二人のリボンは姉妹の印~騙されてアイドル活動~   作:霞身

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久々の更新です。
ひとまず言い訳は置いておいて本編どうぞ。

そして、反り投げさん(旧名)に新たにステキなイラストを書いていただきました。
あらすじにも貼らせていただいておりますが、こちらにもペタリ。

【挿絵表示】


8/27 本文一部変更


第八話:時流れてCDデビュー。

 あのバックダンサーとして初めてステージに立った日からまたしばらくの時間が過ぎた。

 その間は、忙しいと言うほどではなかったけれど、かといって暇だとは言えない日々だった。

 あれ以降、ああした大きなステージにこそ立っていないが、ポツポツと小さな仕事が入ってくるようになった。

 例えば、街頭でチラシや風船なんかを配るキャンペーンガールだったり、ショッピングモールの屋上でやるヒーローショーの司会のお姉さんだったり、これくらいならわかるのだが、俺のグラビアっていったい誰が見たがるのだろう、無類の筋肉好き位しか興味ないだろうに。

 そしてまあ、案の定なのだがクラスの面子に、俺がアイドルデビューしてることがばれた。

 誰が最初に気付いたのかなんて、言うまでもないような気もするが、いつの間にかクラス全体に広がり、さらに言えば学年にまで広がっていた。

 一番意外だったのは、気付いたときには非公認ファンクラブが出来ていたことだ。

 公認ではなくてもファンクラブができるのは問題ないそうなのだが、メンバーを聞いてみたら、やっぱり大半が女子なのは、一応女子のアイドルとしていかがなものなのだろうか、いやまあいいんだけどさ、俺は。

 と、まあ順風満帆にアイドルとして走り出して、今は年の瀬も近付いてきた12月頭、ついに、俺にもその時がやって来た。

 

「CDデビューですか」

「そう、最後まで待たせちゃってごめんなさいね」

 

 きっと、アイドルを目指す女の子達の、ほぼすべてが望んでいるであろう、CDデビューがついに決まったのだ。

 

「いやいや、俺が最後に入社したわけですし、最後になるのは当然ですって」

 

 というか、俺としてはついに来てしまったか、というくらいの心境だ。

 自分で言うのもなんだが、俺はそれほど歌は上手くないと思っている。

 そして、俺自身の素材を活かす為に、俺はダンスや演技(と言っても舞台演技というよりはアクションだが)などのヴィジュアルレッスンを中心に組んでいたので、入る前よりマシだが、歌は特別うまくなっているわけではない、というのが現状だ。

 ちなみに、姉さんはとっくに『太陽のジェラシー』という正統派な曲でCDデビューを果たしていた。

 

「とりあえず、いくつか作曲だけされたサンプルがあるから、この中から気に入ったものを選んでちょうだい」

 

 そう言って渡されたMP3プレイヤーを受け取ってイヤホンを付けて聴いてみる。

 一曲目、コテコテのアイドルソング、たぶん作詞するならラブソングになるだろう。

 こういう曲は、俺より姉さんとか雪歩さんに渡す方がいいだろう、少なくとも俺向きの曲じゃないので却下。

 続いて二曲目、静かに始まるバラード調の曲。

 様々なことにおいてそうであるように、第一印象というものの効果は絶大だ。

 すでに俺の事を知ってる人間からしてみれば、俺のイメージとは程遠いし、この曲で俺を知った人間からしてみれば、それ以降のイメージがめちゃくちゃになってしまうだろう。

 こういう曲はたぶん、千早さんかあずささん、もしくは貴音さん辺りに似合っていると思う。

 そのうち、ギャップを狙って出すならいいかもしれないが、これも俺向きの曲じゃない、ゆえに却下。

 そして三曲目、スティックをぶつける音から始まってギターが入ってくる、本格的なロック調の曲だった。

 低く響いてくるベースやバスドラ、そしてメロディラインを奏でるギター、今まで765のアイドルで近いものがあるとすれば、多少違うが響の『Next Life』だろうか、そしてたぶん、俺に一番合った曲だ。

 

「この三曲目がいいかな」

「やっぱり、夏美ならそれを選ぶと思ったわ」

 

 そりゃそうだろう、一曲目と二曲目に関しては、俺が歌えばイメージの崩壊もいいところだし、そもそも歌いたくない。

 個人的にはもっとハードな曲でもいいんだが、そこまでいくとさすがにアイドルの曲じゃなくなってしまうからな。

 

「それじゃあ、三曲目で製作しておくわね」

「はい、お願いします」

 

 ひとまず楽曲が決まったところで色々と合点がいった。

 来週からやたらとボーカルレッスンが多かったのは、このCDデビューの為の前準備だったわけだ。

 最初は単純に今まで疎かに(勿論手を抜いていたと言う意味ではなく)なりがちだったボーカル面をギリギリアイドルと言えなくもないというところで維持、あるいはレベルアップの為だと思っていたが、そうか、ついにCDデビューの時が来てしまったか。

 ま、いつかは通る道、とりあえず頑張ってみようかね。

 

 

 

 

 突然のCDデビューが決まった翌日、今週までは今まで通りのダンスレッスン中心なので、レッスン場へあのライブ以降、すっかり仲良くなった響や真と一緒に向かっていた。

 ちなみに呼び名が変わっているのは、あのライブの終わりに、うっかり呼び捨てにしたら、そのまま呼び捨てがいいと言われて、今では当然のように呼び捨てで呼び合う仲となっていた。

 

「しっかし、もう俺のCDデビューの時がきたかぁ」

「ボクたちとしては、やっと夏美の番が来たか、って感じだけどね」

「うんうん、自分達のなかで一人だけデビューしてないなんて、なんか仲間外れにしてるみたいだったけど、これでまた一緒だな!」

 

 そう、俺が最後のデビューであるから、当然のように真もすでにCDデビューを果たしている。

 真は『エージェント夜を往く』という、真のかっこよさを前面に押し出した曲で、響は『Next Life』という、サイケデリックトランスというジャンルの、こちらは普段の響の様子とは違う、かっこよさやクールさを押し出した曲だ、非常にダンサブルな曲になっている。

 

「ま、嬉しくない訳じゃないさ、俺もアイドルだからな」

「ところで、夏美はどんな曲にしたんだ?」

「やっぱりギャップ狙いでフリフリのドレスみたいなコスチュームが似合う曲?」

「いや、俺はそういうの好きじゃないから……どっちかと言えば、響のNext Lifeが近いか、俺の方はロックだけど」

 

 そう言えば真も最初は伊織のようなキュートな曲を選ぼうとしたらしいが、雪歩さんと真美に止められたらしい。

 たぶん俺でも止めてた。

 

「へぇ、じゃあ結構ダンサブルな曲になるのか?」

「たぶんな、まあ最初はギャップ狙いより堅実にやっていくさ」

 

 たぶん、どうやってもそのうち、新しいファン層獲得のために、ギャップ狙いの曲をやることになると思うが、その時はその時だ。

 

「夏美なら、ダンスは問題なさそうだね、あとはあのボーカルトレーナーが及第点を出す程度に歌がうまくなれば、大丈夫だね」

「それが問題なんだよなぁ」

 

 あのボーカルトレーナー、フワッとしたセミロングの髪に眼鏡と、見た目だけならとても優しそうに見えるが、本質は真逆だ。

 俺がボーカル面を苦手としているのもあるが、あの人のレッスンは滅茶苦茶厳しい、鬼畜と言ってもいいかもしれない。

 今まで、絶対音感を習得するような訓練を積んでいないどころか、事務所に所属するまで、授業でやった合唱か、カラオケくらいでしか歌ったことの無い俺には、ピアノの音に合わせて声を出すというのは、なかなかに難しい、俺と大差無い姉さんも言わずもがな苦戦していた。

 これが言い訳であることも、そして確実に所属する前より上手くなっていることも理解しているが、せめてもう少し手加減して欲しかった。

 

「夏美はかなり声も安定してるし、大きいから、ある程度技術が身に付けばすぐにオッケーもらえると思うよ」

「その技術が問題なんだよなぁ」

 

 確かに腹筋、そして腹斜筋はそこらのアイドルより、というか歌うことに、人生をすべて捧げていると言っても過言ではない千早さんより鍛えているから、自然と声の安定感は抜群となっている。

 発声音量はたぶん生まれつきだ、近所の男共と笑いながら遊んでたのもあるかもしれないが。

 ひとまず、しばらくあの鬼コーチのスパルタレッスンが続くのは明白、気合い入れて望むとしよう。

 

 

 

 

 俺が先週危惧していたように、ボーカルレッスンは、それはもう厳しいものだった。

 そりゃそうだろう、今までは大目に見てもらえていた部分も、次は商品としてCDに録音する歌なのだから、トレーナーさんも手を抜くことはできない。

 体力的な面で言えば、まったく問題はない、ただやはり、苦手な物に長時間取り組むというのは、かなり精神的に来る。

 とは言え、さっきも考えたが、これは仕事の為に必要なことだ、そう思えば、少しはやる気が出てくる。

 俺の仕事ぶりはそのまま、他のみんな(765プロ)の仕事ぶりとなる。

 俺が中途半端な仕事をすれば、会社の信用を落としてしまう、子供っぽくない思考であることは、重々承知しているが、すっかり染み付いてしまっているこの考えによる動き方は、どうやら千早さんの何かしらの琴線に触れたようだった。

 

「この後、少し時間あるかしら」

 

 レッスンが終わり、責任感は感じれど、しかし居残りしたいかと聞かれると、そうでもなかった俺は、今日は帰って寝ようかと思って、荷物を片付けていた時に、千早さんに声をかけられた。

 なんというか、正直なところものすごく意外だった。

 普段の様子を見ていると、周りがいくら騒いでいようと、我関せずと言わんばかりの千早さんに、まさか呼び止められるとは思わなかった。

 ひとまずすることは無いので、千早さんについていってみようか。

 

「はい、大丈夫ですよ」

「なら、少し話しましょう」

 

 二人とも荷物を片付けると、その足でビルを出て町中を歩いていく。

 しばらく歩いて、ふと目についた喫茶店には入り、二人ともコーヒーを注文する。

 注文したのはいいんだが……お互いに何から話せばいいのかわからない。

 正直に言えば、俺は千早さんが、貴音さんくらい苦手だ。

 両者とも、多少イメージは違うが、話しづらい。

 貴音さんは、何を言えば会話が続くのか予想もつかないし、千早さんは、そもそも声をかけにくい雰囲気のようなものがある。

 コーヒーがテーブルに届いても、会話は始まらず、結局先に口を開いたのは俺だった。

 コーヒーを一口口に含み、舌を湿らせて、久々に苦手な上司の元へ行くときの心境を思い出す。

 

「千早さんは……普段どんな音楽を聴くんですか?」

 

 たぶんこの内容なら会話が続くというのは想像に難くない、ゆえに最初の質問にこの無難なものをチョイスした。

 というか、ろくに話したこと無いから他の質問が思い付かなかった。

 

「そうね……色々と聴くわ、バラードからポップス、Jazzにクラシック、言うと意外だと言われるけれど、ロックなんかも聞いたりするわ」

「え、それは確かに意外かも……」

 

 千早さんが、ロックを聴くというのは、本当に意外だった。

 Jazzやクラシックなら想像できるが……しかし千早さんがロック……

 

「確かにロックは破壊的だとか、過激な物もあるけれど、あれも確かに、音楽で何かを伝えようとする歌だもの、それに、あれらからも色々と学べることはあるわ」

 

 思っていたものとは、ちょっと違った回答だったけど、普段から学ぶ姿勢を忘れない千早さんのその姿は、歌にそれだけ一生懸命だということだろう。

 

「ところで、夏美はどういう曲を聴くのかしら」

「俺はそうだなぁ、今流行りのポップスよりは、ロックとかの方が好きかな」

「確かに、夏美はそういった曲が似合いそうだものね」

 

 音楽の話題を皮切りに、ある程度打ち解けられたんじゃないだろうか。

 話しているうちに、千早さんが一人暮らしをしていることや、学校の合唱部の空気がどうしても合わないことなど、色々な事を知った。

 とまあ、普通に話すだけならば、これでよかったのだが。

 

「とりあえず、結構経ちましたし、何か他に本題があるんですよね?」

 

 彼女は、特に用事もないのに、誰かに声をかけるということは、あまりしないだろう、普段の様子だけじゃなく、今日話していても改めて思った。

 その千早さんが声をかけてきたのだから、何か用事があったんだろう。

 

「そうね……あなたに少し聞きたいことがあったの」

「俺に答えられる範囲なら、いいですよ」

「……あなたは、ダンスの面に関しては、既に真達と並ぶほどだと、私は思っているわ」

「ふむ?」

 

 過大評価もいいところだと思うが、確かに今は今まで殆んど無かった基礎を固めることで、めきめき腕前が上達している事を感じている。

 

「だけど、逆に歌は苦手としている……だというのに、なぜそこまで頑張れるのかと思って、あなたはダンスを極めていけば、確実にトップに立てるんじゃないかしら」

「いやいや、さすがにそのレベルじゃないですよ、確かに得意ではありますけど」

「まだそうかもしれない、けど、何かを極めた人というのは、それに関してはプロフェッショナルになれるわ、それが、あなたの場合ダンス、なのに、なぜ苦手な歌で、あれだけ頑張る事ができるのかと思って」

 

 なるほど、そういうことだったか。

 千早さんは、普段から歌以外の仕事には興味がないと話していた、千早さんが歌にかける情熱というのもわかるが、俺はその姿勢が好きじゃない。

 

「まあ、確かにダンスだけやってれば、楽だし楽しいと思いますけど、でもそれじゃあダメですからね」

「ダメ?」

「はい、例えば、俺に歌番組のオファーが来たとしましょう、でも俺は歌が苦手だからと断った、まだデビュー間もない俺が、テレビ局側からしたらせっかくチャンスを与えたのに、と悪い印象を持つでしょう、俺にではなく、765プロという会社にね」

 

 もし俺が悪い印象を持たれたら、迷惑は俺だけではなく765プロの皆にもかかってしまう。

 ある意味社会の常識だ。

 千早さんは、多少融通は利かなくとも、良識のある人だと思っている。

 だから、千早さんもこれくらいのことはわかっているだろう、それでも言わねばならない。

 

「俺は、765プロという会社の看板なんだ、自分で仕事の選り好みしていい立場にない、俺はそう思ってる」

「会社の看板……」

 

 俺には、千早さんが、どこか焦っているような気がした。

 いったいどういう理由で焦っているのかなんて、俺にはわからないけれど、世の中焦りすぎていいことなんて、殆んど無い、勿論早いに越したことはない事があるのも事実だが。

 

「ローマ帝国の初代皇帝、知ってます?」

「……アウグストゥス、かしら」

「その人が言った言葉ですけど、Festina(フェスティーナ) lente(レンテ)、ゆっくり急げって言葉です」

「ゆっくり、急げ」

「たぶん、人生で無駄な経験って、無いんじゃないですか?」

 

 

 

 

「たぶん、人生で無駄な経験って、無いんじゃないですか?」

 

 とても、年下の女の子から言われたとは思えないほど、重たい言葉だった。

 私は、夏美のことを高く評価していた。

 ダンスの才能は勿論のこと、あらゆることに全力をつくし、時には怪我をするほどの無茶さえする。

 その責任感や、やる気というのは、とても好意的に見えた。

 だからこそ、言われて驚いた事があった。

 

『俺は、765プロという会社の看板なんだ』

 

 まさか、これ程まで、精神的な独立をしているとは思わなかった。

 まだ13歳、中学一年生で、会社の看板を背負い、その信用のすべてを自分が受けているという自覚。

 私でも……私だからこそ、そこまで自信をもって言うことはできない。

 私は、歌のために全てを捧げる覚悟というものは、勿論あった。

 しかし、歌以外に時間を割くというのは、どうしても抵抗があった。

 私は、歌わなくてはならない、私の歌を好きだといってくれた、優の為に。

 その為に、色々な仕事を、私のわがままで断ってきた。

 中学生に諭されたと思うと、自分で自分が恥ずかしい。

 なぜあれほどまでに頑張れるのか、その答えを知りたくて聞いた質問は、想像以上の威力を持ってして、私を撃ち抜いた。

 自分のため以上に、会社、仲間の為に。

 やはり、とても責任感の強い、そして、眩しい子だ。

 ゆっくり急げ、日本の諺で言うならば急がば回れだろうか。

 全力で進むだけではなく、時に周囲をゆっくり見回したり、回り道をするのも、いいかもしれない。

 ただ頂上へ早く着くのが、山登りの楽しみではないように、そこからの景色、思わぬ発見を探す。

 そう言ったものを探せば、より歌を好きに、楽しく歌えるようになるだろうか。

 

「ありがとう夏美、とても……とても参考になったわ」

 

 そうすれば、優が好きだといってくれた、歌を歌えるようになるような、そんな気がした。

 

 

 

 

 どうやら俺の、というか初代皇帝アウグストゥスの言葉は、千早さんの心に何かしらの影響を与えられたようだ。

 さっきに比べて、千早さんの顔は、晴れやかになっているような、気がする。

 確かに千早さんは、儚げや、憂いを帯びた表情というのが似合うが、誰であっても、やっぱり笑顔でいる方が綺麗に決まっている、まだ笑顔というより、微笑むという程度だが。

 

「そうだ、千早さん」

「何かしら」

「よかったら、今度俺に歌のレッスンをつけてくれませんか」

「レッスンを?」

「はい、自主練習をするには知識は足りないし、ちゃんと指導できる人が、欲しかったんです」

 

 せっかく、こうして千早さんと打ち解けることができたのだから、これからも、出来るだけ仲良くして行きたい。

 そのためには、千早さんならやはり一緒にレッスンをするのが一番だろう。

 ついでに苦手なボーカル面もレベルアップできて一石二鳥と言うわけだ。

 

「ええ、かまわないわ、代わりに、よければ私にもダンスを教えてもらえないかしら」

「それくらいお安いご用ですよ」

 

 こうして俺は、ダンスの弟子と、歌の鬼教官を手に入れた。

 

 

 

 

「うんうん、だいぶよくなったわね」

 

 千早さんとのお互いに教え合う師弟関係が始まって一週間、通常のレッスンと、更に千早さんに歌の居残りレッスンをつけてもらって、俺の歌はかなりうまくなった。

 というか、CDデビュー決定から、このトレーナーさんに誉められたのって、今回が初めてな気がする、千早さんが居なかったらどれだけ時間かかってたんだ、俺は……

 とりあえず、結構な時間がかかったとはいえ、ようやく基礎が出来上がったと判断をもらった俺は、基礎レッスンから、自分の曲のレッスンへと移行する。

 作詞はずいぶんと前に終わっていて、しかし歌うのは今回が初めてだ。

 曲名は『I Kill Your Heart』字面だけみるといたく物騒(お前の心を殺す)に見えるが、意味合いとしては「あなたを惚れさせる」だろうか。

 姉さんの歌う『太陽のジェラシー』が追いかけてもらいたいという願いの歌ならば、こっちはどこまでも追いかけて落とす、といった攻めの歌。

 どっちもラブソングに変わりはないが、こっちのほうがだいぶいい。

 ただまあ、決まっている振付で一つ勘弁してほしいのもあるが……まあ、それはひとまず置いておこう。

 とにかく、そんなこんなでもうすぐ新しい年を迎える12月、ついに『本物のアイドル』への道が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 時は過ぎて今は既に1月の末、千早さんにダンスを教えつつ、歌唱技術について指導してもらい、そしてトレーナーさんのチェックを受けるという行為を繰り返した一ヶ月、ついにこの時を迎えた。

 

「これでもう、レコーディング開始しても問題なさそうね」

 

 ついに、CDの収録をすることが決まった。

 いやぁ、果てしなく長く苦しい戦いだった気がする。

 なんだかんだみんな、姉さんすら一ヶ月くらいでデビューしてたのに、俺は約二ヶ月、びっくりするくらい才能ないね、俺。

 とにかく、ついに765プロで最後のCDデビューが始まるわけだ。

 そして、トレーナーさんからOKをもらった俺は、律子さんにも報告をして、早速今週、レコーディングをしている。

 結果から言えば、二、三度やり直しただけで、すぐにOKをもらってレコーディングはあっという間に完了した。

 なんというか、トレーナーさんからは何度もダメ出しをもらっていただけに、こんなに早く終わるというのは意外だった。

 というか、あの人が厳しすぎるだけか、それだけ大事にしてもらえてると思おう。

 まあ、楽に終わるならそれに越したことはないがね。

 さて、CDの収録が終われば何があるかというと。

 

「ミニライブ、ですか」

「ええ、CDの発表も兼ねたやつを今度、ショッピングモールで行うわ」

 

 ライブ……ライブかぁ……

 一度バックダンサーをやっているとはいえ、今度は自分がメインの、しかも自分だけでのライブ、流石に多少の緊張はする。

 

「緊張する?」

「まあ、多少は」

 

 とは言っても、逆に言えば失敗は全部自分のせいなわけだから、前回ほどひどい緊張はしていない。

 それに、チケットを売っているわけでもない、新人アイドルのミニライブなんて、それほど人目に止まるわけでもないだろう。

 うん、そう思うとだいぶ気が楽になってきた、むしろちょっと楽しみなくらいだ。

 

「うんうん、いい顔つきね」

「物は試し、どの程度できるか試してみたいと思います」

 

 さて、ライブまでの時間は歌とダンスを半々でレッスンか……やべぇ、絶対またボイスレッスンの鬼教官二人のシゴキが始まる……

 

「まあ……頑張りなさい、千早についてはあなたの自業自得よ」

「ういっす……」

 

 そしてやっぱり、予想に反しない、厳しいレッスンを受けたわけだが、本番まであと少し。

 ついに俺も、アイドルとして本格的に階段を上り始めた。

 

 

 

 

 

 

「いや、なんでお前ら……というかマー君ライブ知ってんの?ホームページに載ってた?なんでそこまでチェックしてんだよ……」




皆様お久しぶりです、作者です。
いやぁ、本業のプロデュース業が本格的に始まった上、副業が現在繁忙期でございまして、投稿が遅れてしまいました。
ひとまず春香さんのファンをあと500万人ほど集めなくてはなりません。
という冗談はさて置きまして、大変お待たせしてしまい申し訳ございません。
PS、楽しいですねぇ、時を忘れて睡眠時間がなくなるくらいには。
ただ、DLライブのアクセサリーのドロップ率、もう少しどうにかならなかったのだろうか……
かれこれもう30時間以上やってますが、第一弾の頭と足がまだドロップしません、足はともかく頭は絶対ほしいです、猫耳春香さんと千早が見たいんです。
というわけで、また一ヶ月後くらいにお会いしましょう。

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