この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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春はパンツ。

やうやう白くなりゆくパンツ。







九十二話  春はパンツ 夏はパンツ 秋はパンツ 冬はパンツ

 球磨川達を乗せた馬車は、一定のリズムで車体を揺らし走り続ける。振動の殆どを吸収してくれるのは、これぞ王族御用達といった車輪とシートではある。ダクネスはともかく、めぐみんは高級な馬車に乗る機会があまり無いのか、振動の少なさに感動している様子。……が、それでもバスやタクシーに慣れている現代っ子の球磨川には乗り心地が良いとは感じられない。

 

『ブレンダンに行った時より揺れは穏やかだよ?でもさ、だからって酔わないとは限らないでしょ。……と言うことで、誰かエチケットな袋は持っていたりしないのかな?』

 

 長旅の頼れる相棒、エチケット袋を求める球磨川。アルカンレティアまでは主に寝て過ごそうと目論んでいたので、着席後すぐにシートに体を沈めて目を閉じたのだが……ようやく睡魔がやってくるかと思われた辺りで、馬車は未舗装の場所へ到達し揺れが強まってしまったのだ。せっかくウトウトとし始めたというのに、ご破算。それどころか、気持ち悪さがオマケでついてくる始末。

 

「だらしがないな。こんなにも快適な馬車の旅で酔うだなんて」

 

 前方に座るダクネスから咎める声が。

 

『ベアトリーチェちゃんのスキルを薄めに薄めたくらいの気持ち悪さでしか無いのも事実なのだけれど、吐き気ばかりはこの僕でも耐えがたいね』

 

 酔い止めの一つも渡してくれないダクネスに、球磨川は若干失望しながら、口元に手を当てていかに自分が吐き気を堪えているのかをわかりやすく伝えた。

 

「まだ馬車は出発したばかりなのです。どうにか我慢することは出来ませんか?恐らく、今日だけでも何回か休憩は挟むでしょうし。もし無理そうであれば、アクアにスキルでどうにか出来ないか頼んでみたほうがいいですね」

 

 背もたれの上部から顔だけ出して、めぐみんが身を案じてくれる。

 

『アクアちゃんのスキル?』

 

 めぐみんの進言にひっかかりを覚え、球磨川は何かを思案し、数秒してハッとした。

 

『……あ!僕ってやつは学習しないな。咲ちゃんにも、言われた事があったじゃないか』

 

【大嘘憑き】で、その頭痛をなかった事にしたら?

 

 と。昔々、水槽学園時代の友人である須木奈佐木咲に、球磨川が頭痛で困っていた折アドバイスされた事がある。その際には眼からウロコな思いをしたが、数年経てばまた忘れてしまうのが人間というもの。球磨川はめぐみんの助言で、やっと記憶を掘り出せた。どんなに便利なスキルを手にしていても、いざと言う時、日頃使わない用途となると存外思い出せないのだ。

 

「なになに?球磨川さんってば酔っちゃったの?これだから、リムジンバスに慣れちゃってる軟弱な日本男児は困るわよね。これから日本人をこの世界に転生させる前に、言語習得と同時に酔いに強くなる改造……じゃなく、手助けもしてあげるべきなのかしらっ」

 

 前の席から、会話を盗み聞きしていたアクア様が自分の価値を知らしめる為に遥々近寄ってくる。足もとが不安定なのにも関わらず、足取りは軽快そのもの。

 

『いやー、僕的にはイリスちゃんがパンツを見せてくれたら乗り物酔いなんか吹き飛ぶと思うんだけどね。』

「私のぱ、パンツをですかっ!?ミソギちゃん、いくら具合が悪いからっていくらなんでもそれは……」

 

 球磨川がパンツを好きなのは理解しはじめてきたアイリスも、唐突な要求には赤面する他ない。ここで、はいどうぞ!とパンツを見せられていたとして、果たして球磨川は喜んだのだろうか。パンツを見せろと言われたアイリスの困り顔を見て和む事自体を目的としているのではないか。ダクネスやめぐみんは、何も本気で球磨川がパンツを見たがっているのでは無く、これも又コミュニケーションなんじゃないかと考える。王女に対しては無礼すぎる事を除けば、球磨川くらいの年頃ならばこの程度の下ネタを言うものなのだと。

 ゆえにめぐみんが、優しい口調で球磨川を諭す。

 

「あんまりイリスを困らせてはいけませんよ、ミソギ!そうやって、女の子をからかうのは感心しませんね。貴方はイリスがこの場で要求通りパンツを見せてくれたとして、嬉しいのですか?逆に、照れやなミソギの方が照れ臭くなるでしょうに。場を和ませる為とはいえ、そういった冗談は好ましくないんじゃありませんか?」

 

『いや、嬉しいけど?』

 

「嬉しいんですかっ!そうですか、すみませんでした」

 

 少しばかり下ネタを取り入れたコミュニケーションかと思えば、混じり気なしで本心からパンツを見せて欲しかっただけ。そう、それでこそ球磨川禊なのである。

 

『なんだいめぐみんちゃん。僕が、女の子にパンツを見せてもらって喜ばないはずが無いだろう』

 

 乗り物酔いはどこへやら。肘かけに両肘を置き、お腹の前で手を組み、だらしなく放り出していた足も組む球磨川。相変わらず言ってる事は最低だが、ポーズだけは抜群にカッコいい。

 

「無いだろう、では無い!お前はまったく!そういうのはだな、好きあってる相手と二人だけの空間でやるからこそ意味があるんじゃないのか?」

 

 ダクネスはポーズを取った球磨川に一瞬目を奪われそうになったものの、発言が駄目過ぎたので強く非難する。

 

『ダクネスちゃん。それじゃあまるで、公衆の面前で見るパンツには価値が無いかのような言い方だな』

 

 てんでわかっていない。どうしたら、ダクネスやめぐみんにパンツの素晴らしさを理解して貰えるのか。球磨川は頭を悩ませた。二人の、パンツへの理解が浅過ぎて自身とはステージが違う。

 正直、彼女らが何で理解してくれないのか、まるでわからないのだ。小学生に勉強を教える際、何故問題を解けないのかがわからない感覚に似ている。

 

 晴れの日に見るパンツも、雨の日に見るパンツも。

 

 夏に見るパンツも、冬に見るパンツも。

 

 屋内で見るパンツも、屋外で見るパンツも。

 

 都会で見るパンツも、田舎で見るパンツも。

 

 山で見るパンツも、海で見るパンツも。

 

 日本で見るパンツも、外国で見るパンツも。

 

 それから、……異世界で見るパンツも。

 

 これらは総じて、とても素晴らしいではないか。

 

 ダクネスは恋人と密室でと発言した。なるほど、それも一理ある。どうしたって、好きな人のパンツと言うものは特別な付加価値があるものだからだ。人吉瞳のパンツともなれば、球磨川だって大枚をはたく覚悟がある。

 けれども、かといってそれ以外のパンツが貶されるのは業腹だ。

 

『パーティーメンバーがこの程度だとは……一つ、課題が見つかったよ。イリスちゃんも加わって丁度いい機会だし、君達には少しずつで良いからパンツの良さについて勉強していってもらうとしよう。これは、リーダーの命令だぜ!』

 

「……もしかすると、このパーティーは特殊だったりするのでしょうか?それとも、世間一般の冒険者は皆パンツについて学ぶモノなのですか?」

 

「生憎だがイリス、このパーティーのリーダーが特殊なのだ。」

 

「えぇ……薄々は、そうかな?なんて、思ってはいましたが……!」

 

 イリスは若干、やばいパーティーに加入してしまったのではと不安になる。

 けれど、球磨川がいなければ今こうしてアルカンレティアに向かっている自分もいないわけで。

 

『イリスちゃん。というわけで、そろそろパンツを見せてくれる気にはなったかな?』

 

「見せませんよっ!どういうわけですかっ!?ミソギちゃん、貴方にはもっとリーダー然とした発言をお願いします……!」

 

『ふむ。冒険に連れ出す条件として、パンツを見せてもらう事にしておくべきだったかな。』

 

 やれやれと球磨川は過去の自分の過ちを認めて、これ以上はアイリスに斬られかねないとし、口を閉じた。

 

「球磨川さん。乗り物酔いのほうは?具合、悪いのよね?」

 

 頼れるプリーストアピールのターンを待ちわびていたアクアが、何処となく顔色が良くなった球磨川にたずねるも

 

『なんか、イリスちゃんがどんなパンツを履いているか想像してただけで治っちゃったから大丈夫!ありがとうね、アクアちゃん』

 

「私の見せ場をしれっと潰さないで欲しいんですけど!?どんだけパンツ好きなのよアンタ!!」

 

 ぷんすかと、肩で歩きながらアクアが席へ戻っていく。

 

 アイリスのパンツ(妄想)でリフレッシュした球磨川は、ようやく車窓を流れていく自然を楽しむ余裕が出来た。アルカンレティアまでの道のりはまだ遠いが、ここでやっと、意識を手放し眠りにつけたのだった。

 

 










誉れもクリアしたし、サンシャインまでは更新がんばるぞいっ



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