この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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※閲覧注意!

心の弱い人は、読まないで下さい。残酷な描写がございます。

スキル名は、これでも半年くらい寝ながら考えたので、ダサくても許して下さい笑

更新遅れ、申し訳ありません。


五十六話 あったかもしれないもの

  どこか懐かしいような、真っ白な空間。音も無く、ただただ無限の広がりを見せていた。精神と時の部屋が実際にあるなら、こんな感じなのかな。俺は重力に縛られず、空中にフワフワと浮かんでいる。ここは一体どこなのだろう。

  記憶を遡っても、思い出せない。

  それなら、なんで懐かしく感じるのか。……わからない。

  懐かしく感じるから、懐かしいのだ。なんてトートロジーで済ませるしか出来ない。

 

  エリス様の所にいて、球磨川が先に生き返ったような気はするけど。

 

「俺は一体……」

 

  声は出る。風呂場で声を発したように、何もない筈の空間に反響した。

 

  ユラユラと漂う事の心地よさは、時間の流れを忘れさせる。どれ位の間、ここにいたのか。

 

  自分以外存在しないこの空間では、疑問を解消する術もない。

 

  【もういいんじゃないか。】

 

  内なる自分が、耳元で囁く。なんだ。一人だと思いきや、自分自身がいたのか。どこまでも終わりが見えない不思議な世界において、例え他人では無かったとしても、会話相手がいた事に安堵する。

 

「 何がもういいんだ?」

 

  自分と話す、なんて不思議な現象に戸惑いながらも、俺は聞き返した。

 

  【魔王討伐だ。元々俺はあの世界の人間ではないのだから。ゲームの世界で魔王が悪さしようと、プレイヤーの実生活には微塵も影響が無い。そもそも。今、あの世界から解放された俺には、もうどうすることも出来ない。そうだろう?】

 

  確かにな。いよいよ、アクアが言ってた天国へ行くしかないか。

  なんだかフワフワして心地の良い場所だって前評判通りなら、そんなに悪くも無さそうだしな。

  えっちぃ事が出来ないと言うデメリットのみ、未だに性的な交渉を経験していない俺には、今生への未練となってしまいそうではあるが。

 

【未練か、なるほど。その言葉が聞けたのは大きい。】

 

 はあ?何がだよ。……もともと、ボーナスステージみたいな物だったんだろ?あの世界は。エリス様の間から追い出されて、安心院さんにも、他の女神にも会えなかったって事は、もうあの世界には帰れないって話じゃないのかよ。

 

【……さて、どうだろうな】

 

  なぜに、お前が要領をえないんだよ。わけわかんないけどさ、お前はもう一人の俺なんだろ?すべてお見通しみたいな、そういう立ち位置じゃないのかよ!

 

【……ふっ。見抜いたのか。存外、鋭いじゃないか】

 

  まあ、展開的には?

  俺は消去法で天国に行くんだろ?

 

  でも、死ぬ前に、ゲームの世界に入れたような体験が出来て良かったよ。

  球磨川に、めぐみん、ダクネス。

  日本で平和な生活を全うしていたら出会えていないような連中とも絡めたわけだし、この思い出を胸に新たな旅立ちってのもオツじゃないか。

  あ、球磨川は元々日本人だったっけか。

 

【そうだな。……で、だ。お前をこの空間に誘った直接的な原因は、その球磨川にある。】

 

  球磨川に……?どういうことだ。

 

【そろそろネタばらしといくか。】

 

  は?なんだよ、ネタって。

 

【誤解があるようだから言っておくが……俺は天国には行けない。あるのは、繰り返しだけだ】

 

「なに?」

 

  前に、アクアは言った。異世界に行くか、天国に行くかを選べと。異世界に戻れない以上、次は残る天国に行くのでは無いのか?もしかして、地獄とか言うんじゃないだろうな。

 

【お前は、球磨川の手によって二度死に、とあるスキルを手に入れたはずだ。それは、あらゆる世界へと渡る架け橋となる。これからお前は、永遠に異世界を渡り歩くんだ。お前の大好きな、小説やゲームでたまにあるだろ?死に戻りってヤツに近い能力……いや、スキルが今のお前には宿っている】

 

  ちょ、ちょっと待ってくれ!

  ついていけないんだが。てか、お前もあんまり説明する気が無くね?

  俺なら、もっと理路整然とだな。

 

【サキュバスの手違いによって奇しくも命を落としたお前は、通常なら、生き返る筈だったんだ。球磨川のスキルでな。けど残念な事に、時間が経過し過ぎたみたいでな。先に、安心院さんから貰ったスキルがオートで発動してしまったのさ。】

 

  さっきから、ペラペラと。

  ゲームでも、長いだけで役にたたない説明、読み飛ばしちゃうタイプなんだよ?俺。

  いいのか?早く本題に入ってくれないと、寝ちゃうぞコラ。

 

  生き返れないし、天国にも行けない。それなら俺はどうすれば良い?さっき死に戻りって単語が出たけど、言葉通りなら俺はサキュバスの店にて、死ぬ前に戻ってやり直せるんじゃないのか?

 

【ふふ。そう捉えたか。きっと、それはお前が過去に読んだ小説やアニメから得たイメージなんだろうが。……安心院さんがくれたのは、もっとネジがぶっ飛んでいたんだよ。】

 

  ネジが……?まさかとは思うが、生まれる前や、転生した直後からやり直しとか言わないよな??

 

【あーっ……】

 

  なんだそのリアクション!

  なんか不安になるだろうがっ!!

 

【いやいや、半分正解だからな】

 

  まじでか。でも、半分って??

 

【…お前はこれから。あらゆる世界線へ飛び立つ。日本で死んで、アクアと出会った所から分岐する、無限の世界へとな】

 

  ……え?

  無限の世界?……それ、どこのオカリンだよ。つーか、それのどの辺りが死に戻りなんだっつーの!

  どっちかといえば、リーディングシュタイナーと言うべきだろ

 

【そうかもしれんね。ぶっちゃけ、転生する際にアクアからチートな能力を貰って旅立つお前や、魔王軍に寝返るお前。モンスターが怖いからと、アクセルで大工として一生を終えるお前などなど……。

 数え切れないほど、お前の世界は可能性に満ち溢れているってこった。】

 

【そうした無限の世界での人生を、これから追体験するはめになる。安心院さんから貰ったスキル……

 

異世界転生者(リンカーネーション)

 

  に、よってな。】

 

  異世界転生者……?

 

  ま、本当、一回タイムで。

  無限の人生の追体験?いいよ、仮にんな事をやるとして。やるの自体はいいんだけどさ!

 

  全ての可能性って。それ、どんくらい時間がかかるんだよ!

 

【おかしな事を。俺は暗に、終わりが無いと告げているんだが?】

 

  え、なんだって。終わりが無い?

  冗談……だよな?

 

【全て。森羅万象。俺自身のありとあらゆる可能性をその目で観測して、理解する。

 

 飽きようが、

 

 疲れようが、

 

 頭がパンクしようが、

 

 耳が千切れようが、

 

 目が潰れようが。

 

  ……精神が壊れようが。

 

  この追体験は終わらない。一つの物語の終わりは、新たな物語の始まりにすぎない。

 

  中には、ベルゼルグの王女と駆け落ちして、田舎で子供を作り幸せに暮らす人生もあり。

 

  また中には、めぐみんとゆんゆん、紅魔族の二人の美少女に迫られながらも、どっちつかずで肉体関係だけをダラダラ続けるお前だっている。

 

 どうだ?よっほど、天国よりも素晴らしいとは思わないか?はははっ。】

 

  ま、待てよ……!勝手言ってんな!

 

【それと。

 

 ある世界では、お前の外見を気に入った同性愛者のサイコパスに捕まり、死ぬまで延々と辱められたり。

 

  またある世界では、モンスターを討伐したものの、悪人による情報操作で言われもない罪に問われ、街中の人間が見る中で死刑に処されたり。

 

  そしてある世界では。めぐみんやダクネスともパーティーを組んだりしたが、ある日暴漢に襲われ、目の前で大切な女の子を犯され、殺される人生なんかもある。

 

  ワクワクしてきたか?

  人生、楽ありゃ苦もあるって黄門様も言ってたろ?】

 

  嫌だ……。なんだよそんなの、救いが無いじゃないかよ。

 

  話が違うぞ。

 

  嫌だっ。

 

 ……嫌だ!!!お断りだっ!!

  やめろよ?絶対にやめろっ!!

 

【………ここにきて、ワガママか?所詮お前は、引きこもりニートがお似合いの根性無しって事か】

 

  ふざけるなよ…!!

 

  お前、おかしな事ばっかほざいてんじゃねぇ。

  俺は、俺は絶対に!

  そんなのは、嫌だっっ!

  もう一人の俺なら、わかるだろ!?

 

【拒否権は無い。あるのは。お前の人生だけだ】

 

 ……………………………

 ………………………

 …………………

 

  白い世界は、終わった。

 

  理不尽に、おわりをつげた。

 

  代わりに、俺の人生が残った。

 

  これから、幾星霜。

  俺は、自身の可能性を見るのだろう。感じるのだろう。

 

「これが、俺がおくっていたかもしれない人生…だと?」

 

  一つ目、二つ目。可能性を見終えた。

 

  一つ目から、人生は過酷だった。アクアからチートな武器を貰ったにも関わらず、元々引きこもりだったせいでコミュニケーションを取れず、街で燻る間にチート武器を盗賊に盗まれ。あとは、単なる一般人として普通に暮らしたり。

 

「なんで。……どうしてっ!あの剣で、無双出来たんじゃないのかよ!」

 

  二つ目なんて、食事や生活レベルに適応出来ずに身体を壊し、それが大きな病を呼び起こして街から出られない生活を余儀なくされるものだった。

 

  苦しく辛い闘病生活を続けて。

  必死で痛みと戦った。

 

  にも関わらず。

 

  異世界に単身来たのだから知り合いもおらず、見舞いになんて誰一人として来ない。

 

  孤独な病床での暮らしに光明も、救いも存在せず。

  疲れはてて、最後には力なく息を引き取った。

 

  こんな人生を、俺もおくる可能性があったのだ。いや、追体験したのだから、これらも最早俺の人生そのものか。

 

「あ……!あぁ……!!

 

  いやだ。もう、嫌だよ!

 

  父さん、母さん……!俺もう嫌だ……!!」

 

  安心院さん。安心院さん。なんで、どうして俺にこんなスキルを渡したんだよ……!!

  こんな……!!」

 

  休む暇は、与えてもらえない。

  強制的に、次の可能性を見せられる。

 

 三つ目の人生。

 

  ようやく、めぐみんと偶然に出会い、パーティーメンバーになれた。

  若い男女二人きりだったのもあり、しばらくはそれなりに楽しく、甘酸っぱい時間が流れた。

 

  だがしかし、回復役もいない二人だけのパーティーだ。

 

  金に目がくらみ、やや実力以上の任務を受けた日だった。

 

  複数の強力なモンスターに囲まれ、爆裂魔法で蹴散らすまでは良かったのだが。

  撃ち漏らしたモンスターの攻撃を受けためぐみんは、魔力切れもあって即死してしまった。

 

  俺だけでどうにか凌ぐも、いきなり親しい人の死を目の前で見せられた元ニートが、そんな簡単に気持ちを切り替えられる筈がなく。

 

 肉体の疲れが限界を超えた時。

 

  武器は自然と手から落ちて。

  俺は直ぐにめぐみんの後を追った。

 

「……ぁう、ぁ、あぁぁぁ……」

 

  四つ目の人生。

 

  初クエストだと、意気揚々とモンスターを討伐しに行った俺。

  魔法のチートスキルを手にしていたから、油断もあった。背後から音もなく接近してきたジャイアントトードに喰われて、あっさり命を落とした。

  コミュ力も無く、パーティーなんかも組めていなかったから、ソロだったのが仇となった。

 

  酸素も無く、全身を少しずつ、少しずつ溶かされていく痛みと恐怖が延々と、心を支配し。当然、救い無くそのまま死んだ。

 

「うっぐぅ……おぇ、……っ!」

 

  なんだ、なんだ、なんだ。こんなの。苦しいだけだ。意味が無い。

 

  なのに、これでも、100年。まだ、たった、100年しか……

 

  もう、限界だった。

  俺が俺でいられたのは、ここらが最後だっただろう。

 

「あ…ぅあ……」

 

  心が停止してしまった。

  俺は、もう、壊れてしまったのだ。

 

 …………………………

 ……………………

 ……………

 

  心が死んで。

 

  認識を超えた時が流れた。

 

  それでも未だ、俺の可能性は上映され続ける。

 

  終わりが無い。瞬きの回数が一回違うだけで、全く別の人生になるようだ。

  同じような人生でさえ、無数にある。こんなの、耐えられる方がおかしいんだ。

 

 ………………………

 ………………

 ………

 

  何百年振りに。イタズラに、サトウカズマとしての人格を捉えられた。

 

  俺はまだ、いた。どうやら、いるようだ。

 

  いつ、どこにかまではわからないけど。

 

  ふと、可能性に意識を向けると。

 ある人生。これは中々、救いのある人生だった。

 

  「ぁ……くぁ…」

 

  転生特典に、チートな武器や能力を選ばず。女神であるアクアを選んだのだ。

 

  その後、めぐみん、ダクネスとパーティーを組んだ。

 

  運良く魔王軍幹部を討伐しちゃったりして。

  自分たちだけの豪邸も手に入れて。

  面白おかしく、ハチャメチャな日々を過ごしていた。

 

  本来なら接点すらない、ベルゼルグの王女とお近づきになったり。

 

  アクアを崇める水の都や、めぐみんの出身地にも行った。

 

  ある時はダクネスのお見合いをぶち壊したり、ついでに結婚式もぶち壊したり。

 

  隣の国とのイザコザを解決したり。

  魔王軍幹部と仲良く商売の話をしたり。

 

  飽きない日々。失いたく無い時間。

 

  ……こんな可能性が。こんな日常が、俺には残っていたんだ。

 

  この世界が、もしも、俺の本当の人生だったらと、思わせてくれる可能性に、出会えた。

 

「あくあ……!めぐみ…ん!だ…くねす……!!」

 

  忘れては、ならない。

  魂に、刻む、大切な人の名前。

 

  恐らく、また俺は壊れる。

 

  それでも。絶対に、思い出してみせる……!!

 

 また数千年、数億年と。

  時間の暴力は俺を襲った。

 

  でも、大丈夫だ。

 

  身体は消え、心は死に。存在が終わりを迎えても。

 

  彼女達の事は。

 

  俺の、魂に。

 

 ……………………………

 ………………………

 …………………

 

  今までも。これからも。

 

  茫漠とした時間が、俺を翻弄し続けた。

 

  そろそろ。

 

 せっかく魂に刻み込んだ何かさえ、消えてしまいそうになった頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

『【大嘘憑き(オールフィクション)】』

 

 

『サトウ カズマの死をなかったことにした!』

 

 

 

 

  頭上から。一筋の光が、差し込んだのだった。







カズマさんはオカリンだった!?

いや、エミヤ……!?ハザマ??否!!

スバルきゅん!?咲夜??まさかコタロー!?

安心院さんって最早ドSってレベルにないね。
グロ描写はわたし自身あまり好きじゃ無いので、マイルドにしちゃいました。

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