マージナル・オペレーション 異聞録   作:さつきち

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とりあぞー。

ユキさんをポンコツにしないと話がすすまなそうだったので、ファンの方すみません。


アメヨコ再び・下

『後悔先に立たず』という日本の言葉はこういうことかと痛切に感じる。

 

つまり、ユキさんの話は続いていた。

 

祖父が死んで遺産を分けるときに、ひと騒動あったこと。

 

その中に僕が譲り受けてしまった懐中時計の話があったこと。

 

あの懐中時計には計り知れない価値があるのだとか。

 

「叔父さんたちが必死に探していたのよ」

 

確かに僕が持っている。

 

「正当な後継者の証なんですって。今時、わらっちゃう話よね」

 

言いながら、ユキさんの目が笑っていないように見える。

 

いやまぁ、この流れなら撤退の道は少し見えた。

 

心が落ち着いてくる。

 

僕らとイヌワシの関係を知ってるわけでは無さそうだ。

 

いや、落ち着いてくるとそれさえも問題じゃないことに気付く。

 

「あの、失礼かも知れませんけど」

 

彼女の話をさえぎった。

 

「この時計、大切な物のようですのでお返ししてもいいと思ってます」

 

文字通り、懐から時計を出して見せた。

 

ユキさんはびっくりした顔をした。

 

そして急に笑い出した。

 

「あはははっ、遠い国のイブンはほんとにいたし、時計もほんとにあったのね。おじいちゃんサイコーだわ」

 

ウケてくれるのはいい。

 

こっちゃそれどころじゃないんだけどね。

 

「で、返してくれるの?」

 

「はい」

 

面倒ごとになりそうな物品は手放すべきだ。

 

ジブリールの父がくれた装飾品も、厄介ごとのタネだった。

 

もちろんそのおかげで生きてもいるんだけど。

 

「この家紋、トリさんと同じですね」

 

唐突なサキの言葉で現実に戻る。

 

え?なんだって?

 

急にサキが英語で会話に入ってきた。

 

これはきっと援護だ。

 

「キャンプでアゲハチョウをスケッチしてたら、たまたまトリさんがいて」

 

まぁそういうこともあるだろう。

 

「私の描いてる絵を見て言ったんです。ウチのカモンだなって」

 

そんなことが。

 

「その後、家紋というものを説明してくれて」

 

「じゃぁきれいに描きますねって言ったら、サキの思うままに描きなさいって、言われました」

 

サキの表情は僕が見たことの無いものだった。

 

その時の状況を思い出して、うっとりしてカンジ。

 

モヤっとする。

 

この感情はなんなんだろう、と思いつつ別の事を思い出す。

 

以前、父の前でラスルと私物についてのやりとりをしたことだ。

 

あのとき父は、この時計が自分に関わりのあるものだとわかったんだ。

 

でも僕には言わなかった。

 

イヌワシには絶対、追求してやると心にきめる。

 

 

なんか、了見のせまい感情ばかりだな。

 

ちょっと心が傾きかけたところ、にユキさんから声がかかる。・

 

「まぁ、そのままイブン君が持っておいてよ」

 

こちらの返そうという決意とは裏腹に、軽い結論。

 

ユキさんの決定だ。

 

「今更見つかったって言っても、あの修羅場の再現だしねぇ、私も面倒事はゴメンだし」

 

そんなもんか。

 

「おじいちゃんがキミに渡したなら、そういうことなんでしょ」

 

妙に納得したように言われる。

 

そういうことって、どういうことなんだろう?

 

意味がわからない。

 

でも、じーさんの遺志も尊重したいとも思う。

 

「では、このまま預からせてもらいます」

 

「じゃそれでお願いします」

 

ユキさんは深く頭を下げた。

 

 

その日、僕とサキはなんとか撤収できた。

 

生活用品は手に入らなかった。

 

要注意人物を確認できた。

 

要注意人物からマークされてることを確認した。

 

環境が違いすぎて、プラマイがよくわからない。

 

『文化がちがーう』ってやつか。

 

 

ただ、何もわからない状況じゃない。

 

一歩、一歩。だ。

 

明日を目指して進もう。

 

心配そうにこちらを見てるサキに微笑む。

 

「大丈夫さ」

 

サキの手をとり、そう言う。

 

「知ってます」

 

妙な返事だと思った。

 

「でも、自分の身も大事にしてくださいね」

 

そういって僕の左腕をとって、身を寄せてきた。

 

嬉しい。

 

右側をあけてくれてるのはサキの配慮だろう。

 

より良い明日のために。

 

今日を、今を、大事にしようと思った。

 


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