ダンジョンに飯を求めるのは、間違っているだろうか?   作:珍明

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閲覧ありがとうございます。
更新、遅くてすみません。

・9月14日、リンのパーティーリーダー、モルドの取り巻きの名前が判明したので付け加えました。
あとがきのキャラ説明も付け足しました。


鍛冶師

 おじいちゃん、僕はLV.2になりました。

 待望のスキル『英雄願望(アルゴノゥト)』まで発現して、【リトル・ルーキー】という二つ名まで頂いてしまって、ちょっと照れくさいです。

 冒険者としてはまだまだ駆け出しだけど、僕、日々の成長を実感しています。

 

「おらあ! 【リトル・ルーキー】! ぼさっとすんな!!」

 

 そんな僕は今、モルド・ラトローさん+お仲間2名。

 

「どうして上層に動く鎧が……キキ、矢の数はまだ足りるか?」

「大丈夫」

 

 カカさんとキキさんの6人で上層11階層にて、狩りをしています。

 え? ライオスやリリとパーティーを組んでいたんじゃなかったって? 

 

 ――――どうしてこうなったかなんて、僕が知りたい。

 

●○

 時間を遡ること12時間前。

 『豊穣の女主人』にて、ライオス、リリ、シル、リューの5人でベルのランクアップを祝っている時の事だ。

 

「折角のミノタウロス……ミノタウロス……」

「まだ言っているんですか、ライオス。中層に行けば、いくらでも出会えますよ」

 

 遠い目をしながら、ぶつぶつと唱えるライオスにリリは溜息をつく。

 

「ライオスさんはミノタウロスがお好きなんですね」

「いや、……はは」

 

 シルの無邪気な笑顔にベルは苦笑する。

 

「お三方は今後、中層へ向かうおつもりなのですね」

「……はい、勿論、調子を見てからですが……」

 

 1人冷静にパーティーの今後の方針を確認するリューにベルは恐縮して答える。

 

「そうですか、差し出がましい事を言うようですが、今の仲間のままでは13階層以降へ潜るのはまだやめて置いたほうがいい」

「リリ達では中層に太刀打ちできないとお考えですか? ライオスも何か言って下さい」

「そこで俺に振るのか? ……実際、リューの言うとおりだ。中層は魔物の数や出現頻度が段違いになる。サポーターのリリも戦力に入れている状態では、不測の事態に対処しづらい。もう1人……出来れば後衛がいいな」

 

 リューの助言に噛みつくリリから意見を求められ、ライオスは素直に現状と改善点を答える。

 

「……それなら、チルチャックさんに頼めないかな? あの人なら、ライオスとリリとも親し……」

「ライオスぅううううう!! 水くせえ、なんで俺らに声掛けてくれねえんだよ!?」

 

 ベルが言い終える前に唐突な叫び声がしたかと思えば、ライオスは後ろから羽交い絞めにされる。首を絞められたライオスはエールを煽っていた為に油断し、噴き出す。

 

「モ……モルド、ごふごふ。なんだ、いきなり……」

「大体、俺らとは組まねえのになんで【リトル・ルーキー】とは狩りに行ってんだあ! ずりぃぞお! どうせライオスにおんぶに抱っこで楽してLV.2だろう!? そうだろう!」

 

 ライオスの言葉を遮り、モルドはガクガクと彼を揺さぶる。ベルへの罵りにリリとリューが鋭い視線で乱入者を睨む。

 

「なんだあぁ、その生意気な面は? 違うってんなら、狩りで証明してもらおうじゃねえか! 明日は俺らと迷宮に潜んぞ」

 

 直接、睨むリリとリューではなく、堪えているベルにガンたれたモルドはライオスを揺さぶり続けながら勝手に宣言する。

 

「はあ!? ちょっと勝手に決めないで下さい」

「……え? 明日?」

「いいんじゃないか?」

「「え?」」

 

 激昂するリリ、困惑するベルを差し置いてライオスは閃くように呟く。まさかの肯定にシルとリューは聞き違いかと発信源をガン見してしまう。

 

「……えええ? てめえが賛成すんのかよ」

 

 言いだしっぺのモルドも驚いて手を止める。

 

「中層には準備が出来てから行くんだし、今日明日の事じゃない。それまでに色々な経験を積むといいだろう? 他のパーティーと連携を組んで学べる事もある。決めるのは勿論、ベルだ」

「……えと……。リリ……」

「よおし! なら明日、朝一番に集合だ。俺んとこのファミリアからこいつら以外で後2人、連れて行くからな。6人でちょうどいいだろう! 逃げんじゃねえぞ【リトル・ルーキー】!」

 

 ベルの返事も聞かず、モルドは溌剌とした笑顔でライオスの肩をバシバシ叩く。酒代を払って仲間と去って行った。

 残された一同は、微妙な視線をベルに向ける。

 

「行くのですか……クラネルさん? 断るのも大切ですよ」

「逃げんじゃねえぞお!!」

 

 冷静なリューの声に被せて、外からモルドの声が聞こえた。

 

「モルドってあんなに強引な奴だったか? 長い付き合いだと思ってたけど、知らなかった」

「ライオスが余計な事を言うから、いけないのではありませんか? もう、しょうがないですねえ。明日はリリが陰ながらベル様をお守りしますので、安心してください」

「……あ、うん。もう行くの決定なのね、了解……。ライオスの知り合いみたいだし、そう悪い人じゃないと思うよ」

「そうですね。ライオスさんのお知り合いですから、そうそう悪い事なんて起こりませんよ。さあ、ベルさん。今は食べましょう。あれだけ騒いだら、さぞ、お腹も空いたでしょう」

「シルの言うとおりです。明日に備える意味でも食べましょう」

 

 シルの言葉で気を取り直し、ベルは滲み出る嫌な汗を拭いて食事を続ける。ずっと見物していた野次馬の視線も消え、ライオスはまた「ミノタウロス……」と呟きながら、エールを煽った。

 

●○

 動く鎧は6体、今の人数と同じ数だ。ハード・アーマードを物のように押しのけながら、突き進む。

 動く鎧の剣を避けつつも、昨夜の回想を済ませたベルは相手の関節部分に切り込みを入れる。ナイフの曲線は肩と腕を見事に切り離す。

 

「奴らへの攻撃手順を知っているのか?」

「いえ、あいつらの動きを見ていたらなんとなく」

 

 背中を預けて語りかけるカカへベルはに正直に話す。その間、後方からキキのボウガンによる攻撃で、動く鎧は全ての関節部分に矢を受けて動きを止める。

 

「腕を斬り落としても、自力で繋いでしまう。バラバラにしたら、退却する。……こんな時、タンスじいちゃんがいれば魔法で粉々にしてくれるんだが……」

 

 カカに従い、自分達の相手をバラバラにしてベルとキキは下がる。他の冒険者もいたが、動く鎧を見た瞬間に逃げだした。

 

「くそお、こっそり中層に誘い込んであわよくば置き去りにしてやろうと思ってたのによお。台無しじゃねえか!」

「あ、やっぱり、そんなこと企んでたんだな。らしくない事すると思った」

 

 目の前の相手に切り込みを入れながら、モルドは叫ぶ。仲間の戦士ガイルが納得しつつも、自分の分を終わらせる。

 

「ちょっと、こっちも手伝って……ひぃ」

 

 もう1人の仲間スコット・オールが自分の相手にてこずっている間、他の動く鎧が繋ぎ終わって向かってくる。それを見たベルは咄嗟にファイアボルトの構えを取った。自分の手が白く光っているとも気づかずに――。

 

「ファイアボルト!!」

 

 唱えた瞬間に手から放たれた白い輝きは、連なるように立っていた3体の動く鎧を一撃で粉砕した。

 錯覚のような光景に呆気に取られたが、残りの動く鎧に腕を斬りつけられたモルドが最初に我に返る。

 

「よ、よし! 形勢逆転だ! 残りは2人で1体仕留めろ!! とにかく、腕を動かせ!」

 

 号令となり、ベルはモルド、カカとキキ、ガイルとスコットで3体の動く鎧は片付いた。

 

●○

「やるじゃねえか! 【リトル・ルーキー】!! 今日はわざわざ中層まで下りなくても稼がせて貰ったぜ」

 

 ギルドで今日の稼ぎを分け合い、モルドは上機嫌だ。肩をバンバン叩かれ、ベルは曖昧に笑う。

 

「けど、調子に乗るなよ。ライオスは本来、てめえなんぞがパーティーを組める相手じゃねんだ。もし、ライオスの足を引っ張るようなことがありゃあ、ただじゃおかねえからな」

 

 脅しとも言える文句を述べ、メンチを切ったモルドは威張り散らす歩き方で去って行く。

 

「さっきの魔法、ありがとね。モルドはあんな事言い方してるけど、本当はライオスとパーティー組んでくれて喜んでいるの」

「そう……なんですか?」

「まだ駆け出しの【リトル・ルーキー】はライオスの噂を知らねえだろうけど、いろいろと言われているんだよ。【ただのライオス】とかな。ライオスは確かに変わり者だ。でもそれは、冒険者全員に言える事だ。まともな奴は冒険者なんてやってられねえ。【リトル・ルーキー】が組んでくれなかったら、ライオスはまだ独りだっただろう。だから、ありがとうって話だ」

 

 スコットとガイルは呆れたようなそれでいて納得した笑みで、ベルに感謝を述べる。

 

「ライオスの噂?」

「知らない」

「……その2人は基本、タンスっていうノームの冒険者の話しか聞かねえから、噂とかに疎いんだ」

 

 カカとキキが首を傾げ、ガイルは呆れて溜息つく。

 

「さっきも言ってましたね。タンスさんって、今日は来なかったんですか?」

「他の仲間がロキ・ファミリアの遠征に着いて行ったから、しばらく休みにするってタンスじいちゃんが決めたの。その間、私達はいろんな人とパーティーを組んでおけって言われて」

 

 ゆっくりとした口調で説明するキキ、納得したベルの鎧を眺めていたカカが指差す。

 

「ここ、割れている」

「え? 肩か……」

 

 見えない部分なので、ベルは助かった。

 

「馴染みの鍛冶屋がいるなら、送ってく」

「いえ、僕この後、アドバイザーのエイナさんと話をしないといけないので……これで失礼します。皆さん、今日は本当にありがとうございました」

 

 真摯な態度で礼を述べるベルに4人は手振りで返した。

 一同が解散し、ベルはエイナと今日の狩りについて話す。無論、中層の動く鎧が現れた事も含めてだ。

 

「うーん、ミノタウロスの時みたいに遠征の冒険者から逃げていたって考えるのが自然でしょうね。そっちはしばらく注意が必要かな。それにしても動く鎧まで倒しちゃうなんて……、あいつらは1体をLV.2が2人がかりでないと倒せないのに……本当に運がいいんだから」

「中層のモンスターに遭遇している時点で運なんて良くないですよ」

 エイナの言葉を全力で否定し、ベルは鎧の肩にある割れを思い出す。

 

「そうだ、エイナさん。ヴェルフ・クロッゾって人知りませんか? この鎧の製造者なんですけど……」

 

 尋ねられたエイナは一瞬、驚いて目を丸くする。そして、視線をベルから外して換金口へと向ける。つられてベルもそちらへ目を向けた。

 センシが着流しのの青年と話している。

 

「あそこでセンシさんと一緒にいる人、彼がヴェルフ・クロッゾよ。へファイストス・ファミリアの冒険者でLV.1。鎧や武器も作れる鍛冶師……。今、センシさんの料理に使う包丁も彼の作よ」

 

 センシの料理と言えば、魔物の肉だ。ヴェルフもまたライオスの考えに賛同した人物なのだとわかり、ベルは巡り合わせに嬉しくなる。

 

「僕、ちょうど鎧を直して貰いたかったので話してみます。ありがとうございます、エイナさん」

「ちょっと……ベルくん! まだ話……、もう……」

 

 話の途中で飛び出すベルをエイナは呆れていたが、その表情は優しく微笑んでいた。

 

●○

「動く鎧? そんなものが上層に来ていたのか?」

「はい、でもご心配なく。ベル様達が倒してしまわれました。ベル様ったら、魔法の一撃で3体もです! いつもと違って威力が凄まじかったですよ」

 

 待ち合わせ場所の噴水でベルを待つライオスは、彼を見守っていたリリから今日の狩りについて話を聞く。

 

「ベルはよく中層の魔物に遭うよな。……何かドロップアイテムはなかったか?」

「……まさかと思いますが、食べる気ですか? 鎧を?」

 

 急に真剣な顔つきで問いかけるライオスに、リリはドン引きだ。

 

「迷宮にいるんだ。きっと、食える」

「食うも何もドロップアイテムはありませんでした。残念ですねー」

 

 からかうリリと違い、ライオスは本当にガッカリする。そこに待ち人がようやく現れた。

 

「ヴェルフじゃないか、ベルと一緒だったのか」

「ライオスさんは彼を待っていたんですよね。すいません、俺が引き留めたようなもんです」

 

 ライオスはベルと一緒にいるヴェルフに挨拶した。

 

「あれ? ベル様、鎧はどうされました?」

 

 ベルは装備していた白い鎧を脱いでおり、ヴェルフが木箱を持っていた。

 

「今日の狩りで傷つけちゃったから、ヴェルフさんに修理をお願いしようと思ってね」

「はー、そうですか。では、鎧が直るまで狩りはおやすみします?」

「安心しろ、俺の腕なら明日には間に合わせるぜ。チビ助。じゃあな、ベル。俺はこれで失礼します、ライオスさん」

 

 チビ助呼ばわりされたリリが抗議の声を上げる前に、ヴェルフは快活な笑顔で別れを告げた。

 

「今日の狩りはどうだった? モルドとの連携を組めたそうだが」

「うん、おもしろかった。カカさんとキキさんっていう双子の冒険者も一緒だったんだ。同じ戦士でもライオスと動きが違ってたし、モルドさんの友達から……嬉しい事言われたし、そうだ、中層の魔物がまた上層に上がってきてたんだ。動く鎧って言って、中身がないのに動くんだよ。ライオスやリリは見た事ある?」

 

 無邪気な笑顔で今日の冒険譚を話すベルの歩幅に合わせながら、3人は『豊穣の女主人』へと向かった。

 

「成程、鎧を修理する対価としてヴェルフを仲間にする事になったんだな。いいんじゃないか、欲を言えば後衛が欲しかったがそれはベルの魔法でも補えるし」

「よくありませんよ! リリはちっともよくありません!! ベル様、そんな大切な事をライオスは抜きにしてもリリには一言ご相談して頂かないと困ります!」

「ライオスは抜きにって……リリ、容赦ないね」

 

 狩りを無事に終え、夕食にありつけた喜びを分かち合う。そんな中で重要な報告をするベルにリリは文句を付ける。

 

「仲間といえば、ライオスのほうは誰か誘えた? チルチャックさんは?」

「それが全然……。というか、団長にうちのファミリアの奴は誘うなって怒られた……。俺と違って皆、スケジュールがキチンと管理されているんだと……」

「それ……嫌われているんじゃないんですか? チルチャックもリリと立ち位置が被るって断わられました」

 

 残念な結果にベルは一瞬ガッカリしたが、ヴェルフという仲間を得た事で前向きになる。

 

「こんばんは皆さん。随分、盛り上がってますね」

 

 料理を運んできたシルにベルは挨拶する。

 

「無事に帰って来られたようで何よりです。朝からシルが心配していました。あまり、シルに心配をかけないで下さい」

 

 別のテーブルに料理を運ぶリューが小さいがハッキリと囁いて通り過ぎる。

 

「……あ、すみません。心配されるような事は何も……良い経験をしました」

「良かった……。どんな経験をしてもこうして会って頂けるだけで、嬉しいです」

 

 上目遣いで見つめくてくるシルへの魅力に緊張し、ベルは若干上擦った声を上げたが素直な気持ちを言えた。

 見つめ合う2人にリリはつまらなそうに見つめ、ライオスはぼそっと「年上キラー」と呟いた。

 

(しかし、ヴェルフ……LV.1だったのか、てっきり鍛冶師として駆け出しだと思ってた……。《鍛冶》のアビリィティもなしにセンシやベルが一目置く品を造りだせるか……。ベル同様、将来有望だな)

 

 きっと、追い抜かれるのも時間の問題。

 不安ではなく、期待に胸が膨らむ。この2人がオラリオの誰よりも名を馳せた時、一緒に狩った魔物の料理を食べられれば最高だ。

 

(食べるなら、階層主がいいな。大体は巨体だし大勢の人達に食べて貰える。どんな味がするんだろうなあ……持って帰れるか? 前みたいにセンシを連れて行けないなら、俺かもしくは……)

 

 リリに視線を向けたが、勘の鋭い彼女の手は「×」を示し、ライオスは心底、残念に思った。

 

●○

 工房に戻ったヴェルフは夕食のパンを齧りながら、木箱を開ける。先日、ようやく売れてくれた鎧だ。

 まさか、噂の【リトル・ルーキー】が購入していたとは思わなかった。しかも、わざわざ修理を依頼してきてくれるなど、なんという巡り合わせかとヴェルフは歓喜に震えた。

 

 ――お話し中すみません。ヴェルフ・クロッゾさんですよね? 僕、ベル・クラネルって言います

 

 ヴェルフは白髪で赤目の容姿から、彼がベルだとすぐにわかった。ライオスの事もあり、話してみたい相手だったが、フルネームで呼ばれる時は魔剣絡みが多いのでいつもの癖で身構えてしまい恥ずかしい。

 修理の代わりにパーティーに入れて欲しいと頼んだ時も、ベルはあっさりと受け入れてくれた。

 もし、ベルとライオスが別々のパーティーだったら、正直、悩んだだろう。ナマリの言葉もあるが、今は仲間が出来た喜びをひたすら喜んだ。

 

 完璧に鎧を直し、待ち合わせに来てみればサポーターのリリは下宿先のご主人を看病する為に休んだ。

 

「折角、ベルの鎧も直ったんだ。今日のサポーターは俺がやろう」

 

 ライオスのとんでもない申し出に恐縮したが、ベルも反対しないのでそのまま11階層へ下りた。

 初めての二桁階層に来れた喜び、役割分担を決めてオーク達を狩る。2人の邪魔にならないようにライオスが魔石を拾っていく。少々、彼の視線が強い。

 

「なんか、すごい見られてるな」

「普段は前衛だから、後ろから眺めるのが珍しいんじゃない?」

(ヴェルフの太刀って包丁みたいだ。あれなら階層主も料理できるよなあ……)

 

 真面目な顔でライオスが勝手な想像をしているとも知らず、ベルとヴェルフは手を休めない。

 

 仲間は良いモノだ。そんな実感を得て、本日の狩りは終わる。報酬をキッチリ三等分し、仲間と得た稼ぎにヴェルフは感動した。

 

「またドロップアイテムなかった……。ここのところ何も獲れないから、そろそろ材料が尽きそうだ」

「それが普通だと思うけど、……もしかしたら時期とか関係しているのかも」

「ドロップアイテム? 何か欲しい物でも?」

 

 ヴェルフの質問に2人は顔を見合わせ、魔物の部位を手に入れていたのはドロップアイテムによるものだと明かした。

 

「へえ、って事は結構な貴重品を食っていたんですね。俺達」

 

 狩りのついでに魔物を引き千切るなど、公にしにくい方法で得ていると勝手に想像していた。

 

「ベルが倒したミノタウロスも角じゃなくて、肉を落としてくれればいいのに」

「それまだ言うの? 本当にライオスは食べる事ばっかりだね」

 

 ぶつぶつと不満を述べるライオスにベルも呆れて苦笑する。2人の間に見える信頼が正直、羨ましい。

 

「ヴェルフが仲間になるのは本決まりとして、俺は本拠に帰るよ。中層に下りる許可を団長に貰わないといけないから……」

「今度は怒らせないようにして下さい」

 

 確約は出来ないが了解したライオスは先に別れ、ベルは当たり前のようにヴェルフを夕食に誘った。

 

「ヴェルフさん、この後、時間ありますか? 僕のファミリアの神様に紹介させて下さい」

 

 親しみやすい笑顔だが、口調や呼称は他人行儀だ。

 

「俺より年上のライオスさんは呼び捨てなんだろ? だったら俺もそれでいいぜ」

「え? でも……ヴェルフさんもライオスのことさん付けですよね……」

 

 そうだった。

 年上で冒険者の先輩でもあるライオスには礼儀もあって自然と丁寧な態度で接していた。人の事が言えない状態だと気づき、ヴェルフは自分の顔を手で覆う。

 ベルは先ほどのライオスの言葉を思い出す。

 

「……そうか、うん。僕達、仲間だもん。堅苦しいのはなしだね。……ヴェルフ、改めてよろしく」

 

 差し出された手を見て、ヴェルフは体の奥底から震えが来た。

 センシやライオスはヴェルフをクロッゾではなく、個人として認めてくれた。ベルはパーティーの仲間として迎え入れてくれた。

 

「ああ、末永く。よろしくな、ベル」

 

 震えが涙腺を通って涙に変わる前に、ヴェルフはベルの手を取った。

 

●○

 リンは先日、LV.2にランクアップした冒険者である。しかし、ちょうど同じ日に【剣姫】がLV.6になった大ニュースが重なり、ファミリア内でもあまり注目されなかった。

 大手のファミリアでしかも最強の剣士と比べるつもりは毛頭ない。だが、最速でLV.2になった【リトル・ルーキー】は先を越されたような衝撃を受けた。

 

「ふーん、また中層の魔物が上層に来ているね……。わかったよ、ミィシャ。ありがとう」

「いいえ、【軽薄な黒豹】の実力なら問題ないと思いますけど」

 

 ギルド職員ミィシャと親しげに話すのはリンのパーティー・リーダーであるカブルー、去年LV.2になり二つ名を【軽薄な黒豹】などと付けられた戦士だ。自分達の神デメテルのお気に入りになる程の実力を持っているのだ。

 にも関わらず、古参の冒険者には格下に見られがちだ。本人はそれを一切、気にしていないのが時々ムカつく。

 リンには冒険者としての矜持がある。

 故に目指すのは、全ての階層を制覇。勿論、未到達領域も含めてだ。ロキ・ファミリアのような大遠征ではなく、純粋に自分達のパーティーだけで成し遂げる。カブルーなら可能だとリンは信じている。

 不意にリンの視界に剣士が入り込む。

 柱にもたれた剣士は瞑想して、今日の分け前を待っていた。

 

「ゲドのことだけど、本当に中層に連れて行くの? まだLV.1じゃない。クロの怪我が治ってからでも遅くないはずだわ」

 

 大剣使いのミノタウロスに襲われ、クロは重症を負った。他の仲間を庇ってのことだ。

 6人全員揃っていれば、勝てる相手だった。

 でも、その日だけはクロ達は3人で狩りをしていた。リンのランクアップを祝う為、資金を稼いでいたそうだ。

 

「クロの治療費が思ったより高かったし、壊れた装備の修理代もいるんだ。休んでなんていられない。大丈夫、リンもLV.1の頃から中層には何度も降りて平気だったろ? それにゲドはクロと同じ刀使いだ。連携もそこまで崩れないよ」

 

 仲間である獣人クロの代理として引き入れたゲド・ライッシュは、それなりの腕を持っている。それは今日の狩りで証明された。

 しかし、あの目つきは頂けない。アレは仲間を見る目ではない。物腰も粗野でリンは感覚で好かない。正直、カブルーの人を見る目を疑う。

 

「リン、アイツの裏切りを恐れているなら心配いらない。ゲドも稼ぎが欲しいはずだ。それだけなら俺達の利害は一致しているんだ。馬鹿な真似はしないさ。……させない」

 

 笑みを浮かべているが、その瞳はリン以上にゲドを信じていない。彼が最も頼もしく見える表情に安心した。

 

「頼りにしているわ」

「いつもそれだけ素直だったらいいのに」

 

 二つ名に似合う軽薄な笑みを向けられ、リンは杖でカブルーを小突いた。

 

 

 




閲覧ありがとうございます。

モルドのファミリアが知りたい。
カカとキキ、タンスじいちゃんはモルドと同じファミリアにしました。二つ名は思い浮かばないので別の機会にします。

ゲド再登場、きっと使いどころはある……たぶん。

リンの二つ名も考えてなかった……。
原作5巻にてやっと名前がわかったカブルー。【軽薄な黒豹】は見た目のイメージで付けました。



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