青く未熟な果実と、赤く熟れた果実
【前回までのあらすじィィィ!!!】
突如、俺の家に上がり込んできた茜さんと愛さん、それに智成さんは、自分たちの妹のことで話に来たらしい。 智成さんは、花陽の成長っぷりにとても喜んでいて、茜さんたちはというと明弘から大方話を聞いたそうだ。
ただ、俺たちが来た時に、明弘がまた2人に〆られていて、まーた何か余計なことをと少々呆れていた。
兎も角、この3人から花陽と凛を託されたわけだが、無論、責任もって面倒を見るつもりさ。 2人とも、俺の大事な仲間なんだからな。
そして、俺の人生を大きく左右させる、長く濃密な夏がやってきた――――――
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[ 東京駅 ]
「はい、お前たち、全員ちゃんといるか?」
『は――――い!!!!』
全員揃いに揃って、笑顔ではーいって……小学校の遠足かよ。 やれやれ、後々が大変そうだわ。
音ノ木坂学院も夏休み期間に突入し、μ’sも本格的な活動を行い始め出す時が来た。 というより、決戦の夏というべきだろうか。 この期間に行われる3つのイベント、地方公演・スクフェス・ラブライブ本選がようやく目と鼻の先ってところにまで迫ってきていた。
限られた時間の中で、より有効な練習を行うためには何が必要なのか。
そう、それは、合宿。
野球やサッカーなどの運動部では、よく使われている手段で、朝から晩まで活動のことにだけ集中できるし、チームトレーニングという名目で仲間意識をより深めていくことが出来ると考えている。
そうした利点に付け加え、ここで知名度を上げるために新たにPV撮影も行うことを決めている。 すでに、楽曲もダンスも出来上がっていて、後は俺が決めた場所で撮影を行うだけとなっている。 そのため―――――
「いやぁ~、まさか、この広報部である私が同行してもOKだなんて、ホント太っ腹ですねぇ~♪」
撮影担当に、洋子も来ることとなったのである。
「洋子、わかってると思うが、今回はPV撮影がメインだからな。 また変なモノを撮影したりするんじゃねぇぞ?」
「そ、そんなこと、百も承知ですよぉ………だ、大丈夫ですよぉ、私を信じて下さいよぉ………」
「おい、それはこっちを向いてから言えや」
はぁ……この様子じゃあ、知らないところで何かやらかすのだろうな………嫌なことに繋がらなければいいのだが………
「それじゃあ、みんな。 早く新幹線に乗りましょ。 もうそろそろ来るらしいわよ」
エリチカの声で時刻表を確認して見ると、確かにあともう少しでやってくるようだ。 これはゆっくりしていられないな。
「それじゃ、3泊4日の合宿を始めるぞ!」
『お―――っ!!!!』
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[ 新幹線内 ]
「さて、俺の席は…………ここか」
外の景色が一望できる窓側席となった俺は、早速荷物を置いて腰掛ける。 そういや、こうして新幹線に乗るのは一昨年の修学旅行以来か? あん時は、奈良や京都の美しくも歴史ある古都を練り歩いたものだ。
懐かしい、また行ってみたいなぁ………
「秋の京都も紅葉に染められて、さぞ美しいことでしょうね」
「そうそう、秋の京都も悪く………って、海未っ?! どうしてここにっ!?」
「どうして……と言われましても、私がここの席に座ることとなったのですよ♪ ……まあ、勝負に勝って手にしたのですがね………」
「ん? 何か言ったか?」
「いっ、いえっ! 何でもありませんよ………」
「???」
気付かぬうちに、俺の隣にちょこんと座っていた海未に驚きを見せるのだが、それより俺の心の内を覗かれたように思えたことの方が大きい。 そんな海未は、頬より上の位置をチークをかけたみたいに桃色に染めて可愛らしくなるのだが、残念なことに顔を逸らしていた。
そう言えば、最後の方が小さく聞こえなかったのだが、何を話していたのだろうか? 少々疑問に思えるところだったが、新幹線が動き始め出した頃には忘れていた。
ガタンッ! と勢いのある振動を立てて走りだすと、速度が上がる度に揺れが徐々に収まっていき、終いには、最高速度に達すると止まっていた時と変わらない静けさを提供してくれる。
こうした優れた技術を目の当たりにすると、常に驚きと興奮が湧き上がってしまう。 男ゆえに、乗り物やメカニック的なことに好奇心やらが疼いてしまうのだ! おっと、平静にしないとな。
きゅぅ――――――
「ん?」
ひじ掛けに置いていた手に生温かな感触を抱いたため振り向いてみると、海未が俺の手の甲を包み込むように、優しく触れていたのだ。 するとどうしたことだろうか、それが海未だと感じた瞬間、胸の鼓動が激しく鳴り出したのだ!
「海未……っ!?」
俺は思わずひじ掛けから腕を離してしまう。
だが海未の手は、それを追いかけるように伸ばしては捕まえ、そのしなやかな手で絡みつくように包みだしたのだ。
「あのっ………離さないで……くれますか……?」
今にも消えてしまいそうな儚い表情で見上げる海未に、心拍数が上昇中――――血の回りが善すぎて顔が一瞬で火照りだした。 「ああ、わかった」と諦めて腕を元の位置に戻すと、そのままギュッと俺の手を握ってくるのだ。 その時に見せた、頬を紅くして「うふふ♪」と微笑んでいたのを見てしまい、また鼓動が速くなってしまう。
それから数分が経った時に、急に海未のことが気になったので顔を回すと、ちょうど同じタイミングで海未も顔を回して向かい合ったのだ。
「「あっ」」
お互いに声を上げてしまったのだが、不思議と驚きというよりも嬉しさを含んだモノが口から出たようだった。 お互いに何か感じ合っている、この手を握り合っていることで、そうさせているのかと思うとちょっと嬉しくなった。
すると、海未は人差し指を立てて自分の口元に付けると、しぃーっと静かにと合図を送ってきた。 そしたら、身を少し乗り出して――――
「いま……2人っきりなのですよ……?」
――――と、甘えるように囁いたのだ。
その時見せた海未の表情は、とても切なそう。 なのに、美しい。 思わず引き込まれてしまいそうなその顔が、俺の気持ちをグッと引き寄せる。
断片的な言葉――――まるで、百人一首の上の句のように、俺からの返答をまだかなと胸を高鳴らせて待っているかのようだ。
口に溜まる唾を飲み込む。
高まる気持ちを抑えたいのだが、身体が海水に浸かる前に、すでに心は海未の澄み切った瞳に溺れてしまっていた。
言葉など必要なかった。 触れる手から感じる微熱が、互いの気持ちを伝達し合っているからだ。 俺は、煌びやかに揺れる眼差しに惹き込まれるように、近付く海未の身体を受け止めようとした。
そして、2人だけの時間に―――――――
「あらら、こんなところでおアツいこと」
「へぇ~、海未って意外と大胆なのね」
「「!!!!?」」
突然、声が聞こえたので思わずハッとなって振り向くと、エリチカと真姫が反対側の席でニヤついた表情でこちらを見ていたのだ。 というか、さっきまでは背もたれがこちらを向いていたのに、どうして対面になっているのだよ……?
「……お前ら、いつの間に………そして、なんでこっちを向いてるんだよ?」
「ねえ知ってる? この椅子回転できるのよ? 不思議よねぇ~」
「蒼一のとなりは海未に取られちゃったけど、こうして向かい合っていられるから、まずますなんだけどね」
そうだったかぁ………すっかり忘れていたな。 確かに、修学旅行の時にもこうしてダチと遊んでいたっけな。 失念していたな…………
突如現れた2人に海未とのやり取りが見られてしまい、顔を熱くさせてしまう。 やはりこう言うことは、誰もいないところでやるべきなんだなと再認識させられる。
一方、海未はというと………
「な、なななっ!! 何見ているんですかっ!! 破廉恥です!!!」
「なぁ~に言ってるのよ、海未」
「アナタのやってたことの方が、断然破廉恥よ」
「うぅ……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
真姫に言われたことがかなり効いたらしく、海未はシートの上で膝を抱え、真っ赤になった顔を隠すようにうずくまってしまった。
まあ、誘ってきたのは海未の方だし、真姫の言う通りなんだろうけどね………というより、最近の海未からアプローチが積極的になってきているように感じられるのだが…………実直な性格が仇となって解放されちまったのか………
それからというもの、目的地に到着するまで俺は塞ぎ込む海未をなだめることとなる。
ちなみに、明弘は凛と希とで、デュ○ルマ○ターズで白熱させていた。 つうか、懐かしいなオイ!
そんで、穂乃果たち他のメンバーは…………
「イイですか、コレがとっておきの一枚なんですよ?」
「ほ、ほわああぁぁぁぁ!! ブーメランパンツを付けていた時の蒼君の写真!! 欲しい! 欲しいよぉ!!」
「きゃあぁぁぁぁぁ!! 着替えで服が肌蹴ている姿が、またとってもセクシーだよぉ! あぁん、もう我慢できないよ♡」
「こ、これは……! 蒼一にぃの顔をかなり近くで撮られたモノ………! も、もうこれだけで………!!」
………そっとしておこう。
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[ 西木野家・別荘 ]
『おおぉ~~~~っ!!!!』
俺たちμ's一行の目の前に現れた大きな家に、みんな揃って驚嘆の声をあげていた。
新幹線から私鉄に乗り換え、そこからバスに揺られておよそ1時間弱。 燦々と輝く太陽に反射される白い砂浜と透き通った瑠璃色の海を望む絶景が目と鼻の先にある。 そんなリゾート地さながらな真姫の別荘に到着したのだった。 いつまでもこの景色を味わっていたい気持ちを抑えながら、ここまで持ち歩いてきた荷物などを早速家の中に入れ始める。
「すっご~い! 外から見ても大きいと思ったら、中もすっごく広くって大きい!」
「大きなソファーもある! 早速、突撃だにゃぁー!」
穂乃果と凛が叫ぶと、そのまま荷物を放り投げ、俺が制止する間もなく大広間のソファーにダイブし始めた。 その様子をやれやれと呆れながら眺めて、放り投げられた荷物をみんなの荷物と共に重ね置いた。
「にしても、本当にでけぇ別荘だなぁ……一体、どんだけの人が入るんだよ………」
口をポカンと開けながら明弘は見回す。 確かに、常人では考えられないほどの大きさだ。 俺の家ですらこんなにも広くも大きくもない。 精々、ここの三分の一と言ったところだろう。 これぞまさに、西木野家が為せる業と言っても過言ではない。 資産のある者だけが許されることなのだろうと、しみじみとその格の違いを知らしめられた。
「なあ、真姫。 この家を回ってもいいか?」
「ええ、いいわよ。 何なら、私が案内するわよ?」
「おぉ、それは助かる。 是非頼むぜ」
「ふふっ、任せなさい♪」
真姫はニッコリとハニかんで見せると、俺の手を引いて中を案内し始めた。 リビングにキッチン、トイレに寝室に案内させられ、中でも、露天風呂を見せられた時はかなり驚いてしまった。 まさか、こんなものまでもあったとはな………
そして―――――
「なあ、この2階の奥にある部屋はなんだ?」
「あぁ、あそこはスウィートルームよ」
「はぁ?! んなもんまでも完備してんのかよ。 ここは一種のホテルか?」
「それじゃあ、見てみる?」
少々フラついてしまうものの、体調に問題はないので、真姫にそのまま連れられてその部屋に入ってみることに。
「はぇぇ………マジかよ…………」
俺の目の前に広がっていたのは、本当にホテルさながらの豪華な部屋だった。 鮮やかな色彩に彩られた壁紙と絨毯、そして、硝子の扉を開けばベランダに通じ、そこから見えるあの群青なる絶景が一望できるこの間取り。 まさに、ファーストクラス級の贅を尽くされた場所と言えるだろう。 目の前に広がる光景に圧巻させられる。
「というか、他にも寝室があると言うのに、どうしてこんな場所が?」
「元々は、パパとママが使っていた部屋なんだけどね」
「あー……だから、ダブルベッドだったのか………」
「そうよ。 けど、最近はこっちに来ることが無くって、今は誰の部屋でもないの。 だからね―――――」
すると、真姫が俺の胸の中に飛び込んできては、俺を見上げる。 そして、目を細めて意味有り気な笑みを浮かべて俺の首に手を回しだし、顔を寄せてくる。
その神妙なる素顔に、動悸が早くなってくる。 それだけじゃない、べったりとくっつける身体の感触と鼻腔をくすぐる濃厚な匂い。 何もかも久しぶりに感じるあの“真姫”だ。 俺たちが離れてそんなに時間も経っていなかったのに、何とも遠く、長く逢えなかったかのような懐かしい感覚は………それは、俺の身体の中に沁み付いてしまった真姫色が、今再び感じ合えることを喜んでいるかのようだった。
そして、彼女の口から出ようとする言葉に、胸を躍らせるのだ――――――
「―――――蒼一との、想い出をつくっていく場所にしましょう♡」
ドクンッ――――――
胸に矢が突き刺さったかのような衝撃が走る――――痛み? いや違う、歓喜に似た熱い気持ちが全身に行き渡ろうとする合図なのだ。 同時に、欲望も全身に行き渡っていく。
真姫が欲しい―――――
無意識の中に現れる眠りに就いていた想いが目を覚まして、俺に指示を掛ける。 すると身体は素直に聞き従い、真姫の腰辺りに腕を回してより惹き寄せようとする。 おかげで、球体のように美しい丸いラインを描く真姫の胸が、俺の身体で押し潰される。 そこから感じるやわらかな感触と、生きているということを証する強い鼓動を直に知ることとなる。
あぁ……もう我慢できない…………
気持ちの限界を感じた俺は、真姫を強引にもベッドの上に押し倒し、そのまま四つん這いとなって迫った。 真姫は抵抗すること無くあるがままを受け入れた感じで仰向けになる。 猫のように無防備となった体をさらけ出すと、「きて……////」と恥ずかしそうに頬を赤くしながら口にするので、俺は迷うことなく顎に手を添えてそのまま顔を近付ける。
そして、久しぶりの感触を堪能し始め―――――
『だ、だめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!』
「「――――ッ!!?!」」
突然、部屋の扉が勢いよく開かれると、そこには穂乃果たち7人が一気に押し寄せて入ってきたのだ! これには思わず真姫から身体を離して、ベッドの横に立った。
すると、みんなしてムスッとした表情を向け出してきたのだ。
「もぉ~!! 真姫ちゃんだけずるいよぉ~~~!! 抜け駆けしないでよぉ~~~!!!」
「ダメだよ、蒼くん! そういうことは、ことりにだけやってよ! ことりはいつでも準備できてるんだからね!!」
「あれほど、私のを邪魔したのに……真姫、あなたと言う人は~~~!!」
「あ~らら、雌豹にも早速襲っちゃうのね………ふふっ、次が楽しみね♪」
「もっとウチのこともかまってほしいんやけどぉ~……むぅ~」
「はわわ………せ、積極的に攻められちゃうのぉ?! ちょ、ちょっと怖いけど……やってみたいかも………」
「真姫ちゃんばっかでずるいにこ! こんなにかわいくか弱いにこにーを襲わないなんて………にこ、悲しい………」
「………って、どれも大層変わらないことばっかじゃねぇーか!!!」
まったくもって遺憾である、と公言したくなるくらいの案件の数々に頭が追いつかなく弾け飛びそうだ! どうしてこんな感じになってしまったんだよ! って怒りたくなるのだが、そもそもみんな加入した時からすでにその片鱗があって、この前の出来事でみんなのリミッターがアンロックされてしまったのがいけなかったのか………
いや、だがああしなければ、みんなの状態を戻すことが出来なかったし………うぐぐ、手痛い代償を受けてしまったようだな…………
そんな中、真姫は布団から起き上がって、「あ~あ、あともうちょっとだったのに、ざぁ~んねん……♪」と唇に人差し指を添えて小悪魔な表情を俺に見せたのだった。 しかも、また怪しげな視線を送って誘いをかけてくる様子を見ると、悪いとはまったく思っていなさそうだ。
まさか、本当に小悪魔になったんじゃないのか? と思わせてしまう真姫の(ある意味での)成長っぷりに驚かされちまうわ。
「「蒼くん!!」」
「「「「蒼一!!!!」」」」
「蒼一にぃ!」
「うおわぁっ?!!」
それからというもの、合宿初日の初っ端から絞られることに………
甘い時間をこのスウィートルームで過ごすことになろうとはな………今なら、この「スウィート」っていう意味が良く分かるような気がするわ。
身体を余すことなく使って覚えたこの言葉は、絶対に頭から離れられないのだろうと考えたのだった。
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
ようやく夏合宿編が始まりましたよ!!
今は秋なんですけどね!しかも、寒いんですよね!!()
そんな季節はずれもいいところなこの作品。
序盤でも伝えたように、夏、終わらないです………
それがなぜなのかは、物語を読み進んでいけば分かるだろうと思いますので、よろしくお願いいたします。
次回もお楽しみに
今回の曲は、
T.M.Revolution/『Hot Limit』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない