あのアキバでのライブから幾日かが過ぎようとしていた――――――
6月も末になり始め、じめじめとした天気がちょうどピークを迎えていた。
さらに、夏の気温もぶつかり始めるために、高温多湿な毎日が続く。
当然のことながら、朝の練習などが出来る様子ではなかった。
そのため、ここ何日かは少し遅めに起きるようにして体力を温存させていたわけだ。
しかし、あと1ヵ月もするとラブライブ本選が俺たちの前に立ちはだかる。
ぐずぐずしている暇なんて無いのに、こんな天気では練習時間も場所もまともに確保できていなかったりしている。
俺に課せられているのは、この限定された中でいかに有意義な時間を送ることができるのか、という極々当たり前なことを難題のように与えられている。 だが、それでもやらなければならないのが、μ’sの指導者としての役割であると感じている。
腕が鳴ることなのだが、同時に恐ろしい程のプレッシャーも感じている。
特に重荷に感じているのが、やはり、音ノ木坂学院廃校の有無だ―――――
今日に至るまでに、廃校にならずに済む手段が、学校側から出されることがなく過ごしてきた。
いや、実際にはあったのだ。 何もせずに手をこまねいていたわけでもない。 ただ、内容が良くなかっただけのことだ………
実質、それで立て直しが図れるかと聞かれると、現実的なものではなかったために廃案にされてしまったわけだ。
そして、その最後の望みが俺たちμ’sに掛かっているわけだ―――――
音ノ木坂で出された数多くの案よりも可能性を秘め、尚且つそれなりの成果を収めている事実があるわけで、こちらに期待を寄せている人が数多くいるということを把握しているからだ。
過度な期待をされては困る、とは思うもののそれに応えてあげたいと言う気持ちもあるため、複雑な気分でもある。
……とりあえず、深く考えないで目の前にあることに集中しなくちゃな。
「ねえ、蒼一。 今日から大学は休みなの?」
「そうだな、今日から9月中頃まではそうなるな。 その分の課題はたくさんあるけどな……嫌だねぇ……」
「そうかしら? 私は羨ましいと思うわ。 自分の好きなことができる時間が与えられるって、素晴らしいと思わない?」
「う~ん。 まあ、そういう捉え方をすればいいものかもしれないな」
「それに、蒼一は私たちをラブライブに出場させてくれるのでしょ? それまでの計画を立てるのには十分な時間が与えられたようなものじゃないの」
「そう……だな………そういう捉え方もすると俄然、やる気が起きるな」
「うふふ♪ 頑張ってよ、μ’sの指導者さん♪」
笑いと冗談を交じらせながら真姫は俺に話しかける。
見ての通り、真姫は未だにウチで同棲している。
来てからすでに、10日を過ぎようとするのだが、肝心の真姫の両親が急用で出張することとなってしまい、やむを得ず延長となった。 これもまた、1週間近くは掛かりそうだと言うので、しばらくは暇になることはないだろうと考えている。
そうなると真姫は約1ヵ月もウチにいることとなるではないか?
いくらなんでもそれはちょっとやり過ぎな気もするのだが………かといって、どこぞの馬の骨か分からん奴に、真姫を預けるなんてことを考えれば、まあ仕方ないなと思うのは確かだ。 それならば、ウチで面倒をみる方がよっぽどマシではないか、と言う自己的結論を編み出している。
ということで、真姫にはこれからもよろしくなってもらうことになる。
それと真姫が言うように、今日から俺の大学は夏休み期間に突入する。
とはいっても、今日に至るまでの大学の講義などをパスしている俺のような者限定なのだが、それができていない者はこの期間に更なる講義を受けることになる。 つまり、明弘もその中に入っているわけだ。 哀れやもしれないが、これも日々の精進を怠っていた結果なのだ、摘み取るのは当然のことだ。
そして、いよいよラブライブが目前にということ。
俺に与えられたこの期間をすべてそこにつぎ込むことをしていかないといけないのだろうな………大変かもしれないが、ちゃんとした計画を立てて行く必要があるかもしれないな。
待ってろよ、ラブライブ! 絶対にそこに行ってやるからな!!!
〈………ジジ……………ジ………………〉
「それじゃあ、私はこれから学校に行くわね」
「あぁ、気を付けて行ってくるんだぞ? 弁当は持ったか?」
「持ってるわよ、折角蒼一が作ってくれたのですから、置いてくなんてことはしないわよ」
「そうか、ならばよかった」
「それに……蒼一が私のためだけに愛情をたっぷり込めて作ってくれたのだから、大事に大事に食べないとね♪ ちゃんと1つ1つを味わないとね♪」
「そう言ってもらえると嬉しいが、あまりゆっくり食べて時間を潰すんじゃないぞ?」
「だいじょ~ぶ、もし余っても、帰って来て蒼一に食べさせてもらうんだから♪」
「おいおい、そんなの初めて聞いたぞ?」
「それはそうよ、だって……………」
〈ジジジ………………ジジジジジ……………………ザザ……………〉
「私が今、考えた事なんだから♪」
「――ッ!!(ビクッ…)」
その刹那、嫌な悪寒が体中に駆け巡った――――――――
今までに感じたことのないとてつもなく嫌なものだ。 このドロッとまとわり付こうとする感じは、一体何なのだ……?! 身の危険すらも考えてしまうようなこの感じは一体………ッ!!
「ねぇ、蒼一………出来ることなら、あなたの手で私の口の中に入れてほしいわ……。 蒼一が作った料理を蒼一のその手で摘んで私の口の中に入れて味わいたいの………いいでしょ……?」
「―――ッ!!!?」
考えていて気が付かなかったが、俺のすぐ目の前に真姫が立っていた。
その姿を見て、以前のように倒れてしまうほど驚くことはなかったが、別の意味では、かなり動揺している。
何か恐ろしいのだ―――――――
ハッキリとそれが何かを答えることはできない………が、真姫の体から感じ取る雰囲気が、いつも身に触れているモノとは明らかに違っていると感じるのは確かだ。
冷えた感触だ―――――そう、以前にエリチカが俺のことを避けていた時に感じた、あの冷たさと同じようで同じではない冷たさを感じ取っているのだ。
エリチカの場合は、俺を徹底的に避けるためにあのような冷たい眼差しを持って俺に当たってきた。 だが、この真姫の場合は違う。 まったく逆なのだ……真姫は俺にくっ付き貼り付こうとしている。
俺の体と真姫の体が重なる。 抱きしめた時のようにお互いの体が密着した。
だが、それに温もりなどはない――――まるで、氷を手掴みしているかのように冷たく体がかじかむのだ。
冷えつく体からあふれんばかりの汗が吹き出し始める。
それは体が熱いからじゃない、背筋が凍りつく恐怖――――今までに計り知れない恐怖が俺を飲み込もうとしている。
真姫の瞳がそう語りかけて来るのだ。 獲物を狩り、捕えた時に見せる鋭い金縛りの眼光――――それに魅了されたかのように、俺の体は動かず、視線が離れようとしなかった。
キケンだと、俺の脳内で叫んでいるのにだ………まったく離れられなかったのだ―――!!
真姫の瞳から――――――光が―――――――――――
〈ジジジ―――――ザ―――――――――――――――――――〉
「ハッ……!! 真姫ッ!!!!」
「―――ッ!!?」
頭に何か強い衝撃を受けたと感じると、我に返った。
そして、真姫に対して強い言葉で叫び呼んだ。
するとどうだろうか――――俺の呼びかけに応えるように、真姫の瞳に光が戻ったのだ。
「あっ……ご、ごめんなさい………急に抱きついちゃって………」
「い、いや……いいんだ。 そんなことより、早く行きな。 時間は待っててくれないようだぞ?」
「えっ……! あら、もうこんな時間なの?! 大変だわ、早く行かないと………!!」
真姫はすぐに靴を履き、カバンを手にして外に出た。
「行ってくるわね、蒼一」
「あぁ……雨が降りそうだから傘を持って行けよ?」
「わかったわ、それじゃあね」
そう言い残すと、ドアを全開にしたまま駆け出して行ってしまった。
「はぁ………明弘じゃあるまいに…………」
俺は、ドアを閉じるためにいったん外に出た。 そして、空を見上げると、夜空のような漆黒の黒雲がここ一帯を覆い被さっていた。 近年稀に見るほどの曇天だ。
「何か……ひと荒れ来そうだな……………」
中に入ると同時に、ドアを閉じた。
さっきのは、一体何だったのだろう………真姫のあの様子は、明らかに変だった………あの一瞬……あの一瞬だけ見せたあの行動は一体何だったのだろうか…………
頭を抱えながら廊下を歩き、さっきの出来事を振り返っていた。
〈ジジ――――――ザ―――――――ギギギ―――――ガガg――――――――――〉
ん? 頭に痛みが――――――――――――
〈――――――――――――――――――――――――――――――――〉
「あぐがっ……!! あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?!???!??」
急に頭に激痛が走りだした!
額から背骨までを沿った頭の真ん中から、真っ二つにカチ割れるような激痛が俺に襲いかかって来る!
痛い………痛ぃ……………!!
引き裂かれる………っ!! 右脳と左脳との間に生じているわずかな隙間に手を入れ、そこから無理矢理頭を引き裂こうとするような感じだ……っ!!
た、耐えられない…………っ!!!!
「うぎぎぎぐががが…………うぐぁあああああああああああああああ!!!!!?!?!」
つんざくような苦痛の叫びが辺りを響かせる。
後の方になると、もはや言葉にすらできないほどの辛苦を味わい、悶えているのだ。 立ってなどいられなかった……俺はすでに膝をつき、床をのたうち回っている。 それでも、今感じている痛みは軽減されることがないばかりか、徐々にその強さを増して行くのだ………っ!!!
意識が次第に遠のいて行くようだ…………………
目に見える景色が逆さまになり、色もモノクロのように色が解けていた……………
時計の針が、反対方向に向かって何度も何度も回り続けて行くのだ………………
今見える世界がまるで別のようにも感じ取れたのだ………………
世界が―――――反転する――――――――――――
〈ギュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!!!!!〉
〈イィィィィィィィィィィィィン……………………ジジ……………ジ……………ザ――――――――――――――〉
「はっがぁ………っ!!? はぁ…………はぁ……………はぁ……………………」
俺の中で何かが変わった時、頭に掛かっていた激痛が治まった。
そして、何も無かったかのように世界に色が取り戻され、時間が正常に回り始める。
いつもの平穏なる日常が戻ってきた―――――――――
「はぁ………はぁ……………なんだったんだ………今のは…………?」
さっきの痛みでみ出した呼吸を整えながら、現状を把握しようと辺りを見回す。
しかし、それとなく変化したものは何も無かった。 変わったのは、俺だけなのか…………
そう自分に問いかけてみるが、正答を教えてくれる人はいない。
ただ、明らかに何かが違っているのだと感じているのは確かなことだ。 それと同時に、何やら胸を貫き通すような焦りと恐怖を感じ始め出したのだ。
何かが来る―――――何かが―――――――っ!!
―――――――――世界が狂い始める―――――――――
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
こちらでは御久し振りのように感じます。
さて、今回の御話でこの作品に大きな区切りを入れることにさせていただきます。
その理由として、以前からこの作品に取り入れたい要素があり、それを今回創っていくことを目論み、実行しているわけです。
その要素と言うのは………
“ヤンデレ”
こうした要素をこの作品でもどうですか?と言われ始めて早半年が過ぎ、どのようなものにしていこうかと苦悩し続けました。
そして、ようやくその大まかなものも出来上がり、いくつかの話が出来上がったわけです。
そして、その要素はこちらの作品として発揮されることになります。
『カメラ越しに映る彼女たち―――』
これはこの『蒼明記』の外伝として書かせていただいているものです。
諸事情により、自分はこの要素をここで入れることはしたくなく、こちらの方でやらせていただいております。
ということなので、こちら『蒼明記』の方は、暫くお休みさせていただきます。
代わりに、『カメラ越しに映る彼女たち―――』が本編として書かせていただきますので、こちらをよろしくお願いいたします。
https://novel.syosetu.org/100108/
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