なんやかんやで赤龍帝 作:黒鬼
ではダラっと行きますね。
「あー、億劫だ……」
ハゲ頭がキラリと煌く松田がため息混じりに呟いた。
今日は何の日だろうか、ああそうだ、バレンタインデーなのだ。
女子が気になるあの人に、好きなあの人にチョコレートを渡す日なのである。
チョコを貰えない男子諸君にとってはこれほど忌々しい行事があるだろうか?
クリスマスと並ぶ、非リア充達にとっての地獄の一日なのだ。
さて、今現在は登校中。
俺はいつもの三人である、匙、松田、元浜と一緒にテクテクと学校へ向かって歩いている。
明らかに落ち込んでいる松田に向かって元浜が声を掛ける。
「まぁそう言うな、何もチョコが貰えないのはお前だけじゃねぇんだから」
慰めの言葉を掛ける元浜なのであるが、虚しくもその声は届いていない。
それどころか俺と匙を射殺す様な視線で睨んできている。
何故だろうか?
「ケッ、真横にモテる野郎二人がいなけりぁ、ちったぁマシだったろうがな!」
「そうだぞ匙、謝りなさい」
「いやいやイッセー、お前も含まれてるからな?」
軽口を叩く俺と匙。
そう、お察しの通り、匙はモテるのである。
女というのは悪い男が好き、というのもあながち間違いではないだろう。
見た目も少しヤンキーで、不良として名も売れているこの男。
しかし根っからのクソ野郎という訳でもなく、意外と女子に優しい。
その上学校の成績もそこそこ上位というスペック。
このギャップにより、多数の女子がハートを落とされた。
今日も登校途中に他校の女子が数人、匙を待ち伏せしてチョコを渡していたほど。
その度にこちらに向かって腹の立つ笑みを向けてくるこの男には、どうやら制裁が必要らしい。
学生鞄を背に掛け、チョコ専用の袋をニヤニヤしながら片手に持っているのだ。
「でも匙はモテるねぇ、現時点で貰ったチョコは何個?」
「六個だな」
「学校でも貰うだろうから……、十は余裕? 死ねば?」
黙ってチョコを貰えたことを喜べばいいのだが、この男は性根が腐っている。
悪態の百や二百はつかれても仕方がないほどだ。
イライラした松田がタバコをポケットから取り出し、元浜が「俺にもくれ」と言えば、
横からこの男がチャチャを入れるのだ。
「あっ、俺はタバコ止めとくかぁ。 いやぁ、毎年この日はチョコばっか食ってるからか、
胃の調子がおかしくてなぁ、ハハハハハ」
と非常にウザイ笑顔で言ってきやがるのである。
流石、俺と松田と元浜がヤーさんに囲まれていたのを発見した瞬間、
にやりと笑って、周りの野次馬を使って賭け事をして儲けた男である。
ちなみに内容はどちらが何分で勝つか、というモノらしい。
言うだけならまだマシなのであるが、チョコの一つを口に入れ、
「コレが恋の香りというものだ」
と言いながら松田の鼻先に息を吹きかけるのだ。
とんだクソ野郎である。
被害者松田は目をひん剥き、口を歪ませ、額にビキビキと青筋を立たせて拳を握っていた。
何とか元浜が宥めていたが、もし俺が「GO」と言えば、遺体が一つ出来上がっていただろう。
もちろん匙の方が喧嘩が強いので、遺体の身元証明の結果は松田である、超不憫。
「まぁまぁ、対抗馬もいることだしよ、匙の一人勝ちよりゃあマシじゃねぇか」
カラカラと笑いながら元浜は言う。
さて、誰だろうか、虚ろな表情で呪詛を呟きながら寸鉄を磨いている松田の前で名前の出た人は、
幸か不幸かどちらだろう。
もしかしたら寸鉄を喰らうだけでなく、袖に隠し持っている千枚通しまで喰らうかもしれない。
「な、イッセー」
「死ねやクラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
どうやら元浜も根に持っている模様。
サラッと俺を売りやがった。
血走った眼で泣きながら突撃をカマしてくる松田、手にはもちろんアイスピック。
千枚通しよりデカいじゃんおい。
取り敢えずアイスピックを握り締めた手を捻りながら股間を蹴り上げ、頭突きを一発。
ダランとよだれを垂らしながら崩れ落ちた。
だがしかし、恐るべき執念で立ち上がり、
ゾンビの様な生気を失った顔で恨み言をブツブツと呟いている。
怖い。
なので脳天から踵落としを一丁、今度こそ地に伏せる。
奴を貶めた元浜が責任をもってその身を学校へと引きずる事となった。
「絶対イッセーも貰っただろ、黒歌さんから」
「あんな絶世の美女から貰えりゃあ、一個でも十二分に誇れるわなぁ。
超美人でスタイル抜群でエッチで健気で一途とか何処のヒロインだよホント。
しかもお前ってめちゃくちゃ溺愛されてるしな」
「……貰ってないよ?」
「ほぉ、朝お前何食った?」
「手作りフォンダンショコラ」
「しっかり貰ってんじゃねぇかよ! しかもチョイスがガチだなおい!」
母はバレンタインなんていうめんどくさいモノはしない。
したとしても父に拳骨を五、六発くれてやるくらいである。
なので必然的に黒歌からのモノになるが、貰ってはいない。
ただ作って食べさせてもらっただけである、物理的に。
「お前って絶対誤魔化せねぇって。 だって口元にチョコが少し付いてんだもんよ」
「なんかね、取っちゃダメなんだって、口元のチョコ」
「は? なんでだよ」
「マーキングなんだって。 なんのことやら」
「……愛が重いな、それ」
他の女子に見せ付ける為だの何だの言っていたが、何のことやら分からんちん。
チョコの食べ過ぎ以外の理由で甘すぎて頭がクラクラする。
あれはもうドッキドキだった。
『口移しだったな。 もはやチョコに関係なく口付けされていたじゃないか』
それは言わないお約束。
せっかく濁したのに言いやがったよこのトカゲ。
フォンダンショコラを数個食い終えた後も、「口元綺麗にするから」という理由で再び。
未だに頭がぽーっとする。
舌まで入れられ、チョコともう一つの意味で濃厚なモノを貰い、口を離すたびに、
「…イッセー、……お姉ちゃんのチョコ、美味しい?」
と聞かれればYES以外に返答は無かった。
精神内の変態共が『ちょっと意識変わってもらっていいですか?』と真顔で言ってきたので、
いつもの五割増しでブッ殺したのは秘密である。
普通に黒歌の人型が両親にもバレているので、リビングでされた。
詰まる所、両親にもガッツリ見られにまにまとしたホクホク顔で見られたのは言うまでもない。
「母さんよ、俺にもアレやって!」
と父がニヤニヤしながら母に向かって唇を突き出すと、
「はいよ!」
と聞こえのいい掛け声と共に父の顔面へヤクザキックがカマされた。
準備良く窓は全開にされており、そこからブッ飛んでいった父が突撃隣の朝ごはん。
お隣さんの家からガラスと食器の割れる音と複数名の悲鳴が上がり、
父の突撃隣の朝ごはん―血煙バレンタイン編―はこうして幕を閉じたのであった。
「アーシアちゃんからは?」
「なんかね、準備を見られたくないとか言って桐生ン家にお泊りしてるからまだ会ってない」
「愛されてるねぇ、もう爆発すれば?」
「どうせお前はオカ研部員からも貰えるだろ、男子部員はお前だけなんだろ?
入部届けを出しに行った男子共が尽くハーレムの夢と共に潰えたある意味伝説の部活に、
なんでお前入れたんだ? しかもお前の意思じゃねぇんだろ?」
「なんかリアスちゃんが勝手に書類作って申請通してた」
「え、グレモリー先輩とも仲良いのかよ。 塔城小猫ちゃんは?」
「あの人は食べる専門でしょ」
「姫島先「アレは論外」……何したのお前…」
「木場祐希ちゃんは?」
「そこそこ」
そんな雑談を交しながらもテクテクと歩を進め、学校へと着く。
そういえば今思い出したけど匙は確か生徒会に入れられていたはず…。
「お前が生徒会役員とか世も末だ」と松田、元浜と共に大笑いして、
匙に追いかけられたのは記憶に新しい。
その生徒会も匙以外に男はいない。
つまりは俗に言うハーレムなのである。
俺は恐らくアーシアちゃんやリアスちゃんから、
もしかしたら木場ちゃんからも義理チョコを貰えるかもしれないが、
その他二名が完全に俺と敵対とまで行かなくとも、仲が良いとは言えない。
その点生徒会はソーナちゃんを筆頭とした真面目な人が多いが、嫌な人はいないそうだ。
匙も義理チョコを少しだけ期待していると言っていた。
義理でも貰えれば嬉しいモノだ、貰えないよりは全然良い。
結局今年一番多くチョコを貰えるのは匙ではないだろうか?
匙は兄貴気質な為、年下からよくモテる。
一年生には俺の隣を歩く社会のゴミに淡い憧れを抱いている可哀想な子がいるかもしれない。
いや、妬みではない、断じて。
教室に到着し、匙と別れるまで奴が貰ったチョコは合計が20を超えていた。
すぐさま
一個二個貰ったという奴は敢えて放っておき、
一番チョコを貰った憎き怨敵を抹殺する事だけに主機を置いた。
詰まる所、匙元士郎を、奴を殺せと男の本能が猛り狂うのである。
さて、計画の主要人物である男子共を俺の机の周りに集め、
まずは奴の捉える方法をピックアップすべく、
俺は机の中に置き勉したままのルーズリーフを筆箱を取り出した――、と思ったら。
「おい兵藤、お前が右手に持つその可愛らしいリボンで装飾されたハート型の箱は何だ?」
「まだだ、左手に持ってる手紙らしきモノが同梱されたピンクの袋は何だ?」
「………………………………あれ、筆箱と紙がオシャレになってる」
俺の言い訳も虚しく、周りの男子の目から感情が消失する。
机の中からは同系統の箱やら袋やらが出るわ出るわ、
完全に机に入りきらないだろと思う量が出た。
その合計数は匙の貰った数よりも多いではないか。
廊下を見れば、三年生の色のリボンをつけた制服を着ている女子達が、
手に何かを抱えて俺をチラチラと見ている。
そして極めつけに周りの男子を掻き分けた桐生がアーシアちゃんを俺の前に引きずり出し、
アーシアちゃんは顔を真っ赤にしながらハート型のチョコクッキーを俺の口へとねじ込んだ。
しっとりとしたクッキーはチョコの風味がよく浸透しており、「美味しい」と言うと、
目尻に涙を浮かべてアーシアちゃんは微笑んだ。男子共は拳を握り締めた。
これは良くない状況だ、非常にまずい。
「みんな落ち着け、匙を殺す為の集まりだろう? 目的を見失うな」
「見失ってるのはお前だよイッセー、
コレは最もチョコを貰ったクソ野郎をブッ殺す為の集まりだ。
………そして対象はお前だイッセェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」
松田の涙ながらの慟哭と同時に、
人間とは思えない挙動で襲いかかってくる男子、もとい化物共。
敵の敵は味方という言葉を思いだした俺は、男子の敵と定められた匙と同盟を組む為、
奴のいる教室へと走り出した。
SHRに遅れたので、結局は先生に男子全員怒られたのであった、まる。
はい、イベント連動のお話でした。
いやぁ、作者はチョコ作ってる場合ではないので今年は貰う専門です、
貰えるかは分かりませんけどね。
後日談的なモノをここに書かせていただきますと、結局はイッセーくんはオカ研部員全員から、
チョコは貰えました、あ、でもギャーくん以外のですけど。
そしてソーナちゃんからも貰いまして、まさかまさかのセラちゃんからは郵送で貰いました。
セラちゃんからは「忙しくて今は無理だけどまた会おうね」というメッセージ付きでした。
みたいな感じでどうでしょう。
それと、この小説のあらすじとタグを少し増やしてみました。
明らかにこの小説の投稿初めとは色々変わってきてますので、如実に現状を表すべく、
付け加えましたところ、早速感想をいただきました。
【一言】
初めまして神楽 弓楽です読む前は、あらすじやタグにあった『感想が変態の嵐』という言葉を鵜呑みに出来ず、頭の上に『?』が乱立しましたが、読んで行く内に『確かに、変態しか存在しない』と納得してしまいました。この作品の読者達の変態っぷりも大変素晴らしいですが、黒鬼さんの切り返しが上手いと思いました。読者の変態っぷりに引き、黒鬼さんの切り返しに和みました。今まで読んだSSのギャグ小説の中で一番面白かったです。深夜に爆笑してしまいました。笑った拍子に鼻血が出てキーボードが血に染まって焦りました。盗んだパトカーに乗って登場してきた主人公辺りの場面が私は気に入りました。私の予想していた登場の斜め上をいかれて思わず噴きだしてしまいました(鼻血を 黒鬼さんのギャグセンスも大変好きですが、偶に書く真面目な場面もとても面白いです。
今後どうなっていくのか楽しみです。更新お疲れ様です。次回の(来週?)更新楽しみにしてます。無理のない程度に執筆頑張ってください。読者の変態っぷりにドン引きせずにちゃんと返信している黒鬼さんは大変心優しい方だと思いました。だからこれからも本編の方も後書き・前書きを楽しみにしてます。………もう鼻血が出始めてから40分は優に超えているのに止まりません。私大丈夫なんでしょうか? 手もキーボードも真っ赤です。ティッシュが欲しいです……
ありがたいですね。
こうして読者様の気に入っていただけた部分をピックアップして教えてくださると、
非常に嬉しかったり助かったりします。
本編は勿論のこと、後書きも頑張ります。
朝なのであまり時間もありませんから軽めの後書きという事で、
前話に対する変態な感想は次回の後書きに繰り越し……、大丈夫かな……?
次回の本編は予告通りの完全ギャグ回です、久々に。
ではまたさようならー。