この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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そろそろ投稿しなきゃと思い、頑張って書いたけれど短いです。1分くらいで読めます。
ゴールデンウィークはどこにも出かけませんので、すぐ投稿します。



八十五話  球磨川生存率100%

 ディスターブが行動に移ったのは、偶々だがアイリスの筋肉が数瞬間弛緩したまさにその時。動から静へ移行するタイミングはどのような達人でも反応出来ない。意識の上ではディスターブが球磨川に斬りかかろうとしているのを認識可能でも、まさに身体がついてこない状況。

 

「ミソギちゃっ…!!」

 

 ディスターブを視界で捉えながら、なんとか自分が動き出すまで堪えて欲しいと、注意喚起する王女。

 

 球磨川の前にいたダクネスも、咄嗟の事で盾にすらなれず。ディスターブはクルセイダーの横をも高速で通り抜けた。

 ダクネスも防御力では負けないだろうが、スピードにおいてはディスターブよりも劣る。これから飛びかかって来るとわかっていれば反応くらい出来るかもしれないが、不意をつかれては厳しい。

 ここに来てアイリスが追い始めるも間に合わず。妨げる者は無し。後は球磨川を袈裟斬りにするのみ。大きく、それでいて隙をつくらず振りかぶったディスターブの剣は、球磨川の右肩まであと僅か数センチまで鋭く振り下ろされた。不死性をもって、ディスターブは球磨川を魔王軍の手先だと認識している。

 一度殺して死ななければ、二度、三度と殺せばいい。アイリスに妨害されるその時まで。

 

 だが。

 

『しつこいね、ディスターブさん。往生際の悪い敵キャラはどちらかといえば好きな方の僕でも、もううんざりだぜ』

 

 スキルによって螺子を取り出すのにかかる時間をなかった事にした球磨川は、その調子でディスターブの剣を受け止めるべく、螺子を構える時間さえも消し去った。これにより、アイリスとダクネスといった接近戦のスペシャリストが反応出来なかった攻撃を最弱の過負荷が受け止めるに至る。

 

 ガキィィンッ……!!!

 

 球磨川の台詞よりも後に、剣と螺子がぶつかり合う音がやってきた。この場にいる人間は同様に球磨川の動きを捉えられず。棒立ち状態を襲われた球磨川が、次の瞬間にはディスターブの剣を受け止めていた様にしか見えなかった。

 

 これには、斬りかかった本人が一番驚いた。

 

「アイリス様よりも早い…だとっ!」

 

 そう。恐ろしいことに、球磨川禊は国の最高戦力の一人であるアイリスよりも早かった。これは、基礎ステータスの素早さで王女を上回っている証明に他ならない。不死性にプラスされた、王女以上の敏捷性。球磨川への警戒度がグンと跳ね上がる。

 

 アイリスよりも速い。すなわち、ディスターブよりも。

 

(クマガワがその気になれば、アイリス様をこの場で害することも可能だ…!やはり、生かしてはおけぬっ!)

 

 王女殿下の身を案じて球磨川を殺すべく何度となく刃を振るうも、先程の戦闘で握力が下がったことで、斬撃は生彩を欠いた。あっけなく受けられ、その隙にアイリスがディスターブを組み伏せてしまった。

 

「そこまでです…!ディスターブ卿」

「ぐっ、アイリス様…」

 

 救いたいと願った対象に押さえ付けられるのは、なんとも悲しい。苦虫を噛み潰したような顔で球磨川を見上げてディスターブは告げる。

 

「クマガワミソギ。貴方がアイリス様を害するようなら、断じて許さない。本来なら、身元不明の貴方はアイリス様のお姿を目にすることさえ許されないのですよ」

『えぇっと……僕がイリスちゃんを害するわけないだろう?嫌だなぁ、ディスターブちゃんってば。捕まりそうになってるからって、僕にヘイトを向けるのはよしてくれよっ』

 

 見下す球磨川の表情は冷酷。口調こそ、いつものおちゃらけたものであったが、どうやら今回の一連の騒動には相当に腹をたてているらしい。

 

『君はどうせ死罪だろうから、この場で辞世の句でも聞いてあげようか?』

 

 右手に持っていたネジを、およそ2メートルにまで伸ばし、その先をディスターブの首元へ。

 アイリスはこれにギョッとし、球磨川に真意を問う。

 

「ミソギちゃん、彼はもう無抵抗ですわ。この場でこれ以上の戦闘は必要ありません」

『そりゃ、王女殿下に組み伏せられて抵抗する馬鹿はいないでしょ。それにさっき、無抵抗だと油断させておいて、僕に襲いかかって来たじゃないか。ディスターブさんの息の根が止まるまでは、僕は警戒を怠らないよ』

「息の根……って。貴方は人の命をそのように軽んじるのですか?」

 

 アイリスは、どのような大罪人であってもしっかり裁判を受けてから罪を償うべきだと考える。犯罪に至った経緯、その人がおかれていた状況。あらゆる面から、第三者の視点をもって公平な判断を下すまでは、等しく国民として大切に扱わねばなるまい。ギルド長がもしもデストロイヤーの自爆を察知した上でアクセルの冒険者らを巻き込ませたのならば、球磨川の言うように死罪も見えてくる。だが、そこに悪意があったのか。やむを得ない事情があったのかもしれない。  

 そこをハッキリさせぬまま人の命を奪っていい権利など、例え神であっても持ち合わせていないのだ。

 

『ぬるい、ぬるすぎるよイリスちゃん!』

「ぬるい、ですか。」

『だって、考えてもごらんよ。その裁判とやらを行うのには、僕たちベルゼルグ民の血税が使われているんだろう?で、仮に死刑になったとして、その刑が執行されるまでのディスターブさんの食事や衣服なんかは税金で賄われているんだよね?恐らくは、反省に費やす為の何ヶ月か、何年という長期間を。……だとしたら、一納税者の立場から言わせてもらえば、この場で死んでいただいた方が遥かに消費税を気持ちよく支払えるってものだぜ』

 

 球磨川の死刑制度に対する考え方は、日本人としての感覚だ。それもかなり極端な。この世界の制度とは別かもしれない。アイリスの反応を見るに、裁判が執り行われるまでは犯罪者にも人権が与えられるというのは共通しているようだが……

 

「ショウヒゼイ……?少なくとも、この国にそういう名前の税はありませんが……」

 

 ただただ困惑する王女。この球磨川の戯言に応答する間にも、ディスターブが組み伏せられたままなのがなんともシュールになってきている。

 

「イリス、ディスターブ卿の拘束を代わろうか」

「ありがとう、ダクネス。」

 

 力だけはあるダクネスがここで拘束を引き継ぐ。球磨川がディスターブにネジを突きつけている現状、必然アイリスの付近にも凶器が迫っていることになる。それが好ましくなかったのもあるし、王女にいつまでもその役割をさせるのも忍びなかった。勿論、ディスターブは無抵抗。アイリスがフリーになった今、もう球磨川殺しはどうあっても叶わない。あらゆる手段を用いても、アイリスが剣一本で防ぎきることだろう。

 

「ここまで、ですね……」

 

 幕切れはあっけなく。球磨川達が汚名を着せられ、危うく死罪にまでさせられることとなった一連の流れ。その黒幕であるディスターブは、ついに観念した。球磨川が余計な発言をしなければ、もっと手短に事態が収束していたのは、もはや恒例となりつつある。

 

『やっと諦めたんだ!悪あがきもほどほどにしてくれよ、ほんと』

「ミソギ、これ以上彼を刺激しないでくれ!頼むからっ」

 

 球磨川が発言するや、取り押さえるのに必要な力が増えたのを感じたダクネスが切実に口を閉じるよう懇願したのだった。

 

 

 

 













誰か私にバラをくれー!青いバラをつくりてぇのです。
ロココシリーズって、なくなったのかしら。10万でアミーボ買いたいな。
ダメか笑

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