ちょいと短めです。
球磨川達とは別行動し、単身カズマを捜す為王都を彷徨う水の女神。
「カズマさん、王都に来ているのかしら…。今からでもめぐみん捜しに私も加わり直すべきかもしれないわね」
アクセルよりも広く、人口密度が高い王都。ここでたった一人の人間を見つけ出すのは、めぐみんが見つかるよりも可能性が低いだろう。いかんせん情報が少なすぎる上、目印もない。
あの、中肉中背でどこにでも溶け込んでしまうような少年は探し出すのが非常に困難なのだ。
捜索して15分。脚に乳酸の蓄積を認めたアクアが、ぽやっと弱音を吐くのも仕方ない。
「そうだわ!めぐみんを見つけてから、皆んなでカズマを捜せばいいのよ。誘拐されたわけでもないし、あの男ならどっかで飄々としているに決まっているわよ!」
やはり、球磨川達と合流するのが得策だとアクアは判断した。彼らは手始めにトゥーガという人物の隠れ家を見に行くと言っていた。ご丁寧に地図をアクアの分も用意してくれているので、難なく合流は可能なはずだ。
ちょっとした路地に入り、喧騒から離れた場所に位置する小さな公園のベンチ。そこに腰をかけ、一服していると。
「あら?一人なのね、アンタ。好都合ではあるけど」
公園の入り口あたりに、ゴスロリ幼女が現れた。アクアが来た時点では誰もいなかったのだが……或いは、先客として遊んでいたけれど気がつかなかったのかもしれない。
「誰よ、お嬢ちゃん。もしかして遊び相手を探しているのかしら?生憎だけど、私に遊んでいる暇は無いの。他を当たってくれる?」
今は人探しの最中。幼女と砂場でお城を作っている場合では無いのだ。
素気無く断られた幼女は落胆する。視線を地に落として、再度アクアの顔を射抜く。
「覚えて無いのね、私のこと。そうだろうとは思っていたけど、いざ現実のモノとなるとやっぱショックだわ」
幼女はアクアと会った事があると告げた。が、アクアにはゴスロリ幼女と出会った記憶などない。この世界に来てから知り合った人間のデータベースを泳いでみても、まったくヒットしなかった。
「ええっと……そうね、悪いんだけど覚えてないわ。どこで知り合ったっけ?」
「覚えてないのなら、いいの。私は、ずっとずっとアンタを殺したかったというのに……虚しいものね」
「はぁ!?今、この私を殺すとか言った?待ちなさいよ、なんで見知らぬ幼女に命を狙われないといけないわけ!」
突如、物騒な発言をしたゴスロリ幼女。アクアは咄嗟に跳びのき、間合いを取った。いや、真に幼女に殺されるとは思えなかったものの、どこか危険信号を幼女からは感じ取れたのだ。
「そういえば、女神ってのは死んだらどうなっちゃうのかしらね?正直、アンタがこの世界にやって来ていたのは驚いたけれど。仮に元に戻るだけだとしても、少しでも苦痛を味わってくれるなら良しとするわね」
「待って。私が女神、水の女神アクアだと知ってるの?貴女……もしかして転生して来た人?あ、なんなら私が転生させたりしたのかしら??」
「所詮は、アンタにとって私は数ある中の一つか。もういいわ。その口が開く度にはらわたが煮えくりかえるから、閉じてくれない?」
幼女。ベアトリーチェはアクアに自身の過負荷を全力でぶつけた。距離も、防具も関係ない。他者の精神に直接作用し、球磨川をも失神させる程のマイナスを。
めぐみんや球磨川に使用した際の、じっくり負荷を強めていくようにではなく。最初から、百パーセントの力でアクアを殺すべく。
「……っっ!!??くぅぅぅう……!!!」
言葉は紡げない。何をされているのかもわからない。予備動作も無く発動した【精心汚染】は、瞬く間にアクアの心を蝕んだ。
「どう?この私の力は。アンタがくれたリボンよりも、遥かに素敵でしょう?ま、これはこれで服に似合うから使ってあげるけれど」
世間話をアクアにするが、女神の耳には一切入っていない。ただ、ひたすらに死に抗うことしか出来ずにいる。
「ずっと、ずっとアンタが憎かったの。めぐみんとか、球磨川とか、どうでもいいわ。ディスターブが球磨川を危険視しているから手を貸しただけのこと。私は、アンタさえ死ねばなんだって構わないの……!!アンタを殺した後で、記憶を覗いて女神ってやつの暮らしを教えてもらうわ!」
スキルの使用時間が継続するにつれ、ベアトリーチェの頬は紅潮していく。精神が昂り、快感すら覚えるほど。めぐみんを拷問していた時も、段々とテンションが上がっていたことから、これはある種の副作用と考えるべきか。
自身が快感を得ているという自覚は、ベアトリーチェには無い。本当の意味でスキルをコントロールすることが、まだ彼女には出来ずにいるのだろう。
「ほらほらほらっ!!もう死にそうっ!?死にそうなのね?いいわよ、早く死んで!!ホラ、死んで!!早く死ねっ!!!」
「……ぅ、……うっ……」
地面に伏し、もう呻くのさえ難しくなっているアクア。命は、風前の灯だ。
球磨川達と一緒に行動するべきだったのだ。最初から、カズマを探さずに、もしくは王城に残っていれば。こんな幼女に殺されかける事態は起こり得なかった。
脳から送られた信号の残滓で、にわかに指先をピクピクと振動させるだけになってしまったアクアの頭を、ベアトリーチェは激しく踏みつける。
「ふふ、ふふふふっ!!死んだの!?ねぇ、あんなに偉そうだったのに、神さまなのに死んじゃったのぉ!?」
ガスっ、ガスっ!!
小さな靴は、幾度もアクアの水色の頭部を踏んだ。激しすぎる憎しみ、憎悪がベアトリーチェを支配しているかのよう。
「偉そうに、何が【この世界での暮らしを楽しめ】よ。神さまなら、ああなるって分かっていたんでしょう!?……ふざけるなっ!!」
ガスッ!!ガスッッ!!!
王都内の公園。ベアトリーチェが認識の操作を行い人払いをしている為、人の気配が一切ない静まった世界。虫の息となったアクアへの暴行を止められる人間は、この場には誰もいなかった。
ベアトリーチェの認識操作に負けないような対策を講じられるような人間でもなければ。
「……【狙撃】」
遥か。700メートルは離れた地点から放たれた、一本の矢がベアトリーチェの足をかすめたことで、八つ当たりにも似た暴力はようやく収まった。
「ぐっ…!?弓矢??どこから……」
ここに、矢が放たれるわけがない。周囲の人払いは完璧だ。偶然、まったく違う目的で放たれた矢がここに誤ってやって来たと言われた方がまだ納得出来る。
足の傷は深い。たまたま流れ着いた矢にかするなんて、不運が過ぎる。痛みでスキルが途切れてしまったので、ベアトリーチェは持っていたナイフをアクアに突き立ててから逃げようと企てた。
しかし……
「【狙撃】…!!」
今度は。ナイフを取り出した手の甲を矢がかすめ、思わずナイフを手放してしまった。
「痛っ…!ま、まさか、狙われてる!?」
2度も偶然は続かない。ようやく、自分が最初から標的にされていたのだと知り、ベアトリーチェは全速力で矢の放たれた方角の死角へと隠れた。
アクアの命を奪えなかった。女神を心底憎んでいる幼女は、襲撃者にも怒りを覚えつつも、ディスターブがめぐみんを見張っているアジトへと帰還することにした。
アクアにスキルを行使しながらの認識操作は弓を射た何者かに効かなかったようだが、認識の操作のみに集中すれば精度は上がる。
隠れ家まで追跡されるのは何が何でも避けなくては。
「ぉ、覚えてなさいよ……!この借りは、必ず返してやるんだから」
アクアを不意に襲った悲劇は、二本の矢によって最悪な展開だけは免れた。
弓の主が気絶したアクアに治療を施し、一命は取り留めたのだ。
「全く。球磨川達と同行してくれていれば、こうはならなかったんだがなぁ……」
漏らされた言葉には、呆れと悲しみが半分、そして喜びの感情も半分ほど込められていた。
ボーナス出たし、うちのメイドがウザすぎる!の円盤でも買うかな。
ぶっちゃけ、今期でも屈指の名作じゃない??