借りるはタイトルだけらしいので、全てオリジナルキャラらしいですが果たして……
今回も一万字目前、もう気にしないことにしました。
今までの中で一番書くのに苦労したきがする。
中途半端な時間だけどひとまず更新。
「「宣材写真ですか?」」
あの最初の地獄のレッスンから幾日が経って夏休みも終わった頃、ようやく普段のレッスンにも慣れてきて筋肉痛になる頻度が減り、やっと学校との二重生活に慣れてきた今日この頃。
ここ最近の日課である就業後に事務所に顔を出しに行くと、律子さんが宣材写真を撮ると言いだしたのだ。
そうか、そういえばまだ宣材写真撮ってなかったか。
「……って、宣材写真ってなんですか?」
なんてとぼけた質問をする姉さん。
おい、まさか姉さん本当に宣材写真知らないのか?
「宣材写真っていうのは、まあ簡単に言えば履歴書に貼る証明写真みたいなものね、相手の第一印象に残る大事な写真だから、今度の土曜日に撮影する時のために自分の魅力について考えておいてね」
「なるほど!」
俺の代わりに律子さんが全部説明してくれて助かる。
しかし自分の魅力か……俺の魅力ってなんだろうな。
男っぽいことか?
それとも大人っぽいところだろうか。
改めて魅力と言われるとよくわからないものだな……
ひとまず当日までまだ数日時間があるし、今の所は置いておくとしてレッスンに行くとしよう。
確か今日はボイストレーニングだったか、さっさとバッグを持ち替えて事務所を出てレッスンスタジオに向かって歩いていく。
学校の後に来ているからどうしても時間が遅くなってしまうし、帰る時間を考えるとどうしてもレッスンが短くなってしまうのが最近の悩みだ。
しばらく歩けばすぐにレッスンスタジオに到着して受付を済ませたら更衣室でジャージに着替えて今日のルームへ移動する。
「おはようございまーす」
レッスンルームに入ると今日一緒にレッスンをする人たちは先に来て既にレッスンを始めていた。
「おはようございます天海夏美」
「あら、夏美ちゃんおはよう」
その中で現在休憩中だった貴音さんとあずささんの隣に俺も腰を下ろして軽い柔軟をはじめる。
ボーカルトレーニングで柔軟は意味があるのかと思うかもしれないが、体を温めるという意味では結構重要だったりする。
ダンストレーニングほどではないがボイトレも最初はなかなかに苦労したものだ。
先生はゆるふわな髪に眼鏡をかけていて、いかにも優しそうな人なのだが怒らせると怖いし、めちゃくちゃ厳しい人だ。
まだ持ち歌というものがないので、俺は基本的に発声練習とピアノの音に合わせて音程を合わせるような練習や、滑舌をよくするための早口言葉などが主だ。歌については、他のアイドルの歌や765プロ全員が歌っているREADY!!という曲を中心に練習している。
そうだ、せっかくだし先輩である二人に俺の魅力とやらについて聞いてみようか。
「あの、二人は俺のことってどう思いますか」
「はて、突然どうしたのですか?」
「今度の土曜日に宣材写真を撮るそうなんですけど、俺の魅力とかアピールポイントってなんだろうと思って」
実際自分じゃよくわからない。
学校の男連中からは「付き合いやすい」「気安い男友達」位の感じにしか思われてないし、自分でもその程度の認識だった。
「そうね~、私としては手のかかる弟みたいな感じかしら、あ、悪い意味じゃないから気落ちしないでね。ただ一緒にいてついついお世話したくなっちゃう感じかしら」
「弟みたいな感じですか」
「
「なるほど、参考になりました」
うん、つまり時々真面目だけど基本子供っぽいってことだな。
むしろ普段はおとなしく振舞おうとしてはいるが、どうにも765の人たち……というか亜美真美と一緒にいるとどうしてもある程度自重を忘れてしまう。
まあ前世の頃からしていつまでも子供っぽいと言われていたし仕方ないだろう、というかそうじゃなきゃあんな死に方しない。
でも子供っぽさを売りにするというのはなんか違う気がするなぁ。
「あずささん四条さん夏美ちゃん、次はあなたたちの番よ」
「あ、はーい」
ひとまず今はレッスンに集中しよう、この人マジで怖いんだもの。
@
学校に着くやいなや席に座って机に突っ伏す。
この朝の十分程度だが最近はとにかく眠いので、基本的に寝て過ごしている。
「ふあ……あふぅ」
「なんか夏美最近いつも眠そうだよな」
「最近ちょっと忙しくてな……」
おかげで若干人付き合いが悪くなってしまっているが許せ。
というか学校に来て最初に声をかけられるのが男子というのがまたね、別に女友達がいないわけじゃないんじゃよ。
そうだ、コミュニケーションついでにこいつらに俺のイメージについて聞いてみるのもいいか、だいたい返答は予想できてるが。
「なあ、俺ってお前らから見てどんなイメージだ?」
「なんだいきなり」
「いいから答えろって」
「なんだ、コレか?」
「そういうのは男に言え」
だから小指たてんじゃねーよ、俺は女だ。
不本意甚だしいが学校じゃ女子の制服着てるだろうが。
「んー、まあやっぱ付き合いやすいな、そこらの男子より話しやすいし、しかも頭いいし」
「おつむの出来は生まれつきだ、悪いな」
「うっせーよ!あとは……まあ、普通に可愛いんじゃないか?」
しかしやっぱり周りのやつらに聞けば子供っぽいとか男っぽいという意見が多い。
他にアピールできる点といえば運動が得意ということだが、正直真さん達にかなうとは思えない。
……もう普通に撮影でいいんじゃないかこれ。
「まあ参考になったよ、サンキュー」
「役に立ったんならいいがなんでまたいきなりこんなこと聞いてんだ?」
「まだ内緒だな、そのうちわかるかもな」
「なんだよもったいぶりやがって」
まだ仕事もないのに「俺アイドルになったんだ」なんて言って、無名のまま埋もれたら恥ずかしすぎて死んでしまう(二連続二回目)。
逆にある程度有名になればわざわざ宣伝しなくてもクラスの誰か、例えばドルヲタの田中君あたりが気づくこともあるだろう。
……そう言えばアイドル始めたことって学校に報告しなきゃいけないよな、仕事で休むこともあるって話だし。
一応校則を確認した限りでは問題はなかったはずだし、事後報告になってしまうが後日改めて律子さんと相談してから話しに行くとしよう。
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さて、あれからレッスンスタジオと学校、自宅の往復をしている間に気づけば金曜日の夜。
そうだ、もう明日が撮影だ。
やっべぇよおい、何も考えてねぇ。
いや、考えていないというと語弊がある、考えてはいたが思いついていないというのが正しい。
実際聞いて回った結果が「男っぽくて親しみやすい」「子供っぽい」「カッコイイ」といった意見がほとんどであり、俺の考える『魅力』というものとはかけ離れたものだった。
中には可愛いとか言ってくれた人もいたが、ただ可愛いだけなら俺より姉さんの方が可愛いし、何より売りにできるほどではないと俺は思っている。。
ここはやはり姉さんに相談するのが一番か。
そうと決まれば姉さんの部屋の前に行ってドアをノックする。
「姉さん、時間いいか?」
「夏美、どうしたの?」
「明日のことでちょっと相談をさ、入っていいか?」
「うん、いいよ」
姉さんの部屋は相変わらずピンクを中心にまとめられた可愛らしい部屋だ。
俺の部屋か?壁紙もカーテンもそしてベッドのシーツも全て白で統一されてるぞ、無印良品っていいね。
「明日のことって撮影?」
「うん、どうも俺の魅力ってのがよくわかんないなってさ」
結局どうしたらいいのかわからないままこうして無為に時間が過ぎてしまった。
そもそも、どういったものが魅力と言えるのかがわからないのだが。
「うーん、私は普段通りでいいと思うな」
「普段通り?」
「うん、いつも女の子っぽくしなさいって言ってる私が言っても説得力ないかもしれないけど、でも普段の飾らない夏美の姿ってすごい魅力的だと思うよ」
「飾らない姿か……」
普段の飾らない姿と言われてもいまいちピンとこない。
自然体の姿が一番ということなのはわかるのだが、それこそ男っぽくてアイドルといった感じじゃないと思うのだが。
「私、ずっと自分がアイドルになるまでアイドルってもっと遠い人たちだと思ってたんだけどね、でもこうやって765プロに通うようになって、そんなことはないんだってわかったの」
「どういうことだ?」
「みんないい人だし、それにやっぱり歳の近い普通の女の子なんだって、だから身近に感じるような親しみやすい雰囲気っていうのは、十分夏美の魅力なんだと思うよ!」
「親しみやすさか……」
それは、考えたことなかったな。
アイドルといえば容姿であったり性格やキャラクターといったような個性こそ魅力であると思っていたが、確かに姉さんが言うことももっともだ。
相手がアイドルだからこそ、親しみの持てる雰囲気というのは魅力になる。
それを写真で相手に伝えるにはどうしたらいいか、これはこれでまた別問題だが、ひとまず自分の魅力という問題については片付いた。
やはり身内というのは心強いものだ。
「ありがとう姉さん」
「ううん、力になれたみたいで良かったよ」
俺は俺らしく、か。
そう思えば難しいことは何もないな、つまりいつも通りでいいってことだ。
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「「おはようございます」」
私が自分のテーブルで雑務を片付けていると、二人の少女の声が聞こえてきた。
まだ始業時間に余裕があるこの時間から来るのはおそらく春香と夏美だろうかと顔を上げれば、やはりその二人が来ていた。
「おはよう二人共、宣材写真についてどうするか決めてきた?」
今日はこの二人の初めての仕事と言っても過言ではない宣材写真を撮影する日、一時的とは言え二人のプロデューサーとしてどうしても心配してしまう。
二人共なんだかんだしっかりしているし、夏美もうちのアイドルたちに聞いて回るなどして、ある程度対策を立てているみたいだし大丈夫だろうけど。
「はいっ、できるだけおしゃれしてみました」
そう言ってその場で回る春香は桜色のワンピースを着ていて、彼女の雰囲気にしっかり合っていて可愛らしくまとまっている。
あまり強烈な個性というものを持たない彼女だが、それ故にあらゆるものが特別である芸能界において普通という個性を持って多くの人に親しまれるアイドルになることができるだろうと私は思っている。
「俺は……まあいつも通りだな」
そう言う夏美の格好は本人も言っていたようにいつも通りの服装だ、ダメージジーンズに無地のTシャツを着ていて、特別おしゃれをしているという感じはないが、それでも彼女の雰囲気にしっかりとはまっている。
Tシャツやジーンズから見える健康的な素肌もまた彼女の魅力だ。
その飾らない雰囲気こそが私の思うに765プロに当たり前のように受け入れられ、そしてこれからファンになるであろう人たちを引き寄せる力なのだと思う。
「うん、二人とも大丈夫そうね、後でまた言うけど撮影は午前中で移動はタクシーを使うわよ」
「はい」
「わかりました!」
連絡を済ませれば各々自由に時間を潰す、夏美はいつものようにニュースを見ながら新聞を読み、春香は携帯でメールやブログを確認している。
時々思うのだがやはり夏美はどこかズレている。
この時間帯テレビでニュースしかやっていないのはわかるのだが、新聞まで読む中学生などほとんどいないだろうに、だというのに亜美真美の二人と一緒にゲームをやっていることもよくある。
しかもやたら古い漫画やゲームに詳しいときた、まあそれも個性であるからいいのだが。
デビュー後の活動を考える上で一番頭を悩ませているのが何を隠そう夏美だ。
彼女が最も得意としているのはダンスなのだが、もちろんダンスだけが仕事というわけではない。ビジュアル面も素材がいいのでCMで起用するというのも面白いか、もしくは得意な運動を前面に押し出してスポーツ系のバラエティに進出させるのもいいかもしれない。さっぱりとした雰囲気でハキハキ物怖じなく会話できる彼女はひな壇に置いても心配がない。
出来ることが多くて悩んでしまうというのは嬉しい悲鳴か、本当にこの子の将来は楽しみだ。
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今日は宣材の撮影ということで俺にしては珍しく真面目に服を考えてみた。
その結果がいつも通りだったわけだが……
いや、言い訳をさせて欲しいのだが、今までおしゃれにさほど興味のなかった俺がそんな突然ちゃんとおしゃれできるような服を持っているわけがないという点をしっかり理解して欲しい。
そして持ってる中で、できる限りのお洒落を考えた結果が、いつも通りジーパンにTシャツだったというわけだ。
だが朝は姉さんに、ついさっき律子さんにもOKをもらったことを考えるに、これで問題ないということだろう。
あとは余計な緊張をしないように過ごすだけだ、姉さんはさっきからもう緊張でガチガチになってるが。
「お、なっちーハロハロ~」
「なっちー今日はいちだんとおしゃれっすなー」
「おっす、おしゃれってほどのもんじゃないだろ」
ソファーに座ってのんびりしていると亜美と真美が出勤してきた。
ここ最近事務所で何もしてない時間はこの二人とゲームをしたりしていることもあって、事務所の中じゃ特に仲のいい二人だったりする。
そして、さっきも思ったが俺はおしゃれなんてしていない、強いて普段と違うところを挙げるとすれば姉さんに教わって少しだけ化粧をしてみたといったところか。
それだってフェイスパウダー?とやらを付けて肌を整えたくらいで、あとは口紅を薄く塗っただけだ。
「いやいや、見違えるくらい綺麗になってるよ」
「うんうん、これが大人のみりきってやつですな!」
「魅力な、それと一歳しか違わないからな」
「えー、でもなっちーめっちゃ身長高いし」
「いつも一緒に遊んでるのにやたら大人っぽいし」
「「ずるいぞなっちー!」」
「俺に言われてもなぁ……」
子供の頃は誰しも大人になりたいと思うものだというのは身をもって理解している。
ただ、どれだけ大人になろうとしても、子供がなることができるのは、せいぜい大人になろうと背伸びしている子供程度であることも分かっている。
どれだけ斜に構えたとしても、本当に精神が成長するには相応の時間がかかるのだから、仕方ないことなのだ。
もちろん個人差や俺のようなイレギュラーもいたりするが、それこそイレギュラーを除けば誤差の範囲だと思うけれど。
「ふ、ふんっ、私だってあっという間に夏美なんか目じゃないくらいセクシーで大人なレディーになるんだから!」
「お、伊織おはよう」
「「いおりんオッハー」」
亜美たちとじゃれてるうちにいつの間にやら伊織が出社していたらしく、いつものようにうさぎを抱えて俺の後ろに立っていた。
大人なレディーと言っても似合う似合わない以前にこいつらはまだまだ中学生なのだから無駄に背伸びする必要もないと思うんだがなぁ。
「でもまぁ……その、なにか成長するコツとかあれば聞いてあげなくもないわよ」
「コツねぇ……」
「真美も知りたい!」
「亜美も亜美も、成長してボンキュッボーンのダイナマイトボディーになって全国の兄ちゃん達をメロメロにするのだ!」
俺が普段してることってなんだろうか。
朝おきて牛乳飲んで飯食って、学校行って牛乳飲んで飯食って、帰ってきたら適度に運動して牛乳飲んで飯食って、風呂入って牛乳飲んだら柔軟して寝る。
うん、至って普通のことしかしてないな。
最近はレッスンもあって運動量は多少増えたかもしれないが。
ちなみになんでこんなに牛乳飲んでるのかというと細かいことは割愛するが体を鍛える上で必要な栄養素がいろいろ詰まった素敵飲料だからだ、好きな飲み物だというのもあるが。
「ちゃんと飯食って牛乳飲んで運動するくらいかな」
「えぇ……めっちゃ普通じゃん!」
「そう言われたって俺も特別なことはしてないしなぁ」
「じゃあミキミキはなんなのさ、ゼッタイ自分から運動するよーなタイプじゃないよ!」
「あー、美希か……」
確かに普段からやる気なさそうに事務所で寝てるし、好んで運動するタイプじゃないか。
というか、俺はそんな成長とかにまで詳しいわけじゃないのだから、俺に聞かれても困る。
「体質、かな?」
「うあうあー、そう言われたら真美たちどうしようもないよー!」
「もうっ、変なこと知ってるのに肝心な時に役立たないわね!」
「いや、俺に文句言うなって」
確かにいろいろ本当に必要なのかと自分で疑問に思ったり、中学生で知ってるのも不自然なネタだったり知識を知ってたりするが、別に何でも知ってるわけじゃないのだ。
だから役に立たないというのは言いすぎじゃないのかね。
ただ、朝から騒がしい奴らだとも思うが、多少なりともしていた俺らしくない緊張も自然と溶けた。
多分、こいつらのことだから意識してやってたなんてことはありえないと思うが、こういう自然と温かくなるような雰囲気が、俺はとても気に入っていた。
「ありがとうな」
「はぁ?役立たずって言われてありがとうってあんたもしかして変態なの?」
「うわー、なっちー流石にそれはないわ」
「真美もドン引きだよ」
「少し前まで感動していた俺のピュアな気持ちを返せ」
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あれからしばらくして俺と姉さんは律子さんに連れられて都内のスタジオを訪れていた。
初めて入った撮影スタジオというのは、俺の想像以上に配線や撮影に使うのであろう小道具が隅っこに積まれてごちゃっとしていて、なんだか今まで知らなかった世界を覗いているようで妙なワクワク感があった。
「なんか、スタジオって思ったよりいろいろあるんですねぇ、イメージ的にはもっと綺麗に片付けられてるイメージでしたよ」
「そうかしら、これでもセットとかないし結構綺麗な方だと思うけど」
いろいろと気になるものが置かれているスタジオを見学して回る。
えっと……これは衣装か、いろいろあるんだなドレスに和服……なんでスク水?
果てはなぜか宇宙服みたいなものまで転がっていたが、あれは一体何に使うんだ、特撮か何かでもやるのか。
なんて俺が興味あるものを見て回ってる間姉さんはというと用意された椅子に座ってガチガチに緊張していた。
「姉さんいくらなんでも緊張しすぎじゃね?」
「だ、だってこんな経験初めてだし……」
「そんなこといたら俺だって初めてだ」
「じゃあなんで夏美はそんなに落ち着いてるのよ~」
なんで落ち着いてるって言われたって、そりゃ初めてだからこそ緊張してないんだがなぁ。
「だって、初めて撮影するんだから、何がダメで何がいいのかわからないし、緊張も何もないよ」
「わからないから、緊張しない?」
「うん、良いも悪いもわからないから、そら失敗だってすると思うけど全部俺だけでやるわけじゃないし」
姉さんは納得してないみたいだけど、俺の感性がおかしいのかね?
俺はアイドルについて素人だから何もわからない、だから何が失敗だかわからない、失敗を知らないから、怖くない。
本当にただそれだけだったりする。
別にあらゆることについてそうというわけではない、前世の初プレゼンとか吐くほど緊張したし。
というよりかは、ただ精神年齢的にそういうのに慣れてるだけかもしれないが。
もちろん初めてやる、という行為自体に多少の緊張はあるが、それだって今朝のやり取りでだいぶ楽になっている、決して緊張を全くしないわけではない。
むしろある程度仕事についてわかってからの方が緊張はやばい。
絶対に失敗できないポイントというのを理解してしまったあたりから俺でも流石に緊張する。
「わからないから、怖くない……か」
「うん、まあ落ち着くまで待ってなよ、俺先に撮影してきちゃうからさ」
そう言って律子さんの方を向くと律子さんもこっちを見て頷いていた、どうやら準備が出来たらしい。
「じゃ、行ってくるわ」
そう姉さんに言って俺は撮影用のセットまで移動する。
結構眩しいかと思ったが、ライトを直接当てられてるわけじゃなく反射させたものは柔らかい光で全然眩しくはなかった。
「天海夏美です、よろしくお願いします」
「はい、よろしくね~」
カメラマンさんがカメラを構えて俺をレンズに映す。
本当はすぐにポーズを取るべきなのだろうが、俺は俺らしくと決めたから、俺らしい行動をとる。
「すいませーん」
「ん、どうしたの?」
「俺こういうこと初めてなんで、どうやったらいい感じで撮影できるかなーって」
わからないことはとりあえず聞く、これが一番よ。
わからないはわからないなりに頑張るというのはもちろんいいことだが、それでなにか間違うくらいなら、俺はちゃんと知識ある人に聞いてしっかりしたやり方を学ぶのが一番だと思ってる。
変な癖がついちゃってあとから治すのとか大変だし。
「ああ、そういうことね、じゃあそうだな……もうちょっと体斜めにして、顔だけこっち向けてくれる?」
「こんな感じっすか?」
「そうそういいね、じゃあそのまま笑顔でねー」
出来る限りカメラマンさんに言われた通りのポージングをして撮影してもらう。
さすがプロのカメラマンだけあってどうすればその人が魅力的に映るのか理解していて的確な指示を出してくれて撮影しやすい。
しばらくカメラマンさんの声とシャッターを切る音だけがスタジオに響いていた。
「うんうん、いい感じだ、これで大丈夫かな」
「あ、それじゃあ最後に」
最後のこれはネタだが、せっかくだしやってみたかったんだよねぇ。
足を肩幅に開いて腕を組み、不敵な笑顔でカメラ目線!
「おっ、それもいいね、そいつも撮っとこうか」
これぞガイナ立ち!
いやー、やってみたかったことの一つが無事消化できて満足ですわ。
前世のおっさんがやるよりもやっぱり今の容姿の方が似合うよねー、今ならイナズマキックとか出せそうな気がする。
今度宣材写真届いたら見せてもらお。
「お待たせ姉さん」
「あ、うん、なんかすごいあっさり終わってたね……」
「な?結構いけるものなんだって、緊張するなとは言わないけどさ、気楽にやろうや、俺なんかより姉さんの方がずっと可愛いんだしさ」
「もう、言いすぎだよ夏美」
そう声をかけた時の姉さんはさっきまでに比べてよっぽど緊張が抜けていつもの姉さんにだいぶ近づいていた。
うんうん、やっぱり姉さんも自然体の方がよっぽどいいと思うわ。
「よろしくお願いしまーって、うわわわっ……!」
あー、うん、いつも通りでもあの転び癖はどうにかしたほうがいいと思うわ。
@
うー、せっかく夏美の前でいいとこ見せようと思ったのにまた転んじゃった……
でも……よしっ、切り替えて行こう!
夏美があんな風にちゃんと撮影できたんだからお姉ちゃんの私がしっかりしないと!
「天海春香です!よろしくお願いします!」
「はい、よろしくねー」
えっと、夏美はカメラマンさんにポーズの指示をもらって撮影してたよね。
夏美はすごいなぁ……私はそんなこと全然思いつかなかったし、思いついて臆せずにすぐに実行できる行動力も羨ましいよ。
「あの、私もこういうの初めてで……」
「あぁ、わかった、それじゃあそうだね──」
カメラマンさんの指示に合わせてポーズをとって写真を撮ってもらう。
たったそれだけのことなのに初めてアイドルになったんだーっていう嬉しい気持ちがいっぱいになる。
これからどんなことが待ってるのかな?
ライブでステージに立って歌ったり、あの歌番組に出演したり、夏美と姉妹ユニットとか組んだりできるのかな。
なんだかすごく楽しみになってきたなぁ。
よーし、頑張るぞー!って、あ、足が引っかかって……!
うー……また転んじゃったよぉ……
しかもタイミング悪いことに写真まで撮られちゃって、とほほ……
@
私が出社すると律子くんが机でいくつかの写真を見て真剣な顔をしていた。
「おお、律子くん写真届いたのかね」
「あ、社長おはようございます、そうなんですよ、二人分の宣材写真が届いたんですけど、どれもなかなか綺麗に撮れててどうしようかと思って」
「ほうほう」
律子くんが机に広げていた写真を覗かせてもらったが、うんうん、どれも綺麗に撮れているねぇ、とても初めての撮影とは思えないできだよ。
「ただ、どれも捨てがたいというか、なかなか決められなくって……」
「うーむ、確かにこれはなかなか……おっ?」
おぉ、正しくこの写真、これだよこれ!
あの子達の個性を写した非常に素晴らしい写真があるじゃないか!
「うむ、
「え、えぇ……これですか?夏美の方はともかくとして……」
「いや、これほど素晴らしい写真はそうそう撮れんよ、いやー、今回のカメラマンはいい仕事をしてくれるねぇ」
「まぁ、社長がそうおっしゃるのでしたら……」
「夏美くんのガイナ立ち、彼女になんともにあっているじゃあないか!ハッハッハ」
「ただ、春香の転んでる姿というのはちょっと……」
キャラクター同士の絡みを書くのって結構難しいですね。
キャラを崩さないように自然に会話させられるすべての作者様に敬意の念を。
というか自分のに限らず魅力ってどういうのを言うんだろうって今回書いててすごい思いました。
人を惹きつけるものだとは思うんですけど、よくよく考えると人それぞれの感性なんだなと思うと、なかなか夏美の魅力ってなんだろうって随分苦労しました……
おかげで本文めちゃくちゃになってるような気も(汗)
なかなかにむつかしい話題です。
ちなみに夏美の一日の行動の元ネタはアンサイクロペディアに嘘をかかせなかった男、ソ連人民最大の敵ルーデルさんの一日。
それではまた来週(間に合えば)お会いしましょう。