蒼明記 ~廻り巡る運命の輪~   作:雷電p

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Act.3

 

――

――― 

―――― 

 

 

[ ??? ]

 

 

 

― …………………。

 

 

― 何と言うことだろうか………私は夢でも見ているのだろうか………?

 

 

― 私は『宗方 蒼一』という男の過去から現時点までの記録を読み返し、衝撃を受けていた。

 

 

― 彼が行った行為――命を失った少女に口から息を吹き入れるように新たな命を与えたのだ。

 

 

― するとどうだろう……? 少女は固く閉ざした目蓋を開かせて、彼を抱きしめたではないか……!

 

 

― 死者がよみがえってしまうとは……それは聖典に書かれし、聖者の行為そのものではないか……!

 

 

 

 

 

― これが……【はじめ】が言う、“神と同等の存在”……と言うものなのか!

 

 

― これが……特殊な人間(アブノーマル)である彼の『運命から抗う力』の真骨頂とでも言うのか!!

 

 

 

 

 

― ………なんとも恐ろしい力なのだ…………

 

 

 

 

《『運命から抗う力』………己の運命のみならず、他者の運命すらも操ることが可能となる力………ここまで強力なものは前例にないだろう………》

 

 

 

― 【はじめ】は手にしていたその分厚い本を閉じる。

 

 

― その時、囁くような小声で話すのを聞いた。

 

 

 

 

《……それでも、()()()()()()()()………》

 

 

 

 

 

― ()()()()()()、これにはどのような意味が含まれているのだろうか?

 

 

― その一言が私の中で、ストンと腑に落ちることなく停滞し続けているのだ。

 

 

― これは一体何を意味するのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!! 【はじめ】はおるかぁー!! おらんのかぁー!!?」

 

 

 

 

― 地上の生き物たちを震え上がらせる地鳴りような野太い声が、この空間一体に響き渡る。

 

 

― 何事かと思いながら声の主の方に目を向けると、訪問者が1人がこちらに歩いてくる。

 

 

 

― 齢30,40くらいだろうか――あの野太い声と目尻に掛かる小ジワが想定年齢を押し上げる。

 

― その格好は、膝まで伸びる短パンに、ただ袖を通しただけの上着を羽織るが、前ボタンを閉めないため大胸筋から腹直筋までのギュッと引き締まり揃った筋肉が常時御開帳である。

 

― 一般と比べて服装に対する美的感覚がずれているために、それだけではカッコよさを感じられないものの、全身から漂わせるあらゆる者をひれ伏せてしまうほどの威厳ある雰囲気が、彼と言う存在を大きくさせているのだろう。

 

 

 

― だが、やはり服装に対する美的感覚は悪い。

 

 

 

 

《ユーストマ、来るのであれば一声かけてくれればよかったものを》

 

 

「なぁ~に、言うとるんじゃぁ。 お前は面白みが塵一つもないこの部屋にずっと籠りっきりじゃんかよ! 声を掛けようにも掛けられんわ!!」

 

 

 

― 声を荒げるように近づくその男は、【はじめ】の目の前に立つとニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

 

― 【はじめ】もその男を前にしても何をする態度も見せていないことから問題ない相手なのだと認識し始める。

 

 

― 一体、どんな男なのだろうか………?

 

 

 

 

《……あぁ、まだ紹介をしていなかったようだね。 【アル】、この男は一時期天界の頂点に立った者、()()()()()()()()()だ》

 

 

 

― 先代神!!? ……まさか、この男が神だというのか?! まったく持って信じられない話だ!!

 

 

 

「あ~……信じられないってなぁ~……そう言われても、実際ワシは神だったからのぉ~……今は犬っころにその座を渡して、毎日ウハウハな日々を送っとるのじゃ~! だぁっはっはっは~~~っ!!!!」

 

 

《こう見えても、彼は歴代神の中でも随一の知略家でね、彼が統治していた頃の天界はかなり治安が良かったものだ。 難点と言えば、遊び癖と急に飛び出す考えくらいだろう》

 

 

 

― 【はじめ】は、こうも言うものの、私は未だに納得がいかない。

 

 

― このような人物が今まで人の住む世界を治めていたのだと考えると頭を抱えてしまう。

 

 

 

「しっかし、【はじめ】よぉ~。 あのヒヨッ子はなんじゃあ~? お前さんの助手か?」

 

 

《いいや、【アル】は私の客人だ》

 

 

「客ねぇ~……ふぅ~ん………めずらしいもんじゃのぉ~」

 

 

 

― この先代神は、私のところに来ては顔を近づけては、まじまじと私の顔を見ようとする。

 

 

― ギョロっとした目で私の体を隅々まで見た後、鼻息を一吹きさせてから【はじめ】の方に戻っていった。

 

 

 

 

《それで、ユーストマよ。 私に何か用かな?》

 

 

「おぉ~! そうじゃった、そうじゃった!! この前な、いい酒を見つけたからのぉ、一緒に一杯ひっかけようかと思ってやってきたんじゃよ!!!」

 

 

《ふふっ…相変わらずだな。 だが、すまないな、今はそれを飲み交わす時ではないのだ。 日を改めてからにしようではないか》

 

 

「なぁ~んじゃぁ~……つまんないのぉ~…………ん? なんじゃ、そのバカみたいに分厚い本はよぉ?」

 

 

《あぁ、彼の本だ》

 

 

「なんじゃと?!」

 

 

 

― 急にどうしたのだろうか?

 

 

― 先代神は例の本を手にすると、その内容を読み始める。

 

 

 

「なあ、【はじめ】よぉ………最近のヤツは問題ないかのぉ……?」

 

 

《……あの力が目覚め出した。 辛うじて、キミが与えた能力(ちから)で抑えつけているが……いつその()()が外れるのかが問題だろう》

 

 

「そうか……とうとう来てしもうたんじゃのぉ………」

 

 

 

 

― 先程まで、陽気に話を進めてきていた先代神は、彼のことについて話をし出すと、急におとなしくなるというか、しなびたように体から力が抜けて行くようだった。

 

 

― 彼のことについて、何か知っているのだろうか?

 

 

― 私はそのことについて掘り下げるように聞き始めた。

 

 

 

 

「ん? あぁ………ヤツについて知っているかじゃと……? ハッ! 知っているも何も、ヤツに肉体強化の能力(ちから)を与えたのは、このワシなんじゃよ!! それに、瀕死状態だったヤツを助けたのもワシ! その後の監視等を【はじめ】に任せたのも、このワシなんじゃよ!!!!」

 

 

 

 

― ………ッ!?

 

 

― 何と言うことだろうか……まさか、彼がこのような人生を送るようになった要因に、先代神が関わっていたとは……!

 

 

 

 

「なんじゃぁ? 【はじめ】から何にも聞かされとらんのか?」

 

 

《あぁ…そうであったな。【アル】には、まだちゃんと話はしていなかったな》

 

 

「ふはっ! 割と抜けとるようじゃのぉ~! ……しょうがねぇ、このワシが直々にヤツのことについて教えてやろう」

 

 

 

 

― そう言うと、先代神は手にしていた本を置き、その近くにあるイスに座ると話しをし出した。

 

 

 

 

「あれは、今から7年も前の話だったかのぉ~。 次の神を決める戦いが間近に迫る中で、急にワシの前に表れよったんじゃからのぉ~………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

7年前――――――

 

 

[ 天界・神の間 ]

 

 

 

 

 

「zzzzzz………zzzzzzzz…………zzzzzzzzz……………」

 

 

 

 

「―――神様ぁぁぁ!!仕事場で寝ないでください!!!!!!」

 

 

「んがっ!?……ぁぁぁあああぁぁぁぁぁ………折角、いい気持ちで寝ていたのによぉ………なにするんじゃぁぁぁぁ…………」

「なにするんだ、じゃないですよ!!!まだ、仕事が残っているのに寝たら困りますよ!!!」

「いいじゃんかよぉ………ワシにだって、ちゃんとした休みが欲しいんじゃよぉぉぉ!!!」

「アンタ、この前3連休したばっかじゃないですか!!!それなのに、まだ休みが欲しいとかほざくんですかぁぁぁ!!!!」

「………チッ、バレとったか………」

「とっくにバレてますよ………それと、ハイ。こちらに目を通してくださいね」

「なんじゃぁ?これは???」

「本日、現世の方で事故などによって死んだ方々のリストです」

「フゥ~ン………なんでワシがこんな罰当たりなもん確認せにゃならんのじゃ………」

「それも、あなたの仕事なんですよ」

「あ――あぁ――――――………今日もこんだけ死んじゃうなんてなぁ……物騒な世の中じゃのぉ………………ん?なんじゃこりゃ???」

「ん?あぁ、それは未定の方です」

「未定ぃ???」

「魂が抜けきっていない人なんですよ。その人、人助けのために大ケガを負って重体なんですよ。ですが、どう考えても即死になるはずの状況だったのに、未だに死んでいないんですよ………不思議ですねぇ」

「フゥ~~~~~~ン………………その野郎、少し気になるな…………おい、ハゲ!」

「ハゲ言わないでください!!!」

「この野郎の魂を一時的に呼び寄せることは出来るか?」

「えっ?で、出来なくはないですけど………何をなさるおつもりで」

「ちょっと、気になることがあってな………すぐにやってくれ」

「は、はい!!!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「ほぉ~……コイツが例のヤツか?」

「はい、名前は、宗方 蒼一。年齢は10歳の少年です」

「こんなガキが死ななきゃいけねぇとはなぁ………やっぱ、世の中くさっとるわ」

「そう言わないでくださいよ。それで、この少年の何が気になったんですか?」

「それはのぉ……………コイツじゃ」

「!!! そ、それは……!!………ま、まさか…………!!!!」

「はぁ………そのまさかじゃよ………特殊な人間(アブノーマル)、その中でも、厄介なモンをこしらえていやがるんじゃよ」

「じゃ、じゃあ!この少年の魂が抜けきれないのはッ!!」

「間違いないのぉ、この能力(ちから)が介入して抜けないようにしとったんじゃろうな」

「………どうするんです?このままにしておけば、2年後のアレに関わることになるんじゃ!?」

「そうはさせんよ………というか、こんなヤツがおったら話にならんじゃろ。チートじゃ、チート!!」

「それじゃあ、どうするんですかこの少年は?もしかしたらこのまま息を取り戻したら、いろいろな候補たちが寄って集って能力(ちから)を与えようとしますよ!!!」

 

 

 

「…………フム、そうするか……………」

 

 

「へ?私の話を聞いていました?」

「おう、聞いていたとも。聞いたうえで判断したんじゃ」

「えぇ!?良いんですか、候補たちに勝手をやらせても!?それでは、この案を作った意味が……」

「ヴァーカ、誰がそうするって言ったんだよ?」

「へ???」

「ワシが考えたのは、こういうことじゃ!!!」

「そ、それは!!!?」

 

 

 

「候補たちが能力(ちから)を与えようと言うのならば、ワシが先に与えれば問題は無いじゃろ!!」

 

 

 

「う、うっわ……………無理やりだ、コレ……………」

「それに発動しても、見た目に問題は無いからこれでよしじゃ!!!」

「?ち、ちなみに何を与えたのですか………?」

「肉体強化じゃが?」

「………まあ、確かに問題は無いと思いますが………バレませんかね?」

「大丈夫じゃ、能力(ちから)が備わっている情報を開始期間前に流しておけば、コイツには絶対に手は出さんだろうし、開始後には、あたかも、能力(ちから)が無いように見せれば問題無しじゃ!!!」

「………それって、私の仕事が増えるってことですよね?」

「いいや、その仕事はお前の役目じゃない」

「?? で、では、誰が行うのですか?そんなこと???」

「その……なんじゃっけなぁ………ワシの友人がおる部署の………え~っと……名前は何じゃったかのぉ???」

運命を管理する者(アドミニストラジオ)ですか?」

「おぉ!!そうじゃ、そうじゃ!!そこに頼むんじゃよ!!」

「その友人の部署の名前くらい覚えといてくださいよ…………」

「しょうがねぇだろ!!!メシの席で、アイツは仕事のことをまったく話さないんだからよぉ!!それに、一々覚えるのがめんどくさい!!!」

「絶対、後者の方が本心ですよね!!?」

「だぁ―――――!!!もういいから、そのガキをアイツのところに持って行ってくれや!」

「わかりましたよ………その間に、ちゃんと仕事をしておいて下さいよ?」

「っかっとるわい!!一々言わんでもいいからさっさと行ってこいや!!!」

「わかりましたよ………………」

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「――――てな感じで、ワシはヤツに能力(ちから)を与えたわけじゃよ」

 

 

 

 

― …………………。

 

 

― これまでの話を聞いている限りでは、適当にやったとしか言いようがないものだ……。

 

 

 

 

 

 

《だが、その結果、彼はその戦いには参加することはなく現在に至るのは、ユーストマの采配が正しかったことがうかがえるだろう?》

 

「くっくっく……伊達に神の座に座っとらんかったからのぉ~」

 

《それに、今日に至るまで彼があの能力(ちから)を極力使わずに済んだのもそうだ。 あの能力(ちから)が備わっていなければ、彼はとうの昔に屍と化っしていたであろう………》

 

 

 

 

― ―――――!?

 

 

― とうの昔に、彼――『宗方 蒼一』は死んでいたであろう!? その真意は如何なものなのか?!

 

 

 

 

 

「そうか………ヤツはのぉ……ヤツの持っておる能力(ちから)はワシのような神に匹敵するような能力(ちから)であることはわかっておるな? 運命を変えるなんざ、この世界どこを探してもほんの一握り程度、その中でも意図的に且つ思い通りの運命に変えてしまう能力(ちから)は、ワシらとヤツ程度しかおらんじゃろうな。 かなりの負担が体に掛かるがワシらは大丈夫じゃ。 何せ天界人は体が丈夫じゃからのぉ~

………じゃが、人間は別じゃ。

人間の体には限界がある――それをワシらと同じ能力(ちから)を扱えば、自ずと体は容量を超え溢れ出てしまうじゃろうな。 最悪は、拒絶反応を起こして体が異常なモノとなってしまうじゃろう……つまりは―――」

 

 

《―――屍。 体が壊れ、そのまま魂が朽ちてしまうのだ―――》

 

 

 

 

― そのような恐ろしい能力が何故、彼に与えられたのだろうか?!

 

 

― 生まれながらにして死を宣告させられているのと同じではないか!!

 

 

 

 

「まあ、そう焦るな……そのために、ワシは肉体強化の能力(ちから)を選んだわけじゃ」

 

 

《人間の限界を超えるところまで身体能力を強化させることで、あの能力(ちから)にある程度耐えられるような体にする。 また、運命を変えることなく自らの力で運命を切り開かせることも出来たということだ》

 

 

「出来ることならば、あの能力(ちから)だけを取り除きたいのだが……それも上手くいかないものじゃよ」

 

 

 

 

― 先代神は己の不甲斐無さに溜め息をつく。

 

 

― この方なりの最大限を尽くした結果なのだろう……神の力を持ってしても、変えられないこともあるのだということを知らされる。

 

 

 

 

 

― では、彼は能力(ちから)を使い続ければどうなるのだろうか……?

 

 

 

 

「そんなの決まっておるじゃろう……さっきも言ったように、体の芯から崩れて行くことになるじゃろう……もし、過度な負荷をかけるようなことをすればの話じゃがな………」

 

 

 

 

 

― そう言い放つと、先代神は立ち上がて帰ろうとする。

 

 

 

 

「しけてしもうたのぉ~……まあええ、また今度にゃぁ邪魔することにするかのぉ~」

 

 

《その時は、前々から連絡をするようにしてもらわないと困るがね》

 

 

「わーっとるわ! そんじゃのー!!」

 

 

 

 

 

― その言葉を最後に、先代神はこの場から立ち去り、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 

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