マージナル・オペレーション 異聞録   作:さつきち

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「慣れだってよ」byカーチス


ハサンの帰還(下)

結局その日には手配が追いつかなくて次の日になった。

 

そして一日おいたおかげで、情報が広がった。

 

シュワさんやマフィアまで来てビール片手にガハハッとやっている。

 

昨日の今日でこっちまで来るなんて、物好きな。

 

「バカヤロウ、お祭り騒ぎにしちまいやがって」

 

隣のハサンが呟く。

 

お前が受けた勝負だろうに。

 

訓練場は超盛り上がっていた。どうしてこんなことになったんだろうか。

 

リングサイドは観客で埋め尽くされている。ジニが早々と手配をしたみたいだった。

 

エキシビジョン1 グウェン vs ク・ミエン

エキシビジョン2 ランソン vs オマル

メインマッチ    ハサン vs オスロ 

 

ホリーさんがジョッキをかかげてウィンクしてきた。ため息が出た。

 

1戦目はもう決着がつきそうだった。グウェンの勝ちだな。

 

「どうしたイブン、元気が無いね」

 

す、と横に現れたランソンに声をかけられる。

 

「えぇ・・・色々ありまして」

 

「そういう時は体を動かすといい。とりあえず頭の中は、すっきりする」

 

「でも問題は解決しません」

 

「問題を解決させるために、頭をすっきりさせるのさ」

 

そういって笑った。なるほど一理ある。

 

「イブンもどうだね。これから私はオマルとのエキシビジョンがあるが交代してもかまわんよ」

 

いつもなら即座に飛びついていたかもしれない。

 

オマルとの試合なら大歓迎だ。

 

でも今日は違った。

 

「ありがとうございます、でも今日はやめときます」

 

そうか、では私の闘いを見ていてくれ、と言ってランソンはリングに向かう。

 

ハサンも「そろそろ準備してくる」と言って離れる。

 

まぁこの対戦も予測はつく。ランソンの勝ちだ。

 

その後にはハサンの対戦がある。あいつが負けるところは見たくない。

 

でも、見届けてやらなければいけない。なんであいつは受けて立ったんだろう。

 

ランソンとオマルの対戦が始まった。

 

遊びだからだろうか、二人とも楽しそうだ。同じような格闘スタイルだ。

 

アメリカ海兵隊式の近接戦闘術なのかな。

 

いつもならもっと集中して楽しめるんだけど、意識が散ってる気がする。

 

そのくせ人ごみの中に黒髪がゆれているのが目に留まる。

 

うん。サキを見つけてしまった。そして振り返った彼女と目が合ってしまった。

 

苦しくなって、一瞬目をそらしそうになって、一秒だけ目を瞑ってからサキの方に歩き出す。

 

待っていてくれた。

 

何か言わなくては、でも何も出てこない。

 

「ごめんなさい、イブン」

 

いきなり謝られた。サキも気にしてくれてたんだ。

 

「なかなか言えなくて」

 

いいんだ。と言う。

 

「父に許しを貰って、日本に会いに行ってもいいかな?」

 

そんなふうに言ってみる。

 

「・・・はい」

 

返事に少し間があった。声が震えていた。

 

リングではランソンが座り込んで頭を横に振っている。オマルがガッツポーズをしていた。

 

オマルが勝ったのか、予想外だ。

 

「これからハサンさんの試合ですね」

 

「うん。でもハサンは勝てないだろう」

 

そういうとサキは少し怒った顔をした。

 

親しい兄弟が勝つ事を信じないんですか、といった。

 

願ってはいるが、勝つのはオスロだ。あれ、さっき同じようなことを思ったな。

 

リングにハサンとオスロが上がってくる。

 

オマルは勝った。なんでだろ、絶対ランソンの方が強いのに。

 

ハサンとオスロの戦いの始まりはお互いに慎重だった。

 

牽制を出し合う。でもどう見てもオスロの方に分がある攻防だ。

 

僕はどうしたいんだろう。リングを見てはいるがサキのことばかり気にかかる。

 

ハサンが唐突に裏拳で大降りをする。それはだめだ負ける。それは嫌だ。

 

よけたオスロが隙を突いて攻めた、一瞬、体が入れ替わり、逆にハサンがオスロを後ろから押さえつける形になっていた。

 

裏拳はフェイントだったのか。

 

ここにいた頃のお遊びなど超越した速度だった。何をしたんだ、見えなかった。

 

オスロは数秒耐えたけど、ハサンが締め付けを厳しくするとタップした。

 

その直前にハサンの口が少し動いていた。

 

あいつは、飛行機に乗るためにロシアに勉強に行ったのに、戦士として強くなったのか?

 

何を勉強してきたんだアイツは。

 

「ハサンさん強いですね」

 

サキは握った右手を胸に当てながらリングを見ている。

 

「自慢の兄弟だ、僕も強くなりたい」

 

そう、心の強い男になりたい。

 

「休みの日に会いに行くってのはやめることにする」

 

言った瞬間サキの表情が曇る。

 

言い方を間違えた。

 

「そのかわり一緒に日本に行くことにするよ」

 

ありったけの勇気を振り絞って、サキに言う。

 

「父にそう頼んでみようと思う」

 

そういってサキの手を握る。

 

一瞬震えたけど、

 

「はい、イブン」

 

といって軽く握り返してくれた。

 

顔は見れない。

 

泣いてないといいけど。

 

やっぱり気になってやはりサキの顔を見る。

 

サキは僕を見ていた。ひまわりのような笑顔だった。

 

なんかちょっと得意げな表情。

 

僕も笑顔を返せたと思う。変な顔になってないかな。

 

湧き上がってくる嬉しい気持ちでいっぱいになった。




私はアクションシーンが書けないことがわかりました。

修正はあとでもできると言う結論に至りまして、掲載。

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