書き殴り短編倉庫   作:餓龍

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ふふふふ、再投稿にあたって読み返してますが、キッツいですねこれ……
当時にハマっていた作品の影響を見事に受けてますし、未熟でやりすぎでイタタタタ……


第1章 02 制約と日常

 

草木までもが寝静まり、人の音の絶えた深夜。

魔法学院の生徒寮である塔の一室。 そこに、俺はいる。

正直に言えば、いまだにしんじられなかったりもする。

なにせ、つい最近まで誰も訪れることの無い宝物庫に放置されていたんだから。

 

ざっと200年程。

 

実は俺に寿命は無い。 精神は人のままだから、精神死はありえるが。

さらに言うなら、俺は眠れない。 痛みを感じない。 息をしていない。 口もない。

だから、約200年俺は起きたままだし、飲まず食わずってことだ。

……ここまで言えばわかると思う。

俺は人じゃない。 魔剣『インテリジェンスソード』だ。

元は人間だったはずなんだが、気がついたらファンタジー上等な存在になっていたうえに動けない。

しかもあきらかに自分の物じゃない記憶が無数にある。 老若男女、果ては動物から幻獣の物としか思えないものまで。

さすがに認識できる記憶は極一部だが、おぼろげながらも検索までかけられるのだ。 好奇心のままに調べ、そして知った。

ここは、『ゼロの使い魔』の世界であり、俺は今のこの身体……魔剣に知識を蓄積するために死後この身体にひきよせられ、憑依させられただけの存在だと。

俺の前任者達は、皆時間の流れに精神を削られ、有用な記憶だけを残して消滅している。 俺もそうなるはずだった。

だけど。

 

「んぅ……。」

 

もはや自分の名前すら忘れてしまった頃に、この子……クルトに出逢った。

当時の俺は、消えかけの意識のまま、ほかの記憶は希薄なのにそれだけは妙に鮮明に残る歌達をただ歌っていただけだった。

今にして思えば、その『歌の記憶』こそが俺の『有用な記憶』だったのだろう。

俺の声は、魔剣単体では人間の可聴域からはずれた音しかだせない。 現にそれまでは人に気づかれることはなく、観衆は周囲のガラクタだけだった。

しかし、彼女は聞きとってくれた。

生まれつきの全盲で、まだ幼い彼女は普通の人間には聞こえない領域の音まで聞くことができた。 そして歌うことが好きな彼女は皆が聞こえない俺の歌に興味を持ち、俺のところまできてくれた。

嬉しかった。 自分の歌に気づいてくれたこともだが、なによりも自分に『喜び』という人間らしい感情を与えてくれることが嬉しかった。

だから。

 

「……すぅ…ん……。」

『キシッ……。』

 

少しだけ『貰い』、構成した『身体』を使ってはだけた毛布をひっぱりあげてやる。 その際に、顔にかかる髪もあげてやった。

幼い頃の彼女はまるで陽の光を溶かし、そのまま固めたようなハニーブロンドだったが、今ではすっかり色褪せ、白髪混じりの銀灰色となっている。 ……おそらくは、彼女の故郷であるアルビオンでいまだ貴族派と争っているはずの父と兄を心配しての心労が原因だろう。

どうやら、盲目であることもあり、留学とは名ばかりの疎開をさせられているのだろう。

寝入る直前まで彼女は剣のままの俺を抱きしめ、なにも言わずに泣いていた。 ただ、静かに、泣き疲れて気絶するように眠るまで。

……誓おう。 俺は、この子に幸いをもたらすために、この身を使うと。

幸いにもこの身体は魔剣であり、前任者達が残した原作知識を含む膨大な知識がある。 多少の無理ならとおせるはずだ。

消えかけだった俺を救ってくれたうえ、一度死に、目的を持たない俺に使い魔という役割までくれた。 それに見合うだけの働きができるかはわからないけれど。

 

『コkoニ、チカう。 おれは、貴女の剣。 盾。 鎧にして鎖の騎士。 この身の全てを、貴女に捧げる。」

 

双月の月光の下で、頭を下げる。 忠誠を誓う。 俺の全ては、彼女のために。

 

……ただ。

セリフがクサすぎるうえに、月光に浮かびあがる俺の姿が人じゃないってのが、こう、あれだ。

違和感ありすぎだった。

 

 

  * * * * *

 

 

クルトは他の生徒達と同じく、『アルヴィーズの食堂』で食事をとっている。 そしてこれは魔法学院内を移動する際全般に言えることだが、この『トリステイン魔法学院』にはバリアフリーの概念は存在しない。

そのためにちょっとした段差や階段等が多く、目の見えない彼女にとって施設間の移動等はいささか危険をともなう。 ゆえに彼女の手をひき、誘導する役割が必要となる。

この役割は当初は同じクラスの生徒達の当番制だったのだが、ディテクトマジックを視覚のかわりに使用可能になった時点でクルト自身の要請により廃止されており、今ではもっぱら一部の生徒達だけにより自主的に続けられていた。

そして、今日もまたその『一部の生徒達』の一人がクルトの部屋の前にたち、扉をノックした。

 

「……迎えにきた。」

『あ、すこしだけ待って?』

「わかった。」

 

どうやら着替え中だったらしく、衣擦れの音とともにかえってきた声に了承の意をかえす。 と同時に、いつもの事ながら目が見えないにもかかわらずほとんどの事を自分一人でやってしまうクルトに、すこしだけ不満になる。

それが自分を頼ってくれない事にたいする感情だということには気づかず、今日も彼女……タバサは扉の前で小さなため息をつくのだった。

 

「おまたせ、いこうか。」

「ん。」

 

声とともに扉を開けてでてきたクルトの姿は、当然ながら制服姿だ。 ただし、クルトはかなりゆったりとしたサイズを好むため、その身体の線はすっかり隠れてしまっている。

その事を少し残念に思い、ふと以前一度だけぴったりと身体の線のでるドレスを着ていたクルトの姿が脳裏をよぎる。

 

(綺麗だった。 とても。)

 

その姿は、おなじく身体の線のでる扇情的なドレスを着ていたもう一人の友人とはどこか違った。

華やかに妖艶な姿と儚く幻想的な姿。 当時はまだ二人とは友人ではなく、また他人に興味を持てなかった自分ですら目を奪われたその光景は、無粋な輩のせいで一瞬にして壊れてしまったけれど。

 

(今は関係ない。)

 

自分の目的を思いだし、意識をきりかえる。

誘導のために一言声をかけてからクルトの手をとり。 違和感に気づいた。

いつのまにか黒鉄色のネコ科の動物のようななにかがクルトの足元に腰をおろし、こちらを水晶としか思えない瞳でみつめてきていたのだ。

体長90サント、肩高70サント。 尾長40サント程のソレはリンクスとよばれる幻獣にそっくりだが、その体表は黒鉄特有の色と光沢を持ち、無機質な瞳は眼球ごとただの水晶玉のようだ。

 

「これは?」

「? なにが?」

 

タバサの短い質問にクルトは最初なんの事かと首をかしげていたが、やがて足元の存在の事を聞かれているのだと気づくとやわらかい笑みをうかべる。

 

「この子は、私の使い魔のアリア。 よろしくね?」

『キリリリリ……。』

「使い魔……。」

 

口をひらいてまるで鎖の擦れるような音をだしてみせているクルトの使い魔の姿と、昨日召喚後に崩壊した鎧との差に釈然としないものを感じつつも、これはこういうものなのだろうと納得。

クルトの手をひき、ついてくるアリアをそのままに食堂へと歩きだした。

 

 

  * * * * *

 

 

食堂に到着してみれば丁度全員がそろったところのようで、友人との会話のために席を離れていた生徒達が席につきはじめていた。

普通の生徒達は自分の学年のテーブルであればどの席についてもよいのだが、クルトには席が用意してある。

テーブル同士の間隔はかなりひろめにとってはあるがそこは安全第一。 ほかの生徒とぶつかったりしないよう、かなり大きな長テーブルの入口に近い端の席が、クルトの席だ。

 

「ついた。」

「ありがとう、タバサ。 今日はここで食べる?」

 

タバサが手をひいてやれるのは椅子のそばまで。 クルトはディテクトマジックをとなえると、すぐにまるで目が見えているかのように着席する。

自分も返事のかわりに隣の席にすわると、こちらにやわらかな笑みをみせてくれた。

 

「タバサ、あなたの使い魔はどんな子?」

「風竜の幼生。 名前はシルフィード。」

「へえ、よかったじゃない。 でも部屋にはいれられないでしょうし、どこに住まわせるの?」

「学院近くの森。 シルフィードが自分で巣をつくる。」

 

タバサにとって、向こうから話を振られているとはいえここまで饒舌になるのは珍しい。

それどころか、好物であるはしばみ草のサラダを食べる手が僅かながらも止まる事すらあるのだ。

そして、その光景を眺める視線がひとつ。

 

(わたしとタバサも、まわりから見ればあんな感じかしらねぇ……。)

「どうしたんだい? キュルケ。」

「なんでもないわ、エイジャックス。 それよりもね……。」

 

恋人(候補)の声に視線を戻すと、キュルケは艶然と微笑むのだった。

 


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