蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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ここの黄金伝説、輝き過ぎないか?

 朝――――

 

 爽やかでわずかにしょっぱい潮風と、耳の中をすり抜けて行く潮騒が心地良い目覚めを彼女たちに与えてくれる。

 

 

「ふわぁ~~~………んんん………」

 

 

 口を大きく広げて欠伸をし出すのは、μ’sのリーダーである穂乃果。 普段の日常であれば、こんなにも早く起きることなどありえない。 大方、修学旅行で気持ちがウキウキし出した学生のような感覚が、意外にも彼女の許に舞い降りてくれたようなのだ。

 

 何がともあれ、目の前で起きたことは事実なのだから読者は快く受け止めてもらいたい。 そして、是非とも、その感覚を東京に帰った時にも維持させてほしいものだ。

 

 

「んん~~~! 今日もいい天気だぁ――――!!!」

 

 

 外の日差しを浴びた途端に口走った…いや、不意に叫びだした!

 

 うるさい。 正直に言わなくとも、うるさいと言う。 朝の6時台を回り始めたばかりのこの時間から叫び出すなど、常識をぶっ飛ばしたヤツだ。 まさに、非常識なヤツ。

 

 その非常識っぷりと言えば、ついこの間の朝、蒼一の家に押しかけて行くとそのままベッドに向かってダイブ・イン。 寝ている蒼一を襲うと言う事案が発生したそうだ。 ちなみに、侵入経路は蒼一の部屋の窓からだそうで、しかもそれを教えた(伝授した)のは何を隠そう同じ手口を使ったことりである。

 非常識には、非常識が付いてくる……何とも、頭を抱えたくなるような事案である。

 

 まあ、そんな感じな訳なので、彼女の声に安眠を遮断させられるメンバーがいる訳で………

 

 

 

「穂乃果ッ!! 朝から何を叫んでいるのですか!!?」

「うわああぁぁぁ!! ご、ごめんなさぁぁぁい!!!」

 

 

……このように叱られてしまうのである。

 

 

「はぁ……まったく、気持ち良く寝てたのに………」

「仕方ないわ。 もう、さっさと気持ちを切り替えていきましょ」

「そうだね。 今日はみんなで練習するんだもんね。 頑張らなくちゃ!」

 

 

 合宿を行い始めてからようやくのまともな練習が行われる。 ちなみに、昨日海未が提示したヤツはボツとなり、代わりに蒼一と一緒に作ったものを採用されることとなる。 これなら現実的だなと、明弘や絵里からも安堵の声を聞いてとれたので問題はなさそうだ。

 

 

「それじゃあ、早速朝練を始めていk「ちょっと待ったぁー!!!」うえぇぇ?!!」

 

 

 元気よく号令をかけようとした穂乃果の声を遮るように、希の声が被さった。

 

 

「どうしたのよ、希? アナタまで大きな声を出して……」

「えりち……大変や………蒼一が……おらへんのや………」

 

『えぇっ!!!?!?』

 

 

 蒼一が不在。 そのことは、ここにいるメンバー全員に衝撃を与えた。 夢現(ゆめうつつ)な状態だった数人の頭も一気に目覚め出すほどであった。 今からこの家の中を捜し回ろうとするメンバーたち。 すると、希は全員を制止させるが如く、何かの紙切れをみんなに見せる。

 

 

「なぁに、これ?」

「さっき、テーブルの上に置いてあったんや。 もしかしたら、蒼一からのメッセージやろうなと思うてな」

 

 

 希のその考えは正しい。 確かに、この紙切れに描かれてある文字、筆記体は蒼一によるもの。 つまり、描き置きなんだと判断しても良いものだ。

 そこに書かれてあったのは………

 

 

『ちょっと、出掛けてくる。 帰りは夕方頃になりそうかもだ……朝飯と昼飯は何とかしといてくれ。 こっちも何とかするから。

 あと、練習もちゃんとやっておくように。

 

  P.S.

 自転車貸してもらうぞ。 後、釣り道具一式も』

 

 

 

『………………』

 

 

 

『えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?』

 

 

 あまりにも唐突な状況が起こってしまったことに、各々戸惑うしかできなかった。 無理もない。 まるで、神隠しにでもあったかのように、颯爽と姿をくらましたのだから。

 

 

「自転車……まさか、蒼一は………」

 

 

 みんなが焦っている中、真姫だけが冷静になって蒼一の行方を推理していた。 そして、ふと昨日自分に聞いてきたあの場所のことを思い出していた。

 

 

「そう……ふふっ、だったらそれは楽しみね……♪」

 

 

 何かを含ませた言い方をして、艶めいた上唇をぺロリと舐めるのであった。

 

 

 

 

――

―――

――――

 

 

 

 

「~~~♪ ~~~~♪」

 

 

 軽快に走り出す2つの車輪。 キリキリと金属が擦れ合いながらも順調に回りだすチェーン。 脚の力を直接加えて、滑走のための動力源となるペダル。

 それを無駄に力を入れることなく前に進ませ、徐々に広がっていく蒼い景色に魅せられながらこの道を行く。 風が心地良い。 潮騒とが混じりあった風に、普段は感じられない磯の香りが含まれて、新たな感覚を肌に打ち付ける。 うん、悪くないな。 風と共に流れていく髪を靡かせる。

 

 

「海を見ているとどうしても口ずさんでしまうな……」

 

 

 一人になると何故だか分からないが、無性に歌を口から漏らしてしまう癖がある。 そして今口ずさんでいたジャンルは夏メロ、まさに今シーズンにぴったりな歌だ。 中でも、俺の身体に染み込まれた何万単位もの曲から選ばれたのは、『潮騒の歌』。 あの5分程度しかない国営音楽放送番組で紹介された曲。 俺がまだ幼い頃に聴いていた思い出の名曲だ。 哀愁漂わせた力あるバラード調なこの曲は、幼かった俺に強烈な印象を植え付けた。 以来、夏になると、どうしても歌いたくなる俺的名曲選集のトップワンとして出てくる。 サザンやTUBEなどのメジャーソングよりか、こうしたマイナーソングの方が肌に合いやすいようで、他のジャンルにおいても同じである。

 

 そう思い更けていると、そろそろ港が見えてくる。 海沿いのこの道を曲がれば……ほら見えた。

 

 

「あれが内浦か……」

 

 

 入り江のように凹んだ地形にポツポツと顔を出す集落。 特別、大きな建物があるわけでもなく、1、2階程度の小さな家ばかりが並んでいる静かな町と言ったところだろう。 まあ、こんな場所に10階くらいの高層建造物があったら異様だもんな。

 

 

 町に近付いて行き、早速辺りを見回してみる。 コンビニが1件、あとは、住宅がちらほらと……いや、かなり大きめな家が1つあるな。 木造の趣のある建物だなぁ……宿屋なのか……立地としては、最高の場所に構えたものだな。 個人的には、こういう場所が好みだったりする。 母さんの実家みたいな感じもするし……

 

 だが、ここが俺が求めているロケーションではなかったことが残念で仕方ない。 また他の場所を探すしかない。 とは言っても、土地勘がハッキリとしない俺からすると、動こうとも動けない。 地元民に聞いてみたいのに、猫一匹すら歩いていない。

 過疎ってるなぁ………田舎ならではの試練を久方ぶりに直面させられる。 どこぞのダーツの旅ではないが、第一村人発見! ということにはまだ時間が掛かりそうだ。

 

 

「仕方ない、予定通り釣りして待つか……」

 

 

 波止場近くに自転車を止めておくと、一緒に持ってきた釣り道具一式を下ろす。 そこから竿を取り出して、糸に針を付け始める。 ここら辺ならば、中型が狙えるかもな……とすると………そこで取り出したのは、小さめのルアー。 釣り針に餌を付けるよりもこちらの方が効率良い。

 

 

「さてと………よっと!」

 

 

 釣糸に付けたルアーを勢いよく飛ばしと、ポチャンと海水に入る音を耳にする。 後は、何が釣れるのかを待つのみだった――――

 

 

 

 

―――2時間後

 

 

 

「………釣れない………」

 

 

 もう、かれこれ2時間くらいもこうしているのに、何故か一向に引っかかろうとはしないのはどういうことなのだろうか? 時間か? それとも、潮が変わったからか? いや、そんな様子も見れないし………

 

 

 

「だあぁ―――――!!! 釣れん!! まったく釣れんぞぉ!!!」

 

 

 こんなに待っても小魚一匹すら引っかからないだなんて………はぁ、今日はついてないようだな………何の戦果もあげられずに退散となるのかぁ………

 

 気が緩み始め出して来たので、両手をクロスさせて、そのまま枕として身体を仰向けにする。 ふと空を見上げると、綿飴のように柔らかそうな入道雲がドンと構えている。 ああいうのを見ていると、本当に夏なんだと改めて実感してしまうのだ。

 

 

………いかん……ちょっと眠たくなってきた………

 昨日は、アイツらとベッド上での格闘で中々寝させてくれなかったもんな………それに、危うくあのスウィートルームに持って行かれそうになるし……おぉ……やだやだ………

 

 とは言いつつも、不条理にも眠気が俺に襲い掛かる。

 仕方なく、目蓋を軽く閉じて暗闇の世界へと潜らせる。 なぁに、釣り糸を垂らしても魚なんて来やしないさ。 このまま少し休んでたって……ふわぁぁぁ………あぁぁ、本当に眠くなってきた………

 

 燦々と輝く光を布団に、しばしの眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――じぃ~――――」

 

 

「―――じぃ~~~~―――」

 

 

 

「―――じぃぃぃ~~~~~―――」

 

 

 

………何か、変な視線を感じるのだが………気のせい?

 

 目を開いてみて確認して見て、それが気のせいで無いと言うことがわかった。

 

 

 

「あっ、起きた!」

 

 

 明るく子供のように無邪気な声が脳を覚醒させる。

 

 誰だ、この子……?

 

 まあそうだろうよ、目覚めて見上げた先に、見知らぬ少女が俺の顔を覗き込んでいるのだから当然の反応だと思う。

 この白と水色の横縞Tシャツとベージュに近い短パンを着こなす処女。 見た目が凛と大して変わらなさそうなスポーティーなショートで、そこから左に垂れ下げる編んだ髪とその先に結ばれた黄色のリボンが特徴的だ。 体つきは、雪穂に近い感じか? 筋肉が多く付かず、無駄な肉を付けていない普通の少女だ。

 

 

「お兄さん、こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよぉ~? あのね、夏場にひく風邪って、とっても厄介なんだよ! 気を付けなくっちゃ大変だよぉ~」

 

 

 のったりとしたマイペースな口調で何故か注意される俺。 この子、初対面の相手にここまで言うだなんて、肝が据わっているのだろうか? それとも、天然な方なのだろうか? あっ、この子、アホ毛が立ってる………間違い無い、後者だ。 絶対後者だよ、コレ!

 

 アホ毛=天然というのは、二次元業界でも定番中の定番。 それにこの口調からその可能性を秘めさせている気がしてならない。 よかったなぁ……ウチのメンバーの中にアホ毛を持つヤツは存在しない。 ただし、俺を食べようとしてしまうトサカ(意味深)は存在するのだがな………

 

 

 

「それで、お兄さんは何してるの?」

「俺か? 俺は………釣りしてた」

「釣りかぁ……あ~……そう言えば、ここ最近は釣りじゃあ魚は獲れないよ?」

「えっ? マジで??」

「うん、マジだよ」

「マジかぁ………」

 

 

 そう言う情報は、かなり前に欲しかったなぁ……そうでなければ、こんなに待たずに済んだだろうに………呆れるのを通り越して、なんだか泣けてきたなぁ………

 

 

「魚が欲しいの? だったら、(もり)で突いて獲った方が早いよ」

「えっ? も、銛?」

「うん! 銛を使って、こう……グサァァァ! って刺して、そのまま、獲ったどォォォォ!! って叫ぶんだよ!」

「え? なに? ここで黄金伝説でもやれってか?」

 

 

 釣りじゃなくって、そのまま海水に潜っての実力行使かよぉ! そして、説明が雑だなぁ!? ミスター巨人並の直感的指導を彷彿させるような感じで、焦りしか感じられんかったぞ……

 

 しかも、銛って……あのマサルのBGMが流れてきそうだわ………

 

 

「まあ、釣りは諦めろってことだな。 ありがとよ、お嬢ちゃん」

「むぅ、お嬢ちゃんじゃないよ! 私は、高海 千歌っていう名前があるの!」

 

 

 ムスッとほっぺを風船みたいに膨らませて、何故か怒られる。 理不尽だなぁ……この子のペースに呑まれそうだわ………

 

 

「あ、あぁ……すまんな、千歌……ちゃん………」

「ちゃん付けなくたっていいんだよ、千歌って呼んでくれた方が私も気が楽だよ。 それで、お兄さんはなんて言うの?」

「俺か? 俺は、宗方 蒼一って言うんだ」

「宗方……さん………うん、覚えた! それで、宗方さんはココの人? まったく見かけない顔をしているから」

「あぁ、俺は東京から来ているんだ。 ちょっと用事があって現在ここの近くに滞在中なんだ」

「東京ぉぉぉ!! うそっ! ホント?! 東京から来たんだぁ!! いいなぁ、私東京に行ったことが無いから分からないんだけど、とっても憧れているんだぁ! 何かこう……キラキラ~って輝いてて、すっごく綺麗なんだろうなぁ~って思ってるの! そうなんですよね、宗方さん!!」

「お、おう……まあ、キラキラ輝いてはいるよな………(ビル街の明かりが)」

「ホント!! うわあぁぁぁ……行ってみたいなぁ……あそこには、夢と希望がたっくさんなるんだろうなぁ………」

「あぁ……確かに、夢と希望がたくさんあるよな………(アキバという巣窟に)」

 

 

 無邪気そうに俺の話を聞いて、表情をキラキラと輝かせてみては、大袈裟すぎるほどのリアクションで応えてくれる千歌ちゃん。 何だろう……今この子が想像しているものが、現実とはかなり食い違ってる感があって、ちょっとした罪悪感を抱くわ。

 

 というか……何だろうかなぁ、この感じ………

 この変に目を輝かせては、真っ直ぐに突き進んで行こうとする強引さ。 なんか、どっかで感じたような………

 

 

 ん? こっちに駆けてくる足音が聞こえてきたような――――

 

 

 

「ちーかちゃん! どうしたのこんなところで?」

 

 

 俺が自転車を置いたところから全速力で滑走してきたその少女は、張り切った声で千歌に声をかける。 彼女は友達なのだろうか? あのように、親しみを感じさせるような口調で話しているところを見ると、どうもそんな気がしてしまうのだ。

 

 彼女は、白のTシャツに水色のショートジーンズで、頭に『YOU』という文字が付いたキャップを被っていた。 ココから見ると、千歌ちゃんとは対照的のような身体つきをしているようにも見える。 服から伸び出す引きしまった腕と脚。 筋肉の付け具合から考えると、何かスポーツをやってそうな感じだ。 帽子からはみ出るパーマ掛かっている癖毛の様子からすると、水泳とか? 塩酸に触れつつけると、ああいう髪になるからな。

 

 

「あぁ! 曜ちゃん!! ねぇ、聞いて聞いて! 今ね、ここにいる蒼一さんって言う人からお話を聞いてたんだけど、出身が何と………東京なんだって!!」

「えぇ?! 東京!? そうなんですか!!?」

「え? あ、あぁ、そうだが………」

「わあぁぁ!! 私も私も、東京のことをについていろいろ聞きたいです!! いろいろ聞いてもいいですか!!?」

「えぇ……っと………まあ、いいかな………」

「本当ですか!? イヤッタァァァァァァァァ!!!」

 

 

 ぐあぁぁぁぁぁ?!?! み、耳がぁぁぁぁ……!!?

 

 すると、急に万歳をするかのように両手を高く上げては、半鐘のように大きな声で叫び出した。 俺のすぐ近くで叫ぶので、思わず耳を塞いでしまうほどだ。 この子もこの子で、すごい輝きを持って俺に迫ってくる。 やっぱりアレか? 田舎っ子ってのは、都会に憧れるモノなんだな。 特に、女の子だったらなおさらか。

 

 まあ、その逆のパターンで、俺はこういう場所を気に入っていたりするからな。

 

 

 

「そう言えば、曜ちゃんはまだ自己紹介とかしてないよね?」

「ああっ!! そうでありましたぁ! それでは改めまして、初めまして! 私、渡辺 曜と言います!! よろしくお願いします、であります!!」

「あ、あぁ、俺は宗方 蒼一って言うんだ。 よろしくな……えーっと……曜ちゃん?」

「はいっ! そうであります!!」

 

 

 太陽のように燦々とした笑顔で挨拶をしてくれた曜ちゃん。 その挨拶がとても独特で、目元近くに身体と平行にビシッと伸びた右腕で敬礼をするのだ。 これは旧日本海軍および現海上自衛隊とかの水兵が用いた形式なのだが、彼女の決めた敬礼があまりにも綺麗過ぎたので、感嘆してしまう。

 俺には分かる……これは、ガチだ!!

 

 

「曜ちゃんのお父さんがフェリーの館長をしててね、今それに憧れているんだよ~」

「はいっ! そうなんであります!! 将来は船乗り! いつか、パパと一緒にこの大海原に駆け出していくのが夢なのでありまーす!!」

「お、おう……そうなのか………」

 

 

 なるほど、だから敬礼だったり、口調も水平式だったりするのか。 今この段階から将来の展望が見据えていることは何よりだ。

 

 しかし、本当に元気一杯な子だなぁ……千歌ちゃんに劣らず、いや軽く凌ぐ勢いを持っているのだろうよ。 純粋に、真っ直ぐに突き進む、まさに体育系女子特有のヤツかな?

 

 

「それはそうと、宗方さんはここで何をしているんですか?」

「あぁ……釣りをしていたんだが、まったく釣れなくってな………」

「あー………ここ最近、内浦では魚があんまり獲れないんですよ。 天候とか潮の流れが変わったりして、あまり望めなくなっちゃって………」

「うん、魚が獲れないってのは、さっき千歌ちゃんから聞いたからわかってるよ」

「あ! でもでも、海の底だったら魚がいるかもって、果南ちゃんが言ってた! だとしたら、手っ取り早く潜って捕まえればいいんだよ!」

「潜って? もしかして手掴みとか言わないでくれよ?」

 

「違いますよ、銛を使うんですよ、銛を! あの神話に出てくるポセイドンが持ってそうなあの道具で、一気に突き刺してぇ………ヨーソロー!!! ってやるんですよ!!」

「ちょっと待て、さっきも同じような話を聞いたぞ。 そして、ヨーソローって何!? そこは、『獲ったどぉぉぉぉ!!』じゃないのかよ!!」

「いやぁ~、私的には、それよりもこっちの方がしっくりくるんでつい……」

 

 

 照れくさそうに頭をかいてみせる曜ちゃん。 いや、褒めてないから………というか、立て続けに黄金伝説ネタを突っ込んでくるこの少女たちは一体何なんだ? そんなに流行ってるのあの番組? まあ、俺も好きなんだけどさ………

 

 そう心の中でツッコミを入れていると、隣で千歌ちゃんが頬っぺたをプクゥと膨らませて、俺の服の裾を引っ張っているのだ。

 

 

「もぉ~、宗方さんってばぁ~…私のことは、千歌って呼んでって言ったのにぃ~……」

「って、そんなことで拗ねた顔をしちゃうの? というか、さすがに初対面で呼び捨てって………」

「いいの! 私はそう呼んでほしいの! お~ね~が~い~!!」

「だぁー!! 引っ張るな引っ張るなぁー!!」

 

 

 子供のように駄々をこねては、俺の服を引っ張る千歌ちゃん。 そんなにこだわっているのか、って思いたくなるほどのしつこさに戸惑ってしまう。

 

 

「え? 何なに?? 千歌ちゃんはもう宗方さんとそんなに仲が良くなったの?」

「うん! そうだよ♪」

「いや、違うから」

 

「いいなぁ……私も、呼び捨てでいいから呼んでほしいなぁ~………」

 

 

 おい、目線。 目線が明らかにこっちを見ているぞ。 チラチラとこちらの様子を伺うかのように、密かに合図を送り続ける曜ちゃん。

 ここの人たちは何か? かなり、フレンドリーな感じで接するのがお決まりなのか? 初対面の相手に呼び捨てカモン! するわ、服を執拗に引っ張って駄々っ子アピールをするわ、ドラクエみたいに『仲間になりたそうにこちらを見ている』アピールをかましてくるわとやりたい放題だな!! 躊躇ねぇなここの子たちは!!

 

 

 けど、ウチのメンバーの方が数段階も上にあるから、ちょっと問題ないと思ってしまっている俺って………重症だな…………

 

 

 

 

 

 ざっぱーん―――――!!

 

 

 

 すると突然、海から何かが出てきた音が聞こえたので顔をそこに向けた。 その目線の先にいたのは、何やら大きなゴーグルとシュノーケルを付けた少女が現れ出てきたのだ。

 

 

 

「あ! 果南ちゃんだ! おーい!!」

 

 

 千歌ちゃんが手を振って声を上げると、その果南ちゃんと呼ばれる少女は手を振り、こちらに泳いで近付いてきた。

 

 

 

「やあ、千歌。 曜も一緒にいたんだね。 それと……そこの人は………」

「果南ちゃん、この人ね、宗方さんって言うの! 何だかよく分からないけど、東京からはるばる来てくれたんだって!」

「おいおい、説明が雑すぎるだろ……」

 

 

 ちゃんとした経緯を話してなかったにしろ、もっといい説明があっただろうよ………

 

 ゴーグルを外して素顔を露わしたその少女は、俺の顔を見るなり微笑んだ様子でこちらを見ていた。 今の千歌ちゃんの説明で笑っているのかと思うのだが、何か違った意味が含まれてそうな気がしてならなかった。

 

 

 

「へぇ~、千歌と曜のその様子じゃ悪い人ではなさそうだね。 ちょっと、安心したかも」

「まあ、そう思うのが当然だろうな。 ちなみに、悪い人だったらどうするつもりだったと?」

「そりゃぁ~……すぐに、海に突き落として一緒にダイビングでもしよっか♪」

「そんな自分の命を賭けるような竜宮城行きだけは勘弁だわ………」

「果南ちゃんは潜水が得意だからね~。 軽く2、3分くらい潜れるんじゃないかなぁ?」

「不安を煽り立てるようなことを言わないでくれよ。 想像しただけで、ゾッとするわ………」

 

 

 3分も息が続くとかありえないだろ……俺だって、長くても2分弱だと言うのに、この少女はそんなに長く潜れるのかよ………即席麺が作れる程度に、水死体が1つ出来そうな感じで洒落にならんな………

 

 

 

「あははっ、冗談だよ。 それにしても、宗方さん……でいいんだっけ? こんな何も無いところで釣りを2時間近くもするなんて、面白い趣味があるんだね」

「魚がいないってことを知らなかっただけだよ………って、何で俺が長い時間やっていたのかを知っているんだ?」

「そりゃあ、ずっと眺めていたからね。 私が海に入った時から1人でポツンと座っているんだもん、そうしてるだけで目立つからね。 それに、釣り針にうまい具合に魚が引っ掛からないところを見ていたからね」

「………なんで、早く言ってくれないの……?」

「だって、その方が面白そうだったから♪」

 

 

 にかっと笑いながら俺のこと見る果南ちゃんと呼ばれる少女。 ちょっと、悪戯がすぎないか?

 

 

 

「けど、さっき海の中を泳いで見たら岩陰に大きな魚たちがいたよ。 釣りをするよりもアレをやった方が早いよね」

 

 

 

 アレ? まさか………

 

 

 

「やっぱ、銛でしょ。 銛でこう…ビュン、グサッ、ガッ! ってやってから、獲ったどぉぉぉぉ!! ってやった方が楽しいよね♪」

 

 

 知ってた。 てか、何なんだよ、この黄金伝説の浸透率の良さ。 今のところ浸透率驚異の100%に身震いしそうなんですけど!? しかも、銛で刺すとか言い放つ爽やかな笑顔を浮かべる少女たちって、どんだけ野生児化してんだよ!! それに、ウェットスーツを着用しているから、よりリアリティが増しているんだけど!!

 

 

「何故、みんな揃って、マサル伝説を勧めようとするんだよ………」

「え? 海に来たらみんなそうするんじゃないの? グサッて刺すのを憧れ無いの?」

「海に入っていった方が楽しいと思うよ? 折角来たのにもったいないと思うよ?」

「もしかして……都会じゃ、黄金伝説は流行って無いの? みんな、マサルのことが嫌いなの……?」

「揃って俺のことをそんな哀れみのある目で見ないでくれる? 何か傷付くから……あと、マサルのことが嫌いなわけじゃないから、むしろファンの1人だから!」

 

 

 そう言うと、みんな何故か安心したかのようにホッと一息を吐いていたのだが……待て、それは俺のことじゃなくって、マサルさんのことなのか? 俺のことよりもマサルさんのことを想ってるよね? 人を前にしてそれって………

 

 

 深く考えてしまうと、完全に敗北主義者になり下がってしまいそうになるので、一先ず釣り道具を一式片付けてしまう。 魚を釣れねぇ釣りは、ただの糸垂らしだ。 どこぞの紅さん張りの三平が言ってそうな言葉を脳裏に過らせつつ、さて、何をしようかと考える。

 

 そう言えば、と当初の目的に立ちかえり、PVにピッタリな場所はどこかないか探さなければと思い返す。

 

 

 

「なあ、ここら辺にメッチャ綺麗な浜辺って無い? 絶景スポットとかにもなりそうな場所とか?」

「う~ん……この辺だと、ウチの前の浜辺しか………」

「そう言われてみれば、あまり心当たりが無いんだよね………」

 

 

 千歌ちゃんと曜ちゃんは難しそうに考えている様子だ。 千歌ちゃんの言う浜辺というのは、すぐ目の前にあるものだと思うのだが……すまない、これと言ってピンとこないんだ。

 

 

 

「だったら、弁天社の近くならどうかな?」

 

 

 すると、果南ちゃんが声をかけてくる。

 

 

「弁天社?」

「うん。 ウチと同じダイビングショップを営んでいるところの前に広い浜辺があるんだ。 多分、あそこならいいんじゃないかな?」

「ああ!! 確かに、あったね! あそこを通るのは久しぶりかも」

「小学校に行く道中にあったからね。 久しぶりに行ってみたい気がするであります♪」

 

 

 果南ちゃんが提案した場所というのは、千歌ちゃんたちにも心当たりがある場所らしい。 反応を見ている限りでは悪くはなさそうだ。 とりあえず、後でその場所を確認しておくべきだな。

 

 

「それじゃあ、この後で行ってみようよ!」

「えっ? 行くって……?」

「なんか楽しそうだなぁ~なんて思ってね。 今ならこの高海千歌が道案内をしてあげるんだからね♪」

「いやいや、さすがに見知らぬ男と一緒に行くってどうかと思うぞ?」

「大丈夫だよ。 こう見えても私は高校1年生ですから!」

「それ全然安心できないんだが……」

「だったら、曜ちゃんも果南ちゃんも一緒に来たら大丈夫だよね!」

「どうしてそうなるんだよ………」

 

 

 唐突に、2人の友達の名前をだしては、強引にことを進めていこうとする。 それに、誘ったからと言って付いていくなんて………

 

 

「うん、千歌ちゃんが言うなら行くよ!」

「仕方ないね。 こうなった千歌は止められないもんね」

 

 

……って、おいおい、止めてくれるんじゃないのかよ……

 あっさりと同調してしまう様子にあんぐりと開いた口が塞がんない。 行き当たりばったりな感じでいいのかよ、君たち……

 

 しかし、この強引さ……誰かに似ていると思ったら、穂乃果にそっくりだ。 しかも、それに付いていく友達と言う流れも瓜二つだわ。

 普通な女の子のように思えたが、案外すごい子なのかもしれないな。

 

 

 

「あっ、でも一旦家に戻らないと。 さすがに、この格好でバスに乗っちゃダメだもんね」

 

 

 果南ちゃんは自分の格好を見てはそう言う。 そら当たり前だ。 ずぶ濡れのウェットスーツのまま乗り込んでもらっては色々と問題がある。

 

 

「それじゃあ、鞠理ちゃんにお願いしないとだね」

「ボートがなくっちゃ来れないもんね」

「ん、ボート? なんだ、離れ島に住んでいるのか?」

「そうだよ。 目の前に見えるあの大きな島があるでしょ? あそこに家があるんだ」

 

 

 指を指した方向に目を向けると、確かに木が生い茂って緑一色の島が浮いていた。 へぇ~、ちょっと気になるなぁ。

 

 

 

 

 ブロロロロロロ――――

 

 

「おっ、噂をすれば………」

 

 

 高鳴るエンジン音を響かせ、水上を走る1艘のボート。 全体をピンクに染めた船体が、ここの地域とはミスマッチに思えてしまうほど派手さ。 何というか、所有者の趣味を疑ってしまうな………

 

 

「あっ! 鞠理ちゃんだ! それにダイヤさんとルビィちゃんも乗ってるよ!」

「ダイヤ? ルビィ??」

 

 

 千歌ちゃんの口から出た言葉に思わず耳を疑ってしまう。 それって……人の名前なのか? 外人? と言うより、そう言う名前があること自体が驚きだわ。

 

 

「それじゃあ、船着き場の方にいかないとね。 千歌たちは家で待っててよ、多分、1時間くらいかかると思うから」

「わかったよ。 でも、あんまり急がなくてもいいんだよ? ずっと、海の中にいたんだから少し休みなよ」

「へーき、へーき。 このくらいで音をあげたりなんてしないよ」

 

 

 2時間近くも泳いでるのに平然としているとか、ある意味、人間離れなところがあるんだな。 けど、あまり無理して怪我とかしたら洒落にならんし………

 

 

 

 

 

 

 ドボン――――!!!

 

 

 

『?!!』

 

 

 その刹那、海に何かが落ちるような大きな音が響いた―――

 

 全員海の方に目を向けると、誰かが溺れかかっているの見つけたのだ。

 

 

「あれって……ルビィちゃんじゃない?!」

「えぇっ?!! 早く助けないと!!」

「私に任せて!」

 

 

 そう言うと、果南ちゃんは溺れている子の方に向かって泳ぎ始めだした。 距離としてはそんなに近くないはずなのに、彼女は一瞬にして、その子のところに着いたのだった。

 

 

「は、速い……!」

 

 

 目を疑ってしまうな速さに、驚きの声を出してしまう。 あれが長時間泳いだ後の身体なのかと、彼女の底知れぬ力に感心してしまうのだ。

 

 

「よかったぁ……ルビィちゃんが助かって………」

「さすが果南ちゃんだね。 私でもそんなに早く泳げないよ」

 

 

 2人から安堵の声が漏れる。 これで一安心だと思っていた――――だが、

 

 

 

 

 

「……って、おい! 何か様子が変だぞ?」

「「えっ?!」」

 

 

 一瞬、目を逸らしていただけなのに、異様な光景が目に映り込む。 水上に白い水飛沫を上げて、果南ちゃんが両手を大きく振り回していたのだ!

 明らかに何かがあったに違いない。 それを見た曜ちゃんは身を乗り出して叫んだ。

 

 

「あれは救難のサインだよ!」

「えぇっ?! も、もしかして、果南ちゃんが溺れちゃってるの!?」

「言わなくても見て分かるだろ!」

 

 

 2人から見ても初めてのことなのだろう、かなり動揺していた。 とは言っても、このままじゃ

 果南ちゃん共に溺れてしまう!

 

 

「何でボートがすぐに行けないの!? すぐ近くじゃん! 助けられるはずだよ!!」

「ダメだよ! 下手に近付いたら船体に当たるか、スクリューに巻き込まれちゃうよ!」

「じゃあどうするっているの?! このままじゃ、果南ちゃんが! 果南ちゃんがぁ!!」

 

 

 張り裂けそうな悲鳴を上げる千歌。 それを押し留めようとする曜。 見るからに、もうダメかもしれないと思われ始めようとする淀んだ空気が漂い始めた。

 

 

 

「曜ちゃん止めないで! 今から私が助けに行くから!!」

「無茶だよ! 果南ちゃんのところに行けたとしても2人をどうやって抱えるって言うの?!」

「そんなのやってみないと分からないじゃん! このまま溺れるのを待ってるなんてイヤだよ!!」

「千歌ちゃん!!!」

 

 

 

 

 

「2人とも、退きな」

「「えっ?」」

 

 

 俺の声を聞いた瞬間、思わず立ちすくみだした2人に俺は着ていた服を預けだす。

 

 

「むなかた……さん………」

 

 

 怯えた声を俺に向ける千歌ちゃんの頭の上にポンと手を置いた。

 

 

「心配すんな、千歌。 2人は必ず助けてやるさ………」

 

 

 そう言うと俺は、服の下に着ていた水着1枚となって海の中に入る。

 

 

 波は比較的穏やか。 干渉してくるものも無し。 いけるな―――

 

 

 脚に力を込め始めると、そのまま一気に弾き出す。 海中でこれをやるのは始めてだが、うまくいってくれよ……!!

 

 

 渾身の力を持って、2人のもとに駆けつけようとするのだった。

 

 

(次回へ続く)

 




どうも、うp主です。


ついさっきまで、死地を彷徨ってましたが、生きてます!!

そして、今回初めてサンシャインキャラに手を出してみましたが、こんな感じなのかなん? この編内では、こうした内浦キャラが何人も出てくる予定なので、よろしゅう…よろしゅう………



今回の曲は、

『レゲマン鉄橋』

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