この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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今回は短め。今回もかな。










九十一話  座席選択

 

 水と温泉の都、アルカンレティア。アクセルからなら馬車で一日半の距離に位置する、温泉で有名な街。旅行で温泉街に行くとなれば、準備段階の荷造りから既にワクワクしてくるものだろうが、今回は物見遊山ではないのだ。球磨川は自室にて不承不承、大きめの鞄に下着やら靴下を適当に丸めて詰めていた。

 

『こんなもんかな。千と千尋のように、思いがけず長期滞在にでもならない限りは、パンツと歯ブラシがあればいいでしょ。…ね?ハイデルさん』

 

「……如何にも、おっしゃる通りでございます」

 

 ドアの横で病み上がりの球磨川を見守っていた執事は、深々と頭を下げる。千と千尋が何かはわからないが、同意を求められた場合この執事が首を横に振る事はあまり無いだろう。

 やる気を出したアイリスから、各自荷物をまとめるよう命じられてまだ10分ほどしか経過していないが、球磨川は荷造りを完了する。

 

『気乗りしないなぁ。今まで観光客を呼び込みまくって来た素晴らしい温泉が、ここ最近で突然汚染されてきただなんて、常識では考え難いからね。』

 

「……左様でございますな」

 

 鞄をドア付近、つまりはハイデルの近くに置くと、これでもうお出かけの準備は整った。明日の朝、これさえ持てば忘れ物も無い。

 球磨川はベッドに腰掛け、ハイデルの淹れた紅茶を啜る。茶葉の扱いは完璧。一切の無駄がない、洗練された味わいだ。

 

『さてと。エリスちゃんは現地に行けば汚染の原因がわかると言ってはいたけれど、睡眠前の頭の体操に少し予想でもたてておこうかな』

 

 球磨川の、リーダーとしての自覚……では無く。1秒でも早く問題を解決して王城に帰りたい。その一心から、球磨川はもやもやと温泉汚染の要因を想像し始めた。

 

『……アルカンレティアの温泉が火山性温泉だと仮定して。毒性を持つ硫化水素を含む火山ガスが噴出しているのなら、そもそもお湯に浸からずとも、浴場に満ちた毒素で僕は死んでいただろうね』

 

 北海道上川郡にある有毒温泉を例に、球磨川はアルカンレティアの温泉が汚染された経緯を予想する。

 

「はい。かのお湯は、毒性のあるガスを含んだりはしていないようでした。少なくとも、今のところはまだ」

 

 ハイデルの補足に、球磨川は一度頷く。

 

『……有毒温泉であっても、過去に入浴した人間はいたらしいから温泉そのものでは死に至らないようだし、お湯自体が毒となっているアルカンレティアの温泉は全く違う汚染原因が考えられそうだな』

 

 紅茶を飲み終え、カップをサイドテーブルへ。それをそっと回収したハイデルが

 

「クマガワ様。本日はお疲れでしょう。明日の出発は早朝でございます。そろそろ、お休みになられては」

 

 アイリスがわざわざアルカンレティアまで足を運び、汚染の原因を探る今回の一件。協力者である球磨川が今のうちから原因の特定を試みるのは褒められるべきだが、なんといっても彼は生き返ったばかりだ。身体を案じるのも、臨時執事の務めである。

 

『……まあ、ハイデルさんが言うなら素直に従っておこうかな。』

「おやすみなさいませ、クマガワ様。」

 

 球磨川は死んだり生き返ったりで、精神的に忙しかったこともあり、ハイデルが部屋を後にして数分で眠りの世界へと誘われた。

 

 ……………………………

 ……………………

 …………

 

「さあ!新たな冒険の始まりですよ、ミソギちゃん!!」

 

 翌日。王族専用の馬車乗り場には、既に女性陣が勢ぞろいしていた。アイリスが拡声器顔負けの肉声で球磨川を迎えてくれる。

 寝起きのテンションとは思えず、目の下のクマから、冒険が楽しみ過ぎて昨夜は寝付けなかったのでは無いだろうか、この王女様は。なら、これだけ元気なのも、深夜のテンションを引きずっているからか。

 

「朝から気合が入ってるわね、イリスは!でもね?あまり飛ばしすぎると疲れちゃうから少し休んでていいと思うの。アルカンレティアについたら、今以上にテンションブチ上がるんだから!なんせ、アクシズ教団の総本山なんだからねっ!」

 

 なぜか自慢げなアクア様も、やたらとテンションが高い。朝に弱い球磨川には、このコンビは少し荷が重い。

 

『おはよう。僕は道中、馬車で寝るから着いたら起こしてくれよ』

 

 ハイデルの進言によってたっぷり寝たにも関わらず、まだまだ身体が睡眠を欲している。

 我先にと、絢爛豪華な馬車に乗り込み、後方を確保した球磨川先輩。壁に頭を預けて安眠する構えだ。

 王族用の馬車とあって、シートは広々とした一人がけ。それも、全てが進行方向を向いている。上質な本革の座席は長旅でも疲れないよう丁度良い柔らかさだ。すかさず、ダクネスは球磨川の横を陣取り、眠そうなリーダーを気遣う姿勢を見せる。

 

「昨夜はあまり寝られなかったのか?アルカンレティアまでは遠い。今のうちに寝ておくと良いぞ。現地についたら、すぐに泉質の調査が始まるだろうからな」

 

『言われなくても寝るつもりだぜ。』

 

 鞄からアイマスクと耳栓まで取り出し、順に装着しだす。

 

「あぁっ!?ダクネス、そこは私の席ですよ」

 

 ダクネスの次に乗り込んできためぐみんは、球磨川の隣が盗られたことにご立腹だ。馬車の席は全部で6。前方、中間、後方と、通路を挟んで両側に座席があるのだが、めぐみんも後方のシートを狙っていたらしい。

 

「……む?後ろは酔いやすいからやめておけ、めぐみん。私は三半規管が強いからな、この酔いやすい席を引き受けよう」

 

「いえいえ、私は前の方が酔いやすいのです。その理屈でいけば、後部座席じゃないと酔ってしまう私の為に、ダクネスは席を譲ってくれますよね?」

 

 もうすでにダクネスが席を譲る前提で、めぐみんが荷物ごと後方へやって来た。チラリと、球磨川を見てから再度ダクネスへ視線を向ける。

 

「前の方が酔いやすい……だと?異なことをいうな。後方の方が遠心力がかかり、酔うに決まっている。そんなに心配なら、アクアの隣に座って酔ったら回復してもらうと良いのではないか」

 

 どうしてか、頑なにダクネスも座席を譲らない。ピリピリとした二人の会話を知ってか知らずか、既に球磨川は寝息を立て始めている。

 

「それを言ったら、私も後ろがいいんですけどっ!」

 

 ここで、空気の読めないアクア様まで参戦してきた。これを、言い争いに発展しそうだったダクネスとめぐみんが仲良く同時に却下する。

 

「ダメなのですっ!アクアはブレンダンの時に一人だけ抜け駆けしていたではありませんかっ!」

 

「そうだぞアクア。お前は気にしていないのかもしれないが、そうやって自分だけちゃっかりするのはどうかと思う。」

 

 急に、キッ!ときつい目線を送られ、アクアは目に涙を浮かべてしまう。

 

「な、なんのことよー!ブレンダン行ったとき!?何かあったかしら……?」

 

 単に気分で後方に座りたかっただけだというのに、何故か職人の街が会話に出てきた。アクアは混乱し、二人に怒られている理由もわからずじまい。

 

「あのー、はやく出発したいのですが……!」

 

 イリスの声でハッとしためぐみん達。

 お互いに目を合わせ、今選択出来るもっとも手っ取り早い解決策を採用することにした。

 

「と、とりあえず後部座席は喧嘩の元だから空席としましょうか」

「……うむ。それが妥当なところだろうな」

 

 そう言い、各々が真ん中の列に収まる。

 

「なんで空席なのに、座っちゃダメなのよ…」

 

 アクア様だけ、釈然としないまま前方の席へと座る。馬車が走り出したのは、それから間もなくであった。

 

 ちなみに、周囲には他にも馬車が十台ほど走っており、そのすべてに高レベルの騎士や魔法使いがすし詰めになっていた。無論、イリスの護衛が目的だ。アイリスの戦闘力を考えれば、そもそも護衛などいらないのだが……行き先がアルカンレティアであれば話が違ってくる。あの街に限っては、いくらイリスでも油断は出来ない。道中のモンスターとかではなく、街に入ってからの話だ。

 

 男同士、肌が触れ合うくらい詰め詰めで座っているおじさん達からすれば、ファーストクラスのような座席が人数分用意されていながら喧嘩するなど、まさに贅沢でしかなかった。








ほんとにマリオサンシャインがSwitchで出来るなんて。
なんか、催促しちゃったみたいで申し訳ないね!
また、マリオをモンテの村の温泉にぶちこむとするか

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