蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第96話


あれ?コレってこういう作品だったっけ…?

[ 自宅・蒼一自室 ]

 

 

 

「………ん………うぅん…………」

 

 

 目蓋の隙間から入ってくる木漏れ日のような朝日が瞳に突き刺さる。

 瞳から感じたその刺激が、そのままあらゆる神経を通して脳に加わる。 すると、眠っていた感覚がジワジワと正常に戻り始める。 液体が氷のように固まりだす感じかな? 指から融け落ちていくようなモノじゃない。 この手に触れてもしっかりと感じることが出来る、そんな感じだ。

 

 何がともあれ、俺はまた新しい朝を迎えることとなる―――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――おはよう、蒼一♪」

 

 

 あまく少し酸味のあるような声が耳の中を通り過ぎる。

 その声を聞くと、俺の神経が揃いに揃って歓声を上げ始め出す。 さっきの朝日とはまったく比べようもないほどの反応の違いだ。 現に、神経だけじゃなく、この胸の動悸さえも高まってくるのだ。

 

 

 身体中が喜びに沸いているのだ。

 

 

 

 瞳をスッと開き、声の主の方に向けると、純白のドレスのようなエプロンを首から下げて立つ1人の少女を見上げる。

 

 宝石のように艶掛かった上品な薄桃色の唇。 菫のように美しく見惚れてしまう瞳。 そして、それらすべてを持って俺に安らぎを授けてくれる朗らかな笑顔。 

 

 どれをとっても愛おしい、そんな彼女の名を唱える。

 

 

 

「――――おはよう、真姫。 今日もいい朝が迎えられたよ」

 

 

 そう言うと、彼女・西木野 真姫は今日一番の表情を持って迎えてくれる。

 

 

 

「ふふっ♪ 今日は私が腕によりをかけて朝食を作ってあげたのよ。 冷めないうちに早く来て頂戴ね♪」

 

 

 エプロン姿でやってきて少し気になったのだが、なるほど、そう言うことだったか。

 

 ちなみに、真姫がウチに同棲を始めてからもう1ヵ月近くになる。 その間、俺の今までの人生の中で、最も喜ばしく且つ過酷な濃密な時間を過ごした。 今思い返せば、どうしてあんなことになったのか、後悔してしまうところもある。 ただ今現在目にしているこの笑顔を前にすると、後悔など不必要に思えてしまう。

 

 

 

 何故なら、真姫()俺の彼女となってくれたのだから―――――

 

 

 

「――――っと、その前に――――♪」

 

 

 

 真姫は髪をかき上げながら、床に伏せたままの俺に顔を近付けると―――――

 

 

 

 

「んっ―――――――♡」

 

 

 

―――と、吐息を漏らしつつ、俺とあまい口付けを交わした。

 

 

 お互い恋人の関係となった俺たちにとって、これが毎朝の日課となっている。 これが所謂、恋人の特権と言うヤツなのだろう。 おかげで毎朝良い気分で目覚めることが出来る。

 

 

 ただ時々こうした行為が激しくなりすぎて、朝食やら真姫の登校時間をもすっぽかしてしまうほどのことが起きてしまうことがちょっとした悩みであったりもする………

 

 

 しかし、今日はほんの少しで引いてくれたため、難無く過ごすことが出来た。

 

 

 

 ちなみに、今日の朝食は塩っ気が濃かったような気がしたのだが、黒砂糖でもかじっているかのように口の中では糖分が絡みつき、非常にあまったるく感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 真姫を送りだしてから数時間後―――――

 

 

 音ノ木坂の方が、ちょうど放課後くらいになったのではないか、と感じていた頃に向かい始めていた。

 目的は言わずもがな、μ’sの活動を本格的に再始動させるためだ。 あんな出来事があっては活動なんて端から出来っこなかった。 だが、それを乗り越え、俺も本調子になりつつあったので再会の号令をかけるとしたら今をおいて他になかった。

 

 ラブライブやスクフェスだって間近になってきている。 廃校を阻止するために俺たちは活動を進めてきたのに、ここで足踏みするわけにはいかなかった。 必ず何とかしてみせる、最初に語ったあの約束を胸に、俺は堂々とした姿で待ち構える校舎を見上げ敷居に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

「「そおおおぉぉぉぉぉぉぉくぅぅぅぅぅぅぅんんんんんんん♪♪♪♪」」

 

「――――ッ!?」

 

 

 正門をくぐった瞬間に双方からバネのように弾む陽気な声が聞こえてくると、一体何事か、と身を構え始めようとするのだが、それよりもはるかに早く身体に抱きつく幼馴染2人に為す術がなかった。

 

 

「もぉ、蒼君ってばぁ~来るのが遅いよぉ~! 穂乃果、ずっとずぅ~っと、蒼君のことを待っていたんだからね!」

「ことりも待ちくたびれちゃったよぉ~……我慢した分、あまえさせてくださいね♪」

 

 

 2人は俺の腕にそれぞれギュッとしがみ付くと、まるでネコのように顔を身体にすり付け、撫で声を上げて甘えに来たのだった。 俺に会えたことがよっぽど嬉しかったように思えるのだが…………って、ちょっと待ってくれよ。 俺がここに来ていたことをどうして2人は知っていたんだ? アレか? またしても俺の動きを確認していたりしていたと言うのかよ?

 

 そう思えるとまたしても悪寒が…………

 

 

「大丈夫だよ蒼君! 今の穂乃果は蒼君のことがよく分かっちゃうんだ。 だって、穂乃果の彼氏なんだからね♡」

「蒼くんのことは、何も見なくても感じられるようになったの。 だからことりは、穂乃果ちゃんと一緒に蒼くんが来るのを待ってたんだよ♡」

 

 

 おい、マジかよ……さり気なく俺の思考を解読しているよこの2人………恋人関係になった瞬間に、ますます悪化したんじゃないかって思えるくらいにレベルアップをしているように思えた。

 そして、俺の身体に押しつけてくるその柔らかな感触が、これまで以上に意識してしまう。 ことりのマシュマロのように柔らかな身体が俺の腕を包み込み、その身体から溢れ出る砂糖菓子にもよく似た甘い香りが俺の鼻腔をくすぐらせる。 穂乃果もまた、ことりほどではないがやや柔らかな身体を俺に押し付けてくるのだが、それと同時にバラのような美しい香りを纏わせて俺を誘惑しようとしているようだった。

気付かぬうちに、2人は大人の階段を数歩も歩んでいたらしく、俺の心を鷲掴みしようとしているようだった。

 これもアレか、恋人効果と言うヤツなのか?! 今までかなり雑に扱ってきていたのに、いざこうした関係になるとどうしても以前のように立ち回れない!

 

 

 

「んふふ♪ 蒼君の顔が赤くなってる~……もしかして、穂乃果の身体に魅力でも感じちゃったのかなぁ~?」

「んなっ?! そ、そんなこと………!!」

「とぼけなくてもいいんだよ。 今は、蒼くんとことりと穂乃果ちゃんだけなんだから無理しなくてもいいんだよ? ほぉら、蒼くんのほんとのキモチ……知りたいなぁ~♪」

 

 

 穂乃果に言われてようやく自分の顔が熱くなってきていることに気が付くのだが、またさらに熱くなってきているのを嫌でも感じてしまう。

 し、仕方ないじゃないか………! 双方向いても上目遣いで見てくるその顔が何とも愛らしく感じられるばかりか、今にも唇を塞がれてしまうのではないかと想像して動悸が激しくなる。 それに、今の状態を加えて、不可抗力ながらも2人のあられもない姿を見てしまっていたために、この気持ちの高まりようは収まる兆しなど無かったのだ。

 

 今、自分でも顔の緩みがかなり酷いモノになっていることが鏡を見なくてもわかる。 そんな顔を覆い隠したいと言うのに、この2人が腕を奪ってしまっているのでどうすることもできない! あぁ……穴があったら入りたい………!

 

 

 

 

 

「穂乃果! ことり!! あなたたちは一体何をやっているのですか?!」

 

 

 おぉ……こんなところに女神がぁ………!

 

 窮地に陥っていた俺に救いの手を差し伸べるように現れたのは、もう1人の幼馴染である海未だった。 清流のように美しく流れる長い髪をそよ風になびかせ、繊細に揺れ動くその髪1本1本を見ているだけで、夏の暑さを忘れてしまうそうになる。 また凛とした態度と冷静ながらも怒りを含ませた言葉で近付いてくるため、俺にくっ付いている2人の表情に焦りが現れているのがよく分かる。

 

 苦手だもんなぁ、ああいう海未が………まあ、俺もなんだけど………

 

 

 

「2人揃ってどこへ行ってしまったかと思ったら、こんなところで蒼一とイチャつくなど……破廉恥です!! 何を考えているのですか!!!」

「「ひぃっ!!」」

「今日はあなたたちが日直ではありませんか! すぐに戻りなさい!!」

「「は、はいぃぃぃ!!!」」

 

 

 群がる鳥たちを散らすように海未は2人を叱りつけると、2人は逃げ出すようにそのまま校舎の方に向かって走っていくのだった。 さすが海未だなぁ……と感心するものの、叱り付ける際に見せた般若のような形相があまりにも迫力があり過ぎて顔を引き摺らせてしまう。

 

 やっぱり怖ぇなぁ………

 

 

 

「――――大丈夫ですか、蒼一?」

「―――っ! ……あ、あぁ……大丈夫だ問題ない………」

 

 

 危ない危ない……海未が急に俺の目の前に現れたから動揺してしまったじゃないか。 それに、アイツらみたく俺の思考を読まれているのではと思ったら、どうされるのか知れたもんじゃない。 言わずもがな、ドッタンバッタンされることが目に見えてしまう………

 

 

「まったく、あの2人は目を離すといつもこうなんですから、困ったモノです………」

「あはは……ご苦労さんだな、海未」

 

 

 よかったぁ………海未は俺の思考を読んでいない! 溜め息交じりの今の言葉とこの困り果てるようなこの表情がすべてを物語っている。 どうやら俺は、折檻させずに済みそうだ………

 しかし、その表情と共に見せる慈悲深そうな表情が、俺に一時の安らぎを与えてくれる。 こうして向かい合っていると、海未のやさしさをこの場の雰囲気だけで感じられるような気がする。 現に、俺自身がこんなにも落ち着いていられるのは、海未のその性格とオーラがそうさせているように思えるのだ。

 

 海未がまともで本当によかったぁ………

 

 

 

 

「蒼一……あのぉ………ですね………」

 

 

 そんな安心し切っていた俺の前で、海未は少し頬を染めらせながら辺りをキョロキョロと見回り始めだす。 何かを探しているのだろうか? 困った表情を見せながらそうした行動をとるので、自然と気になってしまう。

 

 

 そして、一旦落ち着かせるために深呼吸を行うと、俺の顔を引き寄せ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゅっ―――――――」

 

「――――ッ!!?」

 

 

――――ソフトなキスを俺の唇に与えたのだった?!

 

 

「うふふ♪ 御馳走様でした、蒼一♪」

 

 

 狼狽する俺を眼前に、海未は両手で口元を押さえながら小悪魔のような微笑みを浮かべていた。

 まさか、海未がこんな大胆なことをするなどと誰が想像しただろうか? 俺の唇を奪いに来たのが、穂乃果でもことりでもなく、海未だったことの衝撃は収まることを知らなかった。

 それに、やさしさの詰まった柔らかな口付けが、俺の心を的確にくすぐってきたのだから赤面待ったなしだ。 まったく、どっちが破廉恥なんだよ! って言いたくなるような所業に倒れてしまいそうだった。

 

 

「ふふっ、恥ずかしそうにしている蒼一が、何だか新鮮でかわいらしいですよ♡」

「~~~~~ッ!!」

 

 

 ギ、ギルティ………なんて罪深い小悪魔なんだろう………

 たった数秒の出来事でこの俺を籠絡寸前にまで仕立てあげようとするだなんて………海未、恐ろしい子ッ!!

 

 前言撤回――――俺の幼馴染にまともなヤツはいなかったと。

 

 

 その日の俺は、海未と別れるまでこんな調子で足を取られまくっていた。

 

 

 だが後日、そのお返しとして数十倍もの恥ずかしい体験をさせてやり、立場を逆転させたのはまた別の話――――

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 海未たちと別れた俺は、そのまま部室の方に向かっていた。

 今のこの時間は放課後。 つまり、部活動が始まる時間帯である。

 一応、全員には活動を行うことを事前に通知させているので、すでに集まっているのだろうと思う。 ただ、海未たちはまだやることが残っているみたいなので遅れてくるそうだ。 だとしたら、他にもまだ来ていないヤツがいるのではないのか、という疑問が残る。

 

 そうした思いを胸に、この部室の扉を開き始める。

 

 

 

 

「おっそーい!! アンタね、もう少し早く来なさいよ!!」

 

 

 まさか、開口一番で叱られるとは思わなかったなぁ……おい………

 

 扉を開いたその先にいたのは、机のかなり端に位置するいわゆる部長席で踏ん反り返っているここの部長・矢澤にこが目の前にいたのだった。 どうして俺がそんなことを言わなくちゃならんのだ、と反論したいのだが、そこはかとなく面倒なことになりそうだと直感したために逸る気持ちを抑える。

 

 ああ見えてしつこい恋人(彼女)なのよ、にこは。

 

 

 

「あっ! 蒼一にぃ来ていたんだぁ~♪」

「うおっ?! ……っとっとっと………花陽か。 ちょっとびっくりしたぞ」

「ごめんなさい……でも、蒼一にぃを見たらつい抱きしめたくなっちゃうんです♪」

 

 

 ぽふっ、という効果音が出てくるように抱きしめてきたのは、小泉 花陽だ。 訳あって“義兄妹”の関係になっているので、花陽は俺の事を本当の“兄”のように慕ってくれている。 こんなにホワワ~ンとした可愛らしい子が俺の“義妹”となってくれるだなんて、嬉しい限りだ。 一緒にいるだけで癒されてしまうのだ。

 

 

 ちなみに、花陽とも恋人関係にあると言う、ちょっと複雑な関係でもあるのだ。

 

 

 

「あっ、そうだ! 蒼一にぃ、一緒にこのアイドルのライブ映像を見ませんか? ついさっき、にこちゃんが教えてくれたモノなんだけど……いいかなぁ?」

 

 

―――と映像ディスクケースで口元を隠しながら、以前見せたあの『おねがぁ~い』な瞳で俺に訴えかけてくる。 そのちょっぴり困っています、と頼ってあげたいと言う男心を擽らせるその仕草がかなり効いてしまい、有無を言わずに尽かさず首を縦に振って了承した。

 

 すると、それがあまりにも嬉しかったのか、花陽の瞳が煌めく宝石のような輝きを見せてぱぁーっと晴れやかな表情となるのだった。 その分かりやす過ぎるその無邪気な姿を微笑ましく感じてしまうのだった。

 

 

「それじゃあ、蒼一にぃ! こっちに来て見ましょう♪」

 

 

 そう言うと、俺の手を引っ張って、パソコンの前に座らせられた。

 

 俺の当初の目的とはかけ離れてはいるモノの、みんなが集まるまでの準備期間だと思いながら、俺は我が義妹と共に鑑賞し始め出すのだった。

 

 

 

「それじゃあ、一緒に見ましょう♪」

 

 

――――と言って、花陽は俺の膝に腰掛けて………

 

 

 

「……って、どうして膝に座っているんだよ!?」

「だってぇ~蒼一にぃの膝の上って、とっても座り心地が良いと思ったから、つい乗っかっちゃいました♪」

 

 

 つ、つい乗っかっちゃいましたぁ……ってそりゃないでしょ! これじゃあ、前が見えないぃ~!!

 

 

 

「はぁ~~~!! 思った通りの気持ち良さですぅ~♪ 蒼一にぃの太ももの筋肉がちょうどいい感じの柔らかさで座り心地は抜群ですぅ~♪ それに、こうしていると蒼一にぃの温もりを感じられて最高ですぅ~♡」

 

 

 そんなコメンテーター張りの解説をしないでぇー! 恥ずかしいから! ただでさえ、その柔らかな臀部が乗っかられて何とも言えない気持ちになっているんだからぁー!!

 しかもアイドル観賞会が、まさかのリアルアイドル(我が義妹 花陽)の背中を観賞会となっていることの変化に気が付いてほしい! 3DとかVRとか、そんなちゃっちなものでは言い表せられないほどの濃密な体験に襲われちゃっているんだよ!!

 

 

 

 

「ちょっと、花陽! アンタ、一体何やっているのよ!!」

 

 

 背中から慌てふためくような声をにこが声を大にして叫んだ。

 おお、にこ! お前が止めに来てくれるだろうと信じていたぞ! 頼む! 早く、花陽をどうにかしてくれ!!

 

(後ろに首が回らず)多分後ろにいるのだろうにこに、必死のヘルプコールを念じることしかできない俺は、にこの英断に大きな期待を抱いていた。 大丈夫だ、にこならきっとやってくれr――――――

 

 

 

「――――花陽だけそこに座るだなんて、許されないわ!! 部長命令よ! 私にも座らせなさい!!!」

 

 

 

―――――って、おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 

 

 悔しくも俺の願いは泡沫に消えてしまったじゃあないかァァァ!!! にこ、裏切ったなぁ!! つうか、なんでお前も座ろうとするんだよ!!

 

 

「にこちゃん! それはダメだよ!! 私はここからもう離れられなくなっちゃったんです!」

「ぬぅあんですってぇ?! ………くっ……それほどまでに、その椅子は居心地がいいのね………ふふっ、ますます座りたくなってきたじゃない………!!」

 

 

 げぇ!! なんか、嫌な空気が流れ始めているんですけど!? もしかして、アレか? この前みたいな、あんな殺伐としたことがもう一度行われるのか?! そ、そんなことだけは勘弁してくれ!!

 

 

 

「私にいい考えがあるよ、にこちゃん!」

「へぇ……何かしら………?」

「それはね………

 

 

 

 

 私が左の方に座るから、にこちゃんは右の方ってどう………?」

 

「いや、何分割してんの!? あのな、俺の身体はキミたちのモノじゃないんだからな? それくらいは承知しt――――

 

「乗ったわ!!」

 

――――俺の話を聞けェェェ!!!」

 

 

 しかも、その「乗った」ってどういう意味の方かな? 思考的な意味? それとも、物理的な意味なんでしょうか? 俺としては、どちらも結構なので早く退いてもらいたいのですが…………

 

 

 

「よいしょっと。 おぉぉぉ!! な、なんて言う座り心地なの! もう最高じゃないの!!」

 

 

 だめだぁ……もう、お終いだぁ…………

 

 俺の言葉をまったく無視して、俺の両ひざに乗っかり始めた俺の2人の恋人さんたち。 左には、かわいい義妹の花陽。 右には、あざとかわいいにこ。 2人とも、その華奢な身体を俺に預けるように座ると、安らぎを感じるような表情し出すのだ。

 さらに言えば、今度は花陽だけじゃなく、にこの柔らかな感触とやさしく包み込む温もりとを感じ始めてしまうので、理性の危機感が差し迫られてしまうのだ!

 

 あぁぁ!! で、臀部を押し付けないでェェェ!!!

 

 

 

「こうして座ると、蒼一の顔が近くで見れてとてもいいわ♪ 今日からここをにこの特等席にしようかしら?」

「むぅ~にこちゃんだけずるいよ~。 花陽だって、蒼一にぃとこのくらい近くにいたいんだからね!」

「蒼一はどうなの?! どっちがいいの!?」

「蒼一にぃ! 花陽だよね? 花陽がいいんだもんね?!」

 

 

 いやいやいやいや! こっちに言われてもなんて答えればいいか何て分かんねぇよ! それに、2人の目の色が段々と濁って来ているような………うおいぃぃぃぃ!! また、再発してるゥゥゥ!!

 

 だ、ダレカタスケテェェェェェ!!!!!

 

 

 

 そんな俺の願いが天に届いたのか、ちょうどいいタイミングで真姫がやって来てくれて、事無く終えることが出来た。

 

 

 だが、その後に、真姫から夜のアツゥ~イお誘いを受けてしまったわけで………あっ、今夜は寝れないヤツだ………

 

 

 

 一番悪化していたのは、真姫だったと言うオチは、ガチで勘弁してもらいたい今日この頃であっt(

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 花陽やにこたちから解放された俺は、当初の目的である活動の再開を推し進めようとしていた。

 穂乃果たちや花陽たちには連絡しており、ついさっきには明弘と凛にも連絡を入れた。 となると、残すはあの2人だけだ。 2人が今居るところに足早に向かっていくのだった。

 

 

「確かここだったな―――――」

 

 

 

 コンコンッ――――――

 

 

 

「はぁーい、どうぞ」

 

 

『生徒会室』と書かれた部屋の扉をノックすると、聞きなれたクリアな美声が返事を返ってくる。 そのまま俺は、扉を開けて中に入っていくと、もう2人の彼女たちが朗らかな表情を浮かべて俺を出迎えてくれた。

 

 

「蒼一! 来ていたのね!」

「こんな形で出迎えてごめんなぁ~」

「いいや、別に構わないさ。 生徒会の仕事との両立は大変だろうしな」

 

 

 そう言いつつ、黙々と机の上で生徒会の書類整理を行っているのは、ここの生徒会長様と副会長様である。

 

 シルクのような柔らかさと金色に照り輝く長い髪を後ろで束ね、日本人離れした美貌を見せつけさせる彼女・絢瀬 絵里。 それと、腰まで伸びた髪をおさげのように2つに束ね、終始朗らかな表情で周りを安心させるミステリアスな彼女・東條 希の2人が待っていたのだ。

 

 

 そして、言わずと知れたことかもしれないが、この2人も俺の恋人であり彼女なのである。

 

 

 つまり、合計8人の彼女を持っていると言うことになるのだが、今ここで話すには長くなってしまうので省略させてもらいたい。

 

 

「それで、今日は部活には出れそうなのか?」

「そうね。 ここの作業も大方終わったようなものだし、時間どおりに行けそうだわ」

「ウチの方もあらかた片付いたで。 あとはえりちのが終われば大丈夫や」

 

 

 そんな得意そうな顔をしている2人の表情を見る限り、特に問題はなさそうだと判断すると、反転して先に部室へ戻ろうとした。

 

 

 

「あぁ! 蒼一、ちょっと待って!」

 

 

 この部屋から出ようとした矢先に、エリチカがそれを止めるように声を掛けるので手を止めてしまった。 エリチカの方に顔を向き直すと、ちょいちょいと招き猫のように手招きをしてこちらに来るように促しているようだった。

 

 

「ちょっと、蒼一に見てもらいたいものがあるのよ」

「ふぅ~ん、何かな?」

 

 

 催促されるがまま、エリチカの横に立つと、何かの書類を指さして俺に合図が送られる。 これが見てもらいたいもの? それは俺でなくとも2人だけでも処理できそうなものだったので、やや疑問に思ってしまった。

 

 

 それが2人の罠だとも知らず………

 

 

 

 

「隙あり♪」

「うおっ―――?!」

 

 

 突然、希が俺の背中に抱き付いてきた――――!

 机の上の書類に注意が行っていたために、周りの注意をしなくなっていた無防備な俺は、そのまま希の身体に支配されるまま身動きが取れないでいた。

 

 

「注意不足やなぁ~蒼一♪」

「んなっ!? 何をするんだ、希! 放せ!!」

「やぁ~ん♪ 蒼一のイケズぅ~、ウチにもっと蒼一を感じさせてや♡」

 

 

 だあああぁぁぁぁぁぁぁ!!! これはダメな方の希だァァァ!!! トロンとした口調で、顔を擦り寄せるこの希はテコでも動かないぞ!? このままじゃ…………ハッ! い、嫌な予感が…………

 

 

 現状、希がこんな状態になってしまっていると言うことはつまり………我慢体質が極めて低いコイツが………!

 

 

 

「ナイスよ、希♪ これでアナタを捕まえちゃった♪」

 

 

 やっぱりかよっ!! 有無を言わせず、エリチカは俺の正面から腕を伸ばすと、そのまま首周りに絡み付いて抱きついてきたのだ!

 

 

「ちょっ!? お前らやめろ……!!」

「イヤよ。 折角こうして私たちだけの時間が作れたと言うのに、すぐに終わっちゃうなんて悲しすぎないかしら?」

「そうやで。 ウチらにもっと濃密な時間をくれてもかまへんやろ?」

 

 

 構ってもいいわけないだろぉ!? つうか、前にはエリチカ、後ろには希と言うサンドイッチ状態に陥っているこの今の状態に危険性を感じずにはいられない!!

 それになんだ………前後からとてつもなぁ~くやわらかぁ~い感触が俺の身体に押し付けられているわけで、我慢にもほどがあると言うものだ。 2人揃ってかなりの爆弾を抱えていることが俺の神経を強く刺激させ、理性と言うか男の闘争本能が剥き出しにされてしまいそうで、声を抑えるだけでも一苦労だ。

 しかも、この2人の身体から濃度たっぷりのアダルティな匂いが溢れ出て来ており、鼻腔を擽らせる。 学生ながらも少し背伸びしたような大人の魅力を身体で見せつけてくる魅惑と、わずかに垣間見える初々しさがさらなら刺激となって理性に突き刺さる。

 

 まずい……本気(マジ)で溺れてしまいそうだ…………

 

 

 

 

 

「――――まったく、蒼一ったらこんなに疲れた顔をしちゃって………ちゃんと身体を休めているのかしら?」

「へっ―――――?」

 

 

 すると、エリチカが俺の目尻辺りを親指で触れながらじっと見つめ始め出したのだ。 まるで、慈しむかのようなその表情が、鉄の糸のように張っていた神経を緩ませさせる。 安らぎにもよく似たこの感覚に、また違った意味で溺れかけていた。

 

 

「アナタの身体はもう、アナタだけのモノじゃないのよ? アナタが倒れたら私も悲しいし、みんなもきっと悲しむに違いないわ。 だから、あまり無茶はしないでよね?」

「エリチカ―――――」

「そうやで。 蒼一はウチらの大事な大事な恋人さんなんやから、また倒れるようなことがあったらウチらきっとダメになってしまうんよ………」

「希―――――」

 

 

 2人の囁きはとてもか細く、悲しみのあまり泣き出してしまいそうな脆い声だった。 前後を見回して、2人の瞳を見つめ合わせると、その気持ちを言葉にしなくとも分かってしまう。

 

 そんな2人のために、俺が今出来ることをしてあげたい――――

 

 

 

 俺は身体を2人が見えるところにまで傾けだすと、そのまま2人の事を抱きしめ始めた。 その突然なことに2人とも目を真ん丸にして素っ頓狂な顔で俺の事を見つめだしていた。

 

 そんな2人の身体をやさしくさすりながら言葉を紡ぐ。

 

 

 

「ありがとな、エリチカ、希。 お前たちがそう言ってくれるだけで、俺は元気になれるんだ。 そして、約束する、俺はお前たちを悲しませたりなんかしないからな………」

「「蒼一………!」」

 

 

 2人をギュッと抱きしめると、2人もそれに合わせるかのように熱い抱擁を返す。 微熱の籠る吐息を漏らしながら、そのやさしさに浸る俺はほんの少しの休息を取ることになるのだった。

 

 

 

 

 

 ただちょっと気を許し過ぎて、のぞえりに襲われそうになって一苦労してしまうこととなるのは、また別の話―――――

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 音ノ木坂学院・アイドル研究部部室内 ]

 

 

「――――ったく、ようやく集まったなぁ………ほんと、なんでこんな無駄な体力使わせんだよ!!」

 

『いやぁ~……そう言われても………』

 

「何故そうも照れ気味になって応えるし? 褒めてないから、褒めてないから………」

 

 

 集合をかけ始めてから数十分が経ってようやく全員が集まったのだが………遅い! 遅すぎるぞ!! どうしてこうも時間にルーズなことになってしまうのかねぇ……? まったく、悩ましい限りだ………

 

 

――――っと、そう言っている場合じゃないな。 気持ちを切り替えておかなくちゃならないよな。

 

 

 両頬を叩いて気合を入れ直すと、ここに集まるみんなの前に立つ。

 こうしてみんなが揃って顔を合わせるのは、とても久しぶりのように感じられた。 そう思うと、少しばかり感慨深くなってしまうのだが、その気持ちを抑えて今は前だけを見つめるのだ。

 

 

「さて――――思わぬ形で時間が大きく空いてしまったわけだが、期限は待ってくれやしない。 あと、もう1ヵ月もすれば本番になる。 そこに俺たちが目標としていたモノがある、だから、気合を引き締めてもらいたい」

 

 

 そう号令をかけると、全員の目付きが真剣なものへと変わっていった。 彼女たち自身も気が付いていたのだろうと思うが、それでもこうしたことで更なる意識を芽生えさせるのだった。

 

 

「曲なら任せて頂戴。 創り置きしていたモノもあれば、ちょうどいいアイディアも浮かんだところなのよ。 本番までには仕上げておくわ!」

「作詞の方も問題ありませんよ。 みんなが創ってくれたモノもあれば、私の渾身の自身作もありますので、期待して待っていてください!」

「ダンスも問題ねぇさ! 最高のパフォーマンスが出来るように、あらゆる工夫を凝らさせてもらってからよぉ! 曲が出来次第、速攻で合わせてやりゃぁ!!」

「宣伝もお任せあれです♪ 新作や情報が出来次第すぐに発信できるようにしておりますので、バッチリです!」

 

 

――――と言った、とても頼もしいみんながバックアップに回ってくれているので、俺も安心して次への布石を打つことが出来る。

 

 

 必ず成功させてみせる―――それが、俺の使命なのだから!

 

 

 

 

「そんじゃあ、今日も張り切って練習に行くぞ!!」

 

『おーっ!!!!!!!!!!!』

 

 

 楽しいかけ足が廊下を走り抜ける。

 リズミカルなステップが階段を蹴り飛ばし、陽気な音楽を創りだす。

 

 そんなみんなの姿を追い掛けながら、その先に見える希望の光を目指して、今日もまた歩きだすのだ――――――

 

 

 

―――――こっからが、はじまりなんだよ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ! 練習後にまたみんなで蒼君の家に寄ろうよ!」

 

「却下だっ!!!」

 

 

 

――――本当に始まるのだろうか?

 

 

 

 

(次回へ続く)




どうも、うp主です。

なんやかんやで戻ってきました。ほんと、お久しぶりです。

こうしてこっちに本格的に戻れるようになったのですが、まさかの1話目がこんな感じに………え?なんでこうなったん?って思っている人が多いかもしれませんが、外伝のラストを見れば分かります。

すべては、ああいうことになったんだよ…………


まあ、みんなを解放してあげたというか………そう……そう言うことなんだよ!!(暴論)

とまあ、こんな感じが今後の作品の方向性と言っておきます。本格的なハーレム作品になれるのか……?

わからんなぁ…………


でも、頑張っていきます!




今回の曲は、

『鋼の錬金術師』より

L'Arc〜en〜Ciel/『Ready Steady Go!』

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