本当はアニメ二話の内容を丸々乗せたかったのですが、このまま行くと一万六千から下手すると二万文字行きそうだったので分割いたしました。
その結果八千文字ほどですが、どうかお楽しみください。
「それじゃあ次、7番の天海夏美さん、アピールお願いします」
「はい」
新プロデューサーを迎えた四月はあっという間に過ぎ去っていき、もう五月になろうとしている。
その間は中々に忙しく、レッスンよりオーディションや小さくとも仕事をしている事が多かった。
しかし、今はとある問題を抱えていた、それは……
「それじゃあ今日の合格者ですが、4番と5番……あと8番の方、この後直ぐに打ち合わせますので、プロデューサーがいる場合は一緒に隣の会議室まで来て下さい……あ、他の方は不合格ですので帰っていいですよ」
突然仕事が減ったことだ。
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「な、夏美ちゃん……ど、どうだった?夏美ちゃんなら受かったわよね?大丈夫よね?!」
事務所に戻った俺を待っていたのは、経費削減のために昼間、視界が悪くならない限り消灯して事務仕事をしている小鳥さんだった。
なんというか、部屋の暗さそのものが765プロの未来を表しているようで、どうにも不吉だ。
「ふっ……小鳥さん、愚問ですよ」
「じゃ、じゃあ!」
「今日も明日も明後日も、あの真っ白なスケジュールに変更はありません」
「そんなに勿体ぶって言うことじゃないわよ!?」
しかし、改めてあの真っ白なスケジュールを見ると背筋が冷えるな。
先月律子さんが一人でプロデュースしてた頃の方が仕事があるって言うのは、一体どう言うことなのだろうか。
「そうは言うがな大佐」
「誰がピヨ・キャンベル大佐よ……というか女子中学生がプレイするにはまた渋いものを……」
「結構面白いですよ、事務所でしかやってないですけど」
「まあそうなんだけどね……ってそれはいいのよ、それよりまずいわ……あと今ある結果待ちは昨日あずささんが受けたドラマのオーディションと、今日プロデューサーさんが連れていっている亜美ちゃん、真美ちゃん、伊織ちゃん、やよいちゃんの五件、もしそれが全部外れたら……」
そこで言葉を止めた小鳥さんと一緒に、最早落書きスペースと化したスケジュール表を見る。
驚きの白さだ、最早いくつかのオーディションと、先月律子さんが取ってきていた仕事が少しある程度だ。
「……良くてリストラ?」
「倒産してもどっちでも大して変わらないわよぉ~!」
俺はまだ学生だからいいが、御歳
うーん、しかし何がいけないのやら、先月までは今まで通りやって、もうちょっと仕事があったんだが……
やっぱり真面目すぎる受け答えだと俺のイメージと合わないからいけないのだろうか、なんというか、アピールというよりプレゼンみたいに特技とかの紹介をしてるし、俺の売りはやっぱり元気とか、運動神経にあるわけだし、積極的に動くべきか。
今度からもうちょっと普段通りの様子でオーディション受けてみるか。
あとは、まだプロデューサーが慣れてないというのがあるかもしれない、新規開拓に行っても十分な売り込みが出来ておらず、審査員達に俺達の印象が薄いのかもしれない。
まあそこはPに頑張ってもらうしかないな、もちろん俺もPと話し合ったりして、アピールポイントを纏めたりしてみるが。
なんて一人反省会をしていると、小鳥さんの机の電話が鳴った。
「はい、765プロダクションです……あ、プロデューサーさん、オーディションはどうでしたか?ああ、はい、はい……はい……それじゃあ、そのまま事務所に戻ってきてください」
受話器を電話に戻した小鳥さんは、ゆっくりとこちらを振り向き、素晴らしい笑顔でこう告げた。
「転職活動っていつ頃始めればいいかしら」
マジでこのもう事務所ダメかもしれない、俺は素直にそう思った。
「俺に聞かれてもなぁ……とりあえず小鳥さん」
「なにかしら」
「終身名誉765プロ事務員に任命」
「逃げられない!?」
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「あぁ、そう言えばアー写ガイナ立ちにしたままだったっけ」
「あいっかわらずあんたの宣材写真、女の子のアイドルのものじゃないわよね」
「夏美ちゃんの写真すっごいかっこいいよね!」
「いやいや、亜美達よりはマシだろ、あとありがとうな、やよい」
「あれは最早芸人じゃない……」
事務所に戻ってきたプロデューサー達と、何故最近まるでオーディションに合格しないのか検討会をした結果、もしかするとアー写が原因ではないか、という結論に至った。
いや、確かに俺も人の事は言えないが、全員アー写がアイドルと言うより芸人みたいだ、だがどう考えても原因はそれだけじゃないだろう、先月はこれで仕事あったんだから……と言うか、この写真で仕事取ってきてた律子さんがすごいのか。
しかし、アー写が悪いからと言っても、すぐに撮り直すということは出来ないのだ。
まず、765プロの全員のスケジュールを合わせる必要がある……と言っても、まっさらなので今更特に気にする必要はないか。
何故スケジュールを合わせる必要があるのかというと、アー写を撮影するということは当然スタジオとスタッフさんを雇う必要がある、予算に余裕があるならいいが、765プロにそんな余裕があるわけもないので、一度で全員分終わらせたいのだ。
ちなみに最後の難関、それは。
「誰か~、扉開けてくれる?」
765プロの財布番、秋月律子プロデューサーその人である。
「はいはい、今開けますよ~」
ひとまずアー写の事は置いといて、どうやら両手が塞がっているらしい律子さんの代わりに事務所の扉を開くと、律子さんは沢山の衣装がかけられた洋服掛けを持ってきていた。
これどうやってここまで運んだんだ。
「これ、共通衣装ですか?」
「そうよ~、折角の全員一緒の衣装なんだし奮発しちゃったわ」
全員一緒の衣装か、これでいつかは全員で同じステージに立つことが出来るようになったわけか。
衣装は黄色を中心に所々をライムグリーンで彩った鮮やかな色使いで、スカートタイプと超ミニスカートの二種類が用意されていて、俺のは恐らく後者だ、ひとつだけ明らかに大きく、そのわりにフラットな作りのがあるから結構簡単にわかった……いや、色々文句はあるが今はそれは置いておこう。
「おお~律ちゃん太っ腹~!」
「いよっ!お大尽!」
「どうせだからいいものにしたかったからね、まあおかげで、我が765プロの金庫はすっからかん……」
……いやはや、タイミングが悪いと言うかなんというか。
と言うか、律子さんはこの写真を撮り直そうとか思わなかったのだろうか、律子さん程先見性があれば、ちゃんと取り直しの予算くらいすぐに出すと思ったんだが。
「律子!お願いがある……」
「ん……なに?」
小鳥さんと一緒に手を合わせて頭を下げているプロデューサーを見て、嫌な予感がしているのか律子さんの顔がひきつっている。
「実は……宣材写真を撮り直したいんだ」
「えっ?コンポジットをですか?」
「ああ……」
「無理無理無理、あの衣装でいったい幾らかかったと思ってるんですか……そりゃあ、今のものがベストだとは言えないですけど……」
「だろ?そこは娘のお見合い写真を作り直すような気持ちで……いてっ」
俺がプロデューサー達三人のコーヒーを淹れて戻ってくると、プロデューサーがやたら失礼な事を言おうとしていたので、ひとまずチョップで嗜める。
娘って……確かに律子さん18歳で目茶苦茶仕事できるが、あまりにも失礼過ぎるだろう、しかも見てみろプロデューサー、娘と聞いて小鳥さんが何かを思い出してしまったかのような顔をしてるじゃないか。
「プロデューサー、いくらなんでも失礼すぎ、相手は未成年のうら若き乙女だぜ?」
「す、すまん」
「はぁ……まあ夏美が言ってくれたから、もういいですけど……外ではあまり不用意な発言はしないでくださいね」
「すまん、気を付ける……」
「まあそれは置いてですけど、実際予算がかなりかつかつなんですよ、私もできればあのコンポジットは早めに撮り直そうと思ってました、ですがせっかく全員がソロデビューを果たした訳ですし、小規模でも765プロ単独ステージライブのために、この全員共通衣装を用意したかったんですよ」
なるほどな、律子さんも撮り直しはしたかったが、まずは先行投資として、衣装を用意することを選んだのか。
確かに先月まではこの写真で仕事取れてたわけだし、律子さんにとって緊急性はなかったわけだ、というかどうやったらこの写真で仕事とれてたんだろう、この超敏腕プロデューサー殿は。
「ねえねえいいでしょ律ちゃ~ん、宣材バシャバシャ撮ろうよ~」
「あのね、だから今はその予算が……」
「でもでも律ちゃん、撮り直せばお仕事ザバザバだよ?」
「ザバザバ?」
「そうよ、お兄様達を見返す為にも撮り直さないと!」
「それに給食費も払えますぅ~!」
流石にこうも全員から言い寄られると、律子さんも悩んでくるか、そもそもやよいの懇願はとんでもない威力だし。
なにより俺も、こうまでも仕事がないのは、さすがに堪えるし、もう一押し……
「律子さん律子さん、俺も撮り直した方がいいと思う、予算的にきついかもしれないけど、確実に今より仕事が取りやすくなるはずだし」
「そうですよ律子さん、これも長い目で見れば先行投資ですよ」
「先行投資ね……」
アイドル達以上に将来を不安視している小鳥さんの言葉を受けて、律子さんが試算を始める。
俺含めて全員がその結果が出るのを固唾を飲んで見守っていた、そして。
「よし!それじゃあ撮り直しましょうか!」
「「「やったー!」」」
皆─音無さん含む─がアー写撮り直しを喜んでるなか、ひっそりと律子さんに聞いてみた事があった。
「実は予算用意してたんじゃないですか?」
「あら、わかっちゃった?」
なんだ、やはり用意してたのか。
いたずらが成功した少女のように、律子さんがペロリと舌を出す、可愛いなこの人。
そりゃそうだよな、いくらなんでも律子さんが出来ても、まだまだ新人のプロデューサーが、あの写真で仕事を取れると考えているとは思えなかった。
「まあ、最良としては撮り直さずに、次善で原因を考えて対処しようと、最悪は泣きついてくる事だったけど……」
「と言うことは及第点?」
「ま、そんなところね」
どうやら律子さんの鬼指導の対象は、アイドルだけではなかったらしい。
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「ぐぬぬぬ……」
まあひとまず、アー写の撮り直しが決まったあと、何にしてもやることがなかった俺は、律子さんに念のため確認を取って、俺の衣装を着てみた訳だが……
「律子さぁん?!」
「今度は何……って、よく似合ってるじゃない夏美」
「似合ってるかどうかはたいした問題じゃないんですよ!」
俺の衣装はやっぱり、最初予想した通り超ミニスカートだった。
確かに最近は比較的スカートへの忌避感は薄れてきたさ。
だからといってこのマイクロミニスカートは無理だ!
「新手のいじめですか!?」
「いじめって、人聞き悪いわね」
太ももも半ばまで露出した、一見スカートに見えるショートパンツとかではなく、正真正銘のマイクロミニスカートである。
これがいじめでなくて何と言うのか。
ただでさえ、俺達アイドルは観客より高いステージに立つと言うのに、その上でこんな丈のスカートなんて、恥ずかしさで死んでしまう。
「ただいま戻りました~、って、もしかして夏美が着てるのって新しい衣装?」
「お帰りなさい真、ええそうよ、全員分あるから、余裕あるときに試着しといてね」
タイミングが悪いことに、ちょうどまだ衣装を着ているタイミングで真さん達が帰ってきてしまった。
いくら女子しかいない(プロデューサーは除く)とはいえ、超恥ずかしい、ええい、美希は生き生きとした顔でこっちに寄ってくるな。
「くっ……殺せ!」
「そこまで?!」
「えぇ~、夏美ちゃんすっごく似合ってるよ?」
似合うかどうかはこの際些細な問題なのだよ。
真は新しい衣装に夢中、あずささんは休憩スペースでお茶、伊織とやよいは、なんか亜美達と作戦会議とかなんとか……味方による援護に期待できず敵に囲まれている……
「うーん、ボク的には、もうちょっとフリフリ~っとした感じが」
「いやいや、やっぱりパンツルックの方が……」
「二人ともコレくらいで丁度いいって思うな、それに、多分普通のスカートより、こっちの方がぴっちりしてるから見えにくいと思うよ?」
うーむ、確かにそう言われてみればそんなような気がする。
というか、よく考えてみれば、ステージでは中にオーバーパンツ(いわゆる見せパンって奴)を穿くわけだし、気にしなくていっか。
「それもそうか」
「ちょろいの」
「なんか、いつもこうして簡単に説得されてる夏美を見てるとちょっと心配になるよ」
なんか真が額に手を当ててるけどなんかあったのかな?
うむ、無事に心配事も無くなったし、プロデューサーに今度のオーディションの確認でもしてくるか。
『おー!』「お、おー?」
なにやら会議室の亜美達が盛り上がっている、なんかあったのかね。
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アー写の撮り直しが決まって数日後、アー写撮影日の午前中に、俺はとある番組のオーディションを受けていた。
主にDランク未満の新人アイドルを中心に採用し、一人ずつ歌っていく、往年のスター発掘オーディションのようなものだ。
出てくるアイドルの幾人かは、既に決まっているので、今回は決まっていないと言う3枠を競ってのオーディションとなる。
まだまだ、メディアへの露出が少ない、というか無きに等しいFランクアイドルの俺としては、なんとか受かってこれからの起爆剤にしたいところだ。
Dランク未満って言うと、絶賛Fランクの俺には難易度が高く感じるかもしれないが、このオーディションにはEランクが一人と、後は俺と同じようなFランクのアイドルしか居ない、十分にチャンスはある。
しかも俺は今日最後のアピール、順番的にも印象に残りやすいはずだ。
「それじゃあ次で最後ですね、13番の天海夏美さん、お願いします」
「はい!」
今回は今までとは違って、面接っぽい感じではなく、俺らしく、『天海夏美というアイドル』らしくをイメージして行くことにした。
と言っても、ひとまず立ち上がって自己紹介だな。
「天海夏美、13才の中学二年生、趣味は運動と食事、野球観戦です!」
「身長170cmって書いてあったけど、本当に大きいねぇ、俺ビックリしちゃったよ」
「ははは、よく高校生と間違われます」
「運動がご趣味だと言っていましたが、どの程度までできますか?」
「ダンスなら男性のアイドルにも負けてないと思います、パフォーマンスとしては、バック宙をダンスに挟んでやったこともあります」
「ここでもできますか?」
「任せてください!」
バック宙を見せると審査員さん達は、感心したように拍手をしてくれた。
たとえステージじゃなくとも、認められるっていうのは嬉しいもんだな。
ちょっと調子にのってバク転まで披露してしまった。
その後は、どうやら特にダンスに関して評価しているらしい審査員さんから、特に質問をもらい、ついでに言われるがままに色々とやってみせてしまった。
「はい、ありがとうございました、それでは最後に持ち歌……『I Kill Your Heart』の歌とダンスをお願いします」
うん、最後に歌って踊るのを忘れてた。
まあこの程度で俺の体力は尽きないがな!
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みんなの口添えがあって、どうにか宣材写真を撮り直す事が出来るようになった。
と言っても、宣材写真を撮り直す程度では、きっと仕事は入ってこないだろう。
それはひとえに、俺のプロデューサーとしての能力が足りていないからだ。
その証拠に、あの写真を使っていて律子は先月まで問題なく仕事を取ってきていたのだから。
765プロのアイドル達は、みんな素晴らしい魅力を持っている。
それが、俺の能力不足なんかで輝くことが出来ないなんて、俺は俺が許せないだろう。
だからまずは少しでも、俺でも仕事が取ってこられるように、こうやって小さな手から打っていく。
……もちろん、俺自身も研鑽を怠ったりはしない。
それに、俺の能力以外にも信頼関係というか、もうちょっと俺のことを信じてほしいな。
さっきも伊織の衣装について話そうとしても、口出し無用と言われてしまった……まだまだ精進しなきゃな。
っと、夏美から電話か、時間的にオーディションの結果か。
『あ、もしもしプロデューサー?』
「ああ、俺だよ、オーディションどうだった?」
夏美もダンスは得意だし、話も面白い、輝ける存在なだけに、最近仕事を与えられていないのが申し訳ないな……
夏美自身も、自分で色々と考えてくれているだけに、本当に俺の実力不足が悔やまれる。
『喜べプロデューサー、合格だ!』
「ほ、本当か!?」
思わず椅子から立ち上がってしまったが、多分誰も咎めないだろう。
今月に入って初めてオーディションの合格者が出たのだから。
「夏美はこの後直接スタジオ入りだったよな、道はわかるか?」
『ああ、大丈夫』
「わかった、それじゃあ気を付けて向かってくれ」
『あいあい』
電話を切ってポケットに仕舞い、小さくガッツポーズを取る。
やっと、俺の仕事が出来た、随分と時間がかかってしまったな……
「もしかして夏美、受かったんですか?」
「ああ、やっと仕事ができたよ」
「よかったですね、プロデューサー」
撮影までの時間を、一緒にスタジオで待っていた律子が、自分の事のように喜んでくれた。
予算やその他諸々を鑑みて、まだそれほど忙しくないこの期間─ゆくゆくは当然全員トップアイドルになる予定だ─に必要最低限以外を全て俺に任せるという、今までは知識だけだった俺のために、超高密度学習期間を用意してくれた社長と律子には、本当に頭が上がらない。
「「お、お化け~~っ!」」
さて、そろそろ撮影の時間かと思っていると、控え室の方から真と雪歩が走ってきた。
やけに慌ててるみたいだが、何があったんだ?
「落ち着け雪歩、真、どうしたんだ?」
「ぷ、プロデューサー!お、お化け、お化けが出たんですよ!」
「お、お化け?」
ここってそんな曰く付きのスタジオだったか?
いや、そんなことはないはずだ、ここは律子が予約したスタジオだから、わざわざそんな場所を選ぶはずがない。
「何かの見間違いじゃないか?こんな昼間からスタジオになんて」
「そんなはず無いですよ!二人ともこの目でしっかり見たんです!」
「そ、そうですよプロデューサー……って、お、男の人ぉぉ?!」
「ゆ、雪歩?!」
相変わらず、雪歩は俺でも男の人はダメか……俺が男だと気づいてすごい勢いで走り去ってしまった。
いや、しかしこれは丁度いいかもしれない。
「真、雪歩の事頼んでいいか?」
「え、あ、はい!わかりました!」
雪歩はもとより俺が行ったところで、更に取り乱す事はわかりきっている事だし、雪歩を宥めるのを、雪歩と仲のいい真に頼めば、二人ともひとまず一時的とは言え、幽霊騒ぎの事を忘れてくれるだろう。
……本当は、こういうケアも俺がやるべきなんだろうが、雪歩があの調子だとな……
なんとか雪歩との関係を改善できないか考えていると、控え室の方から今度は、響と貴音がやけに難しそうな顔をしてやって来た。
「どうしたんだ響、貴音」
「ん?ああ、プロデューサーか」
「プロデューサー、実は控え室からなにやら面妖な気配を感じたのです」
「め、面妖な気配?」
「自分も、なんか変な声を聞いたぞ」
「響は声か……」
本当に、一体何が起こってるんだ?
いや、まさか、まさか亜美達が何かやらかしてるんじゃ……
「お待たせしてすいませーん!」
伊織の声と一緒にとてつもない嫌な予感がしたが、振り返ってみると、やっぱりというかなんというか、超厚化粧に、あからさまな詰め物が詰められてる胸、恐らくハサミでやっただろうスリットが入っているドレスと、とんでもない格好の伊織達が立っていた。
「あら、少し刺激が強すぎたかしら?」
確かに少しどころか、大いに刺激が強すぎた、あまりの衝撃に、スタジオ全体が凍り付いていたほどに、ビックリするくらい似合っていなかった。
だ、誰かこの空気をなんとかしてくれ……
「ギリギリ!セーフッ!」
俺の願いが届いたのか、この凍り付いていた空気をぶち壊してくれる救世主が現れたのだった。
「な、夏美……」
「いやー、電車乗り遅れて遅刻するかと思ったわ……って、伊織達は何やってんだ?半年早いハロウィーン?」