【プロローグ】
前略、みなさまへ―――――
この俺、宗方 蒼一は、現在、とても悶々とした気分にある。
何故かって? それはだな……………
『いらっしゃいませ~ご主人様♡』
何故か、男である俺がメイド喫茶で働いているんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???
何が起こっているのかわかんねぇかもしれないが、安心しろ………俺にも分からん。
ここに来た瞬間に俺は着替えさせられ、一瞬にして“執事”となり、この喫茶に降臨してしまったのだ………
それから、小一時間が経過しようとする現在。
俺は、給仕役としてここに立っているのだが………なんか嫌だ。 早く帰りたい………
俺に渡された、この全身黒一色な燕尾服に真っ白なシャツ、ネクタイ、手袋まで付き、さらには窮屈なベストまで付けられて、もう息苦しいったらありゃしないっ!!
そもそも、この俺が執事なんて合うわけが―――
「セバスさん、お見えになりましたよ―――」
「―――はい、ただいま」
手袋の中に指をギュッと奥まで入れ、そのままネクタイの位置を修正させる。
ジャケットにシワが寄らないようにビッと引っ張って身だしなみを整える―――すべて一瞬の出来事だ。
そして、店の入り口に立ち出迎える準備に入る。
エレベーターのドアが開く――――中にいるのは、みな女性客。
―――――挨拶は決まっていた。
「おかえりなさいませ、お嬢様方」
右腕を胸元に寄せて、軽くお辞儀をする。
当然のことです。 なぜなら――――
「執事ですから」
…………はっ!! 体が勝手に動いてるぅぅぅぅぅ!!!!!
―
――
―――
――――
事の発端は、すべてあの電話からだった―――――
『あーもしもし~蒼一殿でござるか~? ちょいとばかしお願いがあるのでござるよ~聞いてもらえないでござろうか~?』
「えぇっと………なんですか、それは?」
『それはですなぁ~………まあ、こっちに来てほしいのでござるよ。 場所はメールで送るでござるよ~それじゃあまた♪』
――――というような唐突かつスピーディーな通話だった。
通話相手は、沙織先輩だ。
以前、大学の文化祭でお世話になった人で、サークルの先輩である。
いつものように、実に陽気な声で話をしてくるから何かあるのだろうと自然に察した。
それでもまあ先輩に借りはあるので、そのお礼として我がままに付きあってもいいだろうと、判断したのでその場所に行くことにした。
しかし驚いたことに、その場所は以前行ったことがある例のメイド喫茶だったのだ!
またここに来ることになるとはなぁ……なんて思い更けながら店内に入っていったのだ―――――
―――――それが運の尽きだとは思わず…………
―
――
―――
――――
[ キュアメイドカフェ ]
―――んで、現在に至るわけだ。
「しかし、沙織先輩がこの店のオーナーだったとはな………」
「いやぁ~我が父上の仕事の都合上の成り行きでなったのだけでござるよ~。 まあぶっちゃけたことを言いますと、拙者はこの店が好きだったわけでして………」
「密かに、この店を我が手中に治めてくれようという野望を抱いたんですね、わかります」
「ふはははは!! この店は拙者の支配下に置かれたぁ!! ここにいる者はすべて拙者の操り人形に―――って、何をやらせるでござるか蒼一殿ぉ!!」
「結構ノリノリでやってた人が何言っちゃってんのぉ!!?」
「まあまあ、2人とも落ち着いてよぉ……」
激しいボケとツッコミが交差するその間に、この店の天使・ことりが介入してきて、この場を収めた。
ちなみに、ことりもこの店で働いているのだが、μ’sのみんなには内緒にしているのだ。 もちろん、いずみさんにもね。
ことりが働いている理由は、μ’sの衣装作りのため――――というのが表向きだ。
本当は――――――――
「セバス、このティーをあそこのテーブルに」
「はい、かしこまりました」
――――まずは、仕事に集中しないとな。
「おまたせしました。 こちらハーブティーになります」
――――といった具合に言われた仕事を進めていく。
ちなみに、さっきから俺のことを“セバス”と呼んでいるのは、この店での通称なのだ。
本名を使って働くことはこの業界では御法度らしい。 そのため、それぞれそうした名前を付けることにしているとのこと。 沙織さんは“バジーナ”で、ことりは“ミナリンスキー”と言った感じだ。
んでだ、俺のこの名前の由来なのだが……それが、この服が『黒執事』という作品の執事が着ているものとまったく同じで、それ故に、“セバス”と呼ばれてしまったのだ。
さらに………
『店内では、“セバス”らしく、アニメボイスでお願いするでござるよ~♪』
と言われてしまったので、無理やりだが声質を変えてそれっぽい喋り方にしている。
そのためなのだろうか、女性客からこんな注文が来る。
「すみません、セバスチャンのあの決め台詞を言ってもらってもいいですか?」
ほら、こんな感じにな。 もちろん客人に対して、執事はこうしたことを拒否することはしない。 注文にはできるだけ応えるようにすることが必要なのだ。
「かしこまりました。 では、少々お待ちを」
軽く咳払いをしてから少しずつ声質を変えていく。
高くも低くもない中低音ボイスに近付けて、声量を抑えることで落ち着いた感じを演出させることをイメージする。 よし、こんな感じだ。
「では、参ります―――――」
鼻から息を吸い上げ、澄ました表情を女性客―――いえ、お嬢様に見せつけるのです。
「あくまで、執事ですから―――――」
――――と言って、不敵な笑みをこぼして見せる。
「はうっ……!!」
突然、声を発すると思いきや胸を苦しそうに両手で押さえつけ体を逸らす。 そして、何とも幸せそうなにへら顔をすると、そのまま放心状態になってしまった。
あー……これはいわゆる悶絶ってヤツなのかな? あの言葉だけでそこまでになるのかよ………
少し呆れた気持ちであったが、だがそのままにしておくわけにもいかなかったために起こそうと努めてみるが、逆に、再度悶絶してしまったようで…………
もう、他の店員にお任せすることとなりました…………
そして、こちらにも悶絶してしまったヤツがおりまして……………
「ふへへぇ……そ、蒼くんのかっくいい恰好と声で……えへへ………♪」
「お~い、ことりぃ~……お~い、起きろ~~~」
バックヤードでさっきのお客よりもすごく幸せそうな笑みを浮かべて夢の世界にダイブ中だった………
―
――
―――
――――
「おつかれでしたぁー!」
「いやぁ~忙しい中、応援に来て下さり本当にありがとうでござるぅ!」
「というより、ここに来た瞬間にもう諦めてましたからいいんですよ………」
「にゃっはっは!! そう言わないでほしいでござるよ~、照れてしまうではないですか~♪」
「褒めてない褒めてない………」
一日の仕事も無事終了することができ、帰路に立とうとしていた。
同時に、ことりも終了時間だったらしく俺と一緒に帰ることになっているのだが、今準備をしている最中でまだ店の中にいる。
そのため、こうして店前で沙織さんと話をしているわけなのだ。
「しっかし、蒼一殿が来てから客足が増えて店は大繁盛でござるよぉ~。 やはり、セバスチャン効果は絶大だったようでござるなぁ~♪」
「確かに、以前来ていた時よりも圧倒的に客が増えていましたねぇ………しかも主に女性客が………って、まさか狙ってたんじゃあないでしょうね?」
「ふっふっふ………さぁて、どうでござろうかねぇ~?」
“
いつになっても侮れない相手だ、まったく………
「ごめ~ん、待った?」
急ぎ足で店前にやってきたことりは、メイド服から着替えて、実に女の子らしい服装をして俺の前に立った。 少し息切れをしているところを見ると、階段を使って降りてきたのだろうか? ゆっくり下りてくれればいいのに……と思いながら、その姿を見つめていた。
「いいや、ちょうどいいタイミングで来てくれたぜ。 それに、沙織さんとも少しばかり話をすることができたしな」
「にゃっはっは! 我が店にこんな頼もしい助っ人が来てくれるとは、全く嬉しいものでござるなぁ~。 そうは思わないでござるか、ミナリンスキー殿」
「そうですね、オーナーの言う通り、蒼くんが来てくれると本当に助かっちゃいますよね。 私もいつも以上に張り切っちゃいましたよ!」
「そうでござろう、そうでござろう。 何せ、拙者が目を付けたいい男でござるからなぁ~。 そのままほったらかしにするのは、忍び難いと思ってたところだったのですよ~」
「それで、冗談半分で俺を働かせたと………?」
「いやはや、冗談のつもりはないでござるよ~。 それにちゃんと報酬の方は準備するでござるよ。 それを使って、あんなことやこんなことをしてもらいたいと思っているでござるよ。
あ、一応言っておくでござるが、そのお金でウチの従業員を侍らせないでほしいですぞ~? ウチはそんなアコギな商売はしていないでござるからな~♪」
「ちょっと、後半部分ちょっと待ってくださいよ!! なんで俺がそんなことをしなくちゃならんのですか?! 大体、俺はそんなことするはずがないじゃないですか?!」
「えっ……?! 店内では、あんなに女性客を口説いてたのに?!」
「口説いてないですよ!! あれはあっちが勝手にそう思っているだけなんですからね!!」
「あっはっは!! まあまあ、今のは冗談でござるよ~。 そんなことより、早めに帰らないと夜がやって来るでござるよ?」
そう言われて空を見上げると、確かに夕焼け空が紫色に変化しかかっていた。
夜の暗闇が空を覆い尽くそうとし始めていたのだ。
「げっ! 早く帰らないとな……! さあ、ことり行くぞ」
「う、うん。 ちょっと待ってぇー!」
先に俺が歩き始め、その後ろをことりが追いかけるような感じになると思っていた。
だが、ある程度歩いたところで後ろを振り返ってみると、ことりが付いてきているようには見えなかった。 よく見ると、店前で沙織さんと何かを話しているようだった。
何を話しているのだろうか――――?
少しばかり気になってはいるものの、それよりも帰ることが先決だと感じた俺は、そこまで引き返すことに。
「沙織さん、何か話していたんですか?」
そう言ってみると、またしても、“
「いや~ん、女の子のヒミツの話に男が入って来てはいけないでござるよ~♪」
「あなたは女の子と言えるような年齢と姿をしていないでしょう!? どう見ても、女性ですよ! どこぞの化粧品会社のCMに出て来そうな立派な女性じゃないですか!!?」
「むぅ~そう言われると何か釈然としない気もしますが……まあ、いいでござろう。 拙者のことを美しいお姉さんと呼んでくれたので良しとするでござるよ♪」
「いやいや、そこまで言ってないでしょ………」
「まあ、いいでござるよ………」
冗談混じりな笑みを浮かべながら俺に近づいてくると、囁くような声でこんなことを話してきた。
「ことり殿のことをよしなに……♪」
それがどんな意味を含んでいるものだったのか………あの時の俺は、深く考えることをしなかった。
単純に、帰路に気を付けるようにというものだったと解釈していただけだった。
だが、それの真意が何であるのかは、後々嫌でも分かることとなるのだが――それはまたの機会に―――
―
――
―――
――――
沙織さんと別れてことりと帰路に向かっている最中、アキバのビル街から離れた郊外付近まで来ると、案の定、空に瞬いていた太陽はすっかりと引っ込んでしまい、黒紫立ちたる夜空が一面に広がり始めていた。
それまでの道のりの間、俺とことりは何も話をしていなかった。
というより、ことりの方が俺から遠ざかるような距離を取り始めているようにも思えていた。 俺には、そんな状況がむず痒く感じ、思い切っては立ち止まり、ことりの方を見る。
「ことり、そんなに離れていちゃ危ないぞ?」
「―――っ!う、うん………」
一瞬、驚いたかのように表情を引き延ばしたかに見えると、続いてぎこちない笑みを浮かべては俺の横まで駆けて来る。 しかし、そんな笑みですらも長くは続かず、しばらく経つとうつむくように暗い表情をし始める。
俺はそんな表情をすることりは好きではない――――
別段、ことり自身を全否定するような意味ではない。 ただ似合わないと言った思いだったり、またいろいろなことを考え詰めているのではないだろうか、と感じてしまうために思っているのだ。
――――というより、俺の隣で悩んでいると、どうもそのままにしておけないというか……何とかしてやらないといけないな、という気持ちの方が最優先されちまうんだよな。
だから俺は、こんな時だけ大胆に接してあげるのだ――――
「ことり――――」
そう言うと、肩に手を取り離れていた体を引き合わせる。
ことりは突然のことで、思わず「えっ!?」と口にしながら驚いた表情をこちらに見せる。
じっと見つめだしたその瞬間に俺は話し始める。
「なあ、今日の俺はどんな感じだった?」
「えっ? そ、それは………うん、とってもいい感じだったよ。 初めてのことだったのに、あんなに出来るなんてすごいよ」
「そうか? それはよかった。 アキバの伝説のカリスマメイドさんにお褒めの言葉を添えてのお墨付きがあれば怖いもの無しだな」
「も、もうっ! からかわないでよぉ~! そのことは今言わなくてもいいのにぃ~……」
冗談を含ませた話を切り出すと、顔をやや赤くして困った表情を見せて来る。 だが、自分の顔がちゃんと整っていないと思ったのか、横に逸らしてしまう。 子供染みたようなその仕草が何とも面白く、からかいたくなるし、それに……とてもかわいらしかったのだ。
「はははっ、まあ、冗談はこれくらいにして―――――働き始めて何か変わったか?」
本題となるこのことを切り出すと、見ただけでは分からないようなわずかな動きで体を揺らした。 肩に手を置いているからその動きを感知することができ―――また動揺していることも肌で感じ取ることができた。
しばらく考え込むように黙り続けてから、ようやくその塞がった口を開いた。
「蒼くんは……どう思うの?」
「どうって言うと、どんな感じかな?」
「それは……その……前に見た時とか、普段の姿と比べて……何か変わっていた?」
両手を伸ばして、下の方でモジモジと指をあやとる仕草をしながら浮かない表情をしている。
それに、自分から答えを見つけようとすることを恐れているというか……拒んでいるというか……そのために、第3者である俺に答えを見つけ出そうとしているのだ。
これはことりの悪い癖だ――――
自分の考えをあえて持ち込まずに相手に歩調を合わせて、あたかもそれが自分の考えだと刷り込ませようとする。 ことりが昔から持つ悪い癖だ。
「さぁてな、どうなんだろうな?」
「えっ……?」
「俺はことりじゃないし、ことりのことをずっと見ているわけでもない……だから俺から見て、ことりがどこまで変わっただなんて、正直分からんわ」
「そ、そうなの………」
それを聞いたことりは、期待していた言葉とは違ったということに、ガッカリしているようにも見えた。 当たり前だ、俺があえて答えを出さなかったんだ。 そうでもしなくちゃ、ことりは前に進もうとしないのだから………
ちなみに、俺はすでに、その答えを抱いている―――が、まだ話さないでいる。 まだ、その時ではないからだ。
「ことり―――俺はお前の口からそのことを聞きたいんだ。 誰かに形作られた言葉じゃなくって、ことり自身が抱いているものを俺は聞きたいんだ。 時間がかかってもいい、焦る必要なんかないんだ。 ことりはことりなりの答えを見つけてもらいたい―――ただそれだけだ」
「蒼くん………うん、ありがとう。 私、頑張ってみるね」
戸惑う心情を抑えながらの微笑―――
しかしそれは、さっきのぎこちなさが抜けたまったく自然な笑いだった。
ことりの中で、何かが変化し始めている様子に、ちょっとだけ安心した俺だった。
―
――
―――
――――
次の日――――
俺は、今日もこのメイド喫茶で働いている。
平日なのだが大学の講義は早めに終了し、お昼を過ぎる前には家にいた。
真姫は未だに学校にいる時間だ。 朝に弁当を持たせてから途中まで一緒に通学していたのだから、放課後の練習が終わらない限りこっちには帰って来るまいと高をくくって、久方ぶりの静寂の時間を過ごそうと思っていた。
だがしかし、俺が休もうとした瞬間に沙織さんからの電話………まるで俺の行動をすべて把握しているのではなかろうかと思ってしまうほどのナイスタイミング……ッ!!
あの時間帯に連絡を入れて来るのは、確信犯としか言いようがなかった。
だが、俺は断ることをしなかった――――
何故かと言えば、沙織さんが昼飯をおごってくれると言ってくれたので、しょうがねぇなぁ~、という気持ちですっ飛んで行きました。
べ、別に…お腹がかなり減っていて飯を作る気力がなかったわけじゃないんだからねっ!!
―――とまったく需要の無いツンデレ発言は置いておいて………
実際に、来てみると本当におごってくれたので感謝している。
まあ、今回はそのお礼みたいな気持で働かせてもらっているわけだ。
15時頃を回り出すと、デザート目当てに来店してくるお客さんが増え始める。
およそ半分以上が女性客に埋め尽くされると、忙しさはピークに達してくる。 また、昨日のようにサービスをお願いされるので、無駄な時間を費やされてしまう。
途中からことりがホールに立ち始めたおかげで、仕事効率が良くなり、1時間も経った頃には店には客がいなくなったのだ。
あるところを除いて…………
「ご注文は何に致しましょうか?」
「……………ハーブティー…………チーズケーキ……………そして、スマイルを……………」
「はいっ! ありがとうございます、ご主人様♡ ミナリンスキーの愛情がたぁ~っぷりこもったスマイルを、ご主人様に注入しますっ♪ は~い、ばっきゅーん♡」
「はうっ…………!!……………我が生涯に………一片の悔い……なし………」(バタッ)
「何やってんだ………あの人………」
店の窓側の席に座っているのは、俺の大学の先輩でもある、藤堂先輩(通称:クリーク)であった。 そしてたった今、ことりの悩殺ボイスの餌食となってテーブルの上を真っ赤に染めているのだッ!!
「大丈夫ですかい、先輩?」
「………大丈夫だ……問題ない………(ボタボタボタ…)」
「鼻からたくさんの欲望が出まくっているのですが、それは…………」
「………これは……俺の生きたあかしだ…………!!」
「いやいやいや、そんなカッコよく言ってもダメですからね?! それはどう見ても鼻血ですよね? アイツの声を聞いて心の内に溜まっていた欲望が駄々漏れしたんですよね?!」
「………俺の欲望はジャスティス……!………いくらでもパッションしても問題はないはず………!」
「そんな邪神が込入った正義なんて聞いたことないですよ!! しかも、それはどう見てもフリーダムな感じじゃないですか!!」
「………では、ディスティニーも加えよう…………(提案)」
「メサイアで最後の扉でも開かせましょうか、先輩………?」
互いの種が弾け飛ぶような口論に、一旦釘をさしてから汚れたテーブルをきれいにし始める。
まったく、どれだけの鼻血を出すのやら………
「………そう言えば、蒼一…………」
「どうしたんです、先輩? またくだらない話だったら、鼻に栓でも詰めておきますよ?」
「………やめてください、死んでしまいまう…………本題は、この写真だ………」
藤堂先輩の懐から取り出したのは、1枚の写真。 しかも映っているのが、何とメイド服を着たことりなのだ。
「どうしたんですか、これ?」
「………近くの店で見つけた………いい値段だったが、買えた………」
「へ、へぇ………わざわざそうしなくともこっちで準備したんですけどねぇ………」
「………ッ!!!………そ、その手があったかぁ…………不覚…………」
かなりのショックを受ける姿を見ると、どれだけの金をそこに費やしたのかが何となく察することができた。 アワレ、先輩。
「お待たせいたしました~、こちらハーブティーとチーズケーキに………って、ええっ!? そ、その写真どうしたんですかぁ?!」
注文の品を持ってきたことりは、先輩が持つその写真を見つめてかなり驚いている様子だった。
はて、何か問題でもあるのかな………?
「………大通りにあるアイドルショップにあった………あと、もう一枚売ってあった………」
「も、もう1枚が………っ!! ご、ごめん、蒼くん!! これ頼むね!!」
「何ッ?! ちょ、ことり!!?」
俺にすべてのことを押し付けられると、すぐさま階段を駆け下りて行ってしまった。
なんだなんだ? 何かあるのかぁ……?
「あー……これは盗撮写真でござるなぁ~……」
「「!!!?」」
俺たちが気付かないうちに沙織さんが俺たちの前に現れ、先輩が持っていた写真を手にしていた。 何と言う素早さと気配の巧みな扱い…! この人……できる…っ!!
「しかし、盗撮写真と言うのはどういうことです?」
「うむ、我が店では基本、撮影は禁止となっているのでござるよ。 最近は、メイドをターゲットにするとんでもない輩がいたりするモノですから、こうしたことはプライバシーの侵害と言うことでお断りしているのでござるよ」
「だが、それを犯してこうしたかたちで写真になっていると?」
「まあ、そう言う事でござるよ。 この写真は希少品として扱われてそうですし、さらには伝説のカリスマメイドの生写真となれば、それなりの値で叩かれていることでござろうな……そうでござろう、クリーク殿?」
「………………(ガクッ)」
「………ダメです、血の涙を流してます…………」
それほどまでの値段でそれを買ったのですかい………
しかしまあ、ことりが血相を変えて出て行ったのも分からんでもないか。 アイツは未だに誰にもバイトしていることを話していないだろうし、写真1枚でそれがバレたら大変なんだもんな。 そら必死になるわけだ。
そんなことりの心情を察して、俺は頼まされたことをやることとなった。
―
――
―――
――――
数十分後―――――
未だに、ことりが帰って来ないのは少し変な感じがする。 店の人とまだ交渉で粘っているのだろうか? それとも、何者かに捕まえられたとか……?
いやいや、そんなことがあるわけがないじゃないか………だが以前に、花陽たちの一件があったしありえなくもない気もする………どうする、このままことりを探しに行くべきか? それともここで待つべきなのだろうか? うむむ……選択肢に困り果てる…………
俺はただ、窓際から見えるアキバの風景をじっと眺めるだけしかできなかった―――――
「セバスさん、お見えになりましたよ―――」
「―――はい、ただいま」
いや、今はこの仕事に集中しなければ―――気持ちを切り替えよう。
手袋の中に指をギュッと奥まで入れ、そのままネクタイの位置を修正させる。
ジャケットにシワが寄らないようにビッと引っ張って身だしなみを一瞬で整える。
そして、店の入り口に立ち出迎える準備に入る。
エレベーターのドアがここの階に止まった。
中からは女性の話し声――――つまり、お嬢様方だ。
では、挨拶するのを待とう――――
エレベーターの扉が開く―――――
右腕を胸元に寄せて、軽くお辞儀をする。
「おかえりなさいませ、お嬢様方」
『はうっ…!!!!!!!』
「えっ―――?」
予想もしなかった突然の悶絶に俺は驚いた。
まさか、来店早々、そんなことになるとは思いもしなかったからだ。
すぐに、顔を上げてお客の方に駆け寄ろうとするが――――――
「げっ……?!」
なんと、目の前にいたのは―――――
―――――μ’sメンバーだったのだ。
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
ツイッターやキャスの方で、文章の書き方を変えてみようかと思っています。
と言っておりましたが、結局のところ何も変わってはいなかったという現実。
いざやろうと思ったら、妄想が止まらなくって………
今回も沢山執筆してしまいました。
もう少し、文章をまとめられるようにしよう。
それが今年の目標になったりするのかも……?
次回もよろしくお願いします。
今回の曲は、
TVアニメ『黒執事』より
シド/『モノクロのキス』
更新速度は早い方が助かりますか?
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ちょうどいい
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もっと早くっ!
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遅くても問題ない