書き殴り短編倉庫   作:餓龍

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とりま書けたので投稿してみる。

なお、一番最初に思い付いたのは『幻晶騎士の技術を応用すれば高性能な義肢作れるよね』でした。
そんで色々考えてくっつけてしていったらこんなんなってましたw

あ、続く予定は今んとこありませぬ。


魔狼と機女(ナイツ&マジック)

 黒い狼が駆けてゆく。

 

  花弁を舞い上げる風を纏い、幼い少女を背に乗せて。

 

 

 大木の虚から雨の降り続ける外を見る。

 

  その背に暖かな鼓動を感じて。

 

 

 やがて訪れる別れの時を知る。

 

  いつかの再会を夢見て。

 

 

   衝撃。

 

 

「(……ぁ……あれ、なにしてたっけ……?)」

 

 

 強い衝撃に揺さぶられ、意識を取り戻した彼女はぼうっとする頭で現状の把握を始める。

 

 

「(たしか野外演習で、魔獣が押し寄せてきて、それで、あぁ……)」

 

 

 記憶を振り返り、頭に当てようとした右腕が動かないことに気づき。

 すべてを思い出した。

 

 押し寄せる魔獣の大群。

 

  襲来する山のように巨大な師団級魔獣ベヘモス。

 

   皆が逃げる時間を稼ぐための絶望的な遅滞戦闘。

 

    人形のように叩き潰される級友の幻晶騎士。

 

     そして壁のように迫る巨大な尾の姿。

 

      衝撃。 激しく振り回される身体。 激痛。 暗転。

 

 

「(そっか……これじゃあもう無理、かなぁ……)」

 

 

 右腕は肘から先が内壁から飛び出した金属部品に押しつぶされ。

 左腕も折れているのだろう、歪にぐにゃりと曲がっている。

 両足も全身に力が入らないので確認できないが、しっかり紐を締めたはずの編み上げ靴が片方視界に入っているということは、膝で千切れでもしたのだろうか。

 すでに痛みはなく。 感じるのは全身を焼くような熱と、喪失感を伴う悪寒。

 耳鳴りがひどく、戦闘の轟音ですらほとんど聞こえない。

 右目は見えず、赤く染まった左の視界に映るのは未だに生きているのが不思議なほどに自分の命の液体で染め上げられた鉄屑の空洞(操縦席)

 

 

「(みんな、大丈夫っ、かなぁ。 エドガー、むりしないといぃ……なぁ……)」

 

 

 ひしゃげて中途半端に開いた装甲の隙間から差し込む光に眼を細め、その先の光景を想う。

 

 願わくば、密かな想い人が生き残れますように。

 

 どこまでも落下していくような錯覚に襲われ、意識が落ちる直前に最後に見たもの。

 それは夜明けの陽光を背に立つ、黒銀の巨狼の背だった。

 

 

 

 

 

「すごいすごいすごい! あんな魔獣がいたなんて!! なぜロボットではないのか、実にもったいない!」

「意味が分からない! が、今は戦いに集中してくれ! うおぉぇええええ!?」

 

 

 エルネスティ・エチェバルリアがその魔獣と出会ったのは、逃亡した先輩からグウェールを『借りて』ベヘモスと対峙したときであった。

 幻晶騎士の膝を越えるほどの巨体。 その体躯を覆う黒銀の毛並みを、纏う轟風に靡かせ。 自身の駆る幻晶騎士すら上回る速度でベヘモスを翻弄する、その狼のような魔獣の姿にエルは一瞬視線を奪われ。

 その直後、当然のように戦闘へと参加した。

 手を変え品を変えて戦い、途中目を覚ました先輩であるディートリヒから指摘されて倒された幻晶騎士の剣を拾うことで剣の消耗に対処し。

 狼の魔獣はその隙を補うように駆け抜け、ベヘモスの注意がエルのグウェールに向きすぎないよう翻弄し。

 今は到着した騎士団にベヘモスの相手を任せ、減りすぎたマナ・プールを回復するべく小休止中である。

 騎士団の到着と同時に姿を消した狼の魔獣に思いを巡らせつつ、エルは騎士団の攻撃を観戦する。

 しかし直後に発生する惨劇に、エルは狼の魔獣についての考察を止めざるを得なかった。

 躊躇なく思考を打ち切り、忘却してこれからに集中する。

 

 エルは再びこの狼の魔獣に遭遇するのは、そう遠い未来ではないと根拠もなく確信していたのだから。

 

 

「(強敵を相手に、突然現れた正体不明機との一時的な共闘! 再会しないはずがありませんし!)」

 

 

 

 

 

「(無茶しすぎたなぁ……。 これ、もう駄目かもしれん)」

 

 

 戦場より離脱し、安全そうな場所で寄り添う子供達に心配されながらふと思う。

 全身怪我だらけではあるが、やはり左前足が一番酷い。

 でっかい亀との戦闘でしくじった結果、やられた左前足はズタズタに切り裂かれ、関節がいくつか増えていた。

 これまでは自分が魔法と呼んでいる力で押さえ込んでいたが、魔力っぽい力が足りなくなったせいで魔法は途切れ。 止めどない出血が始まっている。

 

 

「(でもまぁ、無茶した甲斐はあったかな。 あの娘も予断は許さなそうだけど、助かりそうだったし)」

 

 

 大木の根本に寄りかかるように伏せる。

 とりあえず左前足の根本付近を咬んで止血を試みつつ思うのは、騎士ロボットから人間達に助け出されていた女の子の事。

 この世界に人外転生らしきものをしたばかりの頃、群に馴染めずに頻繁に人里近くへ近づいていた際に出会った幼い少女。

 結局短い期間しか一緒にはいられなかったが、あの経験は人間との生存競争ではなく、共存を目指すことへのモチベーションになっていた。

 大きすぎる亀の化け物から退避する途中で再会することになるとは、おまけに気の弱い子だったあの子が亀の化け物から仲間を逃がすために戦いを挑む姿を見ることになるとは思いもしなかったが。

 妙に覚えのある匂いがするなぁと思えば、成長したあの子登場である。

 正直自分の前世が人間でなければ、今生が嗅覚の発達した生物でなければ。 成長による容姿の変化で気づけなかったやもしれん。

 まぁ、あの子であると判断した一番の決め手は俺がつけてしまった顔の傷跡なんですがね!

 

 

「(さぁて、これからどうするか。 さすがにこの傷では群の長を続けるわけにもいかんし、隠居かな)」

 

 

 番にはもう寿命で先立たれているし、もうすぐ孫が生まれるし。

 息子も突然変異な自分ほどではないが立派な体格で、長の後継にはふさわしいだろう。

 流石に頑丈な今世の身体でも脚が一本もげかけるほどの傷はこたえるのか、意識が薄れていくのを感じる。

 これからを思案しつつ、俺は子供達に囲まれて意識を落とした。

 

 

 

 

 

 『フレメヴィーラ王国』。

 

 魔獣蔓延る『ボキュース大森海』と接する唯一の国であり。

 必然的にもっとも長く魔獣との争い……、いや生存競争を続けている国である。

 そんな魔獣を敵視する風土の中で近年、とある噂が囁かれていた。

 

 

  曰く、その魔獣は人を襲わない。

 

 種類にもよるが、基本的に魔獣は人を『狩りやすく、数の多い獲物』としてみている。

 生活領域が重ならないが故に疑似共存している魔獣はいても、犬と人のように互いに共存関係を築いた魔獣はこれまでにいなかった。

 ところがその魔獣は生活領域が重なっているにも関わらず、人と出会っても襲わない。 否、無視しているのだ。

 むしろ、人を餌にすべく他の魔獣が襲いかかるのを利用し。 その魔獣を狩っている節すら見られている。

 

 

  曰く、その魔獣はこれまでに確認されたどの魔獣とも異なる姿をしている。

 

 これまでに目撃されたその魔獣の外見は、『黒銀の体毛に白銀の文様。 幌馬車を超えるほどの体高を持つ巨狼であり、嵐のような轟風を纏っている』というもの。

 狼のような姿で風を操る、『暴風狼』(ストームウルフ)という馬ほどの体格と灰色の毛皮を持つ魔獣がおり。 それを十数匹引き連れて行動しているという目撃証言もあることから『暴風狼』の突然変異なのでは? と考察されているものの、特定の領域にとどまらず移動し続けるという特性からその生態は謎が多い。

 

 

  曰く、その魔獣は体格からは考えられないほどの戦闘能力を持つ。

 

 戦闘能力は、確認されているだけでも『遭遇した幻晶騎士から逃げ切る速度』を持ち。 『強化魔法の適用された幻晶騎士の装甲を破壊した』力を持つ、決闘級であるとされている。

 さらには目撃された近くで綺麗に食い尽くされた決闘級魔獣の残骸が発見されることが多いことから、日常的に決闘級魔獣を狩っているのだろう。

 

 

 そして、そんな魔獣である巨狼は今。

 

 

「おぉ!! 大きいですね! そして本当に襲いかかってきません! すごいすごい、あのときみたのをこんなに近くで見れるとは思いませんでした! 本当になぜその毛並みが装甲でないのか、変形しないのかが悔やまれる……!!」

「エル君ー!? 戻ってきてぇー!! 魔獣が装甲纏ってたりしたら大変でしょー!!」

「そうじゃねぇだろう……」

「グルル……」

 

 

 ライヒアラ騎繰士学園を中心に発展した町、ライヒアラ学園街。

 その郊外の森にて目撃された巨狼。 しかし、これまでのことから警戒はされど積極的な討伐は行われなかった。

 なにしろ人間には手を出さず、むしろ周辺の魔獣を餌として狩るため一時的に魔獣被害が減少するのである。

 警戒態勢を強化し、刺激しない範囲で動向を調査するにとどまっていた。

 

 が。

 

 そこは暴走特急エルネスティ。

 損傷が比較的軽微だったためにすでに修復の完了していた学園の幻晶騎士を従え(なお単独で突撃しようとするのを周囲が押さえた結果)、目撃情報から次に出現する可能性の高いポイントを割り出すと『開発中の新型騎の野外動作試験』の名目で突撃したのだった。

 

 なお一発で接触に成功した模様。

 

 確率すらねじ伏せる恐ろしい執念である。

 

 

「よし、連れて帰りましょう!」

「「はぁ!?」」

 

 

 そして突拍子もなさすぎる発言である。

 大騒ぎになる人間達を横目に、巨狼は左前脚を失っているとは思えない動きで森へと姿を消すのだった。


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