蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第92話


【花陽 生誕祭】わたしのすべてを…

 

【プロローグ】

 

[ 宗方家 ]

 

 

「それじゃあ、行ってくるわね♪」

「ああ、行ってら。 結樹さんたちによろしく伝えてくれよ」

「わかってるわ。 パパとママには、いいようにさせてもらってるって言っておくね♪」

「おいおい、余計なことまで話すんじゃないぞ?」

「だいじょ~ぶ! 一緒にお風呂に入ったり、ベッドで寝たりだなんて、まだ言えないわよ」

「まだって………まあいいや、久しぶりの家族水入らずの時間を有意義に過ごしておいでや」

「うふふ♪ ありがとね!」

 

 

 真姫がウチに来てから早1週間が経とうとする今日、真姫は久しぶりに家族と出かけることとなった。 昨日、結樹さんから連絡が入り、朝から夜までいろいろなところを巡ろう、という提案に真姫は大喜びだった。 何せ、ここ何日間も親の顔を見ていないのだ。 そろそろホームシックになり掛かってきただろうというタイミングでのこの連絡は、天にまで昇るような気分にさせたに違いない。

 

 その証拠に、今日の真姫の一段と綺麗に着飾っているのだ。

 その様子を見ただけで、どんな気持ちでいるのかが一目で分かる。

 

 

 

 それに……今日は予定が入っていたから、俺にとっては渡りに船と言ったところだ。

 

 

 

 

「あっ! そうそう、今日来るあの子によろしく伝えてね♪」

「あらら……もしかしてわかってたのか?」

「うふふ♪ 蒼一が昨日誰かと話していたのと、朝早くから支度している様子を見ただけですぐ分かったわよ」

「たったそれだけでか……? 一緒に暮らしていると、そこまで分かっちゃうもんかよ……」

「このまま、ずっと暮らしたら蒼一のありとあらゆるところまで分かっちゃうかもね♪」

「からかうのはよせ………ほら、そろそろ時間だぞ?」

「ホントだわ! それじゃあ、帰りを待っててね♪ 蒼一が作ってたアレも残しておいてね♪」

 

 

 

 そう言うと、手提げカバンを背負って真姫の実家のある方向に向かって駆け出して行くと、その姿がすぐに見えなくなった。

 

 

 

「さて、最後の仕上げをやっちゃいますか~」

 

 

 

 俺はすぐさま家の中に入り、風呂場から雑巾を取り出して廊下を拭き始める。

 

 

 出来るだけ綺麗な状態で迎えてあげないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 数時間後――――

 

 

[ 宗方家・前 ]

 

 

「う~ん………う~~~ん……………どうしよぉ………………」

 

 

 蒼一にぃの家に来たけど………ま、まだ心の準備が出来てないよぉ…………

 

 昨日、ちょっとした思いつきで蒼一にぃに電話してみたけど……ちょっと強引すぎたかなぁ?

 今日はちょうど週末だから、蒼一にぃは暇なのかなぁ~って思ったから、一緒にご飯を作って食べませんか!…って言っちゃったんだよねぇ………

 

 蒼一にぃは、すぐにOKしてくれたのだけど……誘った私がこれじゃぁ………

 

 い、いえ……! こんなところでくよくよしてはいけません! 蒼一にぃと一緒にいられる機会は今日と言う日を逃したら今後ないかもしれません!

 

 よしっ! ここは穂乃果ちゃんから教わった『ファイトだよ!』を私に言って気合を入れますっ!

 

 

 

 私は大きく息を吸って吐いてと深呼吸をして、心を落ち着けます。

 

 

「よ、よし……! そ、それじゃあいきますよぉ~…………」

 

 

 私はまた大きく息を吸うと、一旦止めてそれを言葉に変えます………!

 

 

 

 

 

 

 

「せぇ~……のっ! ファイトだy…「何をしているんだ、花陽?」ぴやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!???」

 

 

 私の精一杯吸い込んだ息はすべて叫び声となって周りを響かせたのでした………

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

[ 宗方家内 ]

 

 

「何だ、ここまで来てからずっと家の前にいたのか? 遠慮せずに入ってくればいいのに」

「ふぇっ!? い、いや! そ、そんなこと言っても、何と言うか……1人で自分の家以外の家に入るのって、結構久しぶりだったりするので………」

「そうなのか? それなら仕方ないとは思うが………」

 

 

 蒼一にぃに少し遅れながらも廊下を歩く私――――

 ついさっきの私の恥ずかしい姿を見られてしまったけど、それを何事も無かったかのように家の中を案内してくれる蒼一にぃ。

 

 はうぅ………思い返すととっても恥ずかしいですぅ………!

 こんなんじゃダメだなぁ……もう少し自分に自信とか付けないと………

 

 そう言えば最近、真姫ちゃんが以前よりもよくお話しするようになった。

 話す――と言うよりも、明るくなったって言うのかな? それまであまり前向きじゃなかったって言うか、遠慮がちだったって言うか

……多分そんな感じで人付き合いとかを避けていたようにも感じられていた。

 

 けど、最近はそんなことがまるで嘘だったみたいに私や凛ちゃんだったり、μ’sの他のメンバーともお話しするようになったんだよね。

 

 

 

 何が真姫ちゃんを変えたんだろう――――?

 

 

 

 い、いや……別に嫌というわけじゃないよ!……ただ、あんなに自分に素直な感じでお話しができるだなんて

 なんだか羨ましかったりするんだよね………

 

 

 

 はぁ………私も変わりたいなぁ………………

 

 

 

 

 無意識に大きなため息をつく私―――それを見ていたのでしょうか、蒼一にぃが声をかけてくれました。

 

 

 

「どうした花陽? 何か悪いことでもあったのか?」

「ふぇ?! い、いや……特に何も無いかなぁ………? あはは………」

 

 

 取り繕うように笑ってみたけど、なんだかちょっとぎこちない気がする……鏡の前に立ったら変な顔をしちゃっているんだろうな…………って思うと、さらに恥ずかしくなってしまいます…………

 

 

 そんな私の頭に、ふわっと何かが覆うような感触がありました。

 とてもあたたかい―――それに、とっても落ち着いた気分になれる。

 

 少し上を見上げると、蒼一にぃが私の頭を撫でてくれていました!

 

 私はやさしく頭を撫でてもらうと嬉しい気持ちになるんです。 撫でてもらうと何だか、ほわぁ~って宙に浮いちゃうような気分になるの。 それがとっても心地良くって、大好きなんです…。

 

 

 

「そんなしょぼんとした顔をするなよ、花陽。 何か変なことだったり、落ち込んだ時は俺に頼ってくれても構わないんだぞ? 何せ、俺は花陽のお義兄(にい)ちゃんだからな」

「そ、蒼一にぃ……/////////」

 

 

 とても力強い声援で私を励ましてくれる蒼一にぃ―――――

 いつも私を支えてくれるその姿や行動のすべてが、とってもとっても嬉しいです。

 練習の時に、いつもよりも少しだけ頑張って取り組んだ日には、「いつもより張り切っててよかったぞ!」と言ってくれますし、嫌なことがあってちょっぴり落ち込んじゃった時には、「どうしたんだ? 何があったのか話を聞いてやるぞ?」と言ってくれるんです。

 そして、私の頭をよく撫でてくれるんです。 それでどれだけ元気をもらったのか数えきれません。

 

 

 

 本当に、私のおにいちゃんみたいです――――!!

 

 

 

 

「さぁ、ここの洗面所で手を洗ってくれな。 洗い終わったらこっちに来てくれよな」

「は、はい……!」

 

 

 廊下に沿った1つの扉を開くと、白い洗面台が目の前に――――キラキラとキレイに輝いていて少し触れただけで、キュッ!っていい音が鳴るんです!

 

 すごいなぁ~……とってもキレイに掃除してあるんだもの、うらやましいなぁ~………

 

 

 この部屋もそうだけど、廊下もキレイに磨かれていたなぁ~。 蒼一にぃは、結構、几帳面な性格だったりして?

 そんなことを思いながら、私は手を洗い始めました。

 石鹸をしっかりと泡立てて洗わないといけないですね! なんて言っても、食べ物に触るんですから清潔な状態にしたいですね!…………あれ?

 

 

 ちょっと下の方に目を落とすと、何か布のようなモノが落ちているような………?

 私は濡れた手をよく拭いてからそれを拾い上げました。

 

 す、すると、それは………!!

 

 

「えっ?! ええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!??」

 

 

 な、な、なんとっ!! パンツですっ!!! そ、それも女性モノのパンツなんですぅ!!! ど、ど、どうしてこんなところになるんだろう……?!

 色は少し赤みが強いピンクで、布の広さも私のと比べても少ないよぉ~……!!

 

 こ、これが……大人の下着なのですか………!!! けど、一体誰のなのかなぁ……?

 

 

 

 

 

 

 拾った下着を広げながら考えていると…………

 

 

(ヒュイッ)

 

 

「え……?」

 

「そおおおおおおおおおおおいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 

「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」

 

 

 蒼一にぃが表れると一瞬にして下着を取り、そのまま同じ部屋に置いてあった洗濯機の方に投げ込まれてしまいました!

 

 け、けど、びっくりしたぁ………急に現れたからドキッてしちゃったよぉ………

 

 

 

 

「何か叫んでいたと思ったらあんなものがあったとは………」

「そ、蒼一にぃ……あ、あれは誰の下着……なの?」

「あ、あれ……!? あれはだな………そ、そう……母さんのだ」

「お、お母さんのだったのぉ?! それにしては、すごく派手な下着だったけど……」

「そ、それはだな……ほら、ちょっと気分を変えてみたくなる時があるじゃんか。 自分を若々しく見せるために、まずは中身からって言うじゃん。 それだよそれ」

「で、でも、その言葉って確か性格の話じゃ………」

「(ギクッ……)」

 

 

 何か落ち着かない様子をしているのはどうしてなんだろう……?

 私、何か変な事でも聞いちゃったのかなぁ………?

 

 

 

「は、花陽はああいう下着とかが好みだったりするのかな………?」

「ふえぇぇぇ!!? な、な、な、何を言っているのぉ!!!??」

「い、いやぁ~……あれだけ下着をマジマジと見ていたのだから、少し憧れちゃったりしているんじゃないかなぁ~……なんて思ってみたり?」

「そ、そ、そんなことないよ……!! 私にはああいう下着はまだ早いと思うよぉ~!!!」

「いや! そんなことはないかもしれないぞ!!」

「ふえっ?!」

 

 

 蒼一にぃは目を鋭く光らせると、私の手をギュッと掴んで私の顔をジッと見つめだしたのぉ……!

 は、はわわわ………!! か、顔が近いよぉ………!!!

 

 

「最近の花陽は前と比べて成長しているんだ!

 自分では無理だと思いながらも勇気を振り絞って前に踏み出そうとするその姿……そう、まさに成長だ! 花陽は少しずつ成長しているんだよ!

 

 そんな花陽があんな下着を身につけちゃってもいいじゃないか……! 自分をさらに成長させるための第一歩としてそう言うものにも、挑戦してみたらいいんじゃないか?」

 

「で、でも、それ以前に私には似合わないよぉ~……!!」

 

「大丈夫! 花陽は綺麗で可愛くって、俺の目に入れても痛くないと言ってもいいくらいの素晴らしい女の子だ! そんな花陽に似合わない衣装だの、下着だのとあるはずがない!!!

 この俺が保障する!!! 花陽は何を見に付けても可愛いんだよ!!!」

 

「ふえぇ……!! ふえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 わ、わ、私の顔をジィ~っと見つめながら力説する蒼一にぃの姿に圧倒されそうだよぉ……!!

 そ、それに何度も何度も可愛いって言われると……何だか恥ずかしくなってきちゃったよぉ……/////////

 

 

 

 

 

 

 

………で、でも……そう言われると、ちょっと着てみたいかも………少しだけ、頑張っちゃおうかな………?

 

 

 

 

「ねぇ……蒼一にぃ………」

「ん、何だい花陽?」

「あの……もしも……もしもだよ……!

 もし、私が……その……さっきのような下着を着てみたら………その……

 

 

…見て……もらえるかな………?」

 

「………………はい?」

 

「そ、蒼一にぃが……私に似合わないモノは無いって言ってくれたから……その……一番初めに見せたいんだ………いいかな?」

「……………待って、ちょっと落ち着こうか………べ、別に、俺に見せなくてもいいんだぜ? 着た時の感想だけでも充分なんだけど……」

「………だめ………かなぁ…………?」

 

「………わかった、善処するわ……………」

「ありがと、蒼一にぃ……私、頑張ってみるね……/////////」

「お、おう………た、たのしみだなぁ………あはは…………」

 

 

 

 その場の勢いってヤツなのかなぁ……勇気を振り絞って言っちゃった……

 今思うと、とっても恥ずかしいことなんだろうけど、蒼一にぃに見せるのであればいいかなぁ…なんて思っちゃうの。

 

 なんでだろう……私にも分からないけど、ちょっとだけモヤモヤとした気持ちが渦巻いていたりするんだ。 どうしてなんだろう………?

 

 

 そう感じ始めたお昼前のちょっとした出来事でした―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あー………策士、策に溺れるとはこのことかぁ……どうしてこうも立て続けに俺のメンタルをキックしてくるようなことが起こるのだろうか………うぅ……頭が痛くなってきた………)」

 

 

「(だが、あの下着が真姫のだってことがバレなくってよかったぁ………ちゃんと片付けたはずなのに、何故見つかったのだろうか………?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「そんじゃあ、いっちょ始めるとしますか!」

「はい! よろしくお願いします!!」

 

 

 お互いにエプロンを付けて、お料理の準備をします!

 私は調理中に髪の毛が落ちないように三角巾を頭にかぶります。 食べている時に、髪の毛が見つかったらとっても嫌な気分になりますからね、十分に気を付けないと、ですね!

 

 

「それじゃあ、まずはお米の方を………花陽、いいかい?」

「はい!! 任せてください!!!」

 

 

 最初は米研ぎからですね!

 おいしいご飯を作るには、ちゃんとお米一粒一粒をキレイにしないといけませんからね! 丁寧に研いだお米は炊き上がると、つやつやでキラキラしててとってもおいしいんですっ!!

 たかが米研ぎ、されど米研ぎですっ!!

 

 早速、お米に水を入れ始めて研ぎ始めます。

 愛情を込めて丁寧に洗ってあげると、何だかお米さんたちが喜んでくれているみたい♪

 

 ちょっと待っててね、今、私がキレイにしてあげるからね~♪

 

 

 このお米を研ぐ時が私のちょっとした癒しの時間だったりするんです♪

 

 

 

「へぇ~、流石だね。 もう研ぎ終わっちゃったのか」

「えっへん! お米に関してなら誰にも負けませんからね♪」

「おお! そうかそうか! それじゃ、次の工程に入ろうか」

「はいっ♪」

 

 

 

 それから私と蒼一にぃは、お昼ごはんのおかず作りに集中しました。

 

 わかめとお豆腐が入った濃厚な出汁が効いたお味噌汁と――――

 

 一口サイズで揚げられた肉汁あふれるから揚げ――――

 

 何度も巻かれて年輪のような断面をした出汁巻き卵――――

 

 どれを見てもとってもおいしそ~♪

 うぅ……おなかがすいてきましたぁ………あっ! ご飯が炊けたようですっ!

 

 

 

「さあ~て、どんな感じなのかな?」

 

 

 

 御釜の蓋が開けると、白い蒸気がもわ~って勢いよく立ち上っていきます!

 そして、中身を見ると…………

 

 

 

 

「わあぁぁぁぁぁ!!! なんておいしそうなごはんなんだろう~♪」

 

 

 雪のように真っ白で、黄金のように光り輝くごはん―――――!

 も、もう、匂いを嗅いだだけで……満足ですぅ………あっ、おなかが鳴っちゃいました。

 

 

 

「それじゃあ、これをおにぎりにするか」

「うん♪ たっくさん作ろうね!!」

 

 

 炊き立てのごはんをお皿に取り出して、そこから適当な量のごはんを手で握りますっ……!

 くぅぅ……熱いけど……熱いけど………でも、ごはんのためなら負けません……! 私は、ここにあるごはんを全部おにぎりにするまで、この手を止めるわけにはいきませんっ……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………花陽、ご飯に対する愛情はよくわかった………だが、体は大事にするんだな………」

「………あっ、はい…………」

 

 

 

 蒼一にぃにしてされちゃって、作るのを止められちゃいました………うぅ……もう少し作りたかったのにぃ…………あっ、指に付いたごはん……おいしいです………!

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

[ 公園 ]

 

 

「う~~~んっ……!! いいお天気だね~♪」

「まったくだな、いい遠足日和かもな」

 

 

 私と蒼一にぃは、少し歩いたところにあった公園に来ています。

 

 どうしてここにいるのかと言うと、すべての料理の準備ができ終わった時に私が、「まるで遠足に行くみたいだね♪」って言ったら、「だったらいっそのこと、弁当にして外で食べるか!」と言ってくれたので、その言葉に甘えちゃってこうして来ているのです。

 

 3段あるお重に、さっき作った料理を敷き詰めるように入れまして……それを重ねて風呂敷で包んで持って来ました。 うふふ♪ 早く食べたいなぁ~♪

 

 

 

 

 

 

「よし、この原っぱの上にシートを敷いて食べるとするか!」

 

 

 そう言うと、蒼一にぃはお重の他に持っていたカバンからシートを取り出して敷きました。 その上に、荷物を置いて、私たちも乗って……と。 さあ、今からお昼ごはんですよ!!

 

 

 包んでいた風呂敷を取り外して、お重を一段一段並べます。

 

 

 

「それじゃあ、これがおにぎりでこっちがおかずな。 さあ、召し上がれ!」

「うわぁぁぁぁ!!! それじゃあ、いただきますっ!!!」

 

 

 蓋を取り外すと、中から現れたのはキレイに並べられたおにぎりたち―――!!

 はわぁ~~~もう食べられるためにあるような姿でいてくれているなんて……も、もう我慢できませんっ!!

 

 おにぎりを1つ手にすると、そのまま口の中へ、かぷり♡

 

 

 んんん~~~~♪♪♪ おいしいですぅ~~~♪♪♪

 

 

 噛めば噛むほどおいしさが増していくといいますか、ごはんの中に含まれている成分が口に中で分解されていって、ほんのりとした甘みが口いっぱいに広がって♪ ああぁ~もうたまりません♪

 

 

 

「花陽。 ほら、味噌汁もちゃんと飲むんだぞ」

 

 

 蒼一にぃから紙コップを手渡されるとその中に味噌汁が!

 なるほどぉ~魔法瓶の中に入れておけばアツアツの味噌汁がいつでも飲めるのですね……! 参考になりますっ!!

 

 

 コップを少しすすると、甘くなった口の中に塩気の効いた味噌の味が一気に広がっていきます! そして、味噌の独特の苦みがいいアクセントになっていて、ごはんをさらにおいしくしてくれるんですっ!!

 

 それに、ほかのおかずもおいしいですぅ~♪

 おにぎりに合うし、お腹も一杯になって来るし、もうしあわせです♡

 

 

 

「ふふっ、花陽は本当に食べるのが好きなんだな」

 

 

 そう言って蒼一にぃは私の方をじっと見つめています。

 まだ、おかずに何も手を付けずに見ているので、ちょっと心配です。

 

 

「蒼一にぃは食べないの?」

「いや、食べるけど……あまりにもおいしそうに食べてくれるから見惚れてたんだよ」

「ふえぇ?! そ、そんなこと言わないでよぉ……恥ずかしくって食べにくいよぉ……」

「あはは、悪い悪い♪ ……とか言っても、ペースを落とすことなく食べるんだな、花陽は♪」

「も、もう! からかわないでよぉ~~!」

 

 

 た、確かにあまりにもおいしすぎるからペースは落とさないけど………で、でも、見られちゃうとやっぱり恥ずかしいよぉ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……! 花陽、ちょっと動かないで」

「えっ? 何、蒼一にぃ?」

 

 

 急に言われたので、そのまま動きを止めました。

 一体どうしたんだろうと考えていると、蒼一にぃが近くに寄ってきました……!

 

 

「ふぇ? えっ? ど、どうして近寄るのぉ……??」

「いいから、少しじっとしてて」

 

 

 ちょっとだけ真剣な表情を見せるので、私はそのまま何もしないで待っていました。 すると、かなり近くまで顔を寄せてきたのですっ……!

 

 わ、わ、わ……!! そ、蒼一にぃの顔がこんなに近くにまで来ちゃってるよぉ………!

こんなにも近くに来ると、恥ずかしいですぅ~……! 目も開けられないよぉ~~……!!

 

 私は目を閉じたまま、その様子をやり過ごすことしかできませんでした。 い、一体何が起こっているんだろぉ………気になってしょうがないです………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ひょいっ)

 

 

「ぴやぁ!」

 

 

 

 ほっぺたに何かが触れたみたいで、思わず声を出してしまいました!

 何があったんだろうと目を開けてみると、蒼一にぃが指に何かを付けていました。

 

 

 

 

 

「ほら、ほっぺにご飯粒が付いているぞ。 食べる時はちゃんと気を付けるんだぞ」

 

 

 確かにごはん粒が指に付いていました。

 食べている最中に自然と付いちゃったんだね、気付かなかったよ…………

 

 

 

 

 

 

「あっ! 蒼一にぃにもごはん粒が付いてるよ~」

「おっ? マジか……注意している側がやっちまうとはな……」

「うふふ、じゃあ、私がとってあげるよ♪」

「そうか? そんじゃ、頼むぜ」

 

 

 蒼一にぃもほっぺたに付いちゃってますね。 うふふ、私と同じなんだね。

 

 そう思いながら、私は体を少しずつ近くに寄せていきます。ほっぺたを私の方に向けてくれているから取りやすくなっているね。 手を伸ばして頬に触れ始めます。

 

 

 

 

ですが…………

 

 

 

 

 

(ずるっ…)

 

 

「ぴゃっ!?」

 

 

 

 

 移動している時に何かに触れてしまったようで、足元から滑り始めてしまいました!

はわわ!! か、体が前に倒れちゃうよぉ~!!!

 

 

 目の前には蒼一にぃが……!! あ、危ない………っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ちゅっ……)

 

 

「へ……?」

 

 

 

 蒼一にぃの口から気の抜けたような声が飛び出てきました。

 それもそのはずです、私がやってしまったことに驚いてしまっているはずだから……でも、やっちゃった私の方がもっと驚いているし………と、と、とっても恥ずかしいですぅ!!!!!

 

 

 

 

 

 私は……倒れたはずみで蒼一にぃのほっぺに、ちゅってキスしちゃいました/////////

 

 

 

 

 

 は……はわ……はわわわわわわわわわわわわ!!!!!!!!!!

 わわわわわ私がそそそそそそ蒼一にぃのほほほほほほほっぺに、ききききききキスを!!!!????

 

 

 ぴ……ぴやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

「ご、ご、ごめんなさいぃぃぃ!!!!! わ、わ、わざとじゃないんです!! 体が滑っちゃって……それで……思わずそうなっちゃったんですぅ!!!」

 

 

 

 あたふたと焦りながら蒼一にぃに今のは、誤解であって間違いだってことを言っておかないと……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………って、あれ? 蒼一にぃ…………? 反応が………ない…………?

 

 

 

 

 

 

 蒼一にぃのことをよく見ると…………な、なんと、蒼一にぃが…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………気絶してます……………」

 

 

 

 え、えええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!??? そ、蒼一にぃぃぃぃぃぃぃ!!!!! なんで気絶しちゃったのぉぉぉぉぉ!!!!???

 そして、口から何か赤いモノが垂れてるよぉぉぉ!!!!?? も、もうどうすればいいのぉぉぉ!!!?

 

 

 

 だ、ダレカタスケテェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ……! 今、かよちんの叫び声が聞こえたような気がするにゃ!!」

 

 

 某ラーメン店内で凛が何かに反応したらしいのだが…………

 

 

 

 

 

「………気のせいだにゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

実にどうでもいい話であった。

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 

「あぁ……一瞬だけ、天国が見えたような気がしたよ………」

「ご、ごめんね……私がドジしちゃったから蒼一にぃが大変なことになっちゃって………」

「ううん、これはアレだ……持病みたいなヤツだし、死にはしないさ………」

「で、でも、なんだか意識が薄れているような気がするよ!」

「あはは……なんでだろうな………まだ、頬にあの感触が残っているからかな………?」

「あうぅ……お、思い出したらこっちまで恥ずかしくなっちゃったよぉ………」

 

 

 蒼一にぃが座ったまましばらく気絶した後、今は何とか立ち直っていますが……とても心配です……。

 

 でも……あわわわ………私、大胆にもあんなことをしちゃったよぉ……! ううっ……とっても恥ずかしいですぅ………

 

 

 

 

「あっ……! そうだそうだ、忘れるところだったな!」

 

 

 急に何を思い出したのでしょうか、蒼一にぃは3つ目のお重を手前に持ってきました。

 そう言えば、あの3つ目の中には何が入っているんでしょう? あれだけ別に用意されていたんだよね、一体何なんだろう?

 

 

「ふっふっふ……この中は何だと思う?」

「えっ?! えぇっと………ごはん?」

「ざんね~ん、違うんだよな~。 せいかいは……っ!!」

 

 

 パカッと蓋が開くと、そこにあったのは………

 

 

 

 

「うわぁぁぁ!!! ケーキですぅ!!!!」

「どうだ、すごいだろ? 今朝焼いたばかりのシフォンケーキだ。 外でも食べられるように一口サイズに切って入れてみたんだ」

 

 

 なんてきれいなケーキたちなんだろう!!

 黄金みたいにきらめくケーキが私の瞳をより一層輝かせてくれているようです!

近くで見ると、ほんのりとしたあま~い香りが鼻の奥にまで届いてきて、匂いだけでお腹がいっぱいになっちゃいそうですっ!!

 

 

 

「ほら、一口どうぞ」

 

 

 そう言って蒼一にぃは、ケーキを1つだけ摘んで私の目の前に持って来ました。 うわぁ~~!! とってもやわらかそうだなぁ~!! そ、そんなに近くに持って来られると……私……私………!!

 

 

「いただきますっ!! ……はむっ」

「うおっ?!」

 

 

 私は食べたい衝動を抑えることができず、手で摘むよりも早く、直接、口でとっちゃいました♪

 

 

「もぐもぐ………うぅぅぅん!! お~いしぃ♪」

 

 

 口に入れた瞬間、フワッとした食感が私の気分を最高に盛り上げてくれました! 生地がスポンジよりも比べられないほどやわらかいから、歯に力を入れずにすぐに口の中から消えてしまいます! それに、匂いで嗅いだのと同じほんのりとしたあま~い味が舌を喜ばせてくれますぅ♪

 

 

「蒼一にぃ、もう一個食べさせて!」

「ああ、わかったぞ。 ほら、あーんして」

「あ―――んむ……もぐもぐ…………んんん!! もうたまりません♪♪♪」

「そうか、気に入ってくれたのか~♪」

「はい! おいしすぎます!! もう何個でも食べられそうですっ!!」

「はっはっは、それはよかった。 作った甲斐があったもんだ」

「うん♪ だから……その…………」

「そんなに目をうるうるしなくてもわかってるよ。 ほら、あーんしてな」

「はい♪ あ――――んむっ! もぐもぐ………ん~~~!! もうしあわせぇ♪♪♪」

 

 

 こんないい日に、外でおいしいおにぎりが食べられて、ケーキも食べられるなんて、それに、蒼一にぃと一緒にいられることができるだなんて………

 

 

………今日は最っ高の時間ですぅ!!

 

 

 

 

「なあ、花陽。 このケーキには、ちょっと特別なモノを入れているんだけど、何だか分かるか?」

「特別なモノ? う~ん………何だろう………?」

「それはだな………これさ」

 

 

 そう言って見せたのは、小さなお花でした。

 

 

「えっ……? それお花だよ? それを入れちゃったの……?」

「ああそうさ、花陽はこの花の名前を知っているはずだよ」

「この花の名前? う~ん……なんだろう……でも、よく見かけるような感じがするような………あっ……!」

「思い出したかな?」

「うん! これ、ナズナって言うんでしょ!? 春の原っぱにたっくさん生えている小さくってとってもかわいいお花なんだよね!」

「正解♪ 春の七草に例えられている植物の1つで、よくお粥とかにして食べているはずだよ。 それを思い切ってこのケーキの中に入れてみたわけさ」

「もしかして、この小さい黒いのがそうなの?」

「ああ、そうだよ。 味はしないけど、アクセントとしては申し分ないと思うんだ。 それにね――――」

 

 

 すると、蒼一にぃが近寄って来て、私の頭にこのお花を付けました。

 そして、こう言ってくれました。

 

 

 

「これは花陽の誕生花だよ。 1月17日生まれの花陽のための花」

「わ、私のお花……!……って、蒼一にぃは私の誕生日を知っているの?!」

「ああ、知っているとも。 だって、俺は花陽のお義兄(にい)ちゃんだろ?」

「あぁ!うん、そうだよね! 確かにそうだよね!!」

「でも、本当のおにいちゃんには負けるかもな………」

「ううん、そんなことないよ! 蒼一にぃも私のおにいちゃんだよ! 私のことをいつも見守ってくれて、励ましてくれて―――花陽のもうひとりのおにいちゃんだよ!!」

「そうか、ありがとうな―――そんな花陽の誕生日は大いに祝ってやらないとな♪」

「うん! 私、期待するね♪」

 

 

 にっこりとほほ笑んだ顔を私に見せると、また私の頭をゆっくりとやさしく撫でてくれました。

 

 それが、今までしてもらった中で、とっても気持ち良くって、心地良く感じられたのです。

 

 

 あぁ……こんなふうにずっとやさしくしてもらいたいなぁ―――なんて思ってみたりします。

 

 

 

 

「なあ、花陽」

「どうしたの、蒼一にぃ?」

「もしもの事なんだが……俺が花陽のお義兄(にい)ちゃんじゃなくなったらどうする?」

「えっ? どういうことなの……?」

「それじゃあ、言い方を変えようか。 花陽は、俺のことをずっとお義兄(にい)ちゃんとして見てくれるのか、それとも、宗方 蒼一として見てくれるのかってことさ」

「えっ………?」

 

 

 唐突に言われたことに、私はどう反応すればいいのかがわからなかった。

 

 蒼一にぃが私のおにいちゃんじゃなくなる……?

 いや、そんなことは考えたことないよぉ……! 蒼一にぃは私のおにいちゃんに変わりはないよ!

 

 で、でも――――

 蒼一にぃを1人の男として見るってどういう事なんだろう?

 先輩? 友達? 先生? それとも……

 

 

 

 

 

…………好きな人………?

 

 

 

 

 

 い、いやいやいや!!! す、好きだなんてそんな! そんなこと考えたこともないよ!!!

 

 

 

 

 で、でも……もしかしたら……もしかしたらだよ…………私も蒼一にぃのことをそんなふうに思う日が来るんじゃないのかなぁって思うの。

 

 

 

 でも、それは今じゃない。 そう感じるの―――――だから、私はこう言うね。

 

 

 

 

「分からない。 今の私には分からないことだよ……私は今日まで蒼一にぃのことを本当のおにいちゃんみたいに思っていたの。 それはこれからもそうなのかもしれない………

 

 でも、もしかしたら……私は蒼一にぃを1人の男の人として見るのかもしれない………そんな気がしちゃうの。 だから、今は蒼一にぃは蒼一にぃとして見ているよ。

 私の大好きなおにいちゃんとしてね♪」

 

「ふふっ、実に花陽らしい答えだな。 俺もそんな花陽を俺の本当の妹として見ているよ。 でも、もし俺の言ったような気持ちになった時は、その花を渡してくれ………その思いにそえるように頑張るよ」

 

 

 

 私の頭に付けられた花に触れながら、やさしく話してくれました。

 

 そして、その言葉を聞いた時に、少しだけ、ドキッて心が揺れ動いたの。

 蒼一にぃが言った言葉の意味――――私の頭に付けられたこのお花を渡すってことは――――

 

 

 

 

 

 

 

「I offer you my all……」

 

 

 

 

 

 

 

 うん――――わかったよ、蒼一にぃ――――

 

 

 ありがとうね――――――

 

 

 

 

 私はその意味をそっと心に仕舞いこんで、蒼一にぃが与えてくれたこの貴重な時間を大事に過ごしました。

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。

なんかすみません……花陽、ホントごめんな………おにいさんの力不足で大遅刻しちゃってさ………

来年は、ちゃんと出すからね!
約束するから!!


そして、そんな花陽に―――


『花陽、誕生日おめでとう。
キミには、何も取り柄が無い地味な女の子だと言ったけど、
俺から見れば充分すぎるくらいの可愛らしい女の子だ。
キミの義兄として誇りに思うよ。また1年間、頑張ろう!!』

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