蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第100話


嵐と癒しと先輩方襲来

[ 宗方家 ]

 

 

 

 7月も中盤を向かえて、殺人的な日光が燦々と照り付ける。 おかげで、外気は35°近く。 今年一番の真夏日がやってきやがったのだ。 これは都会ではよくあるヒートアイランド現象が関わっているらしく、超高層のビルなどが立ち並ぶ我が家周辺では毎年恒例の我慢大会だ。 朝でも夜でも、この灼熱地獄からは逃れられることはできず、額から滂沱に流れる汗と口から有り余るほど出る熱の籠った吐息が数秒単位でやってくる。

 

 死ぬ………マジで死ぬ…………

 

 こんな日に限って練習などしたくもない。

 一歩でも外に出てみろ、一瞬でコンブみたいに干乾びてしまう。 まあ、水に着けたら元に戻るんじゃないのかって思うのだが………そして、いい出汁が出たら………

 

………って、いかんいかん。 つい料理癖が出てきてしまう。 干乾びた俺から出る出汁なんて誰得なんだよ、まったく…………

 

 

 

 そんなろくでもないことを考えている俺だが、今は外出することなく冷房の効いた家でのんびりと過ごしている。 そして、オマケも…………

 

 

 

 

「うっひゃぁ~ッ!! やっぱ夏は、エアコンの効いた部屋に限るぜぇ!! あんな氷が蒸発するような場所に長居したくないもんだ。 あんなモンを好むヤツの気が知れねぇぜ」

 

 

 とまあ、こんな感じにリビングのソファーでくつろいでいる我が悪友、明弘はとある事情でここに呼び寄せたのだが………

 

 

「おい、お前もさっさと作業に戻ってくれよ! 合宿はあと一週間後なんだぞ?」

「へいへい、わかってるぜ。 はぁ……ようやく、レポートの束を片付けたと思ったら、また書類かよ……どうやらこの紙たちは、俺に恋煩いを起こしちまっているようだな………」

「何くだらないことを言ってるのやら……さあ、早く終わらせるぞ」

 

 

 そう言って尻を引っ叩かせてやる気を起こさせようとする。 「へいへい」とまたやる気のない声を吐いてはいるが、手元にある書類を手にしては黙々と作業に取り掛かり始めてくれる。

 

 

 今行っているのは、話にも出たようにμ’sの合宿の件についてだ。 先日、急遽合宿先が決まったため、それに合わせた準備が行われ始めたところだ。

 

 ちなみに、行先は伊豆半島のとある場所なんだとか。

 真姫のお母さんの美華さんによると、駅からバスに乗って数十分したところにある人っ子一人もいないプライベートビーチなんだとか。 水や電気、ガスなどのライフラインはバッチリだが、肝心の食料調達に難が生じるらしい………

 そうした問題点も鑑みながらの今回の計画は万全のモノにしたいので、明弘と何とか膝をすり合わせるような協議をしている、と言う感じだ。

 

 あとは、エリチカと海未にも確認したいのだが…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン―――――――♪

 

 

 

 すると、家のベルが鳴り響いたので、集中が一旦途切れた。

 

 

「はーい、ちょっと待ってください!」

 

 

 床と一体になりそうだった身体を引き離して、血行が悪くなってフラフラしながらも玄関の方へと足を引き摺らせる。

 

 

「どちらさまでしょうか―――?」と言って、扉を開くと―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ヤ゛ッウ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛…………」」

 

 

 

 バタン―――――

 

 

 

 

…………え? 何今の………?

 

 燦々と輝く外の日差しが逆光する中、それをバックライトに立ち尽くしていたショートヘアのとポニテの2人組の女性(?)がいたのだ。 しかも、ものすごい剣幕でドラ○エの魔王みたいなデスヴォイスを吐き散らしていたので、有無を言わずに扉を閉めてしまった………

 

 いや、そもそもそれが女性なのかすら怪しい変人が、ここに尋ねに来ていると言うことに問題視する必要があるかもしれない。 えっとぉ………どなた………? あんな怖ェ声を出す知り合いなんざいるはずが………あっ………

 

 

 

 その時、俺の脳裏に絶対に浮かんできてもらいたくなかった人たちの顔が………うぉいっ! それが、本当なら今すぐ帰りたい………あっ、ここ俺ん家じゃん…………

 

 

 両手で顔を抑えて「ああぁぁぁ……」と嘆息を吐き散らしていると、明弘がこっちに近付いてきていた。

 

 

「なあ、兄弟。 その玄関にいたのは誰なんだ?」

「いや、知る必要はない。 さっさと、作業に戻r…」

 

 

 

 

 

 

 ガッ―――――!!!!

 

 

「「――――ッ!!!!???」」

 

 

 リビングの方に戻ろうとした瞬間、扉のノブが勢いよく回りだすと扉が開きだそうとしていたのだ! 咄嗟に、ドアノブを掴みだすと、力一杯引き出す!

 

 

「くそっ、力が強い――――ッ!!」

 

 

 思った以上にバカみたいな力で引いてくるので、こちらも本気になって引いているのだが、拮抗状態が続く! すると、扉にわずかに空いた隙間からギョロリと見開いた真ん丸の瞳と、頬の辺りまで裂けるニヤけた口。 そして、顔全体に暗い影を落とすその姿は、まるで悪魔のようで………

 

 

 

 

 

「ぞぉ~~~ゔ~~~ぅい゛~~~ぢぃ~~~!!!」

 

 

「「ふぅおわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!?!?」」

 

 

 

 あの扉を突き破って顔を出すシャイニングに匹敵するくらいのホラー映画な光景に、俺と明弘は絶叫せざるを得なかったのだ!!

 

 

「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤヴァァァイィィィ!!!! 兄弟ィィィ!! 絶対に入れるな!! マジで入れるんじゃあねぇぞォォォ!!!」

「んなこと四の五も言わずとも分かってるわァァァ!! だったら、てめぇも何か手伝えやァァァ!!!」

「手伝いって何さ?! アレか? バイオハザードで言う、マグナムで扉を貫通させて倒すってヤツかぁ!?」

「ああああぁぁぁぁ!!! 何でもいいから手を貸せェェェ!!! さもなくば……」

 

「な゛~~~が~~~に゛~~~い゛~~~れ゛~~~ろ゛~~~~!!!!」

 

 

「「ヘアァァァァァァァァァァァァ!!!!?!??!?」」

 

 

 ギヤァァァァァァァ!!!?!? 何で?! 何でこうなっているのだ?! 俺の平凡な日常が一瞬にして、バイオハザードな世界に変わっちゃったわけ?!

 つうか、この人怖ッ!! 目を紅く光らせて馬鹿力で扉をこじ開けようとしているよ!!! ヤダァァァァ!! こんなところで噛まれてゾンビだったり、傀儡(くぐつ)のようになんかなりたくないわァァァ!!!!

 

 

 

「兄弟ィィィ!!! そのままにしておけェェェ!!!」

「!!!」

 

 

 

 すると、明弘が何かを抱えて持ってくると、開いた扉の隙間に向かって放り投げた!

 

 

 

バシャッ――――――!!

 

 

 

「うわっ?! 冷たっ!!?」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!??!?!」

 

 

 明弘が放り投げたのは、何と水だったのだ! 洗面器に入れた水を俺がいることお構いなしに吹っ掛けたのだ。 ただあの人に掛かってしまったのではないか、という疑念を抱いてしまうのだが………さっきの声を聞いている限りでは、顔面クリティカルヒットしてそうな………いやいや、後のことを考えたら頭が痛くなる………

 

 

「片付いたことだし、それじゃあ、続きをやるとしますか………」

「ったくよぉ……おかげで手が濡れちまったじゃねぇか………」

「細けぇこたぁいいんだよ。 アレを中に入れて、エクストリームバーサスなんかさせたら即落ちエンド決定だぞい」

「それを言われちゃなぁ………」

 

 

 それは明弘の言う通りだ。 あの人たちの異常っぷりはチートレベルでおかしい。 まともにやり合おうとすれば、文字通り全身を使ってのデッドファイトを申し込んでくるのだから入れなくて正解だ。

 

 今はそう、後のことを考えずに目の前にあることを片付けないといけないよな………

 

 

 そう考えを巡らせながらリビングに向かう。

 

 

「はぁ……安心したら、喉が渇いてきたな………」

「俺もだぜ………何か、キンキンに冷えたお茶とかねぇのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「それなら、ここにおいしい麦茶があるから、飲んで行きなよ」

 

「あぁ、ありがとうございます。 “智成(ともなり)さん”」

「さっすが、“智成さん”だ。 気が利くじゃないですかぁ~」

 

 

 そう言って、紙コップに入る麦茶を手渡してきてくれた“智成さん”にお礼を言うと、そのままグイッと一気に飲み干す。 くぅ~……この冷えた感じが身体に沁みるんだよなぁ~

 

 しかし、ほんと“智成さん”は気が利くよなぁ。 そこんところはウチの兄貴も見習って……………えっ?

 

 

 麦茶の冷たさが脳にまで達したからだろうか? 瞬間的に冷静さを取り戻すと、ゆっくりと振り返る。 そしたら、ほっこりと実に和やかに笑っている“智成さん”の姿が………ッ!!

 

 

「「智成さんんんんんんん!!?!?!?!?」」

 

「やぁ、久しぶりだね~♪」

 

 

 思わず2人でデカイ声を上げてしまったのに対し、智成さんはほわほわとした口調で平然と挨拶をしていたのだ。

 

 いや待て、落ち着け。 冷静沈着(クール・アズ・キューク)だ、俺。 現状を把握しろ。 今ここにいるのは、俺と明弘、そして智成さんだ。 それで、どうして智成さんがここにいるのか、そこが重要なんだ……!

 

 

 手に汗握り、口の中に溜まった唾液をひと飲みすると、空っぽになった口で尋ね始める。

 

 

「あ、あのっ………どうやって、家の中に……?」

「あぁ、ごめんね。 庭の方の窓が開いていたから、そこから来てしまったよ~。 いや、癖って怖いねぇ」

 

 

 まるで、侵入することが当たり前のように話しているこの人は、ホント何者なんだよって話だ! しかしそんなことを想うことも束の間―――――

 

 

 

 

「あぁ、今日は茜と愛も一緒にいるからね。 ゆっくりさせてもらうよ」

 

「「げっ……!!」」

 

 

 そして、聞きたくもなかったその言葉。 やっぱあそこに立っていたのは、あの2人だったんだぁ―――!! 後で何をされるか、ガチで怖い!

 

 

 

 ゾクッ――――――――

 

 

 

 えっ? 何、この悪寒………何か、とてつもなく近くに感じられるこの不穏な空気は一体何だ……? それも、背中の方から―――――

 

 

 俺と明弘は恐る恐る後ろを振り返ると――――――

 

 

 

 

「「アイル・ビー・バ~ック………」」

 

 

「「―――――――ッ!!!?!?!?!?!」」

 

 

 

 ヘルシング的でサーチ・アンド・デストロイな笑顔で睨みつける、“茜さん”と“愛さん”の姿が………

 

 

 

「「あぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」

 

 

 

 その日、断末魔が住宅街に響いたそうだ―――――

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 

「おい、てめぇら。 先輩に対してその態度は何だぁ~?」

「水ブッ掛けやがってよぉ……マジで、殺すぞ?」

 

「「いえ、もうすでに死に目を見たんで十分です」」

 

 

 ついさっき、キャメルクラッチと卍固めを立て続けに喰らって、死に体となり果てたのにこれ以上決められるとさすがにキツイ。

 

 そんな2人はソファーの両端にどっしりと座り込んで、こちらをガン見するポニーテールが特徴の星空 (あかね)先輩と、その妹で凛よりも少し長いショートヘアの星空 (あい)先輩である。 俺たちの2級上の先輩で俺の兄貴と同級生なのだ。 2人の姿は、肉食獣さながらの鋭い目付きを主体に、全体的にとんでもないほどの野性児――――つまり、女性らしからぬ風体が特徴的な人たちである。

 

 ただし、この2人、性格に寄らずかなりの美人なのだ。

 スラッと伸びた背丈で、筋肉質でも脂肪質でもないスレンダーボディな2人は、雑誌とかでも取り上げられそうなモデル体質の持ち主でもある。 明弘が好む、女性の特徴はやや貧相ではあるが、そうした点を除いてしまえば誰もが羨む美人姉妹なのだ。

 

 ただ悲しいことに、この人たちにはそういう女性的なことを好まない感じで『化粧? 何それ、食えんの?』な感じなため現在の状態に………宝の持ち腐れ―――豚に真珠とはまさにこのことなのかもしれない。

 しかも、その妹というのが、あの凛であることに悩ましくなる。 凛もいずれかこの2人のように……あぁ、考えるのも嫌になってきた………

 

 

 けれども、そんな女っ気がまったく感じられない人たちなのだが、唯一それが垣間見えることがあって………

 

 

 

 

 

「こら、愛。 まだ濡れているじゃないか! ちゃんと拭かないと風邪引いちゃうよ?」

「うぉわあぁ?! い、いきなり何拭いていやがるんだよ!? やっ、やめろよなぁ!」

「ダメだよ。 もし帰り道で風邪を引いちゃったら、また負ぶって帰らないといけなくなっちゃうんだからね? それに、愛が風邪を引いちゃうと僕は悲しいよ……」

「ふぇっ?! あ、あぁ……そ、そういうことなら仕方ねぇなぁ……や、やさしく拭いてくれよな……?」

 

 

「はいはい」と少し呆れ気味に返事をする智成さんにされるがまま、濡れた髪を拭いてもらうのだった。 さっきまで殺気立っていた愛さんの顔からは、一瞬にして赤面して縮こまる女の子の表情をして見せているのだ。 まあ、要するに愛さんは智成さんにベタ惚れしているわけなのだ。

 ちなみに、茜さんは俺の兄貴に御執心なのである。 俺の兄貴の前に立つだけで緊張するんだよね、この人………

 

 

 んで、このほんわかとした空気を出してこの場の空気を和ませているこの男性は、小泉 智成(ともなり)先輩。

 鼻が高く、シュッと整った顔立ちで男の俺が見ても美しく見える。 癖のある髪を目に少し掛かる程度に伸ばし、そこから木漏れ日のように垣間見える瞳と緩やかに膨らんだ頬と艶やかな唇。 それらによって生み出された甘いマスクは、見るモノの脳裏に焼き付いて離れなくなる、まさに貴公子のような人だ。

 

 ただ天然なところやそのほっそりとした身体付き故に、度々、マスコットキャラみたいな扱いを受けていたこともしばしば。 なのに、やさしく許してしまうのが、智成さんのいいところだったりもする。 まるで、観音様のようだ。

 

 さらにこの人は、茜さんのアプローチにまったく気付かないと言う鈍感だったりするわけで、こうした関係を数年以上も続けていたりするのだ。 いい加減、気が付いてあげてもいい気もするが、俺たちの間で暗黙の了解として悟らせないようにしていたりもする。

 

 そんな、俺たちの先輩方が、ここに集うとは一体どういうことなのだろうか? 不思議に感じていた。

 

 

「それで、突然どうしたんですか。 俺の家に押し入ってきて?」

「おぉ、そうだった。 すっかり忘れるところだったわ」

 

 

 頬杖しながらぼぉーっとした感じに話す茜さん。 いや、目的無しで来られても困るのだが、とツッコミたくなるが、ツッコミよりも早い瞬殺チョップを喰らうよりは……と思い直して静かに聞き入る。

 

 

 

「そういやぁ、ウチの凛がアイ活してるって、マジ?」

「あ、それ僕も聞きたかったよ」

「あー……そう言えば、知らないんでしたっけ………」

 

 

 割と真面目な口調で話しかけてきたので、最初驚くも、すぐに冷静に受け答えをし始める。

 

 

 

「そうですね、2人ともちゃんと活動してますよ。 俺から見てもいい感じで、もう野外ライブを何回かやっているくらいですから」

「へぇー! マジで!? あの凛がアイドルを………考えられねェなぁ~」

「て言うことは、かよちゃんも一緒に? うっはー、まさか2人でなるとはねぇ~」

「そうだったんだぁ。 花陽は知らない間に、成長していたんだね」

 

 

 3人はそれぞれ妹たちの成長を耳にして、何とも嬉しそうな顔をして見せた。 特に、茜さんの喜び様はここにいる誰よりも強く見れた。 意外と妹想いだったりするのか、この人は。 そんな優しい一面を見せられると、この人の印象も少しは変化するものだ。

 

 

 

「あぁ、そうだそうだ。 賢吾に頼まれていた荷物があったから、それを置きたいのだけど……部屋に置いてもいいかな?」

「構いませんよ。 だったら、一緒に持って行きましょうか」

「それは助かるよ。 それじゃあ、頼らせてもらうからね」

 

 

 それを合図に俺と智成さんは立ち上がって、リビングを後にする。 茜さんたちのことは頼んだぞ、明弘。 恨めしそうな顔をしていたアイツに心の中で、ちょびっとだけエールを送ってやった。

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 智成さんと共にいくつもの荷物を兄貴の部屋に、置き続けていた。 中身は何かの本のように見えるのだが、何なんだろうな? あまり詳しいことは聞かないことにするか。

 

 

「さっきの続きなんだけど、最近の花陽はどんな感じなのかな?」

 

 

 引き続き、ほっこりとした笑顔で尋ねてくるので、俺は快く近況報告をし出す。

 

 

「そうですね。 自分の好きなことに没頭している、って感じですかね」

「へぇ~、そうなんだ!」

「そうなんですよ。 憧れのアイドルになれたことが嬉しすぎたみたいで、いつも早く活動をしようって張り切っているんですよ」

「そうなんだそうなんだぁ~……うんうん、よかったなぁ………」

 

 

 それからいくつか花陽の話をすると、うんうんと静かに頷いて話を聞いていた。 その時の智成さんは、今まで見たことが無いほどにとてもいい表情をしており、言わずとも嬉しさがにじみ出ていたのだ。

 

 

 

「―――――というのが、最近の出来事って感じです」

「フフッ、ありがとう、蒼一くん」

 

 

 俺の話を聞き、終始頬を緩ませていて、とても嬉しそうな素顔を見せていた。 こうして嬉しそうに話を聞いてもらえると、こちらも話甲斐があり、ついつい熱が入ってしまう。 それでも、いい表情をしてくれていたので、ほっとしていた。

 

 すると、智成さんがこちらの方に顔を向けると、喜びながら語りかけた。

 

 

「本当にありがとう、蒼一くん………いや、蒼一お兄ちゃんとでも言っておくべきかな?」

「なっ?! どうしてそれを!?」

「うん、お母さんから聞いたんだよ。 花陽が僕みたいなお兄ちゃんが出来たんだって聞いてね、それで誰かな? って尋ねてみたらキミだったから、驚いちゃったよ」

「いやっ、俺も智成さんが花陽のお兄さんだなんて知らなかったですよ」

「それもそうだもんね。 蒼一くんの前では、まったく話はしていなかったからね」

 

 

 そうやや苦笑しながら話をする智成さん。 けど、その奥には少し寂しそなモノを感じとれた。

 

 

 

「それよりも、蒼一くんは急に僕の代わりに花陽のお兄ちゃんになって大変じゃなかったかい?」

「大変………じゃないと言えば嘘です。 戸惑いもしましたし、何より、仮とは言え異性の兄弟なんてどう接したらいいのか分からなかったし………」

「まあ、そうだろうね。 けど、キミがそうしてくれたおかげで、僕は落ち着いて自分のことに集中できるんだ。 感謝してる」

「智成さん………」

「正直言うとね、以前は、僕は花陽と離れなくちゃいけないなって思ってた。 あの歳になっても僕と一緒に居ようとするのは、さすがにマズイだろうって思ってたんだ。 だから、花陽が高校に進学するって見越した時に、思いきって家を出た。 そしたら、花陽から毎日電話やメールがたくさん届いたりと、僕と一緒にいた時より悪化しちゃったかなぁって悩んだんだ。 このままでいるべきか、それとも戻るべきか………花陽のことを考えると後者の方が有利だった。

 けど、そこに蒼一くんが来てくれた。 おかげで、僕は自分のことに集中することが出来たし、定期的なやり取りで収まることが出来たんだ。 まさに、救いの手だったわけなんだよ」

「そんな、俺は大それたことなんかしてないですよ」

「そんなことは無いさ。 だって、蒼一くんと知り合ってからの花陽の成長はすごいよ。 臆病だったのが前向きに。 自信が無かったのに、堂々と言えるようになれてる。 何より、人前で歌って踊れている。 僕にとって、もうそれだけで充分すぎるんだよ。 だからね、僕からもお願いするよ………僕がいない間も花陽をずっと見守っていてくれ、頼んだよ」

「はい! もちろんです!」

 

 

 ハッキリと応えると、うんうんと綻んだ笑顔をして見せたのだ。 こうも強く言われたら引くわけにはいか無いな。 期待に応えないとな。

 

 それに、俺は花陽のことが好きだからな!

 

 

 

 ただ、この気持ちだけはそっと心の奥底に仕舞い、黙々と荷物作業を行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 そ、蒼一のヤツぅ……分かってて俺をここに残しやがったなぁ! 許さんぞ!!

 

 蒼一と智成さんがここから離れると、この部屋には、俺たち3人だけが残った。 だが、俺の目の前にくつろいでいるこの2人、さっきからずっと睨んで来ていやがるんだが、どうすりゃあいいんだよ?!

 

 逃れられないだろうその視線を感じながら、俺は静かに「関わらないでくれ関わらないでくれ…」と祈り待った。

 

 だが、その貧相な願いなど届くことは無く――――

 

 

 

「おい、明弘!」

「は、はいぃぃぃ!!」

 

 

 と、すぐにこうなるのだ。 あぁ、憂鬱だわ。

 

 

 

 

 しかし、俺が思っていたこととはまったく違っていて―――

 

 

 

「正直、ウチの凛ってどんな感じよ? うまくやれてんの?」

「へ? えぇ、まあうまくやれてると思ってますよ」

「おぉ……そうかそうかぁ………うまくやれてるかぁ………」

「ほらさ、茜。 凛はちゃんとやってるって言ったろ?」

「だ、だってさぁ………」

 

 

 急に凛のことについて話し始めた茜さんに驚くも、俺の話を聞いては安堵したり、愛さんに突かれて膨れっ面したりと何とも忙しい。 だが、めずらしすぎる反応を見せるから、ちょいとこちらも突いてみたくなった。

 

 

「なんですかい? そんなに凛のことが気になるんで?」

「あったりまえじゃんかよ!! 凛はウチの妹だぞ! マイシスターだぞ、このヤロー!!」

 

 

 なんで怒られんといかんのだよ………それと、何故英語? 訳も分からないままでいると「まあ、茜はそう言うヤツなんだ」と愛さんにポンッと肩を叩かれる。 あっ、所謂シスコンなのか………いっがーい……!!

 

 

「わかんねぇかなぁ、あの凛だぜ? 生まれてこの方、女の子らしいことをあんまりしてこれなかった凛が、女の子の夢であるアイドルをやるって聞いたら心配するもんだろ? それに、凛は意外とかよちゃんみたいに引っ込み思案なところがあったりするからさ、余計に心配だったわけだよ。 なあ、わかるだろぉ?」

「えっ、あっ、ハイ………」

「そんなカワイイ妹が、グループ内でうまく溶け込めていないんじゃないかって、心配になるのが姉の心境ってもんだよ! なあ、そうだよな??」

「あぁ……ハイ…………」

 

 

 そんなシスコン茜さん、グッと拳を見せながら急に語りだした。 誰得?

 それを見ていると、横で「ま~た、熱が入ってる」とちょい呆れ気味になっている愛さん。 つうか、止めてよこの人を。

 

 

 しっかし、ここまで妹愛が炸裂してるとは、思っても見なかったぜ。 鬼もまた人の子ってヤツか、妹にはめっちゃ甘そうな感じがするなぁ………凛には似てねぇけどな。

 

 ま、こんな感じじゃあ、埒が明きそうもないからちょいとばかし話でもしてやるか。

そう思い立って、俺は茜さんたちに向かって話しだした。

 

 

「茜さんがシスコン拗らせているのはいいとして、凛は本当に大丈夫ですぜ。 最近の凛は、かなり積極的な子になってきているんですぜ。 自分から何かをしていこうって言う気構えになってきてると言うか、まあ強くなったって言えば楽なんですけどね。 けど、茜さんたちから見ても、今の凛は成長してますよ。 もちろん、いい方で」

 

 

 確かに、凛は成長したさ。 けど、幸か不幸か、それはあん時の花陽を助ける時にその片鱗があった。 苦難の中で新たな自分を見つける、それこそ王道的な成長の仕方だろうが、んなこと口が裂けても言いやしないさ。 凛のためにも、茜さんたちのためにも。

 

 

 

「ふぅ~ん、アンタ、意外と凛のことを見ているんだね?」

「そうです? 普通だと思うんですけど?」

 

 

 俺の話をじっくりと聞いていた愛さんが、ジッと見つめながら聞いてくるのだが、何か意味ありげな表情を見せる。

 

 

「アタシは、茜よりもそんなに凛のことは気にしてはいないけど、凛の性格がああなったのは私にもあるんだって自覚はしている。 だから心配になる時もある。 だからってわけじゃないけど、少しずつ変わってきてくれていることに嬉しさは感じるんだよ。 ほんと、嬉しいんだよ」

 

 

 そんな不器用さを塗り固めたような言葉を口にしてみると、なんだこの人も同じなんだと納得してしまう。 姉妹なんだねぇ~上も下もいない俺には、ちょっとわかんねぇ次元だな。

 

 

 それでもさ、凛はいい姉に恵まれたもんだな。

 

 

 そんなことを想い更けつつ、のんびりと時間を過ごしたわけだ。 あれ? もしかして、この人たちを前にしてこんなにもゆっくりできたの始めてじゃね?

 

 

 

 

 ちなみに、2人に対して、いつになったら賢吾さんと智成さんに告るつもりなんですかい? と聞いたところ、おどけた赤面を付けながら2人技を喰らう羽目になってしまる背中がトンデモナイ方向に折曲がるうううゥゥゥゥゥゥ!!?!?!??!

 

 

 

 訂正、やっぱこの姉たち怖かった。

 

 

 

 

 嵐のようなこの3人の訪問は、これにて無事に閉幕したのだった――――――

 

 

 

 

 

 

 

 俺の背中が犠牲となってな――――――

 

 

 

(次回へ続く)




ドウモ、うp主です。


ようやくこの話が出来たか………元々、この3人は出したいって構想し続けいたのですが、その機会が無くずっと埋まっていました。そして、何とかこの話に漕ぎ着けたわけです。

自分的には、まだ星空姉妹が描き切れていないからもう一回だけでも描きたいと思ってるんで、そん時はもう一度やりますね。


では、次回は海で………


今回の曲は、

『未確認で進行形』から

みかくにんぐッ!/『とまどい→レシピ』

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