作者、動きます。
腹立たしげにカレンは豪奢な椅子の肘掛けを指先でトントントントンと継続的に叩く。
よほど苛ついているらしい、可視化できそうな程に立ち昇る怒気は隠せない。
「チっ。なにしてんのよ……イライラするわね」
怒りの原因はあの
あの二人に逃げ切られた直後の彼女の怒りは今以上で、もはや宥めようもない火山の如しだった。
が、それも一過性のもので数分と続かなかった。
落ち着きを取り戻したカレンは、
『なんだ。元気でやってるのね』
どこかホッとしたように、レオの立ち去った方角へ嬉しそうに微笑んでいた。
正直、また惚れ直した。
「「「カレン姐さん」」」
俺が回想で彼女の美しさに呆けている間、レンとイヴ、それに何故か一夜さんまでが、不機嫌そうに足を組むカレンを
「そうカリカリしないでカレン。それにレンとイヴはともかく、一夜さんはウチのエースなんですから。そんなことしなくても……」
自分のガールフレンドを方膝ついて団扇で扇ぐ上司を見て何を思うのか。
虚しさである。なにをやってるんだという虚しさ。なにせ尊敬する上司だ。それが余計に悲しさを五割増しにさせる。
「何を言うか響。美しき女性は敬い讃えるもの。そこにエース等という無粋な地位など……」
一度区切り、目をつむると一夜さんは深く鼻から空気を吸い込んだ。
「介在する余地はないっ!!」
「「ヨッ!さすが先生っ!!」」
胸を張って言う響さん。いつもならここでレンとイヴに並んでクラッカーのひとつでも鳴らすところだが、流石にカレンが相手ではそんな気にはなれない。
そんな彼等は視界に入っていないらしい。当のカレンはというと……。
「いつになったら来るのよ他のノロマギルドたちは!」
目の前に置かれたテーブルの脚をガンガンと足蹴にしていた。
カレンが苛立っている主な理由はこれだ。
誰も来ないのだ。俺たちの他にも三つのギルドが集まるはずが、どういう訳かギルドのギの字も見えない。
既に規定の時間から三十分は遅刻している。
そんな時である。
ようやくと言うべきか、扉が開かれた。
三十分前には既にやっていた歓迎の準備を俊足で整え、いざお出迎えである。
一番乗りはまさかの
うーむ……。
…………うむ。
しかし『一刀のカグラ』は相も変わらず美しい。
まるで鍛え上げた鋼のように美麗な一刀を連想させる立ち姿。一時期僕たちから女の子を奪っていっただけはある。
唯一週刊ソーサラーでランキングトップを飾り、
そしてこちらは新人のルーシィか。彼女もグラマラスで実に目に良きものである。
グラマラスで、良きものであるッ!!
「響ぃ。あんまり目移りしちゃだめよ」
「は、はい……」
恋人からの苦言を頂き、スゴスゴと後ろの方へと下がった。
レンとイヴが口説こうとカグラさんへ近づくも、鋭い視線と鞘に納まったままの刀を向けられて固まっている。
一歩でも近付こうものなら滅多打ちにしてやると言わんばかりのオーラだ。
小さな声で作戦会議。
そんな中……。
「メェーンっ。ご機嫌よう愛しきカグラさん。あなただけの一夜ここに見参。今日も実に
ためらいなく放たれるカグラさんの容赦のない一撃。吹き飛ばされた一夜さんが物凄い音を立てながら物置へと収納された。
なんという早業。奥から小さく「めぇーん」と呻き声が聞こえてくる。
「い、一夜さんっ!」
「響。アンタは行かなくていいの」
飛んでいった一夜さんを助けに行こうとしたのだが、カレンに腕を掴まれてしまった。曰く、あれは手を貸さなくてもすぐ這い出てくるわ、と。
今に始まったことじゃないけど、やはりカレンは一夜さんに冷たい。尊敬できる人なんだけどな、一夜さん。
「んっメェーン」
言った通り、気がつけば一夜さんは復活していた。
自分で引っ張り出したのか、舞台照明に囲まれながらポージングをとっている。なんという早業。流石です!
「てめえら、うちの姫様方にあんまちょっかい出さんでくれねえか」
レンとイヴが諦めずにルーシィを口説こうとするのを見かねたのか、妖精の氷男がイラついたように言う。
……というかなぜ彼は上半身裸なんだ。
「やろうって言うなら受けてたつぜ」
「なに君たち。いま僕らはお姉さん達とお話したいんだよ。邪魔なんだけど」
「なんだ喧嘩か!?俺も混ぜろおお!!」
負けじと凄む二人。このままではいけないと、二人を止めようとしたその時。僕の横で天馬の女王が柏手をひとつ鳴らた。
その場が水を打ったように静まり返る。
「それよりアンタら。遅刻してきた分際で断りのひとつもないのかい?」
まさに鶴の一声。
カレンの声で、先程まで剣呑な雰囲気を漂わせていた
それから、
よかった。こんなところで
まぁ、ひと悶着と言っていいのか。カレンはカグラさんが相当気に入ったようだ。
彼女に無遠慮ににじり寄るとカグラさんさんの顎を指先で持ち上げ、俺たちより男前に俺たちより色っぽく口説いていた。
「あんた気に入ったよ。顔もいい。スタイルも完璧。腕も立つ。ネームバリューも最高。どうだい、
「断る」
「褒めてるのよ、そう邪険にしないで頂戴。まぁ急がなくてもいいわ。あなたを求めているギルドがあるってことだけ頭の片隅に置いておいて。気が向いたら声をかけてくれればいいから」
「善処させて頂くわ」
「楽しみにしてる」
攻めの女性と、攻めそうな女性の少し力強くも色っぽい絡み。
いいっ!男としてこう、来るものが。
…………おっといけない。つい男のサガが。
「なんだよ。喧嘩しねーのかよ!」
その向こう側では、不満そうにブーブーと文句を言う桜髪の男。
まったく視界に入ってなかったけどあれが噂に聞く妖精の尻尾の
「なんだまだいたのか。男は帰っていいよ。お疲れめぇええええんっ!!」
ポージングをとりながら妖精の男二人へ厳しい言葉を投げ掛ける一夜さん。
そんな一夜さんがまたしても、死んでしまうんじゃないかという一撃で吹っ飛ばされて物置へと収納された。
なんと、意外にも犯人はカレンであった。握った魔水晶を光らせながら呆れたようにため息をつく。
「あのね一夜。それは女に言う台詞でしょうが。これからやるのは抗争なのよ。男なら、女こそ先に帰らせろって話よ。それに集合場所とはいえここは
尤もなお言葉に流石の一夜さんも返す言葉がないのか、物置から返事はなかった。
あれ…………?
一夜さん、生きてますよね?
「……めぇーんぼくない」
あ、生きてた。よかった。
「イヴ、レン」
「「は、はい!!」」
「あんたらも気を付けなさい。……いい?異性を魅了するならまず人として魅力的でありなさい。あのチビ夜も基本は正論を言うけど間違うこともあるの。何が魅力的か、自分で見極める力を持ちなさい」
「「はい姐さん!!」」
「えっと。はい、姐さん」
何となく俺も言うべきかなと、流れに乗ってみたがカレンに後ろ手で小突かれた。余計だったらしい。可愛い。
しかし、あのレオとアリエスの件を踏み台にここまで人として成長してくれたことに胸が一杯だ。もはや俺以上の人格者と言っても過言ではない。これも
カレンの咳払いがひとつ。
「すまないね、うちの馬鹿たちが。ま、これでお相子ってことにして頂戴」
「えぇ。異存はないわ」
とカグラさん。
裸男も呆れたように腕を組んだ。
「ま、なんか説教はそっちでやってくれたみたいだし。俺もかまわねえよ」
というか服着ろよ。
「こ、これがあの
「ルーシィは掃き掃除してる方が似合ってるぞ」
「うっさいバカマンダー!誰がシンデレラよもうっ」
「ルーシィなに一人でクネクネしてるの?いい感じに気持ち悪いね」
「おい猫ちゃーん、誰が気持ち悪いって?」
仲良さげに会話を始める彼らにようやくかと安堵した。
よかった。これでこの場は落ち着いたし、ちゃんと作戦説明も進められそうだ。
俺たちは連合軍。連携を取れなければ話にすらならないのだから。
「さて、すぉれでは。あとは
一夜さんがチャーミングな鼻をクンクンと鳴らしながら、徐々にカグラさんに近づき、物置へと吹き飛んでいった。
「それにしても妙だよね。残り二つのまともなギルドじゃなくてオイラたちの方がこんなに早いだなんて」
「私たちがまともじゃないみたいな言い方しないでよ。否定出来ないから余計に悲しくなるじゃない」
確かに妙だ。
岩鉄のジュラがいてここまでの遅刻が発生するとは考えにくい。それだけに終わらず
「
「マジかよ天馬のオッサン。二人で
「二人のゴリラ!?ゴリラってことはそいつら強いのか!?……て、あれ。ハッピー、いつの間にか顔デカのオッサンいなくなってるぞ」
「あい!あの人なら、ナツがよそ見してた間、カグラに近寄って物置みたいな部屋にホームランされていったよ」
「なんだよ楽しそうに遊びやがって!ずりぃい!」
「やめとけよナツ。首が星になるぞ」
蛇姫の鱗からは三人と聞いている。それに化猫の宿の二人。どちらも同じく遅れるなんて。偶然か?
いや、偶然にしてはタイミングが被りすぎている。
「響、と言ったわね。私たちがここへ来る途中、道を阻むものは何もなかった。路上の事故とは考えにくいわ」
カグラさんの報告に嫌な予感が大きくなっていく。
初めは些細な疑問だったんだ。
正規ギルド側へ情報が流れてくるにしては何の噂も情報も無かった。
六魔将軍の情報ではない。それを持ち出した者の情報がだ。闇ギルドへのスパイや情報の窃盗。それらに関する話がなさすぎる。まるでどこかから湧いて出てきたようなたれ込み。
マスターたちの秘匿された経路から入手したとも思えない。なにせ、俺もその情報経路のひとつ、
今回、僕にだけニルヴァーナの真実を教えたように。
疑念は無視できない程に膨らんだ。これではまるで……。そう、まるで偽の情報を掴まされ誘い出されているようだ。
疑念と邪推であった筈のそれは確信へ変わった。
「むむっ。これは血のパルファム!怪我人だ!」
物置の中から叫んだ一夜さんの声。
そして扉が開き、血だらけの五人組が雪崩れ込むように入ってきた。
あれはシェリー・ブレンディ、リオン・バスティアか。衣服を泥と煤にまみれさせ、傷だらけで互いに支え合うように姿を表した。その中でも目を引く大男に担がれている血塗れのフルアーマー。
担いでいるのは聖十大魔道士、岩鉄のジュラ。
皆が絶句するほど、全員が傷にまみれた凄惨な姿だ。
息を呑んだ沈黙の中から飛び出すように前へ出た海のように青い髪の少女。
泣き出しそうな悲痛な声で、表情で、彼女は叫んだ。
岩鉄のジュラの支える血に塗れたフルアーマーの剣士を抱き締めながら。
「お願いです、誰かミストガンを!ミストガンを助けて下さいッ!!」
一瞬の空白。
……なんだ?
「「「はぁあああっ!?」」」
うおっ。つい驚いてしまった。なんらかの繋がりがあるのか?
「ンンン!?どうなってんだァ!?おいカグラ!カグラ!どうなってんだ!?」
「しっ……知らん!……訳がわからない」
「なんでミストガンがいるんだよ!?」
「え、えっ!?幽鬼のギルドに捕まったとき助けてくれた人じゃない!」
狼狽える彼らの言葉は整合性がなく、いまいち現状を理解する材料にはならなかった。
すると、
「落ち着きなさいウェンディ!治療魔法を使えるのはあなただけじゃない!ここなら安全だから早く。まだ助かるんでしょう?」
「あっそうだよね!うんっ、まだ助けられる!」
妖精の尻尾の知り合いらしいとか、白い子猫が喋っていることとか、治療魔法の使い手がいることとか。……色々と驚愕するも、あまりの情報量の多さに頭が着いていかずしばらく呆然とした。
詳しいことは後回しと言うことだろう。ウェンディと呼ばれた少女は、ペコリと俺たちに会釈だけして慌ただしく血相をかいた様子で重傷のフルアーマーへ掛かりきりになった。
聖十のジュラがこれほどの手負いになるとは。なるほど……伏兵か。
どうやら俺たちの動きは奴等に本当に誘導されていたらしい。
……おおかた、
全員が固唾を呑み沈黙する中で、傷は負っているものの比較的無事だったリオン・バスティアは、ボロボロの体をダルそうに持ち上げながら、俺たちの顔ぶれを眺めた。
そして……拳で胸を叩き、不適に笑った。
「六魔将軍、二人打ち取った。残り四人だ」
◇◇◇◇
「そろそろ頃合いか。準備はいいな、
「あぁ。問題ねーよ」
四十分ほど早く、それぞれが俺とリーダーを残して散っていったらしい。
やる気マンマンだなおい。
さて、初めての契約社員である。
実は今回の仕事で功績を上げれば長期契約にしてくれるとかなんとか。
ま、そんなことを言われましてもって感じである。日雇い生活の俺には余り響く言葉ではない。長居をするつもりなど毛頭ないから。
何を隠そう、俺はあのクソトカゲと因縁の間柄である。もしも俺が襲われたとき、側にいた奴等まで巻き添えを喰らわせるのはちょっと後味が悪い。
そこで俺は閃いたのだ。あ、闇ギルドなら襲われてもいいんじゃね?と。
とは言え、流石に犯罪集団に長居はしたくないし。
ただでさえ俺は色々やらかし過ぎて指名手配くらってんのに、これ以上懸賞金を上げられてたまりますか。誰も海賊王なんて目指してねーの!
だが金に目が眩んで今ここにいる。
短期契約の理由はそんな感じでした。
なので今日は『六マ』と書かれたお面を装備中。これがマジで邪魔。視界が悪いったらありゃしない(ちなみに髪まで
つか、漢字とか片仮名とかあるんだなこの世界。
もうこっち来て結構になるけど、漢字と片仮名は初めて見たわ。英語は頻繁に見かけるけど。
なんつーか、ファンタジー世界にそぐわねー……。もしかしてどこかに、俺みたいに飛ばされた日本人でも居たんだろうか。謎は深まるばかりである。
……話を戻すか。
で、まぁ、とりあえず当面の問題であるクソトカゲに関しては……。うん。
実を言うとついこの間、ライダーと暴力グリーン女に遭遇する前日にカチ合った。
あの時は大きな怪我こそしなかったものの、魔力を殆ど使い果たしちゃったし死ぬほどキツかった。せっかく再生しかけてた森も吹っ飛ばされたしな。精神的ショックでかいよ……。
ま、長くなりそうだからその話は割愛としよう。
結果論だけど、その後ライダーたちと鬼ごっこ出来るくらいには回復した訳だし。
この職場に来て、あのクソトカゲとも間隔一週間くらいだから暫くは落ち着いているだろう。
俺はそう信じる。マジでお願いしますクソトカゲ様。
とにもかくにも、色々ぶっ壊したり何なりあって金が入り用になり今に至る。世知辛ぇ。
「ノイズ。貴様には遊撃を任せる。好きに動き回れ」
彼の名前はブレイン。俺の雇い主でありこの六魔将軍のお頭である。白髪頭で色黒でロン毛のオッサン。外見は年齢の割りにパンクである。三〇代後半くらいかな?
…………。
……あれ?
俺とちょっと歳近くない?(見たくない現実)
歳は近いのに方やギルドのリーダー。方やバイト。
……おっと涙なんて溢れないさ。なぜかって?上を向いているからね!
ちなみに俺の面接担当をしてたのは六魔の一人、走るのが得意な魔導士、レーサーさんだった。これが本当のランニングマn(ry
面接の時は変装していたらしい。
「ん、遊撃?敵がいるのか?」
ふと湧いて出た疑問に、ブレインはしかめ面を更にしかめた。
ニルヴァーナとかいう昔の道具を探すだけの簡単なお仕事じゃなかったの?
まぁ戦うくらい別にいいけどさ……。
聞いてないんですけど?
「あぁ。正規ギルドが嗅ぎ付けたらしい。一応先手は打ったが、奴らも
アレェッ!?(裏声)
二人も脱落!?
ふ た り も だ つ ら く !?
何やっちゃってんの!?
もうすでに三分の一壊滅とか何やっちゃってんの!?光の速さかよ!フレッツ光かよ!
なにが「先手は打った(精一杯の強がり)」だよ!討たれてんのこっちじゃねえか!
貴重な紅一点が……。
おおぅふ。やる気メーター駄々下がり。
貴重な痴女枠がああん!くそっ!誰だ!許さん!許さんぞ!
はぁー。
にしても、殺しても構わんと来たか。わかったよ。全力で生きて返すね!反骨精神バリバリだぜッシャオラァ。
こちとら金さえ貰えればそれで万事OK。まぁ真面目に仕事してないのがバレるとお金貰えないかもしれないから、見つけたら動けないように強めの麻痺毒か睡眠毒射って安全地帯に転がしとくか。
つか、ブレインさん。正規ギルドになんでバレてるのよ!明らかに身内に内通者いるんじゃん!
つか、ブレインさん。なんでバレてるの知ってるのよ!なんで知ってて強行手段に出るのよ!しかも色々始まる前に二人やられてるし!やられてから動いてるし!
はぁーっ
もうコードネーム右脳左脳にしとけよ。人格別で。右脳、左脳。その方が面白い分まだ救いがあるわ!
……そういえばこのギルド、裏の業界でも結構な大手なんだっけ?でも脳筋の集まりで……俺の同類だった?……もうわからんね。
あ、嫌な言葉が浮かんだ。類は友を呼ぶ。
うわあああああ否定できねええええええええ!!
い、いや、でも流石に大手ですし。偽情報を持ち帰らせるとか、待ち伏せドッカンとか、それくらいやってるのか?
……やってそう。
なんかこいつ腹黒そうだし。俺もいつ背中を刺されるかわかんないかも。
……いや流石にね!流石にないと思うけど!
…………気を付けよう。
「業腹だが。ゼロを除く我ら全員でさえお前には勝てん。ノイズ、お前には期待している。励め」
「うい、了解ボス」
行け。と命令口調で言われた。なんか腹立つ。
腹いせに飛び立つ瞬間に足場の岩を砕いて舞わせてやったわ!
例え俺を
ぼくのちょうぱわーはすごいんだっ!!
そんな俺の内心など露知らず、「血気盛んだな」とか後ろから余裕ありますよみたいな気取った呟きが聞こえて少しイラっとしました。
少しだけねッ!!!(ガチギレ)
格好つけやがってぇ!俺だってそのポジションやりたい!絶対格好いいじゃん!ブレインとか言う名前の脳筋のクセして!(偏見)
あーあ!やってられませんわ!
ワース樹海とかいう、日の光すら遮る夜のような森の中。
日差しとは無関係に黒々く染まった木々を眺めながら森の中を歩く。
ブレイン曰く、ニルヴァーナの力が漏れだして森が黒く染められているんだとか。いらん豆知識をありがとう右脳左脳さん。
奥へ奥へと進むたび、どこかノスタルジックというか。強烈な懐かしい匂いと空気に目眩がした。
「……なんか、初めてクソトカゲに会った森を思い出すな」
あまり実感はないが、本能的にトラウマでも植え付けられていたのか、頭の奥で嫌悪感と恐怖心のようなものがチリチリと
始まりを想起させる鬱蒼とした木々の世界。
さーて、このままだと迷うのは確実だ。とりあえずここから見えるあの大樹を目指すとするか。なんなら、あそこでサボりながら誰かと遭遇するのを待つのもいい。
それまでは精々ゴロゴロさせてもらうとしよう。俺は楽がしたいんだ!
「……あー、そっかあれだ」
歩きながら思い出した。
この木とか土が黒くなる現象、既視感があると思っていたが、あれだ。ゼレフの闇魔法みたいな暴走後の光景に似ているのだ。
ここら一帯の澱んだ空気にどこか懐かしさを感じていたのは、きっとゼレフのナントカの呪い?的なサムシングに似た空気を吸い込んだから、というのもあるのかも知れない。
うーむ。そういや詳しく聞くの忘れてたけど、やっぱ闇ギルドってだけあってそのニルヴァーナとかいうのも闇魔法的なサムシングなんだろうか。どうしよ。もし兵器とかじゃなくて知識とか形のない物だったら。最終的にはぶっ壊せばいいかな、とか思ってたんだけど。形のないものは壊せないし。もし知識だった場合、流石に頭を鷲掴みにしてパーンとやる訳にもいかんし。
あーあ、面倒くさ。
なんで働かないとお金って貰えないの!(桃源団)
にしても、遊撃ねぇ。
というか正規ギルドってどこが来るんだろう。やっぱり六魔将軍って大手ギルド(笑)な訳だし、あちら側さんも大手(笑)が来るんだろうな。
んー。冗談は置いといて、フィオーレで一番名前が売れてんのってどこなんだろ。あんまりギルドとか関わらないから知らないんだよなぁ。この国もチョイチョイ来る程度だし。
案外、ライダーとか暴力グリーンがいる青い馬刺しとか。もしくは偶然カグラちゃんと遭遇しちゃったりして。
今の俺にとっては、手をあげる選択肢がない以上、完全に負けイベントだ。無敵エネミーポジションだ。
ボケッと間抜けた顔で間抜けたことを考えながら歩いていると大樹の元へと到達した。
「なんて、そんな訳ねーか。世界は広いんだから。ここで出会うなんてことになったら突っ込むね」
大樹へ手をついて辺りを見回したその時。
「運命か!って。どの血の
見えなかったその巨木の向こう側。太ましい幹を回り込んだすぐそこ。
同じ木の下で、長い黒髪が風に舞う。その透き通った漆黒の双眼と視線が重なるだけで、その時間が停まったような錯覚を受けた。
まるで鳴くような風。
「────へ?」
たぶん。俺が生きてきた中でも一番間の抜けた声だったろう。
「…………師、匠………?」
伝説でもない樹の下で、運命は果たされた。
黒髪の剣士。
かつて一ヶ月の旅を共にした少女。
昔の面影を残しながら、すっかり美人に成長したカグラちゃんが──
そこにはいた。