二人のリボンは姉妹の印~騙されてアイドル活動~   作:霞身

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みなさまこんにちは、感想がもらえるのが嬉しくてひとつずつGOODしてる作者です。
前回に比べ少しお待たせしてしまったかもしれませんが第二話になります。
多分これからは週一位に落ち着くものと思います。
というか気がついたら日間と週間ランキングに載ってたんですね、驚きです。
7000~8000文字くらいを目標に書いてるのに気づいたら10000字目前だった。
書きたいこと書いてるうちに気づいたらこんなことに……
ハッ、これは後半ネタがなくなる予感……!


第二話:自信あって初レッスン。

 あの歓迎会から翌日の朝、俺は二つ仕掛けた目覚ましの時間差攻撃によってどうにか起床予定時間に目が覚めた。

 くそ……初日からふけるなんて流石にプライドが許さないから布団から出ねば……しかし、まだ眠い……

 もぞもぞとしばらく己の欲望と理性とプライドとを戦わせてどうにか理性軍が軍配を上げたので、布団を抜け出し床に足をつける。

 一度布団から出てしまえば、まだ若い俺の体から眠気はある程度出て行き、軽いストレッチも済ませると頭の中がスッキリとしていた。

 気分が重いことに変わりはないが。

 ひとまずいつものように身だしなみを整えて荷物の準備をする。

 今日はレッスンもあるのでジャージを持ってくるように言われていたから、タンスから上下揃った山吹(サンフラワー)色のジャージを取り出す。

 体力づくりにハマってる俺のお気に入りの一つで最近愛用しているものだ。

 なんとなく明るい色なのと某波紋と同じ色なのが気に入っている。

 そんなジャージと替えの下着をバッグに詰めて財布とスマホも放り込んだらバッグを持って一階へと降りて台所へ向かう。

 流石にこんな時間から母さんを起こして料理をしてもらうわけにはいかないので、今日は俺が朝食を用意する。

 一応母さんにも前日のうちに言ってはあるから食材は大丈夫だろう、もし足りなくなっても父さんの朝食がコンビニ飯になるだけだ。

 ちなみに、お菓子づくりはやったことがないため姉さんにはかなわないが、料理ならある程度できる。

 (前世で)一人暮らししてたこともあって、そこいらの同い年の女子よりは料理ができるし、たまに自分で弁当も作っていたほどだ。

 内容もやっぱり男っぽいし、早起きなんかしたくないから極稀にだが。

 ただ、今日は初めてのレッスンでもあるし、ある程度がっつり食べて体力を付けた方がいいだろうか。

 ひとまずお味噌汁に使う具材を切り分けながらさっきみた冷蔵庫に何があったかを思い出す。

 ガッツリといってもあまり重いものだと動けなくなるし、簡単な野菜炒めと、確か昨日の夕食のあまりでひじきの煮物があったか。

 流石に納豆は出せないしこれくらいでいいか、俺は多分もう少し食べるが。

 メニューが決まればパパっと具材を鍋に入れて味噌も入れておきながら、材料を取り出して調理にかかる。

 やはり野菜炒めはいい、特に難しいことも考えず自分好みの味付けにして、ぱぱっと炒めればそれだけでご飯が進む魔法の料理だ。

 そんなことを考えながら俺が料理を作っていると少し遅れて姉さんが降りてきた。

 

「あ、夏美おはよう、朝ごはん作ってるの?」

「姉さんおはよう、今日のメニューは野菜炒めに白米、お味噌汁とひじきの煮物だ、おかわりはお好みで」

「いや、結構多いと思うんだけど」

「そうかな?」

 

 俺的にはこれくらいじゃ足りないから卵かけご飯でもう一杯食べるつもりだったんだが。

 うーん、でも確かにあまり食べ過ぎると動いて気持ち悪くなってもいけないし、今日は少し控えるとしよう。

 

「男の子でもそんな食べないんじゃないかなぁ」

「そんなまさか」

 

 でも確かに最近の子供は朝食を食べないとも聞くしなぁ、意外とそんなものなのだろうか。

 ひとまず野菜炒めも完成して味噌汁の火も止めてこれで朝食は完成だ。

 

「姉さん、配膳手伝ってくれ」

「はーい」

 

 皿に盛り付けた野菜を姉さんがテーブルに持って行ってくれているうちに、俺はさっさとフライパンを洗って火にかけて水分を飛ばしてしまい片付ける。

 こうすると錆びにくくていちいち錆落とししなくて済むから少し楽になる。

 

「相変わらず夏美って変なとここだわるよね」

「いいじゃんか、役に立ってるんだし」

 

 実際こう言う細かいことをするとしないでのちのちのお財布の厚さが違うのだ。

 例えばさっきの例になるがフライパンがすぐに錆びてしまえば錆落としをする回数が増えて自然とフライパンを交換する回数も増えるし、夏場はエアコンをかけるのではなく窓を開けて窓際に扇風機を置けば熱い空気を追い出して涼しい空気を呼び込めるから電気代が浮く。

 こういう小さな積み重ねこそ大事なのだよ。

 友人たちは残念ながら分かってくれないが、母さんは出来た子だと褒めてくれる。

 全国の主婦は間違いなく俺の味方なのだ。

 

「いや、そんな力説されても……それよりご飯食べようよ」

「そうだな、いきなり遅刻なんてしたらシャレにならないし」

 

 どうやら姉さんが理解してくれるのもまだ時間がかかるようだ……大丈夫だ姉さん、俺がちゃんと立派な嫁に、主婦になれるよういろいろ叩き込んでやろう。

 とまあひとまずそれは置いておいて時間が結構ギリギリなのもまた事実、とりあえず足りなそうならコンビニでおにぎりでも買うとしよう。

 ささっと朝食を食べ終えた俺たちはスニーカーを履いて再び二時間の通勤へと移った。

 

「今日のレッスン楽しみだね、何やるのかな?」

「やっぱり最初はボイスレッスンとか基本のステップとかじゃないか?いきなり曲を歌ったり踊ったりは難しいだろうし」

 

 真美たちもまだ最近入ったばっかりでボイトレとステップの練習ばかりで飽きてきたって言ってたし、多分そうだろう。

 というか基礎ができないうちにいきなり応用になる歌やダンスをするのは危険だしやはり最初は基礎練習だろうな。

 あとは筋トレだったり柔軟だ、怪我をしてしまっては意味がないからこう言う基礎を固めるのは運動系には必須だろう。

 

「私も自分の持ち歌とかもらえるのかな!」

「そりゃさすがにまだ先だろ、うちのアイドルで持ち歌持ってる人って居たっけ?」

「えっと……確か千早ちゃんって子がもう持ち歌もらって練習中だって聞いたよ、とっても歌が上手なんだって」

「へぇ、まだあの事務所出来たばっかりだって聞いたけどもう曲なんて出せるんだな」

 

 確か社長によると昔は社長と律子さんに音無さんだけの小さな事務所で、最近律子さんのプロデューサー転向と同時に数人のアイドルを集めたって言っていた。

 そんな出来て数年程度の事務所でこれだけアイドルを抱えてちゃんと仕事や曲を用意するとは意外と社長は敏腕だったりするのだろうか。

 でも確か俺が聞いた限りでは中学生組はまだ持ち歌を持ってる奴はいなかったはずだし、その千早さんって人が特別歌が上手いか早期に入社してたってことか。

 俺の持ち歌か……できれば可愛い曲じゃなくて激しめのカッコイイ曲のほうがいいな、可愛い歌を歌って可愛い振り付けのダンスを踊る自分の姿など想像できないししたくもない。

 でも、やっぱり自分専用っていうのはロマンだよな赤い機体然り。

 

「うーん、今から楽しみ!」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 まだ三度目だが随分と通勤にも慣れてすっかり見慣れたおんぼろビルの階段を上り事務所の扉を開く。

 

「おはようございまーす」

「おはようございます」

「あら、春香ちゃんに夏美ちゃんおはよう」

「おはよう、この時間に来るなんて感心ね」

 

 そして事務所の奥にあるアイドルたちのたまり場というか休憩室に向かう。

 遠いが故に時間的余裕を持って行動している俺たちより先に来ていたのは事務員の音無さんと律子さん、アイドルでは髪の長い……確か千早さんだけだった。

 

「千早さん、おはようございます」

「千早ちゃんおはよう!」

「あ……えぇ、おはよう」

 

 うーん、やっぱりなんとなくとっつきにくい感じがする。

 とはいえここ以外は会議室くらいしかないので俺は千早さんの向かい側のソファーに腰掛けて時間までの時間潰しをすることにした。

 とは言ってもすることはほとんどない、スマホでメール確認して適当にブログを確認したら他にすることはなくなった。

 一応朝食用に買ってきたおにぎりだが思いのほか空腹感もないのでお昼にでも食べるとしよう。

 さて、暇になってしまったわけだが。

 千早さんに声をかけようかとも思うけどなんというか、人を寄せ付けないというかそんな雰囲気があってどうにも話しかけづらい。

 なにせあのおしゃべり魔こと春香姉さんすら声をかけあぐねているほどだ、俺に声をかけられるわけもなかろう。

 だから姉さん、その何かを期待するような視線を寄越すのはやめてくれ、中身が男なのと男らしい無謀さを持つのとはまた別なのだ。

 

「……律子さん、新聞ってあります?」

 

 仕方ないから姉さんの訴えを無視して自分なりに時間を潰すことにした。

 姉さんが「この薄情者ー!」とでも言いたげな顔をしているが俺は知らん、まだ入社して二日なのだから俺はこれからゆっくり歳が近い子達から仲良くなっていけばいいのだ。

 

「新聞ならあるけど……もしかして読むの?」

「読む以外じゃ折り紙にするくらいしか思いつかないですけど、俺は普通に読みますよ」

 

 律子さんが自分のデスクに置いてあった今日の朝刊を渡してくれる。

 なんというか心外だ、別に俺だって新聞紙でクラッカーを作って遊ぶのは前世の小学生で飽きた。

 

「へー、なんと言うか意外ね」

「まぁ周りにも言われますけど、結構面白いと思うんですけどね……うわ、また横浜負けてる……」

 

 新聞を読むのはひとえに前世の癖としか言い様がないが、やっぱり多少はこういったニュースを頭に入れておきたいと思う気持ちもあるので今までも家で毎日新聞を読んでいた。

 ついでにチーム名こそ前世と違えど前世から引き続いて地元の名を冠している横浜の球団を応援しているのだが悲しいことにこっちのセ界でも横浜は勝てない、なぜだ。

 ひとまずスポーツ面も見終わったし今度は一面から読んでいく。

 特にめぼしいような記事もないが平和というのは良いことだろう。

 そしてしばらく新聞を読んでいると再び事務所の扉が開く音がする、誰か来たみたいだな。

 

「おっはようございまーす!」

 

 この元気いっぱいな声はやよいかな?

 朝から元気いっぱいでよろしい、こっちまで元気が出てくるよ。

 

「あ、夏美ちゃん春香さんそれに千早さんもおはようございます!」

「うん、やよいもおはよう」

「おはようやよい!」

「おはよう、高槻さん」

 

 やよいにはちゃんと笑顔を向けて挨拶するのか、当然といえば当然か、やよいだし。

 しかし千早さんと信頼関係を築くのはやっぱりまだ難しいか。

 いいのだ、俺にはやよいがいるから。

 昨日一日しか会話したことないけど俺にはわかる、この子は……天使だ。

 気遣いができて、人のことをよく見ていて、そしてとてもお姉さんなのだ。

 俺にもこんな姉さんが欲しかった、別に春香姉さんが嫌というわけではなく、べったり甘えさせてくれてお世話してくれる姉が欲しかった……

 聞いた話ではとても難しい家庭環境でたくさんの弟や妹の世話を見てきたのだからそれはもう大変だったろうに、よくぞこんなにまっすぐ育ってくれた。

 

「はぁ……やよいはかわいいなぁ」

「う?夏美ちゃんもとってもかわいいですよ!」

 

 思わず抱きしめてしまったとしても誰にも咎められないだろう、やよいは天界が地上に遣わした天使に違いない。

 

「さすがやよいちゃんね、たった一日で夏美ちゃん陥落とは……」

「まあ、抱きしめたくなるのもわかるんですけどね」

 

 やよいを足の上に乗せてのんびりしていると続々とアイドルたちが出社してくる。

 

「お、なっちー早速やよいっちに落とされてますな」

「うるせー、この可愛さに勝てるわけないじゃないか」

「うむうむわかるよなっちー、やよいっち(かわいいい)は正義なんだよね」

「う?」

 

 周囲の会話についていけてないやよいもかわいいなぁ。

 俺も結婚して子供がいたらこんな子に育ってくれただろうか……あ、ダメだオタクになるビジョンが見える。

 

「あふぅ……みんなおはようなの」

 

 最後に出勤してきたのは美希だった。

 俺より事務所に近い場所に住んでいて俺より寝る時間もあるのに眠そうとは羨ましいやつめ。

 美希はまっすぐ休憩室に来ると俺のすぐ横に腰掛けて俺に体を預けて寝息を立て始めた。

 

「おやすみなさいなの……」

「寝るの早いなおい」

「あらあら、美希ちゃんは相変わらず気持ちよさそうに眠るわね」

「美希っていつもこんな感じなんですか?」

 

 肩に頭を乗せてすぅすぅと気持ちよさそうに寝息を立てて眠る美希。

 見てるとこっちまで眠くなってくる……おのれぇ。

 

「そうねぇ、事務所にいる間はいつもこのソファで寝てるかしら」

「どんだけ寝るんだ美希は……」

「寝る子は育つというし、そういうことじゃないかしらね」

 

 確かに、美希は中学生とは思えないほど成長している、主に胸周りが。

 俺は周囲の平均より小さいが代わりに縦に伸びてるから気にしない、胸とかあっても重いだけだし、せっかく女子に転生したのにとか思ってねぇし。

 ひとまず気持ちよさそうに眠る美希を起こすのも可哀想だしそのまま寝かしておくことにする、どうせもうすぐしたら今日の業務連絡の時間だし律子さんが起こしてくれるだろう。

 それにそれほど重いわけでもないから問題ないし、美希はいい匂いがして役得というものだ。

 

「はいはーい、それじゃあ今日の連絡するからこっち集まって」

 

 事務スペースの方から律子さんの声が聞こえてくる。

 時間が来たからやよいには一足先にそっちに行ってもらい俺は美希を起こすことにする。

 

「おーい美希、時間だぞ時間」

「うーん、あと五時間だけでいいの……」

 

 テンプレ的な苦情かと思ったら予想の六十倍の時間とは恐れ入ったぞ美希。

 だが遅れれば怒られるのは美希だけじゃなくて俺もだし、かと言って放置していくというのも気が引ける。

 というわけで根気強く起こすしかないか。

 

「んなこと言ってないでいくぞ、律子さんが呼んでんだ」

「じゃあ抱っこして行って欲しいの……」

 

 ほう、言ったな?

 これでも体を鍛えている俺に向かって抱っこして行けと申したな?

 

「仕方ないな」

「うん?」

 

 片手で上半身を支えるように背中から肩にかけて持ち上げ、空いている方の手を美希の膝下に入れて持ち上げる。

 いわゆるお姫様だっこというやつだ。

 一度やってみたかったんだよなこれ、前世からの夢のひとつがこうして叶った!

 

「な、夏美?」

「なんだ、美希が抱っこって言ったんじゃないか」

「そ、そうだけど……これは恥ずかしすぎるの!」

 

 じたじたと降りようとする美希に仕方なく床におろしてあげる。

 もう少しやっていたかったんだけどなぁ。

 

「あら、美希がちゃんと起きてくるなんて珍しいわね……なんで顔赤いのよ」

「な、なんでもないの!」

 

 美希に遅れるように俺も事務スペースに行く。

 そこにかけられたホワイトボードは悲しいほどに真っ白だ。

 

「さて、それじゃあ今日の予定だけど、午前中は全員トレーニングで午後から千早はレコーディングよ」

「それはつまり真美たちはいつも通りということだね律っちゃん」

「……まぁ、そういうことね」

「うあうあ~亜美たちもお仕事したいよ律っちゃーん」

「あのね、まだあなたたちは基礎を固めてるところなの、千早の歌は既に十分通用するレベルだとトレーナーと相談した上でのレコーディングなのよ」

「でもでも律っちゃん」

 

 まぁ真美たちの言うことも分からんでもないが、やっぱり厳しいな。

 ただアイドルの候補生になれば歌が貰えるというわけではないし、合格した上でさらにトレーニングを積まなくてはならないのか。

 何より俺は本当の意味で初心者だ。

 歌もダンスも何もやったことがない真っ白な状態からのスタート、さてデビューはどれくらいかかるやら……

 

「とにかく!今日もレッスンよ、春香はあずささんたちとボイストレーニングに夏美は真たちと一緒にダンストレーニング、場所はそれぞれついて行って覚えるようにね」

「はい」

 

 今日はダンストレーニングか。

 運動は得意な方だといった気もするからひとまずどの程度出来るのかの確認といったところか?

 姉さんも歌うのが好きだと答えていたしそれでボイストレーニングか。

 ただ、姉さん確かに歌うの好きだけど時々音外すし大丈夫かな。

 

「それじゃあ各自移動開始、はい散った散った」

 

 パンパンと律子さんが手を叩いて俺たちはそれぞれのレッスン場へと移動を開始した。

 確かダンストレーニングは真さんとって言ってたっけ。

 

「お、来たね、それじゃあ移動しようか」

「はい」

 

 みんなで事務所を出てレッスンスタジオを目指して移動し始める。

 今日ダンストレーニングを受けるのは俺の他には真さんと響さんに雪歩さんに美希と亜美真美の7人らしい。

 

「夏美って体動かすの趣味って言ってたけどスポーツは何かやってるの?」

「いや、時々ランニングに行ったり筋トレなんかはしますけど、部活に入ってスポーツやったりとかはしてないですよ」

「へー、そうなんだ」

「それじゃあ体力トレーニングとかは大丈夫そうだね、私なんか全然体力なくって……」

「大丈夫ですよ雪歩さん、最初は誰だってそんなもんですって」

「そうだぞ雪歩、自分だって最初からダンスが得意だったわけじゃないさー!」

「うん……二人共ありがとう」

 

 事務所から比較的近くにあるのか駅には向かわずに全員徒歩で向かっていた。

 その間にこの前話せなかった真さんや響さんに雪歩さんといった高校生のメンバーと親睦を深めていた。

 

「ねえミキミキ?」

「何?亜美」

「いや、なんでさっきからミキミキは亜美の後ろに後ろに隠れてるのかと」

「夏美……ううん、夏美ちゃんは油断ならないの、もしかしたら真くん以上に油断ならないの……!」

「いや意味がわからないんだけど」

 

 

 

 

 事務所から出て数分後、俺たちはレッスン場に到着していた。

 更衣室で私服からジャージに着替えて部屋に行くと既にトレーナーらしい人が待っていた。

 

「あなたが天海夏美ちゃんね、律子さんから聞いてるわ、ビシバシしごいてやってって」

「はは……お手柔らかに」

 

 一体何を言われたのだ律子さんに、確かに運動は好きだがダンスはど素人だぞ俺は。

 

「それじゃあ二人ひと組でひとまず柔軟、それが終わったら体力トレーニングね」

『はい!』

 

 トレーナーさんの指示で俺たちは二人ひと組に分かれて柔軟を始めたのだが今回人数は7人でちょうど俺が余る形となった、当然といえば当然であるが。

 そこで俺にはトレーナーさんがついてくれたのだが、この人容赦がない。

 

「へぇ、結構体柔らかいわね、普段から柔軟とかしてるの?」

「はい、風呂上りとかいてててて……!」

「うん、ここまでは大丈夫ね」

 

 くそっ、しょっぱなから飛ばして随分深いところまで押してくるな。

 普段から筋トレと一緒に柔軟はしていたから体は随分柔らかいと思っているがそれでもある程度以上行けば痛いものは痛い。

 開脚だって足を180度開いたりはできるがそこから体を倒すのはまだぺたっと行くほどはできないからそれ以上は痛い!痛いって!

 

「うん結構結構、これは楽しみな子が入ってきたわね」

「はは……ありがとうございます」

 

 柔軟も終えて体が温まったら今度は体力をつけるための筋トレが始まる。

 正直これは普段から家でやってるメニューより楽だ。

 腕立て腹筋背筋スクワットをそれぞれ20回2セットなら余裕だ。

 

「筋力も十分、確かにこれは鍛えごたえがありそうね」

「な、なっちー体力ありすぎだよ……」

「真美たちもうへとへとなんだけど……」

「わ、私もつらいですぅ」

「美希ももうしんどいの……」

 

 まあ予想はしていたがみんながみんな俺ほど体力があるわけでもないらしい、俺と同じようなタイムで筋トレが終わったのは真さんと響さんくらいだった。

 筋トレが終わるとついにステップの練習に入るのだが、これが曲者だ。

 最初は足の動きだけを見て覚えて真似をする、ダメだったらトレーナーさんに一箇所ずつ教えてもらってもう一度やり直す。

 足の動きができるようになったら今度は腕の動きを交えてできるようにする。

 といった風に段階に分けてやるのだが……

 

「そこ、さっきも言ったけど腕の動きが違う!いい加減にやらない!」

「足が逆になってるわよ!それじゃあ次のステップにつながらないでしょ!」

「今度は笑顔を忘れてる!そんな顔を観客に見せてるようじゃ仕事は来ないわよ!」

 

 といった具合に最初レッスンを始める前の親しげな感じと打って変わってめちゃくちゃ厳しい声が俺の耳を震わせる。

 俺が思っていたよりも……数段難しい!

 それも当然か、なにせ今やってるのは授業でやるような身内にだけ見せる踊りではなく観客からお金をとって見てもらうダンスのトレーニングなのだ、トレーナーはその商品を完璧に仕上げる義務がある。

 くっ……甘く見ていたわけじゃないがこんなにきついレッスンだったのか。

 しばらく経って小休憩に入ってすぐに俺は数歩後ずさるようにして尻餅をついて倒れ込む。

 周りも似たりよったりだがさすが真さんと響さんはまだまだ余裕がありそうな感じだ、美希については俺のようじゃなく単純にめんどくさくて横になってるだけだろうが。

 これが本物のアイドルと素人の違いか……

 

「はぁ……はぁ……さすが現役アイドルですね……」

「いやー、付いてくる夏美もすごいと思うよ、はいドリンク」

「うんうん、正直自分達についてこれるとは思ってなかったぞ」

 

 真さんにもらったスポーツドリンクを飲んでもう一度横になると今までランニングをしたりしたときよりよっぽど心臓の動きがばくばく言っている。

 どうにかついていくことができたが、それは本当にただついていったというだけで、技術として吸収できたかと言うとそういう訳じゃない。

 後半に関しては息も絶え絶えに気合いと根性で手足を動かしていたにすぎない。

 体力には自信があったつもりだが、ただ体を動かすのとダンスのステップでは根本的に体の動かし方が違うがゆえの経験不足と言うやつだ。

 

「夏美ちゃんナイスファイトよ!これならすぐにでも本格的なレッスンに入れそうね」

 

 これでまだ本格的ではないと申したか。

 ハハ、ワロス……

 

「はい休憩終わり!後半もビシッバシッ行くわよ!」

 

 明日は久々に筋肉痛だなこりゃ……

 

 

 

 

 どうにかこうにか午前のレッスンを終え昼飯時になったのだが、どうにもお腹が空かない。

 というよりは激しい運動の後でまるで食欲が湧かない。

 

「あれ、夏美はご飯食べないの?」

「ちゃんと食べないと午後のレッスン持たないぞ!」

 

 その横で美味しそうに昼食を食べてる真さんと響さん、えぇい765のアイドルは化物か!

 しかし食べないと体が持たないのもまた事実、朝買ったおにぎりくらいは食べておくか……

 

「……!おにぎりの匂いがするの!」

 

 さっきまで俺と同じように横になってた美希がおにぎりの包装を破くと同時にすごい勢いで起き上がる。

 え、おにぎり?おにぎりがトリガーなの?

 

「おにぎりが好きなのか?」

「うん、美希はおにぎりといちごババロアとキャラメルマキアートがあればあと10年は戦えるの」

 

 おにぎりってスゲェんだな。

 

「ひとつ食うか?」

「いいの?夏美ちゃんのお昼じゃないの?」

「まだあるし、それほど腹減ってないから」

 

 一応と思っておにぎりは三つ買ってきてあるから一つを美希に食われようともあと二つもあれば今の食欲はいっぱいになるだろう。

 ひとまずちょうど手に持ってた鮭おにぎりを美希に渡して俺は別のおにぎりの包装を破く。

 

「うーん、やっぱりおにぎりは最高なの」

 

 美味しそうにおにぎりを頬張る美希を眺めながら俺も昼飯を食べ進める。

 しかしいちごババロアとキャラメルマキアートはわかるがおにぎりが好きとは美希も変わってるな。

 まぁ幸せそうに食べているしいいか。

 食事が済めば一時間の休憩を挟んで午後からまたダンスレッスンが再開される。

 正直体力はもう限界だが最初から遅れるわけにはいかないし、いっちょ頑張るとしましょうか。

 

 

 

 

 日が暮れてアイドルたちは全員レッスンを終え、レッスンスタジオには私とダンスを担当してくれているトレーナーだけが残っていた。

 

「それでどうでしたか夏美は」

「それはもう素晴らしいわね!」

 

 わざわざ誰もいなくなったレッスンスタジオに顔を出したのは今日が初めてのレッスンになる夏美の様子を聞くためだった。

 どうやら普段から厳しいと評判のトレーナーをもってして将来に期待できるだけの内容だったらしい。

 

「まさか初日から真くんと響ちゃんのレッスンについてくるとは思わなかったわ、むしろ雪歩ちゃんたちの方がちょっとかわいそうなくらいね」

「それほどですか、夏美は」

 

 真と響と言えば765プロ(ウチ)において特にダンスが得意な二人組で今までいたメンバーでは本気を出した時の美希ぐらいしか比肩する子はいなかったのだ。

 その二人のトレーニングに最後までついていったのだからそのダンスの才能は押して図るべしといったところか。

 

「まぁもちろん最後の方はバテバテで気合でどうにか動いてるって感じだったけど、中学一年であれだけ運動ができるなんてもう特大のダイヤの原石ね」

 

 このトレーナーがここまでベタ褒めするとはもしかしたらとんでもない拾い物をしたのかもしれない。

 将来この事務所を支える重要な柱になるかもしれない夏美、その仕事は大事に選んであげないとね。

 

 

 

 

 

 

「そういえばお姉ちゃんの方はどうだったの?」

「あー……今後に期待って感じかしら」




夏美の初期能力については。
Da:22
Vi:20
Vo:16
合計:58
位と思ってください、ちょうど真ん中くらい。
ちなみに成長した値とかは多分載せないです、なぜならワンフォーオールはプレイしたことありませんから(涙)
そしてベイスは今年の先発防御率なら日本一も目指せるんだ!(*^◯^*)

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