マージナル・オペレーション 異聞録   作:さつきち

17 / 23
夏だ、祭りだ、花火だ、タコヤキだ!


タコヤキとは

日本に来たら、絶対に行こうと思っていた場所がある。

 

そう、あのとき行ったアメ横。

 

以前に行ったときに感じた、あの独特の雰囲気・・・忘れられない。

 

みんな楽しそうで、活気のある町並み。

 

そして嘘や武器の必要の無いところ。

 

いやアメ横だけじゃなく日本全体がそうなんだ。

 

日本では「嘘」はあまり必要無いよって言っていたのは中国人の友達だ。

 

彼は言っていた。

 

「日本という国はいいねぇ。山があって海があって。僕の故郷は農地と荒野だけだ。なにかを買おうとしても偽物だらけ、嘘だらけだ。日本は安心してモノを買える。清潔な食べ物もある。」

 

ふと、賞味期限の改ざんの話題を出したけど、逆に笑われた。

 

それは食べられるものだ。プラスチック米やダンボール肉まん等は別次元だと思わないか、と。

 

同感だと思う、そして逆に日本人はおひとよし過ぎるとも思う。

 

 

 

どうせ生活用品を買うなら、あの店で買おうと思っていた。

 

『ADIIN』

 

サキに声をかけたら、二つ返事で一緒に来てくれた。

 

駅で待ち合わせる。

 

迎えに行くといったら、サキがかたくなに駅での待ち合わせにこだわった。

 

よくわからないけど、サキの要望どおりにした。

 

駅の待ち合わせスポットで予定通りに、会う。

 

初めて見る白いワンピース姿。とても良く似合ってる。

 

率直にそう伝えると、満面の笑みで喜んでくれた。

 

そしてその後も楽しげに笑っている、何だろう。

 

「デートですね♪」

 

僕の腕をとって横に並ぶ。

 

こっちを見ているサキの笑顔が眩しい。

 

そうか、これがデートか。

 

言葉を控えめにしてるけど、なんかすごく楽しそうなサキだった。

 

エヘヘと笑ってるサキがかわいい。

 

自分も何度も同じような事を考えてる気がする。

 

サキがカワイイ病かな。

 

どうしよう、近すぎて困る。何かの戒律にふれてないだろうか?

 

 

ともあれ歩きながら目的地の説明をする。

 

アディーンっていうんですか?ブランドショップみたいな名前ですね。

 

との感想。

 

「オシャレなお店なんですか?」

 

ちょっとサキの顔が曇る。そっち系の店は苦手なんだろうか。

 

「・・・いや、そうでもないよ」

 

控えめな表現になってしまった。

 

かなり古い店だったように思う。ギャップに驚かないといいけど。

 

 

かつて一度だけ来たこの街、アメ横。

 

やっぱり人だらけだ。とまどう。

 

だけどサキはもうこの程度の人混みは、普通に慣れた日常のようだった。

 

そして当然慣れた感じで案内してくれる。

 

「はぐれないで下さいね」

 

デートは男性からエスコートするものだと勉強したんだけど。

 

現状はまるで逆だった。サキが生き生きとしてる、楽しげだ。

 

僕はうまくできてない。

 

つまり今はサキが僕の腕をとって先を歩いてくれる、エスコートされてるのは僕だった。

 

でも、今日はそれでいいのかも。

 

先達に任せるのが基本だとも習った。

 

僕は異国の地に来て、うかれているんだろうか?

 

あまりしっかり警戒態勢をとるとサキが心配するから、

 

不自然じゃない程度に警戒しながら歩く。

 

ふと、サキが先導してくれてることを疑問に思う。

 

「ADIINの場所を知ってるの?」

 

「はい、昨日調べておきました」

 

さらっと言われる。

 

頼もしいけど、やはり自分で案内できない不甲斐なさを感じる。

 

やれやれだ。

 

まぁいいか、目的場所も重要だけど、サキが楽しんでくれてるならデートも重要だ。

 

なんとか頭がそちらに回った。

 

途中でサキを呼び止めて買い食いを提案する。

 

少しおなかもすいていた。

 

買い食いがデートらしいかどうかは微妙だけど、他に考えが浮かばなかった。

 

そして浮かんだ食べ物、そう。

 

タコヤキ。

 

オマルの食べていたアレを試してみるのもいいと思ったんだ。

 

タコヤキを食べたいと言ったら、サキの顔が赤くなった。

 

なんでだろう。

 

とりあえず屋台のひとつに行って、買ってみる。

 

爪楊枝にさして、口に運ぶ。

 

結果。

 

とても熱い、危険な食べ物だった。

 

日本の食べ物の中には熱いとか冷たいとか極端なものがある。

 

特に飲み物は基本的に冷たく、氷が入ってる。

 

ラーメンといえば熱々で、しかも豚が入っているのが当たり前。

 

ムスリムにとってはこれも危険だ。

 

熱いタコヤキを口に入れて、あたふたしてる僕を見てサキが笑ってる。

 

これは食べ方があるんですよ、と言った。

 

そう言ってサキは、ぱくっと食べた。ほふっほふっとやっている。

 

コツがあるのかな。

 

「おいひぃですよ!」

 

ほふほふしているサキがかわいい。

 

今日はサキのそんな面ばかりが気になる。

 

そんなふうに見ていると、サキはもぐもぐしていたタコヤキを飲み込んだようだ。

 

爪楊枝の先に、次なるタコヤキをひとつ刺した。

 

ちらっとこちらを見ながら、それをふぅ、ふぅっと、ふいている。

 

これは知ってる、野生動物が獲物を見つけた目だ。

 

冷や汗が出てくる。

 

なんでだろう・・・今すぐここから撤収しないと困ったことになる気がする

 

いや、撤収とかいうレベルじゃなく撤退が必要だ、今すぐ。そう思う。

 

そんなこちらの心理を読みきったかのように、何かが迫ってくる。

 

サキはまっすぐ僕の目を見ながら「それ」を差し出した。

 

さっきとかわって満面の笑顔になっている。

 

「はいっ。これが最も正しい食べ方です」

 

目の前にはサキの愛情たっぷりのタコヤキが差し出されている。

 

こ、こうやって食べるのか。これがトラッドなのか? さらに汗が出た。

 

周りの人が見ている気がする。いや間違いなく見ている。顔が熱い。

 

食べさせてもらった。

 

「ほふっ」

 

ほどよい温かさになっていて、おいしい。

 

「おいしぃよ、サキ」

 

目を見て言う。

 

ちょっと恥ずかしかったけど、それ以上に気持ちが高揚したように思う。

 

お返しに、ひとつを爪楊枝にさして、サキに差し出してみた。

 

びっくりしたように顔が赤くなった。

 

サキはかわいい。

 

 

 

 

 

 




こんな章ばかりが書きあがって行く・・・。

次回「ADIINの店主」に乞うご期待!

来月になると思いますケド。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。