃果たちのために、ってどういうことなのかがわからなかった。
弘君の話は続いた――――
「蒼一がお前たちと共にスクールアイドルの活動を始めようと決めたきっかけは、お前たちが絶対に学校を無くしたくないと言う願いから決めたことだ。 お前たちを助けたい、その一心で今日まで続けていたのさ。 例え身体が壊れようとしても、絶対に叶えさせてやりたいって言っていやがったんだ。
当然、俺は止めようとした。 だが、蒼一は止まんなかった……むしろ、突き進むためにどうしたらいいのかと、毎日身体に負荷を掛け続けながらも考えていやがった。 誰1人欠けることなく、失うこともないようにとな。
だから!! 蒼一はあの時、お前たちを助けた!! 絶望的な状況にあったにもかかわらず、それでも無茶して取り戻しやがった!! アイツはなぁ! お前たちがいない音ノ木坂学院なんて考えちゃいねぇんだ! ここにいるみんなが笑ってい続けられるようにって、そう願っているんだ!
それだからよぉ……アイツがいねぇ中でもやっていかなくちゃならねぇんだ……。 蒼一がしてきたことが無駄にならないためにも俺たちは進むしかねぇんだよ……。 その気持ち……テメェらの方がよっぽどわかることだろうに……」
どんっと胸の中に重く入り込んでいくような強い言葉が私たちに突き刺さった。 何も言い返すことが出来ない……蒼君がそこまで穂乃果たちのことを思っていたことに驚かされるばかりだった。 そして、とっても悲しかった……。
私たちが蒼君を苦しめているんじゃないかって、罪の意識を抱き始めてくる――――
「――――だがな、勘違いするんじゃねぇぞ。 今の蒼一には、お前たちが必要なんだ。 アイツはとんでもないくらい不器用なヤツだから、自分のことなんざまったく顧みることなんてしねぇ。 人に頼ることが下手くそなんだ。 そんなアイツを、お前たちが何とかしてくれ――――」
えっ――――――?
さっきとは一変して、とても落ち着いた声を掛けられた。 その一声で、胸に刺さった重みが軽くなったような気がしたの。
穂乃果たちが……蒼君を……?
それが本当なのか耳を疑っちゃった。 でも、それは本当のこと。 弘君はとっても穏やかで引き締まった眼つきで私たちを見て、「頼んだぞ」と力の籠った言葉を漏らしていたんだ。
もし、それが許されるのなら……穂乃果は……!!
「―――うん、穂乃果たちに任せてよ!! 蒼君のために、頑張るからね!!」
弱気な自分を打ち払う想いで大きな声で叫んだの! 力いっぱい、この想いをいっぱい詰め込んで!
すると、弘君はニヤリと笑いながら―――
「あぁ、頼んだぜ――――」
―――そう応えたんだ。 それが穂乃果に前に進む勇気と力を与えてくれたの。 だから、応えてあげたい……拳を作ってギュッと握りしめて、気持ちをまっすぐにさせた。 もう、迷わないってね――――
「それじゃあ、俺はここいらで退散するわ。 明日は得に会場でライブとか行わないようだからゆっくり休むことだな。 あと、俺は謙治さんのとこに行くから頼んだぞ。 そして、くれぐれも蒼一の迷惑にならないように看てあげろよ? それと洋子、ちょいと相談があるからよ、来てくれ」
ホッと一息吐くと、弘君は洋子ちゃんとどこかに行こうとしていた。 明日の相談なのかな、と思いながら2人が部屋を出ていこうとするのを見守ろうとしていた―――――
「―――ん? ちょっと、待て」
弘君が真姫ちゃんの横を通り過ぎようとした時だった。 急に足を止めると、振り返って真姫ちゃんの方を見たの。 そして、ジッと何かを睨みつけるように見ていた。
「おい、真姫……そのネックレス……どうしたんだ……?」
「えっ、これ?」
弘君は首に飾られた銀色のネックレスのことを言っているみたい。 そう言えば、いつの間にかそれを身に付けていたような気がする。 でも、真姫ちゃんだったから身に付けてもおかしくなかったし、あまりにも自然すぎて、全くって言っていいくらい気にしなかったんだ。
けど、それがどうかしたんだろう……?
不思議に思ってると、弘君は真姫ちゃんが手の平に乗せたネックレスを手にとったりして見ていた。 すると、とっても驚いた様子でもう一度真姫ちゃんのことを見てた。
「これはね、蒼一から直接手渡されたのよ。 持っておいてくれって」
「し、信じられねぇ……! アイツが…蒼一が
弘君の驚きの表情が段々と色濃くなってきた。 かなりの動揺しているから、どういうのを見てそうなったのかが気になっていた。 身を乗り出すように近付いてみると、海のように青く輝いた小さな宝石が目に入ってきた。 とっても綺麗…思わず飲み込まれそうになるほどだった。
そんな時だった――――
「えっ?!! ちょっ、ちょっとどきなさいよ!!」
私が見ているその間に、突然にこちゃんが割り込んできた。 押すなんてひどいなぁって思っていたんだけど、なんだか様子が変だ。 にこちゃんは弘君が見ているそのネックレスのことを睨みつけていたの。
「………間違いないわ……これは
ジッと睨みつけていくにこちゃんの表情が、みるみる青ざめていくように驚きの表情をし始め出した。 まるで、見ちゃいけないモノを見ちゃったようなそんな感じだ。
そしたら、弘君は真姫ちゃんのネックレスから手を放して、ここから立ち去ろうとし始め出したの。 それに、一瞬だけ鼻で笑ったような気がした………。
「あっ、明弘っ!! 待ちなさい!!!」
立ち去ろうとしていた弘君の服の裾を強く掴んで、その足を止めさせた。 必死に噛み付こうとするにこちゃんに穂乃果たちは唖然としながらその様子を見つめ続けていた。
唾を呑みこむと、にこちゃんはゆっくりと話しだした。
「明弘……聞きたいことが山のようにあるのだけど……いいかしら……?」
「こっちは急いでるんだ、手短に頼む……」
「まず……アンタはあのネックレスがどうして蒼一のモノだとわかったのかしら?」
「そりゃあ……真姫がそう言ったからな」
「嘘おっしゃい、アンタは真姫ちゃんから言われてもこめかみ一つ動かすことがなかった……それはわかっていたからじゃないの……?」
「……俺はあまり驚かない達でな、そう言われても、まあそうだなと受け流してただけさ」
「……まあ、いいわ。 それじゃあ聞くけど、
「……アニメの影響かな……? 咄嗟にそう出ちまっただけさ……」
「どこまで猫を被る気なの……アンタ……?」
「騙すことなんざしてねぇつもりさ。 俺は俺だ。 いつだって俺は俺でい続けてるじゃねぇか?」
ピリピリと張り詰めたような緊張が走り続けてる。 にこちゃんが弘君を問い詰めている光景自体あまりめずらしいものじゃない、でも、こんなにも喰ってかかったのは初めてだ。 花陽ちゃんも落ち着かない様子だし……いったい、どうしちゃったんだろう……?
「アンタ――――」
「――――おっと、これ以上はもう答えねぇぞ。 時間切れだぜ、にこ? 行くぞ、洋子」
「――――ッ! ま、待ちなさいよ!!」
「弘君!!」
そう言うと、弘君はにこちゃんが掴む手を取り払い、そのままこの部屋から出た。 にこちゃんが必死になって止めようとするのだけど、もう遅かった。 穂乃果たちも連れられて叫んじゃうのだけど、立ち止まることもしないで、玄関の扉を開けた。
「頼んだぜ――――」
一瞬だけ……かすかに聞こえてきた。 弘君がどうしてそう言ったのか、何の意味があるのか、この時の穂乃果にはわからなかった………
「洋子ちゃん……」
「すみません……先、行きますね……」
弘君の後ろを追いかける洋子ちゃんは、私たちの方に振り返ることなく出て行った。 取り残された私たちは全くわけがわからないまま、ただ呆然としていた。
「蒼一があの宝石を……まさか……まさか……!」
ただ、にこちゃんだけは何かに気が付いたみたいに目を見開かせて、急に階段を駆け登り始めた!
「待ってよ! いったい、どうしちゃったの?!」
「話しかけないで!! いま、考え事をしているから!!」
いつも以上に、素早く動くから追い付くのに必死になっちゃう。 本当に、何がやりたいのかが全く分からないからだ。
それに、蒼君の部屋に行くのかと思ったのに無視して、廊下の奥に向かって走る。 すると、そこにあった扉を開けるとそのまま階段を昇りつめだしたの。 そして、にこちゃんは3階への扉を―――――
カチャ――――――
――――開いちゃったの
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
さぁ~て、だんだん楽しくなってきましたねぇ。物語も中盤戦に突入しましたし、このまま急展開に持って行ってもらいたいものだ。
そして、時間と体力を下さい。あと、メンタル補給も……
最近は特につらいのです。心があったまる何かが欲しいくらい……ハァ、花陽のぬいぐるみの抱き心地スバラッ!!
次回もこんな感じで書きます。
今回の曲は、
やなぎなぎ/『嘘』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない