モンスターイミテーション   作:花火師

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大変お待たせして申し訳ございませんでした(全力土下座)
サボってました。年単位でサボってました。
個人的な話なのですが、オリジナル含め色んな小説(人前に出せるやつとか出せないヤツとか、いつか出したかったな、ってやつとか、設定集とか)を書き貯めしていた媒体がデータごとぽっくり殉職してしまった為、やる気含めて全て消失しました。
もう小説書くのやめようかな、なんて長期間放心してたのです。ほんと、すみませんでした。
はい言い訳終了!
バックアップ、大事!


天竜空を行く

その斬撃は仮面の男の鉤爪を切り落とした。

 

想定していたよりも軽い反動に姿勢を崩したその一瞬、鎧で守られているはずの腹部を中心に、大きな衝撃が走る。

三半規管がぐるぐると錯乱し、まるで鎧の中をシェイクされている気分だった。

先刻と同様殴り飛ばされたらしい。

 

最も短い長剣の柄に触れる。

水晶が淡く輝き、吹き飛ばされた私の足場を形成した。

宙に固定された魔法防御陣(足場)

グレイのお陰で魔力の補充も出来た。これほどの残量なら足場に回せる魔力もしばらくは持つだろう。

 

六魔の仮面を被る彼の方を視界で捉える。

すでに生えた生身の腕をグー、パーと閉じ開き馴らしていた。

確実に斬った筈だが……血の跡もないのを見るに、斬ったというよりトカゲの尻尾切りのように分離したのかもしれない。

憶測が曖昧だ。再生か復元か。相も変わらず把握しきれないような奇術を使う。

滅茶苦茶な男め。

 

観察をしろ。

まずは状況を把握だ。

 

少し離れた位置には、目付きの鋭い蛇に乗った赤褐色の髪の男。

 

「……貴様は六魔将軍コブラだな」

 

「あぁ。今すぐてめえも殺りてえところだが……今は礼を言っとく。助かったぜ」

 

そうだろうな。

危うく殺されてしまうという所で介入出来たのは運が良かった。

 

本来なら、六魔同士が争うのは大いに結構。勝手に自滅してくれればこちらとしても万々歳。

……だったのだが、あの仮面の馬鹿を発見しまった以上、お好きにどうぞと放置する訳にもいかない。

それに、何やらいかがわしい魔法を無闇やたらに飛散させている。

 

「で、鎧野郎。俺はこいつを殺してでも止める。お前も手伝ってけ」

 

コブラからの申し出だった。

だが、それもやむ無い事か。

 

「闇ギルドといえど脅威の優先順位はわかるらしい」

 

「るっせえ。協力すんのかしねえのかハッキリしろや」

 

「闇ギルドと共闘というのも首を傾げる事態だが。しかしありがたい。私はあの男を正気に戻す。お前に殺させはしない」

 

「へー、そうかい。やっぱ正規のお坊っちゃんは言うことが違うね。正義正統でらっしゃる」

 

皮肉の籠った言葉だが、お互いの方針は決まったらしい。

背中を刺される心配はゼロではないにしても、あれを止めると言う意見は一致している。仕方あるまい。

 

「参考までにコブラ、六魔はあとどれだけ残っている」

 

私の問いかけに、鋭い目付きを更に険しく眉根を寄せた。

 

「……俺はてめえの仲間になった覚えはねえ。おいそれと内情を吐くとでも思ってんのかよ」

 

「やれやれ、上手くはいかないものだな。だがな、アレを仲間にしたのは間違いだったな。いつだって何かしら引き起こす人だ」

 

「そりゃあ確かに俺のミスだが……てか、てめえアイツの知り合いみたいな口を叩くじゃねえか」

 

「ああ。だからこそ率先して倒しに来た。一応恩人なのでな、ここで動かねば魔導士の名が廃れよう」

 

コブラは唸るように顎に手を当てた。

 

「ケッ。まさか誰彼構わず助けてんのかよアイツ……。まぁいい俺もヤツにはでけぇ借りがある。ヤツの本名を言ってみろ。ホントにヤツの事を知ってるなら、俺もてめえに本気で背中を預けるのも吝かじゃねえ」

 

闇ギルドの人間が本気で背中を預ける、か。

はは、相も変わらず無茶苦茶な男だ。六魔将軍のこんな危険人物をいつの間に懐柔したんだ。

 

「トージ。お人好しで根っからの馬鹿」

 

「……ケッ」

 

「ではこちらも問おう。彼の姓は?」

 

「チッ。アマカイだよ、アマカイ。(やか)しくて頭のイカれた善人様だよ」

 

「正解だ。いいだろう。私はミストガン。取り合えずあの人に免じて貴様を信用しよう。六魔将軍コブラ」

 

「おうよ」

 

唾を吐くような拗ねた返事を肯定と取った。

方向性が定まった私たちに、視線のやりとりが交わされる。

 

『裏切ったら殺す』

 

『望むところだ』

 

毒を振り撒いた本人であるノイズは、羽をゆらりとはためかせながら暇そうに爪の垢を取り除いていた。

あくびをしながら、ふへぇーと森を見下ろしている。

間の抜けた面を見れば一目瞭然だ。私たちなどもう眼中にないらしい。

 

激情家にも見えたコブラは、意外にも冷静だった。

元から鋭い三白眼を静かに細め、落ち着き払って魔力を練り上げている。

 

「毒竜の──」

 

コブラが呟くように、ノイズに気がつかれない程の小さな動作の中で息を竜の肺に取り込んだ。

そして、吐き出す。

 

 

「咆哮ォ!!」

 

毒々しい紫のブレス。触れるだけで生きるもの全てを蝕む毒が、まるで光線のようにノイズへ迫る。

 

負けじと背負った三つの宝石の埋め込まれた杖を抜き、横一線に振るう。

たちどころに出現させた魔法陣がコブラのブレスを加速させ、二まわり巨大に変貌させた。魔法へのブーストをかける単純な魔法。

 

新たに、いくつもの魔法陣が未だ暇そうにするノイズをとり囲むように出現し、魔法の出口を造り出す。

 

そして私の眼前にも入口の魔法陣がひとつ。

 

そこへ。

 

剣を引き抜き、槍投げのように構える。

刀身は光へと変形。

 

刀身が光となり射ちだされ、まるで弾丸のように魔法陣の中へ消え去った。

魔法によってそれらが分裂。囲うよに配置された陣の全てから光線がガトリングのよう、継続的に雨あられと射出された。

 

一瞬の間に展開された術の数々にコブラは驚嘆の声を漏らした。

高度な魔法を一息で展開する姿に闇ギルドとして戦々恐々とせざろ得なかったらしい。

 

閃光の嵐が吹き荒れる。

中から漏れたいくつかの閃光が大地に針を通すように穴を開けていく。

木だろうが岩だろうが川だろうが、射線上の全てを穿った。

最後には魔法陣がまとめて砕け、爆発四散。

 

「『五重魔法陣・御神楽』」

 

剣に埋め込んだ五つの宝石が輝き、それぞれの輝きの魔法陣を灯す。

五つの魔法陣を空中で砲台のように固定。

五つが重なったその先。ノイズがいるであろう場所へ、既知の友人を木っ端微塵にする心持ちで、五重の魔法陣により強化された魔法弾を撃ち込んだ。

 

最後にもう一発。

 

ついでにもう一発。

 

トドメにもう一発。

 

おまけにもう一発。

 

キリよくもう一発。

 

よし、あらかた打って満足した。

爆風に髪をなびかせ、顔を引き吊らせたコブラがなんとも言えない表情でこちらを見ている。

なんだその目は。批難される覚えはないんだが。

 

「……あのよ。俺が言うのもなんだが……。お前あいつに家族を殺されたとか、そんな感じの怨みでもあんのか?」

 

そんな冗句を言えるほど、この男は余裕らしい。

 

「何を言っている。そんなものはない」

 

「恩人を木っ端微塵にするとか……。てめえさ、正規なんかより闇ギルドの方が合ってるぜ多分」

 

「……何を勘違いしてるかわからないが」

 

戦々恐々としているコブラとは別に、嵐の収まった今、立ち込めていた煙が晴れていく。

 

 

「あの程度じゃ、かすり傷がつくかも怪しいぞ」

 

自然と汗が滲む。体に力が入る。

 

毒煙の中から、純白の煌めきと、微かな笑う声。

隣で絶句するコブラを他所に、ノイズは無傷のままにこちらを向いて笑顔を見せた。

 

 

「『MODE:レーシェン』」

 

 

奴の魔法は謎が多い。だが一般的に知られる魔法の中でカテゴライズするならば、それは接収(テイクオーバー)系統。

接収とは違った点も多く存在するが、肉体の変形や変化が主立った戦闘スタイル。捉え方としては概ね間違っていないだろう。

だが、いま目の前にいるノイズからは变化の予兆が感じられない。

 

しかし奴はこちらへ手を向け、何かを使った。

何をした。何をされた。

……いや。何か、するのか?

 

 

「下だッ!!」

 

「ッ!?」

 

コブラの声に咄嗟に下を確認する間も無く魔法陣を足場に、空へ跳ぶように駆け上がった。

何かが迫っていた。それを直感的に把握した。

空を逃げ回りながら追ってくる何かを確認し、驚愕した。

開いた口が塞がらなかった。

 

木々が、まるで蔦ように。

太い幹が獲物を捕らえる触手のように、うねり渦巻きながら空へ空へと、私たちを追いながらぐんぐんと伸び襲いかかってくるのだ。

まるで森全体から空に向けて雪崩が起こっているようだ。

あまりにも現実離れした光景に、イシュガル最強の四人目。ウォーロッド・シーケンを連想させた。

 

我先にと空へ伸びる木の幹。

捕まりそうになるも、どうにか幹を斬ることで凌ぐ。

だがその圧倒的な数に押され、斬っても斬ってもキリがない。物量にものを言わされ、足場の陣から押し出されるように後退を続ける。

魔法の類いならばと反射魔法陣を敷いてみるも、魔法陣を回り込まれ、その物量に呑み込まれるだけに終わった。

なんという異様な景色。

 

コブラも苦戦しているらしい。乗っている蛇を巧みに操りながら、アクロバットな飛行で見事逃げ仰せている。

 

「っ、《盾よ》!!」

 

空を跳びながら広げた防御陣は焼き菓子のようにバリバリと意図も容易く砕かれていく。

 

「んなははぁ!ほぉーれ逃げろ逃げろォ!」

 

「《盾よッ》!!」

 

展開させた数は二〇五。

しかし盾がまるで盾の役割を果たさない。

巨大な壁を築こうと、どれだけの厚さを創ろうと、それら全てを悉く、穿ち、砕き、呑み込み、破壊していく。

まるでなんでも呑み込む巨大な蛇、竜、ドラゴンだ。

 

「頑張って逃げろー。ほーら、後ろ後ろ!来てるよ。おっと、上上!回り込まれて……おぉ!ナイス立ち回り!」

 

劇を勧賞しているかのように、ノイズは手を叩いて喜んでいる。

 

これでは決め手が打てない。

こうも次から次へ足場を乱されては太刀筋もなにもあったものじゃない。

ジュピターを裂いたような斬撃も、こんな不安定な状況下では撃つことも出来ず、ただただ後手に回る。

 

「おい鎧野郎!仕掛ける!その蔦に触んじゃねえぞ!」

 

元よりあれに触れれば一瞬で絡め、呑み込まれるのはわかりきっている。

だがそういうことではないらしい。大きな魔力がコブラの体内で渦巻いているのを肌が感じた。

 

宙で停まり、右腕を高く掲げた。

 

 

「『滅竜奥義──』」

 

構えたその右腕に、もはや紫を通り越して暗黒とも言える重々しい黒が宿った。

まるで竜の鉤爪を思わせるその暗黒が、迫り来る樹木の波に風穴を空けた。

 

 

「『──以毒制毒(いどくせいどく)蟒蛇(うわばみ)』」

 

降り下ろし、コブラが穿った穴。

破壊の規模はそれほど大きなものではない。だが、コブラの放った暗黒が、樹木へと蛇のように絡まり染めていく。

津波のように襲いかかってきた木の幹たちが、今度は津波のように侵食を始める黒い毒に蝕まれ、次々と朽ちていく。

蝕まれた全てが、私へ迫っていた幹たちも含めてボロボロと崩れるように朽ちて消え去ってしまった。

 

木々は全て消え、私たちはあの雪崩から間一髪乗りきったのだ。

 

ちらりとコブラを目尻に捉えた。

 

なんという魔法。劇毒なんて次元ではない。毒の滅竜魔法……『滅毒』といったところか。

この男もやはり驚異だ。事が済み次第、奴もどうにかしなければならないらしい。

全く気の重い話だ。

 

「ありゃエリックン意外とすげぇ。壊毒以上のモノを出されるなんて予想外」

 

「るせえ!エリックンって呼ぶなっつってんだよ!」

 

本当に意外だったらしい。ノイズは仮面の向こうで目をぱちくりとさせた。

「しまったー」ぺちーんと馬鹿のように自分の額を叩いて天を仰いでいる。

どうしてこう一挙手一投足に頭の悪さを滲ませられるのだろう。

 

ノイズはうーんと唸るように顎に手を当てて、逡巡すると、明るく、楽し気な声色で人差し指を立て言った。

 

 

 

 

──絶望的な言葉を

 

 

「それじゃ、おかわりってことで」

 

 

 

雰囲気が変わった。

 

既に圧倒的な威圧感を垂れ流していたノイズが、一際薄暗い不気味な霧を纏った。

その首もとや指先にどこからともなく延びた小さな蔦が枝分かれしながら数本吸い付くように張り付く。ヤドリギのように。

 

翼も相俟って神々しく、その姿はまるで森の精霊。

 

 

 

…………否

 

 

 

「『MODE:エンシェントレーシェン』」

 

 

 

 

──さあ、張り切っていこうか

 

 

 

 

その笑顔は、さながら悪魔のようだった。

 

 

 




やる気を出す為の投稿でした。
頑張りますよー!

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