蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

127 / 230
第115話


Arkheros~めざめのあさ~
下天の夢


――――

 

 

―――――― 

 

 

―――――――― 

 

 

 

 

――――――カツッ

 

 

 

――眼の前にひかり輝く階段があった。 それはどこまでも続いていて、上を見上げると果てしなく高く昇って行き、首を痛めてしまうのではないかと案じてしまうくらいだ。

 

 その階段を一歩、また一歩と着実に昇っていた。

 

 

 

――――――カツンッ

 

 

 

 昇ることに慣れてくると、少しだけペースを上げる。 早歩きで進んでみる――うん、いけるな。

 

 そしたら次は、さらにペースを上げてみる。 小走り程度に段を蹴り飛ばす――うん、悪くない。

 

 そして今度は、もっとペースを上げてみる。 平面を走るように大股で思いっきり蹴飛ばし、三段飛ばしで駆けていく―――順調だ。 これならすぐに頂上に行ける!

 

 

 一本の道が空をまっすぐに突き刺していく。 手摺りは無いが、安定した足取りで進むことが出来る。 脚に引っかかるモノも無い。 故に、風が吹き抜けるような気分で天高く進んでいくことが出来るのだ。

 

 何の不自由も無いまま、俺はあの頂点に―――ひかり輝くあの場所に突き進んでいくんだ

 

 

――――――トンッ

 

 

 最後の一段を力一杯蹴り飛ばし、膝を付いて着地を決める。

 

 

 

―――やっと、辿り着くことが出来た

 

 

 おもむろに立ち上がり、辺りを見回す。 360°の圧巻させられる広大な景色と、白く輝いて見える太陽がここまで来た俺を讃えるかのように燦々と照り付ける。

 何とも言えない満ち満ちた光景だ。 眼を開き深く呼吸するだけで、こんなにも心が豊かになっていく。 この感覚はどこかで感じたモノに似ているような……

 

 あぁ、そうだ―――あの場所だ

 あの場所に立っていた時の俺と同じような感覚だ。 間違いない。 この場所こそ、俺が求め続けてきた最高の場所―――最高の舞台だ。 誰にも譲りたくない、独り占めしていたくなるほどのモノなのだから。

 またここで、多くの新しいモノを見ていくのだろう―――そうして、新たな一歩を踏み出し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――だが、

 

 

 

 

――――――ガシッ

 

 

 

―――えっ?

 

 

 足を一歩前に踏み出そうとした途端、その足が止まってしまう。

 

 なんだ?! 焦りが脳裏を走る。 視線を下に降ろすと、踏み上げたまま中空で止まっている足を“何か”が掴んで離さなかった。 それに、その“何か”は全体を黒々とさせ、どろっとした気味の悪い感触を与えてくる。 まるで、俺の身体を飲み込んでしまうかのように………

 

 

―――うあぁあぁぁっ?!!

 

 

 耐えがたい圧迫感に苛まれ始めるのを身体が覚えると、思わず狼狽を含んだ息苦しい叫びを上げてしまう。 掴んでくるそれを薙ぎ払うように足を振り回すも、一向に離れようとすることはなかった。 むしろ、絡みつくようにさらに強く握りだすのだ。 

 

 

―――やめろ……やめてくれ……っ!!

 

 

 恐怖に包まれ始める身体がそれを拒絶するかのように叫び出す。 まだ何かが襲いかかってくるんじゃないかと焦り始め出したからだ。

 

 

 その束の間――――

 

 

 湧き上がる焦燥感が現実の恐怖へと変換する――――

 

 

 

――――――ガタンッ

 

 

―――えっ?

 

 

 ふわりと身体が浮くような感覚が全身を覆う。 何が起こったんだ?! と眼を見開いたまま今の様子を体感していると、フッ…とすべてを取り去られたかのような恐怖に陥る。

 

 

 次の瞬間――――

 

 

 

 

 

 足場が崩壊した。

 

 

 俺を支え続けてきたその舞台が、砂のように粉々になって砕け落ちたのだ!! 故に、足場を失った身体はそのまま真っ逆さまに、それも急速に墜ちていくのだった。 恐怖から生まれた叫び―――腹の底から張り上げようとも今の状況は変わることはない。 むしろ、逆に悪化の一途を辿っているかのようだ。

 

 この声に反応してきたのか、さっきの黒々とした“何か”が無数に現れると堕ちていくこの身体を掴み出した。 今度は足だけじゃない、言葉通りに全身あらゆるところを滅茶苦茶になってしまうほど掴み出したのだ! 肌に触れると、痣が出来るほどに力一杯掴みだし圧迫させる。 この身に纏っていた装飾品にも掴み出し、引き千切るように乱暴な手つきで剥ぎ取ったのだ。

 

 落下していくその中で、俺はすべてを失った――――この手にしていたモノすべてを奪い去られてしまった。 どうしてこんなことをするのか!? それの返答は返ってくることはない。 それらは、ただ理不尽に俺から奪い去らせるために生まれたモノにすぎないのだと、後々になってから気付く。

 

 

 けれども、その時には手遅れ――――

 

 

 光り輝いていた視界が暗転しだすと、それから間もなく、この身体は地に叩きつけられることとなる。

 

 

 グシャっと熟々に膨らんだ果実が枝から取れて地に落ちる。 その衝撃で、中身の果汁や果肉、種子などが無残な様子で地を汚す。 それと同じく、俺の身体も生々しい肉の音を立たせ、4肢は砕け散った。 散々された四肢は身体を離れ、その“何か”によって奪われていってしまう。 腕も脚も、肢体のすべてを失ってしまったかのようだった。

 

 

 

 

 栄光から奈落へと――――

 

 

 自由から不自由へと――――

 

 

 

 光から闇へと暗転するように、すべてが一変した。まるで世界が変わってしまったかのような錯覚を抱いてしまったかのようだ。

 

 どうしてこんなことになってしまったのか……俺はただ、あの高みに昇って行こうとしただけなのに……何故こんな目に遭わなければならないのだろうか? 理不尽すぎる……

 俺は……何も手にすることが出来ないのか……? 希望もこの手からすり抜けてしまう。 夢もまた夢となって泡沫に消え去る……動くことのできない身体を抱えながら、暗く沈んだ空間でただ1人すすり泣くほかなかった―――――

 

 

 

 希望なんて―――――

 

 

 夢なんて―――――

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 

「――――――」

 

 

 

「―――い―――」

 

 

 

 

「起きろ、蒼一!!」

 

「―――はっ―――!!」

 

 

 不意に聞こえた大声によって、夢路に浸っていた頭が眼を覚ます。 見開いた目で当たりを見回すと、やや怪訝な表情を浮かばせた明弘が立って見下ろしていた。

 

 

「どうだ? いい夢心地だったか?」

「あ、明弘か……ここは……?」

「おいおい、まだ寝ぼけてんじゃねェのかぁ?」

「……いや、大丈夫だ……確かに少し呆けてはいるが問題はない……」

「……ったく、しゃんとしてくれよ? これからアイツらのメインステージが始まるんだからよぉ!」

「メイン……ステージ………あぁ、ライブ前だったな……」

 

 

 呆れを含んだ言葉にやんわり応えるが、夢現であるのには変わりない。 けど、思考が眠っているわけではない。 ハッキリとしないままだが、それなりの仕事はできるはずだ。 現に、明弘の口から零れ出た言葉から、いま自分がどこにいるのかということを思い返すことが出来た。

 

 

 つい数時間前に、ここ――スクールアイドルフェスティバルの会場に到着した俺たちは、手続きを済ませて最初のライブに臨もうと意気込んでいた。 穂乃果たちμ’sメンバーは衣装に着替えると言うことで、隣の更衣室に入っているところ。 サポートの方を洋子に任せて、俺たちは待機しているわけだ。

 

 そんで、椅子にもたれかかっていたら、うとうとし始めて……多分、ここから寝てしまったのだろう。 腕に付けた時計を確認すると、約30分は意識を手放していたようだ。 こんなところで寝るなんて、相当身体に負荷が掛かっていたのか……。

 無理もない……か……。 あんなことを知らなければ、こんなにも辛く感じることは無かったんだから……。

 

 

 

「大丈夫か、兄弟? 顔色がよくないぞ?」

 

 

 顎に手を添えて、ジッと睨むように明弘は見つめる。 そう言われて、近くにあった鏡に映して見ると、確かに肌がやや青白く変色していた。 服も上から下にかけて湿っているおり、全身から嫌な汗が湧き出ていたことが伺い知れた。 様子がおかしいことは一目瞭然だ。

 

 だからと言って、ここで休むわけにもいかず、問題ないとする様子を見せる。

 

 

「いや、問題ない。 寝起きだから血行が悪くなっているだけさ。 時期によくなる」

「そうか? あまり無茶とかすんじゃねぇぞ? いまが大事な時なんだからよぉ、兄弟が倒れちまったら元も子もないんだぜ?」

「あぁ、わかっているさ」

 

 

 

 

 心配そうに声をかける明弘に素っ気なく返すのだが、その不安は和らぐようなことはなさそうだった。 それから俺のことをまたジッと見つめると、思い悩む表情を浮かばせるのだった。

 

 

「もしや……()()()()()がまだ……」

「―――ッ!!」

 

 

 その単語を耳にすると、思わず身体が震えだしてしまう…! その時の記憶と共にいくつもの過去がフィードバックしてくるので、動揺が収まらずにいた。 忌々しい……今すぐにでも忘れてしまい事だ……。 なのに、どうしてかそうした記憶だけが強調されて頭から離れようとしないのだ。 根深く記憶付けられたそれが気持ちに影を落とさせた。

 

 

 

「そういうことなら本当に無茶すんなよ……? 蒼一自身、まだ乗り越えられるような様態じゃねぇんだしよ」

 

 

 心配を含む難しい表情で見てくる明弘に、ただ「わかってる」の一言のみを口にして会話を遮った。 これ以上、深く考えたくも無かったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おっまたせー!!」

 

 

 弾ける陽気な声が臨んでくると、その声の主である彼女は俺の身体目掛けて抱きついてきた。 一体何なんだと驚いてしまうのだが、これが彼女なりのスキンシップの現れなんだと言うことを思い出して冷静になる。

 それで彼女と顔を向かい合わせると、満天の笑みをして見せるその両頬に手を添えるのだった。

 

 

 

「まったく、急に抱きついてくるなよ、穂乃果……」

「だってぇ、早く蒼君に逢いたかったんだもん!」

「だからって……こんな人目の付くところで抱き付こうとするんじゃない」

「大丈夫だよ! 今ここにいるのは蒼君だけだし、問題ないよ!」

「そう言う問題じゃねぇだろうに……」

「…って、おいおい! 俺の扱い酷くね? それにちゃっかり俺の事をディスってねぇか?!」

「あー……弘君はいてもいなくても私たちには関係ないから安心して!」

「安心できっかよ!! ぞんざいに扱われ過ぎてて大困惑なんだけどぉ!?」

 

 

 それ完全にディスられてるぞ、お前……。

 どうやら穂乃果は俺しか眼中になかったようで、明弘の存在を忘れているようだ。 だからと言って、その扱いはどうかと思うが、どう見繕ってもアイツのメンタルライフはゼロラインを一直線している。 今の俺には手に余ることだな、と心の中で合掌する。

 

 

「ねえねえ! この衣装どうかなぁ? これすっごく動きやすいし涼しいんだ!」

「お、おう……」

 

 

 抱きつく身体を離して、自信満々な様子で俺の前に立つと、その全身を披露し始める。 ただ、その衣装があまりにも刺激的なものであるために直視することを躊躇ってしまう。

 

 というのも、穂乃果が来ている衣装というのは、チアガールの衣装なのだ。 白く華奢な肩と胸元ギリギリまで露出するお腹。 スカートもフリルを付けてかわいく見せているが、かなりの短さなのだ。 それに太ももまで伸びるニーソックスがスカートとの間に絶対領域を生み出させている。 そんな露出度高めの赤を基調としたその衣装に男心が擽られるわけが無かったのだ。

 ましてや、彼女のあられもない姿を一度目にした俺にとっては尚更のことだ。

 

 

「も~、顔を逸らしちゃだめだよぉ~! もっと、穂乃果のことを見てよぉ~!」

「ちょっ……! ほ、穂乃果…ちょっと待てって!」

「だぁ~め、蒼君が構ってくれるまで穂乃果は止めないんだからね!」

 

 

 そんな俺の心情をも無視するかのように穂乃果は、腕にしがみ付いて聞いてくる。 眉をひそませた困り顔をしつつ、上目遣いで見てくる仕草で誘って来ている……! それに、絶対わざとであろう胸のやわらかさをあざとく押し当ててくる……! ここに来て、また穂乃果が見せるかわいさに心を撃たれてしまいそうでいけない。

 ここは素直に感想を言えばいいのだろうか? いや、下手に口を零せば、これ以上のスキンシップを強要させられるかもしれない! だが、言わなければ、それはそれで嫌な感じしか起こりえないからどちら付かずで困り果ててしまう。 さて、どうしたものだろうか………。

 

 

 

……それはそうと、どうしてか分からないが、こうして穂乃果にいろいろされていることが嬉しく思ってしまっている俺がいる。 あんな夢を見た後からだろうか? 冬の寒さに耐えられず、人肌が恋しくなるのと同じように、誰かが隣にいてほしいと心の奥隅で願っているようだ。 多分、俺自身も心が凍えているに違いない。 穂乃果にギュッと抱きしめられていると、なんでだろうか、ほんのりと熱を帯び出して心地良い。

 

 その熱が、俺の氷固まった緊張までも溶かして、頬を緩ませるのだった。

 

 

 

 

「ふふっ、やっと笑ったね」

「えっ……?」

 

 

 スッ…と微熱を含んだそよ風が吹いたような温もりの籠った声が俺に臨んだ。 俺は思わず眉を引き上げ、ハッとした表情をしてしまう。 それを見てなのか、穂乃果はやさしい笑みを浮かばせて俺のことをジッと見つめていた。 そしてまた、彼女の想いに心を揺らされるのだった。

 

 

「蒼君、気付いてるかどうか分からないけど、ちょっと怖い顔をしていたんだよ?」

「そう……だったのか……?……気付かなかった……」

「そうだよ。 こんな大事な時に、蒼君がそんな顔をしてちゃ、みんな心配ちゃうんだからね? もちろん、穂乃果もとっても心配しちゃうんだから!」

「あ、あぁ……すまないな。 お前にそんな心配をかけて……」

「ううん、謝ることなんて無いよ。 蒼君はいつも穂乃果たちのために頑張ってくれているからね。 むしろ、蒼君に無理させちゃっていることを謝んないといけないのは私の方だよ」

「穂乃果………」

「あのね、蒼君。 もし、辛いことがあったら穂乃果に相談してもいいんだよ? だって、穂乃果は蒼君の親友だし、それに……あなたのことが大好きで堪らない彼女さんなんだもん♪」

「………ッ!」

 

 

 

 彼女―――そう穂乃果に告げられた瞬間、影を落としていた心に明るい光が灯りだした。 それはまるで、夜の闇を打ち消す暁のように、眩しくもやさしい温もりを感じさせてくれているかのようだ。

 それが嬉しくなったのだろう、俺は穂乃果と向かい合いたいと望んでそっと引き寄せた。 するとどうだろう、無垢な笑みを俺に向けてくれている彼女が、一層輝いて見えるのだ。 そして、こう思うのだ―――あぁ、いまの俺が求めているモノはここにあったんだ―――と

 

 

 穂乃果のその言葉に感銘を受けた俺は、思わず懐を抱きしめてしまう。 突然のことで突発的な愛くるしい驚きの声を発するが、それは最初だけ。 落ち着きを取り戻すと、慣れた手つきで俺の首周りに腕を通して抱きしめ返すのだ。 小さくて、か弱そうな身体であるが、そんなことも忘れてしまうほどの深い抱擁に心が安らぐ。

 

 

「ありがとな、穂乃果。 お前がそう言ってくれるだけで俺は嬉しいぞ」

「うん……! 穂乃果も蒼君の期待に応えられるようになりたいし、支えてあげられるくらいに頑張るからね!」

「あぁ……ああ! その時を楽しみにしているぞ……!」

 

 

「えへへ♪」と無邪気な声をあげて、俺の問いに応える彼女の姿が眩しく見えてくる。 俺が今不足しているモノを彼女は手にしている。 そのことに羨ましい気持ちはなく、ただ傍にいてほしいと願うばかりだった。 1人では辛いことでも、2人ならば乗り越えることが出来るのだろうと、ある歌のフレーズを思い出しながら晴れやかな気持ちになっていくのだった。

 

 

 

 

 

「あー! 穂乃果ちゃんするいよぉ~! ことりも蒼くんに抱きつきたいのにぃ~」

「ちょっと、穂乃果! 抜け駆けは無しって決めたはずでしょ!」

「何やってんのよ! 一番先に蒼一に触れあうのは、このにこだって言ってるでしょ! さっさと、そこから退きなさいよぉ~!!」

 

 

 乱れた足音が近付いてきたと思えば、穂乃果に並ぶヤンチャな3人がやってくる。

 物欲しそうに赤らめた表情を浮かべることり。 穂乃果に怒っているものの目線で俺にアプローチをかけてくる真姫。 そして、堂々と独占欲を口にするにこ。 そこにみんなチア衣装を着ているので、襲い掛かってくること間違いなしに思えた。

 

 

 

「こら、本番前に一体何をやってるのよ」

 

 

 呆れたような声を漏らして遮るように割り込んできたエリチカ。 割と真面目な感じに、この色付いた3人に制止をかけてくれたおかげで、俺は安堵を取り戻す。 みんなが続々とやってくるので、俺自身も抱きしめていた穂乃果を解放するのだが、少し名残惜しそうに見つめてくるのに少々戸惑ってしまった。

 

 けど、いまはそうもいかない。

 彼女たちを待っている人たちがここにいるということ、俺たちを待ち受ける時が近付いていることを自覚しなければならなかった。

 

 この期間が、俺が彼女たちに与える最後の指揮かもしれない……そう考えながらも、躊躇うことなくこの手を前につき進ませる。 そして、手に入れるんだ―――みんなが求める希望を―――!

 

 

 

 

「さあ、集まったな………準備はできてるか?」

 

 

 ライブ衣装に身を包ませる9人の彼女たち―――それを見守る、明弘と洋子、そして俺自身もその準備は整っていた。 みんな言葉を発することなく、ただ自信に満ちあふれた笑みを浮かべて頷いた。 それが彼女たちの応えなのだと理解すると、彼女たちに激励を贈る。

 

 

 

「いいか? ここでのライブがこの後に控えるラブライブに大きな影響を与える。 相当なプレッシャーがお前たちに降りかかってくるだろう……経験したことも無い逆境が襲いかかってくるだろう……。 だが、そんなモノ跳ね退けてしまえ! 自分たちがまだ未熟であることなんか気にするんじゃない、気持ちを最大限振り絞っていけ! お前たちなら行けるはずだ……何せ、俺が選んだ最高の9人だからだ! 後ろを振り向くな、前だけを進んで行け!!」

 

 

 

 ゾクッ―――――!!

 

 

 この場の空気が震撼し始める。 彼女たちから熱の籠った闘志が燃え盛っているかのようだ。 力強い気持ちがよく伝わってくる……! これなら行けるだろうと確信を抱いた!

 

 

「さあ、始めるぞ!!」

 

 

 円陣になった彼女たちの中心に手を伸ばす。 それを見た彼女たちも同じように手を伸ばし1つの輪を作りだした。 9人……いや、俺たち12人の想いを1つの輪に乗せて高らかにあげるのだった―――――

 

 

 

「穂乃果、掛け声を頼む」

「うん! それじゃあ、いくよ―――μ’s!!」

 

 

『ミュージック……スタート!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 高らかに上がる12人の手。 その1つひとつに込められた想いが今、ライブという形で具現化しようとしていた。 行ってくるね、と俺の手を叩いてステージへと走っていく穂乃果。 それに続くように、他の8人も俺の手を叩いて真っ直ぐ走っていくのだった。

 迷いのない彼女たち―――それに応えるように、行って来い、と背中を押していく。 それが俺に出来ることなのだから……。 そして、彼女たちが無事に帰って来れるように待機するのだった――――

 

 

 

 

『それじゃあ、みなさぁーん!! いきますよぉー!!!』

 

 

『聴いてください―――タカラモノズ―――!!』

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

「よし、いい滑り出しだな」

 

 

 曲のイントロが流れ始め、歌とダンスを披露する彼女たち。 この日のために準備していた新曲をすることで、ファンたちの心を掴ませるとともに、新規ユーザーの獲得も視野に入れた内容を展開させた。

 

 今回のコンセプトは『応援』だ。

 夏と言えば、海とか夏の暑さなどと言った情熱的なモノをチョイスするのが一般的なのかもしれない。 現に、他のグループでは、そうした類の曲を拵えてきて披露している。 そうした流れの中において、μ’sの場合は、そこから抜け出したような立ち位置にある。

 応援―――それは、彼女たちの前にいる観客のみならず、バックで控えている数多くのスクールアイドル達に対して向けられているモノでもある。 こうした異色のパフォーマンスを行わせることで、このステージを見ている人たちに強い印象を与えさせる。 順位を上げる投票が行われる時に、真っ先に思い浮かばせることが出来るようにという一種の策のようなものだ。 もうすでに、ユニットを結成させてライブを行わせたりとμ’sに対する関心は強まってきている。 ここまでくれば、あともう一息といったところだろうな。

 

 

 

「ふっふっふ、意外性で攻めていくことこそ、俺たちのやり方なんだよなぁ。 まして、この逼迫した状況に置いちゃ、王道路線とか言ってらんねぇもんな」

「その通りだ。 俺たちの目的は、あくまで音ノ木坂学院の存続。 それを可能にさせるためには、数多くの人にアピールしなければならない。 その看板として、アイツらは立っているんだ」

「ホント、うまく言ってもらいたいものだねぇ~。 存続の是非は確か……今月末辺りだったよなぁ?」

「最後の週に学校説明会がまたあるらしい。 そこで、最終結果が決まるそうだ」

「ひゃぁ~、思った以上にタイトな話だぜ。 だが、それはつまり、ラブライブよりもこのスクフェスで決まっちまうんじゃないか?」

「いや、まだ分からん。 この先、どんなことがあるか分からん。 しかも、厄介な相手が近くにいるからな」

「A-RISE……かぁ……。 アイツらも兄弟と同じ考えでパフォーマンスをして来ているようだな」

「そこはさすがとしか言いようがないな」

 

 

 ツバサたちA-RISEは、すでに穂乃果たちの前にパフォーマンスを行い終えていた。 こうして彼女たちの様子を見るのは初めてだが、想像以上にクオリティーは高かった。 俺たちと比較されて見劣りしないか心配だ。

 

 

「まぁ、初手で遅れたとしても残りの日程で盛り返せりゃあいい。 まだ、負けたわけじゃねぇからよ」

「あぁ、わかってるさ。 何が何でもやる抜けてやる、それが俺たちだ」

 

 

 明弘と並びながら状況考察をしつつ、穂乃果たちの弾けるようなステージを見守っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――と、そんな時だった

 

 

 

 

「おや? おやおやおやぁ~?? もしやキミたちはぁ~……?」

 

 

 のんびりとした口調で近付いてくる男性がいた。 ん? と思いながら振り向くのだが、その男性が暗がりにいるために素性を確認することは難しかった。 だから「なんでしょうか?」と声をかけてしまう。

 

 

「えぇ?! ワシを見てなぁ~んも思い出さんのぉ~? ほぉら、ワシじゃよ」

 

 

 俺の返しに驚いたのだろうか、取り乱すような声で慌てた様子で駆けてきた。 のっしのっしと重量感のある足取りと歳を感じさせるような声色が、何だか懐かしさを呼び起こそうとさせていた。

 

 あれ? そう言えば、この感じどこかで……?

 

 そう思っていた時だ。 明るいところに出てきた男性は、俺たちの前にその全身を現わしたのだった。 そして、その姿を見た俺たちは思わず声をあげてしまうのだった。

 

 

 

(次回へ続く)

 

 




新年、明けましておめでとうございます!!
今年もよろしくお願いいたしますね!!

…と言った感じで、今年も新年一発目からの投稿になりました。
先月はいろいろと立て込んでしまっていて、なかなか思うような執筆が出来ませんでしたが、今月は何とか投稿できる時間が設けられそうです。
あとは、こっちのメンタルとの闘いなのですが……


そして、今回から始まりました新編『Arkheros~めざめのあさ~』
ここがこの物語の大きな転換点となるお話です。話数的には10数話を予定しており、3月までには完結させるつもりです。
ここで話せる様々な謎と解答。そして、見つめ出す己の過去。それに向き合おうとする彼らとが紡ぎ出す物語に注目ください。

では、また。


今回の曲は、

μ's/『タカラモノズ』

更新速度は早い方が助かりますか?

  • ちょうどいい
  • もっと早くっ!
  • 遅くても問題ない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。