この素晴らしい過負荷に祝福を!   作:いたまえ

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なんか、裁判長がホモみたいに皆さん言いますが、そんな事は無いと思いたい(願望


五十一話 裁判 中編

 日本程法律が整っておらず、嘘を見抜く魔道具もバルターの一声でご退場。球磨川達の命運を決める裁判は、半ば無法地帯と化して再開された。

 

「では、改めまして。クマガワ被告にお聞きします。貴方はどうしてデストロイヤーの出現ポイントにいたのでしょうか。テロを企てていなかったのなら、出現を知り得なかったはずです」

 

  セナからの質問。取調べでも同じ質問をされた球磨川は、これまた取調べと同じ答えを返した。

 

『だから、カズマちゃんのお墓参りに行ってただけだよ。その帰りに、デストロイヤーと出くわしたんだ』

 

  有りの侭を、脚色なく。嘘発見器が無いのが惜しい。ベルが鳴らなければ、それだけで無罪が近づいていただろう。魔道具の排除というバルターのうった手は、実に効果的だ。あまりに撤去までがスムーズだったので、口を挟めなかったのが痛い。今から喚いてみても、裁判長の印象を悪くするだけだ。

 

「それは何時くらいのことです?」

 

『えっと……時間までは覚えていないかな。急なことだったからね』

 

  続けて、デストロイヤーとの戦闘が開始された時刻を確認する。が、球磨川からは明確な答えが返ってこなかった。それを受けて、セナがニヤリと白い歯を見せる。

 

「そうですか。時間も覚えていないのでは、貴方の記憶は曖昧だと判断せざるを得ませんね。本当にサトウ カズマの墓参りをしていたのかも疑わしい」

 

『待って。そんなことは、一部始終を見ていた門番とやらに聞いて把握しているでしょ?』

 

  問題の日、球磨川達の行動を見てたという外門の監視役。検察に情報を提供したそうなので、時刻も報告済みのはず。

 

「ええ、そうですね。今のは、あくまでクマガワさんの記憶力が曖昧だという証明をしたに過ぎませんので」

 

『うわっ!セナちゃん性格悪っ!』

「なんとでも言ってください」

 

  球磨川に性格の悪さを指摘されたくはないが。はなで笑ってから、次にセナはめぐみんを視線で刺した。

 

「続きまして、めぐみんさん」

 

「!……なんでしょう」

 

  頭が良く、年齢の割に大人びてはいても、ここ一番で緊張してしまう性質のめぐみんは、厳格な雰囲気にのまれてしまっていた。気を緩めると、今にも腰が抜けてしまいそう。

  いつもなら杖で体重を支えられるのに、今日はそれがない。セナに気取られないよう振る舞うのが精一杯だ。

 

「貴女は爆裂魔法でデストロイヤーの足を破壊した。これは事実ですね?」

 

「……はい、デストロイヤーの足は我が爆裂魔法によって粉砕されました」

 

  球磨川の捨て身のスキル発動があってこそではあるが。

 

「では。爆裂魔法を放ったのは、貴女の意思でしょうか?」

 

「……すみません、質問の意図がわからないのですが」

 

「……聞き方を変えましょう。例えば、クマガワ被告に爆裂魔法を撃つよう命じられたりはしませんでしたか?」

 

「まぁ、ミソギが爆裂魔法を撃つように指示して来たのは事実ですが」

 

  だからどうした。球磨川はパーティーのリーダーとして、成功率の高い作成を指示しただけだ。この質問になんの意味があるというのか。

  セナの真意を、めぐみんは測りかねる。だが、セナは我が意を得たりと裁判長に向き直って。

 

「お聞きになりましたか、裁判長。此度のテロ行為において、クマガワ被告が主犯だそうです。めぐみん被告は単なる実行犯に過ぎないと」

 

「なあっ!?」

 

  めぐみんの、実に間抜けな声が裁判場に轟く。

  セナの意図を遅れて理解した。普段の、緊張していないめぐみんだったら、セナの思惑を読み取れたはず。

  質問にポンポンと答えたことで、球磨川の罪を重くする形になってしまった。代わりにめぐみんの罪は多少軽くなったとしても、それは彼女の望むところではない。

 

「ご、ごめんなさいミソギ。私のせいで、ミソギが主犯扱いに……」

 

  ギュッと、悔しさのあまり服の裾を握り込むめぐみん。裾だけでは足りないのか、唇も噛み締める。このまま力が加わって、せっかくの可憐な唇が傷つくなんてあってはならず。球磨川は普段通り微笑みかけた。

 

『めぐみんちゃんのせいじゃないよ。君はただ、事実を伝えただけだ』

 

  球磨川さんが、これまで数多くの人間を落としてきた、…いや、堕としてきた笑顔。

  めぐみんを安心させようと作った表情は、彼女のこわばった身体をほぐすに至った。

 

「裁判長。被告達をテロリストだとする根拠が、我々にはまだあります。過去に彼らがしてきた行いの中には、犯罪に近いものも幾つか存在していたのです。それらを証明する為、証人尋問を行いたいのですが」

 

 原告側と被告側。双方の冒頭陳述を終え、軽い質問からスタートしたセナは、次に証人尋問を開始したい旨を伝える。メガネの奥で光る目には、球磨川を必ず有罪にしてやるといった、セナの熱い闘志が宿っている。

 

「被告達が、以前から犯罪まがいの行いをしていると?……よろしい。証人尋問を許可します」

 

  球磨川が過去にも罪を犯しているとすれば、テロ行為に走っても不思議ではない人間性の持ち主ということになる。球磨川の人物像を知る為なら、証人尋問も許可する他ない。

 

  裁判長は、すんなり要求を受け入れた。

 

「……ありがとうございます。では、証人はお入りください」

 

  セナは裁判場の外へ、大きめの声で呼びかける。

 

 ガチャッ。

 

  原告側の背後、重厚な木製扉が開け放たれる。外部に音が漏れないよう、ドアにはかなりの厚みが持たされており、ギギィ…と、油が切れた機械のような音が裁判場に広がる。軋み音を入場曲にして、第一の証人が登場した。めぐみんはどこの誰が来るのかと警戒したが、現れたのは球磨川達とも面識がある男。ダルそうに、ポケットに手を入れながら歩を進めるのは、アクセルでも悪名高いろくでなしのチンピラだった。

 

「ったく。なんでこんな辛気臭い場所に来なきゃなんねーんだよ」

 

  初対面で球磨川に声をなかった事にされた、見た目も中身もチャラいダスト君である。

  素行が悪く、女性を見ればセクハラばかりするダメ男。セナとしても、この男を証人にするべきか逡巡したのだが……球磨川を追い詰める為ならば、贅沢も言ってられない。

 

  街の不良は、率直に言って浮いていた。裁判所の厳かな雰囲気と、チンピラ。まるで、裁判所の風景にダストだけを後から合成したようだ。当人もそれは承知していて、裁判長や傍聴人をチラチラ見ながら証言台に立った。

 

「て、被告はクマガワか!?」

 

  キョドキョドと視線を右へ左へやっていけば、その内被告人席も視界に入る。球磨川を見るや、ダストはギョッとした。それから条件反射的に、自分の喉を守るように手で覆い隠す。

 

『や、ダストちゃん。もう扁桃腺は良いのかい?』

 

  サクッと手をあげ、ダストに応える球磨川。

 

「ちょ、待てよ。アレは扁桃腺が腫れたとか、そういうレベルじゃないんだが」

 

  球磨川が、自身がダストにした仕打ちを扁桃腺で済ませようとしてきたので、ここはキッチリと否定しておく。

 

『そうだったの?ダストちゃんてば、初対面で突っかかってきた割には、突然借りてきた猫みたくなったんだもん。あの時は焦ったよ』

 

  過負荷はケタケタと笑う。

 

  確かに、ダストとの出会いは友好的なモノではなかった。些細なイザコザもあったかもしれない。行き違いが生んだ誤解のせいで、敵対に近い関係にもなった気もする。

 

『けれど!だからこそ!!……僕とダストちゃんは親友になれたんだよね。昨日の敵は今日の友だっ』

「何の話だ!?俺はお前と親友になった覚えはねーぞ!?つか、会うのもこれで2回目じゃねーかっ!」

 

  知らぬ間に親友にされそうだったダストは、心から叫んだ。一時的にとはいえ、球磨川がダストの声を奪ったのは事実。恨みこそあれ、親しみの感情など欠片もありはしない。

 

『あっれー?おかしいなぁ。少年漫画だと、夕日をバックに河原で殴り合えば、みんな仲良くなるものなのに。僕らもそれに近いことはやったから、てっきり友情が芽生えたものだと思ってたよ』

「芽生えるわけないだろ!どうやったかは知らねーが、人様の声を奪うような相手に!」

『……声を奪った?ちょっと何言ってるのか理解しかねるよ』

 

  証人としてやってきたダストだが、球磨川のにやけ顔を目にしたら抑えも効かなくなる。これまで、言いたくても言う機会がなかった文句が溢れ出て、尽きないこと尽きないこと。

 

  球磨川がダストの声を奪った。アクセル随一の不良をわざわざ呼んだのも、それを裁判長に伝えるのが目的だった。セナが尋問するまでもなく証言してくれたので、手間も省けたというもの。

  セナは勝ち誇った顔で、更にダストの証言を煮詰めていく。

 

「えー、オホン。証人に伺います。今おっしゃったように、貴方はクマガワ被告に声を奪われたのですか?」

 

「あ?……あぁ、そうだよ」

 

「その時の状況を、話してください」

 

「……俺はギルドでクマガワと出会ったんだがな。何をトチ狂ったか、ソイツはいきなり俺の声を奪いやがった。俺に向かって手を差し出したりしてたから、多分スキルだな、ありゃあ」

 

  ダストは今も違和感が残るのか、首の辺りを右手でさする。

 

「なんとっ!突然、意味もなく声を奪われたのですね!?……さぞお辛かったことでしょう」

 

  セナはオーバーリアクションで、ダストが受けたダメージの深刻さを表現した。証言を頼んできた時は無駄に高圧的だったのに、裁判になった途端同情しだした検察官を、ダストは胡散臭そうに見つめて。

 

「いや、まぁ……ビビリはしたけどよ。【3分】で元に戻ったから、そんな深刻でもなかったぜ」

 

  球磨川と出会ったその日。ギルドで声が出せなくなり、ダストは今後の生活を想像して涙を溢してしまったのだが……球磨川と別れた後、3分経つと、特に治療する事もなく元どおり発声出来るようになった。まるで、声をなかった事にされた事をなかった事にされたように。あの時の感覚は、言葉で説明するのが難しい。

 

  ダストが、それ程精神的苦痛は受けなかったと告げたのを良いことに、球磨川は屈託無い笑顔で肩をすくめる。

 

『なーんだ!たったの3分で元に戻ったんだ!心配して損しちゃったぜ』

 

「……あ?」

 

『待てよ。だとすると、そもそもそれ、本当に僕の所為だったのかな?よしんば声を奪うスキルがあったとして、3分後に元に戻すなんて都合のいい事が可能なんだろうか。ダストちゃんの声が戻ったのは、僕と別れてからだったんだし。……て、何処かの誰かさんが嘘発見器を片付けたお陰で、ダストちゃんの発言が真実かは証明出来ないんだったね』

 

  「なんだとっ!俺が嘘をついてるとでも言いてーのか?」

 

  憎き球磨川が非を認めなかった。それどころか、被害者のダストが思い違いをしてるんじゃないかとまで言ってのけた。これでは、ダストが不機嫌になるのも無理はない。

  この場で球磨川にキツい一撃をくらわせてやりたかったが、辛うじて思い留まる。実は、ダストは球磨川と入れ替わりで牢屋に入れられていた。なんてことはない、何時ものセクハラや喧嘩が原因だ。セナに協力したのは牢から早く出る為だったからで、罪を重ねては本末転倒なのだ。

 

「セナさんよ、これくらいでいいだろう?俺はクマガワに声を出せなくされた。それは間違いない。俺のパーティーメンバーもその場に居合わせたから、嘘だと思うなら聞けばいい」

 

「ええ。貴重な証言、ありがとうございました。証人はお下がりください」

 

  検察側からして、一人目の証人ダスト。彼は問題なく役目を果たした。球磨川が行った非道を裁判長は重く捉えるはず。このまま二人目の証人を呼んで、ダメ押しといきたい。

 

  セナに退廷を促されたダストは、つまらなそうに出入り口まで戻っていく。面倒な証言だったが、これで牢から早めに出られるなら安い。厄介な仕事が片付いた実感がジワジワと追いついてきて、ダストの足取りも徐々に軽くなっていく。

 

  その途中。

 

『待ってよ、ダストちゃん!』

 

  裸エプロン先輩から、呼び止められたのだった。

 

「……なんだよ?」

 

  首だけで球磨川を捉えるダスト。気持ちはもう、シャバでの娯楽に向いていた。しかし、呼び止められただけで、先ほどまでの苛立ちが蘇る。

 

『まだ被告側の反対尋問が行われてないよ。裁判長、被告側の尋問を省略しようとした原告代理人は問題だと思うんだけれど』

 

  都合の良い証人を呼び、都合の良い証言をさせる。何か不利な事を言い出す前に退廷させてしまうのが、セナの常套手段だったわけだが……

 そうは問屋が卸さない。

  嘘発見器を使用しないのなら、尚更真実をハッキリさせるべきだ。

 

『原告が魔道具を片付けた事については、何も言わないよ。ならせめて、反対尋問くらいはさせてくれよ』

 

  異世界のルールは、正直わからない。が、反対尋問という制度そのものは、誰から見ても公平のはずだ。今まで導入されていなかったのが不思議な程に。

 

  多くの死人が出た事件の裁判故に、誰もが納得する形で収めなければならない。

  裁判長も、自分が判決を下すプレッシャーを感じていた。球磨川の口から出た反対尋問は、裁判長に情報をもたらしてくれる良き制度に思える。

 

「それは、要するにクマガワ被告達も証人に尋問すると?」

 

『そゆこと。平等でしょ?なじみんも笑顔になるってもんさ!』

 

  なじみん。かの者をそんな呼び方した球磨川さんは、果たして何億のスキルでお仕置きされてしまうのか。

  響きがめぐみんに近いので、いっそ改名して、紅魔の里にでも住んでみてはいかがか。

 

  「成る程……よろしいでしょう。証人に、被告側からも質問する権利を与えます!」

 

  ここでようやく、裁判長がそれらしさを見せ始めた。裁判長が球磨川の提案にのったことで、バルターはにわかに冷や汗を流す。原告寄りだったはずが、五分五分くらいまで天秤が戻ったような気がしたからだ。

  しかも、尋問される対象はあのダスト。どんな余計なコトを言ってくれるかわかったものじゃない。

 

「裁判長!ダスト殿は原告側が用意した証人です。被告に尋問をする権利などありません」

 

  バルターの焦りを認めたセナも、裁判長に苦言を呈する。

  これまで裁判では反対尋問なんか行っていなかったのだから、これからもする必要はないと。仮に制度を取り入れるにしても、こんな土壇場じゃなく会議を開いてからにするべきた。

 

『だからこそだよ。原告側が用意したからこそ、被告の尋問に意義があるんじゃないか。ダストちゃんが裏で金を積まれて、原告に有利な証言しかしない可能性だってあるんだから、さ』

 

  「球磨川さん、良いこと言うわね。私も賛成するわ!女神的に、物事はいろんな観点から見た方が良いと思うの。裁判長も、いいわね?」

 

  そよ風程度ではあるが、被告側に追い風が吹き始めたかもしれない。

 アクアも便乗する形で、球磨川をフォロー。

 

「はい。被告のおっしゃることは一理あります。元々、この裁判は特殊なケースですからね」

「くっ……そんな……」

 

  裁判長のお墨付きを頂いた。セナさんが悔しそうに呻く。

 

  なんとかして、このまま勢いに乗りたいところ。

  ぶつくさ文句を垂れ流しながら証言台に戻ったダストに、早速球磨川が質問を開始する。

 

『さっき、君はスキルによって声を奪われてたとか言ったよね?』

 

「言ったな。本当のことだろ」

 

  一刻も早く尋問を終わらせたい。今のダストが望むのは、ただそれだけ。

  簡潔に応答していけば、解放までの時間も短くなるはず。

 

『でも僕は、ダストちゃんの声云々は病気説を推すよ。君は実は、自覚がないだけで、突発的に声が出なくなる難病でも患っているんじゃない?』

 

「は?」

 

  が、球磨川によって事態はややこしくされていく。話を拗れさせる能力では、裸エプロン先輩に優る人間などいはしない。

 

『きっと、生活する上では大量の薬を飲んだりしなくちゃいけないんじゃないだろうか。ダストちゃん、一度お医者さんに行ってみるのも悪くないと思うぜ?』

 

  ダストの声云々は、スキルではなく病気が原因だと主張した。

 

  馬鹿馬鹿しい。裁判だからと言って、真面目に付き合うこともない。嘘をつくにしても、もっとマシな方法があるだろう。球磨川の発言は当然一蹴されるべきもので、ダストもそうする。

  そう、しようと試みた。けれど…

 

「……………!」

 

  トラウマ発動。悪夢の再来。

  絶妙なタイミングで、球磨川のいう難病が発症してしまったのだ。

 

「っ……。……!!」

 

  ダストは何かを頑張って言葉にしようとするが、口からは空気だけが漏れる。

 

『なっ…なんということだっ!ダストちゃん、まさか病気が今まさに君を襲っているのかい!?』

 

  口に手を添え、驚愕のあまり目を見開く球磨川。発症は唐突。球磨川が予備動作をしたりもしなかったので、どうやら本当に病気のようだ。と、裁判長は思った。仮にダストにスキルをかけたならば、発光したり、音がしたり。何らかの現象が起こるだろう。

 

「むぅ……これはいけません!人命第一ですからな。命を脅かす病気の恐れもあります。証人を速やかに医療機関へ!」

 

  裁判長命令により、黒服達が丁重にダストを連れて行った。扉に消えていくまでの間、まさに無言の圧力といった感じで球磨川を睨みつけていたダスト。球磨川はそんなダストを心配するように、不安げな表情で見送った。

  もっとも、今回も3分すれば直る気がしなくもない。

 

「……バカな。なんなんですか、コレは……!!」

 

  ギリッ。セナが怒りの形相で歯をくいしばる。自分の思い通りの結果を得られず、つい態度に出てしまった。

 

「どうやら、被告側の主張が正しかったみたいですね。ダスト殿が声を出せなくなった際、スキルが使用された兆候はありませんでした。原告代理人。ダスト殿に虚偽の証言をさせてはいませんね?」

 

  裁判長は低い声でセナに問う。

 

「あ、あり得ません。女神エリスに誓って!……ダスト殿の証言が嘘だと見抜けなかったのは不徳の致すところではありますが」

「そうですか。ならば、不問とします。原告代理人は、証人の選定には注意して下さい」

「はいっ……」

 

  もしも魔道具が撤去されていなければ、セナさんは完全にアウトだった。

 涼しげなベルの音が鳴っていたに違いない。

 

  裁判長の心証は、緩やかに被告寄りになっている。

  作り笑いでなんとか誤魔化せたセナさんの苦悩は、ここからが本番だ。

 

「失礼します」

 

 ダストが出て行った原告側の扉と向かい合う形で、被告側にも扉が存在する。重厚な木製のドアが開け放たれ、

 ようやく、球磨川さん達の弁護人。ダクネスが裁判場に姿を見せた。

 

「遅れて申し訳ありません。……証人の確保に時間がかかってしまいまして。ダスティネス・フォード・ララティーナ、これより被告代理人として、参加致します」

 

  スーツに身を包んだダクネス。スタイルが良いので、とても似合っている。見た目だけならば、凄腕の弁護人だ。

 

「ダスティネス家の……!」

 

  ダクネスの名乗りで、裁判長の目は点になる。

  球磨川の策で裁判長の印象が良くなったのと、頼れるパーティーメンバーの登場で、めぐみんは一気にテンションを上げた。

 

「遅いですよ!ダクネス」

 

「すまなかった。だが、安心してくれ。私が来たからには、もう大丈夫だ」

 

『期待していいかな?ダクネスちゃん』

「ふっ、任せておけ」

 

  これだけ時間をかけたのだから、きっと有力な情報を得てきたに違いない。球磨川は若干力を抜いて、呼吸を整えてから。心労によって5歳は老け込んで見えるセナへ右手をビシッと突き出して、高らかに宣言する。

 

『ここからは僕らのターン!』

 

  球磨川の決め台詞アンド決めポーズ。

 

「な、なんですかそれ!?カッコいい、カッコいいのですっ!ミソギ、中々腕を上げましたね!」

 

  紅魔族の琴線にふれたようで。めぐみんは真似して、何度か右手を突き出したりしてから、ふむふむと頷いた。

 

「次から次へと……!」

 セナは不愉快そうに眉を寄せ、

 

(クマガワくん……君は、決めポーズまでもが愛らしい)

 バルターは密かに目をハートにしたのでした。




バルターさん、これで今晩はアレだな。

ダストさんにそんな難病が……!
てか、球磨川さんのスキルは一体何フィクションなんだ…

アクア様の影が薄いですって?下書きでは普通にアクア様に喋らせてたのですが、その所為で普通に裁判に負けそうになったので……多少はね?

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