蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

124 / 230
第112話


俺の妹とこんなに喧嘩するわけがない。

 

 

 どうも! みなさんの愛読書、音ノ木坂学院新聞の取材・構成・発行などなどを担当します、島田洋子です♪

 今日はなんと……穂乃果ちゃんたちPrintempsのみなさんと共に千葉県に来ちゃってまーす! 東京から電車で数十分、ここは千葉の中心部であり、都会的な空間なところです。 それなのに、空気はおいしいし、街も綺麗という何とも素晴らしいところじゃないですか!

 

 

 

 さて、私たちはいよいよ近付いてまいりました、ラブライブに向けての前哨戦とも呼べる地方ライブ。 参加者はどこの県からでも自由に参加することが出来るという大盤振る舞いなモノです。 しかし、同日に他の都道府県でも行っていると言うのですから、他県からの参加者というのは少ないことでしょう。

 

 その中で、私たちは東京勢として、音ノ木坂のμ’sの1メンバーとしてここにいるお客さんにアピールしていかなければなりません。 私たちが優位に立つには、東京のみならず他の県からの応援が必須になるだろう、という蒼一さんの提案で3つのグループが各地で頑張っているのです。

 今も他のみなさんは頑張っているものと想像すると、我々も負けてはいられません! ここでしっかりと稼がなければなりませんね! まさに、ファイトです! ふふっ、穂乃果ちゃんのクセが染み付いてきちゃってるようですね♪

 

 そんな心晴れやか、空を見上げれば快晴という絶好のライブ日和!

 何事もなければよいのですが………と言ってる傍からまさかの展開が――――――

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉ?!! な、なによこれぇぇぇぇ!?!? すっごくもちもちしてるじゃないのよ、花陽ちゃん! それにとってもカワイイわぁ~♪ 天然癒し系にぽっちゃりが含まれたこの感じ……イイわ! このまま私の妹にしたいくらいよ!!」

「やっ、やめて……ください……!! ちょっ、くすぐったいですよぉ~~~……」

「ええじゃないか、ええじゃないかぁ~♪ ふっふっふぅ~……それに、あなたもカワイイ! キラッキラ輝く笑顔と元気一杯なところが正統派ヒロインって感じでたまらないわ!! あなたも私の妹にしてあげたいくらいよ!!」

「えっ?! ええっ!?! ほ、穂乃果が妹!? そ、そんな急に言われてもぉ~………」

「ああん♪ それにことりちゃんのこのやさしい香り……もう好き! 細いのにしっかりとしていて、尚且つ抱き心地感が抜群にフィットしているわぁ~~♪ まるで天使を掴んでいるような……もぉ~~あなたも私の妹候補よ!!」

「ふえっ?! わ、私も妹になっちゃうんですかぁ?! そ、そんなぁー………」

 

 

「な、なんですか……これ……?」

 

 

 

 穂乃果ちゃんたち3人は、ライトブラウンのロングヘアを靡かせた超絶美女に、絶賛抱きつかれているご様子……い、いえ、拉致寸前になっていますぅぅぅ?!! だ、ダメですってばぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 前日――――

 

 

『助っ人要員?』

 

 

 突然のことに素っ頓狂な声を上げてしまう私たち。 蒼一さんの口から聞かされたのは、まさに驚きの言葉でした。

 

 

「本来ならば、俺が行くべきなんだろうが、どうも予定が合わない。 明弘も明日、海未たちと共に神奈川に言ってもらうことになった。 必然的に洋子と一緒に行かせることを考えたのだが、どうも心配でな。 そしたら、俺の大学の先輩の知り合いが買って出てくれたわけさ」

「そのぉ……大学の先輩の知り合いというのは……?」

「何やら、長年付き合いのある人物らしい。 とても信用できる人だって聞いてる」

「へぇ~そんな人が一緒に居てくれるんだぁ~……でも、穂乃果は蒼君と一緒がよかったなぁ~」

「そう言うなよ。 3つのライブが丸被りなんだからさ。 身体が3つあればよかったけどさ……」

「それってつまり、3人の蒼くんに囲まれる生活を送れるってこと!? うわぁ~夢みたい~♪」

「おい、ことり。 人の話を聞いてたか? 何、妄想の世界に入り浸ってんだよ! それに俺が3人もいたら怖ぇから!!」

 

 

 前日の打ち合わせもいつもと変わらない感じにとり行っていたわけで、あまり心配することもなかったと言うのが真実ですね………

 

 

「あぁ、そうだ。 ちなみに、その助っ人に来てくれるのは、男性と女性の2人で兄妹らしい。 それに、妹の方は俺たちのことを知っているらしい」

「へぇ~、穂乃果たちのことを知っているんだ!」

「ということは、ファンの人っとことなのかなぁ……? ちょ、ちょっと緊張してきましたぁ……」

「大丈夫だよ、花陽ちゃん。 普段通りにしていれば問題ないよ」

「そうそう、あまり気負いしないでくれよな。 それと……沙織さん曰く、ちょっと変な性格の持ち主らしいから気を付けて、とのことだ」

「ふぇ?! お、オーナーの知り合いだったのぉ!?」

 

 

 “沙織さん”という言葉に敏感に反応することりちゃんは、目を真ん丸にして驚いていました。 ん? 沙織さんって言えば、確か……あのメイド喫茶にいたあの人のことでしょうかねぇ……? むむむ……話はしていませんがかなりクセのある人と見えましたが……となると、その助っ人も同じ類ということでしょうか?

 

 ちょっとだけ、心配になってきました………

 

 

 

「―――ということだ。 それじゃあ、明日は存分に楽しんできてくれ♪」

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 

 

 その心配はちょっとどころの問題ではないのでした……

 

 

「―――と、言って送り出してくれたのはいいのですが……なんなんですか、あなたはぁ!! いきなり、穂乃果ちゃんたちに抱きついてきて!! 変態ですか? 変出者なのですか?!」

「し、失礼ね! 私は列記とした、アナタたちの同行人よ! 1日中、アナタたちのことを見守ってあげるんだから感謝してもらいたい方なんだけどねぇ~!!」

「どこに、出会い頭にみなさんの身体を抱きしめる人がいるのですか?! この場に警察がいたら即刻逮捕をお願いしているところでしたよ!」

「残念でしたぁ~。 ウチはパパが警察官やってるから逮捕されてもすぐに釈放されますから~」

「うわぁ……大人げないことしますねぇ……あなた……」

 

 

 千葉の駅に降り立ってから数分。 待ち合わせの場所に来た瞬間に、穂乃果ちゃんたちは、長身・ロングヘアの美女に抱きつかれると言う事案が発生。 すぐさま、払い除けてこの人を叱っているのですが、その言い訳とかが子供染みて呆れてしまうくらいです……何なんですか、この職権乱用変出娘は?!

 

 

「はいはい、お前らその辺にしろ。……ったくよぉ、いきなり走り出すから何事かと思ったら、また女の子に手を出そうとして……しかも、年下に」

「いいじゃん、別にぃ~! 目の前にこんな超絶カワイイ生き物がいたら、誰だって飛び付きたくなるじゃないの!」

「初対面の相手に抱きつくバカがどこにいるんだよ?!」

「ここにいるわよ!!」

「確かにそうだが、確かにそうかもしれねェが……少しは良識を学べェ!! あと、褒めてねェ!!!」

 

 

 一方で、とんでもないくらいに暴走し続けるこの女性を諫めようとしているこの男性。 顔付きなどがこの女性とどことなく似ていますし、蒼一さんのおっしゃってたことを考えますと……もしや、この方が……

 

 

 

「―――っと、すまないなキミたち。 ウチのバカ妹が迷惑かけちまってよ」

「ホント、蹴飛ばそうかと思っちゃいましたよ……何なんですか、あの人は……」

「すまん。 あの性格はもはや取り返しが付かないんだ……察してやってくれ……」

「あっ……はい」

「コォルゥラァァァァ!! そこで私のイメージをガタ落ちにさせないでくれる!? これでも、純潔清楚な女性として扱われているんだからね!!」

 

「「いや、それは無い」」

 

「ハモって否定するなぁ―――!!!」

 

 

 どうやら、この人のイメージというのは、このお兄様の中でもよろしくないのでしょうね。 でも、悲しくないです、何故でしょうか……?

 

 

 

 

「そう言えば、紹介が遅れちまったな。 改めて、俺は高坂 京介だ」

「どうぞ、よろしくです。 京介さん」

「ふふん! ちなみに私は、その妹の高坂 桐乃よ!」

「あぁ、ハイ……どうもです……」

「反応薄っ?!」

 

 

 大きなリアクションを示す桐乃さんは、どうしてそんなに辛辣なの? と聞いてくるような顔をしてくるのですが、ハッキリ言って私から見ても不審者の何者ですらないのですよ。 というか、自覚して下さい。

 

 

 

「えっ、高坂桐乃って……もしかして、ファッションモデルをやってらっしゃる人ですか……?」

「うん、そうだよ」

「わあぁぁ!! ほ、本物のカリスマモデルの高坂桐乃さんだぁ~!! は、初めまして、私は―――」

「南ことりちゃんでしょ? それくらい知っているわよ♪」

「えぇっ?! 私の名前を……あ、ありがとうございます!!」

 

 

 ことりちゃんがあんなに嬉しそうにしているだなんて、めずらしい……ファッションモデル、と言うことは、ことりちゃんがいつも読んでる雑誌に関係するのでしょうかね?

 

 

「それで、アナタが小泉花陽ちゃんね! 今日はよろしくね♪」

「よ、よろしく…おねがいしますぅ……!! はわわ…い、一流モデルさんと一緒に……! き、緊張し過ぎて穴でも掘りたいくらいですぅ………」

「あはは、穴を掘るって……雪歩ちゃんじゃあるまいし……」

 

 

 花陽ちゃんはいつも通りの感じですね。 初対面の人だと、あんなに緊張しちゃいますからね。 というか、抱きついてましたもんね、さっき。 緊張よりも怖がられているの間違いなのでは?

 

 

「そして、アナタがμ’sのリーダーの高坂穂乃果ちゃん!」

「はい! 高坂穂乃果です!!」

「うふふ、うわさ通りの元気っ子ね。 それに名字も同じって、なんだか運命を感じちゃうわねぇ~」

「本当ですね! 私も何かを感じちゃっているような気がします!」

 

 

 確かに言われてみれば、穂乃果ちゃんと同じ名字なんですよね。 なんだか、不思議な感じがしますね。

 

 

……って、何でしょうかこの感じ……急にいやぁ~な雰囲気を感じてきたのですが……まさか……

 

 

 

「ッ~~~!! か、カワイイッ……! ね、ねえ、穂乃果ちゃん……わ、私のことを『お姉ちゃん』って呼んでくれないかしら……?」

「え? ど、どういうことです……?」

「いいからおねがぁい! 一回だけでいいから、ほんのちょっとでいいから言ってくれないかしら?!」

 

「「やっぱり、やりやがったぁー!!!」」

 

 

 桐乃さんの突然のことに思わず声を張り上げてしまいました! 公衆面前にもかかわらず、お姉ちゃん呼びを強要させるってどういうことです?! まったく躊躇ないですよ、この人!!!

 

 そう言えば、いま京介さんと声が被ってしまいましたね……この人も妹さんのことで頭を悩ませてそうですねぇ……ご苦労様です。

 

 

「こらバカッ! 何いきなりお姉ちゃん呼びを強要してんだよ!!」

「いいじゃない! こんな美少女を目の前にして、お姉ちゃん呼びさせない方がおかしいでしょ?!」

「その発想の方がおかしいわ!!!」

「それに同じ“高坂”の性を名乗っているのよ! こんな大都会の中で、こんなめずらしい名字を名乗っている人なんて早々いないわ! まさに、これは運命よ! エロゲの神様が私に御褒美をくれたに違いないのよ!!!」

「そんなチンケな考えをだだっ広く開放すんじゃねぇーよ!! それにエロゲは全然関係ねぇーだろ!!!」

 

 

 京介さんがすごい剣幕で桐乃さんに迫り寄りますと、かなりブッ飛んだ口論を繰り広げてますねぇ……ん、エロゲ……?……ちょっと、聞かなかったことにしておきましょうかな………

 そんなことより、早く桐乃さんの暴走を止めて下さい! 京介さん、あなたが頼りなのですから!!

 

 

 

「そんなことより、京介……いいのかしらぁ~? もしかしたら、穂乃果ちゃんはアンタのことを“お兄ちゃん”って呼んでくれるかもしれないわよぉ~?」

「んなっっっっっ!!!?!?!? そ、そそそそんな言葉に屈するわけないぞ……?」

「おーい…目が泳いでますよー、京介さーん……」

 

 

……マズイ……京介さんのメンタルが明弘さんレベルで弱いです。 というかこの兄妹、何か私たちとずれているような気がしてならないのですが、どうしてです……?

 

 

 

 

「えーっと……とりあえず、言えばいいんだよね……?」

 

『!?』

 

 

 ザワッと空気が一変するかのような声に、全員の視線が穂乃果ちゃんのもとに! 手をモジモジさせて、顔を赤らめて、目を逸らしている状態。 ま、まさか本当にやるつもりなのですかぁ!?

 

 

 

 私たちのそんな驚きもお構いなしに、穂乃果ちゃんは大きく息を吸って、京介さんたちの方を向いたのでした!!

 

 

 

 

 

「き、桐乃……おねぇちゃん……?」

「ゴフォァ!?!?!」

「きょ、京介……おにぃ…ちゃん……?」

「ブゴッ!! さらば、俺の理性ッ!!!」

 

 

 キラキラと顔全体を輝かせる演出が掛かったみたいに眩しい穂乃果ちゃんの口から出てきた言葉に、お2人とも、轟沈。 さらに、近くで見ていた私たちにもそれなりの影響が……!!

 普段見せないあんな初々しく恥じらうのを見たのは初めてで……これはイケません、ことりちゃんのおねだり攻撃と同等かもしれません……!!

 

 

 

「人類は……また、とんでもない兵器を生み出してしまった感があります……!」

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「あっぶねぇ……マジで心臓が止まるかと思った……」

「お、思った以上に逸材だったようね……さ、さすが私が見込んだだけのことはあるわ……」

「え、えーっと…それは褒められているのかなぁ……?」

「多分、褒めているんだろうとは思いますが、言葉が見つからないのでしょう…つまり、語彙力」

 

 

 胸のところを押さえながら息苦しそうにしているお2人。 気持ちは分からなくでもないです、私も胸に来ましたからね。

 

 

「ま、まさか…こんなところでエンジェルが降臨するだなんて……てっきり、あやせだけかと思ってた俺がバカだった……」

「ふっ、京介もわかってきたんじゃないの? 妹の素晴らしさをもう少し思い知った方がいいかもね?」

「それは断固拒否する」

「なんでぇ!?」

「だって、お前は以前やった集中講座モドキで俺の貴重な時間をどれだけ浪費させたと思ってるんだよ! それにお前の話は結構脱線するからイヤなんだよ!」

「はぁ!? あれは予備知識に決まってんじゃん! アレがなければ世の中生きていけないから! 萌えな人生に欠かせない重要な知識なんだから!!」

「お前の基準をこっちに押し付けないでくれよ……!」

 

 

 あはは……というか、この2人。 さっきから喧嘩ばっかしていますよねぇ…私たちがいると言うのに……こう見ていると、水と油の弾き合いみたいにも見えなくはないとは思うのですが、何故か無意識に引き合っているような気がするんですよねぇ……

 

 

 

「あ、あのぉ……そろそろ目的の場所に進みたいのですが……」

「「あ゛っ……!!」」

 

 

 私たちの方を向いて抜けた声を漏らしているのを見ますと、本当に忘れていたようなんですね……この先大丈夫なんでしょうかねぇ……?

 

 

 

「ん、仕方ないわね。 京介の代わりにみんなが行く場所まで案内してあげるわ!」

「まるで、全部俺が悪いみたいに言うんじゃねぇよ……」

「それじゃあ、しゅっぱーつ!」

 

 

 

 大きく闊歩しながらどんどん前に進んで行こうとする桐乃さん。 私と京介さんが呆れる中、穂乃果ちゃんたちは追いかけるように走っていくのでした。

 それは必然的に、京介さんと並んで歩くことになったのでした。

 

 

 

「なんかすまんな、あんな妹で……」

 

 

 少々疲れ気味な声を上げて、後頭部に手を置きながら丁寧にお詫びを入れてきました。 私よりも年上だと言うのに、腰が低いお方なのですね。 ちょっと、安心しちゃいました。 妹さん共々ヤバイ人だったらと考えてしまいそうでしたからね。

 

 

「いえ、それより京介さんの方が大変でしょう。 あんなにハツラツな妹さんを持ってて」

「まあね。 あいつのおかげで俺の人生はいろいろと狂わされちまったくらいだからなぁ……」

「ほほぉ……それは少し気になるところですねぇ……1つお教え願いませんかねぇ?」

「別に構わねぇけど……いいのか、そんなので?」

「そういうのに興味がありますからね、私は」

「そっか。 そんじゃあ、どっから話していこうかなぁ……」

 

 

 京介さんは腕組みしつつ、昔のことをお話しして下さいました。 5年ほど前に始まった『人生相談』という長いお話を――――――

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「さあ、ここがアナタたちの出るステージよ!」

 

『うわあぁぁぁ!!!』

 

 

 駅から数十分もの距離を徒歩で進んでいった私たちは、ようやく目的の場所に着いたのでした。 そこに見えるのは、今回のライブのために集まった多くの観客。 そして、その中心に見えます大きな野外ステージが、彼女たちの目を輝かせていたのでした。

 

 

「それじゃあ、京介。 私はこの子たちと一緒にエントリーの確認に行くから場所取りをよろしくね!」

「あいよ。 気を付けていけよ? あと、また変なことを仕出かすんじゃねぇーぞ?」

「わかってるわよ、バカ兄貴!」

 

 

 小さく舌を出して嫌がる様子を見せつつ、桐乃さんは穂乃果ちゃんたちを連れて人ごみの中へと消えていくのでした。 そんなわけで、また2人で場所を確保することになったのです。

 

 

 

「わりぃな、俺なんかのくだらない話ばっか聞かせてよ」

「いいんですよ。 それに、とってもいいお話ではありませんか、京介さんと桐乃さんの」

「そ、そうか? これでもまだいろいろあったんだけどさ」

 

 

 少し照れくさそうに頬を掻きながら、嬉しそうな表情を私に見せていました。

 京介さんから聞かされた桐乃さんとの『人生相談』。 ひょいなことから始まった小さな出来事が、だんだんと規模が大きくなり、様々な人たちを巻き込んでいった青春話。 甘酸っぱかったり苦かったりと、多種多様の味わいを見せたその話の終末は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というほっこりするモノでした。

 

 ちょっと辛そうにしている女の子を黙って見ていられない、何だか、どっかの誰かを彷彿させてきますね。 本人にも聞かせてあげたいですね。

 

 

 

「そんな妹愛たっぷりなシスコンお兄様は、今の桐乃さんのことをどう思ってます?」

「し、シスコンって……はぁ…またそんな汚名が着せられることに……」

「大丈夫ですよ。 私から見たら情熱的に見えますし、嫌いではないですよ、京介さんの生き方って」

「そ、そうか? そう言われると、照れちまうなぁ」

「それでどうなんです? 桐乃さんのことは?」

「そうだなぁ……」

 

 

 腕組みをしながら少し唸って間をあけていると、一呼吸ついてから言葉を紡ぎ始める。

 

 

「今も昔もなんも変わっちゃいねぇさ。 桐乃は桐乃だ、俺の可愛い妹に変わりないさ」

 

 

 さらっと、くさい台詞を紡ぐ京介さんですが、その時に見せた満足気な表情がすべてを物語っているかのように思えました。 大切なモノを見護ろうとするやさしい瞳―――温か味に溢れた朗らかな瞳が桐乃さんのことを思っているように見えたのでした。

 

 それに、ますますあの人に見えてしまい、クスッと笑ってしまいそうでした。

 しかし、それはさすがに失礼だと思い、咳払いをして誤魔化すのでした。

 

 

 

 

「きょーすけぇー!! そろそろ始まるってー!!」

「……っと、やっときたか」

「そのようですね。 穂乃果ちゃんたちの準備も出来ているようですし、ここでゆっくり見守るとしましょうか」

 

 

 暖かな眼差しを2人に向けながら、みなさんの最高のステージを見上げるのでした―――――

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 Pritempsによる地方ライブは大盛況のまま幕を閉じることができました。 ぼらららの3人バージョンとユニット曲2つの合わせて3曲を披露することが出来、3人の癒しのパフォーマンスで会場中を和やかな雰囲気にさせてくれました。 中でも、桐乃さんの熱狂っぷりは目を見張るものがありまして……甲高い声を上げて、ある意味目立ってましたね……なんでも、独自のコールとか入れちゃってましたしね。

 

 しかしそれは、それほどまでに穂乃果ちゃんたちの魅力がちゃんと伝えることが出来たと言う証しなのかもしれません。 今回得た成果をちゃんと報告しておかないと、ですね。

 

 

 

「お疲れ様ぁ~~!! みんないいライブだったわよぉ~~!! 特に穂乃果ちゃんはよくがんばったねぇ~~!!」

「わわわっ! き、桐乃さんくすぐったいよぉ~!」

「いいじゃないの別にぃ~。 かわいいかわいい“妹”が頑張ったんだからこうしてあげないくっちゃねぇ~♪ ぐへへ♪」

「ぜってぇ、最後のが本性だろぉ!!」

 

 

 京介さんは稲妻のような素早いツッコミを放ちつつ、穂乃果ちゃんにくっ付く桐乃さんを引きはがすのでした。 引き剥がした後もジタバタと手足を動かして駄々捏ねていまして……この人、本当にカリスマモデルって呼ばれているのでしょうか? 威厳とかそう言うものがまったく感じられないですねぇ……

 

 というよりも、それ以前に大人なはず……

 

 

 

「けど、桐乃の言う通り、みんな良いパフォーマンスだったと思うぞ。 とってもアイドルらしい可愛さが溢れ出ている感じがしたぜ」

「えへへ、ありがとうございます、京介さん!」

「いいってことさ。 それよりも、確か数日後に大きな大会が開かれるんだろ? 良い結果が出ることを祈ってるぜ!」

「はい! ありがとうございます、京介“おにいちゃん”♪」

「ちょっ?!! ふ、不意打ちのようにそう呼ばないでくれぇぇぇ!! あぁぁぁっ!! 一瞬、かなり萌えてしまったぁぁぁぁ!! お、俺は断じてロリコンじゃないからなぁぁぁ!!!」

 

 

 穂乃果ちゃんの不意のいたずらのせいで、京介さんが壊れたっ?! 頭を抱えながら地面に突っ伏しているところを見ますと、過去に何かあったのでしょうかねぇ……?

 

 

 

「まあ、京介のロリコンは今に始まったことじゃないけどね」

「そこぉ!! 人の黒歴史を広げようとしない!!」

 

 

 そんな状態でも桐乃さんに反応できるほどの力は残ってそうですね。

 

 

「しかし、良く喧嘩しているようですが、とても仲がよろしいようですね。 喧嘩するほど仲が良いとはこういうことを言うのかもしれませんね」

 

「「そんなことない(わ)!!」」

 

「ほら、息もピッタリですし。 何と言いましょう、兄妹と言ってもなんだか“恋人”みたいに気があってそうですね♪」

 

「「ッ!!?」」

「そ、そんなことあるわけないだろぉぉぉ!?!」

「そ、そんなわけあるわけないじゃない!!!」

 

 

 むむ? またしてもシンクロしてますねぇ。 ホント、仲がよろしいようで、いいモノですねぇ~微笑ましいモノです♪

 

 

 

「あっ! 穂乃果ちゃん、もうここを出発しないと帰れなくなっちゃうよ!」

「ええっ?! ほ、ホントだ! 早く帰らないとお母さんに叱られる!」

「むぅ……もう少しここにいたかったですぅ……」

 

 

 時計を確認して見ると、確かに帰りの電車の時間まであともう少しという状況に立たされていました! ここから走ったら間に合いますかね……?

 

 

「大丈夫か? 駅まで送ってやろうか?」

「ご心配なく。 私たちなら頑張ってやれば何とかなりそうなので」

「そうか。 それじゃあ、ここでお別れだな」

「そのようですね。 今日はいろいろとありがとうございました」

「いいや、大したことはしてないさ。 こうした機会がまたあったら、ここをじっくり見ていきなよ。 何だかんだでいいところなんだぜ、ここは」

「はい、その時は観光案内をよろしくお願いしますね♪」

「おう! 任せとけって!」

 

 

 

 堂々とした出で立ちで挨拶を交わしますと、京介さんははにかんだ笑いを浮かばせていました。 ちょっと失礼かもですが、いい表情も出来たのですね。 桐乃さんとは違って美形ではないですが、それなりのって感じでしたね。

 それに、芯も強そうですし……案外、モテるお人なんじゃないのでしょうかね?

 

 

 

「また遊びに来ちゃってもいいんだよ。 そうだ! 今度来た時はウチにおいでよ! いいモノをたくさん見せてあげるからね!」

「はい! その時はよろしくお願いしますね!」

「桐乃さんがどんなオシャレをしているのかも気になりますぅ。 機会があったら是非!」

「わ、私も…その時はお邪魔させてもらいますね……」

「うんうん♪ そう言ってくれると私も嬉しいよ! みんな私のカワイイ妹なんだもん、大歓迎しちゃうからね!」

 

 

 とても嬉しそうな表情をしながら挨拶をする桐乃さん。 活き活きとした気持ちが身体から溢れんばかりに出ていて、留まることを知らなそうですよ。

 しかし、桐乃さんからのあんなスキンシップを受けたにもかかわらず、花陽ちゃんまでも好感を示しているのは不思議ですね。 何かを通じ合っていたりしているのでしょうか? それとも、あの人自身の魅力がそうさせたのか? 意外と分からないものですよ。

 

 

―――と、そんなことをやっている間に、時間の方がマズくなってきました!

 

 

「それでは、京介さん、桐乃さん。 今日はありがとうございました。 また、御逢いする時まで」

「あぁ、待ってるぞ」

「私はいつでもウェルカムだから心配しなくてもいいわよ!」

 

 

 にっこりと微笑んだ様子で、遠ざかる私たちを見送ってくれました。 その時、ちょうど太陽の光が差し込んでからなのでしょうか、お2人がとても輝いて見えたような。 そんな気がしたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 

「あ~あ、行っちゃったぁ……もうちょっとだけ、愛でたかったなぁ~」

「お前はさっきからずっとそれだな。 さすがに、やりすぎたら今度はガチで引かれちまうぞ?」

「そ、そんなことはない……はず……」

「自信ないのかよ………」

 

 

 穂乃果たちが去ってから、高坂兄妹は帰路に立っていた。 その間中、ずっと今日あったことを振り返ってはいるのだが、ほとんどが桐乃の独り言のようにベラベラと語るだけの時間になっていた。 そんな妹の講釈をやれやれと思いながら見守っている京介だった。

 

 

 

 

 

 

「――――あの、さ」

 

 

 急に桐乃の足取りがその場で止まった。 それにどうしたのかと思う程度に彼女の方に顔を向けると、少し赤らめた様子の妹を見るのだった。 あんな様子の彼女を見たのは久しぶりだと、心の中で思い始めつつ近付いた。

 

 

 

「なんだ、桐乃。 何かあったのか?」

「ううん、ちょっとね……洋子ちゃんに言われて少し意識し出してきちゃっててね……」

「……あ、あぁ……」

 

 

 ひょいな言葉にさすがの京介も顔を赤くし始め出した。 それが何を意味するものなのか、長年付き添ってきた2人だからこそ理解できるものがそこにはあったのだった。

 

 

 

 

「そ、それでね……お願いしたいことがあるの……」

「お、おう……」

 

 

 京介は少しおどけた声でカッコ悪い返事をするのだが、桐乃はそれを気にも留めないまま手を差し伸べてきたのだった。

 

 

 

 そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から――――『人生相談』――――してくれる?」

「!! ふっ、だろうと思ったぜ」

 

 

 

 そう言うと、京介は桐乃の手を引いてみせた。 彼自身、こうして彼女の手を握ったのは、あれから数年ぶりのことであった。 それが今、また始まろうとしていたのだった。

 

 

 

 

 

 2人だけの――――人生相談が――――――

 

 

 

(次回へ続く)




ドウモ、うp主です。


若干、失踪気味になっていましたが、大丈夫です。もう大丈夫です(何が?)


てなわけで、今回久しぶりのクロスオーバー話と言うことで、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』から主人公とそのヒロイン、『高坂京介』と『高坂桐乃』を登場させました。

以前にも、ちょろっと出てきてはいたのですが、まさかのここでの抜擢となるとは、私も思いませんでしたわ(笑)
できれば、もっと丁寧に描きたかったけど、自分の中での高坂兄妹のイメージがアレだったので申し訳ない。今度また登場することがあったら、京介のいいところをたくさん出していきたいですね!


さて、次回は、リリホワのほうでも誰かとクロスすることになりそうです……さて、これはいかに?



今回の曲は、


claris/『nexus』

更新速度は早い方が助かりますか?

  • ちょうどいい
  • もっと早くっ!
  • 遅くても問題ない

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。