この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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閲覧注意。終始、胸糞悪い話です。残酷な描写が苦手な人はとばして下さい。
やはり、私も安心して見られる無双系が好きなのかもしれません。

そのせいか執筆速度も遅くなりました(言い訳)













六十九話 拷問

  目を開けているのに暗い。布のような感触を目蓋に感じたことで、目隠しをされているのだとめぐみんは悟った。椅子に座らされて、後ろ手で縛られている。どう好意的に解釈しても、この状況は友好的とは思えない。拉致の二文字が頭に浮かぶ。それも、めぐみんを人質として利用する為に仕組まれたものである可能性が高い。攫った上で懐柔しようと目論むのなら、こうまで悪印象を与えてはこない筈だ。

 

「なんですか、これは……」

 

  自由を奪われた状況だが、声は出た。猿轡をされていないのは、この場所が防音に優れているからだろうか。叫んでもきっと、外部へは声が届かないと思われる。試しに大声で助けを呼んでも良かったが、もしこの拉致を実行した人物が近くにいた際には、反感を買ってしまう恐れがある。犯罪に手を染めるような輩が怒り狂ったら、何をされるか想像もつかない。抵抗も許されない現状ではリスキーだ。

  突然の監禁。めぐみんはパニックになりかけた頭を必死に落ち着かせて、どうして自分がここにいるのかを思い出す。

  確か、トゥーガの隠れ家で情報を整理していて、何者かの襲撃があったのだ。いきなり、ダクネスが庇うように覆いかぶさってきた事も覚えている。遅れて爆発の余波が身体を襲ったものの、ダクネスのお陰で深刻なダメージは受けずに済んだのだが。背中を床に強打していたらしく、ジンワリと熱いような痛みが残っている。

  爆裂魔法を使用したのが仇となり、回復するまでは拘束を力ずくで解くのは難しそうだ。なんなら、体力が万全でも後ろ手で縛られていては力も入らないだろうが。

 

「ようやく気がついた?」

 

  視覚を奪われたかわりに研ぎ澄まされた聴覚が、幼い少女の声を拾った。真横から、それも近い距離で発せられた肉声には反射で背筋が伸びてしまったものの、しかし犯人と思しき人物が女性だった事実に僅かな安堵を覚えためぐみん。男であったなら、別の意味でも身の危険を感じたからだ。

 

「ふぅん?……【安堵】か。御多分に洩れず、アンタも私の声を聞いたら安心しちゃうのね」

「あ、貴女が拉致犯ですか?」

「単刀直入なのね。嫌いじゃないけれど、時間ならたっぷりあるわ。そう焦らないで」

 

  犯人らしき少女は、コツコツと足音を響かせながらめぐみんの背後に陣取った。少女の声を耳にした際、めぐみんはハッキリと安心感を抱いた。男性ではなくて良かった、最悪の展開は免れたと。だが、安堵を声には出しておらず。勿論、ホッと一息ついたりもしていない。だと言うのに、少女はそれを見抜いた。

 

「……どうして、私が安堵したとわかったのです」

 

  なんらかのスキルでも使用したのか。はたまた読心術の類か。

  少女は愉快げに、愛しいものに触れるようにめぐみんの両肩へと手を置いて

 

「わかるわよ。アンタの考えは、手に取るようにわかる。いいえ、わかってしまうと言うべきかしら」

「一体、貴女は誰なんですか?この私を拉致して、何を企んでいるのでしょうか」

「質問ばっかりね、めぐみん。……でも許してあげる。今のアンタはそうでもしないと、不安で追い込まれてしまうものね?」

 

  髪の毛を指で弄ばれる。見ず知らずの、自分を監禁している相手に好き勝手触れられるのは許容し難いものの、今はあえて刺激しないよう好きにさせるめぐみん。

 

「……ええ。なにせ攫われるのは不慣れなもので。目が見えないというのも、意外と恐ろしいものなんですね」

 

  攫われる経験が豊富なのは、キノコの国のお姫様くらいのものだ。

  めぐみんの恐怖は、目隠しと拘束による部分も大きい。身体が自由であれば、恐ろしさはかなり軽減されるはずだ。相手は女の子。めぐみんは交渉によって、せめて目隠しだけでも外せないか画策する。拉致犯に名前がバレているのは、相手が事前に拉致を計画していた証明になる。無差別に攫う対象を決めた訳ではないとわかっただけでも収穫だ。球磨川でもダクネスでもなく、めぐみんを選んだところに犯人の狙いが隠されているのだから。

 

「でしょうね。コチラとしても、めぐみんが廃人になるのは避けたいし、目隠しは取ってあげてもいいんだけどね」

 

  壊れちゃったら人質としての価値が下がるから、と少女は付け足す。精神崩壊したら、親族や友人に対して命乞いをさせられないからだ。

 

「であれば、是非とも目隠しを外して、質問に回答して欲しいのですが」

「いいわ。もっとも、全部の質問に答えてあげるほどお人好しでは無いけどね。私はベアトリーチェ。御察しの通り、アンタを拉致した犯人よ」

「ベアトリーチェ……。変わった名前ですね」

「アンタには負けるわよ」

「ぐっ…!」

 

  いつもなら、自らの名前を貶されためぐみんはツッコミを入れるのだが。ここは相手の気を損ねないよう注意が必要な場面。唇を噛み、気合いで言葉を飲み込んだ。

 

「紅魔族なのだから、へんてこな名前は仕方ないって。」

 

  言いつつ、ベアトリーチェはめぐみんの目隠しを取った。途端に多くの情報が脳に流れ込んでくる。窓のない無機質な部屋。壁も床も石のみで構成された、温かみのかけらもない空間だ。足元には古ぼけた赤い絨毯。こちらも、無いよりはマシなぐらいで、ダニや埃の温床になっていそうだ。光源はランタンが壁に幾つかかけられているだけ。窓が無い構造と知るや、めぐみんは内心舌打ちする。せめて外の様子がわかれば、今が何時なのか予想もたてられたのに。

 

(この造り、ここは地下室なのでしょうか)

 

  いきなりランタンの光が飛び込み目が眩んだものの、首を動かさないように部屋を見渡した。

 

「どれだけ懸命に目を動かしても、脱出はおろか、助けだって呼べないわよ?」

 

  ベアトリーチェはめぐみんの視線を集中させるべく、正面にまわる。ロリータ同士の対面。明らかに年下の拉致犯に、改めて困惑するめぐみん。白と黒のゴスロリ服は、なんとも厨二心を突き刺してくる感じもあった。

 

「本当に……貴女が拉致したんですか?」

「ええ。間違いないわ」

「……そうですか。では、もう一度聞きます。何のためにこんな真似を?自分で言うのもなんですが、人質としてならダクネスのほうが役立つと思うのですが」

 

  自分では無くダクネスが攫われれば良かったのに、といったニュアンスは含まれていない。単に、誰が考えても感じる疑問だ。一般人と貴族。どちらが交渉材料として優れているかは、子供にもわかる。

 

「そうね。拉致するのがダスティネス・フォード・ララティーナでも、まあ目的は達せられたことは認めるわ」

「目的?」

「ふふ……。クエスチョンマークがずっと浮かびっぱなしよ?悪いけど、貴女にはこれから仲間を裏切ってもらうコトになる。そこだけは、先に謝っておくわ」

 

  仲間。すなわち、パーティーメンバー。球磨川とダクネスの顔が脳裏に浮かぶ。

 

「心外ですね。この私が、ミソギ達を裏切るとでも?例えどれだけ脅されようと、あり得ませんよ」

「はいはい。仲間思いの人間は誰しもそう言うものなのよ。……最初は、ね」

 

  過去に何度も、仲間思いの心優しい人間達を相手にしてきたような言い方。しかも、その全員が最後は仲間を裏切ったともとれる。

 

「最初は?いいえ、いかなる拷問を受けようと、私は最後まで裏切るものですかっ!」

「へえ?そうなの。」

 

  二度、気を落ち着かせるように首を振ってから、ベアトリーチェが無造作にめぐみんの髪を掴む。

 

「痛っ!ちょっと、髪を乱暴に掴むのはやめてくださいっ」

「いささか饒舌が過ぎるようだから、念のためもう一度言っておくけれど。お嬢ちゃん、アンタの命は私が握っているわ。外見で侮るのは、そろそろおしまいにしてもらおうかしら」

「……侮ってなんかいませんよ!」

「あら?そうなの。私って、こんな見た目でしょ?どうしても人に舐められてしまうのが嫌だったのだけれど。言葉だけでも、侮らないでくれて嬉しいわ。……だからって、手加減したりはしないけどね」

 

  めぐみんの、紅魔族のトレードマークでもある赤い瞳を、真っ直ぐに正面から対照的な青い瞳で覗き込むベアトリーチェ。

 

「いいこと?私は【裏切って欲しい】じゃなくて【裏切ってもらう】と言ったのよ。アンタに拒否権はないの」

 

  強制的に目を合わせられためぐみんが覗く、青い瞳。一見綺麗で宝石を彷彿とさせるが、奥の方では、不気味な感情が燃え滾っている。目を見つめ合う気まずさから逃れる為に目線を変えようとするめぐみんだったが、視線を逸らしたくても逸らせないことに気がついた。眼球の支配権を奪われたような錯覚に陥る。

 

「これは……?目が、動かせない……!?」

「そんなに私と目を合わせ続けるのはイヤ?つれないわね。ま、いいけど。」

「なんなんですか、貴女のスキルですか?目を逸らせなくなるスキルとかを使ってるんじゃないでしょうね」

 

  聞き及んだことは無いが、視線を固定させるスキルもあるのかもしれない。ダクネスの【デコイ】は、敵の狙いを自身に集中させるものだが、アレの視線バージョンだろうか。

 

「ちょっと!人のスキルを勝手にショボくしないで欲しいのだけれど」

「違うのですか?」

「心配しなくても、これから使ってあげるわよ。……あれこれ説明するよりも、体験したほうが早いわね。そろそろかしら」

 

  視線が交わる時間が続くと、めぐみんは不意に頭の中をかき乱された。恐怖、不安、焦燥、絶望、嘆き。負の感情が、次々と膨れ上がってくる。

 

「なっ!?いきなり、脳内に直接……!」

 

  様々な悪感情が怒涛に押し寄せて、困惑を隠しきれないめぐみん。大幅な感情の乱れが、頭痛とめまい、吐き気といった症状も呼び起こす。

  あまりの精神的苦痛に、意識を手放しそうになる。

 

  頭が割れそうだ。頭蓋骨の内側のほうから、複数の鈍器で殴られているような痛みが続く。

 

「まだまだ、本番はここからよ。」

「なんですって?これでまだ、本領ではないというのですか……?」

 

  もう既に堪え難い程の苦しみが、めぐみんを襲っている。これ以上に辛いとなると、下手な拷問を受けるより耐えるのが難しそうだ。

 

「この苦しみは、アンタが私の言いなりになるまで続く。終わりがない苦痛よ。」

「こ、これが、ずっと……?」

 

  時間の経過に伴い、痛みは大きくなっていく。同時に、心を支配されそうな恐怖が全身に襲いかかる。痛みから解放されたければ、心を明け渡せと。

 

「……私の支配下に降れば、無限に続く痛みからは逃れられるわ。だとしても、真に仲間が大切なら、見事耐え切って見せなさいッ!」

 

精心汚染(マインドポリューション)】。

 

  ゴスロリ少女が白い歯を見せ、微笑む。側から見れば無垢で可愛らしい笑顔だが、眼前のめぐみんにとっては悪魔のそれと遜色ない。スキルの行使と同時に、これまでの人生で味わった事のない苦痛が襲ってきたのだ。原因が無い為、解消も不可能な苦痛が。

 

「くぁっ……!ぁ、ああああああっ!?」

 

  ただ、苦しい。心臓が張り裂けそうなほど。縛られていなければ、両手で頭を抱え、指が頭蓋骨に食い込むほど力を込めてしまっていただろう。

  全身が跳ねて、椅子ごと移動する。ガタン!ガタン!と、薄い絨毯では吸収しきれなかった音が轟く。めぐみんは瞳がこぼれ落ちそうになるほど目を開け放ち、口からは意図せず涎を垂らしてしまう。

 

「ぐうぅうううぅ……!」

 

  涙をこぼして、ベアトリーチェを睨む紅の瞳。

 

「あーあ。可愛い顔が台無しになっちゃったわね。つらい?つらいの?でも、仲間の為にがんばるんでしょう?」

「………ぐっ!」

 

  痛覚。ショック死しない程度の痛みが全身を駆け巡る。心は、世界中の人間から嫌われたような孤独感に苛まれ、罪の意識で自己を否定し続けるような地獄へ突き落とされる。断崖絶壁に片手のみでぶら下がっているような危機感や、目の前で家族が殺される程の苦しみ。ありとあらゆる、ありもしない苦痛を感じてしまう。

  全てに現実感があり、めぐみんにはいかなる逃げ道も残されていなかった。

 

「ぐっ…!ぐぅ…っ!!ぅ、うぅ、あああぁ!!!」

 

  ガタンッ!

 

  ついには椅子ごと倒れためぐみん。尚ももがき続ける苦渋の表情を、ベアトリーチェはわざわざ膝をついて見物する。

 

「あははははっ!!……いい顔よ、めぐみんっ!!平和な世界でのんびり暮らしてきたアンタには、想像を絶する苦しみでしょう?」

 

  平和な世界。ゴスロリ幼女は、魔王に脅かされている世界を平和だと評した。

 

「ほらっ!仲間を裏切らないんでしょ?何をされても、屈服しないんでしょう!?もっと、気合いを入れて堪えて見せなさいよ!!」

「くぅ、ふっ……!ぅ、うううぅぁ……」

 

  呼吸が浅く、細切れになる。うまく酸素を取り入れられなくなったらしい。心臓は激しく波打ち、急激なストレスによって耳が聞こえづらい。

 

  もはや、球磨川とダクネスの顔を浮かべるのも不可能なほど、余裕が奪われた。

 

「どう?どうなのよ??これでもまだ、さっきのカッコいい台詞を口に出来る?もう一度言ってみなさいよ!」

「ぁ……うぅ……」

 

  球磨川禊を気絶させたスキルだ。ノーマルなめぐみんには、最初から耐えられる筈がない。むしろここまで堪えただけでも、奇跡に近い。

 

(……あれ……?なんで私が、こんな目に……?)

 

  めぐみんの心が折れる時。何のために拷問に耐えようとしたのかもわからなくなった時点で。意識もまた、彼女から遠のいた。

  夜明け前のような、一瞬の静寂。もの言わなくなっためぐみんを見下しつつ、ベアトリーチェは鼻を鳴らす。

 

「あーあ、壊れちゃったか。……ま、自ら敗北宣言をしなかっただけ、気骨があると言うべきかしら」

 

  あれだけ高揚してめぐみんにくってかかっていたゴスロリ幼女も、嘘のように落ち着きを取り戻した。数秒間、余韻に浸ったあとは。心底面倒くさそうに、めぐみんの拘束を解きはじめるのだった。

 

  しばらく経って。ベアトリーチェがめぐみんを床に寝かせて、拷問によって汗で汚れた顔を濡れタオルで拭いていた最中。

 

  背後でドアが開く音が反響する。入室してきたのは、ディスターブだった。

 

「これはこれは。めぐみんさんも、ベアトリーチェのスキルを前にしてはなすすべなしでしたか」

「なにしにきたのよ。この子は私に一任するんでしょ?」

「ええ。そこは変更ありません。ですが、最低限は状態を把握しないと、プランに差し障りますからね」

「相変わらずね、アンタは」

 

  昔から心配性な男だと。ベアトリーチェはそれっきりディスターブに関心を持つことなく、せっせとめぐみんの顔を拭く作業に没頭した。ギルド長は何か話しかけたい素ぶりだが、黙々と手を動かす相手に声はかけにくい。汗を拭く作業なんて、何分もかかるものではないので、終わるまで待とうと構えたディスターブ卿。しかし、ベアトリーチェが今度はヘアブラシや香水などを取り出したのを見て、小一時間はかかると判断し、大人しく上階で待つことを決めたようだ。

 

「ベアトリーチェこそ、相変わらずの趣味ですね。お互い、変わっていないということですか」

「わかっているなら、早くいなくなりなさいよ!」

「……わかりましたよ。」

 

  ディスターブが急かされて階段を昇るのを見送ってから。ベアトリーチェは鼻歌混じりにめぐみんの御髪を整えるのだった。














今日、アイリスとアラモアナで買い物してる夢を見ました。フルーティな紅茶を夢中で飲み比べるアイリス。帰りにウルフギャ◯グで口いっぱいにステーキを頬張るアイリス。自分でも引くぐらい、終わってますねぇっ!最後はビーチを散策してる途中で、現実世界(異世界)に飛ばされてしまいました…。こんな思いをするくらいなら、草や花に生まれたかった

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