蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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第91話


俺と真姫と一つ屋根の下…と言っておけば多分健全かも…?

【プロローグ】

 

[ 宗方家・蒼一自室 ]

 

 

 時刻はまたもや5時前―――――

 

 今日も俺の朝はとっても早い――――――

 

 

 と言うのも、μ’sの朝練習が4月から始まってからは、いつもより1時間も早めに起きては今日一日の準備に時間を割かなくてはいけなくなった。 着替えに洗濯物、朝食に講義の準備等々……少し考えればあれやこれやとやらなくてはいけないことが山ほどあることに気付かされる毎日が俺の日常となっている。

 

 

 6月も中頃を過ぎようとする中――――

 

 梅雨のシーズンに突入すると思いきや、真夏のような猛暑日を何度と受けたことやら……。

 昨日も熱帯夜のような熱い夜を過ごしてしまったようだ―――体からダルさだけが解け出てくる。 体が重い。 しかし、どんなことがあろうともあと3分もすれば脳と体の切り替えは完了されなくてはいけないのが、1人暮らしをする者―――大人としての第一歩を踏み出そうとする若者にとっては必要不可欠な行動だ。

 

 

 

 さてと、体を起こして顔を洗いに行きますか―――――――

 

 

 いつものように、右腕を使って上半身を起き上がらせてベッドから降りようとする――――――

 

 

 

 

 

―――――だが……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぎゅっ………)

 

 

 

 

「――――んっ?」

 

 

 起き上がろうとすると、上半身が思うように起き上がらなかった。 身に覚えのない重みが左半身から感じられる。

 

 

 はて、これは一体どういうことなのだろうか――――――?

 

 

 

 そう思いながら、まだ薄暗い部屋の中にある俺は、左側の方に目を向ける。

 

 

 するとどうだろうか――――――?

 

 何やら俺の布団に山のように膨れ上がっている部分が存在するではないか―――!

 何なんだこれはっ!?と思いながら布団をめくりあげると、思いもよらないのがそこにいた―――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……う~ん…………んっ………すぅ……………」

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 

 

――――どうやら、今日も西木野 真姫が俺のベッドに潜り込んでいたようだ―――――

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

[ 宗方家 ]

 

 

「………なんで今日も俺のベッドにいたんだよ…………」

「別にいいでしょ? 一緒に住んでいるのだから当然のことよ?」

「どうやらお前の常識は俺の知っている常識とは大分かけ離れているようだな………」

 

 

 互いに寝巻から練習着に着替え終え、玄関近くで出発準備をしている最中のことだ。

 さっきのことをまるで世の中の一般常識でしょ?みたいな顔をして言ってくるので、正直に言って手を焼いている。

 

 

「いいか? 年頃の女の子が男の家に来て一緒に住むことはおろか、一緒に寝ようなどとは考えるものじゃないぞ?」

「そんなのどうでもいいじゃないの。 私はただ、蒼一と一緒に寝たかっただけ……ただそれだけよ♪」

「わぁ~お……………(絶句)」

 

 

 

 どうやら、この真姫には一般常識やら羞恥やらは通用しないようだ。

 

 今の状況をかなり単純に説明するとすればこうだ。

 つい先日から、真姫はとある事情で俺の家で同棲することとなった。 いや、初っ端からブッ飛んだ話かもしれないが、これが現実なのだ、許せ!!

 ちなみに、この提案を打ち出してきたのが、真姫の父親である西木野 結樹さんだ。 あの西木野総合病院の院長を務めているすごいお人が、何の躊躇いもなく俺に自慢の愛娘を預けてきたのだ。

 

 ありえん………いや、ありえんって…………

 

 さらに、俺の背後を突くかのように俺の母さんはそのことを了承したのだという。 どうやってウチの親と連絡を取ったのか……その中間地点に、南 ことりの母親である南 いずみさんの存在があったことが伺えると、どうやら俺はすでに、3方を囲まれた背水の陣の状態から説得を進めなくてはいけなかった。 どうにかしてお断りしたかったのだが、最後の1方を塞がれる一手を繰り出されてあえなく了承せざるおえなかったのだ。

 

 その一手と言うのはだな―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――ねぇ、蒼一。 どこを見ているの?」

 

「―――って、おわあぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

 

 考え事をしている最中に、真姫は俺の目の前にやって来ては、顔を近づけて俺のことをジッと見ていたのだ。 それがあまりにも突然のようにも思えたので、俺は思わず尻もちをついてしまう。

 

 

 

 

「~~~っいててて………危なく頭を打つところだったぜ………」

 

 

 

 体には特に問題はない。 伊達な鍛え方をしてはいないので、これくらいで倒れたからと言ってケガをするようなことはないのだ。

 

 

 

 

 

 ただな――――――

 

 

 

 

 

「大丈夫、蒼一……? ちょっと……見てあげましょうか………?」

 

 

 仰向けから腕の力で上半身を浮かせた状態でいる俺に、四つん這いになって接近してくる真姫。 ギラギラと輝かせた瞳に映る俺に目掛けて、ジワリジワリと体を寄せて来る―――!

 野生のハンターたちが格好の獲物を見つけた時のような表情で迫ってくるその様子はまさに狼のようなものだろうか――――いや、それよりも気高い豹のような猛獣だ!!

 

 

 その様子を見ては焦り出し、たまらなく吹き出て来る汗が俺の体を濡らす。

 だがそれ以上に、真姫の口から漏れ出す甘い吐息と同時に額からあふれ出てくる汗が、ポタッ……ポタッ……と垂れ落ちるので、俺の服はもうずぶ濡れ状態だ。

 

 それでもお構いなしに、真姫は体を寄せて来ては乱れた吐息を吐きだす。

 

 

 

 アカン―――!! コイツはアカンヤツや――――――!!!

 

 

 

 

 思考よりも直感が先走った俺は、あえて真姫の方に向かって体を起こし始める。

 

 

 

 

 

――――窮鼠、猫を噛む――――

 

 

 

 

 追い込まれた狐はジャッカルより凶暴だ!!―――でも、構わない。

 俺は体全体に一斉突撃を命令するかのように体を起こし始める。 無論、真姫を抱きしめてから立ち上がることとなるが関係ない。 攻められるよりか、攻める方がまだましなのだと言う考えを抱く俺にとってはこれこそ最善の策だと踏んだからだ。

 そして、功を奏したかのように、真姫は驚いた表情を見せると急に大人しくなる。 そして、俺に抱き締められながら立ち上がる時には、もう猫のように体を丸め縮込んでいた。

 

 

 

 

「そらっ、お遊びはここまでにして、さっさと行くぞ!」

 

「う、うん…………/////////」

 

 

 

 

 

 顔を真っ赤に染めながらも小さく囁く声を聞くと、次に、俺は真姫の手を引いて玄関から出る。

 

 

 まあ、練習にはギリギリの時間になってから参加することとなったが問題はないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

 μ’sメンバーには、秘密にしていることがある。

 

 

 1つ目は、俺と真姫が同棲していることだ。

 

 話したら話したらでとんでもないことが待ち受けていることは、言わずもがな想定済みである。 年頃の男女が一つ屋根の下で暮らしているだなんてことをアイツらに言ってみろ――――速攻で、コ・ロ・サ・レ・ル☆

 

 羽交い絞めとかで済めば、まあいい方かもしれないと考えている俺はすでに末期症状なのかもしれないが、それ以上に、アイツらが真姫と同じように一緒に住む!!ということでも言ってみろ………俺の体が持たない………

 

 

 年がら年中、もはや俺の体の一部になりかけそうなくらいへばり付く、穂乃果とことり。

 説教or折檻のオンパレードな海未。

 からかい始めたら度を超えるまでやってくる、エリチカ、希、にこ。

 そして、癒しでもあるがベッタリくっ付かれるとメンタル的に殺してくる、花陽………いや、待つんだ花陽! 決して悪い意味ではないぞ! 義兄から見るとだな、可愛過ぎて耐えられんのだよ!!!

 

 

 

………そう考えると、凛は比較的に大人しかったりするかも………?

 

 

……いやいや、そうは言ってもだな、俺は絶対にこのことを言いふらすようなことはしたくないし、伝わってほしくない!

 

 

 しかし最近は、練習に来る時はどうしても一緒に来ることになるから逆に怪しまれちゃっているんだよなぁ……今日も海未と凛に聞かれちまったんだっけなぁ……何とかごまかしたけど、これがいつまで持つのやら………そこが心配だ………。

 

 

 

 

 2つ目は、俺と真姫がキスしてしまったことだ。

 

 実際、俺は真姫と2度キスしたことになる。

 

 1度目は、真姫を助ける時に止む負えずにやった時だ。

 2つ目は、音ノ木坂の中庭でのことだ。

 

 今となって考えれば、後者の方が明らかにリスキーな話だったと思う。 あの場に誰もいなかったからよかったものの、一応人の目に届きそうな場所だったから、誰かに知られているのではないだろうかと考えてしまう。

 

 

 さらに、ここで付け加えるとすれば、真姫が俺に告白をしてきたことだ。

 

 あの時は―――いや、今でも正直驚きだ。

 まさか、そんなことを言われるだなんて思いもよらなかった。 友達としてという意味でのあの言葉……だとは思えないな―――あの表情からして、あっちの方だと思う。

 

 これまでに、何度かそう言った告白を受けてきたが、お遊び程度なのだろうと思いながら軽くあしらい続けてきた。

 

 だが、今回のは違う―――真姫は本気だった。

 あの真剣な表情を見せつけてきた時のことを思うと、今でも胸が高鳴り始める。

 逃げられないと思った―――いつものようにあしらおうと考えたが、その程度では真姫は引き下がらなかっただろう。 だから俺は一旦考える時間を要求したわけだ。

 

 結果、何とかその場は収まったものの保留状態だ。

 いつか答えを伝えなくてはいけないのだと思うのだが、どうしても心の中で待ったがかかる。 優柔不断なのかもしれない……笑ってくれても構わない………それでも俺は、決めることができないのだから仕方がないことなのさ…………

 

 

 

 

 そして3つ目は、今回の一件の全容だ。

 

 アイツらは、真姫が倒れてあの部屋から出なくなったということまでしか知らない。

 その後、どうやって出てきたのか、その間に何があったのかなどまったく知らないのだ。 だから、真姫があの時心臓が止まったことや今でも病を抱えているだなんてまったく知らないことなのだ。 もしそれを知ってしまえば、真姫に対する態度は変わってしまう。

 いずれは伝えなくてはいけないことなのかもしれないが、今ではない。 そのタイミングが来た時に、話すことにしているのだ。

 

 

 

 その間、俺は真姫を支えていかなくちゃいけないのだ―――――

 

 

 

 そう、支えて…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん………火加減は………もっと強くした方がいいわね!」

 

「だぁぁぁ!!! そこで強火にするんじゃなぁーい!!! 焦げるぞ!!!」

 

 

 

………とりあえず、生活事情から支えていかなくちゃいけないようだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

[ 風呂場 ]

 

 

 

(ジャァァァァァァァァ……………)

 

 

 

「………ふぅ、あともう少しで消し炭になるところだった…………」

 

 

 

 ついさっき、晩飯の準備で真姫にハンバーグを焼かせていたのだが、じっくり焼くということを知らなかった故に、一気に火力を高めてしまい焦がしそうになってしまったということがあった。

 俺の家に来た当初に、料理は今までやったことがないと言っていたので、これを機にやらせてみたのだが……時期尚早だっただろうか………? まあ、料理も成功と失敗の繰り返しの経験で腕が上がるものなんだし、後は真姫の根性に任せるしかないな。

 

 

 そう思いながら、俺は一日に溜まった汗と疲れをお湯で流す――――

 

 体をきれいにしている時、そして、湯船に浸かっている時が俺の快楽の時間と言える。 髪の毛をシャンプーで綿密に泡を立てて洗いこみ、汗や油を擦り取る。

 

 

 

「さてと………シャワーはどこかな………?」

 

 

 

 髪を洗う時になると、どうしてもシャンプーが目に入りそうになる。 そのため、俺は目を閉じて難を逃れようとするのだ。

 

 

 探りながら腕を伸ばして、シャワーヘッドの場所を探し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、蒼一♪」

 

「おお! サンキュ!」

 

 

 後ろにいた真姫からそれを受け取って、髪の毛に付いた泡を洗い落とす。

 

 うん、いい感じに仕上がったようだな。 しかし、いいタイミングで真姫が手渡しをしてくれたから助かっちまった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………ん? 俺は今、真姫って言わなかったか…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急にハッとなって体を震わせると、恐る恐る後ろの方を向き始める――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると、案の定な展開が――――――――――――!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ~ら、ダメよ。 女の子の裸を見るのは厳禁よ♪」

 

 

「――――ッ!!!!!???」

 

 

 

 

 後ろの方を見てみると、確かに真姫がちょこんと座っていました。

 

 

……じゃなぁーい!!!

 

 アイエェェェェェェェェェ!!?? ナンデ?! ナンデ真姫ガイルノデズカ!!!!???

 

 俺の目の錯覚だろうか……?! いや錯覚ではない、現実だ…本当だ……真実だ!!!

 俺の後ろにいるのは、正真正銘の真姫なんだよ!!!

 しかも、見た感じタオルとか何も巻いていない状態だよね?! 湯煙で見えていないから真相は分からないけど、多分、裸だよ! 全裸だよ!! すっぽんぽん状態だよ!!!

 

 思考が追い付かないよ!!!!

 

 

 

「どうしてここにいるんだよ!!!?」

「蒼一の背中を流そうかなぁ~って思ってね。 ほらほら、石鹸とスポンジを貸しなさいよ。 んふふ♪ この私が蒼一の汚くなった体を洗い流してあげる♪」

「なんだい今の笑いは? 小悪魔みたいな感じだったけど、なにそれ意味わかんないよ!」

「いいから、今から分かるように教えてあ・げ・る・わ♪」

「あはは………教えられたくもないし、分かりたくもないお話だな………」

 

 

 背後から感じる不穏な匂い………

 この状況は極めてマズイものだということに気付くのに、時間なんて必要なかった。 感覚だ……! 俺の第6感が危険だってことを警告し始めている!!

 

 だがしかしッ!! この狭い空間の中で―――尚且つ、出入り口を抑えられている時点でもう既に詰まれていることに俺は敗北感を感じずにはいられないッ!!!

 

 

 

 

 

『提督、進撃いたしますか?』

 

【Yes / Yes】

 

 

 といった具合に、旗艦中破、()レド進撃待ッタナシな状況に置かているかのような状況だ。

 【撤退】という2文字なんて知らないですよ状態だよ! 大本営は俺を見放した!というような絶望を与えられたいつぞやのAC版のことを思い出すのだが、まさにコレか!! あの時はどうすることもできずに神通さんを轟沈させてしまった……すまないっ!!

 

 そして今、提督であるはずの俺が轟沈させられるという、まるで意味がわからんぞ!!な展開に立たされている始末!! ジッとしてもダメ、突撃してもダメ………俺の初心なメンタルでは死んだも同然だなんて、悲しすぎるじゃないですか!!!

 

 

 

 

 

「そぉ~れ♪」

 

 

(ムニュッ……)

 

 

「ひっ………!!?」

 

 

 

 

 何やら背中にとてつもなく柔らかい物体と固いモノが触れているような気がするような―――いやコレ絶対胸だよ!!! なんかわかるんだよ! 知らないけど、コレが胸だってことが触れられただけでわかっちゃうんだよ!! 今までの経験か? アイツらにずっと胸を押し付けられていたから自然とこれが、あっ…胸だな、と言うような思考が植え付けられてしまったとでも言うのかぁ?!

 

 うおおぉぉぉぉ!!!怨むぞ穂乃果ぁぁぁ!!ことりぃぃぃ!! いつの間にか変態的思考への第一歩を踏み出してしまった要因を創り上げたお前たちの行為に!!! 今からでも遅くない、海未による鉄槌を受けるべしだ!!

 

 

 

 ぐふっ……!! か、体が………吐血準備に入っている………!!

 

 

 い、いやだぁ……!! 裸の状態で、裸の真姫の体を密着された状態で吐血して気絶するだなんてそんなのいやだぁ!!!

 

 せめて……せめてもの慈悲ならば……ふ、服を……服を着た状態で気絶したい………!

 

 

 

 

 と言うか、気絶したくないです………ぐふっ……!!

 

 

 

 

 

 どうやら限界は近くなってきていたようだ――――

 

 マシュマロのように柔らかい胸とその先端に付いている固い突起物が、背中に走る神経に直接触れるようにあてられているせいで、俺の理性は崩壊寸前&吐血寸前だ!

 さらに、強く押し付けるために俺の両肩に触れてはゆっくり力を込めて真姫の体に向かって引き寄せられる。

 

 この瞬間、振り切って逃げるという選択肢は、湯の底に深く沈んでしまい、残った現状維持のみが俺の選択肢となってしまった!

 

 

 耐えろ……耐えるんだ俺の理性……!!

いくつもの修羅場を乗り越えてきたのは伊達ではないということをここで証m(むにゅぅ~…)…ごふっ…ゴメンなさい無理です………さらば、俺の理性…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ……蒼一…………」

 

 

 意識がもうろうとし始めてきた中で、少しトーンを落とした声で話しかけて来る。 背中越しであるために、どんな表情をしているのかがわからないが、気分が落ち込んでいることだけは理解することができた。

 

 

 

「……どうしたんだ……?」

 

 

 わずかばかりの力でその声に応答すると、うん、と小さく相槌を入れてくる。 すると、真姫は俺の背中のある部分をなぞるように指を走らせた。

 

 

 そのある部分と言うのは、あの時負ってしまった傷痕だ――――

 

 俺自身、写真でしか見たことはないが、その部分だけ肌が白く膨れ上がっている。 右肩から左腰近くにまで延びたその傷痕に、真姫は何かを思いながら指でなぞり始めたのだ。

 

 

 

「私ね……これを見ていると、今でも後悔しちゃうの……私がもう少しだけ周りを広く見ることができたなら、蒼一が苦しむことも悲しむこともなかった……こんな傷を受けることだってなかったってずっと感じているの………」

「真姫………」

「だからね、私は蒼一が苦しんだ分だけ癒してあげたいの……悲しんだ分だけ喜ばせてあげたいの………私がこうして蒼一と一緒に暮らせる時間は少ないけど、それでも、私は蒼一のために出来るだけのことをしてあげたいの………!」

 

 

 

 涙を含ませたかのようなすすり泣く声が浴室中に反響する――――

 

 真姫は泣いているのだ。 傷痕をなぞる指先が震えだし、違ったところをなぞり始めている。

 そして、たまらない何かを感じ取ったのだろうか―――傷痕に顔をうずめだした。

傷痕に向かって熱い滴が当たる。 それはシャワーとして出て来るお湯よりも熱く、ポタポタと零れ落ちて来る滴が傷痕に当たる度に沁みるような痛みが走りだす。 肌から感じる痛みは、やがて神経を尖らせて心に突き刺してくる。

 

 

 俺はその痛みに耐えながら俺の肩に置かれた手に触れる。

 

 

 

 

「真姫、これはお前が悲しむようなことじゃないさ。

 俺は確かに背中に大きな傷を負って、苦しんで悲しんだこともあった。 だけど、それが意味のないことだとは考えたことはない……だって、俺はこうして真姫と一緒に居られるのだから嬉しいんだよ。

 

 もしあの時……真姫があの場所に居なかったら、多分俺は傷付くことはなかった。 でも、そのかわりに真姫と出会うことはなかったかも知れない。 今の俺にとっては、そっちの方が悲しいと思うし苦しいと思うんだ。

 それに、今の俺たちは真姫の言う苦しいこと、悲しいことを乗り越えて今の俺たちがいるんだ……こんなに嬉しいことはないだろ?

 

 だから、もう泣くんじゃない……真姫の笑顔をもっと見せてくれよ………」

 

 

 

 そう言うと、俺はもう一度後ろの方に目を向ける。

 腕で目元を擦っている最中だったが、すぐに降ろしてうつむきがちだった顔を上げては微笑んだ表情を見せてくれた。 顔全体が比較的に赤くなっていたのは、多分、ここの室温が高くなったからなのだろう、そう思いながら俺はその顔に触れて喜びの表情を浮かび上がらせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでだ、真姫。 1ついいか?」

「……なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――後生だ、このタオルで胸だけは隠せ!」

 

「………………。」

 

 

 俺は風呂に入る時に持ってきた体を洗うための手ぬぐいを真姫に渡す。

 さっきからチラチラとそれが視界に入ってくるので、どうしようかと困り果てていたところなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………うふふ♪」

「…………えっ…………?」

 

 

 

 

 何かを思いついたかのような小悪魔的な笑いをすると、急に立ち上がったと思いきや、俺の顔に目掛けて抱きついてk――――――――――プツン――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――俺はその時のことまでしか覚えていなかった。 この後、浴室内で何が行われたのか? 俺はどうやってあそこから出て来ることができたのだろうか? 真相は不明だ。

 

 

 ただ、寝る直前になって正気を取り戻した時、異常なくらいに喜んでいた真姫の表情と、なんか真っ赤になった浴室のタイルを見て、問題しか起こらなかったのだと悟ったのは言うまでもなかった――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

[ 自室 ]

 

 

 

「うぅ………なんか、まだ頭がガンガンする…………」

 

 

 さっきの浴室の様子を見て、また吐血とかしてしまったんだろうなと思いつつ、同時に貧血に陥ってしまった頭を抱えながら俺はベッドに入る。

 

 

 今日も真姫に振り回されっぱなしの日になってしまったと、悩む一方で、思い返すと少しだけクスッと笑ってしまっている自分がそこにいた。

 何やかんや言って、俺は真姫と一緒にいることを楽しんでいるのだと感じている今日この頃――――こんな日々が続いてくれればいいのにと思いつつも、あの行為には勘弁してほしいという思いが半々だ。

 

 

 

「さてと……明日も早いぞ………」

 

 

 

 目覚ましも定時にセットして明りを消そうとする―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ……蒼一……?」

 

 

 俺の部屋の前に、自分の枕を抱えて立っている真姫がそこにいた。

 俺に何か言いたげな表情をしながら、体をくねらせてはモジモジとしている。 その様子を見て大方察した俺は、今日くらいはいいかな、と思い声をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、俺の横は空いてるぞ―――?」

 

「―――!! うん!!!」

 

 

 今日一番のとびっきりの笑顔でそう答えると、駆け出すように俺のベッドの中に潜り込んでくる。

 ひょこっと顔を出すと、「えへへ♪」と言って無邪気にもはにかんだ表情を見せる。 その様子はまるで、小さかった時の真姫と同じだった。

 

 そんな姿を見せられてはダメとはもう言えなくなってしまうじゃないか。 自分に少し呆れながらも俺は明りを消して、真姫の横で寝始める。

 

 

 しばらく時間をおいて横に顔を向けると、俺のことをじっと見続けている真姫の顔が目の前に――――目を麗わせては何かを訴えかけているようだった。

 

 俺の顔を見るやいなや、すぐに口にし始める――――

 

 

 

 

 

「ねぇ、ギュッとしても……いい………?」

 

 

 

 顔を赤く染めながら囁いてくる真姫の今日最後のお願いに頭を抱えさせられたが、ここまで来て急に止めるようなことはする必要はないだろうと思い、その言葉を呑んだ。

 

 

 

 

「―――わかった、いいぞ」

 

「うん――――♪」

 

 

 

 

 暗くなった部屋を明るく照らすような表情を見せると、俺の胸に飛び込むようにしがみ付くと、実に嬉しそうな声を上げてゆっくりと呼吸する。 居心地がよかったのだろうか、さっきまではしゃいでいたのがもう眠りにつこうとしていた。

 

 

 

「おやすみ、蒼一………」

 

 

 

 とても眠たそうな声で言うと、それに応えるように頭をやさしく撫でる。

 

 

 

 

「おやすみ、真姫――――」

 

 

 

 小さく相槌を打つと、真姫は小さな寝息を立てながら、そのまま夢の世界へと誘われてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……まったく、まだまだ子供なんだな…………」

 

 

 

 

 

 そんなことを思いながら、今日の疲れを癒すために深い眠りへと落ちていくのだった―――――

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




どうも、うp主です。


なんやかんやで総話数100を突破し、今回がその101話目となりました。

一年経たずにここまで出来るとは思わなんだと感じながらも、次に向かって頑張っていこうと思います。


しかしだな、今回の話はどういうことだってばよ?!
書いた後に見直しても、何があったんだ俺………?な展開になっていて、その後の編集作業がとてもやりにくかったです。
特に、削除しなければいけない内容が……(ゲフンゲフン


まあ、なんでしょうかね……デレ真姫ちゃんの日常と言うべきなのでしょうか?
自分はこのような感じで今後も真姫を書いて行くことになりますが、大丈夫でしょうかね……?()

こんなの真姫ちゃんじゃない!と思っているそこのアナタ、残念でした。
この小説内では、こんな感じです。

……というか、花陽のおにいちゃんっ娘も何か言われそうなはずなのに言われない件()


こんな特殊な性格に変わってしまった彼女たちを応援してあげてください。


では、また次回で!

今回の曲は、
TVアニメ『変態王子と笑わない猫』より

小倉唯/『Baby Sweet Berry Love』

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