なんやかんやで赤龍帝 作:黒鬼
ダラっと行くべ。
突然で悪いが、私のご主人様は変だ。
私――黒歌は悪魔に転生した猫又である。
妹の安全を盾にゲスな事をさせられそうになった所で主を殺し、はぐれ悪魔になった。
そして逃げ続けていたのだが、限界が来て、追っ手に追いつかれて絶体絶命だった。
私はその時は満身創痍、魔力も底を尽きかけ、仙術を扱えるほど集中出来る状態でもなかった。
追っ手は変態であり、私の体を見て欲情し、
命は助けてやるからその身を差し出せと言ってきた。
そうなるくらいなら死ぬ方がマシだと自殺を決意しようとした瞬間だ。
今のご主人様――兵藤一誠との出会いは。
大きくなったら女泣かせな男になるんだろうなぁという可愛らしい顔。
眠たそうな眼は愛嬌があり、ポーとこちらを見ていた人間の子供。
年齢は十歳前後、奇しくも生き別れた妹と同世代くらいだった。
眠そうな瞳がなんとも似ているではないか。
脅しや集団で囲まれたりと色々あったが、その少年は強かった。
強過ぎるほど強かった。
文字通り、目にも止まらぬ速さで眷属悪魔達を瞬殺し、
追っ手の頭であった上級悪魔も軽々殺した。
話を聞けば、その子は赤龍帝らしいじゃないか。
神をも超越する、赤き龍の帝王の魂を宿す神滅具の所有者。
しかし、その神滅具を使わずにその子は悪魔を殺した。
つまりは身体能力だけで殺したのだ、もし神器を使えばどれほどの戦闘力になるのだろう。
正直、怖かった。
私などでは絶対に敵わないその少年の狙いが分からなかった。
そんな私の懸念も虚しく、その子は案外純粋だった。
入手先の分からないフェニックスの涙を平然とくれた辺り、将来は大物になるだろうか。
私は猫又、猫の姿になれるので、兵藤家のペットとして迎えられた。
私としては匿ってもらうだけでよかったのだが、
ペットといえども家族として迎えられることは素直に嬉しかった。
だが、兵藤家は普通の家庭ではなかった。
兵藤家の者全員が強過ぎる。
今代赤龍帝であるイッセーですら、兵藤家では最弱なのだ。
中でも兵藤家の母は特にオカシイ、
完全に何か生物として超えてはならないモノを超越していらっしゃる。
何処の世界に、デコピンで天をも貫く衝撃波を発生させる人類がいるのだろう?
何処の世界に、落雷をよそ見しながらヒョイと避けれる生き物がいるのだろう?
絶対にこの人には逆らうまいと固く固く決意した。
兵藤家の父は、気性が荒い。
家内では母がいる為、中々大人しくしているが、一歩外に出ればコレが凄い。
視線が合っただけで、メンチを切ったと怒号を飛ばし、拳も飛ばす。
ついでに衝撃波まで飛んでいく、意味が分からない。
何故かヤクザやら警察やら厄介なものによく絡まれるのだが、
弾丸をヘッドバッドで打ち返せるのはオカシイ。
そんな規格外の強さや気性の荒さは周りの人々から恐れられ、
どんな些細な事が彼の琴線に触れるかハラハラしている。
故に彼は兵藤家の地雷原と称されることがある。
別名、兵動家の核弾頭。
危険物注意なのである、巷では兵藤注意報なるものが発令される事があるとか。
そして最後は私の飼い主、兵藤一誠だ。
一言で言うと、変わった子。
子供ながらデタラメに強いが、面倒事や厄介事を極端に嫌がる。
基本甘党で睡眠至上主義、いつもいつも眠そうな目を携えている。
性格はめんどくさがり、そしてちょっと意外だが甘えん坊で寂しがり屋。
私はイッセーと一緒に寝るのだが、その時だけは変身を解き、人型になる。
コレはイッセー本人から最近になって要望された事だ。
なんでも、人型の私を抱き枕代わりにすると安心して眠れるそうな。
可愛い。
下品な下心など微塵も感じられず、ただ純粋に存在自体を求めてくれる。
人型の時はよく抱き着いてくるし、頭を撫でると気持ち良さそうに目を細める。
膝枕などしてやると瞬殺で寝る。
その時の安心しきった気持ち良さそうな寝顔は可愛い事この上ない。
これらは、始めは私が自主的に始めた事であり、彼から強要されたのではない。
私に命令するでもなく、何かを要求するでもなく、束縛するでもなく、
傍にいる事だけを望んでくれる。
あの子の事を考えると、胸の奥がポカポカと温かい。
恋、ではないと思う。
恋愛などしたことないし、私の柄じゃないだろう。
そう、弟を可愛がるという行為に似ているんではないだろうか?
お姉ちゃんが弟を可愛がり、世話をしてやるのは当たり前の事だ。
何ら不自然ではない。
匿って、生活まで与えてくれているのだ、お世話してやるのは当然のお返し。
そうだ、私は姉なのだ。
可愛い妹とは離れ離れになってしまったが、この子を可愛がる事ぐらいはいいだろう。
ああそうだ。
私は姉なのだから、おはようとおやすみのキスはするし、お風呂も一緒に入るし、
着替えも手伝ってあげるし、イッセーが寝る時は肌触りが良いように裸で添い寝してあげるし、
人型になって一緒に散歩する時は腕を組むし、あーんして食べさせ合いもするし、
学校に行く時はいってらっしゃいのキス、帰った時はおかえりなさいのキスもするし、
あの子の傍にいるだけでドキドキするし、あの子と離れていると寂しくて切なくなるし、
キスをするたび心臓が高鳴って胸が苦しくなるし、
イッセーを見ていると思わず発情期に入りそうになるし、
イッセーの子供なら産んであげたいとも思っているが、仲の良い姉弟ならば普通だろう。
まぁ、あの子はよく女の子にモテるから、あの子の口から私以外の女の名が出てきたら、
イライラムカムカするし、ラブレターを貰って帰ってきたら差出人を殺したくなる。
ましてや呼び出されて告白されたと聞けば、その場に私も行き、
イッセーと私がどれだけ仲が良いかをイチャイチャして見せつけてやりたいと思ってしまうが、
愛する弟を取られたくないと思う、謂わば姉の独占欲だと考える。
断じて女の嫉妬心などではないはず。
ああ、そうだ、命を助けられたからといって、たった一度の出来事で惚れてしまうほど、
私は安い女じゃない。
それほど安直に好意を持つならば、また容易く心変わりしたり、
少しの事で恋が冷めたりするだろう。
私がイッセーに抱いている感情はそんな簡単に説明のつくものではないのだ。
瀕死の私を助けて今の平和で幸せな生活を、
そして生きる事で妹に会える可能性を与えてくれた。
そんなイッセーに私は何を捧げてもいい、何でもしてあげたい。
イッセーのおかげで生き延びることができ、
妹に会いたいという気持ちとイッセーを支えるという気持ちが原動力となり、
私は今、こうして生きていられるのだ。
だから私は恋なんてしない。
そんな世迷事に現を抜かしている場合ではない。
イッセーを可愛がる事に忙しい私にそんな暇など無いのだ。
だからイッセーに対する、
迸る様な甘くも苦い、この火傷しそうなほど熱い感情は恋ではないはず………。
……多分。
ええ、断じて恋ではありませんとも。
そんなの通り越しちゃってるかも……。
応援的な感想を沢山いただきました。
ありがとうございます。
新規の読者様もコメントをくださいましてありがとうございます、嬉しいです。
今回はこの辺で。
次回はちゃんと後書きを書く。
そして次回は波乱の予感。
ではでは、さようなら。