モンスターイミテーション   作:花火師

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書いたまま放置していたのでうpしました。一話目からブッ飛んでるけど付いてきて!ツッコミ処さん多いけど許してナリ!
続くかなぁ



迷い子

 

目が覚めて、自覚した。

 

吾輩は、化け物(モンスター)である。

どこで生まれたのかとんと検討もつかぬ。なんでも、コンクリートジャングルの中でにゃーにゃーと泣いていた事だけは記憶している。

 

さて、どうしたものか……。

 

……うん。現実逃避の繰り返しはやめることにしよう。いくら夏目漱石(俺の思う頭いい人)風にこの悲惨な今を彩ったところで現実は変わらない。

……気取っても、大して賢くも見えないしな。悲しいことに。

 

とにもかくにも、ここから離れることが第一にするべきことだということは分かりきっている。

 

幸いというかなんというか、常識的にありえないが鼓膜も再生しているようだ。どうなってんだか。

 

意識的に目に力を込めると、水溜まりに写った俺の瞳が赤く染まる。その瞳で遥か続く地平線を眺めれば、(おびただ)しい数の人間たちが視界を塗りつぶすように群れをなしてこちらへと向かっていた。

 

逃げなくては。

 

そして俺は、破壊され尽くしたその大地で雲ひとつない晴れ渡った空を見上げた。

 

……どうなってんじゃい。

 

数時間前までは鬱蒼とした森が広がってただけなのに、気がつけば荒野だ。いや、これは荒野とは言わないかもしれない。

荒野というよりかは、規模的に見ても月のクレーターをそのまま持ってきたような感じだ。周囲数キロはその大体が大地ではなく、穴だ。クレーターだ。

 

まるで隕石でも落ちたんじゃないかと思わせる程のもの。

 

はぁ。なんでこんなことになったんだか。もう訳がわからないよ。

 

 

軍団が迫っているんだ。そろそろ俺も逃げるとしよう。この惨状の当事者なんだ、確実に捕まる。

 

 

「さらだばーーー!!」

 

 

悲劇の一般モブ、天貝(あまかい)刀児(とうじ)はクレーターの中で、どこか遠くを目指して走り出した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

気がつけば鬱蒼とした森の中にいた。

 

 

あれ?俺はなんでこんなところにいるんだっけ……。

 

 

……あー。たしか、ゲームの試写会で東京に遠征してたんだっけ。

 

なのに何でこんなところにいるんだ?

 

どこか気の抜けた記憶と意識を自覚しながらも、俺は辺りを見回す。

なぜだろう、頭が働かない。まるで寝起きのような感覚だ。

 

えーと。

 

そうだ、試写会だ。ということはあれか。これはもしかして最近有名な3Dうんたらとかいうやつか。

……あちげえ、VRってやつか。あのバーチャルリアリティーとかいう、SFチックなあれか。

 

「ほえー。凝ってんなぁ」

 

数十年前まで某ゲームのキャッチフレーズが、夜中でもできるゲーム。みたいなフレーズだったのに、今じゃ、体感できるゲームときたもんだ。

 

技術の進歩は目覚ましいね、ほんと。

 

 

だがしかし、作り込みが甘いところもあるな。まず第一になぜ森の中なのに鳥の声すら聞こえないのか!動物も見当たらない!自然の中なのに不自然!(激ウマ)

ババーンと偉そうな評論家気取りで格好つけてみる。

……ふっ、まぁまだお試しの段階だから仕方がないのかもしれないな。そういうところを突くのは野暮か。

 

 

……それにしても、なぜだろう。試写会に来てVRの体験を受けたんだろうが、俺にはその記憶が全くない。あれかな、リアリティーを求めるために、それまでの記憶をボカしてるとか……。

 

あれ? オーバーテクノロジーもいいところな気がしてきた。

 

というか、VRっていうわりには風を感じる触覚も草木の臭いを感じる嗅覚もしっかりと作用している。

 

あれれ? オーバーテクノロジーもいいところな気がしてきた。

 

しかも、服装まで完全に俺が今朝着てたものを再現できてるし、伸長も体格も大差ないし、腕に昔作った切り傷もある。

 

あれれれ? オーバーテクノロジーもいいところな気がしてきた。

オーバーはオーバーでもオーバーロードじゃねーか。もしかして開催してた試写会ってユグドラシルだった……?

 

「俺のナーベラルとルプスレギナどこ?……ここ?」

 

落ちてる木の葉を裏返してみたが俺の夢見た少女たちはいなかった。

あ、イモムシ=サン、コンニチワ。

 

……うーん。なるほど。

 

わからん。

状況がまったくわからん。

 

まぁいいや。

 

 

「すみませーん!これからどうすればいいですかー?」

 

これがVRならとりあえずスタッフ側とコンタクトを取らなくては。何をすればいいのか全くわからない。謎解きはあまり得意じゃないし、森の中で放置プレイというのは、些か俺にはハードだ。

 

木々のせせらぎぃ。

 

「……すみませーん!スタッフさーん!」

 

木々のー、せせらぎぃー。

 

「ギブアップです!なんかの謎解きクエストならギブアップです!」

 

いやー、いい天気。

 

「……」

 

 

……あれ?どうすればいいの?これ。

 

返事がない。ただの屍のようだとかそんなこと言ってても大丈夫な状態なのかなこれ。

一人でボケてて、突っ込みのないまま寂しい感じを繰り返してても大丈夫な状態なのかなこれ。

もしかしてSFよろしく……いや、今じゃなろう系と言った方がベターか。もしかしてなろう系よろしく叫べば能力値とか目標とかマップとか出てくるのかな。

……こっ恥ずかしさを圧し殺して叫ぶのみ!

 

「ステータス!!」

 

…………はずか……いや考えるな!!自分に負けたら終わりだ!!

じゃ、じゃあ。

 

「プロパティ!!」

 

…………うーむ。慎重な勇者だったらこれで出てたはずなんだけどなぁ。

 

いや、もしかしたら俺が抽選か何かで選ばれて体験版をやらせてもらっていて、この現状がモニターか何かで写し出されていてそれを客たちが見ているのかもしれない。俺の痴態までもモニタリングされてたという可能性は忘れよう。なかったことにしておこう。

……とりあえず、自主的に進まなければ何もならなそうだ。だとしたらスタッフに手を借りるわけにはいかない。俺が行動しなきゃ始まらないということね、了解。

 

「とりあえず、歩くか」

 

一人足を進める。

 

でも、装備とか何も持ってないしな。どうするんだろう。

普通ロールプレイングゲームつったら町の入り口とか、自室から始まるもんなんじゃないのか?そっから村長とかに出会って、魔王を倒すのじゃゲホゴホオエッオボロロロみたいな。

 

だがそうじゃないとするなら、森の中での遭遇からとか……。

盗賊とかそういうのに襲われているヒロインを偶然見つけて、それを倒してヒロインアンド仲間ゲッツして魔王討伐とか……。うっわぁありきたりぃ。

 

あ、ごめんなさい製作の皆さん、違うんです。なんていうか心の声が……あの。……違うんですわぁ。えーと、その、違うんすわぁ。

 

「あれ?」

 

歩いていた足を止める。

 

 

というか……。

 

試写会? これって……なんのゲームの試写会だっけ?

 

うん、某ユグドラシルではないことは確かだろう。だって現実世界は至って普通だったような気もするし……。

いやでもなんだったかなぁ。

 

 

「!?」

 

ふと、俺の体が硬直した。

 

 

まるで金縛りにあったかのように、体が動かせなくなった。口を開くことすらもできなくなり、目玉だけをキョロキョロと動かして辺りを伺う。

 

な、なんだ。金縛りなんてシステムが作動してるってことは、ちゃんと進行してるってことだよな。よかった。

 

思考とは裏腹に、なぜか体が小さく震え出す。

 

奥の茂みの奥。そこに何かがいる。まるで漫画か何かのように、その気配を感じることができた。

 

なるほど、この察知能力がマップの代わりにある機能かな。

 

そして茂みの中からその巨体は姿を現した。

 

「……」

 

 

黒い竜だ。

 

 

禍々しく青みのかかった黒い竜。

 

大きな体を動かす毎に木々がへし折れる。その眼は異様なまでにギラギラとしていて、どこか『最強』という言葉を連想させるようなオーラを纏ってる。まるでラスボスだ。

 

 

あー。なるほど、ここでか。出だしからボスと出くわして、旅の目標を明確にしていくパターンのやつか。

 

ありきたりだけど、しっかりとボスの姿を知ることができて戦う姿をイメージしたりで楽しめるという点では、実に大好物なパティーンです。

 

 

黒い竜を見ながらニヤニヤしていると、まるで体験版の最後を飾るかのように咆哮を上げるための溜め動作を見せた。

 

 

次の瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。

 

 

 

 

 

──なんだこれ?

 

 

恐怖どん底に突き落とされると同時に、その黒竜が口を開き……

 

 

 

 

 

 

 

 

──世界が真っ白になった。

 

 

 

 

 

頭が痛い。

 

倦怠感と吐き気に襲われながら顔を上げれば、そこには黒の竜が立ち塞がっていた。

 

 

VR……じゃなかった?

 

あれ? ちょっとまて、なんだこれ。俺はさっきまで……。

おかしいじゃないか。なんでVRで痛覚があるんだよ!

 

竜を中心に、生い茂っていた緑は視界に入る殆どが死に絶え荒野となっていた。

 

さっきの咆哮で? あれだけでこの惨状を作り出したのか?

 

なんなんだよこれ!!

そう叫びたい。だがわからない。こんなのがゲームの仕様である筈がない。そもそもデバッグで……。

 

……って、うだうだと考えてても仕方ないよな。

響いた足音に思考を打ち切って体を持ち上げる。

 

不思議と体は痛くない。

気持ち悪さと倦怠感はどこへやら、いつの間にか体調は戻っていた。

 

本当に訳がわからない……。

 

竜に睨まれた状況で、ゆっくりと構えてる暇はない(俺如きが構えたところで何ができるわけでもないし)。

 

とりあえず……。

 

「逃げるべしぃ!!」

 

当然、背を向けるのは躊躇った。なんせ竜なんて空想上の生き物の中でもトップクラスのモンスターだ。背中を向けるなんてとんでもない。だが逃げなければどちらにせよ殺されるだろう。水道管工事のおっさんですら歩くキノコや亀に殺されるようなご時世だしな。

それに、これがゲームだと確信出来ない以上、錯乱して下手にやられるわけにはいかない。

 

ゲームならそれはそれでいい。だが、痛覚があり、まるで現実世界のように体調の不良を感じたのだ。もし死んだとして、その痛覚が伝われば廃人なんてことにもなりかねない。……かもしれない。

 

 

再び、黒の竜は空気を吸い込んだ。

 

咆哮か?

 

 

いや、違うあれは違う。咆哮じゃない。

 

 

 

今まで様々なゲームの中で、散々、いやというほど見てきた竜の定番中の定番の攻撃。

竜の攻撃方法において最強を誇る。それは──

 

 

 

──ブレス

 

 

あ、死んだ。

 

 

本能的に悟った。

 

大気が振動している。辺りの生命が悲鳴をあげているかのようにざわめく。

 

そんな中で、俺は死の瞬間に怯えることはなかった。

 

口を開く。

 

 

 

「『MODE:リオレウス』」

 

 

脳を焼ききるほどに、鮮烈に浮かんだんだ。

 

 

 

──切り替え方が

 

 

──撃ち方が

 

 

 

空気を吸い込む。

 

肺に空気が入っているわけではない。それが人体のどこへ向かっているのかわからないが、とにかく本能的に吸い込んだ。

 

そしてそれが最高潮へ達したことを感じると同時に……。

 

 

──吐き出す!!

 

 

 

途端、俺の口から表現に難いような量の火炎が放射された。

 

まるでを太陽を覆う炎を連想させるほどの熱。だがそれを吐き出している俺自身は、熱さこそ感じるものの辛くはなかった。自分の体は暖かい。そんな感覚。

 

 

火球ではなく放射状に放たれた火炎は、黒色の竜のブレスとぶつかり合った。その瞬間、俺の耳を激痛が襲った。

 

そして気がついた。激痛がしたそのあと、俺の耳に異変が起こっていることに。

 

……何も聞こえない。

 

なんだかもう色々衝撃的過ぎて混乱してきた。……なんでこんなことになってるんだっけ?

 

 

俺のブレスは黒い竜のブレスに対抗できている。激しい衝撃と熱量を撒き散らしながら拮抗している。

大地はひび割れ、元は森だったことなど忘れ去れさせるほどに荒れ果て、空までも真上にあった雲が逃げ出す始末。

 

心地の悪いドロリとしたものが顎を伝って滴る。

 

血だ。

 

あぁ、そっか。鼓膜が破れてたのか。そりゃあ聞こえないわけだ。

アドレナリンが出まくってて痛みを感じないのかなぁ。

 

頭の隅でそんなことをうっすらと考えながら、どこか夢見心地のままでブレスを続ける。

 

ぼーっとしてられるのは、単純にその常態を継続出来ているからだろう。

 

そして俺も、黒い竜も、タイミングを同じくしてブレスをやめた。大地が陥没したことで互いの足場が崩れたからだ。いや、崩れたとかいうレベルではなく、地面が飛び散ったと表現すべきか。

 

竜の蹄のように変化した足で、俺は陥没しきった地面に強く着地する。飛翔している黒い竜と俺の上へと落下してくる瓦礫を忌々しく思いながら睨み付けた。

 

落ちてくる大岩たちはそのひとつひとつが、俺を潰れたトマトのように出来そうな程。

 

 

本能に従って、俺は呟く。

 

 

「『MODE:ティガレックス』」

 

 

再び口を開いて深く、深く、息を吸い込む。

 

なぜかはわからないが、やり方は知ってる。

ついさっき、目の前の竜に出会い頭に手本も見せてもらった。お陰様でイメージも出来ている。あとはそれを彼の轟竜のように再構築を……。

 

威嚇のための咆哮ではなく、仕留めるための咆哮を……。

 

 

頂点に達した。

 

 

さぁ、体の奥から爆発させろ。

 

 

──ゴガアアアアアァァアアアアアアアアア!!!

 

 

およそ人体から発せられる訳もない馬鹿げたほどの爆音が生まれた。

その咆哮は波となり落ちてくる岩のことごとくを粉微塵へと変える。

 

旋風が巻き起こり、俺の周囲一帯をさらにズタズタに引き裂く。クレーターの中にも更なるクレーターを作り出すその様はまるで、戦争ゲームでの核爆弾の連投地点だ。

 

 

これが轟竜の音撃。

 

 

さっきのブレスもそうだが、本家よりも更に強く、比べ物にならない程に凄まじい。

 

なぜこんなことが出来るのか俺には全くわからない。なぜあのゲームのモンスターを模倣できているのか、訳がわからない。だが、今は理由だの経緯だのを考えている暇はない。

隙を与えれば殺される(この台詞ちょっと言ってみたかった)。

 

 

現時点で、

何この急展開説明kwsk。とか、売れない作家の起こしたヒステリーの結晶ワロタ。とか、どういう錬金術の結果こうなるのどういう化学変化の果ての姿なのとか、そんなことばかり考えてしまう。

 

しかしそんなことばっか考えて鼻水たらしてぼへーっとしてたら確実に殺られる。

殺されたことなどない俺にそう思わせるそれは、本能に訴えかけることができるほどの存在感(ゆえ)だろうか。

 

 

黒い竜の瞳が、俺を捉えた。

 

捉えた。

 

さっきまでのは、ハエを見ているような雰囲気だったようだ。

竜が俺を『視界に捉えた』というのを実感させられた。それほどまでに、その迫力は濃厚なもへと変化した。

 

迫力。もしくは圧迫感と言ってもいいかもしれない。こんな状態が続くだけでショック死してしまいそうなほど。

 

 

俺を、敵として認識したようだ。

 

 

訳がわからない。だが、どこか楽しくなってしまっている俺がいる。これぞゲーマーのサガというものか?

 

「いんや、違うな。男のサガってか……。ははは、我ながら。シラフに戻ったら頭抱えそうな台詞だよ」

 

でも、強いやつと戦いたいっていう思いは、結局のところそういう人間本来の闘争本能から来ているのかもしれない。ただ、現代じゃ物理的に許されない故に、別次元でそれを解消しようとしているのか。もしくは単純な話、現実逃避が極まってヤケになってるのか。

 

んー、ま、細かいことはどうでもいいか。

これがゲームだろうが、ゲームじゃなかろうが。とりあえず、俺は意味不明の凄い力を持ってて、目の前には強い相手がいる。それでいいじゃないか。結局、頭のいい解釈なんて俺にはできやしないんだ。

 

 

「黒いの。もう一回、いくぞ」

 

自分の体が悲鳴を上げているのか、皮膚が裂けて血が吹き出す。

 

耳が機能しない今、どんな音が聞こえるのかわからないが、黒い竜は俺へ向けて再び咆哮を上げると踏み潰すべく急降下をした。

 

 

 

 

 

「『MODE:アマツマガツチ』」

 

 

言葉と共に一瞬にして空に雲が敷き詰められると、巨大な落雷が黒い竜を撃ち抜いた。

その衝撃で辺りは焦げ、雷の欠片が地面の上を蛇のように(ほとばし)る。

 

突然振りだした雨が地面を強くうち、そこを雷が走り回る。この空間にまず生命体は生存していられないだろう。

 

 

勢いの削がれた黒い竜に、俺はほくそ笑む。

 

これは?チャンスでは?

 

右手に意識を向けてイメージを固めるとそこに風が凝縮され、手のひらが屈折して見えるほどに強力な圧力の塊が生まれた。

 

 

「たぁぁぁあああまやぁあああああ!!」

 

笑顔で俺はそれを黒い竜へ投擲した。

実際俺は大した腕力なんてないが、その塊はまるで某イチローのレーザービームの如く竜へ炸裂する。

 

 

悲鳴らしき声が上がった。

 

いや違う。これは悲鳴じゃない。怒声だ。

 

 

竜は、俺を見下ろす。

 

その眼はとても冷たく、残忍さを映している。そして、そこには容赦というものが完全に消えたように見えた。遊びとか、油断とか、傲慢とか、そういった見下しの色が消えたように見えた。

 

 

ブレスを再び、竜は構えた。

 

 

だがその構えは、先ほどのように温くはない。もっと、もっと強く深く力を溜めている。

 

凄く、燃える。

 

萌えを求める萌えの求道者である萌えブタの俺だが、しかし、ここは本当にボケなしで言える。

 

燃えてきたぞ、と。

 

 

やってやろうじゃないの。

 

 

「『MODE:アカムトルム』」

 

 

皮膚に、血管とは別の禍々しい赤色の線が走った。身体中に力がみなぎる。だが同時に内側から体が爆発しそうなほどのエネルギーが、激痛となって俺を責め立てる。

 

だが、そんなものを忘れ去れるほどに俺は猛っていた。

 

俺も口を開き、大きく息を吸い込む。

 

 

さぁ、大一番の勝負だ。

 

 

力を溜める。

 

 

恐らく、今俺が撃てる中でも最強のブレス。

ティガレックスの咆哮を更に上回り、方向性を持たせた超高火力のソニックブレス。

 

 

 

溜めて

 

 

溜めて

 

 

溜めて

 

 

頂点に、達した。

 

 

さぁ、勝負だ。

 

 

俺の口から放たれた衝撃波は竜へ向かい、竜のブレスは俺へ容赦なく牙を剥く。

そのお互いの攻撃が重なりあった瞬間に、もはや何度目かわからない爆風が吹き荒れる。

 

 

空を埋めていた雲が、再び霧散する。

 

降りつけていた雨雲の雫が、文字どおり蒸発し、消滅する。

 

ふははは、ホロ○も死○も超越した私の放つ完全詠唱の黒○だ!!……とか言いたい。でも悲しいけどこれブレスなのよね……。

 

 

なんて思いながらも、衝突し合う二つの高エネルギーを見ながら俺は悟った。

 

 

違えようのない結末を悟った。

やっぱりフラグでしたか。

 

 

「ぎゃああああああああぁあぃああああ!!!」

 

俺のブレスは多生拮抗したものの、あっさりと打ち砕かれてしまった。

 

あ、これ勝てないわ、ワロタ。

 

「そうですよね、さっきレウスのブレスで相殺できたのはあくまでナメプしててくれたからですよねごめんなさい調子に乗りましたああああああああ!!!」

 

 

 

そうして俺の視界と意識は、あっさりと暗転した。

 


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