ソフィアさんのお見舞いに行ったあと、シュワさんのところへ行く。
タイ出張の定番だ
。
このときが一番空気が重い。
ただ今回は少しだけ話題があった。
クロエがインストラクターとしてシュワさんのところに詰めている。
たくさんの兄弟が増えた。でも馴染まない子たちもいる。
特に困ったのは、ある程度戦闘訓練を受けた後、町に戻りたいと言い出すタイプ。
イヌワシの慈悲を何だと思ってるんだろう。
困っていた父にシュワさんが提案していた。俺に預けてみないか?と。
そして今日、シュワさんのところに来る。
よく来たな、待ってた。と言っていつもの怖い笑顔で僕らを招き入れる。
しばらくキャンプ・ハキムの話をする。
子供たちの数、収支、食事、武器、仕事、勉強。
イヌワシの仕事の幅広さを実感する。
「で、実際のとこは?」
シュワさんの声がちょっと大きくなって、はっとする。
「絶賛、飼い殺され中ですね」
父が苦笑いしている。ガハハと笑いながら、わかってるならいいとシュワさんが言っている。
まったくわからない。
「まぁ手を引いたとか言いつつ、食えるだけの援助をくれてるってことは何かしらあるんだろ」
「その何かしらを知っておかないと、切り捨てられる前兆がわからないわけで」
「援助を打ち切るとかは前兆にならんのかね?」
「援助なんて建前ですよ。せこく援助をしながらヤバくなったら即切るのがトレンドらしいです」
「そうだったな、俺もそうだった」
「今はそうじゃない」
どうだかなと言ってシュワさんが立つ。
「夕飯を買いに行かせる」
そういって子供たちのところにいく。5~6才の本当に幼い子供たちだ。
今から買いに行くのだから夕飯はもうしばらく先だろう。
ジブリールは黙って座ってるし、僕も問題は無い。
ジニが幼い子供をあやしている。いつもどおりだ。
「クロエはどうしていますか?」
ちょっと気になってシュワさんに聞いてみる。
困った顔をした。この人は結構裏表が無い。
「警戒に出ている。お前らが来てるのは知ってる。戻れと言ったんだがな」
「警戒を続けてるんですね」
「まぁそうだな」
シュワさんはため息をつく。
「イブン、シュワさんをいじめないで」
急に横から言われる、ジニだった。
いじめてたか?
「アラタが来ているのに、クロエが警戒を怠るわけがありません」
ジブリールが追い討ちをかけてくる。
そうか、そうだよな。
じゃあ。
「クロエのかわりに警戒に出ます」
そう言って装備を整え始める。
「まぁそう言うだろうとは思った。わかったクロエは呼び戻す、お前は出るな」
それじゃ警戒が足りなくなる。
「アラタ、いい機会だからあいつを紹介しようと思うんだが」
「あぁなるほど。わかりました」
父が答えている。僕たちは何の事かわからない。
「ここらへんを仕切ってるチンピラの親分がアラタに会ってみたいと前から言ってるんだ」
そんな素性の知れないやつを近づけたくは無いんだけど。
警戒を見直そうと話してるのになんだろう。
「自由戦士社ってとこで兵士をやっていたそうだ。アラタの指示で命が助かったんだと」
素性がわかったら、もっと近付けたくなくなった。
あの会社は信用ならない。
「エディという。呼べばヤツの部下が周辺の護衛に来るだろう。自動的にあいつらからの攻撃もありえなくなる。一石二鳥だろ、ガハハ」
シュワさんは色々考える人だ、きっと信用してるんだろう。
わがままは言わないことにした。
ジブリールとジニを見てお互いに頷く。外の警戒はともかく、室内での警戒を密にしよう。
結局心配は杞憂だった。
エディという人は確かにキャンプモリソンで見たことがあった。
その点は嘘ではなかったので安心する。
食事をしながら彼が昔話を始める。
OOとしての能力を褒め、あの新月の夜に基地から命からがら脱出できたのはあんたのおかげだと、
しきりに父に礼を言っていた。
父を褒める人には好感が持てる。
その後の自分の話をマイペースに続ける。
会社からの給料は全て借金取りに持っていかれるから、会社には戻らなかったこと。
あの地域から西に行くとヤバイからこちらに来たと言う。
確かにあそこから西は紛争や難民などの問題が山積みだ。
傭兵として仕事はあるだろうけど、危険度の高さが桁違いだ。
そして1年ほど前にこのあたりに流れてきたら、チンピラに絡まれたらしい。
叩きのめしたら逆に仲間に誘われた。
いつの間にかボスにされていたと、自慢げに話は進んでいった。
イヌワシが子供たちを育てていることを褒め、自分も最近子供を雇ったこと。
その子供が死んでとても後悔していること。
お酒を飲む量が増え、だんだんおかしくなっていた。
最終的には酔っ払って泣きながら愚痴を言って帰っていった。
なんだったんだろう。
あとでイヌワシに聞いてみよう。教えてくれるといいけど。
行間あけてみました。