マージナル・オペレーション 異聞録   作:さつきち

16 / 23
前回の続きは重いので割愛します。ヒマがあれば上げますが多分つまんないです。

それより問題があります。

日本でサキに彼氏がいるとかなんとか。




日本へ

何年ぶりだろう、日本の空港。

 

あいかわらず賑やかだ。混雑してるように見えて実際は整然としてる。

 

日本独特の雰囲気を感じる。

 

みんなで降り立ったときの、この場所を思い出す。あのときはハキムがいた。

 

そしてみんなで暴漢を撃退したんだ。

 

思い出しながら角をまがる。

 

すぐに見覚えのある女性が目にとまる。

 

あのての姿勢は軍人独特のものだ。

 

サイトウさんがまっすぐこちらを見ていた。偶然のはず無いよな、多分。

 

ため息をころして歩いていく。こちらからは声はかけない。

 

万が一偶然だったときにマヌケに見えるかもしれないから。

 

「久しぶりね、イブン」

 

サイトウさんに声をかけられた。万が一は無かった。

 

そんな考えこそマヌケだったのかも。

 

「ご無沙汰しています、戦友」

 

そういってジョークのつもりで敬礼した。もちろん笑顔は忘れない。

 

サイトウさんは少しびっくりた表情だった。

 

「化粧は薄くしたんですね、よく似合ってます」

 

勉強したトラッドな日本語で挨拶をしてみた。

 

「ちょっと背が伸びたのね。お世辞も言えるようになって」

 

「はい。父がしっかり食べさせてくれてますから。あと、お世辞ではありません」

 

「ありがとう、イブン」

 

サイトウさんは少し楽しそうだった。

 

なるほど、出るときに父が言ってた迎えってのはこのことか。

 

柔らかい笑顔のサイトウさんは初めて見る。

 

ジャングルでは見なかった表情だ。

 

あちらに車を用意してあるわ。といって歩き出す。

 

なるほど、ここはサイトウさんのホームなんだなと思い知らされる。

 

「助かります。正直うまく電車に乗れるか自信がありませんでした」

 

本音と言い訳が混じったような返事になる。

 

「すぐ慣れるわよ」

 

まぁついて行くしか無いんだけど。

 

周りを見るとみんなスマホを見ながら歩いている。

 

この国は変わってない・・・イヌワシならそう表現するだろうか。

 

 

 

車は白いCX-3だった。実用性重視なのは良いなと思う。

 

キャンプハキムでは、各国の色々な文化も勉強する。

 

特に自動車メーカーは男子兵の好むものだった。

 

察したかのようにサイトウさんが言う。

 

「地味でそこそこの性能のやつがこれしかなかったのよ。カーチェイスするわけでもないし十分よね」

 

なるほど、目だたない事も重要だ。

 

「カーチェイスは無いんですか?」

 

楽しそうなんだけど。

 

「ご期待に添えなくて残念だけど、実際には無いわね」

 

それは残念だ。

 

それはそれとして、この車は格好がいいなと感じた。

 

サイトウさんの運転で都内に用意された住居に移動を始める。

 

サキが学校の授業を終えるまではまだ時間がある。

 

食事でもして行きましょうか。

 

そうですね。

 

何か食べたいものは?

 

みたいな軽い会話を適当にしていく。

 

窓の外を流れるビルの景色が新鮮だ。

 

自然もいいけど、都会には都会の楽しさもある。

 

そういえば、

 

「ザクザクバーガーという店に行ってみたいです」

 

日本に来る前に調べておいた。

 

ハラールされた食材だけを使い、イスラムの教えに従ったものしか提供しないチェーン店。

 

「ファーストフードの店に思えるけどそんなものでいいの?予算はこちらよ」

 

「ムスリム用のお店と聞いています」

 

「・・・そうだったわね。ごめんなさい」

 

なんで謝るんだろう。

 

「ハラールの施されたものを正確に判断するのは、日本では難しいと聞いています」

 

「そうね。日本の文化の中でイスラム教徒は生活しにくいかも」

 

きっとサイトウさんの正直な想いなんだろう。

 

「でもそれは食事の話だけです。日本ではイスラム教徒もユダヤ人も差別を受けていないと」

 

サイトウさんは少し黙る。

 

「・・・どの神も信じていないだけよ」

 

そんな部族などありえるのだろうかと思った。

 

この国で勉強する項目がひとつ増えた。

 

 

斉藤さんがカーナビでザクザクバーガーを探してくれる。

 

サキの学校と、用意されてる住居の中間くらいの位置だった。

 

これは都合がいい。

 

「ファーストフードなんて何年振りかしら」

 

そういいながら少し楽しそう。

 

店に入った時間は2時過ぎ、店に客は少なかった。

 

サイトウさんがカウンターに向かうので付いて行く。

 

「いらっしゃいませ。メニューをどうぞ」

 

お店の女性が話してくる。

 

イブン何にする?斉藤さんが試すように聞いてくる。

 

こちとら日本のファーストフードも勉強済みだ、受けてたつ。

 

メニューを見るとたくさんのセットが写真つきで表示されている。

 

一番最初にあるセットを指差して、人差し指を立てて目を見る。

 

「これをひとつ」

 

「チキンのケバブセットをおひとつですね。ピタパンとバーガーがありますが、どちらにいたしますか?」

 

相手の発音が微妙でよくわからなかったけど、メニューの写真を見て見当をつける。

 

ピタパンで、と返す。

 

「お飲み物は何にいたしますか?」

 

「オレンジジュース」

 

「かしこまりました」

 

即座にお店の人は斉藤さんに向き直る。機械みたいだ。

 

「私も同じセットを、ピクルス抜きで」

 

相手に口を開かせずに斉藤さんが言った。

 

機械みたいだった。凄い国だ。

 

 

 

「結構おいしいわね」

 

ケバブを口に入れたサイトウさんが、目を大きくして言う。

 

おいしいは同感だ。ただ故郷の味を想像していたがこれは別物だった。マヨネーズとは。

 

そしてジュースが冷たい。失敗した。

 

「氷なしを頼めばよかった」

 

つい口に出る。

 

サイトウさんが笑っている。

 

ミャンマーのジャングルを思い出しているのかもしれない。

 

外の明かりがガラス越しに良く入ってくる。

 

いいお店だと思った。ここかな。

 

「サイトウさん、僕はここでアルバイトをしようと思います」

 

サイトウさんの目が丸くなる。

 

「あなた本気?立場がわかって言っているの?」

 

「わかっています。許可が出ないのであればやめますけど」

 

サイトウさんがつまる。

 

考えているようだ。

 

「あなたは今、留学生の身分です。アルバイトの選択は自由です。年齢的にも就労を制限する法律はありません」

 

あきらめたような笑顔で見てくる。

 

「バイトの募集はしてるみたいよ」

 

最後は投げやりにそう言ってくれた。

 

僕はサイトウさんより食べるのが早い。

 

食べ終わった後、早速カウンターに出向く。

 

「いらっしゃいませ」

 

「こちらでアルバイトしたいのですが」

 

店員の人は機械じゃなかった。

 

「・・・少々お待ち下さい」

 

そう言って奥に行く。てんちょーって呼んでた。

 

てんちょーと呼ばれた人が出てくる。

 

大柄で丸眼鏡が印象的なおじさんだ。

 

「キミかい?アルバイト希望ってのは」

 

「はい、ここで働かせてください」

 

てんちょーは、しげしげと見つめてくる。

 

「キミは外国人かい?」

 

「はい、外国人です。ダメですか?」

 

不安になる。

 

「いやダメじゃないです。確認しただけで」

 

そういって、てんちょーはちょっと笑う。

 

「じゃとりあえず面接が必要です。履歴書を用意してからもう一度連絡を下さい」

 

脇に積んであった店のちらしを1枚つまんで渡してくる。

 

電話番号はこれです。と言ってくる。

 

「電話はまだ持ってないんです。あと・・・リレキショってなんですか?」

 

初めて聞く単語だった。

 

てんちょーの顔がちょっと難しくなる。

 

「日本に来てどのくらい経ちますか?日本で他の店で働いたこととかは?」

 

どのくらい正確に答えればいいだろう?よくわからない。

 

「日本には今日来ました。1時間くらい前です。ひとつきほど前にも日本で働きましたが、リレキショは要りませんでした」

 

後ろでバシャっという水の音が聞こえる。チラっと見ると斉藤さんがオレンジジュースをこぼして慌てている。なにやってるんだ。

 

「そうか・・・うーん。電話を持つ予定はありますか?プリペイドの携帯でもかまいません」

 

「あります」

 

「履歴書について相談できそうな相手はいますか?」

 

もう一度、サイトウさんを見る。机の上を拭いている。

 

「まぁ・・・います」

 

「じゃあ電話が用意できたら、連絡を下さい。その時にまだ履歴書についてわからなかったら説明をします。OK?」

 

少し進展したようなのでほっとする。

 

「OK!」

 

笑顔でそう答えると、またちょっと、てんちょーが笑う。

 

「英語が話せそうですね」

 

そういって握手を求めてきた。良さそうな人だと感じた。

 

「イエス!」

 

握手をして僕は答えた。

 

てんちょーは、ヤギシタですと名乗った。

 

そして名前を聞かれた。

 

名のれるのはそれだけで嬉しい。父の誉れでもある。

 

「アラタの子、イブン」

 

胸を張って相手の目を見る。

 

てんちょーはOKイブンと言って興味深そうに僕を見ていた。

 

 

 

そのあとサキの学校の近くでおろしてもらう。

 

車の中で履歴書の説明は受けたが、あとはサキと相談することにした。

 

「ありがとう、サイトウさん」

 

勉強した日本語で、不自然の無い挨拶をしたつもり。

 

発音に自信はあった。

 

サイトウさんは静かに笑った。

 

「本気なのね」

 

「もちろんです」

 

じゃぁ協力してもいいわよ。そういって去っていった。

 

 

 

校門でサキを待つ。古風なレンガ造りの校門だ。

 

授業が終わったのだろう。サキが向こうから友達と一緒に歩いてくる。

 

久しぶりに見るサキ。

 

日本の制服というのだろうか、独特な服装だ。

 

女の子の友達としゃべっている、楽しそうだ。良かった。

 

まだ僕には気付かない。だんだんと近付いて来る。

 

5mくらいまで来て、やっとサキは僕に気付いた。

 

こちらも軽く手をあげる。

 

サキは持っていたカバンを落とした。手を口元にあてた。

 

こちらを見て驚いた顔をしている。

 

久々に顔を合わせたんだ無理も無い。

 

自然と笑顔になる。

 

「やぁサキ、やっとこれたよ」

 

それしか言えなくて、言う。

 

顔が赤くなってる気がする。

 

サキが小走りに走ってくる。

 

なんだ?

 

はて?あれか、もしかして狙撃の危険性かな?僕をかばおうとしてるのか。

 

キョロキョロと気になっている祖点を探る。

 

いや、どう警戒してもそんなターゲットは確認できない。

 

サキはもう目の前だ、両手を広げてる。サキは何やってるんだ。

 

 

 

抱きつかれた、全力で。いい匂いがした、ひなたの匂いだった。

 

抱きとめて、全力で抱き返した。

 

サキはただ僕を見て走って来てくれたんだ。

 

そう思うと嬉しかった。

 

「待たせてごめん」

 

「いいんです。あなたは来てくれました。イブン」

 

顔を上げてまっすぐこちらを見る。

 

かわってない笑顔。サキはやっぱり優しくて強かった。

 

 




はい、新しい彼氏の件は、飛行機の中でのイブンの悪夢でした。

すみません。

あ、石を投げないで下さいっ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。