マージナル・オペレーション 異聞録   作:さつきち

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言い訳はしない(笑)



アメヨコ再び・上

 

思いもかけず出てきた強力な門番、サキからの「タコヤキあーん」を突破してアメ横に入る。

 

メルキドかここは。

 

父から教えてもらった、日本の古典ゲームを思い出す。

 

日本に来てから、様々な情報量が多すぎて思考が散漫になる、良くないな。

 

それとも慣れて行くものなのだろうか。

 

そしてさっきから、チリチリと視線を感じるのが気になる。

 

なんだろう?ハッキリとした意思を感じない、こちらを監視にしてるにしては中途半端すぎる、指向。

 

何かに見られてるような気はする。

 

まぁ、いいか。ほっとこう、あまり害意を感じないから。

 

タコヤキを食べたあと「何故か」サキの機嫌がいい。

 

だから万事オッケー・・・な気がする。

 

「何故か」の部分がわからないから、アレなんだけど。

 

もやもやと考えていると、

 

「あ、ここですね。ADIINて看板があります」

 

サキが店を見つけたようだった。

 

相変わらず観察力が高い。

 

「うん、確かにここだ」

 

サキの目を見て言う。いつもの笑顔、嬉しそうだ。

 

一回しか来たことの無い店。

 

「心に残っているんだ」

 

また来たい。またあの店主に会いたい。また店の中をゆっくり見て回りたい。

 

そんなふうに色々と感じる場所は、すごく貴重だと父が言っていた。

 

そんなような事を話しながら店に入る。

 

そして僕にとっては、この店は本当にそのような場所なんだろうかと考える。

 

どうだろう、あの年老いた店主に会いたいのは間違いないけど。

 

わざと照明を弱くしているのだろうか、薄暗く感じる店内。

 

以前来た時の感覚がよみがえってきた。カウンターの方を見る。

 

何故か岩砂漠の風を感じる、あの年老いた店主が・・・

 

いなかった。

 

そこには若い黒髪の女性がいた。

 

あの時の店主と同じように脇にあるテレビを見ている。

 

日本人、女性、横ポニーが特徴的だ。白いブラウスに紺色のエプロンを着けている。

 

くりっとした目が特徴的だ。

 

何だろう、どっかで会ったことがあるような気がする。

 

しいて言えばイトウさんに似ていなくも無い。

 

(この人はもっと若くて、目が澄んでいて、快活そうだけど)

 

何故か・・・感じた事柄に心のガードをかけてしまった。

 

口に出していたら、どうなっていたんだろう。

 

いろいろと気になって、さらに色々と観察しようと、、、

 

「イテッ」

 

サキに背中をつねられた。

 

見ると「むーっ」とした顔でにらまれた。

 

「違う、ちがう」

 

見とれてたわけじゃないんだ。

 

色々と誤解がある。

 

が、サキはちょっと怒った顔もかわいい。

 

かわいいなぁと思ったら、自分の顔が緩むのを抑えられなかった。

 

結果、

 

サキは更に怒った。

 

正直に言うか。

 

「サキは怒った顔もかわいいと思ったんだ」

 

怒った顔が、驚いた顔になり・・・赤くなってうつむいてしまった。

 

どうしよう。

 

「あら、いらっしゃいませ。気付かなくてゴメンナサイッ」

 

ちょっと困っていたらカウンターの女性が声をかけてくれた。

 

明るい笑顔で、明るい挨拶が来た。

 

いやでも、僕らが店に入ったところから気付いていたでしょう?店員さん。

 

視線をこちらに向けずにテレビを見ながら、僕らを伺っているのはわかっていた。

 

なんでそんな変な嘘つくんだろう?

 

まぁいいか。

 

「いらっしゃいませ」

 

も一度言う。

 

店員さんは笑顔で軽くお辞儀した。反動で横ポニーの黒髪が揺れる。

 

なんなんだろう?また変な印象を受ける。

 

僕はこの人に会った事が無いはずなのに、会った事があるような気がする。

 

袖を引っ張られて正気に戻る。

 

サキがこちらを見て少し怪訝な表情をしていた。

 

大丈夫と言ってうなずく。まずは店主のことを聞こう。

 

「こんにちは。僕はイブンと言います。こちらの店主に会いに来たんですが、いらっしゃいますか?」

 

「おじいちゃんのお知り合いですか?」

 

なるほど、あの年老いた店主のお孫さんか。

 

「知り合いってほどでもないんですが、以前来たときにお世話になりまして」

 

女性の店員さんの顔が曇る。

 

そしてじっとこちらを見た後に口を開く。

 

「祖父は昨年他界しました」

 

そう言って目を伏せた。

 

タカイってなんだろう。

 

隣に居るサキが息を呑む。彼女は意味がわかったようだ。

 

よくないことだなと、雰囲気では理解した。

 

日本語の勉強不足だ。

 

「すみません外国の方だったんですね。つまり・・・死んだんです」

 

直訳してくれた。

 

ていうか、ああそうかやっぱりなと思った。

 

なんとなく予感でもしてたんだろうか、あまりショックではなかった。

 

「サキ、帰ろう」

 

ただ、とても買い物できるような気分でもなくなっていた。

 

「それはダメですイブン」

 

思いもかけず、きつめの口調でサキにとめられた。

 

振り返ると、先ほとはまた別の真面目に厳しい顔になっていた。

 

「お線香をあげさせてもらうべきです」

 

まっすぐこちらを見ている。

 

「お世話になった方なら、なおのことです」

 

重ねて言われて、店員さんに目をやる。

 

店員さんは優しく僕を見ていた。

 

「お線香、あげてくれますか?」

 

そう言われた。

 

なんとなく砂漠の故郷を思い出した。

 

 

 

日本の仏壇に向かっての作法など、まだ知らない。

 

サキに色々と教えてもらいながら、なんとかお線香をあげる。

 

勉強不足だ。

 

店員さんはお茶を出してくれた。

 

「おじいちゃんは、東京に出てきた私のめんどうを見てくれたんです」

 

そのあと、店主のことを語りだす。

 

本当は祖父ではないこと。

 

都会に出てきた自分の世話をしてくれたこと。

 

「わたしはお兄ちゃんを探して東京に出てきたんです」

 

そして、自分の事も語りだした。

 

僕らは黙って聞いていた。

 

これも日本の弔いの形なのだろうか。勉強不足だ。

 

この大都会で親族を探してるのか、大変だなとか考える。

 

たださっきから、

 

気になるのは、僕をじっとみていることだ。

 

「イブンさん、でしたよね?」

 

「はい」

 

と答えるしかない。

 

けど、なんだ。

 

「私は新田ユキといいます」

 

うぇ

 

思考がとまった。

 

イヌワシの妹じゃないか・・・。

 

これはマズイ。うっかりサキのほうを見て援護を求めるわけにもいかない。

 

こちらを見ているユキさんの笑顔が

 

「挨拶が遅れてごめんなさい」

 

笑顔に見えない

 

この人は

 

「そちらのお名前は知っていましたから」

 

どこまで

 

「おじいちゃんから色々聞いてて」

 

ぼくらの事を

 

「会ってみたいなって思ってました」

 

知っているのだろう

 

「ほんとにいたんだって感じです」

 

・・・え?

 

「おじいちゃん、ボケがはじまってたみたいで・・・最近は認知症っていうんですけど」

 

ここに来たのは間違いだったかもしれないと思い始めた。

 

「懐中時計を遠い国から来たイブンに譲ったとか言ってたんです」

 

こちらを見ている目が怖く感じる。

 

僕は何も答えられずに固まっていた。

 

サキの手が僕の服の裾を掴んだのがわかる。

 

その瞬間、ここに来たのは間違いだったと確信した。

 

遺品は返してすぐに帰りたいと思う。

 

まぁ無理だろうなと感じながら、父の言葉を思い出す。

 

今更遅いけど。

 

「戦場から撤退するのはたやすいことじゃない」

 

「撤退を念頭に置いた作戦で、撤退の準備をしていてもだ」

 

今ここで向けられている銃も無く、油断の出来ない密林もなく、敵兵も見えない。

 

だがここも、たしかに戦場だったんだ。

 

いかに僕らが『普通の無害な日本人』を演じようとしても、まだ無理な話だったのかもしれない。

 

目の前の人間の意図がわからない。

 

僕は準備不足だった、この情報戦において。

 

既に退路は無かった。

 




続く・・・プロット・下書きはできてるんだけども。

漫画でいうとネームは出来てるけどペン入れ、仕上げまで行けてない。

皆さん、良いお年を。

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