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合格通知が届いてから更に数日後、俺達は改めて765プロダクションへ顔出しに行くことになった。
それはもちろん俺たちの他に765プロで働く人たちへの挨拶のためであって仕事は一切ない。
そして指定された時間に事務所に着くためには朝早くの電車で向かわなければならず、何を言いたいのかというと……
「姉さん、俺のことはいいから先に行くんだ……」
前の社畜人生だった頃ならともかくとして学生として夏休みというぬるま湯に肩までつかりきった俺には厳しいということだ。
「そういうわけにはいかないよ夏美、ほら早く起きて!間に合わなくなっちゃうよ!」
くそぅ……やっぱり拒否すればよかったかな……
これから毎日ではないにしてもこんなまだ太陽もほとんど出てない時間から起きなくてはならないとは予想外だった。
姉さんも何故わざわざこんな片道二時間もかかるプロダクションを受けたんだ、もっと近くになかったのか他のプロダクションは。
などと内心愚痴りながらも初日から姉さんを遅刻させるわけにはいかないので渋々布団から這い出て事務所へ向かう準備を進める。
と言ってもさほどすることはない、寝癖をブラシで整えていつものようにポニーテールでまとめる。
服は今日も最高気温が人を殺す勢いで伸びているので上着はタンクトップ、パンツはデニムのホットパンツにしてみた、一応透けブラ防止に中にキャミソールも着て着替えはOK。
いくら元男とは言え……いや、元男だからこそ男どもに透けブラを見られるのは我慢ならないので透けブラ対策は重要なのだ。
服が決まったら顔を洗って歯を磨いてエチケットもOK。
化粧についてはしたことないから一切わからん、これから覚えなくてはならないだろう。
朝食は……向こうについてからコンビニででも買えばいいか、それじゃあバッグにスマホと財布を入れて準備完了。
「姉さんお待たせ」
「うん、今日はバッチリだね!」
「そうかな?結局適当に合わせてるだけなんだけど」
「うんうん、バッチリ夏美に似合ってるよ」
俺自身がそれほど意識してコーディネートしたわけではないけれど姉さんのお墨付きをもらえたらな大丈夫だろう。
姉さんに続くようにして家から出て鍵を閉めて自転車にまたがり駅へ向かう。
この早朝特有の柔らかな空気は好きだからたまにはこうして朝から自転車に乗るのも悪くないかもしれない。
……これから日常になっていくんだろうけど。
そんな俺の重い気持ちとは裏腹に姉さんは微妙にずれた鼻歌を歌いながら自転車をこいで楽しそうに走っている。
まあ、姉さんが楽しそうだしいいか、いろいろ世話になった姉に恩返しができると思えば多少のことは我慢できよう。
しばらく自転車を転がしてると駅が見えてきたので近くの駐輪場に自転車を止めてICカードで改札をくぐる。
はぁ……移動時間のほとんどが電車だからめちゃくちゃ眠くなるんだよなぁ。
ひとまず一眠りしてある程度眠気を覚ましてしまおう。
始発駅でもなんでもないがド田舎もいいところなので余裕で座ることができるから睡眠にはもってこいだ。
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しばらく電車に揺られて目をつぶっていると横から姉さんに肩を叩かれる、どうやらそろそろ乗り換えみたいだ。
「夏美、東京駅付くよ」
「ん……ありがとう姉さん」
荷物を確認して電車から降りる準備をする。
ずっと座って寝ていたせいで体を動かすと節々がギシギシ言っていて少し痛い。
やっぱ受けたの間違いだったかな……早くも少し後悔しているが仕方ない、ここまで来てしまったしひとまず事務所まで行こう、そしてある程度活動して人気が出なければやめればいいのだ。
どうせある程度活動して人気が出ない奴が一般に認知されるにはそれこそ臥薪嘗胆の心構えで長期間地道に活動するしかない、アイドルとしての活動は楽しみであるがそこまでしようと思うほど、俺は決して本気ではないのだから。
ひとまずここで乗り換えれば後は阿佐ヶ谷駅まで20分と少々、そこから更にまた移動しなきゃならないがここまでの移動に比べればそれほど苦じゃない。
ただしこっちは見事通勤ラッシュとぶつかるので座るような余裕は一切ない、とはいえ俺は前世からの趣味というか習慣で今世でも筋トレをしているので体力には余裕がある、二時間立ちっぱなしは勘弁して欲しいが。
さて、特筆することもなく阿佐ヶ谷駅についた俺たちは電車を降りて事務所の方向へと歩いていた。
バスを使ってもいいのだが時間的に余裕があるし何より体力づくりと俺の朝食を手に入れなくてはならないなので歩いて我らが765プロダクションへの道を歩いて向かっていた。
「しかし、よく俺なんか採用したよな」
「もう、またそんなこと言って、夏美だってちゃんとおしゃれしたら私よりずっとかわいくなるよ、身長だって高いし足だってすらっとしてるし」
「その分筋肉で重くなってるけどな」
「それは確かに、腹筋われてる女の子って夏美以外見たことないかも……」
そんなことをしゃべっているうちに二度目になる765プロの事務所の前に到着していた。
相変わらずぼろっちいしガムテープで書かれた765の文字は手作り感でいっぱいだ。
「うぅ、ちょっと緊張してきたかも」
「早くないか?これからアイドルとしてたくさんのお客さんの前で歌って踊るんだぞ」
同僚に挨拶にいくだけで緊張してるって姉さんは無事アイドルとして活動できるのか?
ちなみにそのてん俺は問題ない。
何せ前世でもっと恥ずかしい目に遭っているからな。
……今からでも記憶を消したい、もしくはかめはめ波をはなとうとしている俺を思い切りぶん殴りに過去に行きたい。
二人して若干気落ちながら事務所へ続くおんぼろビルの階段を上がっていく、エレベーターもあるのだが一階以外は三階の765プロしか使ってないので壊れたまま修理してないらしい。
若い俺たちは問題ないが来客とか大きい荷物の搬入とかはいいのだろうか。
階段を上りきると磨りガラスに『芸能プロダクション765プロダクション』と書かれた扉が見えてくる。
ついに到着だ、ドアtoドアでおよそ二時間と少し、やはり遠い。
緊張してる姉さんを横目にドアを四度ノックする。
ちなみに細かいようだが二回ノックするのはトイレノックとも言われるトイレに人が入ってるか確認するもので公の場では四回ノックするのが正解だ、ちなみに三回は家族など親しい仲の場合に使う。
しかしノックしても反応が帰ってこない、話し声なんかも聞こえてこないし言われた時間の十分前だ、まさか誰もいないなんてこともあるまい、特に事務員さんはいるはずだ。
「誰もいないのかな?」
「そんなまさか、この時間で事務員もいなかったら仕事できないだろうし」
「入ってみる?」
「その方がいいかもな」
仕方がないので扉を開いて事務所にはいる。
そして中を見ると俺達より先に所属していたアイドル達や事務員さんなどが並んで立っていた。
「みんないっくよーせーのっ!」
『765プロへようこそ!』
そんな唱和と一緒にいくつものクラッカーが鳴ってたくさんの紙吹雪や紙テープが飛んでくる。
その向こうには先日来たときに見た子も居れば初めて見た子もいるけど、共通していることがひとつあった。
みんなが笑顔で俺達を歓迎してくれているということだ。
「うわっなになにっ?」
俺の後ろにいた姉さんも横から驚いたような顔を覗かせていた。
「んっふっふーいい顔するねぇ、これからイタズラのしがいがありそうな子だよ真美殿」
「そだねーこれからが楽しみですなぁ亜美殿」
どうやらこのサプライズ演出の主犯らしい双子は非常に清々しい笑顔で喜んでいた。
「ほら、あんた達が今日の主役なんだから早くこっちに来なさいよ」
そう言ってメンバーの中心にいた兎のぬいぐるみを持った女の子が俺の手を引っ張って事務所の奥の広いスペースへと連れていく。
「さ、君も早く早く」
姉さんの方にはショートヘアーの凛々しい少女が行って俺と同じようにその手を引かれていた。
そして連れていかれた先にはお菓子や飲み物が置かれ、簡素だが手作り感でいっぱいの飾りつけがされていた。
なんというか、すごく温かい歓迎に驚きは隠せないがやっぱり嬉しいものは嬉しい。
さっきまで散々内心で愚痴っていたが姉さんがここを受けたのは正解だったような気がする。
もっと同じ事務所でも競争とかそう言うのが激しくてあまり仲がよくないという勝手なイメージを抱いていただけに、とても安心できる雰囲気が俺はとても気に入っていた。
「改めてようこそ765プロへ、我々は君達を歓迎するぞ!」
その中で待っていた先日俺達の面接を行った高木順二朗社長に席を勧められてソファーに腰を掛け、それを待っていたかのようにみんながそれぞれ思い思いの場所に座るか周囲に立っていた。
そして全員の手にコップが行き渡ったのを確認すると社長が一度咳払いをして全員の注目を集める。
「あー、今日という日を迎えられたことを私は嬉しく思う!今日我が765プロに新たなる友人が二人加わることとなる、それでは自己紹介ビシッと頼むよ」
そう言うと社長は姉さんに目配せをする。
年齢的にも年上の姉さんから自己紹介をしたほうがいいということだろう。
その視線に気づいて姉さんは立ち上がって自己紹介を始めた。
「あ、はいっ!天海春香16歳、高校一年生です!」
「お、自分と同い年か」
「趣味はお菓子づくりです、よろしくお願いします!」
姉さんがぺこりとお辞儀をするとパチパチと拍手で迎えられる。
「俺は天海夏美13歳の中学一年」
『お、俺っ?!』
「あー、癖なんだ一人称とか男っぽい喋り方とか……まあそれは置いておいて趣味は体を動かすことと食べることかな」
そう言うと最初は少し戸惑っていたようだが拍手が聞こえてきて自己紹介も終わったので早速何人か集まってくる。
俺の周りにはパッと見中学生くらいの子達が集まってきていた、そして最初に質問してきたのは金髪の髪の長い女の子だった。
「ねぇねぇ、夏美って身長すっごく高いよね、今いくつあるの?」
「今か?えーっと、確か春に測った時に165センチだったかな」
多分今はもう少し伸びてると思うが、測ったわけではないからひとまずこの前の数字を答える。
というかやっぱり女子としておかしいよなこの高身長、中学生となればなおさら。
「165!?すっごーい、あずさとほとんど変わらないの」
「むむむ……亜美たちと一歳しかちがわないのにその身長とはどういうことかねなっちー!」
「いや、俺にそんなこと言われても……ってかなっちーて俺のことか?」
「そうそう、夏美だからなっちー、ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど、えーっと……?」
そこまで会話をしていて俺はまだこの子らの名前を知らないことに気付く。
「おっと、名乗るのを忘れていた、亜美が双海亜美!」
「真美が双海真美!双子でアイドル活動してるんだよ」
今日も歓迎会で最初に掛け声をかけたり騒いだりしていた双子が最初に名前を名乗る。
というかやっぱり双子だったか、向かって左側で短く髪をまとめてる方が亜美で右側でサイドポニーにしてる方が真美か……髪の長さが違うから入れ替わりとかはできないだろうけどややこしいな。
「美希は美希だよ、一応夏美の一個上で中二なの」
「その体つきで中学生だったのか?!」
「あはっ、夏美も人のこと言えないと思うな」
続いてさっき話しかけてきた金髪、美希が名乗る。
なんというか、てっきり体つき的に高校生だと思ってた、胸周り的な意味で。
まぁかく言う俺も時々高校生だと思われてるが。
「私はやよいって言います!夏美ちゃんと同い年です!」
続いて髪を短めのツインテールにまとめている女の子。
なんというかとても家庭的で温かい雰囲気のする少女で自然と友達になりたくなるような子だ。
「私は水瀬伊織よ。ま、これから精々頑張りなさい」
最後は長い髪で前髪を後ろにまとめたデコが眩しい少女。
可愛らしいことに兎のぬいぐるみを抱えている最初に俺を引っ張って行った子だ。
なんだか言葉の節々から高慢な感じもするが、なんとなくセレブっぽい雰囲気もある、意外とお金持ちなとこの子供なのかもしれない。
「亜美と真美、美希にやよいと伊織だな、これからよろしく」
挨拶が済むとお菓子や飲み物を口にしながらお互いの趣味だったり仕事やレッスンについて話した。
どうやら彼女達もまだ本格的な仕事はしたことがないらしく、毎日レッスンばかりらしい。
聞いた限りはそれほど厳しくはないらしいが、果たして体育のダンス程度しかやったことない俺はダンスはちゃんとできるだろうか?
それに歌なんか時々カラオケ行くくらいしか歌ったことないし心配することはたくさんある……
というか、俺もアイドルになったってことは時々テレビで見るようなあんなひらひらの衣装着なきゃいけないのか……?!
「……いろいろ心配だ」
「うーん、美希的にはね、夏美には可愛い服よりかっこいい服のほうがいいって思うな、真くんみたいな衣装とかきっとよく似合うの」
「はいっ、夏美ちゃんはとってもかっこいいので大丈夫ですよ!」
「ありがとうな、美希、やよい……」
うん、人には向き不向きがあるし、まさか似合わない衣装を着せられることはないだろう、多分、きっと、Maybe……
そんな話をしてお昼を過ぎた辺りで歓迎会は解散となった。
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歓迎会も終わって俺たちは再び電車に揺られて自宅へと向かっていた。
姉さんと話す内容は自然と765プロの話題が中心だった。
「結構いい奴ばっかりだったな」
「うん、みんな優しそうだし、安心だね」
思い返すとなんとも個性豊かなメンツだ。
今日は中学生組としか話してないが、それでも個性の万国博覧会と言わんばかりに濃い奴らばかりだった。
正直あのメンツの中でやっていけるかちょっと不安がないわけでもないが、そこは今日あまり話せなかった大人組にある程度取り持ってもらおう。
「うーん、明日から私たちもレッスンだって!なんだか本当にアイドルになるんだーって感じがしてワクワクするね」
「正直今から明日の朝が訪れるのが嫌になってくるよ……今日は早く寝るか」
そうなんだよな……明日からも夏休みの間はアホみたいに早起きしなきゃいけないんだよな……
うぅ、先が思いやられる……
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今日入ってきた二人、春香と夏美の歓迎会が終わると二人のレッスンは明日からということになり今日のところは二人は帰り、ボクたちは改めて午後からレッスンに行くために歓迎会の後片付けを始めていた。
「はいはーい、それじゃあさっさと片付けてレッスン行くわよ」
パンパンと律子が手を叩いて片付けを開始するが中学生組……というか亜美真美と美希は既にダラっとしていて動こうとしていない。
確かに今日は暑いしダレちゃうけど、亜美真美は随分お菓子を食べてたし、美希はいつも通り眠いだけだろうね。
「ねぇ律っちゃーん、今日くらいレッスンおやすみにしようよ→」
「そうだよ律っちゃーん、お仕事もないんだし今日くらいやすんだってだいじょうぶだよー」
「ダメダメ、継続は力なりって言うでしょ、今日の積み重ねが明日のあんたたちを作るんだから……ほら美希も寝てないで片付け手伝う!」
「えー、美希眠いし、それに美希的にはお休みでも大丈夫って思うな……あふぅ」
「いいから手伝う!」
律子がそんな風に三人を働かせている間ボクたちは片付けながら今日見た二人について話していた。
「ねぇ雪歩、雪歩はあの二人のことどう思う?」
「え、えっと、二人共すごく可愛かったなって、特に春香ちゃんはとっても女の子らしいし、趣味もお菓子づくりって言ってたから、よかったら私にも教えてもらえないかなって」
うんうん、わかるよ雪歩。
確かに春香ってなんだか普通な感じがしたけど、だからこそ女の子っぽいって言うか、可愛らしい感じがしたんだよね。
趣味のお菓子づくりっていうのもいいよなぁ、ボクも教えてもらったら作れるようになるかな?
あー、でも家でやったらお父さんにまた「軟弱な!」とか言われちゃうかな、ボクだって女の子なんだからいい加減諦めてくれればいいのに、もう。
「自分はあの夏美って子が気になるな、運動も好きだって言ってたし一緒にダンスレッスンするのが今から楽しみだぞ!」
どうやらボクたちの話を聞いてたらしい響が会話に混ざってくる。
そうそう、今日は話せなかったけど、あの夏美って子も結構体鍛えてると思うんだよね。
手足とかスラッとしてたけど綺麗な筋肉のつき方してたし、体力もありそう。
身長もあるから確かにダンスレッスンとか楽しみかも、響とも一緒にダンスとかしたらセンターに置けばバシっと映って結構カッコイイかも!
「私も春香ちゃんはとってもいい子だと思うわ、それに夏美ちゃんも、なんだか手のかかる男の子みたいな感じでお話してみたいわね」
あー、そういえばすごい男っぽい喋り方してたなぁ。
確かになんとなくやんちゃな男の子って感じでいい個性だよね。
亜美真美を男の子にした感じっていうか、一緒にいたら多分退屈しないような気がする、でもなーんか疲れそうな気もするんだよねぇ。
これが社長の言ってるティンと来た!ってやつなのかな?
「私も、あの天海夏美という少女、何やらとても不思議な感じがいたしましたね、とても気になります」
不思議、不思議かぁ、やっぱり貴音さんってなんとなく掴みどころが無いような気がしてボク的にはよっぽど貴音さんの方が不思議な気がするんだけど。
でも確かに夏美も結構不思議な感じかも。
一人称は俺で男っぽいし、亜美真美達とはしゃいでたけど、律子さんとか社長と話すときはちゃんと礼儀正しかったし。
なんというか、子供っぽい大人みたいな感じかな?
「でも貴音さんが不思議だって言うなんて相当じゃない?」
「うん、自分も貴音以上に不思議な人は見たことないぞ」
「はて、そうでしょうか?」
これからもこれくらいのペースで……書けるといいな()
そういえば前回のあとがきでこの世界の女性の体はどうなってるんだとか言ってたけど。
よく考えたら私夏美より10cm身長高いのに体重変わらないんですよね。
私も充分おかしいわ、そらいつ死ぬのかわからんって言われるわ。
でも増えないんです、日常生活に支障も出ないし。
そして体重以上にもっと文才が欲しい(必死)
たくさん書いてれば上手になりますかね……とりあえずエタらないよう頑張ります。
ちなみに序盤はそれぞれ呼び方がアニメと違ったりするかもしれませんが、お互いにまだ知り合ったばかりで関係を作ってるところだと思ってください。
ちなみに765プロの場所についてですがネットで見かけた検証を見て阿佐ヶ谷駅周辺ということにしました。