モンスターイミテーション   作:花火師

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前編後編でお送りいたします。
サブタイトルが英語な理由? 

かっこいいからです(小並感


UNMASK 前編

夢を見た。

 

あの黒い霧に覆われたゼレフが、俺に背を向けて立ち去っていく夢。

伸ばしても手は届かないどころか、俺の体には微塵も力が入らない。指一本動かすことすらできない。

そんな中で体に鞭を打ってどうにか開いた瞼。

 

ゼレフの纏っていた霧が暴れまわり、俺を一瞬にして呑み込んでしまった。

霧に襲われた俺は、体が軽くなるような感覚に陥る。決して昇天とかそう意味ではない。

わかりやすく言うならば……そう、自分にまとわりついていた泥が落ちていくような感覚、だ。

 

何度も経験があるからわかるが、あの霧を受けて苦しまない筈がない。

それを踏まえて、これが夢であることはなんとなく理解できた。その上で、働かない頭でぼんやりと思った。

 

 

 

 

──あぁ、どうせなら、エロい夢が見たかったよ。

 

 

 

そんな自分の声に目が覚めた。どうやら自分の阿呆な願望を寝言として口から出ていて、しかもそれで自分自身が起きてしまったらしい。

なんて阿呆なんだ。

 

 

「……ハッッ!?……ここはだれ!?私はどこ!?」

 

 

森の中で目が覚めた。はて、俺が野宿してたのはこんなところだったか?

 

うーん。すっかり爆睡してしまった。最近警戒心が薄れてきてるな、いけないいけない。

さぁて、ともかく旅の続きといくか。

にしてもなんだったんだ?ゼレフの夢を見たような気がしなくもない。不思議なもんだ。それならメイビスたんの方がよかったよ。野郎の夢より女の子を見たかったよ。

 

いや違うのよ?ゼレフをディスってるわけじゃないのよ?

 

なんて言い訳は置いておいてだ……あれ?

 

「俺の荷物がねえ!!なんで!?ま、まさか!追い剥ぎにでも()ってたのか俺!!」

 

正直、寝る直前までのことをはっきりと覚えていない。何があったんだっけ……。

 

いや、そんなことよりも、あの中には食い物が入っていたというのに、なんてことを……。

ここまでにあった経緯なんて覚えてないから考えてもしかたねえし……。

 

あぁ、ひもじい。

 

「誰だよ。誰だよちくしょオ!!」

 

沸々と沸いてきた怒りを抑えきれずに、地面に巨大な亀裂が入る程の地団駄を踏む。

 

「『MODE:ドスファンゴ』」

 

ユ!!ル!!サ!!ン!!

 

犯人を見つけるべく、山の中を走り回った。犯人を見つけたら縄で縛って山の中を引きずってやる!

 

目の前に現れる木々は全て体当たりでへし折り、薙ぎ倒してひたすら探し回る。

許さん。許さん!!許さん!!

 

「どこのどいつだボケエエエエエ!!一発殴って首を一八〇度回転させたるわァア!!」

 

ニ!!ガ!!サ!!ン!!

 

 

夜は、騒がしくふけていった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ジェラール!」

 

そう呼ばれたと同時に意識がそちらへ逸れ、放物線を描いて飛んできたナツをキャッチした。

カグラの意図を即座に理解し、ボロボロになりながら目を回しているナツを担いでその場からの離脱を試みる。

 

「すまないカグラ!すぐに戻る!」

 

魔法で速度を上げようとしたその時、背中を冷たいものが走った。

背筋が伸びるような感覚を受け、直感でそこから右に転がるように移動すると、先程まで走っていた場所が大きく抉られていた。

雷を纏った拳。地面に打ち付けられ、行き場を失った雷が上空へと伸びるように逃げた。

 

なんともふざけた速度と威力だ。

まるでラクサスを相手にでもとっているようだ。

 

「──抜かぬ太刀の型」

 

未だ雷撃の轟音が名残を聞かせる中、その囁くような声は静かに響いた。

同時に彼女の鞘に納められた不倶戴天の打撃技により、標的は胃の中のものをぶちまけながらも瓦礫を量産して遺跡の奥へと吹き飛んでいった。

だが、あれではまだ仕留めきれていないだろう。

予想していた通り、奥からヤツの咆哮が響いてきた。

 

「早く行け」

 

カグラからのそう背中を押すような少し強めの口調に、俺は石畳を蹴った。

 

「『流星(ミーティア)』」

 

俺の最も得意とする魔法。それは天体魔法。

これは身体能力を上げ、高速移動を可能とさせる魔法。

あの人には及ばないが、どうしても憧れを手離せなかった俺が、速さと強さを求めて修得したものだ。

……我ながら女々しいものだ。

 

この高速移動はぶら下げているナツに負担がかかるが、今はそんなことは言ってられない。カグラがヤツを押さえていてくれてるからいいが、いつまでもタラタラしている俺をサポートしながら戦うのは骨だろう。

ナツは丈夫だしこれくらいで根をあげる男じゃない。

 

遺跡の中から脱出すると目の前に広がる森の中へと突入する。

木々の間を縫うように走り抜け、木の根を跳ねるように避け、食人植物の包囲網を潜り抜けるように速度を上げていく。森を抜けた先、目の前に迫った崖。速度を下げることなく勢いのままそれを垂直に上った。

 

担いでいるナツから『しぬぅうううう!』なんて悲鳴が聞こえるが空耳に違いない。なぜならナツは気絶していたのだから。

例え目覚めたとして、乗り物じゃない俺で酔ったのなら自業自得だ。

まぁ、こんな動きをされれば例え滅竜魔導士でなくても酔うだろうがな。

 

……半ば意識的に酔うような動きで走っているところはあるが、こいつの馬鹿な行いのお陰でこんなことになっているんだから、それこそ自業自得だろう。

 

「じぇ、ジェラールぅ。しぃっ……うっ、しぃいいいいいいぬぅ──」

 

なにやら声を出し始めたナツがこれ以上喋れないよう、更に速度を上げてやる。

このお騒がせな問題児のせいで俺だけならずカグラまで駆り出されたのだ。仕返しはしても仕切れん。

喋れるものなら喋ってみろ。

 

出来るだけナツを苦しめるように走りながらも、ようやく拠点地として借りている山小屋までたどり着いた。

急停止すると、ナツから尋常じゃないほどの辛そうな呻き声が漏れた。

まだ内容物のブレスをしていないだけ褒めてやろう。

呻いているナツを、扉を開けて中へ放り込む。

 

「ジェラール!?」

 

「わぁ、ジェラールだ!ナツもいる!」

 

小屋の中でルーシィとハッピーが二人抱き合っていた。

驚いたように目を見張っている。

 

「なぜ抱き合っているんだ?」

 

そう聞いて、それから俺は自分の中で納得した。そしてそんなことを聞いた自分を悔いた。

 

「すまない。趣味趣向は人それぞれだ。蛇足だった。続けてくれ」

 

気まずくなって扉を閉めようとするとルーシィが突然ダイブし、足元にしがみついてきた。

 

「待ってー!違う!違うの!そんな趣味も趣向もないない!」

 

聞いてみれば、魔物との戦闘音がここまで響いていたらしい。まぁ、あれだけ強力な魔法をドンドン使っていれば聞こえても仕方がない。

そしてそこから大きな魔力を出しながら近づいてきた俺を魔物だと勘違いして怯えながら抱き合っていたらしい。

まさか新人にまで化け物扱いされるとはな……。

だが、所詮俺は聖十大魔道の候補者程度だ。本物たちにはまだ遠く及ばない。

 

「ねぇ。私、よくわからないままナツに連れられて来たんだけど。この任務ってなんなの?当のナツは一人で走って行って、ボロボロになってジェラールに担がれてくるし。もう何がなんだか」

 

「知らないで来たのか?前回のことといい。中々肝が座ってるな、ルーシィ」

 

ついこの前ガルナ島へランク無視でクエストに向かっておいて、また懲りずにS級に挑もうだなんて。

元凶であるナツは帰ったらとっちめるとして、この子も結構な問題児だな。

 

「ごごごごめんなさい!本当にナツに無理矢理連れて来られたんです!S級だなんて全くこれっぽっちも知らなかったんです!」

 

「そそそそうだよジェラール。だからオイラを怒らないで」

 

「…………怒ってないさ」

 

「その間が怖いの!」

 

だがこの調子からしたら本当に何も知らずに来たらしい。

まぁ、今回のことはナツに責任があることは確かだが、マスターにも問題があったことは否めないしな。

だからと言っておとがめなしには出来ない。

ギルドのメンバーたる者、きちんと自分で情報の取捨選択を行い、規律正しく規則に沿って……なんて、フェアリーテイルの魔導士じゃ無理か。

 

「本当に怒ってないさ。今回のクエスト、実はランクを上げることが決まって『処理中』ってことでマスターが依頼書を持っていたんだ」

 

窓を開けて外へ顔を出しながら、苦しげにえずいている情けない滅竜魔導士を横目に、今回の事のあらましを説明する。

 

「それをナツは、マスターがミラにセクハラしてカグラに説教されている間に抜き取ってきたんだよ」

 

「ええ!?ナツもナツだけど……マスターもマスターだなぁ」

 

そうじとっとした目で明後日の方向を見つめるルーシィ。きっと視線の先ではマスターがいい笑顔でサムズアップしている虚像でも浮かび上がっているんだろう。

 

「処理中ってことで、この任務はまだS級として貼り出されていなかったからな。S級を違反じゃない形で引き受け、達成しようとしたんだろう」

 

全く。普段は馬鹿なことばかりしているくせにこういうことになると頭が回る。

これだから問題児だなんだと言われるんだ。

生真面目の塊のようなカグラの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 

そして前回同様、依頼を受けたナツがルーシィとハッピーを引き連れて来た。

二人をここに置き去りにして標的へ突っ込んだナツはそれはもうコテンパンにされていた。そこへ俺とカグラがマスターの指示によって駆け付け応戦、撤退、現在に至る。

 

「今回のクエストの内容は、バルカン一頭の討伐だ」

 

「え?バルカン?でもバルカンってそこまで強くないんじゃ……ナツだって前に倒したし」

 

「そうだよ!ナツが負けるはずないよ!ついでにテイクオーバーされてたマカオだってボッコボコにしたんだから!」

 

「そこ威張るところじゃないわよ」

 

胃の中身を吐き出しているナツを見ていたハッピーもこちらへ交ざってくると、そう胸を張った。

 

「あぁ。普通のバルカンならな。通常個体ならばナツでも一撃で沈めることは可能だろう。だが、今回は特別だ。今回の個体は何かもっとヤバいものに接収(テイクオーバー)している。あれは素体によって力が底上げされていると見ていい。なんせ、S級に匹敵するんだ。カグラが今相手をしているが手伝わないと危ないかもしれない」

 

その言葉を聞いたルーシィは顔を真っ青にしている。

カグラを相手に遊ぶように戦っているんだ。それはそれは恐ろしいことだろう。

ガルナ島で元蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のメンバーをリオン以外全員一人で打ちのめし、その場にいた者たち全員に圧倒的力量差を見せつけたカグラが苦戦しているのだから。

 

「い、一体何に接収(テイクオーバー)したらそんなことに……」

 

ルーシィが怯えるのも最もと言える。

 

「わからない。ただひとつ言えるのは、相手が聖十大魔道クラスだってことだ」

 

そんなものにナツが敵うわけもない。殺されてなかっただけ重畳というものだろう。

 

「俺は加勢しにいく。二人はここでその問題児を見ていてくれ」

 

「わかった。でも無理はしないでね?」

 

「あい!ナツのことは任せて!」

 

頼もしく頷く二人を見て、俺は再び元来た道を加速して駆け抜けた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

とんでもない威力をもった拳が振るわれた。

不倶戴天を両手に持ちどうにかそれを防ぐ。だが威力を殺しきれずに押し負け、遺跡の壁を突き破る。

とんでもない威力に体が悲鳴をあげる。

痛みに呻く暇もなくめり込んだ壁から離れて即座に上半身を横へ倒した。

倒した上半身ギリギリだった。肩をかすって血が舞い、追撃の拳が避ける直前の壁へ深々と突き刺さった。同時に迸る雷が金切り声のように響く。

そこが、隙だ。

 

「──斬の型」

 

不倶戴天による切り払い。それをがら空きの胴へ見舞う。

 

「な!?」

 

完全に隙をついたはずだった。だというのに、バルカンは私の刀を左手で受け止めて見せた。

右に握られた拳が視界に入ったと同時に身を屈めれば、私の真上を豪腕が通過していく。

俯いたところを蹴りあげられ、それを防ぐと同時に腕が悲鳴をあげた。

再び遠慮もなく繰り出された拳。空を裂くように次々と放たれるそれをどうにか避ける。避ける。避ける。

 

なんて速度。

まるでマスターの拳を彷彿とさせるような、巨人の拳を思わせる破壊力が、回避に徹した私の頬を掠める。薄く裂けた頬から血が跳ねる。

回避に徹している。徹しているにも関わらず、どういうことかこいつはそれを捉えるのだ。捉えて、仕止めようとしてくるのだ。

これがバルカンだなんて、馬鹿げているわ。

 

だが、私とて伊達にこれまで自分を磨きあげて来たわけではない。

私は、積み重ねたんだ。あの人の背中を見て。

そうだ、私は名乗るんだ……。

なればこそ……。

 

「──斬の型」

 

一瞬でこちらの出方に気づいたのか、バルカンは直ぐ様両腕で自身を庇う。  

練りに練った太刀筋。

型に沿った太刀筋。動きだけ再現すれば実に単純な動作だろう。だが錬度が違う。単純な動作であればこそ、極めれば強力な武器となる。

それに比べてさっきの刀裁きは余りにもお粗末過ぎた。数十秒前の自分に恥じる。

 

だが……。

 

「まだだ。まだ足りない。私に抜かせてみろ。この刀を」

 

それにしたって、今の一撃。ナツやグレイなら戦闘不能に出来るほどの威力だったのだが……。

なるほど、近頃の魔物は恐ろしいものね、と口端を軽く吊り上げる。

最近は兄の行方を探すことに夢中で、身も心も戦いに投じることが出来なかったしね。

この馬鹿げた強さのバルカンに、感覚を取り戻すための手伝いをしてもらうとしよう。

 

私の感情を察してか知らずか、不服そうに唸りながらも、然したるダメージもなさそうにバルカンは地面を叩いている。

 

「バルカン。確か知能があり、人の言葉を解する筈だが。如何か?」

 

そう問いかけるも、返ってくるのはウホッウホッなんて返事として成立のしない鳴き声だけ。

果たして、その動物的な返答は知能がないゆえなのか、それとも知能があって尚言葉を喋る気がないのか。

人に寄生すれば人の言葉を解する。

動物に寄生しているならまだしも……。

だが、このバルカンが野性動物に寄生しているだなんて事態があって良い訳がない。それが事実であった場合、通常時のバルカンに対する危険度が跳ね上がること間違いない。

だとするとなぜ言葉を喋ることをしないのか。それが不可解。

バルカンの生態に対しても謎が多いのも事実。ここで真実に迫ろうと言うのは酷ということだろうか。

 

そんな思考が生まれては消えていく。

 

首を傾げて鼻をほじっているバルカンに、ふと疑問が浮かび上がった。

 

──なぜ、攻めてこない?

 

……もしかして、このバルカンが攻撃するのはこちらから攻撃を仕掛けたからだろうか。

元はと言えばナツが勝手に挑んで勝手にボコボコにされていただけ。そこに私とジェラールが横槍をいれたから戦っていた?

 

 

──そんな安易な憶測をするべきではなかった。気がつけば私は激痛に苛まれ、遺跡の外で倒れ附していた。

 

 

「ぅぶっ……」

 

喉の奥からせり上がってきたものを吐き出してみれば、いつの間にか倒れていた地面の草葉が真っ赤に染まる。吐血だ。

そして遺跡の方へと視線を動かして理解した。私は遺跡の支柱をへし折り、壁を何枚も何枚も突き破り、遺跡から文字通り叩き出されたのだ。

 

なんて恐ろしい威力。見ることも、理解することも叶わなかった。マスターの隕石のような拳を凌駕している。尋常ではない。

今の一撃で自分がどれだけ大きなダメージを負ったのか自分でもよくわかる。

聖十大魔道等と呼ばれて多少なりとも舞い上がっていたのだろう。なんと愚かな。

侮ることはすまい、などと考えていたばかりだというのにこの醜態だ。

侮り、侮ってその結果こうして一撃で打ちのめされている。

 

「全く、私はどれだけ……ぅぐっ……抜くことすら出し惜しみ、無様に終わるとは」

 

怒りすら込み上げてくる。

バルカンにではない。自分にだ。

ふざけるな。あの人の弟子を名乗れるように頑張ってきたのだ。だというのに、こんなモンスターを侮り舞い上がり打ちのめされているだと?ふざけるな。

 

「負けるわけにはいかない……」

 

立ち上がろうとするも足に力が入らずに四つん這いになる。

 

「あの人の元には一ヶ月しかいられなかった。っぐ……だが、私はあの人の弟子でありたいっ。こんなところで負けるわけには……」

 

──いかないッ!!

 

その場から四つん這いのままに駆け出す。足に力が入らなくとも移動することなど容易い。

重力魔法。自分の周囲の重力を軽く、バルカンの周囲の重力を重くする。

常人なら潰れてしまうであろうその中で、それでも呑気にドラミングをしているところを見ると、本当にこれがバルカンなのか疑わしくなる。

 

「斬る──」

 

射抜くようにバルカンを睨み付けて抜刀すべく構える。

不倶戴天の刀身を抜き出そうとしたその時。

 

 

「『流星(ミーティア)!』」

 

私の体から力が抜ける。

無理矢理横から入ってきた男に抱えられて、そのままバルカンへの軌道を遮られた。

私を抱え、その場から離脱を謀る。

 

「ま、まてジェラ」

 

静止させようとする私の言葉を遮り、加速する。

移動することによる強風を受けながらも目を開く。すると、バルカンは私たちを追いかけてきていた。

 

「ジェ……ジェラール。おろせ」

 

満身創痍な私に極力衝撃を与えないようにしているのだろう、速いながらも緩やかに駆けるジェラールに言う。

 

「あいつは、私が倒す」

 

「馬鹿なことを言うな」

 

呆れたような声が帰ってきた。心配そう声色も混じってはいるが、呆れが大半を占めるような物言いだ。

 

「負けたのが許せないのはわかる。だが今のカグラじゃ勝てない。一旦引くぞ」

 

一旦。その言葉でジェラールが妥協してくれているのが窺えた。

普通ならば依頼としても不成立であり、引き返すのが現状であるというのに、頑固な私のために続行を選んでくれたのだ。

自分勝手なのは私の方だ。ナツのことは言えないわね。

 

とにかく今は、追いかけてくるあのバルカンをどうにかするべきだ。

天体魔法にすら追い縋るバルカン。悪夢以外の何物でもない。

 

「ジェラール。行くぞ」

 

そう合図を送るとジェラールは頷いた。

返事を確認した私は、ジェラールと私自身に重力魔法を施す。

途端に速度を増す。天体魔法と重力魔法が合わさることで驚異的な速度が生まれ、バルカンを置き去りにして森を駆け抜けた。

当初と違い、急激な速度の変化に慣れたジェラールは、まるで光のように宙を駆ける。

 

そしてどうにか私たちは、バルカンから逃げ(おお)せたのだった。

 




後半へ続く(日曜18:15感)

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