この次に、これから書く予定だったプロットと設定等を投稿してこのゼロ魔二次は終了です
(ちょっと疲れてきたかな? こんなにダンスにさそわれたのは初めてかも。)
クルトは先ほどダンスを申し込んできていた男子生徒に一礼すると壁際にもどり、ひとつ息をつく。
学院に帰り、学院長に報告して部屋から退出した直後にキュルケに自室におしこまれ。 あれよあれよというまにドレスに着替えさせられ、おめかしまでさせられてそのまま『フリッグの舞踏会』の会場までつれてこられてしまっていた。
もともとめだつのは苦手であり、それに祖国の事を考えれば楽しむ気分にもなれず。 学院で開催される舞踏会等では参加しないか、地味な格好をしていたからだろう。
次々と男子生徒達にダンスをもうしこまれ、なんとか穏便に断っていたクルトは少々疲れてしまっている。
まぁ、最初にもうしこんできた男子生徒と踊った際におもいっきり足を踏んでしまったのもあるが。
「そういえば、アリアはどうしてるのかな……?」
考えるのは、自分の使い魔であるアリアのことだ。
どうやらゴーレム戦の最後に人型に姿を変えていたため、ギトー先生にフーケと勘違いされて拘束されていたらしい。
すぐに『リンクス』に姿を変え、騒ぎに気づいた私も証言したから解放してもらえたけど……。
このまま秘密にしていても、またなにかあったときに騒ぎになってしまうだろう。
かといって公表したらしたで、それはそれで騒ぎになるのは確実だ。 なにしろ、
(アリアは自分の意思で、しかも動きまわれる身体を作れる『インテリジェンスソード』なんだよね……。)
もはや本当にインテリジェンスソードなのかも怪しい能力ではあるが、アリアがそういっている以上間違いないのだろう。
それに、インテリジェンスソードなのに使い魔の契約ができたのだし。
(できればこのまま秘密にしていたいけど、駄目だよね……。 せめて似た特徴をもつ幻獣がいればごまかせるのに。)
「ミス・フューエル。」
「っ、はい。」
考え中に声をかけられ、すこし驚きながらも返事をする。 同時に聞こえるのは、周囲のわずかなざわめきとかすかな金属の擦れる音。
「どうか、一曲お相手願えませんでしょうか?」
その声とともに、相手が片膝をつくような音がした。 どうやらまたダンスの申し込みのようだ。
正直にいえば疲れているし、また足を踏んだりしてしまうかもしれない事を考えれば断るべきなのだろう。
だが、その中性的な声にはどこか惹かれるものを感じる。 思いだすことはできなくともたしかに昔、幼い頃に聞いたことがあるような気がするのだ。
クルトはしばし逡巡し、そして。
「……はい。」
僅かに首肯し、その手をさしだした。
* * * * *
「おいおい、『灯無』があいつの申し込みをうけたぞ?」
「まじかよ!? やっぱ目が見えないからか?」
「イタタ、目が見えないのと君が断られたのは別じゃないかな……。」
ひねった足首を冷やすギーシュとその友人たちの視線の先では、バルコニーから入ってきた奇妙な格好の人物がクルトの手をとり、ホールの中央へとエスコートを始めていた。
まるでいつもやっていることのように自然にエスコートしているその人物は上下ひとそろいの黒いスーツに白手袋、そして顔の上半分を覆う仮面という怪しい風体だがなぜか似合っている。
唯一露出している口元も複雑怪奇な入れ墨のようなもので覆われ、肌の色はよくわからない。
「それにしても『灯無』って……。」
「ああ、綺麗だよなぁ。 キュルケにも負けてないよな。」
楽団の奏でる曲にあわせ、風に舞う蝶のように優雅に踊るクルトの姿はいつものゆったりとした格好ではない。
淡い薄雲のような色合いの、体のラインがでるドレスを身にまとい。 あわせたショールの銀糸の刺繍もあいまってまるで薄雲を纏う満月そのもののようだ。
その特徴的な銀灰色の長髪がショールとともにターンの度ふわりとひろがり、幻想的な光景を作り出していた。
「うんうん、やっぱりクルトにはこういう服が似合うと思うのよねぇ。 前に買って置いた服も着せてみようかしら。」
「ん。(もぐもぐ)」
次々と相手を変えながらのダンスに興じ、休憩していたキュルケはあとでクルトを着せ変えるのを楽しみにし。
タバサははしばみサラダをほおばりつつうなずいていた。
やがて曲は終わり、踊っていた者たちは互いに一礼してそれぞれ壁際に戻ったり、次の曲を待ちながらの談笑を始める。
クルト達も互いに一礼し、連れだってバルコニーへとあるきはじめた。
「おっと、ちょっとまってくれんかの。」
当然のようにキュルケとタバサもバルコニーへと向かおうとするが、声をかけられてたちどまる。
ふりむけば、ちょうど柱のむこう、隣のバルコニーから入ってきていたオスマン氏がこちらへとあるいてくるところだった。
「なぁに、ちょいとしたサプライズじゃよ。 少し静かに、の?」
首を傾げる皆にへたくそなウィンクをするとオスマン氏は杖を軽く振り、魔法を行使する。
同時に周囲の音がまるで吸い込まれるかのように消え。
ひとつの旋律が、一つになった声達が聞こえてきた。
* * * * *
困惑するクルトとともにバルコニーへとでてきた仮面の紳士は、バルコニーの中央あたりまででてくるとゆっくりとその歩みを止めた。
そのまま静かにクルトを見つめる紳士に、クルトはとまどいつつも未だつないだままの手を軽く握る。
「まさか主と踊ることができるとは思いもしませんでした。 ダンスでは不備はありませんでしたでしょうか?」
「あ……。 やっぱり、アリアだったんだ。」
紳士……アリアの声に、クルトはほっとしたような表情をうかべる。
そのまま握ったままの手を離すと、ふわりと身をひるがえした。
「主?」
「ずるいな、アリアは。 私はアリアの格好をみれないのに、アリアは私の姿を見れるなんて。 本当にずるい。」
からかうようにすねてみせるクルトにアリアは苦笑すると、クルトの正面へとまわりこむ。
そのままふたたび手をとると、仮面をはずしつつゆっくりとひざまづいた。
「とてもお似合いです。 まるで薄雲纏う満月のようだ。」
「……ほんとうに?」
「はい。 わたしは主に嘘をつきません。」
ほめられたのがはずかしいのか頬を染めて聞き返してくるクルトにしっかりとした声で返すと、クルトは柔らかな笑みを浮かべた。
「なら、……一緒に歌ってくれる?」
「よろこんで。 My Master.」
* * * * *
”月明かりの下 謳おう生命の歌を”
バルコニーから響いてきた声に、しだいにざわめきが消えていった。
”無より産まれた命は祝福を得、満ちてゆく”
皆が聞いたことがある声であることに気づき、バルコニーへと集まってゆく。
”やがて満ちた命は祝福を与え、欠けてゆく”
そして広がる光景に驚き、息をのむ。
”巡り巡る生命の歌 満ちては欠ける月の謡”
柔らかな月明かりの下、とても楽しげに歌う二人の姿にみとれ。
その歌声に聞き惚れた。
やがて歌い終わったのだろう。 やわらかな笑みをうかべる少女達をむかえたのは、万雷のような拍手と賛辞の声だった。
「ブラボーッ! コングラッチュレーション!!」
「とっても綺麗だったわ!」
「フューエルが『月歌』だったのかよ。 気づかなかったぜ。」
「もう一曲だけおねがいー!!」
クルトは突然の出来事に硬直していたが、自分の歌を皆に聞かれていたということを理解すると同時にその顔を真っ赤にし。
傍らにいた男装の少女につかみかからんばかりの勢いで詰問を始めた。
だが少女がなにごとかをその耳につげると再び硬直し。 そのさまにくすくすと男装の少女は笑い、その目をとじるとふたたび歌声を響かせ始める。
”O dan olau y lleuad, canwch gân y bywyd”
その歌はどこか異国のものなのだろう。 だれもが聞いたことがない歌詞の言語に戸惑い。
”Mae bywyd sy'n cael ei eni allan o ddim yn cael ei fendithio a'i lenwi.”
寄り添うように響く歌声に、そんなことはささいなことだと聞き惚れた。
互いに競いあうように、しかし引き立てあうように。
そしてまるでじゃれあうような、手に手を取ってダンスをしているような旋律は皆の心を魅了していった。
”Yn y pen draw, bydd y bywyd llawn yn bendithio ac yn pylu i ffwrdd”
歌声を響かせる二人を包み込むように月光が降り注ぎ。
その姿を幻想的に見せていた。
”Mae cân bywyd yn mynd o gwmpas cân y lleuad sy'n llenwi a wanes”
その後、二人は皆の声に答えてさらに数曲を歌い。
翌日になって遅れてやってきた恥ずかしさに、少女が初めて授業を欠席したのは別の話。
* * * * *
「う、うわぁああっ!? っはぁ、はぁ……ここは?」
毛布をはねとばすようにして起きあがった女性は息を荒げ、周囲を警戒するようににらみつける。
杖を探して懐を探り、
「おぉ、おきたかのミス・ロングビル。 ほれ、持ち物はサイドテーブルの上じゃよ。 水はいるかの?」
「っ……!? オールド・オスマン!?」
不意に死角から聞こえてきた声にベッドからとびすさり、部屋の壁際へと戦闘態勢ではりついた。
睨みつける視線の先で水差しを持ち上げていたオスマン氏はロングビルが警戒を解かないのを見て取ると、残念そうに水差しをサイドテーブルの上に戻す。
「そう警戒せんでくれんかの? わしも傷つくんじゃが……。」
「あ……。 すみません、オールド・オスマン。 少々錯乱していたようです。」
おどけたように苦笑してみせるオスマン氏にロングビルは警戒を解くと、今更のように身体を襲う倦怠感にふらつく。
心配し、寝るようにうながすオスマン氏に大丈夫だと返しつつ今まで寝ていたベッドではなく、窓際の椅子へと腰を下ろした。
「さて。 目が覚めてそうそうで悪いのじゃが、報告を聞かせてくれないかの。 無理そうであればまた明日でもよいのじゃが。」
「いえ、大丈夫です。 いささか記憶が曖昧ではありますが……。」
オスマン氏が聞く前でロングビルは事の経緯を話していく。
ギトー教師とルイズの使い魔であるサイトが小屋へと突入したのを見計らったかのようにゴーレムが出現し、その際に跳ね飛ばされ。 森に墜落して気絶してしまっていたというところまで説明を終えるとふと口をつぐんだ。
なにやらふむふむと一人うなずいているオスマン氏をちらりとみると、わずかに逡巡するように眼を伏せ、意を決したように顔を上げる。
「オールド・オスマン。 フーケはどうなったのですか?」
「ふむ? あぁ、フーケか。 フーケは今も自由にしておるよ。 まぁ手酷くやられたじゃろうし、おとなしくしてくれるといいんじゃがのぅ。」
茶目っ気たっぷりにウィンクするオスマン氏に同意して微笑んで見せたロングビルは、その後フーケ騒動についての案件で二、三の指示をした後退室したオスマン氏の足音が遠く聞こえなくなってから大きく息を吐き出した。
椅子の背もたれに隠していた予備の杖をもとのように隠すとサイドテーブルにおいてある杖をとり、そのままベッドにダイブする。
しばらくうつぶせでおもいっきり脱力していたが、胸のせいで息が苦しくなってきたので仰向けになる。
「あー、こりゃ私がフーケだってばれてるね。 拘束も問いただしもしないってのはなにを考えているのやら。 ……なにも考えてないのかもね。」
椅子の下に回り込んでいたネズミのモートソグニルと若干のびていたオスマン氏の鼻の下を思い出すと、もう一度ため息をつき。
窓の外から微かに聞こえてきた旋律にゆっくりと眼を閉じる。
「そういや今日は『フリッグの舞踏会』か。 まったく、お気楽貴族様は楽しそうでなによりだね。 ……まぁ、」
この歌は嫌いにはなれないけどね、とつづけようとした声は言葉にならずに吐息となって拡散し。
あとには静かな寝息のみが響いていた。
こうしてフーケ騒動とよばれた騒ぎはこれにておしまい。
というよりは、より大きな騒動によってかき消されたのだ。
いやおうなく様々な人々を巻き込み、災厄をまきちらしていく。
その特大で最悪な騒動の名、それは。
『戦争』という。