蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第113話


夏☆DASH!!

 ジメっと湿り気を残した夏色の空の下、セミの大合唱をBGMに俺たちは横浜の街を呑気にぶらついていた。 会場となっているところには一足早く到着し、チェックもバッチリ済ませてきだ。 そんでもって、時間がかなり余っちまったことから、こうして観光がてらに出歩いているわけさ。

 

 

 

「くぅ~……! この風、この空気、まさに横浜って感じだな!」

「そうですね。 海から舞いあがる潮風が心地いいですし、都会でありながらも自然豊かな公園に恵まれているこの環境は良質ですね」

「海の近くは涼しいにゃ~♪ もう少しこのままでいたいにゃぁ」

「せやね、ここにいたら時間も忘れてしまいそうやん」

 

 

 雄大な大海原を臨むことが出来る海浜公園で、ぼぉーっと優雅に時間を弄ぶ俺たち。 横浜に来たと言っても、特に何をするかを計画立てていなかったため、とりあえずココだと言うことで来ていたわけだ。

 

 

「しっかし、海はいいねぇ、海は。 雄大で、綺麗で、涼しい感じがしてよぉ。 ホント、心が落ち着くぜ」

「あ、明弘っ!? な、何故このタイミングでそのような恥ずかしいことを言うのです!?」

「は? 俺はただ海のことを話しただけだぜ?」

「海未は私です!」

「またこのパターンかっ!!!」

 

 

 夏恒例と言うべきか、ある意味夏が来たんだなぁと実感してしまう恒例のアレ。 つまり、海未が海に反応して『海未は私です』というツッコミが入るまでのこの流れがいつの間にか習慣化されている。 ちなみに、この流れを知っているのは、蒼一や穂乃果、ことりも含めた俺たち4人だけにしか伝わらないことなんだぜ。

 

 

 

「つか、これでもう何年こうしたやり取り交わしてんだよ? いい加減、その胸と同じくらいガッチガチな脳ミソをさ、たゆんたゆんの巨乳のように柔らかくして考え…るよりも俺の左腕が肘のところから異様な角度で折り曲がりそうなんだけどォォォォ?!!!」

「よく聞こえませんでしたが…今、なんとおっしゃったのでしょうか……?」

 

 

 Oh…This is 般若…

 

 ギロリと凝視する真っ赤な瞳、見えない大牙とを生やした修羅の如き笑みを浮かばせて、俺の腕を曲げにきやがった!! 手首のところをキュッと掴まれたと思ったら、一瞬にして俺を辛苦の淵に追いやりやがったッ!

 さ、さすがだ、海未……合気の心得も取得済みだったとは。 通りで何の気配もなく倒されるわけだ。 だ、だがこの程度で勝ったと思うなよ……これでもいろいろな闘いの中をくぐり抜けてきたんだ。 そう易々と、お前の思い通りに行くと思うんじゃな――――

 

 

 

 

 

 

「―――いかなぁ!!? もうコレ、海未の勝ちでいいからッ!! 俺が悪かったから!! だ、だから…だから、これ以上俺のレフトアームを潰さないでくれェェェ!!!」

 

 

 即決時間:コンマ2

 

 

 ごめん、無理ぽ。

 根性は痛みには勝てない。 いま、ハッキリわかったような気がするわ……

 

 

 

「……ハイ、よくできました♪ もう、決して人の心を逆撫でるような言葉を言わないでくださいね……?」

「YES YES YES YES…ッ!!! もうしないから……!! だから、その降り上がる拳を抑えてな? な? なぁ!?」

 

 

 ようやく俺の腕を解放してくれると、ニタッと女の子がやっちゃいけない形相をしながらこちらを眺めていた。 怖ェよ!! どこぞの南大門にある金剛力士像みたいな感じだぞい!! そのあまりの恐さにビビっちまいそうになっちまったじゃん!

 

 

「もぉ~! 弘くんってば、酷いよ! 女の子にとってココの大きい小さいは大切な問題だからね!」

「さすがに、デリカシーが無さ過ぎやで」

 

 

 OK。 わかった。 キミたちのその言葉の辛辣さというものがどんなものか良く理解できたぜ……ぐっ……う、腕が…泣いていやがる……

 

 だが、これだけは覚えておいてほしい……

 

 

 

「……俺は女の子の胸の大きさにこだわらないということを……」

 

 

 まるで溶解炉で融けていく人間兵器みたいにぐっと親指を立てて、開き直ってみせた。

 

 

 

 

 

―――同時に、自信に満ちあふれたその顔から断末魔が聞こえるとは知らずに――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

「いてて……ちょっとくらい手加減というものをしてくれたっていいんじゃないか……?」

「これでも手加減しているつもりですよ? 本来なら、そのふざけた思考を持つ頭に向かって蹴りを入れたいくらいなんですから」

「何サラッと怖ェことを言ってんのこの人!?」

 

 

 悪鬼すらも怖じ気付いてしまいそうな笑みを浮かべて、また拳を構え出そうとしだすコイツ。 蹴りよりもまずマッハパンチが飛んできそうで気が気じゃねェよ、まったく……

 

 

「そんなことより、これからどうするん? まだ、なんも決まっとらんけど」

「凛はおなか減ったにゃぁ~……」

 

 

 眉をひそめる希たちの呟きを耳にして、時刻が昼近くになっていることを知る。 それを意識し始めたからなのだろう、こっちも無性に腹が減ってきやがった。

 いかに、強靭な身体を拵えても空腹という敵に対しては屈服してしまう。 腹が減ってはなんとやらだ。

 

 

「よっし、そんじゃあメシでも食いに行きますか! さあ、どこ行く?」

「凛はラーメンが食べたいにゃ!」

「ええやないの? ちょうど、近くに本場の中華が食べられそうなところがあるんやし、行ってみて損はしないはずやで」

「良い考えですね、希。 観光ついでに行ってみましょうか」

 

 

 全員の意見が一致したところで、そのまま足を動かし始める。 特に、諸手を挙げて大はしゃぎしていた凛は俺たちの先頭に立っては俺たちを急かしていた。 ラーメン好きな凛にとっては、こうしたところで食べるラーメンは格別なんだろうな。

 俺自身も本格派のモノを口にすることが出来ると考えると腹が躍って仕方ない。 腹の虫も大喜びだ。 てなわけで、どっかにいいところはないだろうかなぁ……?

 

 

 

 

 

 

 

………ん? なんだ?

 

 

 公園の草むらに目を向けると、何か白い物体が横たわっているように見えた。 ちょっと待ってくれ、と凛たちに制止を掛けて、1人それに近寄って見ると………そこには、思いもよらないモノがあった!

 

 

 

 

「女の子……!……って! お、おい、アンタ! 大丈夫よ?!」

 

 

 その場で見降ろし、目に留まったのは、何とも小さな女の子だ。

 薄く透けてしまいそうな綺麗な髪。 それを、頭の両サイドを青のリボンで束ねてツインテールを作っている。 服はノースリーブのセーラーのような白い服。 下は、上に相対するかのような真っ黒のミニスカート。 そこに、太もものところまで伸びた同じく黒の二ーソックスが絶対領域を生み出していた。

 

 見た目がどうしても、にこと類似してしまいそうな雰囲気な彼女なのだが、それが何故ここで突っ伏しているのかわからなかった。

 それに、頭に飾られているネコ耳のようなカチューシャがとても気になって仕方がなかった。 最近、某フレンズの影響もあって、けも耳属性に目覚め始めていた俺には刺激が強かったのだ。

 

 

 いかん、いかん……こんなところで理性を乱しちゃいけねぇ……

 

 

 俺は目を瞑った彼女を起こそうと身体を揺すり始める。

 

 

 

「……う…う~……ん……」

 

 

 すると、気が付いたのだろうか。 彼女は唸りながらゆっくりと目を開かせたのだ。

 

 

「……こ、ココは……ドコなのデスカ……?」

「ここは横浜の海浜公園だぜ、お嬢ちゃん」

「よこ……はま……?」

 

 

 あら、かわいい声。

 彼女はそう呟くと、上体を起こしてその場に座りだした。 まだ眠たいのだろうか、目元をコシコシと指で拭く仕草をして目覚めようとしていた。 そして、パチクリとつぶらな瞳を開かせて俺のことをジッと眺めるのだった。

 

 

 

「弘くぅ~ん! 待ってよぉ~!」

「どうしたのですか、明弘!」

「何かおったんか?」

 

 

 俺が駆け出し、しばらく経ってから3人はやってきた。 俺の急な行動に驚いているのか、余裕のない表情を伺わせていた。

 

 

「おう! 何かよぉ、小さい子がこんなところで寝むっちまっていてよぉ――――」

 

 

 この現状を3人に伝えようと語り始めていたその時だった。 その思いもよらない言葉に、身体を緊張せざるを得なくなった――――!

 

 

 

 

 

 

 

「―――ありがとうございます、マスター♡ マスターは、ワタシのことを起こしてくれたのデスネ! 嬉しいデス♪」

 

「………は?」

 

 

……ます……たー……だとっ……?!

 

 その意外性1000%の言葉に、俺の表情は固まった。 まるで、どこぞの死神代行人みてぇな感じのイメージが脳内で出来あがってしまうほどに驚きを隠せなかった。

 というか、それよりも何よりも………

 

 

 

……かわいすぎんだろォォォ………

 

 

 え? 何なのこの子? そのつぶらな瞳を差し向けて、愛くるしい笑顔と仕草で俺のことをどうするつもりなの……? マスター? そこは『ご主人様』と言うのが、萌えの鉄則なはずなのに、そこをあえて『マスター♡』にするだなんて……犯罪的すぎる!!!

 そう言えば、巷では英霊召喚のスマホゲームが流行っているらしい……つ、つまり、この子もそれに影響されてしまった哀れ…いや、天使かっ?!! 英霊クラスに天使というものがあるのだとしたら、まさにこの子が大抜擢されるんじゃね? いや、してくんないかなぁ!?? というか、ヤバイ! 理性が持たない……!!

 

 

 この子の衝撃的かつ刺激的な言葉にノックダウン寸前になってしまう俺。 思わず口に手を当てて吐露してしまいそうな感情を何とか留めているという状況に………!! お、落ち着けぇ……あっせんじゃねぇぞ……! こんなところで焦るわけには…………ん? 何か背中に突き刺さるようなモノが………?

 

 

 チクチクと肌に突き刺さるような何かを感じ取った俺は、くるりと後ろを振り返った――――

 

 

 

―――それが運の尽きとも知らずに――――――

 

 

 

 

「ひ~ろく~ん……小さい子になぁ~にさせてるのかなぁ~……かなぁ~……?」

「明弘、あなたには失望しましたよ。 まさか、か弱い乙女にそのようなことを言わせるだなんて……」

「あかんねぇ……ちょぉ~っとおしおきせんとあかんかもしれんなぁ~……」

 

 

 わーお……

 

 振り向いたそこには、かなり淀ませた色の瞳でおぼろげに見つめだす3人が見降ろしていた。

 

 す、すっごーい……キミたちは、瞳の色が濁った病んでるフレンズなんだね……! あっはっは……帰っても……いいでしょうか……? あっ、ダメ? そ、そっかぁ………

 

 

 できることなら……かわいい女の子にとっちめられたかった……あっ、みんなかわいいから目的達成なのか? きゃっほーい。 このまま女の子の腕の中に埋もられながらながら「身体の節々を散々なほどに痛みつけられながら絶叫パターンに入ってしまって、あ“あ“あ“痛いィィィィィィィ!!!!!!」

 

 

 日差しが散々照りつける昼下がり。 俺は美少女3人に身体中を痛みつけられながら果てていくのだった………

 

 

 

 

 

 

「お……俺がこんな状態になっても……俺は……見ているからな……お前たちがライブを成功させたその先に……俺は待っているからな……だから……止まるんじゃ…………ねぇz

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずあ“あ“あ“あ“!!! 関節関節ゥ!!!? そこの関節はそっちに曲がりませんんんん!!! お客様ぁいけません! それ以上はいけない! それ以上は……」

 

 

 ゴキッ

 

 

 

 

 

 

「アアアアアアアァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

―――ちょっと、星になってくるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

―――

――――

 

 

 

 

 おいおいおい、やべーよコレ。

 なんかよくわかんないけど、関節が恐ろしい方向に曲がったと思ったら、また元に戻ると言う経験をしちまったぞオイ……

 関節貫きって初めて実感したかもしれない……でも、もう勘弁してください。 真面目に痛かったんで……

 

 

 そんな、嫌な…事件だったね……ということから少し時間が空き、3人の熱も大体下がったあたりでようやく誤解が解けた。

 ことの発端であるこの子―――1000ちゃんは、少々震え気味になりながらも悪鬼と化っしたリリーなんとかを懐柔してくれたわけだ。 というか、悪鬼に見える妖精ってどうよ? って話は置いておこう。

 この1000ちゃん曰く、俺たちのことを何故か『マスター』と呼ぶことにしているらしい。 にこが言っていた、いわゆるキャラ付けってやつか? それをずっと言ってたらしく、つい俺のこともそう呼んでしまったらしい。 ちなみに、この3人に対してもそう呼んだので、落ち着きを取り戻したそうだ。

 

 

 んで、この行き倒れしていたこの子を連れて中華街に入ったわけなのだが………

 

 

 

 

「ハイ、明弘さん♪ あっつあつのから揚げデスヨ!」

「え? あ、うん……それじゃあ、遠慮なく……」

「えへへ♪ どうデスカ? おいしいデスカ?」

「あ、うん。 おいしい……な……うん……」

「わーい! マスターに喜んでもらえマシタ!」

 

 

……一緒に食事をすることになった&何故か、御奉仕してもらってるぅぅぅ!!?

 

 

 この子が行き倒れていた理由が空腹だったのだと、彼女の言葉からそう直感した俺は、ちょうどいいからということで一緒に食べようと誘ったわけだ。 すると、「起こしていただいただけでも嬉しいのに、奢らせていただけるなんて……ワタシ、マスターのためにガンバリマス!」と言って、俺の席の隣でから揚げをあーんしてくれることになってしまった……

 

 個人的には嬉しい。 今にも天に昇ってしまいそうな昇竜拳をザンギエフにかまして、KOさせてしまいそうになるくらいに嬉しい……けど、それを3人からの冷たい視線を浴びながらのコレは正直、生きた心地が全くしない。 いい意味でも、悪い意味でもな……

 

 こんな周りの空気に臆することもせず、彼女―――1000ちゃんは躊躇なく、俺の口にから揚げを入れようと努めていた。 それも、満面の笑みを浮かべてさ。

 

 

 

「明弘、顔が歪んでます」

「んなっ!? そんなバカなっ!」

「ホンマやで? めっちゃニヤニヤしてて変やで」

 

 

 向かい側に座る2人から心がこもっていない冷たい言葉を浴びせられる始末よ。 というか、今の俺はそんなに歪んだ表情をしていたのか? き、気が付かなかったぜ……あまりにも、非日常的なことが起っちまっていたから、ついつい無意識にやっちまったんだろうよ。

 

 くっ……! だ、だが……周りから何と言われようとも、この状況を止めるわけにはいかねぇ! なんせ、こんな超絶美少女にあーんだぞ? こんなん、一生の内で何回遭遇できるかというレベルでないと思うぞ! だから、俺はこの瞬間を全力で味わい尽くすのだよ!!!

 

 

「ハイ、マスター! ちょっと、熱いようなので、ふぅーふぅーしてあげマスネ♪」

「なん……だとっ………?!」

 

 

 本日、通算2度目の死神代行人登場なんだぜ☆

 

 ふぅーふぅーだとぉ?! おまっ、それはイカンヤツだろぉ!? そんなんされるなんて、全脳内俺がスタンディングオべーションで歓喜するわ!!

 

 気持ちが高揚する中、1000ちゃんは少し大きめなから揚げを爪楊枝で刺すと、その小さな口から「ふぅーふぅー」と息を吹きつけた始めたッ!! あ、アカン……!! その『(><)こんな感じ』な目で必死になって息を吹きかける様子がかわいすぎて動悸が早まってしまう!!

 うっ……! と胸を撃たれるような気持ちになりながら、1000ちゃんは笑顔でそれを俺に差し向けてきた。

 

 

「ハイ、マスター♪ ちょうどいい感じになりマシタヨ♪」

「う、うん……ありがとな……」

 

 

 確かにいい感じだよ……うん、意味深。

 それを一口で頬張ると、思った以上にジューシーな肉汁が口の中で溢れだす。 それと、ほのかに感じる微量の甘味……! 先程まで口にしていたモノからは感じなかったのに、これには感じる……つまり、この味は………

 

 

 

 ぐふっ!! ダメだ、これ以上は想像してはいけない!! 官能的な甘味によって俺がガチで死んでしまうではないかッ!!

 

 

「お味の方は大丈夫デシタカ?」

「大丈夫。 バッチグーだぜ、1000ちゃん☆」

「わーい! マスターに褒められマシタ!」

 

 

 内心恥ずかしさのあまり悶絶してしまいそうになる俺とは相対的に、彼女は無邪気に喜びを表しているのが何とも言えないことだ。 うむむ……ダメ。 本当に恥ずかしすぎて顔が熱くなってきやがった。

 

 

 

 

 

 

「むむむぅ……」

 

 

 気持ちが高揚していた中、こちらも俺の隣に座っていた凛が執拗に身体を寄せ始めてくる。 それが気になって顔を向けると、頬を膨らませて俺をジト目で睨んできていた。

 

 すると、凛は持っていたラーメンの器を持って俺に向けてくると、

 

 

「凛も弘くんにあーんしてあげるにゃぁ!!」

 

 

 と言ってきた。

 

 

「待て待てぇ! まさか、そのアッツアツなモンをそのまま俺に突っ込ませるつもりなのか!?」

「大丈夫だよ! 凛も弘くんが火傷しないようにふぅーふぅーしてあげるにゃぁ!!」

「どゆことよ、それ?!」

 

 

 驚愕する俺に、こっちも躊躇することなく箸で持ち上げられたアッツアツの麺を突きだしてくる。 白い湯気を立ち上らせて、見るからに舌を火傷してしまいそうになるのがわからないの?! 迫り来るそれを避けようと身体をのけぞらしてしまう。

 

 すると、俺がそれ食べようとしない様子に、凛は寂しそうに視線を落とす。 そして、うるんだ瞳をこちらに向けて訴えかけてくる。

 

 

 

「もしかして……凛のこと……きらい……?」

「?!!」

 

 

 その質問は反則だろぉぉぉ!!?

 

 雷が脳天に直撃するかのような衝撃が走る! 切なげに、苦しそうな表情で問いかけられると、拒否など出来ないじゃねぇーか!

 

 

「ええい、ままよ!!」

 

 

 冷や汗をだらだらと垂らしながら、火傷覚悟でそれを頬張る―――――!!

 

 

 

 

 アッツゥゥゥ!!?!!? 想像以上に激アツ!!! 口の中でジュージュー焼き焦げるような熱が直接喰らってるんですけどぉ?! あついあついあつい!!! 火傷どころか口の中が爛れてしまう!!

 

 口内大炎上を起こしている中、ふと視線を上にあげると、とても嬉しそうにしている凛の姿が。 これは、どう足掻いても吐き出したりなど出来ないな……と悟るほかなかった。

 

 

 

「お、おいしいな……このラーメン……!」

「ホント?! えへへ、よかったにゃぁ~♪」

 

 

 ほ、ほんと…おいしいなぁ……口の中と胃がマッハで焼き焦げるくらいに……

 

 この頑張った俺に称賛を与えてくれよ……

 

 

 

「マスター! ワタシのから揚げもちゃんと食べてくさいネ!」

「うぉっ?! この状況からのから揚げのコンボはキツイかも………」

「ガーン……ま、マスター……食べてくれないのデスカ……?」

 

 

 てひゃあっ?! な、なんでそんな目で見てきちゃうのぉ……?

 うるうると目を滲ませて、ガチで泣きだしそうなこの雰囲気。 マズイ……この場で泣かせてしまっては俺のメンツがいろいろと危うい。(すでに、崩れ落ちている可能性が高いだろうけど) こんな小柄な少女を泣かせたら、まず周囲の大人たちからの激しいバッシングに合うこと待ったなしだ。 ただでさえ、ちょっとどこぞのラノベ主人公な展開になりつつあったし、それ相応の攻撃があってもおかしくない。

 

 熱中症になりかけるほどに水分が不足する中、要らぬ汗をまたしてもダラダラと垂らしまくってしまう。 大丈夫大丈夫……口の中が真っ赤に腫れ上がって、少し触れたら涙が出るくらい痛いってのはよく分かっていることさ。 あとは、そこにカリッカリでアッツアツのから揚げを放り込んで生きていられるかが問題だ………!

 

 腹をくくれ、俺! そして、クールになるんだ、俺!! 大丈夫、どうにかなるって。 ドントウォーリー、ビーハピィだッ!!

 

 苦し紛れの空元気で何とかやり過ごそうとする俺。 さあ、かかってこい! もう、何も怖かねぇ!! 野郎、喰い散らかしてやるゥゥゥ!!!

 

 

「さあ、1000ちゃん! キミのから揚げを俺にくれ!!」

「!! ハイ、マスター! ワタシのとっておきのから揚げを召しアガレ♡」

 

 笑顔満点、気分満点の彼女の手から俺の口の中に、から揚げ(岩石)が放り込まれていく――――

 

 

 

 

 ガリッ

 

 

 

 

―――それで、口内が酷くなってしまったのは言うまでも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方――――

 

 

「凛ちゃんもかわいとこあるんねぇ~♪」

「はい、とても微笑ましいですね♪」

 

 

 何故にか、海未と希が微笑ましい様子で俺たちのことを見守っているのだった。

 

 

 

 

 

 

――

―――

――――

 

 

 

「おー……いてぇ…いてぇ……」

 

 

 口の中を真っ赤にしながらも2人からのアプローチに負けた俺は、案の定、出血大サービスな状態になっちまった。 あー……傷口から血がぴゅーぴゅー出てんのが見なくても分かるわ……食べ物食って、こんなに痛い目に合ったのは初めてだぜ………

 

 

「弘くん……だ、大丈夫かにゃ……?」

「はわわ、大丈夫デスカ、マスター?」

 

 

 その原因を作り上げたお2人さんは、申し訳なさそうな表情を浮かべて、俺の頬に手を添えていた。 つまりだ、右を凛、左を1000ちゃんが愛らしい手で俺の頬をすりすり摩ってくれているってわけよ。 やっ、これは不幸中の幸いか?! 軟らかくって生温かい手のぬくもりを感じつつ、頬を摩られるってマジ最高だわぁ……! これなら、傷付いた俺の口内も完治してしまいそうだぜ!

 

 

 

「はぁ……いい加減、あなたのその緩んだ表情を何とかしてはどうでしょうか?」

「むごっ?!」

 

 

 ジト目で見下す海未からの冷たい視線がまた突き刺さる。 まるで、何か悪いモノでも見ているような目じゃねぇーか!! 心外だぞ、まったく。 俺がこんなことで顔を緩ませるはずが無いだろう。

 

 

「わー! 弘くんの顔、すっごくとろけちゃってるにゃぁ~!」

「す、スゴイデス! まるで大福餅みたいに柔らかくなってマス!」

「ダニィ?!」

 

 

 そんなばかなっ?! 俺の表情筋がそう簡単に緩々になっているはずが………

 

 

 

「わーお……ほんとに緩々だわー……かなり、緩々なことになってるわー………」

 

 

 自分の顔をスマホのカメラで確認してみると、気持ち悪いほどに緩んでいるのを見て思わず吐き気が……オロロロ…

 

 

 

 

「まったく、このようなバカは置いておきましょう」

 

 

 バカ言うな、バカって!

 

 

「それよりも、あなたはどちらに行くつもりなのですか?」

「せやね、まだ1000ちゃんの目的地を聞いとらんかったわ」

 

 

 そう言えばそうだ。 行き倒れていたとこを助けてから名前くらいしか聞かなかったしな。 そもそも、同伴者がいたのかすら不明だった。

 

 すると、ハッと何かを思い出したかのように目を見開きだすと、慌ただしく声を荒げた。

 

 

「はわわ!! から揚げのことばかり考えていたら、一番大事なことを忘れちゃってマシタ!」

「……って、忘れてたんかーい!!」

 

 

 一番大事なことまでも忘れてしまう、から揚げへの探求心とは一体!? というか、それは忘れるものなのかぁ?

 

 

「こ、こうしてはいけないデス。 早く、運営さんのところに戻らないとデス!」

 

 

 彼女は今の時刻を見つめると、慌てふためきだし、そのまま走って行こうとしていたのだ。

 

 

「お、おい。 自分が行くべきところって、分かってんのか?」

「ハイ、大丈夫デス! 目的地のことも分かってますし、地図のデータも把握しているのでバッチリなのデス!」

 

 

 そう自信満々に彼女は声をあげるのだが、正直言って俺にとっては心配だ。 あんな小さい子が1人でいるところをみると、はじめてのおつかいで我が子を電柱の陰から見守りたいという気持ちと同様な思いが心に残るのだ。

 

 けれど、そんな俺の心配をよそに、彼女は俺たちからだんだん離れていくのだった。 気が付けば、視認できるかどうかの距離にまで広がっていたのだ。

 

 

 

「それでは、マスター!! また、お会いしましょうネ!!」

 

 

 片手で大きく手を振りながら、1000ちゃんの姿は人ごみに紛れてゆき、終いには判別できないほどに見えなくなった。 俺はそこにいるだろう彼女に対し、小さく手を振り続けるのだった。

 

 

「何だったんだ……あの子は……?」

 

 

 俺も含めて、ここにいる全員がきっと同じことを思っているのだろう。 突然見つけたと思いきや、突然いなくなるというこの感じ。 まるで、風のような子だったなぁ………左右に揺らしていた片手を下ろしながら、そう思うのだった。

 

 

 

 すると、腕に何かが当たる感触を抱くと思いきや、凛がギュッと抱きついてきていたのを見て驚いた。 しかも、何故か頬を膨らませたまま俺のことを見ているので、益々分からなくなってくるのだ。

 

 

 

「もぉ~! 弘くんってばぁ~、凛たちも早く行かないと間に合わなくなっちゃうにゃぁー!」

 

 

 ハッと我に返るように時計を見ると、確かに出場時間まであともう少しってところまで来ていることに気が付いた! これはマズイと感じて動こうとする中、先に凛が俺のことを引っ張り出して会場まで連れて行こうとするのだった。

 

 

「ちょっ!?! そんなに走らなくてもいいじゃんかよ!?」

「だぁ~め♪ そうやって弘くんは時間ギリギリに行こうとするんだから。 今から凛が引っ張っていくにゃぁー!」

 

 

 ぅおぉい!! と凛を無理やり止めようとするのだが、その意志は強く、結局引き摺られながら連れて行かれるのだった。 だはっ?! こ、この体制はキッツ!! そ、それに……腕の辺りにうっすらと柔らかな感触が………あ、ヤバイ、動悸が早くなってきた………

 

 

 顔をやや紅潮させているだろう俺は、凛にされるがままにこの身体をどこかへと誘いだそうとするのだった。 はぁ……今日は女難の相でも出ていたんかなぁ………?

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、あんなに必死になる凛ちゃん。 ちょっと、かわええなぁ~♪」

「ここで一気にアピールするのみですよ。 頑張ってくださいね、凛」

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

「「「ありがとうございましたー!!!」」」

 

 

 大歓声がわき上がる中、無事にリリホワのライブは終わりを迎えることが出来た。 μ'sの曲を一曲入れてからの『あ・の・ね・が・ん・ば・れ』と『微熱からMystery』の2曲で大盛り上がりだ! 特に、『微熱』の方は真夏の海辺にはピッタリの曲だったから観客の反応も上々ってわけだ。

 

 おっと、ちゃんと録画もさせてもらっているから抜かりないんだぜ!

 

 

 

「ほい、お疲れさん」

 

 

 滝のような汗をびっしょりかいてきた3人にタオルを差し出すと、各々それを取って身体を拭き始めた。 特に、希の汗の量は他2人と比べて多く、手渡したタオルを服の中にまで忍ばせて拭き始めるのだった。

 

……俺がいるのになぁ………

 

 

 

「―――明弘、何を見ているのですか?」

「う、海未…?! い、いや、何も見ておりませんが………」

「いま、とてもイヤらしい視線を希に向けていたような気がしまして……」

「そ、そそそ、そんなことないよー」

 

 

 背後から現れる刺客(海未)に背筋を凍らせるも、身体は動悸を速めて熱を帯び出していた。 ま、まずいなぁ…俺は見ていたつもりはないのだが……その、何かに吸い込まれるような気がしてだな………俺は悪くない。 何も悪くないもん……!

 

 

 

『次、アーティスト入りまーす!』

 

 

 ステージスタッフの声が出ハケと呼ばれるこの待機場にまで響いてくる。 次のスタンバイでバックヤードたちが慌ただしく動き始め出す。 さて、次がどんなヤツが上がるのか見てみたいモノだぜ。

 少し気持ちを高揚させつつ、俺たちしかいないこの場所からの撤退の準備を整えていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。

 

 やっば……もう来たのかよ……!

 

 

 心の中で愚痴をこぼしつつ片付ける手を動かしていた。

 

 

「すんません、あともう少しで退室しますんで―――」

 

 

 もう聞こえる範囲内にいるだろう相手に気を遣うように声をかけると、

 

 

 

 

「くすくす♪」

 

 

 

 無邪気な笑い声を耳にしたのだ。

 しかもそれが、どこかで聞いたことのある声だったので、思わず振り返ってしまう。 すると、そこに立っていたのは―――――

 

 

 

 

「また、お会いしまシタネ! マスター♡」

 

『1000ちゃん?!!!』

 

 

 紛れも無い、1000ちゃんそのものだった。

 

 しかも、彼女が身に着けていたその衣服が、まるでアイドルの衣装のようだったのだ。

 

 

「1000ちゃん……! もしかして、次にステージに立つのって……」

「ハイ! ワタシですヨ、マスター♪ ワタシの歌とダンスで、多くのマスターたちを笑顔にさせるのがワタシのお仕事なのデス!」

「そうだったのか?! いやぁ……分からんかったわ……」

 

 

 この衝撃の事実に戸惑いを隠せないでいる俺たち。 何せ、ついさっきまで一緒に食事をしていたこの子が、アイドルをやっていたなんて思いもしなかったからだ。 いや、普通は考えられないでしょうよ。

 

 

「もしかして、あなたはたった1人でステージに立つというのですか?!」

「ハイ! 本当ならあと2人こちらに来る予定だったのデスガ、スケジュールの問題で一緒にできなかったのデス……」

「大丈夫なん? 心細くないん?」

「いいえ、大丈夫デス! ワタシ1人でも歌ってみせますし、それに――――」

 

 

 会話の途中に、彼女の視線がこちらに向かった。 すると、俺のことをジッと見るめると小走りに近づいてきたのだ。 お互いの目と目が合う中、彼女はニッコリ微笑んでこういったのだ。

 

 

 

 

「今日は、マスター明弘さんからたっくさん元気を貰ったので、大丈夫なのデス♪」

 

 

 おうふ……だ、だめぇ……星のように煌めいた表情が俺の心をグッと掴むのだからしんどい。 でも、嬉しい悲鳴のようなもので悪い気持などしない、むしろ幸せな気分になるモノだった。

 かぁー! こういうふうに言ってもらえるだなんて、最高かよ!!

 

 思わず、ガッツポーズを決めてしまいそうになるのを堪え、彼女の前では平静を保とうとしたのだった。

 

 

 

 

 

「そうデシタ! まだ、マスターにお昼のお礼をしていませんデシタネ!」

 

 

 

 

 そういうと彼女の指示で俺はその場で屈むと、次の瞬間――――

 

 

 

 

 

 

 

 チュッ♪

 

 

 

 

「ッ?!?!!」

 

 

 おでこの辺りに残る柔らかな感触、それとぬくもりが感じられた! い、今、彼女は一体何をしたんだ……??? あまりにも唐突なこと過ぎて脳がついていこうとしなかった、というより、脳がオーバーヒートを起こしたみたいに大炎上なんだよぉぉぉ!!

 

そんなことより、その様子を見ていた3人も同じく驚愕な表情をしてこちらを見つめていたのだった。

 

 

「にゃっ! にゃ、にゃにゃぁ?!! な、何をしているんだにゃぁぁ?!!」

「何って、お礼デスヨ。 ワタシのお友達からこのように、おでこに唇をあてるといいと言ってましたので、早速やってみたのデス♪」

 

 

 友達の影響ですぐにやったって感じかよ!! 覚えたてのことをした上がる子供あるあるなんだろうけどさ、無邪気すぎんだろ!? それにその友人よ!――――

 

 

 

 

 

―――サンキュ、お前に感謝だぜ…………!!

 

 

 

 

 

「それではみなさん、またお会いしましょうネ♪」

 

 

 無垢な表情で笑ってみせると、そのままステージの方に向かっていき、集まる観客たちの声に応えていたのだった。 直前にあんなことをやっているのに、平然としているとは……まったく、強靭すぎるぜ……!

 

 

 彼女のその姿勢に感動している中、またしても背中から不穏な空気が………

 

 

 恐る恐る振り返ってみると、今度は凛のみがすごく不満そうな顔をして俺を睨んでいたのだった! それに驚いていると、凛は俺の襟のところをガッシリと掴んで俺を引き摺り始め出したのだ!!

 

 

「凛! 凛!! りーん!! 首が苦しい、動き辛い!! やめて、そんなに引っ張るなよ?!!」

「ふん! 初めてあった子にあんなことまでさせた弘くんが悪いにゃ! お仕置きが必要なんだにゃぁ!!」

 

 

 な、なんで凛が怒ってるんだよ!? つうか、海未にじゃなく凛なのかさえもまったくわかんねぇよ! どういうことか説明してくれよぉぉぉぉぉ!!!?

 

 

 

 酷い状態で引き摺られながら俺たちは会場を後にするのだった。 それでも、ステージから聞こえてくる彼女の声と、それに応える声援とがかなりの迫力であったということを知る遠征であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫉妬しとるねぇ~。 いやぁ~凛ちゃんにもとうとう青春が来たんやね~♪」

「その前に、あの恥じらう様子をどうにかしないとうまくいきませんね」

「うーん……難しいやろうな。 けど、なんとかなるんやないの?」

「そうですね。 時が経てば、の話ですけどね。 ふふっ、楽しみです♪」

 

 

 

 帰り道、終始2人はクスクスと笑っていたそうな。

 

 

 

(次回へ続く)




ドウモ、うp主です。

1000パに行きたかった………

そんな悲しい俺に出来ることは描くだけなんだと悟りながら描いてました今回の話。リリホワの遠征先を神奈川に指定させたのもそのためだったりします。

本来ならば、1000ちゃんの地元・厚木市でやればと思ったけど、あえて横浜にさせたのは………


僕の趣味さ。


てなわけで、1000ちゃんがクロスオーバーすることが出来ました。どういうキャラなのかは、公式ページで確認しちゃってください。


次回は、遠征編の最後になります。どのキャラとクロスするかはお楽しみに。




今回の曲は、


1000ちゃん/『1000☆CHANCE!!』

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